特許第5963112号(P5963112)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5963112ルームエアコン用アルミニウム製熱交換器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5963112
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】ルームエアコン用アルミニウム製熱交換器
(51)【国際特許分類】
   F28F 19/06 20060101AFI20160721BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20160721BHJP
   B23K 35/22 20060101ALI20160721BHJP
   B23K 35/28 20060101ALI20160721BHJP
   B23K 35/363 20060101ALI20160721BHJP
   F28F 1/30 20060101ALI20160721BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   F28F19/06 B
   F28F19/06 Z
   C22C21/00 J
   C22C21/00 D
   C22C21/00 E
   B23K35/22 310E
   B23K35/28 310B
   B23K35/363 H
   F28F1/30 A
   F28F21/08 B
   F28F21/08 A
【請求項の数】1
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-192767(P2012-192767)
(22)【出願日】2012年9月3日
(65)【公開番号】特開2014-47997(P2014-47997A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年1月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】大瀧 崇雄
(72)【発明者】
【氏名】関 雄輔
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 明徳
(72)【発明者】
【氏名】岡庭 茂
【審査官】 藤崎 詔夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−192447(JP,A)
【文献】 特開平05−222480(JP,A)
【文献】 特開平08−104936(JP,A)
【文献】 特開2009−046703(JP,A)
【文献】 特開2011−137203(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 19/06
B23K 35/22
B23K 35/28
B23K 35/363
C22C 21/00
F28F 1/30
F28F 21/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の熱媒体流路を有するアルミニウム製形材からなる扁平状熱交換チューブと、アルミニウム製コルゲートフィンが並列状に複数配置され、上記扁平状熱交換チューブの両端が、対峙する一対のアルミニウム製ヘッダーパイプに連通接続され、フッ化物系フラックスを介して一体接合されたルームエアコン用アルミニウム製熱交換器であって、
上記扁平状熱交換チューブは、Feが0.15〜0.35質量%、Siが0.15質量%以下、Cuが0.35〜0.55質量%、Zrが0.02〜0.05質量%、Tiが0.003〜0.010質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成を有し、かつ、上記扁平状熱交換チューブの表面には、防食を目的とするZnが塗布されておらず、
