(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
導体の配線されている面を複数積層する基板のはんだ付けに用いられるソルダペーストであって、CuおよびSnからなる金属間化合物粉末と、Sn含有量が40〜100質量%である(ただし、Sn100質量%の場合を除く)Sn-Biはんだ粉末と、フラックス成分とから構成され、CuおよびSnからなる前記金属間化合物粉末と前記Sn-Biはんだ粉末とにおいて、CuおよびSnからなる前記金属間化合物粉末10〜65質量%および前記Sn-Biはんだ粉末30〜90質量%からなることを特徴とする、CuおよびSnからなる前記金属間化合物粉末と前記Sn-Biはんだ粉末のSnとの反応による新たな金属間化合物による、CuおよびSnからなる前記金属間化合物粉末の間に網目構造が形成されるはんだ継手形成用のソルダペースト。
請求項1〜3のいずれか1項に記載のソルダペーストに含まれるCuおよびSnからなる金属間化合物粉末と、CuおよびSnからなる前記金属間化合物粉末と前記ソルダペーストに含まれる前記Sn-Biはんだ粉末のSnとの反応による新たな金属間化合物とからなる網目構造を備え、新たな前記金属間化合物がCu6Sn5であることを特徴とする、導体の配線されている面を複数積層する基板に設けられたはんだ継手。
【背景技術】
【0002】
ノートブック型パーソナル・コンピュータや携帯電話等の民生用モバイル電子機器の普及に伴い、このような電子機器の小型化、高性能化への要求は高まっている。この要求に応えるため、近年では、プリント配線板の高密度化に加え、プリント配線板を複数層積層した積層基板が用いられている。
【0003】
積層基板は、各基板に設けられたビアホールにはんだなどの接合材料を充填し、加熱しながら加圧することにより、各基板を電気的に接合した基板である。基板の積層数が3層以上の場合、1層目と2層目との接合(1次リフロー)の際に接合材料によって形成された継手が、3層目との接合(2次リフロー)の際に溶融して流れだしてしまうと、接続短絡などの不良の原因となる。
【0004】
また、金属が流れださない場合でも、2次リフローの際に1次リフロー時に形成された継手が溶融してしまうと、接合箇所が破損し、基板の位置がずれてしまう等の不良が発生することがある。そのため、2次リフローの際に流れださないだけでなく、ある程度の接合強度も持つ継手を形成する接合材料が求められる。そこで、1次リフロー時に形成された継手は、その1次リフローのプロセス中に高温化(高融点化)して、2次リフローの際に再溶融しない接合材料が用いられている。
【0005】
例えば1次リフロー時の加熱温度と2次リフロー時の加熱温度が同じ250℃〜270℃の場合、1層目と2層目とを接合する接合材料は、1次リフロー時には溶融するものの、1次リフローにより形成された継手は2次リフローの最高温度である270℃でも溶融しないことが要求される。
【0006】
このような再溶融温度の高い接合材料として、特許文献1には、CuボールとSnボールとをフラックス中で混合したソルダペーストが開示されている。Snの融点以上の温度において、ソルダペーストはCuボールの一部とSnボールとからCu
6Sn
5を含む化合物を形成し、Cuボール同士はCu
6Sn
5を含む化合物により結合される状態となるため、再溶融温度が高くなる。この発明によれば、Snボールが融解したとき、SnはCuボールに濡れ拡がり、Cuボールの隙間を埋め、Cuボール間に比較的均一に存在することとなる。これにより、Cuボールの表面の少なくとも一部に融点が400℃以上を示すCu
6Sn
5が形成され、Cuボール同士がCu
6Sn
5により結合される、というものである。
【0007】
特許文献2、3には、ソルダペーストに予め金属間化合物粉末を配合することが開示されているが、同時に銅微粉末の配合も必須とされている。
