(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、上記特許文献1に記載の発明は、受水器の形状を球形にし、その球面を水平方向に3分割及び垂直方向に4分割して、計12個の隙間ない受水面で個別に雨水を受水する構造を有する。さらに、12個の受水面で受水した個別雨水を一定体積の水滴にして滴下し、所定時間内の滴下数をカウントして個別受水面の受水量を測定する。測定された12個の受水量から、雨水の飛来方向を演算し取得することができる。
【0009】
しかし、かかる先に提案の全方位雨量計は、受水器の形状と計測部の構造が複雑となり、製造面においてコスト高と成りやすい問題を有している。
【0010】
そこで、本願発明者は、上記特許文献1の全方位雨量計に対し検討を加え、受水器の形状を工夫し、さらに受水面の数をより少なくしても、雨水の飛来方向を取得することができ、かつ、これまで世界で長く使用されてきた転倒マス雨量計の過去の大量の雨量記録との連続性を確保できる解決原理を見いだした。
【0011】
したがって、本発明の目的は、かかる新たに見いだした解決原理に基づき、より簡易な構造で実現する降水量計を提供することにある。より具体的には、上記特許文献1に記載の発明に従う全方位降水量計にあっては、下方向を含む全方向からの降水量を検知出来るが、水平面を含む方向の飛来方向の検知で十分である場合は多い。したがって、本発明は、水平面を含む全天周方向の降水量を計測可能とする降水量計を提供するものである。
【0012】
また、かかる本発明に従う降水量計を基に、降雨量のみで無く、降雪量の測定も可能な、降雨又は降雪による降水粒子を測定出来る降水量計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を達成する本発明の第1の側面は、降雨又は降雪による降水粒子を受ける受水部と、前記受水部で受けた降水粒子の量を測定する測定部を有する降水量計であって、
前記受水部は、
円錐状のロートを成し、前記ロートの円形開口部が天頂方向を向いた第1の受水器と、前記第1の受水器の円形開口部の円周を複数nに等分割して、側面に前記等分割数に対応する複数nの第2の受水器を有し、前記測定部は、所定時間当たりの、前記第1の受水器による受水量(Pm)と前記複数nの第2の受水器におけるそれぞれの受水量(Ps
1〜Psn)を測定し、前記複数nの第2の受水器におけるそれぞれの受水量(Ps
1〜Psn)の比から
降水粒子の飛来方向の方位αと、前記測定した第1の受水器による受水量(Pm)と前記複数nの第2の受水器における受水量(Ps
1〜Psn)の合計値との比から降水粒子の飛来方向の天頂からの傾斜角βを決定することを特徴とする。
【0014】
上記の課題を達成する本発明の態様として、前記第2の側面において、雨又は雪による降水粒子を受ける受水部と、前記受水器で受けた降水粒子の量を測定する測定部を有する降水量計であって、
前記受水部は、円錐状のロートを成し、前記ロートの円形開口部が天頂方向を向いた第1の受水器と、前記第1の受水器の円形開口部の円周を4分割して、側面に4つの第2の受水器を有し、前記測定部は、所定期間当たりの、前記第1の受水器による受水量(Pm)、及び前記4つの第2の受水器におけるそれぞれの受水量(Ps
1、Ps
2、Ps
3、Ps
4)を測定し、降水粒子の飛来方向の方位α(雨又は雪の飛来方向の北からの時計回り角度)と傾斜β(雨又は雪の飛来方向の天頂からの傾斜角)は、前記測定値Pm、Ps
1、Ps
2、Ps
3、Ps
4から、次の関係式により決定する、
tanβ=(πr/2L)/(Pm/Ps)
Ps
1≧Ps
2、Ps
3、Ps
4であれば、
tanα=(Ps
1+Ps
2+Ps
3-Ps
4)/(Ps
1-Ps
2+Ps
3+Ps
4)、
Ps
2≧Ps
1、Ps
3、Ps
4であれば、
tanα=(-Ps
1+Ps
2+Ps
3+Ps
4)/(Ps
1+Ps
2-Ps
3+Ps
4)
Ps
3≧Ps
1、Ps
3、Ps
4であれば、
tanα=(Ps
1-Ps