上記コルゲートフィンは、心材と、該心材の両面に皮材がクラッドされたブレージングシートからなり、心材はZnが1.3〜2.2質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成を有し、皮材はZnが0.7〜1.3質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成を有する、ことを特徴とするルームエアコン用アルミニウム製熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ルームエアコン用アルミニウム製熱交換器に関するもので、特に室外機用に適用するものである。ここで、アルミニウムとはアルミニウム合金を含む意味である。
【背景技術】
【0002】
従来使用されているルームエアコン用熱交換器はフィンチューブ型熱交換器と呼ばれ、図8に示すように、銅(Cu)製丸管10をアルミニウム製フィン材20の形成された筒状のフィンカラー21に挿入し、丸管10を主に機械的に拡管することで一体化し、その後、各丸管10を同じCu製のUベンド管30で接続する方法で一般的に製造されている。
【0003】
冷媒管として使用されるCu製丸管は熱伝導性に優れ、また強度、耐腐食性の点でも優れているが、近年、環境・省エネの観点から高性能化、軽量化、リサイクル性等の製品機能面や、Cu価格の高騰によるコスト面、及びCu資源の枯渇問題等から、製品構造や構成材料の改善が要求されてきている。
【0004】
この要求に対して、Cu製丸管を材料的に安価なアルミニウム製の丸管にする提案がされている。例えば、アルミニウム合金製U字型のヘアピン管を、所定の間隔をおいて平行に配置したアルミニウム合金製のフィン材に貫挿し、拡管により固定し、隣接するヘアピン管の管端にアルミニウム合金製Uベント管を嵌合し、ろう材を使用してろう付けするものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかし、特許文献1に記載のものは、単にCu管からアルミニウム(Al)管に代える提案であり、構造的には同じ拡管固定によるフィンチューブ型熱交換器であり、機能面での向上は期待できない。
【0006】
一方、従来から自動車エアコン用コンデンサー用として使用されるアルミニウム製のパラレルフロー型熱交換器が良く知られている。
【0007】
このパラレルフロー型熱交換器は、冷媒管として薄型扁平管(扁平状熱交換チューブ)が使用され、空気側と熱交換するフィンにはコルゲートフィンが使用され、また薄型扁平管(扁平状熱交換チューブ)はヘッダータンクに接続される構造となっており、全てアルミニウム材料で構成されている。ここで使用される薄型扁平管(扁平状熱交換チューブ)は、薄型で微細な孔を有しており、一般的には押出成形で製造されるものである。
【0008】
自動車エアコンやルームエアコンのように高圧の冷媒ガスが気液混合となる熱交換器では、気密性を維持する必要があり、全て金属接合による一体化、つまりろう付けで製造される必要がある。
【0009】
アルミニウムのろう付けでは、実用技術として真空ろう付け法とフラックスを用いる炉中ろう付け法が知られている。
【0010】
真空ろう付け法は、1×10-2Pa以下の真空度下でろう付される方法であり、アルミニウムの酸化皮膜を除去する目的として構成材料の一部にMg元素の添加が必須の工法である。この場合、真空下で蒸発しやすいZn等の元素は材料へ添加することができない。
【0011】
一方、炉中ろう付け法では、KAlF4とK3AlF6の非腐食性フッ化物系フラックスが良く知られている。この方法では、ろう付けが開始する直前にフラックスが溶融し、アルミニウムの酸化皮膜を除去するもので、不活性なN2ガスの大気圧雰囲気で行われる。従って、真空ろう付け法で利用できないZn元素等の添加された材料の使用が可能となる。
【0012】
構成するアルミニウム材料は、製品に要求される性能、耐圧強度、耐腐食性、熱伝導性等や、工業上の見地から生産性やコスト面等から考慮されるが、特に重要な点は、長期の耐腐食性を有することである。
【0013】
現行のCu製丸管とアルミニウム製フィン材で構成されるフィンチューブ型熱交換器では、アルミニウム製フィンがCu管に対して電気化学的に卑な状態、つまり犠牲防食的に作用するため、特殊な環境下以外ではCu管の腐食は進まず、内部の冷媒が流出するような事態はほとんど発生しない。
【0014】
しかし、同質であるアルミニウム材料で構成するオールアルミニウム製熱交換器の場合は防食対策が必要となり、幾つかの防食方法が提案されている。
【0015】
