特許第5963130号(P5963130)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5963130生体組織補強材料キット及び生体組織補強材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5963130
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】生体組織補強材料キット及び生体組織補強材料
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/00 20060101AFI20160721BHJP
【FI】
   A61L31/00 ZZMD
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-31740(P2012-31740)
(22)【出願日】2012年2月16日
(65)【公開番号】特開2013-165884(P2013-165884A)
(43)【公開日】2013年8月29日
【審査請求日】2015年1月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】萩原 明郎
(72)【発明者】
【氏名】的場 麻里
(72)【発明者】
【氏名】辻本 洋行
(72)【発明者】
【氏名】森田 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】畠山 紘一
【審査官】 山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−534357(JP,A)
【文献】 特開2010−279574(JP,A)
【文献】 特開平02−311536(JP,A)
【文献】 特開2008−173615(JP,A)
【文献】 特開平08−229116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 31/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脆弱化した組織を補強しながら他の組織との癒着を防止することに用いられる生体組織補強材料キットであって、
生体吸収性材料からなる不織布とアルギン酸ナトリウムとを含有し、
前記アルギン酸ナトリウムの使用量は、癒着効果を得たい他の組織側の表面において8.9mg/cm以上、17.8mg/cm以下である
ことを特徴とする生体組織補強材料キット。
【請求項2】
生体吸収性材料からなる不織布とアルギン酸ナトリウムとが複合体を形成していることを特徴とする請求項1記載の生体組織補強材料キット。
【請求項3】
生体吸収性材料からなる不織布とアルギン酸ナトリウムとの複合体は、前記生体吸収性材料からなる不織布の一部又は全部を前記アルギン酸ナトリウムで被覆した構造を有することを特徴とする請求項2記載の生体組織補強材料キット。
【請求項4】
更に、カルシウムを含有することを特徴とする請求項1記載の生体組織補強材料キット。
【請求項5】
生体吸収性材料からなる不織布とアルギン酸ナトリウムとカルシウムとが複合体を形成していることを特徴とする請求項4記載の生体組織補強材料キット。
【請求項6】
生体吸収性材料からなる不織布とアルギン酸ナトリウムとカルシウムとの複合体は、前記生体吸収性材料からなる不織布の一部又は全部を前記アルギン酸ナトリウムとカルシウムとで被覆した構造を有することを特徴とする請求項5記載の生体組織補強材料キット。
【請求項7】
生体吸収性材料は、ポリグリコリドであることを特徴とする請求項1、2、3、4、5又は6記載の生体組織補強材料キット
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液製剤を用いることなく、脆弱化した組織を補強でき、かつ、高い耐圧性と癒着を起こさない癒着防止能とを有する生体組織補強材料キットに関する。
【背景技術】
【0002】
外科分野において損傷又は脆弱化した臓器、組織の修復は最も基本的な課題である。例えば、臓器の損傷による出血に対しては、止血して縫合する方法が現在でも最も一般的に用いられる外科的な手技である。一方、縫合でも充分な効果が得られない場合でも止血を行うための様々な医療用具が開発されている。
