特許第5962983号(P5962983)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5962983
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】電動工具
(51)【国際特許分類】
   B25F 5/00 20060101AFI20160721BHJP
【FI】
   B25F5/00 C
   B25F5/00 H
   B25F5/00 A
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-189921(P2012-189921)
(22)【出願日】2012年8月30日
(65)【公開番号】特開2014-46388(P2014-46388A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2014年12月26日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005094
【氏名又は名称】日立工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094983
【弁理士】
【氏名又は名称】北澤 一浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095946
【弁理士】
【氏名又は名称】小泉 伸
(74)【代理人】
【識別番号】100099829
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 朗子
(72)【発明者】
【氏名】似内 由季
(72)【発明者】
【氏名】船橋 一彦
(72)【発明者】
【氏名】高野 信宏
【審査官】 大山 健
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−180464(JP,A)
【文献】 特表2003−526531(JP,A)
【文献】 米国特許第6479958(US,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0218966(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池を駆動源とする電動工具であって、
前記二次電池に接続されて駆動する駆動部と、
前記二次電池の電圧を検出する検出手段と、
チョッピング制御信号を出力し、前記検出手段により検出された前記二次電池の電圧に応じて前記チョッピング制御信号のデューティ比を変更することにより、前記駆動部に印加する電圧を変更する制御手段と、を有し、
前記検出手段によって検出された前記二次電池の電圧が大きい場合と小さい場合とを比較したとき、前記駆動部に流れる電流を上昇させていった際に、前記二次電池の電圧が大きい場合の方が、前記二次電池の電圧が小さい場合よりも、小さい電流で前記デューティ比が小さくなることを特徴とする電動工具。
【請求項2】
前記制御手段は,前記二次電池の電池電圧を継続して前記駆動部に印加する第1の制御と、前記二次電池の放電電流を波形変換することで、少なくとも一つの前記二次電池の電池電圧と異なる実効値を前記駆動部に印加する第2の制御のいずれか一方の制御を行うことを特徴とする請求項に記載の電動工具。
【請求項3】
前記駆動部の定格電圧とは異なる電池電圧を出力する前記二次電池を駆動源とすることを特徴とする請求項1または2に記載の電動工具。
【請求項4】
前記駆動部の定格電圧に合った電圧の第1の二次電池と、前記駆動部の定格電圧より大きい電圧の第2の二次電池と、を選択的に接続可能に構成され、
前記制御手段は、前記第2の二次電池が接続された場合に前記第2の制御を行うことを特徴とする請求項に記載の電動工具。
【請求項5】
前記制御手段は、前記第2の制御において、前記駆動部の負荷に応じて、許容損失値を超えない範囲で前記駆動部に印加される実効的な電圧値及び電流値を制御することを特徴とする請求項またはに記載の電動工具。
【請求項6】
前記二次電池の異常状態を示す電池異常信号に応答し、前記駆動部に流れる電流を遮断する電流遮断手段を備えたことを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の電動工具。