自動車に適用されるエアコン用コンデンサーでは、構成する扁平状熱交換チューブ表面にZn金属を溶射等で被覆し、大気圧雰囲気中のろう付け加熱を利用して扁平状熱交換チューブ表面にZn拡散層を形成し、そのZn拡散層が犠牲的腐食となり扁平状熱交換チューブへの貫通腐食(孔食)を防止する方法が一般的である(例えば、特許文献2参照)。
【0016】
同様に、Cu管をアルミニウム管に変更したルームエアコン用熱交換器の防食方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。 特許文献3に記載のものは、Zn拡散層を外面に有するアルミニウム合金製管とZn,In,及びSnからなる群から選ばれる少なくとも一種を含有するアルミニウム合金からなるフィンとを拡管接合した拡管接合型熱交換器である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2010−185646号公報(段落0033、図1図2
【特許文献2】特開昭57−160595号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】国際公開第2011/115133号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、特許文献1及び特許文献3に記載のものは、管と予めプレス加工されたフィンとを拡管接合した後、管(チューブ)の端部にベント管を嵌合接合するいわゆるフィンチューブ型熱交換器であるため、組立に多くの工数を要する(特に、特許文献3では組立て前の管の状態でZn拡散層を形成する工程が必要)上、放熱量を増やすために管とチューブとの接触面積を広くする必要があり、そのためにはフィンの枚数を増やすことや、管本数を増やすことが考えられるが、反面、所定の占有サイズの関係上フィン枚数の増加や管本数の増加に制限があり、また、重量が嵩む等の懸念がある。
【0019】
また、特許文献2及び特許文献3に記載のものは、扁平状熱交換チューブや管の外面に、電気化学的に卑なZn拡散層を形成した犠牲防食方法が採用されており、Zn拡散層が極端に卑の電位となるため、フィンとの電位差が大きくなる。犠牲防食の場合、電位差が大きいほど腐食電流が大きくなり、それに伴い腐食速度が速くなるので、熱交換器の耐久性に懸念が生じる。
【0020】
従って、市場で要求されている、高性能、軽量、及び高耐久性を満足する熱交換器が望まれているのが現状である。
【0021】
この発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、腐食環境の厳しい使用においても長期の耐腐食性が維持でき、かつ、高性能、軽量及び高耐久性の向上を図れるようにしたルームエアコン用アルミニウム製熱交換器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を達成するために、請求項1記載の発明は、複数の熱媒体流路を有するアルミニウム製形材からなる扁平状熱交換チューブと、アルミニウム製コルゲートフィンが並列状に複数配置され、上記扁平状熱交換チューブの両端が、対峙する一対のアルミニウム製ヘッダーパイプに連通接続され、フッ化物系フラックスを介して一体接合されたルームエアコン用アルミニウム製熱交換器であって、 上記扁平状熱交換チューブは、Feが0.15〜0.35質量%、Siが0.15質量%以下、Cuが0.35〜0.55質量%、Zrが0.02〜0.05質量%、Tiが0.003〜0.010質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成を有し、かつ、上記扁平状熱交換チューブの表面には、防食を目的とするZnが塗布されておらず、 上記コルゲートフィンは、心材と、該心材の両面に皮材がクラッドされたブレージングシートからなり、心材はZnが1.3〜2.2質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成を有し、皮材はZnが0.7〜1.3質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成を有する、ことを特徴とする。
【0025】