【発明の概要】
【0009】
しかし、特許文献1、2,3に開示されたソルダペーストは、3か月程度の保存期間で経時変化を起こして、粘度が上昇してしまう。一般に、ソルダペーストがそのような経時変化を起こしてしまうメカニズムは、金属粉末中の金属元素がフラックス中の有機酸や活性剤により金属イオンとして溶出し、この金属イオンがフラックス中の有機酸や活性剤と反応して、それぞれ金属塩を生成してしまうことにある。
【0010】
特許文献1、2,3に開示されたソルダペーストには、SnとCuが金属粉末として添加されているが、特に、酸化したCuはフラックス中の有機酸や活性剤により還元されCuイオンとなり、さらにロジンや有機酸と反応してCuの金属塩となる。このような金属塩の生成により、ソルダペーストの粘性を高めて印刷性や保存性を意味する経時安定性を低下させたり、ソルダペーストの揮発成分とともに基板に残渣として残る場合には配線間の接続短絡を招く恐れがある。
【0011】
ソルダペーストの経時安定性を高めるための対策として、ソルダペーストに含まれるフラックス中のロジンや添加剤について、活性力が弱いものを選択することが考えられる。しかし、これはロジンや添加剤の選択の幅を狭めるものであり、場合によっては活性力の低下による濡れ性の大幅な低下を引き起こしてしまうことになると考えられる。
【0012】
ところで、近年の電子機器の小型化によって実装技術も高密度化され、プリント配線板の接続端子の大きさも小型化が進行している。このため、ソルダペーストの印刷領域も微小となり、隣接間隔も狭くなり、接続端子に印刷されるソルダペーストには優れた印刷性が要求されている。
【0013】
前述のように、Cuボール含有ソルダペーストは調製後、密閉容器に保存しても、3ケ月程度の保存期間で経時変化を起こして、粘度が上昇してしまう。また、ソルダペーストを収容する容器を開けて、はんだ付け作業に使用し始めると、容器内のソルダペーストは半日程度で経時変化がすすみ、粘度が増大してしまう。
【0014】
このように、Cuボールを含有するソルダペーストでは、保存中および使用中の経時変化が避けられない。
【0015】
従来の一般のソルダペーストには6ケ月の保証期間が与えられていることを考えると、Cuボールを含有するソルダペーストでも、3ケ月以上の保証期間が与えられることが望ましい。
【0016】
特に、保存期間中のかかる経時変化の問題は、今日のように微細回路に用いるソルダペーストの場合には顕著となる。つまり、メタルマスクの孔が約200μm以下と小さくなり、粒径25〜38μmといった、従来よりさらに細かいはんだ粒子が必要となってきている。そのため、はんだ粒子全体の表面積が大きくなり、このことがソルダペーストの経時変化に大きく影響していると思われる。
【0017】
したがって、近年のソルダペーストは、調製後に長期間保存しても経時変化が起きない保存性に加え、印刷時に酸化雰囲気にさらされても、増粘せずに安定して連続使用できる優れた印刷安定性、つまり連続印刷性を発揮でき、それを長期間維持することができる経時安定性が必要とされている。本明細書ではそれらをまとめて単に「経時安定性」とも云う。
【0018】
本発明の課題は、近年の電子機器の小型化に対応するため、特に積層基板の2次リフロー以降の加熱時に、1次リフローによって形成された継手が流れ出さず、常温下(25℃)および高温下(250℃)においてもCuボールを含有したソルダペーストと同等以上の高い接合強度を有し、且つCuボールを含有していない一般のソルダペーストと同等以上の良好な経時安定性を備えたソルダペーストを提供することである。
【0019】
