特許第5962928号(P5962928)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5962928吸湿消臭性繊維、該繊維の製造方法および該繊維を含有する繊維構造物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5962928
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】吸湿消臭性繊維、該繊維の製造方法および該繊維を含有する繊維構造物
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/356 20060101AFI20160721BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20160721BHJP
   A61L 9/16 20060101ALI20160721BHJP
   B01D 53/28 20060101ALI20160721BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20160721BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20160721BHJP
   B01D 53/02 20060101ALN20160721BHJP
   D06M 11/00 20060101ALN20160721BHJP
   D06M 11/63 20060101ALN20160721BHJP
   D06M 11/38 20060101ALN20160721BHJP
【FI】
   D06M15/356
   A61L9/01 K
   A61L9/16 D
   B01D53/28
   B01J20/26 A
   B01J20/28 Z
   !B01D53/02
   !D06M11/00 110
   !D06M11/63
   !D06M11/38
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-542995(P2013-542995)
(86)(22)【出願日】2012年11月7日
(86)【国際出願番号】JP2012078785
(87)【国際公開番号】WO2013069659
(87)【国際公開日】20130516
【審査請求日】2015年6月17日
(31)【優先権主張番号】特願2011-246113(P2011-246113)
(32)【優先日】2011年11月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004053
【氏名又は名称】日本エクスラン工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川中直樹
【審査官】 相田 元
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−218766(JP,A)
【文献】 特開2010−216051(JP,A)
【文献】 特開平09−031853(JP,A)
【文献】 特公昭52−42916(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00−15/715
D06M 11/00
D06M 11/38
D06M 11/63
A61L 9/01
A61L 9/16
B01D 53/28
B01J 20/26
B01J 20/28
B01D 53/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋構造および3〜8mmol/gのカルボキシル基を有し、かつ塩型カルボキシル基とH型カルボキシル基の比率が40:60〜100:0の範囲にある吸湿性繊維の表面に、塩基性高分子をアミノ基量として0.2〜4mmol/gイオン結合させてなることを特徴とする吸湿消臭性繊維。
【請求項2】
20℃×65%RH条件下の吸湿率が20〜60重量%であることを特徴とする請求項1に記載の吸湿消臭性繊維。
【請求項3】
アンモニア除去率が70%以上、酢酸除去率が80%以上、イソ吉草酸除去率が85%以上、ノネナール除去率が75%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の吸湿消臭性繊維。
【請求項4】
アンモニア、酢酸、イソ吉草酸およびノネナールに対する10回洗濯後の消臭性能保持率がそれぞれ90%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の吸湿消臭性繊維。