このように構成することにより、ルームエアコン用アルミニウム製熱交換器の防食方法として、扁平状熱交換チューブの表面にZn拡散層による犠牲防食によらない防食方法を確立することができ、フィン、皮材(ろう材)、扁平状熱交換チューブでの自然電位差を防食効果に適切な範囲にすることができる。具体的には、扁平状熱交換チューブ材料として自然電位が比較的高い合金であるFe(0.15〜0.35質量%),Si(0.15質量%以下),Cu(0.35〜0.55質量%),Zr(0.02〜0.05質量%),Ti(0.003〜0.010質量%)を選択する。また、コルゲートフィンは、心材と、該心材の両面に皮材がクラッドされたブレージングシートからなり、心材にはZnが1.3〜2.2質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成を有するAl−Mn系のアルミニウム合金(JIS A 3003材)を使用し、皮材にはZnが0.7〜1.3質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成を有するAl−Si系アルミニウム合金(JIS A 4343材)を使用する。
【0026】
また、フッ化物系フラックスに例えばKAlF4とK3AlF6等の非腐食性のフルオロアルミン酸カリウム系フラックスを用いた炉中ろう付け法によって扁平状熱交換チューブとコルゲートフィンを含む熱交換器コアを一体ろう付けすることができる。
【発明の効果】
【0027】
この発明によれば、上記のように構成されているので、腐食環境の厳しい使用においても長期の耐腐食性が維持でき、かつ、高性能、軽量化及び高耐久性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】この発明に係るルームエアコン用アルミニウム製熱交換器の一例を示す概略正面図である。
図2】上記熱交換器の一部を断面で示す斜視図である。
図3】この発明における扁平状熱交換チューブの拡大断面図である。
図4】この発明における扁平状熱交換チューブとフィンとのろう付け状態を示す拡大断面図である。
図5】この発明に係るアルミニウム製熱交換器とフィンチューブ型熱交換器の各風速と放熱量の関係を示すグラフである。
図6】Zn含有量と自然電位の関係を示すグラフである。
図7】Zn溶射扁平状熱交換チューブとZn溶射なしの扁平状熱交換チューブの塩水噴霧試験における試験時間と腐食深さの関係を示すグラフである。
図8】従来のフィンチューブ型熱交換器の概略斜視図(a)及びフィンとチューブの挿入部を示す概略斜視図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、この発明を実施するための形態について、添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0030】
この発明に係るルームエアコン用アルミニウム製熱交換器1(以下に熱交換器1という)は、図1に示すように、それぞれアルミニウム(アルミニウム合金を含む)製の左右に対峙する一対のヘッダーパイプ2a,2bと、これらヘッダーパイプ2a,2b間に互いに平行に水平方向に配置されて連通接続される複数の扁平状熱交換チューブ3(以下に熱交換チューブ3という)及び隣接する熱交換チューブ3間に介在されるコルゲートフィン4(以下にフィン4という)をろう付けしてなる。この場合、フィン4は、後述するように、心材4aと、該心材4aの両面に皮材4bがクラッドされたブレージングシートにて形成されている(図4参照)。
【0031】
なお、熱交換チューブ3には複数に区画された熱媒体流路3aが形成されている。また、上下端のフィン4の上部外方側及び下部開放側には、それぞれアルミニウム製のサイドプレート5がろう付けされている。また、ヘッダーパイプ2a,2bの上下開口端にはアルミニウム製のエンドキャップ6がろう付けされている。
【0032】
また、上記ヘッダーパイプ2a,2bのうちの一方のヘッダーパイプ2a(図1において左側)の上部には熱媒体(以下に冷媒という)の流入管7aが接続され、該ヘッダーパイプ2aの上部側の約1/3の位置には第1の仕切板8aが配置されている。他方のヘッダーパイプ2b(図1における右側)の下部には冷媒の流出管7bが接続され、該ヘッダーパイプ2bの下部側の約1/3の位置には第2の仕切板8bが配置されている。
【0033】
上記のように構成される熱交換器1において、冷媒は流入管7aを介して第1の仕切板8aによって区画されたヘッダーパイプ2a内の上部側に流入した後、チューブ3を介して第2の仕切板8bによって区画されたヘッダーパイプ2b内の上部側に流れ、次いで、チューブ3を介して第1の仕切板8aによって区画されたヘッダーパイプ2a内の下部側に流入し、その後流出管7bを介して外部に流れる。