本発明者らは、Cuイオンがフラックス中に溶出してCuの金属塩を形成しないようにするため、フラックスの成分ではなく、ソルダペースト中の金属粉末に着目した。具体的には、ソルダペーストに添加する金属粉末として、Cu粉末を添加するのではなく、代わりに、Snと予め反応させて金属間化合物としたCuSn金属間化合物粉末をソルダペーストに添加することに着目した。この結果、本発明者らは、「Cu粉末」ではなく、予めCuとSnを反応させた「CuおよびSnからなる金属間化合物粉末」をソルダペーストに添加することにより、Cuが単独で接合材料中に存在しないため、Cuイオンの溶出を抑制することができるとの着想を得た。
【0020】
つまり、本発明においては、Snベースはんだ粉末および金属間化合物粉末の混合物をフラックスに配合してソルダペーストとする。従来は、金属間化合物は濡れ性が悪いため、それを粉末にしてソルダペーストに配合しても、十分な接合強度をもつ継手が得られるとは考えられていなかった。
【0021】
しかし、本発明の場合、2次リフロー以降では250〜270℃という加熱温度ではんだ付けが行われるので、濡れ性の悪い点は不利とはならない。むしろ、CuおよびSnからなる金属間化合物粉末は、Cu粉末よりも酸化しにくいため、ペーストにした際の基板への濡れ性はより優れたものとなる。この点に関して、予想外にも、金属間化合物の場合、粉末化して表面積が大きくなっても酸化し難い、つまり表面に酸化物が形成され難い、という性質があるため、ソルダペーストとした場合でも、経時変化が少ないという利点があることを知った。さらに、ソルダペーストとした場合、Cu粉末やSn粉末などと比較して、表面に酸化物が形成され難いから、フラックスの効果が大きく現れ、濡れ性が大きく改善される。本来は濡れ性が悪いと考えられてきた金属間化合物粉末であるが、ソルダペーストに使用した場合には、むしろ濡れ性が改善されるのであって、このことは予想外の効果と言える。
【0022】
なお、従来にあっても、特許文献4、5が示すように、ソルダペーストに少量の金属間化合物を配合することは提案されているが、常温下での強度改善が目的であって、継手の溶融温度を高めるというものではない。この点に関し、継手の溶融温度を高める材料として特許文献6に開示されているものがあるが、この材料はCu粉にNiめっきをしている点で本発明のものとは組成が異なる
。
【0024】
(1)金属粉末成分とフラックス成分とから構成され、該金属粉末成分がCuおよびSnからなる金属間化合物粉末とSnを主成分とするはんだ粉末とからなり、該金属粉末成分が、前記金属間化合物粉末10〜70質量%および前記はんだ粉末30〜90質量%からなることを特徴とするソルダペースト。
【0025】
ここで、本発明において、「金属間化合物」とは、CuとSnとが所定の整数比で結合してできた化合物をいう。
【0026】
(2)前記金属粉末成分の平均粒径が50μm以下である上記(1)に記載のソルダペースト。
【0027】
(3)前記はんだ粉末中のSn含有量は40〜100質量%である、上記(1)または上記(2)に記載のソルダペースト。
【0028】
(4)前記はんだ粉末が、組成が異なる2種類以上のはんだ粉末の混合物である(1)〜(3)のいずれかに記載のソルダペースト。
【0029】
(5)(1)から(4)のいずれかに記載のソルダペーストを用いて形成されたことを特徴とするはんだ継手。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明に係るソルダペーストは、CuおよびSnからなる金属間化合物粉末、およびSnを主成分とするはんだ粉末からなる金属粉末成分を含有する。かかる金属粉末成分にはCu単相の成分は存在しない。
【0031】
まず、CuおよびSnからなる金属間化合物中には立方晶を形成するCu単相は存在しない。CuおよびSnからなる金属間化合物は、CuとSnとで六方晶を形成するため、Cu原子が金属間化合物中で比較的安定に存在する。
【0032】
