(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記リーディングエッジ側当接部は、翼幅方向の複数箇所に配置され、隣接する前記リーディングエッジ側当接部間は、前記接着剤充填部の一部を構成する接着剤溜りとして形成されている請求項1に記載の複合材翼。
前記接着剤充填部,前記リーディングエッジ側当接部及び前記翼面側当接部は、前記複合材翼本体のリーディングエッジ部に一体で形成されている請求項1又は2に記載の複合材翼。
【背景技術】
【0002】
上記したようなターボファンエンジンには、通常、エンジン本体内に空気を導入する動翼と、この動翼により導入した空気の流れを整流する静翼であるガイドベーンが備えられている。
【0003】
近年のターボファンエンジンの燃費向上を目的とした高バイパス比化の要求に応じるべく、ファン径を大きくする傾向にあり、これに伴って、ターボファンエンジンの軽量化を図ることが急務となっている。
【0004】
空気の流れを整流する静翼であるガイドベーンとしては、例えば、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂と炭素繊維等の強化繊維との複合材料を用いた複合材翼とすることでそれ自体の軽量化を図っている。このような複合材料を用いたガイドベーンの場合、金属製のガイドベーンと比べて耐摩耗性が劣ることから、特に摩耗し易いリーディングエッジ部(リーディングエッジ及びその近傍)にエロージョン防止用の金属シースを接着剤によって接合することで摩耗を回避するようにしている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0005】
このようなエロージョン防止用の金属シースは、エンジンに吸い込まれた小石等の異物が衝突することで損傷する、いわゆるFOD(Foreign Object Damage)を受ける場合があるが、異物の衝突時における金属シースの損傷を少なく抑えたり、FODを受けた金属シースの交換時に接着剤を剥がし易くしたりするために、接着剤として軟質接着剤を使用して金属シースを接合するようにしている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
このように、リーディングエッジ部に軟質接着剤を用いて金属シースを接合する場合には、軟質接着剤の塗布に際して軟質接着剤の層の厚みを均一に保つことが求められるが、軟質接着剤の厚さの均一化を図る技術としては、軟質接着剤の厚みと同じ高さのスタッドを軟質接着剤塗布面に形成する手法が知られている(例えば、特許文献4参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように、リーディングエッジ部に金属シースを接合するのに軟質接着剤を使用すると、小石等の異物が当たった際に金属シースが受けるダメージを少なく抑えることができるうえ、金属シースの交換作業の容易化を実現することができる。
【0009】
ところが、リーディングエッジ部に軟質接着剤を用いて金属シースを接合する場合には、軟質接着剤の塗布に際して軟質接着剤の層の厚みを均一に保ちつつリーディングエッジ部に対する金属シースの位置決めを行うことが難しく、したがって、リーディングエッジ部に対して金属シースを高精度で取り付けるためには、多くの手間暇がかかってしまうという問題があり、これを解決することが従来の課題となっている。
【0010】
本発明は、上記した従来の課題に着目してなされたもので、リーディングエッジ部に対する金属シースの取り付けを高精度で且つ簡単に行うことが可能な複合材翼を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂と強化繊維との複合材料から成る複合材翼本体と、前記複合材翼本体のリーディングエッジ部(リーディングエッジ及びその近傍)に軟質接着剤を介して接合されて該リーディングエッジ部を覆う金属シースを備えた複合材翼において、前記複合材翼本体のリーディングエッジ部には、前記軟質接着剤が充填される接着剤充填部と、前記金属シースのリーディングエッジに相当する湾曲部と当接するリーディングエッジ側当接部と、前記接着剤充填部に少なくとも必要量充填された軟質接着剤の層の厚みと同じ高さをもって前記金属シースの翼面に相当する平面部と当接する複数の翼面側当接部が形成されている構成としている。
【0012】