【請求項5】
塩基性高分子の平均分子量が300以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の吸湿消臭性繊維。
【請求項6】
塩型カルボキシル基とH型カルボキシル基の比率が40:60〜100:0の範囲にある吸湿性繊維に塩基性高分子をイオン結合させることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の吸湿消臭性繊維の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の吸湿消臭性繊維を含有する吸湿消臭性繊維構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸湿性能と消臭性能、なかでも汗臭および加齢臭に対して優れた消臭性能を併せ持つ吸湿消臭性繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活環境の変化に伴い、臭気・蒸れ感に対する意識が高まり、体から発生する体液による臭気や蒸れ感を迅速にしかも持続的に解消することが望まれている。例えば臭気に関しては加齢臭、汗臭に対する意識が高い。汗臭は、主にアンモニア、酢酸、イソ吉草酸で構成され、加齢臭は、アンモニア、酢酸、イソ吉草酸に加えてノネナールで構成されている。消臭方法は、物理的消臭、化学的消臭、感覚的消臭(マスキング)等に大別される。物理的消臭剤として極めて優れている活性炭は、微粒化することが困難であったり、繊維上への固定が難しく、繊維の色を悪くしたりする等の問題があった。また、物理的消臭では、洗濯等の作業により、性能が著しく低下する。また、触媒作用を利用する消臭剤は、即時効果が低い。香料等による消臭では、人の嗜好性によって香料そのもの自体が悪臭になり得ることや、嗅覚疲労を起こすことから、その用途は限られたものになる。その中で、即時効果と持続性能に優れながら、上記問題点を克服できるものとして、化学中和反応を用いた方法がある。
【0003】
例えば特許文献1ではH型カルボキシル基による塩基性物質消臭繊維が記載され、特許文献2では1級アミノ基による酸性物質消臭繊維が記載されている。しかし、これら従来技術の化学中和反応を用いた消臭方法では、臭気成分として酸性物質又は塩基性物質のどちらかに対する吸着性能を発揮させるために、片方の成分の消臭を無視しなければならなかった。すなわち、これらの消臭方法は、汗臭、加齢臭等の複合臭に対しては有効ではない。
【0004】
また、特許文献3に記載されている酸性基と塩基性基を両方持つ消臭繊維では、塩基性物質と酸性物質に対する消臭性能を併せ持っているが、消臭成分が繊維表面にしか存在しないため、消臭性能が不足するという課題と、蒸れ感に対する吸湿性能が不足するという課題の両方が存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−245778号公報
【特許文献2】特開平9−241928号公報
【特許文献3】特開2000−80569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、従来技術では提供されていなかった、衣料・寝具分野等において、汗臭や加齢臭等の複合臭に対する高い消臭性能と、蒸れ感を低減する吸湿性能を併せ持ち、さらには、繰り返し洗濯しても優れた消臭性能を維持できる吸湿消臭性繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、下記の手段により達成される。
(1) 架橋構造およびかつ3〜8mmol/gのカルボキシル基を有し、かつ塩型カルボキシル基とH型カルボキシル基の比率が40:60〜100:0の範囲にある吸湿性繊維の表面に、塩基性高分子をアミノ基量として0.2〜4mmol/gイオン結合させてなることを特徴とする吸湿消臭性繊維。
(2) 20℃×65%RH条件下の吸湿率が20〜60重量%であることを特徴とする(1)に記載の吸湿消臭性繊維。
(3) アンモニア除去率が70%以上、酢酸除去率が80%以上、イソ吉草酸除去率が85%以上、ノネナール除去率が75%以上であることを特徴とする(1)または(2)に記載の吸湿消臭性繊維。
(4) アンモニア、酢酸、イソ吉草酸およびノネナールに対する10回洗濯後の消臭性能保持率がそれぞれ90%以上であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の吸湿消臭性繊維。
