【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、生体吸収性材料からなる不織布とアルギン酸ナトリウムとを含有する生体組織補強材料キットである。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本願の発明者らは、鋭意検討の結果、生体吸収性材料からなる不織布にアルギン酸ナトリウムを組み合わせることにより、生体吸収性材料からなる不織布による高い組織補強効果を維持したまま、癒着を防止できること、肺表面をシールすることにより空気漏れを生じ難く出来ること(耐圧性強化)を見出し、本発明を完成した。本願の発明者らは、更に、生体吸収性材料からなる不織布とアルギン酸ナトリウムとに、カルシウムを組み合わせることにより、組織補強効果と癒着防止効果とに加えて、呼吸器の補強に用いた場合に空気漏れを更に高度に防止し、耐圧性をいっそう強化できることを見出した。
【0011】
本発明の生体組織補強材料キットは、生体吸収性材料からなる不織布(以下、単に「不織布」ともいう。)を含有する。上記不織布は、損傷又は脆弱化した臓器に貼付することにより、組織補強効果、空気漏れ防止効果を発揮するものである。
【0012】
上記不織布を構成する生体吸収性材料は、例えば、ポリグリコリド、ポリラクチド(D、L、DL体)、グリコリド−ラクチド(D、L、DL体)共重合体、グリコリド−ε−カプロラクトン共重合体、ラクチド(D、L、DL体)−ε−カプロラクトン共重合体、ポリ(p−ジオキサノン)、グリコリド−ラクチド(D、L、DL体)−ε−カプロラクトン共重合体等の合成吸収性高分子が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なかでも、高い強度を示すことから、ポリグリコリド、ポリラクチド(L体)、ラクチド(D、L、DL体)−ε−カプロラクトン共重合体が好適であり、適度な分解挙動を示すことから、ポリグリコリドがより好適である。
なお、上記不織布を構成する生体吸収性材料として上記合成吸収性高分子を用いる場合には、コラーゲン、ゼラチン、キトサン、キチン等の天然吸収性高分子を併用してもよい。
【0013】
上記不織布がポリグリコリドからなる場合、ポリグリコリドの重量平均分子量の好ましい下限は30000、好ましい上限は200000である。上記ポリグリコリドの重量平均分子量が30000未満であると、強度が不足して充分な組織補強効果が得られないことがあり、200000を超えると、体内分解速度が遅くなり、異物反応を起こすことがある。上記ポリグリコリドの重量平均分子量のより好ましい下限は50000、より好ましい上限は150000である。
【0014】
上記不織布の目付は特に限定されないが、好ましい下限は10g/m
2、好ましい上限は300g/m
2である。上記不織布の目付が10g/m
2未満であると、生体組織補強材としての強度が不足し、脆弱した組織を補強できないことがあり、300g/m
2を超えると、組織への接着性が悪くなることがある。上記不織布の目付のより好ましい下限は20g/m
2、より好ましい上限は50g/m
2である。
【0015】
上記不織布の厚さは特に限定されないが、好ましい下限は10μm、好ましい上限は0.5mmである。上記不織布の厚さが10μm未満であると、強度が不足して充分な組織補強効果が得られないことがあり、0.5mmを超えると、組織に充分に密着するように固定できないことがある。上記不織布の厚さのより好ましい下限は20μm、より好ましい上限は0.3mmである。
【0016】
上記不織布を製造する方法は特に限定されず、例えば、エレクトロスピニングデポジション法、メルトブロー法、ニードルパンチ法、スパンボンド法、フラッシュ紡糸法、水流交絡法、エアレイド法、サーマルボンド法、レジンボンド法、湿式法等の従来公知の方法を用いることができる。
【0017】
上記不織布は、親水化処理が施されていてもよい。親水化処理を施すことにより、生理食塩水や、アルギン酸ナトリウムやグルコン酸カルシウムを含有する水溶液と接触させたときに速やかにこれを吸収することができ、取り扱い性に優れる。
上記親水化処理としては特に限定されず、例えば、プラズマ処理、グロー放電処理、コロナ放電処理、オゾン処理、表面グラフト処理又は紫外線照射処理等が挙げられる。なかでも、不織布の外観を変化させることなく吸水率を飛躍的に向上できることからプラズマ処理が好適である。
【0018】
本発明の生体組織補強材料キットは、アルギン酸ナトリウムを含有する。上記不織布にアルギン酸ナトリウムを組み合わせることにより、不織布による高い組織補強効果を維持したまま、アルギン酸によるシールに基づく耐圧又は内容漏出防止(増強)効果と癒着防止効果とを付与することができる。
【0019】
