(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5962911
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】多層建築物
(51)【国際特許分類】
E04H 9/14 20060101AFI20160721BHJP
【FI】
E04H9/14 F
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-176333(P2012-176333)
(22)【出願日】2012年8月8日
(65)【公開番号】特開2014-34803(P2014-34803A)
(43)【公開日】2014年2月24日
【審査請求日】2015年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129300
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】赤対 清吾郎
(72)【発明者】
【氏名】高御堂 澄夫
【審査官】
新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−133075(JP,A)
【文献】
特開2009−203629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/14
E04H 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各階を貫通した吹き抜け空間が平面視略中央部に形成された多層建築物において、
該建築物の外壁面の低層部分から略水平に突出して形成された水平風受部と、前記水平風受部の周縁から上方へ略鉛直に形成された鉛直風受部とで略包囲することにより、上方が開放された風受空間が形成されるとともに、
前記風受空間と前記吹き抜け空間とを連通する導風部が設けられ、
かつ前記建築物の足元付近では、地上面と前記水平風受部との間に空間が形成された多層建築物。
【請求項2】
前記建築物の全外周に亘って形成される外壁面のうち、向きの異なる二以上の領域が少なくとも含まれるように前記風受空間が形成された請求項1記載の多層建築物。
【請求項3】
前記建築物から張り出された梁に、前記水平風受部が固定された請求項1又は請求項2記載の多層建築物。
【請求項4】
前記水平風受部が、光及び/又は空気を通過可能に形成された請求項1から請求項3のいずれか一項記載の多層建築物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイド型などの多層建築物において、いわゆるビル風を緩和するための構造を備えた多層建築物などに関連する。より詳細には、吹き抜け空間が形成されたボイド型などの多層建築物において、その多層建築物の外壁面の低層部分から略水平に突出して形成された水平風受部と、その水平風受部の周縁から上方へ略鉛直に形成された鉛直風受部とで略包囲することにより、上方が開放された風受空間が形成されるとともに、その風受空間と吹き抜け空間とを連通する導風部が設けられた多層建築物などに関連する。
【背景技術】
【0002】
土地の有効活用などを目的として、都市部などを中心に、事業用・商用などの多層建築物が多数建設されている。また、近年は、集合住宅・ホテル・病院・老人施設などに用いる建築物においても、高層化・超高層化が進んでおり、階層ごとに用途の異なる複合型の多層建築物も増加している。
【0003】
これらの多層建築物では、構造上の観点や、デザイン性、環境性、各居室などへのアクセス性などの視点から、また、用途などに応じて、例えば、中廊下型、コア型、ボイド型など、様々な平面形式が採用されている。その中には、例えば、ボイド型などのように、建築物の中央部に吹き抜け空間が形成されたものについても、多くの施工例がある。
【0004】
ボイド型などを含む全ての平面形式の多層建築物において、いわゆるビル風が問題となる。例えば、多層建築物の正面の外壁面に風が当たると、その風は建築物の両側方などに廻り込み、風速が増加する。このビル風が頻繁に発生すると、建築物内の生活環境だけでなく、建築物周辺の家屋や歩行者などに対しても、多大な影響を及ぼす。
【0005】