【請求項7】
前記電流遮断手段が前記チョッピング制御信号に応答してオン・オフすることにより前記駆動部に印加する電圧を変更することを特徴とする請求項に記載の電動工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池を駆動源とする電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
コードレス電動工具の電源として、二次電池を内蔵した電池パックが用いられる(例えば、特許文献1参照)。電動工具はその用途に応じた出力を持つモータ、またモータに流れる電流を制御する制御回路、例えばFET素子、を備えており、モータ、FET素子の出力に応じた電圧及び容量の電池パックが当該電動工具の専用品として提供されてきた。このため、複数種の電動工具について複数種の電池パックが存在することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−136405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の通り、従来の電動工具用の電池パックは専用的であり、汎用性がなく、他種電動工具に転用使用することはできなかった。
【0005】
例えば、出力電圧が14.4Vの電池パックで駆動するよう設計された電動工具には、出力電圧が18Vの電池パックを使用することはできない。このため、電動工具の製造業者は、複数種類の電動工具に対して、それぞれの電動工具に適合した固有の電池パックを準備し提供しなければならず、また使用者は購入した電動工具と当該電動工具専用の電池パックを一体的に保管、管理しなければならない。
【0006】
このため、専用的な電池パックを提供することは、製造業者にとっては新たに販売する電動工具に電池パックの価格を上乗せせざるを得ず、価格低下の阻害要因となっており、また使用者にとっては電動工具毎に電池パックを保管、管理することは煩雑で面倒であった。
【0007】
また、新たに購入した電動工具に既存の電動工具で使われていた電池パックが使えないため、利便性に欠けると共に非経済的であり、時代の要請に沿うものとはなっていないという現実がある。使用者の立場からは、一つの電池パックが他種多様な電動工具に共通して使用できるのが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、各種電池パックを汎用的に使用可能な電動工具の提供を目的としている。かかる目的を達成するために、請求項1に記載の電動工具は、二次電池を駆動源とする電動工具であって、二次電池に接続されて駆動する駆動部と、二次電池から供給される電圧値、及び、電流値を検出する検出手段と、駆動部の負荷に応じて、許容損失値を超えない範囲で駆動部に印加される実効的な電圧値及び電流値を制御する制御手段(例えばFET素子)と、を有することを特徴としている。
【0009】
このような構成によれば、駆動部またはFET素子等の許容損失を超えないよう電池が持つ電圧に見合った実効電流を駆動部またはFET素子に印加するようにしているので、電動工具専用の電池パックの出力電圧より高い出力電圧の電池パックを当該電動工具の電源として使用した場合には、電動工具の許容能力の許す範囲内において、電動工具はハイパワーの出力を提供することができ、作業効率を上げることができる。
【0010】
請求項2に記載の電動工具は、制御手段は,二次電池の電池電圧を継続して駆動部に印加する第1の制御と、二次電池の放電電流を波形変換することで、少なくとも一つの二次電池の電池電圧と異なる実効値を駆動部に印加する第2の制御のいずれか一方の制御を行うことを特徴としている。
【0011】
このような構成によれば、制御手段は二次電池の電池電圧・電流をそのままモータに印加する制御を含め、実効値が異なる複数の電力をモータに印加することができるので、駆動部の駆動状況に見合った最適な制御が可能となる。
【0012】
請求項3に記載の電動工具は、駆動部の定格電圧とは異なる電池電圧を出力する二次電池を駆動源とすることを特徴としている。このため、電動工具に使用可能な二次電池を収容した電池パックは専用品に限定されず、他の電池電圧や容量からなる各種電池パックを使用することができる。
【0013】