2+Ps
3+Ps
4)/(Ps
1+Ps
2+Ps
3-Ps
4)
Ps
4≧Ps
1、Ps
2、Ps
3であれば、
tanα=(Ps
1+Ps
2-Ps
3+Ps
4)/(-Ps
1+Ps
2+Ps
3+Ps
4)
ただし、rは、前記ロートの円形開口部の半径、
Lは、前記第2の受水部の高さ、
Psは、Ps
1、Ps
2、Ps
3、Ps
4の合計値である、ことを特徴とする。
【0015】
さらに、上記の課題を達成する本発明の態様として、前記第1又は第2の側面において、前記第1の受水器及び、前記第2の受水器のそれぞれの底部側に、受水した降水粒子を下部に排出する排出穴を有し、前記排出穴からそれぞれ個別に導水管を通して前記測定部に連結するように構成されていることを特徴とする。
【0016】
また、上記の課題を達成する本発明の態様として、前記第1又は第2の側面において、前記測定部は、前記第1の受水器及び、前記第2の受水器のそれぞれに対応する転倒マスを有し、前記導水管を通して受水した降水粒子を前記転倒マスに導き、前記転倒マスの転倒回数をそれぞれ独立して計測することを特徴とする。
【0017】
また、上記の課題を達成する本発明の態様として、前記第1又は第2の側面において、前記測定部は、前記第1の受水器及び、前記第2の受水器のそれぞれに対応する前記導水管を通して流下するそれぞれの降水粒子の量を計量することを特徴とする。
【0018】
さらに、上記の課題を達成する本発明の態様として、前記態様のいずれかにおいて、
前記第2の受水器のそれぞれに、前記第1の受水器の中心から前記第2の受水器の外周に方向に向かう放射状に配置された複数のひれ板を有することを特徴とする。
【0019】
さらに、上記の課題を達成する本発明の態様として、前記態様のいずれかにおいて、
前記第2の受水器の外周を囲う、メッシュ状のジャバラの覆いを有することを特徴とする。
【0020】
さらに、上記の課題を達成する本発明の態様として、前記態様のいずれかにおいて、
前記第1の受水器及び前記第2の受水器のそれぞれにメッシュ状の加熱ネットの覆いを有し、前記第2の受水器を覆う加熱ネットの部分は、上端が前記第1の受水器のロートの外縁部に固定され、下端側は解放されていることを特徴とする。
【0021】
また、上記の課題を達成する本発明の態様として、前記態様において、前記ジャバラの覆い、及び、前記加熱ネットの覆いは、熱抵抗を有する材料で形成され、降雪量を測定する際に通電により降雪粒子に対する融雪温度まで加熱されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
上記の本発明の構成により、次のような効果が得られる。
【0023】
(1)本発明に従う降水量計は、簡易な構成で、天頂から0〜90度の範囲内のあらゆる方向からの雨水あるいは降雪を捕捉するので、正確な降水量が測定できる。
【0024】
これにより、本発明の降水量計の使用により、これまで世界各地で使用されてきた雨量計乃至降水量計により測定されてきた過去の雨量乃至降水量の数値は、過小評価であったことが判明される。
【0025】
例えば、富士山のような強風地域の風上側斜面では、降水粒子は水平若しくは下方からも飛来することがあり、既存の雨量計乃至降水量計ではこのような雨水乃至降水を全く捕捉できない。その結果、雨量計乃至降水量計の設置そのものを諦めざるをえなかったが、本発明の降水量計であれば、如何なる地形においても設置、水平面を含む全天周方向の降水量の計測が可能となる。
【0026】
また、降雨量乃至降水量は、水源域における貯水池流入量の見積もり、斜面土砂災害時における雨水の地表衝突量や地中浸透量の見積もりなどに関連し、様々な水資源計画並びに水利用計画の立案、降雨災害の対策策定などに際し、不可欠且つ最も基本的な数値情報である。本発明の降水量計は、これらに必要なより正確な降水情報を提供することを可能にする。
【0027】