【0003】
なかでも、フィブリン糊は、止血を行うための組織接着剤として広く使用されている。しかし、フィブリン糊には、損傷した組織表面を補強する効果はなく、組織との接着性も弱いため、その効果は限定的である。また、血液製剤であることから、未知のウイルス感染の可能性もあり、使用にあたって患者の合意を取り付けなければいけないといった煩雑さもある。
【0004】
このような出血以外にも組織の脆弱化や損傷に伴う体液の漏出や空気漏れ防止は、外科治療において大きな課題となっている。なかでも、呼吸器外科の分野においては、気胸や肺がん切除後の空気漏れ防止が大きな課題である。特に気胸は、適切な治療をしないと再発率も高く、治療にも難渋する疾病である。
気胸は、肺を切除した場合の断端や縫合部位、肺がんに対する肺部分切除部位、又は、外傷による肺組織の損傷部位から空気が胸腔内に漏れ出たり、あるいは肺胞の一部がのう胞化し(ブラと呼ばれる)、これが破れてその破れ目から空気が胸腔内に漏れ出たりすることにより生じる場合が多い。この漏れ出ている部分に対して、薬剤等を用いて、又は、人為的に化学熱傷を起こさせて肺組織と胸膜とを癒着させることで治療する胸膜癒着術という方法が用いられてきた。胸膜癒着術によれば、気胸の再発は一定程度防止できる。しかし、胸膜との癒着が不充分な場合には、再発の可能性が高い。仮に再度手術が必要になった場合には、肺組織が壁側胸膜に癒着しているために癒着を剥がす操作が必要となり、結果として手術時間の長期化や、癒着を剥がす際の出血という不具合が生じる。そこで、胸膜癒着術に代わる新しい治療方法が模索されていた。
また、消化器外科領域においては膵臓の部分切除後の断端からの膵液漏れ防止が大きな課題となっている。膵液は創傷治癒を司る肉芽組織を溶解してしまい、それの増殖を妨げてしまう。結果として膵臓の組織再生が困難となる。更に、漏出膵液により血管を消化して術後の大出血を引き起こしてしまう致命的な合併症になる危険性も懸念される。
【0005】
これに対して、ポリグリコリド不織布とフィブリン糊とを併用することで、肺組織の補強と肺表面のシールをする方法が行われるようになってきた。この方法によれば、従来の胸膜癒着術と比較して気胸の再発率が低下したと報告されている(非特許文献1〜4)。
同様の方法は、消化器外科の分野においても、肝臓切除後の出血防止等にも用いられるようになってきている(非特許文献5)。
【0006】
しかしながら、ポリグリコリド不織布とフィブリン糊とを併用する方法は、脆弱組織の補強によって気胸の再発を予防できるものの、ポリグリコリド不織布に起因すると考えられる癒着の問題があった。また、血液製剤であるフィブリン糊を用いる問題も解消していない。これらの問題により、特に小児に対しては使用を敬遠するべきことが指摘されていた(非特許文献6)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.Pediatric Surg,42,1225−1230(2007)
【非特許文献2】Interact.Cardiovasc.Thorac.Surg,6,12−15(2007)
【非特許文献3】日呼外会誌,19(4),628−630(2005)
【非特許文献4】日呼外会誌,22(2),142−145(2008)
【非特許文献5】臨床と研究,84,148(2007)
【非特許文献6】日経メディカル,2010年6月号,24−25ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、血液製剤を用いることなく、脆弱化した組織を補強でき、かつ、高い耐圧性と癒着を起こさない癒着防止能とを有する生体組織補強材料キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、生体吸収性材料からなる不織布とアルギン酸ナトリウムとを含有する生体組織補強材料キットである。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本願の発明者らは、鋭意検討の結果、生体吸収性材料からなる不織布にアルギン酸ナトリウムを組み合わせることにより、生体吸収性材料からなる不織布による高い組織補強効果を維持したまま、癒着を防止できること、肺表面をシールすることにより空気漏れを生じ難く出来ること(耐圧性強化)を見出し、本発明を完成した。本願の発明者らは、更に、生体吸収性材料からなる不織布とアルギン酸ナトリウムとに、カルシウムを組み合わせることにより、組織補強効果と癒着防止効果とに加えて、呼吸器の補強に用いた場合に空気漏れを更に高度に防止し、耐圧性をいっそう強化できることを見出した。