(5) 塩基性高分子の平均分子量が300以上であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の吸湿消臭性繊維。
(6) 塩型カルボキシル基とH型カルボキシル基の比率が40:60〜100:0の範囲にある吸湿性繊維に塩基性高分子をイオン結合させることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の吸湿消臭性繊維の製造方法。
(7) (1)〜(5)のいずれかに記載の吸湿消臭性繊維を含有する吸湿消臭性繊維構造物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の吸湿消臭性繊維は、吸湿性能が高く、体から発生する体液由来の蒸れ感を低減し、快適な湿度環境を実現するだけでなく、汗臭、加齢臭等の複合臭に対して即効性と持続性のある消臭性能を発現することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に採用する吸湿性繊維は、架橋構造とカルボキシル基を有することが必要である。かかる吸湿性繊維としては、カルボキシル基又はそのアルカリ金属塩基などの親水性基含有モノマーと、カルボキシル基と反応してエステル架橋構造を形成できるヒドロキシル基含有モノマーなどとが共重合され、かつエステル架橋結合が導入されてなるポリアクリル酸系架橋体繊維、無水マレイン酸系架橋体繊維、アルギン酸系架橋体繊維などや、アクリロニトリル系繊維に架橋剤により架橋構造を導入した後、加水分解することによりカルボキシル基を導入したアクリレート系架橋体繊維などを挙げることができる。特に、アクリレート系架橋体繊維は、架橋剤による架橋条件、加水分解条件をコントロールすることにより、吸湿性に優れた繊維が得られるため、本発明に採用する吸湿性繊維として好ましい。以下、かかるアクリレート系架橋体繊維を例にとり、本発明の吸湿消臭性繊維について詳述する。
【0010】
アクリレート系架橋体繊維の原料繊維であるアクリロニトリル系繊維は、アクリロニトリル系重合体から公知の方法に準じて製造される。該重合体の組成としては、アクリロニトリルが40重量%以上であることが好ましく、より好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上である。後述するように、アクリロニトリル系繊維を形成するアクリロニトリル系共重合体のニトリル基とヒドラジン系化合物等の窒素含有化合物を反応させることで、繊維中に架橋構造が導入される。架橋構造は繊維物性に大きく影響する。アクリロニトリルの共重合組成が少なすぎる場合には、架橋構造が少なくならざるを得なくなり、繊維物性が不十分となる可能性があるが、アクリロニトリルの共重合組成を上記範囲とすることで良好な結果を得られやすくなる。
【0011】
アクリロニトリル系重合体におけるアクリロニトリル以外の共重合成分としては、アクリロニトリルと共重合可能な単量体であれば特に限定されず、具体的にはメタリルスルホン酸、p−スチレンスルホン酸等のスルホン酸基含有単量体及びその塩、(メタ)アクリル酸、イタコン酸等のカルボン酸基含有単量体及びその塩、スチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド等の単量体などが挙げられる。
【0012】
また、本発明に採用するアクリロニトリル系繊維の形態としては、短繊維、トウ、糸、編織物、不織布等いずれの形態のものでもよく、また、製造工程中途品、廃繊維などでも採用できる。
【0013】
アクリロニトリル系繊維に架橋構造を導入するための架橋剤としては、従来公知のいずれの架橋剤も使用することができるが、窒素含有化合物を使用することが架橋反応の効率及び取扱いの容易さの点から好ましい。この窒素含有化合物は1分子中に2個以上の窒素原子を有することが必要である。1分子中の窒素原子の数が2個未満であると、架橋反応が生じないからである。かかる窒素含有化合物の具体例としては、架橋構造を形成しうるものであれば特に限定されないが、2個以上の1級アミノ基を有するアミノ化合物やヒドラジン系化合物が好ましい。2個以上の1級アミノ基を有するアミノ化合物としては、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどのジアミン系化合物、ジエチレントリアミン、3,3’−イミノビス(プロピルアミン)、N−メチル−3,3’−イミノビス(プロピルアミン)などのトリアミン系化合物、トリエチレンテトラミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)−1,3−プロピレンジアミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)−1,4−ブチレンジアミンなどのテトラミン系化合物、ポリビニルアミン、ポリアリルアミンなどであって2個以上の1級アミノ基を有するポリアミン系化合物などが例示される。