(2)本発明の降水量計において、降水量を、雨又は降雪による降水粒子の水滴数のカウント値に置換える構成とする場合、測定精度(例えば、スイッチ部のスイッチの電極間を水滴が通過する際の通電状態をカウントする場合、水滴1個の重さ(約0.1g)の均一性に依存する)が、従来の転倒マス雨量計に比べて格段(100倍以上)に向上する。これにより、従来の雨量計では計測不能であった霧雨のような微少(0.5mm以下)の降雨も感知し、その雨量を測定することが可能である。
【0028】
(3)本発明の適用により降雨又は降雪による降水粒子を捕捉、計測し、任意の方位と傾斜を持った斜面への降水粒子衝突量に変換できる。これにより本発明の降水量計では、従来の雨量計を用いては不可能であった、台風等の強風吹走時における風上側斜面と風下側斜面での雨水の地表衝突量の大きな違いを直接計測できる。また、雨量が関わる洪水など多くの災害発生の研究と予知に対する貢献が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に図面に従い、本発明の実施例を説明する。なお、実施例は、本発明の理解のためのものであり、本発明の適用がこれに限定されるものではない。
【0031】
図1は、本発明に従う降水量計の受水部の原理構成例を示す図である。
図1(A)は、受水部の側面斜め上方向から、
図1(B)は、受水部の天頂方向から観察した原理構成例を示す図である。
【0032】
図1において、受水部は、第1の受水器と、第2の受水器を有する。ロート状の第1の受水器10と、第1の受水器10の開口部円周を仕切り板1、2、3、4で4分割して、受水器10のロート状下側に形成される4つの第2の受水器11、12、13、14を有する構成である。しかし、本発明は、かかる構成には制限されない。すなわち、より方位を精密に測定するために、第2の受水器として、第1の受水器10の開口部円周を複数n(>4)に等分割してもよい。
【0033】
第1受水器10及び第2の受水器11、12、13、14のそれぞれ下部側に導水部25を有する。導水部25は、周辺部に縦状の周辺縁25Aと、スカート部25Bを有し、周辺縁25Aとスカート部25Bの接続部を上辺にする凹み皿25Cを有して構成される。
【0034】
ここで、導水部25の周辺縁25Aの径は、第1の受水器10の開口径2rより若干a分だけ広いので、仕切り板1、2、3、4の導水部25の周辺縁25Aと接する下端部がa分だけ広く形成されている。導水部25の周辺縁25Aの径を、第1の受水器10の開口径2rより若干a分だけ広くしている理由は、特に後に説明する
図2-
図5における実施例において、第2の受水器における受水をより確実にするために必要である。ただし、a分の大きさが大きくなると測定誤差が大きくなるので、許容できる誤差との関係で、a分の大きさを決めることが好ましい。
【0035】
第1の受水器10、及び第2の受水器11、12、13、14を5つのチャネルCh0、Ch1、Ch2、Ch3、Ch4に対応付け、それぞれの受水器の底部側には、受水した雨水又は融雪水(以降単に、水という)を下部に排出する対応する排出穴20、21、22、23、24が凹み皿25Cに設けられている。
【0036】
図1(B)より明らかなように、第1の受水器10(チャネルCh0)を中心に、第2の受水器11〜14(チャネルCh1、Ch2、Ch3、Ch4)が取り囲んでいる。
【0037】
なお、上記の構成は、ステンレス等の腐食しない材料で形成することが可能で、先の特許文献1で提案した構成に比して、製造が容易である。
【0038】
ここで、
図1(A)に示す原理構成例では、第2の受水器11、12、12、14に飛来する雨粒に関しては、雨粒が第2の受水器の横方向に飛来する場合は、補足されること無く通過してしまうおそれがある。
【0039】
かかる不都合に対しては、以下に示す具体的構成例により解消することが可能である。
【0040】
図2には、その第1の具体的構成例が示される。
図2は、
図1と同様に、
図2(A)は、受水器の側面斜め上方向から、
図2(B)は、受水器の天頂方向から見た構成を示す図である。
図1と同様部位には、同じ参照数字を付している。
【0041】