本発明に係る複合材翼では、その製造工程において、金属シースを複合材翼本体のリーディングエッジ部に軟質接着剤を介して接合する場合、リーディングエッジ部の接着剤充填部に軟質接着剤を必要量充填すると共に、金属シースの接合面に軟質接着剤を塗布した後、金属シースを複合材翼本体のリーディングエッジ部に嵌め込んでリーディングエッジ側当接部及び複数の翼面側当接部に押付ける。
【0013】
このとき、リーディングエッジ側当接部が金属シースのリーディングエッジに相当する湾曲部に当接すると共に、複数の翼面側当接部が接着剤充填部に少なくとも必要量充填された軟質接着剤の層の厚みと同じ高さをもって金属シースの翼面に相当する平面部と当接するので、すなわち、金属シースは、位置決めが成された状態で軟質接着剤の層に均一に接触することになるので、リーディングエッジ部に対する金属シースの取り付けが高精度で且つ簡単に行われることとなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、小石等の異物が金属シースに当たった際のダメージを少なく抑えると共に、金属シースの交換作業の容易化を実現したうえで、リーディングエッジ部に対する金属シースの取り付けを高精度で且つ簡単に行うことが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を図面に基づいて説明する。
図1〜
図5Aは本発明に係る複合材翼の一実施例を示しており、この実施例では、本発明に係る複合材翼がターボファンエンジンを構成する静翼としてのガイドベーンである場合を例に挙げて説明する。
【0017】
図1に示すように、ターボファンエンジン1は、前方(図示左方)の空気取り入れ口2から取り入れた空気を複数のファンブレード3aを有するファン3でエンジン内筒4内の圧縮機5に送り込み、この圧縮機5で圧縮された空気に燃料を噴射して燃焼室6で燃焼させ、これで生じる高温ガスの膨張により高圧タービン7及び低圧タービン8を軸心CL回りに回転させるようになっている。
【0018】
このターボファンエンジン1において、ファン3の複数のファンブレード3aを覆うナセル9の内周面とエンジン内筒4の外周面との間のバイパス流路上には、複数の静翼としてのガイドベーン10が配置されており、これらのガイドベーン10は、エンジン内筒4の周囲に等間隔に配置されていて、バイパス流路を流れる旋回空気流を整流するようになっている。
【0019】
このガイドベーン10は、
図2に示すように、複合材料から成る複合材翼本体11と、複合材翼本体11のリーディングエッジ部(リーディングエッジ及びその近傍)11Aを覆う金属シース12を備えている。
【0020】
複合材翼本体11は、エポキシ樹脂,フェノール樹脂,ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂又はポリエーテルイミド,ポリエーテルエーテルケトン,ポリフェニレンスルファイド等の熱可塑性樹脂と、炭素繊維,アラミド繊維,ガラス繊維等の強化繊維との複合材料を構成材料として、例えば、翼厚方向に積層されたり、三次元的に織込まれたりして形成される。
一方、金属シース12は、チタニウム合金製の肉厚0.2mm程度の薄板から成っている。
【0021】
複合材翼本体11のリーディングエッジ部11Aには、
図3にも示すように、軟質接着剤13が充填される接着剤充填部11aが形成されており、金属シース12は、複合材翼本体11のリーディングエッジ部11Aに軟質接着剤13によって接合されるようになっている。
【0022】
この場合、複合材翼本体11のリーディングエッジ部11Aには、
図4A,
図4B及び
図5Aにも示すように、金属シース12のリーディングエッジに相当する湾曲部12bと当接するリーディングエッジ側当接部11bと、金属シース12の翼面に相当する平面部12cと当接する翼面側当接部としての複数の突部11cが、接着剤充填部11aと一体に形成されている。
【0023】
複数の突部11cは、接着剤充填部11aに少なくとも必要量充填される軟質接着剤13の層の厚み(0.2mm程度)と同じ高さを有しており、したがって、リーディングエッジ側当接部11b及び複数の突部11cは、複合材翼本体11のリーディングエッジ部11Aに対する位置決めとして機能するようになっている。
【0024】
リーディングエッジ側当接部11bは、翼幅方向(
図3上下方向)の複数箇所に配置されており、互いに隣接するリーディングエッジ側当接部11b,11b間は、接着剤充填部11aの一部を構成する接着剤溜り11dとして形成されている。この接着剤溜り11dを挟んで隣接するリーディングエッジ側当接部11b,11b同士の間隔は、50〜100mmに設定してある。