また、ヒドラジン系化合物としては、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、臭素酸ヒドラジン、ヒドラジンカーボネートなどが例示される。なお、1分子中の窒素原子の数の上限は特に限定されないが、12個以下であることが好ましく、さらに好ましくは6個以下であり、特に好ましくは4個以下である。1分子中の窒素原子の数が上記上限を超えると、架橋剤分子が大きくなり、繊維内に架橋を導入しにくくなる場合がある。
【0014】
架橋構造を導入する条件としては、特に限定されるものではなく、採用する架橋剤とアクリロニトリル系繊維との反応性や架橋構造の量、吸湿率、飽和吸湿率差、繊維物性などを勘案し、適宜選定することができる。例えば、架橋剤としてヒドラジン系化合物を用いる場合は、ヒドラジン濃度として3〜40重量%となるように上記のヒドラジン系化合物を添加した水溶液に、上述したアクリロニトリル系繊維を浸漬し、50〜120℃、5時間以内で処理する方法などが挙げられる。
【0015】
架橋構造が導入された繊維には、アルカリ性金属化合物による加水分解処理が施される。該処理により、繊維中に存在しているニトリル基やアミド基が加水分解され、カルボキシル基が形成される。カルボキシル基は、アクリレート系架橋体繊維において吸放湿性、吸湿発熱性、消臭性、後述する塩基性高分子イオン結合性などの特性を発現させる要因であり、一般的には全カルボキシル基量として好ましくは3〜8mmol/g、さらに好ましくは5〜8mmol/gのカルボキシル基を形成することが望ましい。形成されるカルボキシル基の量は、加水分解処理条件によって調整することができる。
【0016】
ここで、カルボキシル基には、そのカウンターイオンが水素イオン以外の陽イオンである塩型カルボキシル基と、そのカウンターイオンが水素イオンであるH型カルボキシル基がある。その比率は任意に調整することが可能であるが、塩型カルボキシル基とH型カルボキシル基の比率を好ましくは40:60〜100:0、より好ましくは40:60〜90:10、さらに好ましくは40:60〜80:20の範囲内に調整することが望ましい。塩型カルボキシル基は、より温和な条件で塩基性高分子とイオン結合することができ、H型カルボキシル基は、酸性を有する官能基であり、汗臭、加齢臭に共通して存在するアンモニアなどの塩基性物質を吸着消臭する部位であることから、上記比率に調整することが好ましい。なお、H型カルボキシル基の比率が0の場合であっても、アンモニア等は、繊維に吸湿された水分に溶け込むことで、ある程度消臭される。
【0017】
塩型カルボキシル基を構成する金属の種類としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、マンガン、銅、亜鉛、銀などのその他の金属などから1種あるいは複数種を必要な特性に応じて選択することができる。特に、多価の金属イオンであるマグネシウム、カルシウムなどを採用した場合には、塩基性高分子を多く付着しやすくなる傾向があり、好適である。
【0018】
塩型カルボキシル基とH型カルボキシル基との比率を上記の範囲に調整する方法としては、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩などの金属塩によるイオン交換処理、硝酸、硫酸、塩酸、蟻酸などによる酸処理、あるいは、アルカリ性金属化合物などによるpH調整処理などを施す方法が挙げられる。
【0019】
このようにして得られたアクリレート系架橋体繊維は次に、塩基性高分子の繊維表面付着処理を施される。かかる塩基性高分子としては、水溶性であることが好ましく、ポリエチレンイミン、ポリビニルピロリドン等を挙げることができる。特に、ポリエチレンイミンは、高分子中のアミノ基密度が18〜21mmol/gと高く、酢酸、イソ吉草酸などの酸性物質やノネナールなどのアルデヒドに対する消臭性能が高いため、好適である。処理条件としては、塩基性高分子の濃度が0.2〜10重量%、好ましくは0.2〜3重量%の水溶液に繊維を浸漬し、20〜80℃で10〜120分処理するといった例を挙げることができる。塩基性高分子の付着量としては、繊維に付着したアミノ基量が0.2〜4mmol/gになるように付着させることが必要である。