また、一般に、Cu単相が存在するためには、金属間化合物またははんだ合金中に、Cuが常温で90質量%以上存在する必要があることが知られている。仮に、Snを主成分とするはんだ粉末がCuを含有する場合であっても、Cu含有量は最大でも60%未満のため、上記はんだ粉末にもCu単相が存在せず、六方晶であるSnとCuの金属間化合物として存在する。したがって、本発明で使用するはんだ粉末は立方晶であるCu単相より安定な組織である。
【0033】
つまり、本発明のソルダペーストを構成する金属間化合物粉末中およびはんだ粉末中のCuは、Cu単相中のCuよりも安定に存在する。したがって、本発明に係るソルダペーストは、接合材料中にCuイオンが溶出することが極めて少ないため、フラックス成分と反応してCuの金属塩がほとんど形成されることがなく、優れた経時安定性を有する。
【0034】
また、本発明に係るソルダペーストと基板の接続端子とで継手を形成する際に、CuおよびSnからなる金属間化合物粉末とはんだ粉末のSnとが反応し、この反応により金属間化合物粉末間および金属間化合物粉末と接続端子との間に金属間化合物の網目構造が形成される。つまり、はんだ粉末中のSnが新たなCu
6Sn
5の網目構造を形成するため、高温での接合強度が高まる。そのため、本発明に係るソルダペーストを用いて形成された継手は、形成された金属間化合物の融点が高いことから、2次リフロー以降の加熱時において、継手から金属が流れ出さず、且つ高い接合強度を有する継手を形成することが可能となる。
【0035】
さらに、経時安定性の問題から従来使用できなかった活性力が強いロジンや添加剤を使用できるようになり、ソルダペーストの濡れ性の向上及び新たな金属間化合物の形成による網目構造の形成を促進し、その結果、接合強度のさらなる向上も見込むことができる。
【0036】
以下に、本発明に係るソルダペーストを構成する金属間化合物粉末およびはんだ粉末について説明する。
【0037】
・金属間化合物粉末
本発明に係るソルダペーストで使用する金属間化合物粉末は、CuおよびSnからなり、CuがSnと金属間化合物を形成しているため、Cu単相が存在しない。これにより、ソルダペーストとしたときのフラックス中へのCuイオンの溶出がほとんどなく、優れた経時安定性を有する。
【0038】
本発明において、上記金属間化合物の配合割合は、金属粉末成分に対する割合として10〜70質量%であり、好ましくは、15〜65質量%、より好ましくは、20〜50質量%である。
【0039】
本発明に係るソルダペーストを用いて形成された継手は、リフロー時の加熱により金属間化合物の網目構造が形成される。一般に金属間化合物は融点が高いため、本発明に係るソルダペーストが1層目の基板と2層目の基板との接合に用いられた場合、3層目以降の基板を接合する温度である250℃〜270℃下で、継手から金属が流れ出さず、高い接合強度が得られる。
【0040】
Cuを粉末中に安定に存在させるため、金属間化合物粉末中のSnとCuとの質量比は、好ましくは8:2〜1:9の範囲であり、より好ましくは7:3〜2:8であり、特に好ましくは6:4〜3:7であり、最も好ましくは6:4〜4:6である。この質量比において形成される金属間化合物としては、例えば、Cu
3SnおよびCu
6Sn
5が挙げられる。これらは、融点が400℃以上を示すため、継手がこれらの金属間化合物で構成されると、再溶融温度が高まり、複数回加熱されることを前提に使用することが可能となる。
【0041】
本発明に係るソルダペーストは、金属間化合物としてCu
3Snを含有することが好ましい。ソルダペースト中にCu
3Snが存在していると、リフローによるはんだ継手形成時に、はんだ中のSnと金属間化合物粉末中のCu
3Snが反応し、Cu
3Snの一部がCu
6Sn
5に変化して、この新たに形成されたCu
6Sn
5が、予め添加されていた金属間化合物粉末の間および接続端子と金属間化合物粉末との間でCu
6Sn
5の網目構造を形成するためである。
【0042】
また、本発明のソルダペーストによって形成されたはんだ継手中のCu