【0011】
本発明の生体組織補強材料キットは、生体吸収性材料からなる不織布(以下、単に「不織布」ともいう。)を含有する。上記不織布は、損傷又は脆弱化した臓器に貼付することにより、組織補強効果、空気漏れ防止効果を発揮するものである。
【0012】
上記不織布を構成する生体吸収性材料は、例えば、ポリグリコリド、ポリラクチド(D、L、DL体)、グリコリド−ラクチド(D、L、DL体)共重合体、グリコリド−ε−カプロラクトン共重合体、ラクチド(D、L、DL体)−ε−カプロラクトン共重合体、ポリ(p−ジオキサノン)、グリコリド−ラクチド(D、L、DL体)−ε−カプロラクトン共重合体等の合成吸収性高分子が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なかでも、高い強度を示すことから、ポリグリコリド、ポリラクチド(L体)、ラクチド(D、L、DL体)−ε−カプロラクトン共重合体が好適であり、適度な分解挙動を示すことから、ポリグリコリドがより好適である。
なお、上記不織布を構成する生体吸収性材料として上記合成吸収性高分子を用いる場合には、コラーゲン、ゼラチン、キトサン、キチン等の天然吸収性高分子を併用してもよい。
【0013】
上記不織布がポリグリコリドからなる場合、ポリグリコリドの重量平均分子量の好ましい下限は30000、好ましい上限は200000である。上記ポリグリコリドの重量平均分子量が30000未満であると、強度が不足して充分な組織補強効果が得られないことがあり、200000を超えると、体内分解速度が遅くなり、異物反応を起こすことがある。上記ポリグリコリドの重量平均分子量のより好ましい下限は50000、より好ましい上限は150000である。
【0014】
上記不織布の目付は特に限定されないが、好ましい下限は10g/m、好ましい上限は300g/mである。上記不織布の目付が10g/m未満であると、生体組織補強材としての強度が不足し、脆弱した組織を補強できないことがあり、300g/mを超えると、組織への接着性が悪くなることがある。上記不織布の目付のより好ましい下限は20g/m、より好ましい上限は50g/mである。
【0015】
上記不織布の厚さは特に限定されないが、好ましい下限は10μm、好ましい上限は0.5mmである。上記不織布の厚さが10μm未満であると、強度が不足して充分な組織補強効果が得られないことがあり、0.5mmを超えると、組織に充分に密着するように固定できないことがある。上記不織布の厚さのより好ましい下限は20μm、より好ましい上限は0.3mmである。
【0016】
上記不織布を製造する方法は特に限定されず、例えば、エレクトロスピニングデポジション法、メルトブロー法、ニードルパンチ法、スパンボンド法、フラッシュ紡糸法、水流交絡法、エアレイド法、サーマルボンド法、レジンボンド法、湿式法等の従来公知の方法を用いることができる。
【0017】
上記不織布は、親水化処理が施されていてもよい。親水化処理を施すことにより、生理食塩水や、アルギン酸ナトリウムやグルコン酸カルシウムを含有する水溶液と接触させたときに速やかにこれを吸収することができ、取り扱い性に優れる。
上記親水化処理としては特に限定されず、例えば、プラズマ処理、グロー放電処理、コロナ放電処理、オゾン処理、表面グラフト処理又は紫外線照射処理等が挙げられる。なかでも、不織布の外観を変化させることなく吸水率を飛躍的に向上できることからプラズマ処理が好適である。
【0018】
本発明の生体組織補強材料キットは、アルギン酸ナトリウムを含有する。上記不織布にアルギン酸ナトリウムを組み合わせることにより、不織布による高い組織補強効果を維持したまま、アルギン酸によるシールに基づく耐圧又は内容漏出防止(増強)効果と癒着防止効果とを付与することができる。
【0019】