【0025】
一方、翼面側当接部としての複数の突部11cは、直径5mm程度の円錐台形状を成しており、翼幅方向の複数箇所(
図3では2箇所のみ示す)において、この実施例では翼弦方向(
図3斜め横方向)に直線状に3個ずつ配置されていて、複数の突部11cの列同士の翼幅方向における間隔は、10〜50mmに設定してある。
【0026】
そして、このガイドベーン10において、複数のリーディングエッジ側当接部11b及び複数の突部11cを設けたことによる金属シース12との接着面積の減少率は、接着剤充填部11aの合計面積の5%以下に止めるようにしてある。
【0027】
この実施例によるガイドベーン10では、その製造工程において、金属シース12を複合材翼本体11のリーディングエッジ部11Aに軟質接着剤13を介して接合する場合、リーディングエッジ部11Aの接着剤充填部11aに軟質接着剤13を少なくとも必要量充填すると共に、金属シース12の接合面に軟質接着剤13を塗布した後、金属シース12を複合材翼本体11のリーディングエッジ部11Aに嵌め込んで複数のリーディングエッジ側当接部11b及び複数の突部11cに押付ける。
【0028】
このとき、複数のリーディングエッジ側当接部11bが、金属シース12の湾曲部12bと当接すると共に、複数の突部11cが、接着剤充填部11aに少なくとも必要量充填された軟質接着剤13の層の厚みと同じ高さをもって金属シース12の平面部12cと当接するので、すなわち、金属シース12は、位置決めが成された状態で軟質接着剤13の層に均一に接触することになるので、リーディングエッジ部11Aに対する金属シース12の取り付けが高精度で且つ簡単に行われることとなる。
【0029】
そして、金属シース12の複合材翼本体11への押付けによりはみ出した軟質接着剤13によって、複合材翼本体11と高精度で取り付けられた金属シース12とを面一になるように連続させて、翼断面形状を確保する。
【0030】
この実施例によるガイドベーン10では、リーディングエッジ側当接部11bを翼幅方向の複数箇所に配置して、隣接するリーディングエッジ側当接部11b,11b間を接着剤充填部11aの一部を構成する接着剤溜り11dとして形成するようにしているので、金属シース12の湾曲部12bが複合材翼本体11のリーディングエッジ部11Aにより強固に接合することとなる。
【0031】
また、この実施例によるガイドベーン10では、接着剤充填部11a,リーディングエッジ側当接部11b及び複数の突部11cを複合材翼本体11のリーディングエッジ部11Aに一体で形成するようにしているので、リーディングエッジ側当接部11b及び複数の突部11cを別途設ける必要がない分だけ、製造コストの低減が図られることとなる。
【0032】
上記した実施例では、翼面側当接部が円錐台形状を成す突部11cである場合を示したが、これに限定されるものではなく、
図5Bに示すように、翼面側当接部が断面三角形状を成す突部11eであったり、
図5Cに示すように、翼面側当接部が断面台形形状を成す突部11fであったりしてもよい。
【0033】
また、上記した実施例では、直径5mm程度の円錐台形状を成す突部11c(翼面側当接部)を翼幅方向の複数箇所において翼弦方向に3個ずつ直線状に並べて配置した構成としているが、これに限定されるものではなく、他の構成として、例えば、複数の突部11cを翼幅方向にわたって千鳥状に配置するようにしてもよい。
【0034】
さらに、上記した実施例では、本発明に係る複合材翼がターボファンエンジン1を構成する静翼としてのガイドベーン10である場合を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、本発明をターボファンエンジンのファンブレードに採用することができるほか、回転翼機のロータブレードやテールロータブレードにも採用することができる。
【0035】
本発明に係る複合材翼の構成は、上記した実施例に限定されるものではない。
【0036】
本発明の第1の態様は、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂と強化繊維との複合材料から成る複合材翼本体と、前記複合材翼本体のリーディングエッジ部(リーディングエッジ及びその近傍)に軟質接着剤を介して接合されて該リーディングエッジ部を覆う金属シースを備えた複合材翼において、前記複合材翼本体のリーディングエッジ部には、前記軟質接着剤が充填される接着剤充填部と、前記金属シースのリーディングエッジに相当する湾曲部と当接するリーディングエッジ側当接部と、前記接着剤充填部に少なくとも必要量充填された軟質接着剤の層の厚みと同じ高さをもって前記金属シースの翼面に相当する平面部と当接する複数の翼面側当接部が形成されている構成としている。
