特許第5962929号(P5962929)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5962929ジアリルビスフェノール類の一貫製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5962929
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】ジアリルビスフェノール類の一貫製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 37/055 20060101AFI20160721BHJP
   C07C 317/22 20060101ALI20160721BHJP
   C07C 315/04 20060101ALI20160721BHJP
   C07C 39/21 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   C07C37/055
   C07C317/22
   C07C315/04
   C07C39/21
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-556315(P2013-556315)
(86)(22)【出願日】2013年1月21日
(86)【国際出願番号】JP2013051040
(87)【国際公開番号】WO2013114987
(87)【国際公開日】20130808
【審査請求日】2014年11月10日
(31)【優先権主張番号】特願2012-16720(P2012-16720)
(32)【優先日】2012年1月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391010895
【氏名又は名称】小西化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片山 尚紀
【審査官】 中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−193865(JP,A)
【文献】 特開昭60−169456(JP,A)
【文献】 特開昭62−053957(JP,A)
【文献】 特開平02−282343(JP,A)
【文献】 特開2008−110945(JP,A)
【文献】 特開2002−114757(JP,A)
【文献】 特開2008−255015(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスフェノール類から、ジアリルビスフェノール類を一貫製造する方法であって、下記(1)〜(3)の工程を含む方法。
(1)ビスフェノール類又そのアルカリ金属塩とハロゲン化アリルとを、塩基性アルカリ金属塩の存在下又は不存在下で、セロソルブ系溶媒中で反応させる工程であって、前記ビスフェノール類が2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン及びビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホンからなる群から選択される少なくとも1種である工程
(2)工程(1)で得られた反応液から副生無機塩を分離する工程、
(3)工程(2)で得られた反応液を加熱し、転位反応を行う工程。
【請求項2】
工程(2)および/または工程(3)において、セロソルブ系溶媒を回収し、回収したセロソルブ系溶媒の少なくとも一部を、反応溶媒として再利用する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
セロソルブ系溶媒が、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル及びエチレングリコールモノブチルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ビスフェノール類が、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホンである、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
工程(2)において、副生無機塩を分離し、得られた反応液を中和する工程を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアリルビスフェノール類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジアリルビスフェノール類は、感熱記録材料の顕色剤として有用な物質であり、さまざまな製造方法が試みられている。例えば、ビスフェノールS(ジヒドロキシジフェニルスルホン)とアリルブロマイドとを反応させて、アリル化反応を行い、得られたビスフェノールSジアリルエーテルを粉体として取り出した後、当該ジアリルエーテルを加熱し、転位(クライゼン転位)反応させるという、ジアリル化ビスフェノールS(3,3'−ジアリル−4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルホン)の製造方法が、よく知られている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、当該製造方法では、アリル化反応後に、得られたビスフェノールSジアリルエーテルを晶析し、粉体として取り出しているため、収率にして約6%程度ものビスフェノールSジアリルエーテルを、ろ液中に失うこととなり、結果として、最終目的物であるジアリル化ビスフェノールSの収率が低下してしまうという問題があった。