上記アルギン酸ナトリウムは、後述するように粉末状やフレーク状、粘性の液状、繊維状、スポンジ状、フィルム状で用いてもよいが、上記不織布と複合化した複合体を形成することが取り扱い性等の点で好ましい。
上記複合体は、例えば、上記不織布の一部又は全部を上記アルギン酸ナトリウムで被覆した構造を有する複合体等が挙げられる。
【0020】
上記複合体を製造する方法としては特に限定されないが、例えば、型枠中に生理食塩水又は緩衝液にアルギン酸ナトリウムを溶解したアルギン酸ナトリウム水溶液を流し込んだ後、予め調製した不織布の一部又は全部をアルギン酸ナトリウム水溶液に浸漬し、凍結した後、凍結乾燥する方法(凍結乾燥法)等の従来公知の方法を採用することができる。また、アルギン酸ナトリウム水溶液を乾燥させる方法等の一般的なコーティング方法を採用することができる。
上記生体吸収性材料からなる不織布の一部又は全部がアルギン酸ナトリウムで被覆された構造を有する生体組織補強材料もまた、本発明の1つである。
【0021】
上記複合体において、上記不織布はその全部が上記アルギン酸ナトリウムで被覆されていてもよいし、その一部のみが上記アルギン酸ナトリウムで被覆されていてもよい。例えば、上記不織布の半面が上記アルギン酸ナトリウムで被覆されており、残りの半面が被覆されていない場合、被覆されていない面が創面側に、被覆されている面が他の組織側になるように貼付すれば、より高い組織補強効果と癒着防止効果を発揮することができる。
【0022】
本発明の生体組織補強材料キットにおける上記アルギン酸ナトリウムの使用量は特に限定されないが、癒着効果を得たい他の組織側の表面における好ましい下限は17.8mg/cm、好ましい上限は35.6mg/cmである。上記アルギン酸ナトリウムの使用量が17.8mg/cm未満であると、充分な癒着防止効果が発揮できないことがあり、35.6mg/cmを超えると、腹水等の原因となることがある。
【0023】
本発明の生体組織補強材料キットは、更に、カルシウムを含有してもよい。上記不織布とアルギン酸ナトリウムとに、カルシウムを組み合わせることにより、組織補強効果と癒着防止効果とに加えて、呼吸器の補強に用いた場合に空気漏れを防止する効果や、膵臓に用いて膵液漏出防止効果をより増強して付与できる。これは、カルシウムを加えることによって、水に不溶で膵液にも溶解されにくい高張力に優れたアルギン酸カルシウムの膜が形成されるためと考えられる。
【0024】
上記カルシウムとしては特に限定されないが、水に溶解してカルシウムイオンを発生するカルシウム塩の形で加えることが好ましい。
上記カルシウム塩としては、本発明が臨床的に用いる生体組織補強材料に係る発明であることに鑑みて、例えば、グルコン酸カルシウム等が好適である。
【0025】
上記グルコン酸カルシウムは、後述するように、生理食塩水又は緩衝液に溶解したグルコン酸カルシウム溶液の形で用いてもよいし、上記不織布とアルギン酸ナトリウムとの複合体中に複合化してもよい。
上記複合体中に複合化する場合は、例えば、上記凍結乾燥法により複合体を製造する際に、上記アルギン酸ナトリウム水溶液中に上記グルコン酸カルシウムを配合する方法が挙げられる。この場合、得られる複合体は、上記生体吸収性材料からなる不織布の一部又は全部をアルギン酸ナトリウムとグルコン酸カルシウムとで被覆した構造となる。
上記生体吸収性材料からなる不織布の一部又は全部がアルギン酸ナトリウムとグルコン酸カルシウムとで被覆された構造を有する生体組織補強材料もまた、本発明の1つである。
【0026】
本発明の生体組織補強材料キットにおける上記カルシウムの使用量は特に限定されないが、上記グルコン酸カルシウムを用いる場合には、上記アルギン酸ナトリウムに対する好ましい下限は0.01当量、好ましい上限は580当量である。上記グルコン酸カルシウムの使用量が0.01当量未満であると、充分な空気漏れ防止効果が発揮できないことがあり、580当量を超えると、アルギン酸ナトリウムの官能基がすべて反応してしまいこれ以上変化しない。上記グルコン酸カルシウムの使用量のより好ましい下限は0.05当量、より好ましい上限は200当量である。
【0027】
本発明の生体組織補強材料キットを用いた治療方法について説明する。