請求項4に記載の電動工具は、二次電池の異常状態を示す電池異常信号に応答し、駆動部に流れる電流を遮断する電流遮断手段を更に備えたことを特徴としている。ここで、電池異常信号は、二次電池が過放電状態にあるか、二次電池から流れる電流が過電流状態にあるか、あるいは二次電池の温度が所定温度を超えた高温状態にあるか、の少なくともいずれかの状態を示している(請求項5)。
【0014】
請求項6に記載の電動工具では、制御手段が所定周波数の矩形波信号をチョッピング制御信号として出力し、チョッピング制御信号のデューティ比を変えることにより、放電時の電池電圧に応じて二次電池の放電電流を電池実効電圧を複数段階の異なる値に変換し駆動部に流れる電流を制御している。更に請求項6に記載の電動工具においては、電流遮断手段として設けられた構成がチョッピング制御信号に応答してオン・オフすることにより二次電池の実効放電電流値を複数段階の異なる値に変換している。このように、チョッピング制御を行う際に、電流遮断手段を兼用しているので、チョッピング制御機能の増設に伴う部品点数の増加を抑えることができる。
【0015】
なお、駆動源である二次電池は、公知のあらゆる電池を利用可能であり、また、今後開発される二次電池も適用可能な構成であるが、出願時の技術水準においては、リチウムイオン電池を用いることが好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、装着した電池パックの出力電圧と電流遮断手段(例えば、制御FET素子)を流れる電流の積で求められる損出(W(ワット)=A(電流)×V(電圧))が、駆動部(モータ)、及び、電流遮断手段の定格損失を超えないように制御することで、電動工具に対して出力電圧が異なる各種電池パックを使用することができ、電池パックの汎用的使用を可能にしている。更に、二次電池が過放電状態にあるか、二次電池から流れる電流が過電流状態にあるか、あるいは二次電池の温度が所定温度を超えた高温状態にある場合に、駆動部に流れる電流を遮断する電流遮断手段をチョッピング制御に利用しているので、構成を簡素化することができる。
【0017】
また、モータの特性として、一般に電圧が高いほどモータの回転数は多いため、始動時にモータにかかる負荷が大きくなり、かつ、回転が停止した状態のロック電流も大きくなる傾向を有している。
【0018】
よって、例えば、14.4V対応のモータが搭載された電動工具に18Vの電池を使用する場合には、起動時はチョッピングにより実効電圧を低くし回転数を抑えること(ソフトスタート)でモータ等の駆動部の構成部品の損傷を防ぎ、また、ロック時においても、チョッピング制御により電流を制限することでモータの損傷を防ぐことが必要である。
【0019】
一方、電池電圧が高い起動時と放電終止のロック時以外の間は、比較的、モータ等の駆動部にかかる負荷が小さいため、駆動部の許容損失値よりも小さい範囲である限り、チョッピング制御等の電流制限を必要とせず、電池またはモータが持つ最大のエネルギーで工具を快適に使用することが可能となる。
以上により、電池電圧が異なる電池パックが接続された電動工具においても、工具に過大な負荷をかけることなく、快適に作業できる電動工具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態による電動工具と電池パックの回路図。
図2図1に示した電動工具の動作を説明したフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態にかかる電動工具1について添付図面を参照しながら説明する。図1は、電動工具1に電池パック2が装着された状態の回路図を示したものである。
【0022】
電池パック2にはリチウムイオン電池組6と電池保護回路7及びサーミスタ8が内蔵されている。リチウムイオン電池組6は複数の電池セルを直列に接続してなるものであり、リチウムイオン電池組6には電池保護回路7が接続されている。サーミスタ8はリチウムイオン電池組6に対して接触配置または近接配置されリチウムイオン電池組6の温度を検出している。サーミスタ8の出力は電池保護回路7に入力される。
【0023】