3SnとCu
6Sn
5との含有比は、好ましくは48:1〜13:33である。この範囲であると、継手の接合強度が高い値を示す。
【0043】
なお、本発明の「Cu
3SnとCu
6Sn
5との含有比」は、金属間化合物全体でのCu
3SnとCu
6n
5との含有比を表す。
【0044】
金属間化合物粉末の平均粒径は、ソルダペーストとして使用するためには好ましくは50μm以下である。しかし、本発明は、すでに述べたように、従来のソルダペーストにおいて微細粉とするときの経時変化を阻止するという課題を解決するために提案されているものであり、微細構造用のはんだ付けに用いられる場合を考慮すれば、平均粒径は、好ましくは40μm以下、より好ましくは30μm以下である。下限は特に制限されない。なお、製造上の理由から、通常、粒径は0.1μm以上(D=50%値)である。
【0045】
本発明では、前述の金属間化合物粉末の表面に、Cu以外の1種以上の金属元素からなる金属めっきが被覆されていてもよい。金属間化合物粉末の表面に金属めっきが被覆されていると、はんだ粉の溶融前にはんだ粉と金属間化合物粉が反応することを防止できる。そのため、はんだ継手のボイドの発生抑制や凝集率の改善を図ることができる。経時安定性も著しく改善される。
【0046】
金属間化合物粉末に対するめっき材料として、Cu以外の金属元素としてはSnやNi等が挙げられる。
【0047】
金属めっきは、電解めっきや、無電解めっきなどの従来の周知の方法で形成することができる。金属めっきの膜厚は、特に制限されないが、一般には、0.01〜10μmが考えられる。好ましくは、0.1〜3μmである。
【0048】
・はんだ粉末
本発明で使用するはんだ粉末は、基板の接続端子と金属間化合物粉末との接合や金属間化合物粉末間の接合に用いられる。
【0049】
本発明において、Snを主成分とするはんだ粉末の、金属粉末成分に対する割合は、30〜90質量%であり、好ましくは、40〜85質量%であり、さらに好ましくは50〜80質量%である。
【0050】
本発明において、「Snを主成分とする」とは、はんだ粉末中のSnの含有量が40〜100質量%であることをいう。Snを主成分とするのは、一般に基板の接続端子に用いられる材質がCuであり、本発明で使用する金属間化合物粉末と接続端子との間に金属間化合物の網目構造を形成させるためである。また、Snの含有量が40〜100質量%であると、仮にはんだ粉末の合金組成がCuを含有する場合であっても、Cu単相が存在しない。
【0051】
ここで、本発明において、「はんだ」とは、材料間の接合に用いる金属や合金であり、実装時のピーク温度が270℃以下でリフローを行えるものをいう。
【0052】
はんだ粉末の組成としては、Sn、Sn−Ag−Cu、Sn−Bi、Sn−In、Sn−Ag、Sn−Cu、Sn−Sb、Sn−Niなどが挙げられる。また前記各組成には、強度や濡れ性向上のため、Ag、Cu、Bi、In、Ni、Co、Sb、Ge、Ga、P、Fe、Zn、Al、Tiの中から添加されていない元素を少なくとも1種以上選択して、各元素をそれぞれ5質量%以下添加してもよい。
【0053】
さらに、はんだ粉末の表面に、Sn、Ag、Cu、Bi、In、Ni、Co、Sb、Ge、Ga、P、Fe、Zn、Al、Tiのうち少なくとも1種以上からなる、はんだ粉末の組成とは異なる、Cu単体以外の金属または合金を1層以上被覆してもよい。
【0054】
また、本発明のソルダペーストを構成するはんだ粉末は、組成や粒径の異なる2種以上のはんだ粉末の混合物を使用してもよい。
【0055】
はんだ粉末の平均粒径は、ソルダペーストとして使用されているものでは50μm以下である。本発明においてもはんだ粉末の粒径はそのような従来のものであればよく、特に制限はない。なお、現在、製造上の理由から、粒径の下限は0.1μm(D=50%値)程度である。
【0056】