本発明の生体組織補強材料キットが上記不織布とアルギン酸ナトリウム(及び、グルコン酸カルシウム)とからなる場合には、例えば、まず不織布に生理食塩水を浸漬してから患部に縫合し、縫合後の不織布状にアルギン酸ナトリウム粉末を振り掛ける。その後、アルギン酸ナトリウム粉末上に生理食塩水を滴下する方法が挙げられる。グルコン酸カルシウムを併用する場合には、最初に浸漬する際の生理食塩水及び/又は縫合後に滴下する生理食塩水に代えて、グルコン酸カルシウム水溶液を用いる方法が挙げられる。
本発明の生体組織補強材料キットが上記複合体からなる場合には、例えば、上記複合体を患部に縫合した後、生理食塩水を滴下する方法が挙げられる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、血液製剤を用いることなく、脆弱化した組織を補強でき、かつ、高い耐圧性と癒着を起こさない癒着防止能とを有する生体組織補強材料キットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
実験動物としてSPFラット(実験時の体重は約200g)を準備し、エーテルにて前麻酔後、ペントバルビタールナトリウムを腹腔内投与して全身麻酔を行った状態で開腹した。
ポリグリコリドからなる不織布(ネオベールTypeNV−M015G、グンゼ社製)を1.5×1.5cmの大きさにカットし、生理食塩水0.1mLを浸漬させた。生理食塩水を染み込ませた不織布を開腹したラットの右側腹壁に7−0フッ化ビニリデン樹脂縫合糸(河野製作所社製)を用いて四隅を縫合した。次いで、縫合した不織布上に粉末状のアルギン酸ナトリウム(アルト、カイゲン社製)を110mg/cmの密度になるように振りかけた。次いで、アルギン酸ナトリウムを降りかけた不織布上に、生理食塩水0.9mLを滴下した。
その後、4−0ナイロン縫合糸にて閉腹した。この際、筋層は連続縫合、皮膚は単純縫合を行った。
この実験を8検体において行った。
【0031】
(実施例2)
実施例1と同様の方法でSPFラットを麻酔後、開腹した。
ポリグリコリドからなる不織布(ネオベールTypeNV−M015G、グンゼ社製)を1.5×1.5cmの大きさにカットし、グルコン酸カルシウム水溶液0.1mL(8.5%水溶液、カルチコール、日医工社製)を浸漬させた。グルコン酸カルシウム水溶液を染み込ませた不織布を実施例1と同様の方法により縫合した。次いで、縫合した不織布上に粉末状のアルギン酸ナトリウム(アルト、カイゲン社製)を110mg/cmの密度になるように降りかけた。次いで、アルギン酸ナトリウムを降りかけた不織布上に、生理食塩水0.9mLを滴下した。
その後、実施例1と同様の方法により閉腹した。
この実験を8検体において行った。
【0032】
(実施例3)
実施例1と同様の方法でSPFラットを麻酔後、開腹した。
ポリグリコリドからなる不織布(ネオベールTypeNV−M015G、グンゼ社製)を1.5×1.5cmの大きさにカットし、グルコン酸カルシウム水溶液0.1mL(8.5%水溶液、カルチコール、日医工社製)を浸漬させた。グルコン酸カルシウム水溶液を染み込ませた不織布を実施例1と同様の方法により縫合した。次いで、実施例2と同様の方法によりアルギン酸ナトリウムを降りかけた。次いで、アルギン酸ナトリウムを降りかけた不織布上に、グルコン酸カルシウム水溶液0.9mLを滴下した。
その後、実施例1と同様の方法により閉腹した。
この実験を8検体において行った。
【0033】
(比較例1)
実施例1と同様の方法でSPFラットを麻酔後、開腹した。
ポリグリコリドからなる不織布(ネオベールTypeNV−M015G、グンゼ社製)を1.5×1.5cmの大きさにカットし、実施例1と同様の方法により縫合した。
その後、実施例1と同様の方法により閉腹した。
この実験を8検体において行った。
【0034】
(比較例2)
実施例1と同様の方法でSPFラットを麻酔後、開腹した。
フィブリン糊としてCSLベーリング社製、ベリプラストを用いた。まず、フィブリノーゲン末をアプロチニン液全液で溶解しA液とし、トロンビン末をアプロチニン液量と同量の塩化カルシウム液で溶解しB液とした。シリンジに入れたA液とB液を同時に押出し、ポリグリコリドからなる不織布(ネオベールTypeNV−M015G、グンゼ社製)を1.5×1.5cmの大きさにカットしたものに塗布した。フィブリン糊を塗布した不織布を実施例1と同様の方法により縫合した。