図1の原理構成例に対して、第2の受水器11、12、13、14内に、前記第1の受水器10の中心から前記第2の受水器11、12、13、14の外周に向かう放射状に配置された複数の“ひれ板”100を有している。かかるひれ板100により、横方向に、第2の受水器11、12、13、14に到達する雨粒に対しても確実に捕捉が可能である。
【0042】
“ひれ板”100自体の材質もステンレス等の腐食しない材料で形成することが望ましい。
【0043】
図3は、
図1の原理構成例における上記した不都合を解消する、更に別の構成例である。
図3には、
図1と同様に、
図3(A)は、受水器の側面斜め上方向から、
図3(B)は、受水器の天頂方向から見た構成を示す図である。
【0044】
図3における構成の特徴は、第2の受水器11、12、13、14を覆うジャバラ状の覆い110を設けた構成である。
図1と同じ他の部分は、同じ参照番号を付している。
【0045】
ジャバラ状の覆い110は、板材では無く、メッシュ状の編み目構造であることが好ましい。編み目の大きさは、雨粒の通過しない1mm以下の編み目であることが望ましい。特に、
図3に示す構成は、後に再度説明するように、降雪に対しても編み目で捉えることが可能であり、降雪量を計る降水量計としても使用が可能である。
【0046】
ジャバラ状の覆い110についても、ステンレス等の腐食しない材料で形成することが望ましい。
【0047】
特に、降雪量を計る降水量計として用いる場合は、ジャバラ状の覆い110は、通電に対し熱抵抗を有する材料でメッシュ自体を作成し、あるいは、メッシュに熱抵抗を有する材料をコートする。そして、メッシュに通電することにより、ジャバラ状の覆い110が加熱され、付着した降雪を融かすことが可能である。あるいは、ジャバラ状の覆い110を熱良導体として、電熱線を這わせることにより、電熱線より発する熱をジャバラ状の覆い110全体に伝達する様に構成しても良い。
【0048】
そして、融雪水は、先に
図1に説明したように、降水時と同様に、各チャネルに対応する排出穴20、21、22、23、24に導かれる。
【0049】
図4は、更に別の実施例構成の斜視図であり、
図5は、その上面図である。かかる構成は、
図3で示した構成とともに、降水量のみでなく、降雪量の測定を可能とすることを意図している。特徴として、第1の受水器10及び第2の受水器11、12、13、14のそれぞれを加熱ネット50で覆った構成を特徴とする。
【0050】
飛来してきた雨水又は雪を捕捉する加熱ネット50は、
図3の実施例と同様に、通電に対し熱抵抗を有する材料(金属、合成樹脂、又はゴム材等)でメッシュ状に形成され、あるいは、メッシュに熱抵抗を有する材料をコートする。そして、メッシュに通電することにより、加熱ネット50が加熱され、付着した降雪を融かすことが可能である。あるいは、先の実施例と同様に,加熱ネット50を熱良導体として、電熱線を這わせることにより、電熱線より発する熱を加熱ネット50全体に伝達する様に構成しても良い。
【0051】
加熱ネット50は、第2の受水器11、12、13、14に相当する部分において、上端側は、第1の受水器10のロート部の周辺部と接続され、下端側は解放されている。加熱ネット50は、電気を流し、適宜の温度に加熱されている。
【0052】
かかる構成により、降雪は、ネット50に付着し、融けて水の状態でネット50を伝って、導水穴22(20、21、23、24)に導かれる。
【0053】
これにより、降雪量は、先に説明した、雨水と等化な対応で降雪量を測定することが出来る。
【0054】
ここで、編み目に付着し、測定部に導かれない水量が多くなると、降水量の測定誤差になる。かかる観点から付着水量は、重要であり、上記
図3の実施例におけるジャバラ状の覆い110、及び
図4の実施例における加熱ネット50を構成するメッシュの編み目の大きさについて検討を加えた。
【0055】
実験により以下の測定結果を得た([表1])。
【0057】