【0020】
塩基性高分子の水溶液にアクリレート系架橋体繊維を浸漬すると、塩基性高分子のアミノ基がアクリレート系架橋体繊維のカルボキシル基とイオン結合するが、塩基性高分子の分子サイズが大きいため、塩基性高分子は、繊維内部に浸透することなく表面に留まる。従って、浸漬後の繊維は、繊維表面には、酸性物質やアルデヒドに対する消臭性能を発現する遊離のアミノ基が存在し、繊維内部には、塩基性物質に対する消臭性能を発現するH型カルボキシル基が存在する2層構造になっていると考えられる。また、水溶液で処理することにより多数のイオン結合が形成されやすく、かかるポリイオン結合により塩基性高分子が繊維表面に付着されているため、洗濯などによっても塩基性高分子が脱落しにくく、消臭性能が維持されると考えられる。逆に、塩基性高分子が低分子量の場合には、分子が揮発しやすいため、一旦繊維表面に付着しても、繊維から脱離してアミン臭を発生させてしまう恐れもある。従って、上述のように塩基性高分子としては水溶性であり、かつ高分子量のものが望ましく、数平均分子量としては300〜70000のものが好適である。
【0021】
ここで、洗濯などに供しても消臭性能が維持されるという特徴について、本発明の吸湿消臭性繊維においては、汗臭および加齢臭に対する消臭性能維持の観点から、アンモニア、酢酸、イソ吉草酸およびノネナールのそれぞれに対して、後述する消臭性能保持率が90%以上であることが望ましい。
【0022】
上述のようにして得られる本発明の吸湿消臭性繊維は、繊維表層に酸性物質やアルデヒドの吸着消臭部位が存在し、繊維内部に塩基性物質の吸着消臭および吸湿部位が存在することで、体から発生する体液由来の蒸れ感を低減して快適な湿度環境を実現するだけでなく、汗臭、加齢臭等の複合臭に対して即効性と持続性のある消臭性能を発現することが可能である。
【0023】
本発明の吸湿消臭性繊維は、単独で、あるいは、他の素材と組み合わせて繊維構造物を形成させることで、より有用なものとなる。かかる繊維構造物の外観形態としては、綿、糸、編地、織物、不織布、パイル布帛、紙状物等がある。該構造物内における本発明の吸湿消臭性繊維の含有形態としては、他素材との混合により、実質的に均一に分布させたものや、複数の層を有する構造の場合には、いずれかの層(単数でも複数でも良い)に本発明の吸湿消臭性繊維を集中して存在させたものや、夫々の層に本発明の吸湿消臭性繊維を特定比率で分布させたもの等がある。
【0024】
本発明の繊維構造物は、上記に例示した外観形態及び含有形態の組合せとして、無数のものが存在する。いかなる構造物とするかは、最終製品の使用態様(例えばシーズン性、運動性や内衣か中衣か外衣か、フィルター、カーテンやカーペット、寝具やクッション、インソール等としての利用の仕方など)、要求される機能、かかる機能を発現することへの吸湿消臭性繊維の寄与の仕方等を勘案して適宜決定される。
【0025】
本発明の繊維構造物において併用しうる他素材としては、特に制限はなく、公用されている天然繊維、有機繊維、半合成繊維、合成繊維が用いられ、さらには無機繊維、ガラス繊維等も用途によっては採用し得る。具体的な例としては、綿、麻、絹、羊毛、ナイロン、レーヨン、ポリエステル、アクリル繊維などを挙げることができる。
【0026】
また、本発明の繊維構造物の製造方法としては、予め作成した本発明の吸湿消臭性繊維を用いて、上記のような繊維構造物を製造する方法のほかに、塩基性高分子を付与する前の吸湿性繊維を用いて繊維構造物を製造した後に、該繊維構造物を塩基性高分子で処理して、繊維構造物内に本発明の吸湿消臭性繊維を生成させる方法も採用することができる。また、塩基性高分子を付与する前の吸湿性繊維あるいは該繊維を用いた繊維構造物を染色した後に、塩基性高分子で処理するといった方法も採用しうる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。実施例中の部及び百分率は、断りのない限り重量基準で示す。なお、カルボキシル基量、アミノ基量、吸湿率、臭気除去率は、以下の方法によって求めた。
【0028】
(1)カルボキシル基量