上記アルギン酸ナトリウムは、後述するように粉末状やフレーク状、粘性の液状、繊維状、スポンジ状、フィルム状で用いてもよいが、上記不織布と複合化した複合体を形成することが取り扱い性等の点で好ましい。
上記複合体は、例えば、上記不織布の一部又は全部を上記アルギン酸ナトリウムで被覆した構造を有する複合体等が挙げられる。
【0020】
上記複合体を製造する方法としては特に限定されないが、例えば、型枠中に生理食塩水又は緩衝液にアルギン酸ナトリウムを溶解したアルギン酸ナトリウム水溶液を流し込んだ後、予め調製した不織布の一部又は全部をアルギン酸ナトリウム水溶液に浸漬し、凍結した後、凍結乾燥する方法(凍結乾燥法)等の従来公知の方法を採用することができる。また、アルギン酸ナトリウム水溶液を乾燥させる方法等の一般的なコーティング方法を採用することができる。
上記生体吸収性材料からなる不織布の一部又は全部がアルギン酸ナトリウムで被覆された構造を有する生体組織補強材料もまた、本発明の1つである。
【0021】
上記複合体において、上記不織布はその全部が上記アルギン酸ナトリウムで被覆されていてもよいし、その一部のみが上記アルギン酸ナトリウムで被覆されていてもよい。例えば、上記不織布の半面が上記アルギン酸ナトリウムで被覆されており、残りの半面が被覆されていない場合、被覆されていない面が創面側に、被覆されている面が他の組織側になるように貼付すれば、より高い組織補強効果と癒着防止効果を発揮することができる。
【0022】
本発明の生体組織補強材料キットにおける上記アルギン酸ナトリウムの使用量は特に限定されないが、癒着効果を得たい他の組織側の表面における好ましい下限は17.8mg/cm
2、好ましい上限は35.6mg/cm
2である。上記アルギン酸ナトリウムの使用量が17.8mg/cm
2未満であると、充分な癒着防止効果が発揮できないことがあり、35.6mg/cm
2を超えると、腹水等の原因となることがある。
【0023】
本発明の生体組織補強材料キットは、更に、カルシウムを含有してもよい。上記不織布とアルギン酸ナトリウムとに、カルシウムを組み合わせることにより、組織補強効果と癒着防止効果とに加えて、呼吸器の補強に用いた場合に空気漏れを防止する効果や、膵臓に用いて膵液漏出防止効果をより増強して付与できる。これは、カルシウムを加えることによって、水に不溶で膵液にも溶解されにくい高張力に優れたアルギン酸カルシウムの膜が形成されるためと考えられる。
【0024】
上記カルシウムとしては特に限定されないが、水に溶解してカルシウムイオンを発生するカルシウム塩の形で加えることが好ましい。
上記カルシウム塩としては、本発明が臨床的に用いる生体組織補強材料に係る発明であることに鑑みて、例えば、グルコン酸カルシウム等が好適である。
【0025】
上記グルコン酸カルシウムは、後述するように、生理食塩水又は緩衝液に溶解したグルコン酸カルシウム溶液の形で用いてもよいし、上記不織布とアルギン酸ナトリウムとの複合体中に複合化してもよい。
上記複合体中に複合化する場合は、例えば、上記凍結乾燥法により複合体を製造する際に、上記アルギン酸ナトリウム水溶液中に上記グルコン酸カルシウムを配合する方法が挙げられる。この場合、得られる複合体は、上記生体吸収性材料からなる不織布の一部又は全部をアルギン酸ナトリウムとグルコン酸カルシウムとで被覆した構造となる。
上記生体吸収性材料からなる不織布の一部又は全部がアルギン酸ナトリウムとグルコン酸カルシウムとで被覆された構造を有する生体組織補強材料もまた、本発明の1つである。
【0026】
本発明の生体組織補強材料キットにおける上記カルシウムの使用量は特に限定されないが、上記グルコン酸カルシウムを用いる場合には、上記アルギン酸ナトリウムに対する好ましい下限は0.01当量、好ましい上限は580当量である。上記グルコン酸カルシウムの使用量が0.01当量未満であると、充分な空気漏れ防止効果が発揮できないことがあり、580当量を超えると、アルギン酸ナトリウムの官能基がすべて反応してしまいこれ以上変化しない。上記グルコン酸カルシウムの使用量のより好ましい下限は0.05当量、より好ましい上限は200当量である。
【0027】
本発明の生体組織補強材料キットを用いた治療方法について説明する。
本発明の生体組織補強材料キットが上記不織布とアルギン酸ナトリウム(及び、グルコン酸カルシウム)とからなる場合には、例えば、まず不織布に生理食塩水を浸漬してから患部に縫合し、縫合後の不織布状にアルギン酸ナトリウム粉末を振り掛ける。その後、アルギン酸ナトリウム粉末上に生理食塩水を滴下する方法が挙げられる。グルコン酸カルシウムを併用する場合には、最初に浸漬する際の生理食塩水及び/又は縫合後に滴下する生理食塩水に代えて、グルコン酸カルシウム水溶液を用いる方法が挙げられる。
本発明の生体組織補強材料キットが上記複合体からなる場合には、例えば、上記複合体を患部に縫合した後、生理食塩水を滴下する方法が挙げられる。