【0004】
一方、特許文献2には、途中でビスフェノールSジアリルエーテルを取り出すことなく、ジアリル化ビスフェノールSを製造する方法が記載されており、アリル化反応を水及び/又は有機溶媒中で行い、転位反応を溶媒中又は無溶媒で行うことが開示されている。当該文献においては、アリル化に使用した溶媒が低沸点溶媒の時は、当該溶媒を留去した後、無溶媒或いは転位に使用する溶媒に置き換えてクライゼン転位反応を行うことが記載され、具体的には、アリル化に使用した溶媒を留去した後、無溶媒でクライゼン転位反応を行っている。
【0005】
しかしながら、無溶媒でのクライゼン転位は、温度コントロールが困難であることから、工業的には使用し難いことが知られている(特許文献3)。さらに、特許文献3には、クライゼン転位において、エチレングリコールを溶媒として用いると、極性の高い物質が生成するため、当該溶媒を用いて反応させることはなるべく避ける旨も開示されている。
【0006】
このように、ジアリルビスフェノール類の製造においては、一般的に、アリル化反応は極性溶媒中で、転位反応は非極性溶媒中で実施している場合が多く、溶媒を切換える作業や両方の溶媒を管理する作業、貯蔵容器を別々に設置する必要があるなど、経済的に課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−089090号公報
【特許文献2】特開昭60−169456号公報
【特許文献3】特開昭62−053957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記問題点を鑑みてなされたものであり、高品質のジアリルビスフェノール類を、高収率で提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ジアリルビスフェノール類の製造において、セロソルブ系溶媒を用いて、アリル化反応とクライゼン転位反応を一貫して行うことにより、高品質及び高収率でジアリルビスフェノール類が得られることを見出した。かかる知見に基づきさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記のジアリルビスフェノール類の製造方法を提供する。
【0011】
項1.ビスフェノール類から、ジアリルビスフェノール類を一貫製造する方法であって、下記(1)〜(3)の工程を含む方法。
(1)ビスフェノール類又そのアルカリ金属塩とハロゲン化アリルとを、塩基性アルカリ金属塩の存在下又は不存在下で、セロソルブ系溶媒中で反応させる工程、
(2)工程(1)で得られた反応液から副生無機塩を分離する工程、
(3)工程(2)で得られた反応液を加熱し、転位反応を行う工程。
【0012】
項2.工程(2)および/または工程(3)において、セロソルブ系溶媒を回収し、回収したセロソルブ系溶媒の少なくとも一部を、反応溶媒として再利用する工程を含む、項1に記載の方法。
【0013】
項3.セロソルブ系溶媒が、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル及びエチレングリコールモノブチルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種である、項1又は2に記載の方法。
【0014】
項4.ビスフェノール類が、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホンである、項1〜3のいずれかに記載の方法。
【0015】
項5.工程(2)において、副生無機塩を分離し、得られた反応液を中和する工程を含む、項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、製造途中で粉体のビスフェノールジアリルエーテルを取り出すことがないため、ビスフェノールジアリルエーテルのろ液中へのロスを防ぎ、高収率でジアリルビスフェノール類を得ることができる。
【0017】
また、ビスフェノールジアリルエーテルを粉体化せず、溶液状態で取り扱うことにより、粉体化に係わる設備が不要になるだけでなく、ポンプで移送できるなど、ハンドリングが非常に容易となり、製造設備を非常に簡略化することが可能となる。
【0018】
さらに、アリル化と転位反応を共通の溶媒で実施することにより、溶媒を切換える作業や両方の溶媒を管理する作業、貯蔵容器を別々に設置する必要がなくなり、製造工程や使用設備の削減が可能となるため、工業的製造に適している。
【0019】
加えて、転位反応後、後処理工程のために温度を下げる際、溶媒の蒸発潜熱を利用して、反応溶媒を回収することが可能になることから、各工程で回収された溶媒を再使用できるという、合理的かつ省エネルギーな製造プロセスとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0021】
本発明において、ビスフェノール類からジアリルビスフェノール類を一貫製造する方法とは、下記(1)〜(3)の工程を含む方法である。
(1)ビスフェノール類又そのアルカリ金属塩とハロゲン化アリルとを、塩基性アルカリ金属塩の存在下又は不存在下で、セロソルブ系溶媒中で反応させる工程、
(2)工程(1)で得られた反応液から副生無機塩を分離する工程、
(3)工程(2)で得られた反応液を加熱し、転位反応を行う工程。
【0022】
以下、各工程毎にそれぞれ説明する。
1.工程(1)について