【0034】
以下に、熱交換チューブ3、フィン4の組成、耐腐食性及びろう付け工法について説明する。
【0035】
<熱交換チューブの組成>
この発明における微細な熱媒体流路3aを有する薄肉小型の押出扁平管からなる熱交換チューブ3は、耐久性や工業的な見地からの生産性が課題となる。一般的に押出扁平管としてJIS A 1000系の純アルミ材やJIS A 3000系のAl−Mn系材料が使用されるが、純アルミ材では耐腐食性の見地から課題があり、一方Al−Mn系材料では薄肉で小型の押出性という点では生産性に課題がある。そこで、この発明では、押出性及び合金自身の耐腐食性の点から優れた合金が使用される。以下その特性を説明する。なお、以下の元素の添加量はいずれも質量%である。
【0036】
・Fe:0.15〜0.35%
Feは、強度を向上させる働きがあり、0.15%以上で適切な強度になる、一方0.35%を超えると、Al-Fe化合物を結晶粒界に生じさせ、耐腐食性に影響を及ぼすおそれがあるのでこれを上限とする。
【0037】
・Si:0.15%以下
Siは、母材として混入する不可避的不純物であるが、Al-Fe-Si化合物を生成し押出性を低下させることになるので、上限値を0.15%とする。
【0038】
・Cu:0.35〜0.55%
Cuは、孔食電位の保持に寄与するとともに、深い孔食を抑制する元素であり、孔食電位の確保には0.35%以上含有させることが必要である。但しCu量が多くなるとAl-Cu化合物を形成し、粒界腐食を促進するおそれや、押出圧力増加により押出性を低下させるので、上限値は0.55%とする。
【0039】
・Zr:0.02〜0.05%
Zrは、微量添加においても材料の高温強度を向上させ、また微細再結晶となり高速押出での表面肌荒れ防止に効果がある。一方、0.05%を超えると他元素との化合物を形成し、押出圧力を増大させ押出性を低下させるので、上限値は0.05%とする。
【0040】
・Ti:0.003〜0.010%
Tiは、結晶粒の微細化を図ると共に組織を安定化する上で重要であり、0.003%以上を含有させることが好ましい。しかし、その含有量が多くなると、粗大な金属間化合物を生成して押出性を低下させるので上限値を0.010%とする。
・その他は、アルミニウム及び不可避的不純物である。
【0041】
<フィンの組成>
フィン4は、心材4aとろう材である皮材4bが両面にクラッドされているブレージングシートであり、工業的見地及びコスト面を考慮し、汎用性がある規格合金が使用されることが望ましい。
【0042】
この発明では、JIS Z 3263-2002で規格されている心材4a及び皮材4b(ろう材)から、心材4aとしてJIS A 3000合金にZn元素を1.3〜2.2質量%添加した合金(規格名3N03)、ろう材はJIS A 4343合金にZn元素を0.7〜1.3質量%添加した合金(規格名4N43)を特定した。
【0043】
心材4a及び皮材4b(ろう材)へのZnの添加量は、ろう付後において上記熱交換チューブ3との自然電位の関係が、図4に示すように、フィン4とフィレット4c部(ろう材接合部)及び扁平状熱交換チューブの順で、防食効果に適切な範囲の例えば、50±20mVの間に電位差を維持できるようにすることから特定されたものである(図6参照)。ここで、防食効果に適切な範囲を50±20mVとした理由は、長期の大気暴露試験において、70mVを超える電位差があると犠牲的腐食の促進が早くなり、また、30mV未満の電位では腐食発生が不安定となり各部位で腐食が発生するおそれがあるからである。
【0044】
次に、上記のように構成されるこの発明に係るパラレルフロー型アルミニウム製熱交換器(PFC)と、図8に示す従来のCu管を機械的に又は液圧等で拡管し、一体的に固定するフィンチューブ型熱交換器(F&T)の性能比較試験について説明する。
【0045】
フィンチューブ型熱交換器(F&T)のCu丸管は一般的に外径が約6〜9mm程度で、性能によって複数列が配置されている。フィンにはあらかじめプレス加工で貫通孔が形成され、Cu管を挿入後拡管で固定化される。
【0046】