通常、電動工具1に対しては、内蔵するモータ3に対応した専用の電池パック2が用意されているが、本実施の形態では、必ずしも電動工具1に適合した専用の電池パック2を使用しなくともよく、専用の電池パックとは出力電圧が異なる別種の電池パックも使用可能である。例えば、モータ3の定格電圧が14.4Vである場合、専用の電池パック2としては1セルあたり3.6Vの電池セルを4つ直列接続したものが専用の電池パックとして提供される。しかしながら、電池パックの汎用性を図るために、出力電圧が14.4V以外の、例えば、18V,25Vあるいは36V等の電池パックも使用することができる。本実施の形態では、モータ3の定格電圧が14.4Vであり、電動工具1には1セルあたり3.6Vのリチウムイオン電池セルを5つ直列接続し、電池電圧が18Vの電池パック2を接続するものとする。なお、本発明で使用する電池パック2は再充電可能な任意の二次電池が採用可能であり、一例を挙げれば、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池、鉛蓄電池等が挙げられる。例示した二次電池の中では、エネルギー密度の高さ等の理由からリチウムイオン電池を用いることが好ましい。
【0024】
電池保護回路7は、リチウムイオン電池組6の各セルの電池電圧、放電電流及び温度を監視し、いずれかのセルの電池電圧が所定値より低くなった場合には過放電状態と判断し、電池遮断用端子9より電池異常信号を出力する。また、放電電流が所定値を超えた場合には過電流状態と判断し、同じく電池異常信号を出力する。サーミスタ8は、リチウムイオン電池組6の温度を検出し、検出結果を電池保護回路7に入力する構成になっており、電池保護回路7がリチウムイオン電池組6の温度が所定値を超える高温であると判断した場合には、同じく電池遮断用端子9より電池異常信号を出力する。尚、電池保護回路7はリチウムイオン電池組6の充電時にも過充電状態等を検出して充電を停止させるための電池異常信号を充電装置に対して出力する。
【0025】
電動工具1は正極端子(+)と負極端子(−)を有し、各々対応する電池パック2の正極端子と負極端子に接続される。また、電動工具1と電池パック2は各々電池遮断用端子9を有し、電動工具1に電池パック2が装着されたとき各々の電池遮断用端子9も接続される構成となっている。
【0026】
電動工具1はモータ3を有し、モータ3とトリガースイッチ4及び制御FET素子5が電動工具1の正極端子と負極端子の間に直列に接続されている。電動工具1に電池パック2が装着された状態で、トリガースイッチ4がオン、制御FET素子5がオンの時にモータ3にリチウムイオン電池組6からモータ3に対して給電され、モータ3は回転駆動する。
【0027】
電動工具1には三端子レギュレータ10が設けられており、リチウムイオン電池組6から供給される電池電圧に基づいて5Vの定電圧を出力する。この5Vの定電圧は後述するマイクロコンピュータ11と記憶装置12の電源電圧として用いられる。三端子レギュレータ10には発振防止用のコンデンサC1及びC2が接続されている。
【0028】
電動工具1には更にマイクロコンピュータ11と記憶装置12が内蔵されている。マイクロコンピュータ11のVDD端子には,前述の通り、三端子レギュレータ10の出力側端子が接続されており、5Vの電圧が印加される。これによりマイクロコンピュータ11は動作状態となる。同じく、記憶装置12にも三端子レギュレータ10の出力型端子から5Vの電圧が印加されると動作状態となる。記憶装置12はマイクロコンピュータ11に接続されており、マイクロコンピュータ11は記憶装置12に記憶されている情報を読み出し、マイクロコンピュータ11を構成するRAM(不図示)に一時的に記憶する。マイクロコンピュータ11は更にタイマーを備えている。
【0029】
記憶装置12には、モータ3に流れる電流が少ない低負荷時におけるモータ及び制御FET素子5の第1の許容損失W1(定格損出ともいう)と、モータ3に大電流が流れる高負荷時におけるモータ及び制御FET素子5の第2の許容損失W2と,モータ3の駆動時間が所定時間を超える連続駆動時におけるモータ及び制御FET素子5の第3の許容損失W3とが記憶されている。いずれの許容損失W1,W2及びW3もモータ及び制御FET素子5について定められている許容損失Wを超えない値に設定されている。モータ、及び、制御FET素子5の許容損出は、モータ3(若しくは制御FET素子5)に流れる電流Aと駆動電圧であるリチウムイオン電池組6の電圧Vの積で表すことができる(W=A×V)。
【0030】