上記工程(1)は、例えば、オートクレーブ等の密閉容器に、セロソルブ系溶媒、出発物質のビスフェノール類またはそのアルカリ金属塩、必要に応じて塩基性金属化合物および水を仕込み、好ましくは加温下に、ハロゲン化アリルを滴下し、所定時間反応させることによって行われる。
【0023】
前記出発物質のビスフェノール類としては、下記一般式(1)
【0024】
【化1】
(式中、Aは単結合、−CH2−、−S−、−SO2−、−C(CH3)2−、または
【0025】
【化2】
を示す。ベンゼン核はさらに置換されていてもよい。)
で表される化合物が挙げられる。工業的には、4,4’−位に水酸基を有する化合物が特に重要である。
【0026】
具体的には、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」ともいう)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(以下、「ビスフェノールC」ともいう)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(以下、「ビスフェノールF」ともいう)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン(以下、「ビスフェノールS」ともいう)、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン等が挙げられる。
【0027】
前記出発物質のビスフェノール類のアルカリ金属塩としては、上記一般式(1)において、−OH基のHがアルカリ金属で置換されたものが挙げられる。アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム等が好ましい。ビスフェノール類のアルカリ金属塩は、モノアルカリ金属塩でもジアルカリ金属塩でもよい。ビスフェノール類のジアルカリ金属塩を出発物質として用いる場合には、後述する塩基性アルカリ金属化合物が不要となる場合がある。
【0028】
本発明に用いられる上記一般式(1)で表されるビスフェノール類およびそのアルカリ金属塩は、公知の方法によって製造された粉体または湿ケーキのいずれの形態でもよい。
【0029】
本発明におけるハロゲン化アリルとしては、アリル基のα、β、γ位に置換基が導入された化合物も含まれる。当該置換基としては、炭素数1〜20のアルキル基、芳香族基等が挙げられる。当該ハロゲン化アリルの具体例としては、アリルクロライド、アリルブロマイド、アリルアイオダイド、クロチルクロライド、クロチルブロマイド、シンナミルクロライド、シンナミルブロマイド等が挙げられる。
【0030】
前記セロソルブ系溶媒としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等が例示される。これらの中では、エチレングリコールモノブチルエーテルが好ましい。これらを混合して使用することもできる。また、水を含んでいても良い。
【0031】
前記塩基性アルカリ金属化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ金属化合物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸アルカリ金属化合物等が挙げられる。塩基性アルカリ金属化合物の使用量は、通常、ビスフェノール類に対して1.5〜4倍モル、好ましくは2〜3倍モルである。なお、出発物質としてビスフェノール類のジアルカリ金属塩を用いる場合には、塩基性アルカリ金属化合物を用いなくてもよい場合がある。この塩基性アルカリ金属化合物は、1種単独または2種以上を組み合わせて用いられる。
【0032】
本発明の反応における、ビスフェノール類またはそのアルカリ金属塩と、ハロゲン化アリルとのモル比率は、1:2〜1:5の範囲であり、好ましくは1:2〜1:4の範囲である。
【0033】
前記反応温度は、50〜150℃の範囲であり、好ましくは80〜120℃の範囲である。
【0034】
前記反応時間は、1〜20時間の範囲であり、好ましくは2〜10時間の範囲である。圧力は、0〜1MPaG(Gはゲージ圧を示す)の範囲であり、好ましくは0〜0.3MPaGの範囲である。
【0035】
2.工程(2)について
前記工程(2)は、公知の方法で、反応液から副生無機塩を分離する工程である。例えば、前記工程(1)で得られた反応生成物に、過飽和となって析出する副生無機塩(例えば、ハロゲン化アルカリ金属)を溶解するに十分な量の水又は温水を加えて、副生無機塩を溶解させ、次いで静置し、ビスフェノールジアリルエーテルが含まれるセロソルブ系溶媒層と、副生無機塩が含まれる水層と分液し、当該水層を分離除去することによって行われる。
【0036】
なお、本発明の方法においては、ビスフェノール類またはそのアルカリ金属塩とハロゲン化アリルとを反応させて得られた反応生成物を含む反応液(反応系)に、水または温水を加えて副生無機塩を溶解させる際に、以下の前処理を行うことができる。
【0037】
すなわち、得られた反応液に、必要に応じて水を加えながら加熱蒸留することにより、反応液から、未反応原料であるハロゲン化アリル(例えば、アリルクロライド)および/または副生物であるアルコール類(例えば、アリルアルコール)等を、溜出させて分離することができる。ここで得られた溜出液は、さらに、未反応原料であるハロゲン化アリルおよびセロソルブ系溶媒を含む有機層と、副生物であるアルコール類および水を含む水層に分液する。そして、当該有機層(ハロゲン化アリルおよびセロソルブ系溶媒を含む有機層)は、少なくともその一部を反応系にリサイクル使用(再利用)することができる。