ビル風は、剥離流、吹き降ろし、逆流、谷間風、ピロティ風などに分類される。これらのうち、剥離流は、建築物に当たった風が壁面に沿って流れた後、建築物の隅角部から剥離した流れをいう。吹き降ろしは、建築物に当たった風が左右に分かれた後、建築物の側方を上方から下方に斜めに向かう流れをいう。逆流は、建築物に当たった風が壁面に沿って下降した後、地上付近で上空とは逆向きの風になるものをいう。実際には、建築物の形状・配置や周辺状況などにより、様々な種類の風が発生して影響しあい、複雑な風の流れが形成される。
【0006】
ビル風の影響を緩和する手段として、従来、例えば、多層建築物の周辺に防風植栽を行う、防風庇・防風スクリーンなどを設置する、などの対策が施されている。
【0007】
なお、先行文献として、例えば、特許文献1には、構築物に作用する風圧の正の圧力面に形成した風導入口と、負の圧力面に形成した風排出口と、これら風導入口と風排出口とを連通する連通路とからなる一連の流通経路を設けたビル風低減装置が、特許文献2には、高層建物の隅角部に吹く強風から歩行者を防護するビル風防護装置が、特許文献3には、高層ビル等の建物上部の周囲から地上に吹き下ろされるビル風を低減する方法及びその装置が、それぞれ開示されている。また、特許文献4には、通風部に流れる風をボイド部に導くことにより、ボイド部の換気を行うようにした建築物が、特許文献5には、ボイド
の上下間の圧力差を大きくできるようにすることによりボイド内の換気を良好にするボイド内換気方法が、それぞれ開示されている。
【特許文献1】特開平11−293956号公報
【特許文献2】特開平4−302674号公報
【特許文献3】特開平7−217254号公報
【特許文献4】特開2009−133075号公報
【特許文献5】特開平5−141728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ボイド型などの多層建築物において、ビル風を緩和する手段を提供することなどを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、各階を貫通した吹き抜け空間が平面視略中央部に形成された多層建築物において、該建築物の外壁面の低層部分から略水平に突出して形成された水平風受部と、前記水平風受部の周縁から上方へ略鉛直に形成された鉛直風受部とで略包囲することにより、上方が開放された風受空間が形成されるとともに、前記風受空間と前記吹き抜け空間とを連通する導風部が設けられた多層建築物を提供する。
【0010】
水平風受部を建築物の外壁面の低層部分から略水平に突出して形成することにより、吹き降ろし・逆風など、建築物周囲の上方から該建築物の足下付近へ向かう風を遮断できる。
【0011】
また、鉛直風受部を水平風受部の周縁から上方へ略鉛直に形成するとともに、風受空間の各側面を鉛直風受部で略包囲するように形成することにより、吹き降ろしのように建築物周囲の側方を廻り込みながら上方から下方に向かう風の流れや、逆流のように地上付近で逆流する風を遮断できる。
【0012】
加えて、本発明では風受空間と吹き抜け空間とを連通する導風部を設けたため、建築物周囲の上方から下方への風の流れを単に遮断するだけでなく、その風を周辺地域以外の場所へ導き入れることができる。そのため、周辺地域へのビル風による影響を有効に緩和できる。
【0013】
そして、風受空間と吹き抜け空間とを連通することにより、ビル風を、導風部を介して吹き抜け空間に積極的に取り込むことができる。これにより、吹き抜け空間の換気性能を大幅に向上でき、それにより、居住環境も向上させることができる。本構成には、特別な装置などを用いずに吹き抜け空間の換気を行うことができ、また、維持コストもほとんど必要ないため、低廉かつ有効に吹き抜け空間の換気を行うことができるという利点もある。
【0014】