また、電動工具1には抵抗R2とR3により構成される電池電圧検出回路13が設けられている。電池電圧検出回路13はリチウムイオン電池組6と並列に接続されており、直列接続された抵抗R2とR3によりリチウムイオン電池組6の電池電圧を分圧し、リチウムイオン電池組6の電池電圧に対応する分圧電圧をマイクロコンピュータ11に入力する構成となっている。マイクロコンピュータ11は入力された電池電圧を表すデータを前述のRAMに一時的に記憶する。更に、マイクロコンピュータ11にはモータ3に流れる電流を検出する電流検出回路14が接続されており、電流検出回路14で検出した電流値がマイクロコンピュータ11に入力され、モータ3に流れる電流を表すデータがマイクロコンピュータ11のRAMに一時的に記憶される。電流検出回路14は抵抗で構成されている。
【0031】
電動工具1側の電池遮断用端子9には異常停止回路15が接続されており、異常停止回路15は抵抗R8を介して制御FET素子5のゲートに接続されている。異常停止回路15はFET素子15aと、FET素子15aのゲートに接続された抵抗R4と、FET素子15aのゲートソース間に接続された抵抗R5により構成されている。FET素子15aのドレインは抵抗R8を介して制御FET素子5のゲートに接続されている。
【0032】
電動工具1にはマイクロコンピュータ11のチョッピング制御端子と制御FET素子5の間にチョッピング回路16が設けられている。チョッピング回路16はFET素子16aと抵抗R6とR7により構成されている。抵抗R6はマイクロコンピュータ11のチョッピング制御端子とFET素子16aの間に接続されており、抵抗R7はFET素子16aのゲートとソース間に接続されている。チョッピング回路16のFET素子16aは抵抗R8を介して制御FET素子5のゲートに接続されている。即ち、制御FET素子5は異常停止回路15によりオン/オフ制御されるのみならず、チョッピング回路16によってもオン/オフ制御されることになる。別言すれば、電池異常信号に応答してモータ3に流れる電流を遮断するための制御FET素子5を電池電圧のチョッピング制御にも兼用している。
【0033】
ここでいうチョッピング制御とは、リチウムイオン電池組6から供給される直流の電池電圧(若しくは電流)を制御FET素子5でオン/オフし、矩形波電流をモータ3、または制御FET素子5に流すよう制御することである。かかるチョッピング制御によりモータ、及び、制御FET素子5に印加される実効電圧・電流を制御することができる。マイクロコンピュータ11のチョッピング制御端子から供給される所定周波数の矩形波チョッピング制御信号により制御FET素子5がオンとなる期間及びオフとなる期間が定まることになる。即ち、デューティ比によりモータ及び制御FET素子5に印加される電圧の実効値が定まり、その値はリチウムイオン電池組6の電池電圧よりは低くなる。このため、モータ3に適合した電池パックより高い電池電圧を出力する電池パックを用いても、チョッピング制御によりモータ及び制御FET素子5に適合した電圧・電流を生成することができる。
【0034】
モータ3の正極側端子と制御FET素子5のソース間には抵抗R9とR10の直列回路が接続されており、抵抗R9とR10の接続点は制御FET素子5のゲートに接続されている。電池異常信号が出力されておらず、またチョッピング制御が行われていない場合には、抵抗R9とR10に電流が流れることにより制御FET素子5はオン状態を維持する。
【0035】
次に、上記のように構成された電動工具1と電池パック2の動作を図2に示したフローチャートを参照しながら説明する。
【0036】
電動工具1に電池パック2を装着し、図示しないパワースイッチオンにするとリチウムイオン電池組6から供給される電池電圧に基づいて三端子レギュレータ10から5Vの電源電圧が生成され、マイクロコンピュータ11と記憶装置12に印加される。これによりマイクロコンピュータ11と記憶装置12は動作可能状態となり、マイクロコンピュータ11による制御がスタートする。このとき、通常であれば、電池保護回路7から電池異常信号(ローレベル信号)は出力されておらず、異常停止回路15のFET素子15aはオンとなっているため、制御FET素子5もオンとなっている。
【0037】