その後、実施例1と同様の方法により閉腹した。
この実験を8検体において行った。
【0035】
(評価)
移植8週後に麻酔下にて開腹し、癒着の面積及び強度を下記基準にて評価した。
結果を表1に示した。なお、評価は8検体の平均値を示した(面積×強度の数値は、8検体の各々について面積の値と強度の値とを掛け合わせた後、これを平均した数値である。)。
(癒着の面積)
0:癒着なし
1:処置面積の1〜25%の癒着
2:処置面積の26〜50%の癒着
3:処置面積の51〜75%の癒着
4:処置面積の76〜100%の癒着
【0036】
(癒着の強度)
0:癒着なし
1:容易に剥がれる
2:力を加えた剥離が必要な強い癒着
3:鈍的剥離の漿膜損傷を伴い、50%以下の鋭利剥離が必要な強い癒着
4:鈍的剥離の漿膜損傷を伴い、51%以上の鋭利剥離が必要な強い癒着
【0037】
【表1】
【0038】
表1より、ネオベール単独に比べ、アルギン酸ナトリウム、又は、アルギン酸ナトリウム+グルコン酸カルシウムを添加した場合、癒着防止効果がみられた。一方、フィブリン糊を添加した場合には、充分な癒着防止効果はみられなかった。
【0039】
(実施例4)
犠牲死させたSPFラット(メス、実験時の体重は約200g)を開胸した後、右側肋骨を除去し右肺と気道を露出させた。気道を切断後、外径1.5mmチューブを気道に挿入し、2−0シルク糸にてチューブを気道に固定した。
チューブの反対側に三方活栓を付け、差圧計と50mLシリンジをそれぞれ接続した。
シリンジにて空気を注入し、右肺を20hPaの圧まで人工的に膨らませた状態で23G注射針にて右肺中葉に深さ2mmの穴を開けて、空気漏れモデルを作製した。
【0040】
アルギン酸ナトリウム(アルト、カイゲン社製)0.25gを5mL蒸留水に溶解し、5%アルギン酸ナトリウム溶液を調製した。
得られた5%アルギン酸ナトリウム溶液0.025mLを、穴の部分に塗布した。次いで、0.5×0.5cmにカットしたポリグリコリドからなる不織布(ネオベールTypeNV−M015G、グンゼ社製)を貼付し、5%アルギン酸ナトリウム溶液0.025mLを塗布した。5分静置後、更に、5%アルギン酸ナトリウム溶液0.05mLを塗布した。
その後、シリンジにて空気を注入し、空気漏れした時点の圧を破裂圧とした。
この実験を8検体において行った。結果を表2に示した。なお、評価は8検体の平均値を示した。
【0041】
(実施例5)
実施例4と同様の方法により空気漏れモデルを作製した。
5%アルギン酸ナトリウム溶液0.025mLを、穴の部分に塗布した。次いで、0.5×0.5cmにカットしたポリグリコリドからなる不織布(ネオベールTypeNV−M015G、グンゼ社製)に26G注射針にてグルコン酸カルシウム水溶液(8.5%水溶液、カルチコール、日医工社製)1滴を染み込ませた後、これを貼付した。5%アルギン酸ナトリウム溶液0.025mLを塗布し、26G注射針にてグルコン酸カルシウム水溶液5滴を滴下した。5分静置後、更に、5%アルギン酸ナトリウム溶液0.05mLを塗布した。
その後、シリンジにて空気を注入し、空気漏れした時点の圧を破裂圧とした。
この実験を8検体において行った。結果を表2に示した。なお、評価は8検体の平均値を示した。
【0042】
(比較例3)
実施例4と同様の方法により空気漏れモデルを作製した。
フィブリン糊としてCSLベーリング社製、ベリプラストを用いた。フィブリノーゲン末をアプロチニン液全液で溶解しA液と、トロンビン末をアプロチニン液量と同量の塩化カルシウム液で溶解しB液とを準備した。
得られたA液を少量噴霧して針穴部にすり込んだ。次いで、0.5×0.5cmにカットしたポリグリコリドからなる不織布(ネオベールTypeNV−M015G、グンゼ社製)を貼付した。次いで、A液とB液とを合計0.02mL塗布した。
その後、シリンジにて空気を注入し、空気漏れした時点の圧を破裂圧とした。
この実験を8検体において行った。結果を表2に示した。なお、評価は8検体の平均値を示した。
【0043】
(比較例4)
実施例4と同様の方法により空気漏れモデルを作製した。
5%アルギン酸ナトリウム溶液0.025mLを、穴の部分に塗布した。5分静置後、更に、5%アルギン酸ナトリウム溶液0.05mLを塗布した。