その他、水平風受部及び鉛直風受部で、多層建築物の外壁面から突出するように風受空間を形成することにより、例えば、屋上や中上層階などから雪・氷柱・その他の物が落下してきた場合にも、地上にいる歩行者などにそれらの落下物が直撃したり、地上に設置された構造物などが破損したりするなどの危険性を低減できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、平面視略中央部に各階を貫通した吹き抜け空間が形成された多層建築物において、ビル風を緩和できる。また、本発明には、吹き抜け空間の換気を低廉かつ有効に行うことができるという有利性がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、各階を貫通した吹き抜け空間が平面視略中央部に形成された多層建築物に係るものであり、本発明に係る多層建築物は、少なくとも、該建築物の外壁面の低層部分から略水平に突出して形成された水平風受部と、水平風受部の周縁から上方へ略鉛直に形成された鉛直風受部とで略包囲することにより、上方が開放された風受空間が形成されるとともに、風受空間と吹き抜け空間とを連通する導風部が設けられたものをすべて包含する。以下、本発明の実施形態の例を示す。なお、本発明は、これらの実施形態のみに狭く限定されない。
【0017】
図1は、本発明に係る多層建築物の例を示す外観斜視模式図、
図2は、同断面模式図である。
【0018】
図1及び
図2に示す多層建築物Aでは、各階を貫通した吹き抜け空間Vが平面視略中央部に形成されており、また、多層建築物Aの外壁面S1の低層部分A1から略水平に突出して形成された水平風受部1と、水平風受部1の周縁11から上方へ略鉛直に形成された鉛直風受部2(21、22、23)とで略包囲することにより、上方が開放された風受空間Rが形成されるとともに、風受空間Rと吹き抜け空間Vとを連通する導風部3が設けられている。
【0019】
また、発生頻度の比較的高いビル風として、例えば、建築物Aの外壁面S1に当たった後、上方へ向かう風W1と、下方へ向かう風W2に分かれ、このうち、下方へ向かう風W2が壁面S1に沿って下降した後、地上面G付近で上空とは逆向きの風W2’になるものがある(逆風)。また、建築物Aの外壁面S2に当たった後、左右に分かれ、建築物Aの側方を上方から下方に斜めに向かう風W3となるものもある(吹き降ろし)。
【0020】
多層建築物Aは、例えば、ボイド型など、各階を貫通した吹き抜け空間Vが平面視略中央部に形成されたものであればよい。高層建築物・超高層建築物など、一定以上の階層数を有するものを広く包含する。階層数は特に限定されないが、例えば、9〜200階が好適であり、15〜200階がより好適であり、20〜200階が最も好適である。
【0021】
本発明は、集合住宅に用いる建築物のほか、ホテル・病院・老人施設などに用いる建築物、事業用・商用などの建築物、それらの複合型の建築物などにも広く適用できる。
【0022】
水平風受部1は、建築物Aの周囲の上方から下方への風の流れを遮断するための部位であり、多層建築物Aの外壁面S1の低層部分A1から略水平に突出して形成される。
【0023】
水平風受部1は、少なくとも強風が吹き付けた場合にも耐えうる程度の強度を有する部材を広く採用できる。例えば、略矩形、略半楕円形などの平板状の部材を採用してもよい。材質などは特に限定されないが、例えば、合成樹脂材、木材、金属材、コンクリート材などを適宜採用できる。
【0024】
建築物Aの所定の外壁面に水平風受部1を略水平に固定する手段については、特に限定されない。例えば、水平風受部1の設置箇所の上方の外壁面から支持部材で張力により水平風受部1を吊下げ、固定してもよいし、水平風受部1の設置箇所の下方の外壁面から支持部材で支持して固定してもよい。
【0025】
また、例えば、建築物Aから張り出された梁に、水平風受部1が固定された構成にしてもよい。直接又は固定部材などを介して梁に水平風受部1を固定することにより、水平風受部1の設置コストを低減でき、水平風受部1を強固に固定できる。
【0026】
水平風受部1を、光及び/又は空気を通過可能に形成してもよい。例えば、水平風受部1の部材にパンチングメタルなどを採用し、光・空気の一部が貫通孔から通過するようにしてもよいし、細長の板状部材を略スノコ状に配列して水平風受部1を形成し、光・空気の一部が板状部材間の間隙から通過するようにしてもよい。また、細長の板状部材を略ルーバー状に配列して水平風受部1を形成し、光・空気の一部が板状部材間の間隙から通過するようにしてもよい。
【0027】
これらの構成を採用することにより、光・空気の一部が水平風受部1を通過するため、地上面Gと水平風受部1との間に形成される建築物の足下付近の空間Mにおいて、木漏れ日程度の採光を可能にでき、また、該空間Mにおける空気の滞留や熱だまりの生成を抑制できる。
【0028】