かかる表1の測定結果によるとジャバラ状の覆い110(あるいは、加熱ネット50)に付着する水量は、メッシュ線の間隔(網目の粗さ)に依存し、網目の粗さが2〜3mmのメッシュに最も付着水の量が多かった。網目が2〜3mmよりも細かくなるにつれ付着水の量は減少し、1.4mm以下であれば測定誤差は全く問題にならないほど少量となった。また網目の粗さが2〜3mmよりも粗くなるほど付着水の量は少なくなり、編目が粗すぎると付着水量が減少に転じる状態を確認した。
【0058】
この理由は、編目が粗くなると水はその表面張力では膜状に付着出来ず、金属線の脇腹に付着するのみとなるからである。網目が細かくなるほど、より多くの編目が水膜で覆われることも確認したが水膜は非常に薄く、間隔が1.2mmのNo.7メッシュの場合、水膜の平均厚さは、メッシュ水平時0.4mm(鉛直時0.2mm)と計算された。
【0059】
網目が細かいメッシュほど付着水量は少なくなるが、編目を降雪粒子よりも大きくすると雪粒子は編目に引掛かからずにスリ抜けてしまう。
【0060】
反対に、編目を細かくし過ぎると、埃などで目詰まりが起きやすくなる。したがって、編目は、結論として、降雪粒子(1〜1.5mm)程度とし、線の太さは丈夫で細いものが好ましい。
【0061】
図に戻り、
図6は、受水部の上面から見た
図5におけるA−A線に沿う断面図である。
【0062】
排出穴20、21、22、23、24の先は、導水部25を通して受水部のそれぞれの受水器が受水した水の量を計測する、
図1において図示省略されている測定部に繋がっている。
【0063】
図7は、測定部の一例を示す概念図である。
【0064】
すなわち、それぞれのチャンネルCh0、Ch1、Ch2、Ch3、Ch4に対応する排出穴20、21、22、23、24に繋がる、導水部25に納められている導水パイプ30、31、32、33、34により、対応する転倒マス40、41、42、43、44に、受水した雨水が導かれるように構成されている。
【0065】
例えば、転倒マス40は、状態S1のように、一方の升に所定量の雨水が入ると、雨水の重みで転倒排出される。次いで、状態S2のように反対側の升に所定量まで雨水が溜まり、転倒排出される状態となり、再び状態S1に遷移する。そして、転倒の回数を計数して、計数値と升の雨水を溜める所定量を乗算することにより、対応する受水器への降雨量が判る。
【0066】
図8は、特許文献1で先に提案した雨量計に使用した測定部の一例を示す概念図である。
【0067】
5つのチャネルCh0、Ch1、Ch2、Ch3、Ch4に対応する排出穴20、21、22、23、24に繋がる導水パイプ30、31、32、33、34の先端に
図8の左下に拡大して示す様な水滴を形成する滴下管5を設ける。
【0068】
滴下管5の先端径Sは、一つの水滴の重さが約0.1gになる様な大きさを有している。
【0069】
したがって、5つの滴下管Ch0、Ch1、Ch2、Ch3、Ch4に対応する導水パイプ30、31、32、33、34を流下した水は、重さが0.1gの水滴となって滴下管5から滴下する。
【0070】
図9は、
図8に示す滴下管5の形状の一例である。上部管と、下部管5Bを有し、上部管にはフィルタ5Aが詰め込まれている。
【0071】
これにより、下部管5Bにより約0.1gの水滴が作られ、滴下する。更に、落下の途中に、一対の電極部6a、6bを有する。電極部6a、6b間を水滴が通過する際に電極部6a、6間が導通される。
【0072】
一対の電極部6a、6bは、それらの間の通電により水滴を検知する検知部としてのスイッチである。
【0073】
したがって、この電極部6a、6b間の導通回数をカウントすることにより、滴下する水滴の数を計数することができる。これにより、計数した水滴の数と、一つの水滴の重量0.1gを乗算すれば、各受水器で受水した雨水の量を算出することができる。
【0074】
ここで、本発明において、上記の水滴を検知する方法として、電極部6a、6b間の通電による方法に限られず、他に種々の態様が可能である。例えば、非接触な方法として、光の透過量変化で水滴を検知する方法、あるいは、水滴をマイクに落下して、その際の音の変化の有無を検知して水滴を検知する方法等、いずれの方法も本発明の対象として制限されるものではない。