【0038】
このようにして、副生無機塩を分離したアリル化反応液を、次の転位反応に供することができる。
【0039】
また、本発明の方法においては、前記水層(副生無機塩を含む水溶液層)と前記有機層(ビスフェノールジアリルエーテル類を含むセロソルブ系溶媒層)の分液分離後、当該有機層に少量含まれている水を分離除去し、その後有機層に析出する副生無機塩を除去してから、次の転位反応に供することが好ましい。
【0040】
この有機層に含まれている水を分離除去するには、乾燥剤を投入して濾過するなど種々の方法が考えられるが、蒸留によって、水を分離除去する方法が好ましい。そして、当該分離除去された水には、少量のセロソルブ系溶媒が含まれており、この少なくとも一部を、そのまま反応系にリサイクル使用(再利用)することができる。
【0041】
前記水が分離除去された後に、前記有機層に析出する副生無機塩は、熱濾過(熱時濾過)や、デカンテーションなどにより、容易に除去することができる。
【0042】
さらに、本発明の方法においては、前記有機層(ビスフェノールジアリルエーテル類を含むセロソルブ系溶媒層)中に含まれる無機塩をより確実に取り除くために、水層と分離後の当該有機層に、中和処理を施してから、上記手順に従い、有機層に含まれる水を分離除去し、析出した副生無機塩を除去してもよい。
【0043】
前記中和処理としては、従来公知の方法を用いることができる。例えば、塩酸や希硫酸等の中和剤を有機層に加え、0〜100℃で0.1〜20時間程度攪拌する方法が挙げられる。
【0044】
このように、得られた有機層(セロソルブ系溶媒層)に、必要に応じて中和処理を行い、水を除去した後、熱濾過等により析出した副生無機塩を除去することにより、次の転位反応に供するビスフェノールジアリルエーテル類(例えば、4,4’−ジアリルオキシジフェニルスルホン)を得ることができる。
【0045】
3.工程(3)について
前記工程(3)は、転位反応工程であり、例えば、工程(2)で水層を分離して得られた有機層を、加熱下に、所定時間反応させることによって行われる。
【0046】
本発明の転位反応温度は、150〜250℃の範囲であり、好ましくは、190〜220℃の範囲である。
【0047】
前記反応時間は、0.1〜100時間の範囲であり、好ましくは、1〜20時間の範囲である。
【0048】
また、前記転位反応は、常圧でも、加圧下でも行うことができる。
【0049】
上記転位反応は、必要に応じて、アミン化合物や酸化防止剤を添加して行うこともできる。
【0050】
前記アミン化合物としては、特に制限はなく、例えば、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジメチルアミノピリジン、ベンゾトリアゾール、ジエチレントリアミン、N,N−ジメチルベンジルアミンなどを挙げることができる。これらのアミン化合物は、1種単独で用いてもよく、あるいは、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
前記酸化防止剤としては、特に制限はなく、例えば、ヒドロキノンモノメチルエーテル、ヒドロキノンモノエチルエーテル、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン、2,2'−メチレンビス(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタンなどのフェノール系酸化防止剤、3,3'−チオジプロピオン酸ジドデシル、3,3'−チオジプロピオン酸ジテトラデシル、3,3'−チオジプロピオン酸ジオクタデシルなどの硫黄系酸化防止剤、亜リン酸トリフェニル、亜リン酸ジフェニルイソデシル、亜リン酸トリス(ノニルフェニル)などのリン系酸化防止剤などを挙げることができる。これらの酸化防止剤は、1種単独で用いることもできるし、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0052】
前記ビスフェノールジアリルエーテル類の加熱転位反応後、反応溶媒であるセロソルブ系溶媒を、常圧及び/又は減圧下で溜去することにより、回収することができる。そして、当該回収されたセロソルブ系溶媒は、そのまま少なくともその一部を反応系にリサイクル使用(再利用)することができる。
【0053】
前記溶媒溜去の際、反応混合物は、当該溶媒の蒸発潜熱により、後処理に適した温度にまで冷却することができる。後処理工程に適した温度(約0〜150℃程度)にまで冷却された当該反応混合物は、アルカリ水溶液を加えて、アリル化ビスフェノール類を溶解させ、少量含有されているセロソルブ系溶媒を、溜去することができる。そして、当該溜去されたセロソルブ系溶媒は、そのまま少なくともその一部を反応系にリサイクル使用(再利用)することができる。
【0054】
前記共沸物が除去された反応物は、さらに溶剤抽出や、洗浄、酸析、再結晶、活性炭精製などの通常の精製操作により精製される。これにより、高品質のジアリルビスフェノール類を、高収率で得ることができる。
【実施例】
【0055】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定して解釈されるものではない。
【0056】
なお、実施例および比較例における生成物の含有量は、以下の条件で測定、分析し、算出した。
【0057】
装置:島津(株)製 LC−10システム
カラム:YMC-Pack ODS-A312(6.0φ×150mmL)
移動相:アセトニトリル/蒸留水=50/50
流 量:1.0ml/min.