【0037】
本発明に係る複合材翼の製造工程において、金属シースを複合材翼本体のリーディングエッジ部に軟質接着剤を介して接合する場合には、リーディングエッジ部の接着剤充填部に軟質接着剤を必要量充填すると共に、金属シースの接合面に軟質接着剤を塗布した後、金属シースを複合材翼本体のリーディングエッジ部に嵌め込んで押付けると、リーディングエッジ側当接部が金属シースの湾曲部と当接すると共に、接着剤充填部に少なくとも必要量充填された軟質接着剤の層の厚みと同じ高さをもって複数の翼面側当接部が金属シースの平面部と当接する。つまり、金属シースは、位置決めが成された状態で軟質接着剤の層に均一に接触することになるので、リーディングエッジ部に対する金属シースの取り付けが高精度で且つ簡単に行われることとなる。
【0038】
本発明の第1の態様では、小石等の異物が金属シースに当たった際のダメージを少なく抑えると共に、金属シースの交換作業の容易化を実現したうえで、リーディングエッジ部に対する金属シースの取り付けを高精度で且つ簡単に行うことが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【0039】
本発明の第2の態様において、前記リーディングエッジ側当接部は、翼幅方向の複数箇所に配置され、隣接する前記リーディングエッジ側当接部間は、前記接着剤充填部の一部を構成する接着剤溜りとして形成されている構成としている。
本発明の第2の態様によれば、金属シースの湾曲部が複合材翼本体のリーディングエッジ部により強固に接合することとなる。
【0040】
本発明の第3の態様において、前記接着剤充填部,前記リーディングエッジ側当接部及び前記翼面側当接部は、前記複合材翼本体の前記リーディングエッジ部に一体で形成されている構成としている。
本発明の第3の態様によれば、リーディングエッジ側当接部及び翼面側当接部を別途設ける必要がない分だけ、製造コストの低減が図られることとなる。
【0041】
本発明に係る複合材翼において、複合材翼本体を構成する熱硬化性樹脂には、例えば、エポキシ樹脂,フェノール樹脂,ポリイミド樹脂を用いることができ、同じく複合材翼本体を構成する熱可塑性樹脂には、例えば、ポリエーテルイミド,ポリエーテルエーテルケトン,ポリフェニレンスルファイドを用いることができる。そして、複合材翼本体を構成する強化繊維には、例えば、炭素繊維,アラミド繊維,ガラス繊維を用いることができ、複合材翼本体はこれらの材料からなる複合材料を、例えば、翼厚方向に積層したり、三次元的に織込んだりして形成される。
一方、複合材翼本体のリーディングエッジ部に接合される金属シースには、チタニウム合金を用いることができる。
【0042】
また、本発明に係る複合材翼において、軟質接着剤としては、例えば、軟質のポリ塩化ビニル系接着剤やポリエチレンテレフタレート接着剤等の熱膨張率の異なる材質間においても接着力が低下しない性質を有する接着剤を用いることができ、ポリウレタンやシリコーン等のゴムの性質を有するいわゆる弾性接着剤を採用することも可能である。
【0043】
さらに、本発明に係る複合材翼において、金属シースの翼面に相当する平面部と当接する翼面側当接部としては、直径5mm程度の半球形状を成す突部や、これと同程度の大きさの断面三角形状を成す突部や、円錐台形状を成す突部を採用することができるが、いずれのものにも限定されない。
【0044】
ここで、リーディングエッジ側当接部が、翼幅方向の複数箇所に配置されている場合には、接着剤溜りを挟んで隣接するリーディングエッジ側当接部同士の間隔を50〜100mmとすることが望ましい。
【0045】
一方、複数の翼面側当接部が、例えば、半球形状を成す突部である場合には、翼幅方向の複数箇所において突部を翼弦方向に直線状に複数個ずつ並べて配置したり、複数個の突部を翼幅方向にわたって千鳥状に配置したりすることができ、翼幅方向の複数箇所において突部を翼弦方向に複数個ずつ並べて配置する場合には、突部の列同士の翼幅方向における間隔を10〜50mmとすることが望ましい。
【0046】
そして、本発明に係る複合材翼において、リーディングエッジ側当接部及び複数の翼面側当接部を設けたことによる金属シースとの接着面積の減少率は、接着剤充填部の合計面積の5%以下に止めることが望ましい。