(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5963107
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】湯水混合水栓
(51)【国際特許分類】
E03C 1/042 20060101AFI20160721BHJP
F16K 31/60 20060101ALI20160721BHJP
E03C 1/044 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
E03C1/042 C
F16K31/60 Z
E03C1/044
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-44193(P2012-44193)
(22)【出願日】2012年2月29日
(65)【公開番号】特開2013-181289(P2013-181289A)
(43)【公開日】2013年9月12日
【審査請求日】2015年1月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(72)【発明者】
【氏名】井上 貴文
(72)【発明者】
【氏名】中山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】神 智美
【審査官】
藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−220176(JP,A)
【文献】
特開2007−205424(JP,A)
【文献】
特表2007−518033(JP,A)
【文献】
特開2007−051757(JP,A)
【文献】
特開平06−249360(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03C 1/00 − 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度調整用のハンドルを備えた湯水混合水栓であって、
前記温度調整用のハンドルが一定温度を超える領域への回転を抑制する安全装置と、
前記安全装置を解除する安全ボタンとを備え、
前記ハンドル自身は本体と接続された基部と、その周囲を覆うカバー部とからなり、
前記カバー部は金属製、あるいは金属鍍金を施されており、
前記安全ボタンは前記カバー部に設けられた貫通孔に挿入されており、
前記貫通孔において、前記安全ボタンと前記カバー部との間には樹脂製のブッシュが設けられていることを特徴とする湯水混合水栓。
【請求項2】
前記安全ボタンを付勢するバネ部材を備え、
前記バネ部材が板バネであり、
前記ブッシュが板バネ全体を覆うことを特徴とする請求項1に記載の湯水混合栓。
【請求項3】
前記カバー部が亜鉛ダイキャストにより製造され、その表面に金属鍍金が施されていることを特徴とする請求項1または2に記載の湯水混合水栓。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湯水混合水栓に係り、特に温度調整用のハンドルを有する湯水混合水栓に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱に反応する形状記憶合金を備えた湯水混合水栓が知られている。
このような湯水混合水栓においては、熱に反応して形状が変化する形状記憶合金製のばねによって、供給される湯・水の量を調整して混合して一定の温度の混合湯水が吐水されるように調整される。また、このような湯水混合水栓において、温度調節用ハンドルの回転操作により、前記形状記憶合金製のばねを移動させたり、ばねと拮抗する力を変化させたりすることによって、所望の温度の混合湯水が吐水されるように構成することが知られている。
【0003】
このような方式の湯水混合水栓においては、温度調節用ハンドルの回転位置によっては湯の供給量が多くなり、熱湯に近い温度の湯水が吐水されることがある。使用者が望む場合にはこのような温度の吐水が必要となるが、使用者が誤って温度調節用ハンドルを高温側に回転させた状態で吐水操作を行った場合には火傷を負うなどの恐れがある。
そのため、従来、ハンドルに設けられた安全スイッチを押さなければ一定以上の温度に設定できないようにすることが行われている。(例えば、特許文献1)
温度調整用ハンドルは通常、亜鉛ダイキャストや黄銅などの金属部材より構成されることが多い。また、仮に樹脂により構成される場合であっても意匠性を高めるために、その表面には金属鍍金が施される場合がほとんどである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−273163