検出器:UV 254nm
溶出時間:4,4’ -ジアリルオキシジフェニルスルホン=30分
ビス(3-アリル-4-ヒドロキシフェニル)スルホン=9分
【0058】
ただし、実施例3については、以下のとおりに条件を変更した。
【0059】
移動相:アセトニトリル/蒸留水=80/20
検出器:UV 280nm(転位反応時)
溶出時間:2,2-ビス(4-アリルオキシフェニル)プロパン=14分
2,2’ -ビス(3-アリル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン=9分
【0060】
また、エチレングリコールモノブチルエーテルについては、以下の条件で測定、分析し、算出した。
【0061】
装置:島津(株)製 GC−2010
カラム:TC−WAX (0.25mmφ×30m 膜厚0.25μm)
キャリアガス:窒素 30ml/min
カラム温度:90℃〜250℃ 10℃/min
検出器:FID 250℃
溶出時間:エチレングリコールモノブチルエーテル=9分
【0062】
実施例1
攪拌機を備えたオートクレーブに、エチレングリコールモノブチルエーテル3800gおよび水500gを入れて混合し、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン(以下、ビスフェノールS)1000g(4.0モル)、水酸化ナトリウム288g(7.2モル)および炭酸ナトリウム170g(1.6モル)を順次加えた。次いで、アリルクロライド670g(8.8モル)を加えて密閉状態とし、95〜100℃で5時間加熱攪拌して反応させた。
【0063】
反応終了後、圧抜きし、さらに反応液を加熱して、未反応のアリルクロライドなどを溜去した。当該溜出液は、上層と下層に分液した。上層(回収溶媒A)には、165gのエチレングリコールモノブチルエーテルが含まれていた。
【0064】
上記溜去後の釜残反応液を100℃まで冷却した後、水1300gを投入し、攪拌して副生無機塩を溶解させ、分液して下層(水層)を抜き出した。
【0065】
下層は1900gであり、主成分として無機塩類(塩化ナトリウム)を約30重量%含有し、エチレングリコールモノブチルエーテルを0.3重量%含有する水溶液であった。当該下層から、4,4’−ジアリルオキシジフェニルスルホン(以下、ビスフェノールSジアリルエーテル)は検出されなかった。
【0066】
上層(有機層)は、ビスフェノールSジアリルエーテルのエチレングリコールモノブチルエーテル溶液で、水分が約5%、Na含量が約1000ppmであった。また、HPLC組成比(面積百分率)は、ビスフェノールSジアリルエーテル97.1%、ビスフェノールS 0.2%、4−ヒドロキシフェニル−4’−アリルオキシフェニルスルホン(以下、ビスフェノールSモノアリルエーテル)0.7%であった。
【0067】
当該上層(有機層)に、35%塩酸19g(0.2mol)を加え、1時間攪拌した後、常圧下で蒸留し、393gの溜出液を除去した。この溜出液(回収溶媒B)は、45gのエチレングリコールモノブチルエーテルを含有していた。
【0068】
前記蒸留後の釜残反応液を熱濾過し、不溶分を除去した。熱濾過後の反応液(ろ液)中には、Na分が30ppm含まれており、ビスフェノールSジアリルエーテルの含有量から算出した収率は97%であった。
【0069】
前記熱濾過後の反応液(ろ液)と、N,N−ジメチルアニリン0.13g、ヒドロキノンモノメチルエーテル0.13gを、オートクレーブに仕込み、密閉状態(0.2MPaG)で205〜215℃にて7時間、加熱転位反応を行った。加熱転位反応後の反応液のHPLC組成比(面積百分率)は、ビス(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン92.0%、モノアリル体2.9%、モノ転位体0.9%、その他4.2%であった。
【0070】
この反応液における溶媒であるエチレングリコールモノブチルエーテルを、常圧および減圧下で溜去することにより冷却し、3420gを回収した。当該回収した溜出液(回収溶媒C)は、GC組成比(面積百分率)99.5%がエチレングリコールモノブチルエーテルであった。
【0071】