【0075】
この様に、5つの受水器で受水した雨又は雪の量から飛来方向の方位及び傾斜を求めることができる。以下にその原理を説明する。
【0076】
今、雨又は雪の飛来方向を方位α(飛来方向の北からの時計回りの角度)、傾斜β(飛来方向の天頂からの傾斜角)として定義すると、
図10、
図11のような、飛来方向と、受水面積の幾何学的関係図[
図10(その1)、
図11(その2)]が描ける。
【0077】
なお、北(N)と東(E)の間の受水領域にチャネルCh1に対応する受水器11が、東(E)と南(S)の間の受水領域にチャネルCh2に対応する受水器12が、南(S)と西(W)の間の受水領域にチャネルCh3に対応する受水器13が、西(W)と北(N)の間の受水領域にチャネルCh4に対応する受水器14が置かれていると考える。
【0078】
さらに、第1の受水器10の半径をr、第2の受水器11、12、13、14の高さをLとする。したがって、第1の受水器10の面積M
0は、M
0=πr
2であり、第2の受水器11、12、13、14の側方面積S
0は、S
0=2rLである。
【0079】
そして、
図10、
図11において、第1の受水器10で受水する面積をM、第2の受水器11、12、13、14で受水する面積をSとする。
【0080】
図11において、雨又は雪の飛来方向の傾斜をβとすれば、第1の受水器10が雨又は雪を受ける面積Mは、M=M
0sin(90-β)=M
0cosβ=πr
2cosβ、第2の受水器11、12、13、14の雨水又は雪を受ける面積Sは、S=S
1+S
2+S
3+S
4=S
0sinβ=2rLsinβである。
【0081】
さらに、
図10から第2の受水器11、12、13、14の各々が雨又は雪を受ける面積S
1、S
2、S
3、S
4は、つぎのとおりである。
【0082】
S
1=r(sinα+cosβ)・Lsinβ
S
2=r(1-cosα)・Lsinβ
S
3=0
S
4=r(1-sinα)・Lsinβ
第1の受水器10で受水する面積をM、受水量をPm(計測単位:kg)とし、第2の受水器11、12、13、14の各々で受水する面積をS
1、S
2、S
3、S
4、受水量(計測単位:kg)をPs
1、Ps
2、Ps
3、Ps
4とすると、
Pm/M=Ps/S、ただし、Ps=Ps
1+Ps
2+Ps
3+Ps
4
よって、Pm/Ps=M/S
=(M
0 cosβ)/(S
0 sinβ)
=πr
2 cosβ/2rLsinβ
=πr
/2Ltanβ
したがって、tanβ=(πr/2L)/(Pm/Ps)
また、Ps
2/Ps=S
2/S
=r(1-cosα)L/2rL
=(1-cosα)/2
よって、cosα=1-2Ps
2/Ps
同様に、
Ps
4/Ps=S
4/S
=r(1-cosα)Lsinβ/2rLsinβ
=(1-sinα)/2
よって、sinα=1-2Ps
4/Ps
したがって、Ps
1≧Ps
2、Ps
3、Ps
4であれば、
tanα=sinα/cosα
=(1-2Ps
4/Ps)/(1-2Ps
2/Ps)
=(Ps-2Ps
4)/(Ps-2Ps
2)
=(Ps
1+Ps
2+Ps
3-Ps
4)/(Ps
1-Ps
2+Ps
3+Ps
4)
となる。ただし、
Ps
2≧Ps
1、Ps
3、Ps
4であれば、
tanα=(-Ps
1+Ps
2+Ps
3+Ps
4)/(Ps
1+Ps
2-Ps
3+Ps
4)
Ps
3≧Ps
1、Ps
3、Ps
4であれば、
tanα=(Ps
1-Ps
2+Ps
3+Ps
4)/(Ps
1+Ps
2+Ps
3-Ps
4)
Ps
4≧Ps
1、Ps
2、Ps
3であれば、
tanα=(Ps
1+Ps
2-Ps
3+Ps
4)/(-Ps
1+Ps
2+Ps
3+Ps
4)
以上により、方位αと傾斜βは、受水量の計測値(Pm、Ps、Ps
1、Ps
2、Ps
4)から算出できる。なお、βの計測可能範囲は0〜90度である。
【0083】