一方パラレルフロー型熱交換器(PFC)は、上述したように、ヘッダーパイプ2a.2b間に微細で複数の熱媒体流路3aを有する押出形材にて形成される扁平状熱交換チューブ3が積層される構造で、ろう付接合により金属的に一体化されている。この場合、熱交換チューブ3は、幅Wが13.85mm、高さHが1.93mm、肉厚Tが0.35mmである。
【0047】
ここで同一の前面面積、同一体積におけるフィンチューブ型熱交換器(F&T)とパラレルフロー型アルミニウム製熱交換器(PFC)について、以下の条件で凝縮性能の比較試験を行ったところ表1に示す結果が得られた。
<試験条件(ダクトでの単体性能評価)>
・冷媒:ハイドロフルオロカーボン(HFC)
・凝縮圧力(入口):1.08MPa
・前面空気温度:30℃
・前面風速:1.5m/s〜4m/s
【表1】
【0048】
上記試験は、現行のフィンチューブ型熱交換器(F&T熱交換器)の性能を100として、オールアルミニウム製のパラレルフロー型熱交換器(ALPFC熱交換器)の特性を比較したものであるが、性能面で高性能化が実現でき、また重量面では軽量化が図られている。
【0049】
また、風速を変えたときの性能(放熱量)比較を図5に示すが、全ての風速においてオールアルミニウム製のパラレルフロー型アルミニウム製熱交換器(ALPFC熱交換器)が性能面で上回っている。
【0050】
なお、Cu丸管に代えてアルミニウム製丸管を拡管した構造のものにおいては、重量面では軽量化が図れるが、Al製丸管とフィンを拡管接合する構造は同じであるため、放熱量の向上は図れないと推測される。むしろアルミニウムと銅の熱伝導度差(Alは238W/m・℃、Cuは397W/m・℃)から放熱量は低下することが予想される。
【0051】
<耐腐食性について>
上述した通り、Cu管を使用するフィンチューブ型熱交換器では、アルミニウム製フィンが早期に腐食するがCu管は長期に亘ってガス漏れに至る腐食の発生は見られず、特殊な環境を除いて長期耐久性と言う観点では良好な熱交換器と言える。
【0052】
一方、オールアルミニウム製熱交換器ではアルミニウム部材同士の組み合わせとなり、長期寿命を考慮する場合、部材単体の耐腐食性を向上させるか、一部部材を犠牲的に腐食させて長期寿命化を考える。
【0053】
オールアルミニウム製の自動車エアコン用コンデンサーでは、冷媒管である扁平管(熱交換チューブ)表面にZn金属を溶射等の方法で被覆し、ろう付け加熱での拡散挙動により扁平管表面に電気化学的に卑なZn拡散層を形成した犠牲防食方法が主に採用されている。この場合、Zn拡散層が極端に卑の電位となるため、他の構成部材との電位差が100mV以上となる。
【0054】
犠牲防食の場合、電位差が大きいほど腐食電流が大きくなり、それに伴い腐食速度が速くなる。その他、腐食溶液が中性から酸又はアルカリに変化するほど腐食速度は速まると考えられている。
【0055】
発明者は、ルームエアコン用熱交換器(コンデンサー)の防食方法を検討するに当たり、国内及び海外、特に塩害や工業排気ガス等の大気環境が厳しい場所(インドネシア、サウジアラビア)での実際の腐食環境について付着物の分析を、アルミニウム製熱交換器の市場実機試験(約3年間)調査したところ、表2に示すような結果が得られた。
【表2】
【0056】
この付着物の分析調査から自動車用に比べルームエアコン用では多用な化合物の付着が想定される。特にCl、NO3、SO4のイオン量が多く、いわゆる塩害の他に排ガスのNOXや化学工業・原油精製等の排出物質やそれを含む土壌の影響が考えられる。
【0057】
アルミニウム材料に対しては塩基性化合物のClイオンが腐食を促進すると考えられるが、カーエアコン用の付着物量からの想定では腐食環境はそれ程酸性度が高くないと推定され、従って腐食速度は比較的マイルドで、犠牲材の消耗もゆっくりと進むため、長期の耐腐食性が維持できると考えられる。
【0058】
一方、ルームエアコン用では、付着物の分析からClイオンも高濃度であり、更にNO3やSO4イオンが高濃度となっている環境を考慮すれば、腐食溶液は酸性度が非常に高いと考えられる。このような環境では腐食電流が高くなりそれに伴う腐食速度が速くなり、カーエアコン用で採用されている犠牲層が短時間で消耗すると予想される。つまり、ルームエアコン用アルミニウム製熱交換器(コンデンサー)については、自動車エアコン用アルミニウム製熱交換器(コンデンサー)と異なる防食の考え方が必要となる。特許文献3で提案されているオールアルミ製フィンチューブ型熱交換器についても同様なことが言える。