鉛直風受部2は、水平風受部1の周縁11から上方へ略鉛直に形成された部位であり、風受空間Rの各側面を略包囲する。鉛直風受部2を形成することにより、吹き降ろしのように建築物周囲の側方を上方から下方に向かう風の流れ(符号W3)や、逆流のように地上付近で逆流する風(符号W2〜W2’)を遮断できる。また、鉛直風受部2を形成することにより、ビル風を、導風部3の方へ導き入れることができる。
【0029】
例えば、水平風受部1が略矩形の平板状部材で形成されている場合、水平風受部1の各辺から上方へ略鉛直に、それぞれ鉛直風受部21、22、23を形成し、風受空間Rの各側面を略包囲することにより、吹き降ろし・逆流などのビル風を確実に捕え、かつその風を導風部3の方へ導き入れることができる。
【0030】
風受空間Rは、底面を水平風受部1で、側面を鉛直風受部2で略包囲されることにより形成された空間であり、上方が開放され、上方から下方へ吹き付けるビル風を捕えることができる形状となっている。また、風受空間Rの一方の側面の全体又は少なくとも一部には導風部3が形成されており、該空間Rに捕えられたビル風は導風部3の方へ導き入れられる。
【0031】
風受空間Rは、上方及び導風部3への開口部分を除き、水平風受部1及び鉛直風受部2により、略閉鎖された形状を備えていることが好ましい。これにより、ビル風を確実に捕えることができるため、ビル風緩和の有効性を高めることができる。
【0032】
風受空間Rを形成する場所については、多層建築物Aの外壁面S1の低層部分A1であればよく、特に限定されない。例えば、2〜7階、より好適には2〜4階付近に形成することができる。また、本発明は、一つの向きの外壁面に風受空間Rが形成される場合のみに狭く限定されず、例えば、後述する通り、建築物の全外周に亘って形成される外壁面のうち、向きの異なる二以上の領域が少なくとも含まれるように風受空間Rを形成してもよい。
【0033】
その他、水平風受部1及び鉛直風受部2で、多層建築物Aの外壁面S1から突出するように風受空間Rを形成することにより、例えば、屋上や中上層階などから雪・氷柱・その他の物が落下してきた場合にも、地上にいる歩行者などにそれらの落下物が直撃したり、地上に設置された構造物などが破損したりするなどの危険性を低減できる。なお、このことは、風受空間Rが、例えば、共用の通行路、設置階におけるバルコニースペースなどとしても利用できる構成になっている場合を排除することを意味するわけではない。
【0034】
導風部3は、風受空間Rと吹き抜け空間Vとを連通する通路である。導風部3を設けることにより、ビル風を吹き抜け空間Vに導き入れることができるため(
図2中、符号W4参照)、周辺地域へのビル風による影響を有効に緩和できる。また、本発明ではビル風を積極的に取り込むことができるため、吹き抜け空間の換気性能を大幅に向上でき、それにより、居住環境も向上させることができる。
【0035】
導風部3は、風受空間R及び吹き抜け空間Vのそれぞれに少なくとも一部が開口された構成であればよい。例えば、風受空間Rと吹き抜け空間Vとを連通する専用の流通路を設置し、導風部3として用いてもよい。また、例えば、駐輪場、トレンチ階などとして用いる所定のフロアを、風受空間R及び吹き抜け空間Vのそれぞれに少なくとも一部が開口した構成とし、導風部3として用いてもよい。
【0036】
導風部3には、風力調整手段を設置してもよい。風力調整手段として、例えば、メッシュフィルターなどを用いることができる。導風部3に風力調整手段を設置することにより、吹き抜け空間Vへ流入する風の風力を調整できるため、吹き抜け空間Vに対する換気性能を適度に調節・維持できる。
【0037】
導風部3には、風力発電手段を設置してもよい。風力発電手段には、公知のものを広く採用できる。導風部3に風力発電手段を設置することにより、ビル風を電気エネルギーに変換できるため、自然再生エネルギーを活用でき、環境負荷を軽減できる。
【0038】
図3は、本発明に係る多層建築物の別の例を示す外観斜視模式図である。
【0039】
図3の多層建築物A’では、
図1などと同様、各階を貫通した吹き抜け空間Vが平面視略中央部に形成されており、また、多層建築物A’の外壁面S1、S2の低層部分A1’から略水平に突出して形成された水平風受部1と、水平風受部1の周縁11から上方へ略鉛直に形成された鉛直風受部2とで略包囲することにより、上方が開放された風受空間Rが形成されるとともに、風受空間Rと吹き抜け空間Vとを連通する導風部3が設けられている。