制御がスタートすると、まず、マイクロコンピュータ11は電池電圧検出回路13からの入力情報に基づいて電池電圧の検出を行う(S1)。次いで、トリガースイッチ4がオンか否かの判別を行う(S2)。トリガースイッチ4がオンの場合(S2:YES),S1で検出された電池電圧をモータ3に印加する電圧値aV(aボルト)として設定する(S3)。本実施の形態では、18Vの電池電圧が検出されることになる。トリガースイッチ4がオフのままであれば(S2:NO),S1に戻り電池電圧の検出をした上でトリガースイッチ4がオンになるまで待機する。
【0038】
次に、マイクロコンピュータ11は記憶装置12から第1の許容損失W1を読み出し、一時的にマイクロコンピュータ11のRAMに記憶する。記憶装置12から読み出した第1の許容損失W1とS3で設定したモータ3に印加される電圧aVから電流値xA(xアンペア)を算出する。電流値xAは次式により求めることができる。
電流値xA=(モータ3又は制御FET素子5の許容損失W1)÷(電池電圧aV)
【0039】
ここで算出した電流値xAは、低負荷時にモータ又は制御FET素子5に流すことができる最大電流値を示している。
【0040】
S4では、上記式により算出した電流値xAと電流検出回路14で検出された電流値とを比較し、検出された電流値がxA以上か否かの判別を行う。電流検出回路14で検出された電流値がxA以上であれば(S4:YES)、低負荷状態でなく高負荷状態であると判断し、第2の許容損失W2に収まるように、モータ3又は制御FET素子5に現実に流れている電流に見合ったモータ又は制御FET素子5に印加する実効電圧を算出する。このために、S5において、チョッピング制御を行い、モータ3に印加される実効電圧がbV(bボルト)となるように制御する。電流検出回路14で検出された電流値が電流値xA未満の場合には(S4:NO)、モータ3又は制御FET素子5の許容損失W1の範囲内であることを意味するので、S2に戻り電動工具1の作業の継続を許容する。負荷が軽くモータ3に流れる電流が小さいときは、制御FET素子5に印加する電流を制限する必要がないので、チョッピング制御は行わない。
【0041】
チョッピング制御は、マイクロコンピュータ11のチョッピング制御端子から所定周波数の矩形波信号(チョッピング制御信号)を出力し、この矩形波信号に応答して制御FET素子5をオン/オフ制御し、モータ3、または制御FET素子5に印加される実効電圧を制御することをいう。チョッピング制御信号がハイレベルであるとチョッピング回路16のFET素子16aはオンとなり、これによって制御FET素子5もオンとなる。この結果、モータ3にはチョッピング制御信号がハイレベルである間はリチウムイオン電池組6の電池電圧が印加されることになる。一方、マイクロコンピュータ11のチョッピング制御端子から出力されるチョッピング制御信号がローレベルになると、チョッピング回路16のFET素子16aはオフとなり、制御FET素子5もオフとなる。この結果、モータ3にはチョッピング制御信号がローレベルである間は電圧が印加されない。チョッピング制御信号のデューティ比を変えることにより、モータ3、または制御FET素子5に印加される実効電圧を変えることができる。
【0042】
なお、電池パック2の電池保護回路7より電池異常信号(ローレベル)が出力された場合には、電池異常信号は電動工具1側の電池遮断用端子9を介してチョッピング回路16に印加され、チョッピング回路16を構成するFET素子16aがオフとなり、これにより制御FET素子5もオフとなってモータ3、制御FET素子5には電流が流れず、電動工具1は動作を停止する。本実施の形態では、この制御FET素子5をチョッピング制御に用いるFET素子と共用することによりチョッピング制御を行うことにより生ずる部品点数の増加を最小限にとどめている。
【0043】
S5において設定する実効電圧bVは、モータ3の高負荷時の許容損失W2と電流検出回路14で検出された電流値に基づいて求める。許容損失W2は記憶装置12に記憶されており、マイクロコンピュータ11は記憶装置12から許容損失W2を読み出し、一時的にマイクロコンピュータ11のRAMに記憶し、次式に基づき設定すべき実効電圧bVを算出する(S5)。
実効電圧bV=(許容損失W2)÷(検出電流値)
【0044】
このように、負荷電流が大きいときは、制御FET素子5に印加される実効電圧を下げ、電流を制限する。このため、負荷電流が大きい場合であっても、予め設定されているモータ3及び制御FET素子5の許容損失を超えることがない状態で電動工具1の駆動を継続することができる。