繊維試料約1gを、50mlの1mol/l塩酸水溶液に30分間浸漬する。次いで、繊維試料を、浴比1:500で水に浸漬する。15分後、浴pHが4以上であることを確認したら、乾燥させる(浴pHが4未満の場合は、再度水洗する)。次に、十分乾燥させた繊維試料約0.2gを精秤し(W1[g])、100mlの水を加え、さらに、15mlの0.1mol/l水酸化ナトリウム水溶液、0.4gの塩化ナトリウムおよびフェノールフタレインを添加して撹拌する。15分後、濾過によって試料繊維と濾液に分離し、引き続き試料繊維を、フェノールフタレインの呈色がなくなるまで水洗する。このときの水洗水と濾液をあわせたものを、フェノールフタレインの呈色がなくなるまで0.1mol/l塩酸水溶液で滴定し、塩酸水溶液消費量(V1[ml])を求める。得られた測定値から、次式によって全カルボキシル基量を算出する。
カルボキシル基量[mmol/g]=(0.1×15−0.1×V1)/W1
【0029】
(2)塩型カルボキシル基とH型カルボキシル基の比率
上記のカルボキシル基量の測定方法において、最初の1mol/l塩酸水溶液への浸漬およびそれに続く水洗を実施しないこと以外は同様にして、H型カルボキシル基量を算出する。かかるH型カルボキシル基量を上記の全カルボキシル基量から差し引くことで、塩型カルボキシル基量を算出し、塩型カルボキシル基とH型カルボキシル基の比率を求める。
【0030】
(3)アミノ基量
使用する塩基性高分子のアミン価をA[mmol/g]とする。塩基性高分子処理前の繊維重量を測定し、B[g]とする。塩基性高分子処理後の繊維重量を測定し、C[g]とする。次式によりアミノ基量を算出する。
アミノ基量[mmol/g]=A×(C−B)/C
【0031】
(4)20℃×65%RH吸湿率
繊維試料約5.0gを、熱風乾燥器で105℃、16時間乾燥して重量を測定する(W2[g])。次に、該繊維試料を、温度20℃、65%RHに調節した恒温恒湿器に24時間入れる。このようにして吸湿した繊維試料の重量を測定する(W3[g])。以上の測定結果から、次式によって20℃×65%RH吸湿率(飽和吸湿率)を算出する。
20℃×65%RH吸湿率[%]=(W3−W2)/W2×100
【0032】
(5)臭気除去率
繊維試料0.5gをテドラーバッグに入れ密封し、空気を1.5l注入する。次に、規定濃度の臭気(アンモニアの場合は100ppm、酢酸の場合は50ppm、イソ吉草酸の場合は40ppm、アセトアルデヒドの場合は14ppm、ノネナールの場合は14ppm)をテドラーバッグ内に注入し、室温で120分放置後にテドラーバッグ内の臭気濃度(W4)を測定する。なお、測定は、イソ吉草酸およびノネナールについてはガスクロマトグラフを用いて、それ以外の臭気については北川式検知管を用いて実施する。また、試料を入れないブランクも同濃度で作成し、120分後に臭気濃度(W5)を測定し、空試験とする。以上の結果から、次式に従って、臭気除去率を算出する。
臭気除去率[%]=(W5−W4)/ W5×100
なお、一般社団法人繊維評価技術協議会の認証基準によれば、アンモニア除去率70%以上、酢酸除去率80%以上、イソ吉草酸除去率85%以上をすべて満たす場合に、汗臭消臭効果を有すると認定される。また、これらの基準に加えて、ノネナール除去率75%以上を満たす場合に、加齢臭消臭効果を有すると認定される。
【0033】
(6)消臭性能保持率
消臭性能保持率は、下記の式により算出する。
消臭性能保持率(%)=[洗濯を10回した後の繊維試料の臭気除去率]/[洗濯をしていない繊維試料の臭気除去率]×100
なお、洗濯は、JIS−L−0213の103法(家庭用洗濯機用)に従って実施する。
【0034】
[実施例1]
アクリロニトリル90%及びアクリル酸メチル10%のアクリロニトリル系重合体を48%のロダンソーダ水溶液で溶解して、紡糸原液を調製した。この紡糸原液を、常法に従って紡糸、水洗、延伸、捲縮、熱処理をして、0.8デニール×70mmの原料繊維を得た。この原料繊維1kgに、30重量%の加水ヒドラジン5kgを加え、98℃で3時間架橋処理した。窒素増加量は5.0%であった。該架橋繊維を水洗後、更に3重量%の水酸化ナトリウム5kgを加え、90℃で1時間加水分解した。次いで、1mol/l硝酸水溶液で処理して、カルボキシル基をH型に変換し、水洗後、1mol/l水酸化ナトリウム水溶液でpHを6.5に調整した。得られたアクリレート系架橋体繊維のカルボキシル基量、および塩型カルボキシル基とH型カルボキシル基の比率を表1に示す。次いで、該繊維をポリエチレンイミン(数平均分子量600、アミン価20mmol/g)の2%水溶液に浸漬して50℃×60分処理した。その後水洗、乾燥処理を行い、吸湿消臭性繊維を得た。該繊維を評価した結果を表1に示す。
【0035】
[実施例2]
実施例1の加水分解時間を2時間に変更した以外は、実施例1と同じ処理を行い、吸湿消臭性繊維を得た。該繊維を評価した結果を表1に示す。
【0036】
[実施例3]