【0040】
図3で例示するビル風W2は、建築物Aの外壁面S1に当たった後、渦を形成しつつ、壁面S1に沿って地上面Gへ向かって下降している(逆風)。一方、ビル風W3は、建築物Aの外壁面S1に当たった後、建築物A’の外壁面S2の方へ廻り込み、上方から下方に斜めに向かっている(吹き降ろし)。
【0041】
図3の多層建築物A’では、建築物A’の全外周に亘って形成される外壁面S1、S2、S3、S4のうち、向きの異なる二以上の領域F1、F2が少なくとも含まれるように風受空間Rが形成された構成を備える。
【0042】
この構成により、逆流のビル風W2及び外壁面S1へ廻り込んだビル風だけでなく、外壁面S1に当たった後、外壁面S2の方へ廻り込んだ吹き降ろしのビル風W3についても、風受空間Rで風を捕え、導風部3へ導き入れることができるため、ビル風緩和の有効性をより高めることができる。
【0043】
例えば、多層建築物A’が平面視略多角形状の場合、
図1などに例示する通り、一つの外壁面に風受空間Rを形成してもよいし、
図3に例示する通り、向きの異なる二以上の外壁面に亘って風受空間Rを形成してもよい。また、例えば、多層建築物A’が平面視略円形状又は略楕円形状の場合も、前記と同様、向きの異なる二以上の外壁面に亘って風受空間Rを形成してもよい。その他、外壁面の全周に亘って風受空間Rを形成してもよい。
【0044】
図4は、水平風受部の構成例を示す長手方向断面模式図である。
【0045】
図4の水平風受部1’では、建築物から張り出された梁4に、水平風受部1’が固定された構成を備え、梁4、4間に固定部材12を設置し、該固定部材12に細長の板状部材13が略ルーバー状に配列され、固定されている。板状部材13、13間には所定長の間隙14が形成されている。水平風受部1’の上方には風受空間Rが形成されており、水平風受部1’の下方には、建築物の足下付近の空間Mが形成されている。
【0046】
なお、上記の通り、本発明は、固定部材12を用いずに、直接、梁4に水平風受部1’を固定したものについても広く包含する。また、細長の板状部材13を配列する向きについては、適宜定めることができ、
図4に示す構成例のみに狭く限定されない。
【0047】
細長の板状部材13を略ルーバー状に配列して水平風受部1’を形成することにより、水平風受部1’へ吹き付けたビル風の大部分は風受空間Rで捕えられ、導風部を介して吹き抜け空間V内に導き入れられる。
【0048】
一方、細長の板状部材13を略ルーバー状に配列することにより、板状部材13、13間には間隙14が形成されるため、光・空気の一部は水平風受部1を通過できる。これにより、建築物の足下付近の空間Mにおいて、木漏れ日程度の採光を可能にでき、また、該空間Mにおける空気の滞留や熱だまりの生成を抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
上記の通り、ビル風は建築物内の生活環境だけでなく、建築物周辺の家屋や歩行者などに対しても、多大な影響を及ぼすため、対策が求められている。また、近年は都市部を中心に多層建築物が増加し、高層化も進展していることに伴い、ビル風の影響が増大することが懸念されている。
【0050】
それに対し、本発明は、吹き抜け空間が形成された多層建築物において、地上面などに吹き付けるビル風を緩和できる点で産業上有用である。また、本発明には、吹き抜け空間の換気を低廉かつ有効に行うことができるという有利性がある。
【0051】
その他、ビル風に対する対策として従来行われている防災植栽は、ビル風の強い場所での栽培が困難を伴うことがあることや、植物の維持・管理が難しいことなどから、コスト・労力などを低く抑えることが難しい場合がある。それに対し、本発明により、防風植栽などの規模を小さくできるため、より簡易、低廉かつ有効にビル風を緩和することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】本発明に係る多層建築物の例を示す外観斜視模式図。
【
図2】本発明に係る多層建築物の例を示す断面模式図。
【
図3】本発明に係る多層建築物の別の例を示す外観斜視模式図。
【
図4】水平風受部の構成例を示す長手方向断面模式図。
【符号の説明】
【0053】
1 水平風受部
2 鉛直風受部
3 導風部
4 梁
A、A’ 多層建築物
R 風受空間
V 吹き抜け空間