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水栓の温度調整用ハンドルのように水がかかる部材の最表面を金属で構成した場合、腐食やさびが発生してしまう恐れがある。特に、安全ボタンのように摺動する部材と接している箇所においては、摺動の為に必ず隙間を設ける必要があり、内部に水が浸入することを完全に防止することはできない。また、摺動により金属鍍金や表面に形成された不動体がはげてしまうことがおおく、特に腐食が発生しやすい。この箇所に腐食が発生してしまうと、安全ボタンの摺動を妨げる原因となり、安全ボタンが押せずに高温の吐水が不可能になる、あるいは安全スイッチが常時押下された状態となり安全スイッチの意味がなくなってしまう、という課題がある。
【0006】
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたものであり、温度調整ハンドルを一定以上の温度に設定することを制限する安全ボタンを有する湯水混合水栓において、金属の腐食などにより安全ボタンの摺動が困難になることを抑制する湯水混合水栓を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための請求項1記載の発明によれば、温度調整用のハンドルを備えた湯水混合水栓であって、前記温度調整用のハンドルが一定温度を超える領域への回転を抑制する安全装置と、前記安全装置を解除する安全ボタンとを備え、前記ハンドル自身は本体と接続された基部と、その周囲を覆うカバー部とからなり、前記カバー部は金属製、あるいは金属鍍金を施されており、
前記安全ボタンは前記カバー部に設けられた貫通孔に挿入されており、前記貫通孔において、前記安全ボタンと前記カバー部との間には樹脂製のブッシュ
が設け
られていることを特徴とする湯水混合水栓が提供される。
このように安全ボタンと接触して摩擦が生じる箇所に樹脂製のブッシュを設けることに
よって、金属の腐食による安全ボタンの摺動が悪化することを抑制することが可能となる
。
【0008】
上記目的を達成するための請求項2に記載の発明によれば、前記安全ボタンを付勢するバネ部材を備え、前記バネ部材が板バネであり、前記ブッシュが板バネ全体を覆うことを特徴とする請求項1に記載の湯水混合栓が提供される。
板バネをブッシュで覆うことにより、板バネが摺動した際に、直接金属部分と干渉しない為、金属鍍金のはげ防止が可能となる。
【0009】
上記目的を達成するための請求項3に記載の発明によれば、前記カバー部が亜鉛ダイキャストにより製造され、その表面に金属鍍金が施されていることを特徴とする請求項1または2に記載の湯水混合水栓が提供される。
亜鉛ダイキャストは鋳造性が高いが耐食性がよくないために、錆を発生しやすい。これを防止し、外観品位を向上させるために金属鍍金が一般的に行われているが、安全ボタン近傍のように摺動する部品においては金属鍍金が剥れてしまう可能性が高い。またハンドルの内面部においては鍍金が付きにくく錆が発生しやすい。そのような場合においても、本発明を適用することによって、長期間使用しても安全ボタンが固着することを抑制できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、浴室や台所などの長時間水が付着する環境下で使用しても、安全ボタンの固着を抑制し確実に安全ボタンを作動させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態による温度調整用ハンドルを有する湯水混合水栓の外観図である。
【
図2】本発明の実施形態による温度調整用ハンドルの断面図である。
【
図3】本発明の実施形態による温度調整用ハンドルの断面図である。
【
図4】本発明の実施形態による安全ボタン及びブッシュ、板バネの取り付け様子を示す分解斜視図である。
【
図5】本発明の実施形態による温度調整用ハンドルの断面図である。 ストッパー解除前の状態を示す。
【
図6】本発明の実施形態による温度調整用ハンドルの断面図である。 ストッパー解除後の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による温度調整用ハンドルを説明する。
【0013】
図1は本発明に関する湯水混合水栓Aを示す外観斜視図である。湯水混合水栓Aは温度調整用ハンドル10と流量調整用ハンドル11、スパウト12を備えている。温度調整用ハンドル10と流量調整用ハンドル11は亜鉛ダイキャストより製造されている。また、湯水混合水栓Aは水供給水路13および湯供給水路14と接続されており、その混合水をスパウト12より吐水する構成となっている。 湯水混合水栓Aは、流量調整用ハンドル11を回転することによって吐水量を調整することができ、吐水量をゼロとする、つまり止水を行うことも可能である。
【0014】
また、湯水混合水栓Aは温度調整用ハンドル10を回転することによって吐水温度を好みの温度に調整することができる。このとき、一定以上の温度に設定するためには、温度調整用ハンドル10に設けられた安全ボタン2を押しながら、温度調整用ハンドル10を回転する必要がある。