また、本発明にかかる金属間化合物粉末はCu
3SnおよびCu
6Sn
5のうち1種以上からなり、金属間化合物粉末が前述の含有比を満たす場合、本発明に係るソルダペースト中に存在するSnの含有量と、Cu
3Snの含有量およびCu
6Sn
5の含有量との含有比は、下記式を満たすことが好ましい。
【0057】
(Snの含有量)/(Cu
3Snの含有量とCu
6Sn
5の含有量の合計量)≧1/10・・・式
これを満たす接合材料を用いて継手を形成すると、高温での接合強度が高まる。
【0058】
本発明では、はんだ粉末や金属間化合物粉末に低α線材料を使用することにより、低α線の接合材料が得られる。この接合材料をメモリ周辺の接合に使用することにより、ソフトエラーを防止することが可能となる。
【0059】
本発明において使用するフラックスは、一般にソルダペースト用に用いるものであれば特に制限されない。したがって、一般的に用いられるロジン、有機酸、活性剤、そして溶剤を適宜配合したものを使用すればよい。なお、本発明の場合、Cuが金属単体として含有されることはなく、Cuイオンの溶出により経時安定性が損なわれることはないから、フラックスの活性成分を通常より多くしても、あるいは慣用のものより強力な活性剤を使用してもよいという利点がある。
【0060】
本発明において金属粉末とフラックス成分との配合割合は特に制限されないが、好ましくは、金属粉末成分:80〜90質量%、フラックス成分:10〜20質量%が好ましい。
【0061】
このようにして調製された本発明に係るソルダペーストは、微細構造の回路基板に、例えば、印刷法により、ディスペンサを用いた吐き出し法により、あるいは転写ピンによる転写法により、はんだ付け部に付着させ、リフローを行うことができる。その場合、CuボールおよびCu粉末を含有していない一般のソルダペーストと同等以上の経時安定性を実現することが可能となる。
【0062】
本発明においてはんだ付け温度、つまり、リフロー温度は、特に制限されないが、例えば250〜270℃の温度ではんだ付けが行われれば、特に問題はない。
【実施例】
【0063】
表1に示す組成割合のはんだ粉末と金属間化合物粉末とを含有する実施例のソルダペースト、および、同じく表1に示すはんだ粉末と、金属間化合物粉末と、そしてCu粉末とを適宜組み合わせて含有する比較例のソルダペーストを調製し、それぞれについて、常温、高温での接合強度、はんだ付け部の外観の色、そして粘度変化によって評価される経時安定性を調査した。本例における金属粉末成分とフラックス成分との配合割合は、金属粉末成分88質量%、フラックス成分12質量%であった。ただし、比較例4では金属粉末成分80質量%、フラックス成分20%であった。
【0064】
本実施例によるソルダペーストの作製方法、各特性の評価方法は以下の通りである。
【0065】
・ソルダペーストの作製方法
実施例のソルダペーストを以下のように作製した。まず、平均粒径が20μmであるSn粉末(はんだ粉末)およびSnを主成分とする各はんだ粉末と、平均粒径が20μmであるSnの含有量がCuに対して23〜68質量%の間で適宜選択したCuおよびSnからなる金属間化合物粉末とを、表1に示す割合となる量だけ用意し、それらの金属粉末を、千住金属製SDC5(商品名)のペースト状ロジン系フラックス中に浸漬し、5分間混練して実施例のソルダペーストを作製した。フラックスの割合はソルダペースト全体の質量に対して12質量%となるように調整した。
【0066】
比較例のペーストについては、実施例のソルダペーストと同様にして調製したが、比較例3のCu粉末は、平均粒径が7.5μmである福田金属箔粉工業製Cu粉末を、比較例4のCu粉末は、特許文献2に合わせて平均粒径が0.3μmであるCu粉末を使用した。
【0067】
このようにして得られたソルダペーストを使って、下記要領でリフローはんだ付けを行った。リフロー温度は250℃であった。