上記溜去後の釜残反応液が100℃程度になったところで、当該反応液に水3500gおよび13重量%水酸化ナトリウム水溶液1766gを添加して攪拌し、常圧下にて加熱蒸留して、残存するエチレングリコールモノブチルエーテルを水との共沸により取り除いた。共沸による溜出液は1300g(回収溶媒D)であり、170gのエチレングリコールモノブチルエーテルを含有していた。
【0072】
前記蒸留後の釜残反応液を四ツ口フラスコに移し、さらに水を添加した後、活性炭処理を行い、25重量%硫酸を用いて目的物を酸析した。得られた結晶を濾別し、水洗した後、乾燥して、ビス(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン精製品1114g(ビスフェノールSに対する収率:84.4%)を得た。得られたビス(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン精製品のHPLC組成比(面積百分率)は、97.3%、融点は154〜155℃であった。
【0073】
実施例2
実施例1における回収溶媒A〜Cの全量と、回収溶媒D182gとの混合物に、145gのエチレングリコールモノブチルエーテルを追加し、ビスフェノールS、水酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウムを実施例1と同様に順次加え、同様に反応および後処理を行ったところ、ビス(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン精製品1117g(ビスフェノールSに対する収率:84.5%)を得た。得られたビス(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン精製品のHPLC組成比(面積百分率)は、97.1%、融点は154〜155℃であった。
【0074】
実施例3
攪拌機を備えたオートクレーブに、エチレングリコールモノブチルエーテル356gおよび水19gを入れて混合し、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、ビスフェノールA)150g(0.657モル)、水酸化ナトリウム53g(1.325モル)および炭酸ナトリウム14g(0.132モル)を順次加えた。次いで、アリルクロライド121g(1.581モル)を加えて密閉状態とし、100〜105℃で8時間加熱攪拌して反応させた。
【0075】
反応終了後、実施例1と同様にアリルクロライドを溜去し、水分液を行い、中和後、熱濾過処理を行い、ビスフェノールAジアリルエーテルのエチレングリコールモノブチルエーテル溶液を得た。この反応液はNa含量が約10ppmであった。また、HPLC組成比(面積百分率)は、2,2−ビス(4−アリルオキシフェニル)プロパン95.0%、ビスフェノールA 0.2%、4−ヒドロキシフェニル−4’−アリルオキシフェニルプロパン(以下、ビスフェノールAモノアリルエーテル)2.2%であった。ビスフェノールAジアリルエーテルの含有量から算出した収率は95%であった。
【0076】
前記熱濾過後の反応液(ろ液)をオートクレーブに仕込み、密閉状態(0.1MPaG)で195〜200℃にて7時間、加熱転位反応を行った。その後、エチレングリコールモノブチルエーテルを、150℃減圧下で溜去することにより、2,2’−ビス(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、ジアリル−ビスフェノールA)を166g(ビスフェノールAに対する収率:82%)得た。得られたジアリル−ビスフェノールAのHPLC組成比(面積百分率)は、92.0%であった。
【0077】
比較例1
ビスフェノールSのアリル化を行い、得られた反応液(釜残)について、分液して下層(水層)を抜き出すところまでは、実施例1と同様に行った。
【0078】
上層(有機層)を熱濾過し、不溶分を除去した。熱濾過後の反応液(ろ液)中には、Na分が1000ppm含まれていた。この反応液(ろ液)を冷却、晶析して濾過・洗浄した後に乾燥し、ビスフェノールSジアリルエーテル1200gを粉体で得た。収率は90.9%であった。
【0079】