【0015】
図2は本発明の実施形態に掛かる温度調整用ハンドル10の内部を示す分解斜視図である。温度調整用ハンドル10はその周囲を覆うカバー部15と、図示していない基部16(
図4参照)を有する。また、カバー部15に組み付ける形で、安全ボタン2、ブッシュ4、板バネ5を有している。
【0016】
本発明の実施の形態に掛かる湯水混合水栓Aは先述のように、使用者が温度調整用ハンドル10のカバー部15を掴んで回転させることにより、カバー部15と勘合した基部16が回転して、湯水混合水栓Aの湯水の混合量を調整して、スパウト12から吐水される吐水温度を水から湯へ調整することができるように構成されている。
【0017】
この際、誤って一定温度以上の湯水混合水が吐水することがないように、カバー部15の回転には安全装置が設けられている。具体的には、
図5に示すように、温度調整用ハンドル15には安全装置部3が設けられており、湯水混合水栓Aに設けられたストッパー6と当接し、一定以上カバー部15が回転できないような構成となっている。
【0018】
一定以上の温度の湯を吐水したい場合には、安全装置部3と接続された安全ボタン2を意図的に押すことによって、安全装置部3を温度調整用ハンドル10の内部方向へ移動させる。これにより、安全装置部3とストッパー6との当接が解除され、温度調整用ハンドルを更に回転することができるようになる。つまり、一定温度異常の「高温の湯水混合水を吐水することができるようになるのである。
【0019】
このとき、安全ボタン2は板バネ5によって絶えず温度調整用ハンドル10の外周方向、つまりカバー部15の表面方向に付勢されているため、温度調整用ハンドル10を逆方向、つまり低温側に回転させる、ストッパー6の位置よりも低温側に移動すると、自動的に安全ボタン2ならびに安全装置部3は外周方向へ移動し、通常位置へ復帰する。
【0020】
図3本発明の実施形態による温度調整用ハンドル10の断面図である。温度調整用ハンドル10は基部16(
図4参照)をカバー部15が取り囲む構造となっており、さらに、温度調整用ハンドル10にはカバー部15から突出する形で安全ボタン2が設けられている。
【0021】
図4に
図3に示した温度調整用ハンドル10の断面図の安全ボタン2付近の拡大図を示す。カバー部15の内部には、このカバー部15の回転運動を湯水混合水栓Aに伝達するための基部16が設けられている。
【0022】
カバー部15の表面の一部には貫通孔が設けられており、ここを通るように安全ボタン2がカバー部15の内部から挿入される構造となっている。また、安全ボタン2とカバー部15の間には樹脂製のブッシュ4が設けられており、カバー部15の断面と安全ボタン2が直接接することがないような構造となっている。また、安全ボタン2とブッシュ4の間は、安全ボタン2の摺動の為に僅かな隙間を確保した構造になっている。
【0023】
このように、樹脂性のブッシュ4を設けることによって、安全ボタン2を上下させる際に、安全ボタン2とブッシュ4が接触しても樹脂同士の接触のため、滑らかな動きが実現できる。安全スイッチ2およびブッシュ4に使用する材料に関しては低摺動グレード摺動性の高いの樹脂を使用することで、更に滑らかな動きが可能となる。また、金属製のカバー部15に腐食や錆などが発生した場合であっても、安全ボタン2の摺動に対する影響を低減することが可能となる。
【0024】
図3に示すように、安全ボタン2は板バネ5によって、温度調整用ハンドル10の外周方向、つまりカバー部15の表面方向に付勢されている。このとき、板バネ15は金属製であるため、また、先述のようにブッシュ4と安全ボタン2の間には隙間が設けられていることからも、湯水混合水栓Aに掛かる湯水がこの隙間から浸入してカバー部15と同様に錆・腐食が発生して、カバー部15へ錆・腐食が伝達する恐れがある。逆にカバー部15の錆が板バネ15に伝達し、板バネ5が割れる恐れがある。
【0025】
これを抑制するために、ブッシュ4は
図3に示されているように板バネ5の全体を覆うように、特にカバー部15と板バネ5が直接接することがないように構成されている。これによって、上記のように板バネ5に発生した錆・腐食がカバー部15に伝達することを抑制するとともに、板バネ5とカバー部15が摺動することによって、カバー部15に施された鍍金加工などの表面処理が剥げ、カバー部15に錆・腐食が発生することを抑制することが可能となる。
【0026】
以上、本発明に関して実施例をあげて説明を行ったが、本発明は言うまでもなく上記実施例に限定されるものではない。本発明を逸脱しない範囲で自由に設計することが可能である。たとえば、安全ボタンやブッシュはそのほかの樹脂材料によって形成してもよい。
【符号の説明】
【0027】
1 温度調整ハンドル
2 安全ボタン
3 安全装置部
4 ブッシュ
5 板バネ
6 ストッパー