なお、上記説明は、第1の受水器10と第2の受水器11、12、13、14による5チャンネルの例であるが、より一般化して、第2の受水器を複数nに分割した場合を想定すると、次の関係によって、より細かい精度で、降雨量又は降雪量を測定することができる。
【0084】
すなわち、円錐状のロートを成し、前記ロートの円形開口部が天頂方向を向いた第1の受水器10と、前記第1の受水器10の円形開口部の円周を複数nに等分割して、側面に前記等分割数に対応する複数nの第2の受水器を有するように構成する。
【0085】
そして、測定部は、所定期間当たりの、前記第1の受水器10による受水量(Pm)と前記複数n個の第2の受水器におけるそれぞれの受水量(Ps
1〜Psn)を測定する。ついで、前記複数nの第2の受水器におけるそれぞれの受水量(Ps
1〜Psn)の比から雨の飛来方向の方位αを決定する。
【0086】
さらに、前記測定した第1の受水器10による受水量(Pm)と前記複数n個の第2の受水器11、12、13、14におけるそれぞれの受水量(Ps
1〜Psn)の比から雨の飛来方向の天頂からの傾斜角βを決定することができる。
【0087】
図12は、本発明に従う降水量計の別の実施例構成を示す図である。
【0088】
先の実施例構成では、第1の受水器10のロート状の下側に複数の第2の受水器11、12、13、14を配する一体構成である。
【0089】
これに対して、
図12は、別の実施例構成として、第2の受水器第1の受水器10の胴体部10Aの外側に配置する構成を示す図である。
図12において、構成を理解容易の様に部分的に透視状に示している。
【0090】
かかる構成では、一般的に使用されている転倒マスを用いる降水量計を第1の受水器10として使用することが出来る。更に、第1の受水器10と第2の受水器11、12、13、14は分離可能として構成することができる。
【0091】
図12において、第2の受水器11、12、13、14は、本体部の胴体60で囲われている。本体部の胴体60の上部縁円と対応する下側径を有する覆い部51で覆われている。覆い部51の上側径は、第1の受水器10の径に対応する。
【0092】
覆い部51には、先の実施例で説明した加熱ネット50を有している。
【0093】
図13A,13B,13Cは、理解容易の様に
図12の実施例を更に分割して示す図である。
図13Aは覆い部51を、
図13Bは第1の受水部10を、
図14は第2の受水部11、12、13、14の上面図である。
【0094】
図13Aに示す覆い部51は、先の実施例と同様に,加熱ネット50を有している。加熱ネット50は、それ自体を加熱線としても良いし、別途貼り付けられた発熱体の熱を伝達する熱伝導体としてもよい。冬期に使用される時、覆い部51により融雪して、降雪量を図ることも可能である。
【0095】
図13Bに示す第1の受水器10は、一般に使用される転倒マス式の降水量計が使用できる。
図13Bでは、転倒マスは、図示省略している。
【0096】
図13Cは、第2の受水器11,12,13,14を示す図である。この実施例では、第2の受水器11,12,13,14は、外側円筒60と、内側円筒61とにより、一体に形成されている。内側円筒61は、その高さが第1の受水器10に等しく、第1の受水器10が挿入される径を有している。
【0097】
外側円筒60の高さは、内側円筒61の高さより小さく、外側円筒60の径と内側円筒61の径の差により形成される領域に,後に説明するようにロート状の第2の受水器11,12,13,14が形成される。
図13Cでは、受水器11のみが示され、これに対応して導水穴20,導水パイプ21が示される。この導水パイプ21の下部に対応する転倒マス或いは、
図9に示した水滴数検出スイッチ機構が設けられる。
【0098】
図13Cにおいて、更に1,2は、チャネル仕切り板であり、100は,横方向の降水を受け止めるひれ板である。
【0099】
図14は、
図12の実施例の降水量計の上面図である。中心に第1の受水器10の導水穴20が見られる。第1の受水器10が、第2の受水器11,12,13,14の内側円筒61に挿入されている。