得られたビスフェノールSジアリルエーテル1200gと、ダイアナフレシアW-8(パラフィンオイル)800g、灯油800g、N,N−ジメチルアニリン0.13g、ヒドロキノンモノメチルエーテル0.13gおよび98%硫酸0.04gを、フラスコに仕込み、窒素気流下で205〜215℃にて常圧で7時間加熱転位反応を行った。加熱転位反応後の反応物のHPLC組成比(面積百分率)は、ジ転位体93.5%、モノアリル体0.8%、モノ転位体1.1%であった。
【0080】
この反応物を冷却して、13重量%水酸化ナトリウム水溶液1766gを添加して攪拌し、静置分離したのち、下層のアルカリ水溶液を四ツ口フラスコに仕込み、さらに水を添加した後、活性炭処理を行い、25重量%硫酸を用いて目的物を酸析した。得られた結晶を濾別し、水を用いて洗浄した後、乾燥して、ビス(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン精製品1045g(ビスフェノールSに対する収率:79.2%)を得た。得られたビス(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン精製品のHPLC組成比(面積百分率)は、97.5%であった。
【0081】
比較例2[特許文献2における実施例2の追試]
四つ口フラスコに、N,N−ジメチルホルムアミド4000g、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン(以下、ビスフェノールS)1000g(4.0モル)、炭酸カリウム608g(4.4モル)を順次加え、混合した。次いで、p-トルエンスルホン酸アリルエステル1780g(8.4モル)を加えて、110〜120℃で8時間加熱攪拌して反応させた。
【0082】
この反応液のHPLC組成比(面積百分率)は、ビスフェノールSジアリルエーテル98.5%、ビスフェノールS 0.1%、4−ヒドロキシフェニル−4’−アリルオキシフェニルスルホン(ビスフェノールSモノアリルエーテル)0.5%であった。
【0083】
反応終了後、さらに反応液を加熱し、未反応のアリルクロライドや溶媒のN,N−ジメチルホルムアミドなどを溜去しながら、200℃まで昇温した。その後、200〜220℃で6時間加熱転位反応を行った。
【0084】
加熱転位反応後の反応液のHPLC組成比(面積百分率)は、ビス(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン35.3%、モノアリル体8.6%、モノ転位体3.5%、その他成分が52.6%であった。
【0085】
この反応液に1,2,4−トリクロロベンゼン2400gを加え、30℃まで冷却したが、反応液から目的物は結晶化せず粒状の固体が析出した。
【0086】
比較例3[比較例1の転位反応に用いた溶媒でのアリル化反応]
攪拌機を備えたオートクレーブに、ダイアナフレシアW-8(パラフィンオイル)1900g、白灯油1900g、水500g、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン(以下、ビスフェノールS)1000g(4.0モル)、水酸化ナトリウム288g(7.2モル)および炭酸ナトリウム170g(1.6モル)を順次加え混合し、次いで、相間移動触媒としてテトラブチルアンモニウムクロライド50g(0.18モル)、アリルクロライド670g(8.8モル)を加えて密閉状態とし、95〜100℃で5時間加熱攪拌して反応させた。
【0087】
反応終了後、圧抜きし、さらに反応液を加熱して、未反応のアリルクロライドなどを溜去した。
【0088】
上記溜去後の反応液を100℃まで冷却した後、水1300gを投入し、攪拌して副生無機塩を溶解させたところ、目的物は粒状となり、分液下層(水層)に沈降していた。
【0089】
そのため、上記反応液を分液後、分液下層を濾過し、ビスフェノールSジアリルエーテル反応物を得た。該反応物のHPLC組成比(面積百分率)は、ビスフェノールSジアリルエーテル73.9%、ビスフェノールS 3.4%、4−ヒドロキシフェニル−4’−アリルオキシフェニルスルホン(ビスフェノールSモノアリルエーテル)10.2%、その他成分が12.4%と極めて低い純度であったため、後工程を中止した。