【0059】
この結果を基に、発明者はルームエアコン用熱交換器の防食方法として、Zn拡散層による犠牲防食によらない防食方法を確立することに至った。
【0060】
具体的には、上述したように、扁平管(熱交換チューブ3)材料として自然電位が比較的高い合金であるFe(0.15〜0.35質量%),Si(0.15質量%以下),Cu(0.35〜0.55質量%),Zr(0.02〜0.05質量%),Ti(0.003〜0.010質量%)を選択する。また、フィン4は、心材4にはZnが1.3〜2.2質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成を有するAl−Mn系のアルミニウム合金(JIS A 3003材)を使用し、皮材4b(ろう材)にはZnが0.7〜1.3質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成を有するAl−Si系アルミニウム合金(JIS A 4343材)を使用する。これによって、図4図6及び表3に示すように、フィン4とフィレット4c部(ろう材)及び扁平管コア部の順で、50±20mVの自然電位差を取ることができ、ルームエアコンのように腐食環境の厳しい使用においても長期の耐腐食性が維持されるという知見を得た。
【表3】
【0061】
なお、この発明での同一材料及び工法において、熱交換チューブへのZn被覆有無サンプルで比較した塩水噴霧試験(JIS−Z2371)によって試験時間(hr)と最大腐食深さ(μm)の関係を調べたところ、図7に示すような結果が得られた。
【0062】
この塩水噴霧試験の結果、やはり、Zn溶射した熱交換チューブでは早期にZn拡散層が腐食する傾向があり、Zn溶射をしない熱交換チューブでは腐食速度が軽減できることが確認された。
【0063】
<ろう付け工法>
アルミニウム製品のろう付け方法として、上述したように、フラックスを使用しない真空ろう付け法とフラックスを用いる炉中ろう付け法が広く実用化されている。何れもアルミニウムろう付けにおいて必須であるアルミニウム表面の酸化皮膜を除去する方法の違いによるが、真空ろう付け法の場合は、真空度が約1×10-2Pa以下の雰囲気でのろう付け加熱に伴い、構成材料の一部に添加されるMg元素が蒸発することで、表面の酸化皮膜は破壊され、接合が可能となる。
【0064】
一方、フラックスろう付け法は、加熱時の溶融フラックスの作用でアルミニウム表面の酸化皮膜を除去し接合が可能となる。代表的なフラックスとしてはKAlF4とK3AlF6のフッ化物系フラックスで、この場合、N2ガス雰囲気のほぼ大気圧下で行われる。
【0065】
上述した通り、この発明の材料構成であるブレージングシートのフィン材中には、心材4a及び皮材4bに適正範囲のZn元素が添加されたアルミニウム合金、すなわち、心材4aとしてJIS A 3000合金にZn元素を1.3〜2.2質量%含有するAl−Mn系合金、皮材4b(ろう材)としてJIS A 4343合金にZn元素を0.7〜1.3質量%含有するAl−Si系合金を使用する。
【0066】
これにより、炉中ろう付け法で蒸発による減少は最小限に抑えることが可能である。一方、真空ろう付け法においては添加したZn金属がほとんど真空中に蒸発することになるため、防食の仕組みが維持できなくなることから、ろう付け方法の選択としてはフッ化物系フラックスろう付け方法が有効である。
【0067】
上記のように構成される実施形態に係るルームエアコン用アルミニウム製熱交換器によれば、熱交換チューブ3の表面にZn拡散層による犠牲防食によらない防食方法を確立することができる。
【0068】
また、熱交換チューブ3の材料として自然電位が比較的高い合金であるFe(0.15〜0.35質量%),Si(0.15質量%以下),Cu(0.35〜0.55質量%),Zr(0.02〜0.05質量%),Ti(0.003〜0.010質量%)を選択し、フィン4は、心材4aと、該心材4aの両面に皮材4b(ろう材)がクラッドされたブレージングシートからなり、心材4aにはZnが1.3〜2.2質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成を有するAl−Mn系のアルミニウム合金(JIS A 3003材)を使用し、皮材4b(ろう材)にはZnが0.7〜1.3質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成を有するAl−Si系アルミニウム合金(JIS A 4343材)を使用し、フッ化物系フラックスに例えばKAlF4とK3AlF6等の非腐食性のフルオロアルミン酸カリウム系フラックスを用いた炉中ろう付け法によって扁平状熱交換チューブとコルゲートフィンを含む熱交換器コアを一体ろう付けすることができる。