【0100】
第2の受水器11,12,13,14は、外側円筒60と内側円筒61の間に形成される。仕切り板1,2,3,4は、第2の受水器11,12,13,14のそれぞれを区切る仕切り板である。仕切り板1,2,3,4で区切られて形成される第2の受水器11,12,13,14のそれぞれに対応して導水穴20,21,22,23を有する。
【0101】
導水穴20,21,22,23の位置は、外側円筒60の円周縁の高さより低く、円周縁及び仕切り板1,2,3,4の下端から、対応する導水穴20,21,22,23に向かう傾斜によりロート状が形成される。
【0102】
図15A,
図15Bは、それぞれ
図14の上面図の矢印A−A線の断面、矢印B−B線の断面を示す図である。
【0103】
チャネルの仕切り板1,2,3,4と、ひれ板100の形状は同じ三角形である。上側の角部の角度は、約30°である。これは、一般的な転倒マス式降水量計の上縁部側の傾斜が30°に規格されていることに対応させている。
【0104】
ひれ板100の下側は、
図15A,
図15Bにより見られるように、第2の受水器11,12,13,14は、ロート状(図のまるで囲んだ部分)の傾斜に対応して、浮いた状態である。
【0105】
かかる第2の降水量計は、既存の一般的な転倒式降水量計を拡張して構成することができるので、適宜用途に応じて一次元降水量計とするか、3次元降水量計としての構成変更が容易である。
【0106】
図16A、16B,16Cは、更に第3の実施例の降水量計を説明する図である。
【0108】
この第3の実施例の特徴は、前記第1及び第2の実施例における第1の受水器に、第2の受水器の機能を兼ねさせた形態である。
【0109】
概念的には、第1及び第2の実施例における第1の受水器を等分割して4つの受水器S1,S2,S3,S4を形成している。これにより、第1及び第2の実施例における側面側に形成された第2の受水器11,12,13,14を省略した形態を成している。
【0110】
すなわち、少なくとも上面が開放された円筒容器110に、円周方向に円筒容器110の長さに対して、略半分の長さの4つの仕切り板201,202,203,204により4等分割して4つの受水器S1,S2,S3,S4を形成している。
【0111】
4つの仕切り板201,202,203,204は、円筒容器110の上部端面から円筒中心に向かって、低くなるような傾斜を有している。4つの仕切り板201,202,203,204の下端側に、ロート状受水部を有する。
【0112】
ロート状受水部の形態は、
図16B,
図16Cにより、良く理解できる。
図16Bは、第3の実施例の降水量計の上面図であって、4つの仕切り板201,202,203,204により仕切られた4つの受水器S1,S2,S3,S4のロート状受水部220,221,222,223が示される。
【0113】
それぞれのロート状受水部220,221,222,223には、対応する排水穴211,212,213,214を有する。排水穴211,212,213,214のそれぞれに繋がる配水管を通して、図示省略された転倒マス或いは、
図9に示した水滴数検出スイッチ機構に受水が送られる。
【0114】
図16Cは、
図16BのA−A線における断面図である。断面部分には、受水器S2,S4が属し、対応するロート状受水部221,223と、その排水穴212と214が示される。また、破線部は、仕切り板203,204を概念的に示している。
【0115】
かかる第3の実施例では、降水粒子の飛来方向の方位と傾斜角は4つの受水器S1,S2,S3,S4のそれぞれの降水量から求めることができる。傾斜角は、天頂から90°の角度の範囲で求めることが可能である。例えば、
図16Aにおいて、図面に垂直方向からの降水は、受水器S3で最も多く受水される。したがって、受水器S1,S2,S3,S4での受水量の比から降水粒子の降水方向及び傾斜角を求めることができる。
【0116】
さらに、全体の構成量は、4つの受水器S1,S2,S3,S4の降水量の総和から求めることができる。