実施例1の加水分解時間を5時間に変更し、ポリエチレンイミンを数平均分子量70000(アミン価18mmol/g)のポリエチレンイミンに変更した以外は、実施例1と同じ処理を行い、吸湿消臭性繊維を得た。該繊維を評価した結果を表1に示す。
【0037】
[実施例4]
実施例2において、アクリレート系架橋体繊維を、ポリエチレンイミン(数平均分子量10000、アミン価18mmol/g)の1%水溶液に浸漬して80℃×120分処理し、その後水洗、乾燥処理を行った以外は、実施例2と同じ処理を行い、吸湿消臭性繊維を得た。該繊維を評価した結果を表1に示す。
【0038】
[実施例5]
実施例4のポリエチレンイミン水溶液の濃度を2%に変更した以外は、実施例4と同じ処理を行い、吸湿消臭性繊維を得た。該繊維を評価した結果を表1に示す。
【0039】
[実施例6]
実施例4のポリエチレンイミンを数平均分子量1800(アミン価19mmol/g)のポリエチレンイミンに変更した以外は、実施例4と同じ処理を行い、吸湿消臭性繊維を得た。該繊維を評価した結果を表1に示す。
【0040】
[実施例7]
実施例4において、実施例2のアクリレート系架橋体繊維の代わりに、実施例1のアクリレート系架橋体繊維を得る製造手順において1mol/l水酸化ナトリウム水溶液で調整するpHを4.2に変更して得られたアクリレート系架橋体繊維を用いたこと以外は、実施例4と同じ処理を行い、吸湿消臭性繊維を得た。該繊維を評価した結果を表1に示す。
【0041】
[実施例8]
実施例1のアクリレート系架橋体繊維を得る製造手順において、加水分解時間を2.5時間に変更し、得られたアクリレート系架橋体繊維をポリエチレンイミン(数平均分子量70000、アミン価18mmol/g)の0.2%水溶液に浸漬して80℃×120分処理を実施し、その後水洗、乾燥処理を行った以外は、実施例1と同じ処理を行い、吸湿消臭性繊維を得た。該繊維を評価した結果を表1に示す。
【0042】
[実施例9]
実施例4のポリエチレンイミンを数平均分子量300(アミン価21mmol/g)のポリエチレンイミンに変更した以外は、実施例4と同じ処理を行い、吸湿消臭性繊維を得た。該繊維を評価した結果を表1に示す。
【0043】
[実施例10]
実施例4において、実施例2のアクリレート系架橋体繊維の代わりに、実施例1のアクリレート系架橋体繊維を5%塩化カルシウム水溶液に浸漬して60℃×2時間処理を行うことによって得られるカルシウム塩型カルボキシル基を有するアクリレート系架橋体繊維を用いたこと以外は、実施例4と同じ処理を行い、吸湿消臭性繊維を得た。該繊維を評価した結果を表1に示す。
【0044】
[比較例1]
実施例4においてポリエチレンイミンによる処理を実施しなかったこと以外は、実施例4と同じ処理を行い、比較例1の繊維を得た。該繊維、すなわちアクリレート系架橋体繊維を評価した結果を表1に示す。
【0045】
[比較例2]
実施例4において、実施例2のアクリレート系架橋体繊維の代わりに、実施例1のアクリレート系架橋体繊維を得る製造手順において加水分解時間を0.5時間に変更して得られたアクリレート系架橋体繊維を用いたこと以外は、実施例4と同じ処理を行い、比較例2の繊維を得た。該繊維を評価した結果を表1に示す。
【0046】
[比較例3]
実施例4のポリエチレンイミン水溶液濃度を0.1%に変更した以外は、実施例4と同じ処理を行い、比較例3の繊維を得た。該繊維を評価した結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1の各実施例と比較例1および比較例3からわかるように、塩基性高分子を特定の量で繊維表面に付着させることにより、酸性物質およびアルデヒドに対する消臭性能が飛躍的に向上している。また、それに伴い、塩基性物質に対する消臭性能、吸湿性能が大幅に阻害されることもない。このように、本発明の吸湿消臭性繊維は、酸性物質、アルデヒド、塩基性物質のいずれについても高い消臭性能を有するとともに、高い吸湿性能を有する。また、比較例2のように、カルボキシル基量が少ないと、アミノ基量、すなわち付着できる塩基性高分子の量も低下し、十分な性能を発現できないこともわかる。なお、表中のアセトアルデヒドの臭気除去率の「−」は、測定していないことを示す。
【0049】
また、実施例2および実施例4で作成した吸湿消臭性繊維を10回洗濯した後の吸湿率と消臭性能保持率を評価した。その結果を表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
表1の実施例2および実施例4と表2より、本発明の吸湿消臭性繊維は、繰り返し洗濯しても優れた消臭性能を維持できることが理解できる。