【0068】
・接合強度の評価
各ソルダペーストを使って、3216サイズのチップ抵抗をリフローはんだ付けで基板に実装した。
【0069】
レスカ社製の継手強度試験機STR−1000を使用して、常温時(25℃)と高温時(250℃)の2種類の温度条件下で、チップ抵抗と基板との継手部のシェア強度を測定し、接合強度とした。シェア強度の試験条件は、シェア速度が常温時:毎分6mm、高温時:毎分24mm、試験高さが常温時、高温時共に100μmとした。そして、各ソルダペーストにつき10回シェア強度を測定し、その平均を算出した。常温時での試験では、本発明の継手を有する実装品が稼働する場合を想定して、衝撃等で破損しないように、平均値が20.0Nを超えたものが「合格」である。一方、高温時での試験では、本発明の継手を有する電子部品の製造時を想定して、2次リフロー以降の加熱時に継手が流れ出したり、搭載した部品がずれたりしないように、平均値が0.0Nを超えるものが「合格」である。
【0070】
・経時安定性の評価
本試験では、経時安定性を評価するために、静的試験と動的試験とを行った。
【0071】
静的試験は、保存安定性を評価する試験である。具体的には、ビーカー内に、はんだ粉末とCu粉末または金属間化合物粉末と、ペースト用フラックスからチクソ剤を抜いたものとを入れて混錬する。その後、作成した各サンプルを35℃の状態で24時間放置し、外観目視により色の変化を確認した。もとの黄色から変色していないもの、あるいは多少変化しても黄緑色であったものを「○(良)」、そして緑色に変化したものを「×(不良)」とした。この試験は、経時安定性に影響を与えるCuイオンがフラックス中に溶け出し、緑青の生成を引き起こすかどうかを確認するものである。
【0072】
また、各ソルダペーストの製造直後の初期粘度と、0℃〜10℃で冷蔵保管6ケ月経過後に常温に戻した各ソルダペーストの経時後粘度とを、マルコム社製のPCU−205装置にて測定し、{(経時後粘度−初期粘度)/初期粘度×100}の計算式により粘度変化率を算出した。粘度変化率が初期粘度から±15%以内であるものを「合格」とした。
【0073】
動的試験は、実際の使用時の経時安定性を連続印刷性でもって評価する試験である。具体的には、作成したソルダペーストを印刷機にて最大24時間スキージにかけたときの粘度を8時間毎に測定し、前記静的試験と同様の手法により粘度変化率を算出し、粘度変化率が15%を超えた時間をもって、連続印刷性として評価した。試験装置も前記静的試験と同様の装置を使用した。
【0074】
これらの評価試験の評価結果を表1に示す。なお、表に示す各重量比は、ソルダペーストに対する質量%(wt%)である。
【0075】
【表1】
【0076】
表1に示すように、実施例のソルダペーストでは、フラックスの変色が一切見られなかったため、Cuイオンが経時安定性に影響を与えるほど溶出しなかったものと考えられる。粘度変化についても、保存性、連続印刷性のいずれにおいても、安定しており、したがって、実施例のソルダペーストは経時安定性に優れることがわかった。
【0077】
接合強度に関しても、常温で40N以上、高温で1.0N以上を示すなど、従来にない程度にまで改善されていることが分かる。
【0078】
一方、比較例のソルダペーストでは、フラックスが黄緑色に変色したため、Cuイオンが多量に溶出したと考えられる。したがって、比較例のソルダペーストは経時安定性が劣ることがわかった。また、比較例1では、金属間化合物粉末が5%と少ないため、経時安定性は確保されるが、250℃でははんだ継手の接合強度が保持できない。比較例2では、金属間化合物粉末が80%と多いため、Snはんだ粉末が少なく、十分な接合が行われない。比較例3はCu粉末を用いた例であり、粘度変化が大きい。比較例4は、金属間化合物粉末、Cu粉末、はんだ粉末の3種を含む例であり、粘度変化が著しい。