【0069】
従って、ルームエアコンのように腐食環境の厳しい使用においても長期の耐腐食性が維持でき、かつ、高性能、軽量、及び高耐久性の向上を図れるようにしたルームエアコン用アルミニウム製熱交換器を提供することができる。
【実施例】
【0070】
ルームエアコン用熱交換器として必要とされる項目として、上述したように、熱交換チューブの量産性(押出性,強度)、熱交換器の生産性(ろう付性)、そして最終的に熱交換器としての耐食性を満足することが必要である。
【0071】
以下に、熱交換チューブの量産性(押出性,強度)、熱交換器の生産性(ろう付性)、熱交換器としての耐食性の検証について説明する。
【0072】
(熱交換チューブの検証)
熱交換チューブについて、表4に示す成分組成を有する各種アルミニウム合金(発明合金1〜5,比較合金6〜11)について、押出成形性、強度を検証した。
【0073】
まず、表4に示す成分組成を有する各種アルミニウム合金(発明合金1〜5,比較合金6〜11)を溶製し、7インチの直径で長さ2mの鋳造体(ビレット)を作成した。
【0074】
この鋳造体を、550〜590℃で5〜6時間保持する条件にて均一化処理を施した後、460〜550℃に加熱し、押出比30〜1000の薄肉形材用ダイスにて押出加工した。この場合の熱交換チューブの断面形状は図3に示すように、幅(W)は13.85mm、厚さ1.93mm、肉厚0.35mmである。
【0075】
押出速度は、通常押出性の優れている純アルミ材(JIS A 1050材)の押出速度を100として、10%低下までを◎、20%低下までを○、20%以下を×とした。
【0076】
表面状態については、熱交換チューブの表面欠陥(ムシレ,肌荒れ,内部欠陥)で判断し、表面欠陥がまるっきりないものを◎、わずかにあったが使用上問題が無いものを○、表面欠陥が多く使用できないものを×とした。
【0077】
強度は焼鈍材の室温強度より判定し、純アルミ材の65MPaを基準とし、90MPaを超えるものは◎、60〜90MPa程度を○、60MPaに満たないものを×とした。
【0078】
総合評価としては、ルームエアコン用熱交換チューブとして使用できる合格品を○、使用できない不合格品を×と評価した。
【表4】
【0079】
(熱交換器の検証)
次に、熱交換チューブの検証で総合評価が○のチューブ材と、ブレージングシートを加工したコルゲートフィン及びヘッダーパイプを組付けてろう付し、図1に示すような熱交換器を作製し、塩水噴霧試験(JIS Z2371)で耐食性の評価をした。表5に各種熱交換器の構成と評価結果を示す。
【0080】
熱交換器の作製
・コアサイズ:300H×400Lmm
・熱交換チューブ:13.85W×1.93Hmm
・コルゲートフィン:ブレージングシート、7.9H×14Wmm、厚さ0.85mm
・フラックス:ノコロックフラックス(フルオロアルミン酸カリウム系フラックス)
塗布量 約5g/台
・ろう付:N2ガス雰囲気メッシュベルト式連続ろう付炉
ろう付温度600℃
ろう付性については、フィンと熱交換チューブの接合が全接合面の98%以上を○、98%未満を×とした。
【0081】
耐食性については、塩水噴霧試験5000時間後150μm以下の腐食深さでかつフィン剥がれのないものを◎、150μm以下の腐食深さでフィンが一部剥がれるものは○、腐食深さが200μmを超えるものを×とした。
【0082】
総合評価として、ろう付性および耐食性が良く熱交換器として使用できる合格品を○、いずれかの評価が満足できない不合格品を×とした。
【表5】
【符号の説明】
【0083】
1 熱交換器
2a,2b ヘッダーパイプ
3 熱交換チューブ
4 コルゲートフィン
4a 心材
4b 皮材(ろう材)
4c フィレット(接合部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8