【0045】
次に、電流検出回路14で検出した電流値が所定時間T以上継続して流れているかどうかをマイクロコンピュータ11に内蔵されたタイマーを用いて判別する(S6)。所定時間毎にサンプリングした電流値がマイクロコンピュータ11のRAMに記憶されているので、所定値を超える電流値が連続してサンプリングされた回数とサンプリング時間とから前記所定時間Tを算出してもよい。あるいは、所定値を超える電流値が連続してサンプリングされた回数に基づいた判断をS6で行うようにしても良い。
【0046】
制御FET素子5に所定値を超える大電流が所定時間T以上継続して流れていると判別された場合、即ち、高負荷連続駆動状態にあると判断された場合には(SS6:YES),S7において、更なるチョッピング制御を行い、制御FET素子5に印加される電圧がcV(cボルト)となるように制御する。cVはbVより低い実効電圧である。S6において、連続駆動と判別されているので、マイクロコンピュータ11は記憶装置12から高負荷連続駆動時の許容損失W3を読み出し、読み出した許容損失W3と電流検出回路14で検出された電流値に基づきモータ3に印加する実効電圧cVを算出する。実効電圧cVは次式により求めることができる。
実効電圧cV=(モータ3の許容損失W3)÷(電流xA)
【0047】
制御FET素子5に印加する実効電圧をcVに設定することで、予め定められたモータ3の高負荷連続駆動時における許容負損失W3を超えないようにすることができる。次いでモータ3に流れている電流がxA以上であるかどうかを判別する(S7)。この判別は電流検出回路14から供給される検出電流値とRAMに記憶されている電流値xAとの比較により行われる。モータ3に流れている電流値がxA以上であると判別されると(S8:YES),S7に戻り、更なるチョッピング制御を行い制御FET素子5に印加される実効電圧をcVからcVより低いdV(dボルト)に設定する。実効電圧をdVに落とすためには、制御FET素子5のオフ期間が、実効電圧がcVのときに比べて短くなるようにする。
【0048】
本発明による電動工具1は、上述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の改良や変形が可能である。例えば、図1に示した実施の形態では、リチウムイオン電池組6の電池電圧の検出を電池電圧検出回路13により実測しているが、電池パック2に内蔵する電池組の識別情報を表す識別抵抗を内蔵している場合には、マイクロコンピュータ11で識別情報を読み取り電池電圧を取得するよういしてもよい。このような構成にすれば、図1に示した実施の形態で設けていた電池電圧検出回路13を省略することができ、電池電圧検出回路13によるリチウムイオン電池組6の電力損失をなくすことができる。なお、識別情報としてはリチウムイオン電池等の電池の種別,セル数を含んでいる。
【0049】
更に、上述した実施の形態では、使用する電動工具1に専用の電池パックが出力する電池電圧よりも高い電圧を出力する電池パックを使用する場合について説明したが、該構成に加えて、専用の電池パックが出力する電池電圧よりも低い電圧を出力する電池パックを使用することも可能である。この場合、電動工具1内にスイッチングICを付加し、装着した電池パックから供給される電池電圧を当該スイッチングICでDC−DC変換により昇圧し、昇圧した直流電圧を制御するようにしても良い。
【0050】
また、上記実施の形態で説明した事項は、明示的に例示するまでもなく、例えば、ブラシレスタイプのモータ等、モータの駆動に際しFET素子を用いる駆動部に対しても適用可能であることは当業者にとって自明な事項であり、モータ、又は、FET素子の許容損失値の範囲内で、上記実施の形態と同様の制御を行うことで、本発明の効果を奏することが可能である。
【符号の説明】
【0051】
1:電動工具、 2:電池パック、3:モータ、4:トリガースイッチ、5:制御FET素子、6:リチウムイオン電池組、7:電池保護回路、8:サーミスタ、9:電池遮断用端子、10:三端子レギュレータ、11:マイクロコンピュータ、12:記憶装置、13:電池電圧検出回路、14: 電流検出回路、15:異常停止回路、16:チョッピング回路、R1〜R10:抵抗、C1、C2:発振防止用コンデンサ
図1
図2