その後、シリンジにて空気を注入し、空気漏れした時点の圧を破裂圧とした。
この実験を8検体において行った。結果を表2に示した。なお、評価は8検体の平均値を示した。
【0044】
(比較例5)
実施例4と同様の方法により空気漏れモデルを作製した。
5%アルギン酸ナトリウム溶液0.025mLを、穴の部分に塗布した。26G注射針にてグルコン酸カルシウム水溶液(8.5%水溶液、カルチコール、日医工社製)5滴を滴下した。これらの操作を数回繰り返した後、5分静置した。
その後、シリンジにて空気を注入し、空気漏れした時点の圧を破裂圧とした。
この実験を8検体において行った。結果を表2に示した。なお、評価は8検体の平均値を示した。
【0045】
(比較例6)
実施例4と同様の方法により空気漏れモデルを作製した。
比較例3と同様にフィブリン糊を準備した。得られたA液とB液とを合計0.02mL塗布した。
その後、シリンジにて空気を注入し、空気漏れした時点の圧を破裂圧とした。
この実験を8検体において行った。結果を表2に示した。なお、評価は8検体の平均値を示した。
【0046】
【表2】
【0047】
表2より、ネオベールを用いない場合には、どの材料を使用しても正常時の肺圧(26hpa)を耐えることができなかった。ネオベールを用いた場合、アルギン酸ナトリウムとグルコン酸カルシウムの組み合わせで正常時の肺圧に耐えることができた。
【0048】
(実施例6)
3.55gのアルギン酸ナトリウム(アルト、カイゲン社製)を、96.45gの生理食塩水(大塚製薬社製)に溶解してアルギン酸ナトリウム水溶液を調製した。
アルミ板上に10cm×10cm×1cmのフッ素樹脂シートからなる枠を作製し、得られたアルギン酸ナトリウム水溶液の全量を流し込んだ。その上から10cm×10cmにカットしたポリグリコリドからなる不織布(ネオベールTypeNV−M015G、グンゼ社製)を浸漬させた。その状態で−80℃下、30分間凍結させた。枠とアルミ板を外した後、凍結乾燥機を用いて24時間凍結乾燥して、ネオベールの一部がアルギン酸ナトリウムで被覆された構造を有する生体組織補強材料を得た。
【0049】
実施例1と同様の方法でSPFラットを麻酔後、開腹した。
1.5cm×1.5cmにカットした生体組織補強材料を、ネオベール側が腹壁側になるように実施例1と同様の方法により縫合した。
その後、実施例1と同様の方法により閉腹した。
この実験を8検体において行った。
【0050】
(実施例7)
3.55gのアルギン酸ナトリウム(アルト、カイゲン社製)を、96.45gの生理食塩水(大塚製薬社製)に溶解し、更に4.44mLのグルコン酸カルシウム(8.5%水溶液、カルチコール、日医工社製)を加えて、アルギン酸ナトリウム−グルコン酸カルシウム水溶液を調製した。
実施例6と同様の方法により、ネオベールの一部がアルギン酸ナトリウムとグルコン酸カルシウムとで被覆された構造を有する生体組織補強材料を得た。
得られた生体組織補強材料を、実施例6と同様の方法によりラットに埋植した。
この実験を8検体において行った。
【0051】
(比較例7)
1.5cm×1.5cmにカットしたポリグリコリドからなる不織布(ネオベールTypeNV−M015G、グンゼ社製)と、1.5cm×1.5cmにカットしたアルギン酸カルシウムからなる不織布(カルトスタット、Convatec社製)とを重ねて積層体を得た。
得られた積層体を、実施例6と同様の方法によりラットに埋植した。
この実験を8検体において行った。
【0052】
(評価)
移植8週後に麻酔下にて開腹し、上記と同様の基準にて癒着の面積及び強度を評価した。
結果を表3に示した。なお、評価は8検体の平均値を示した(面積×強度の数値は、8検体の各々について面積の値と強度の値とを掛け合わせた後、これを平均した数値である。)。
【0053】
【表3】
【0054】
表3より、ネオベール/アルギン酸ナトリウム複合体では癒着防止効果がみられたが、ネオベール/アルギン酸ナトリウム/グルコン酸カルシウム複合体およびネオベール/カルトスタット積層体(アルギン酸カルシウム不織布)において癒着防止効果がみられなかった。
【0055】
(実験例1)
実験動物としてSPFラット(実験時の体重は約200g)を準備し、エーテルにて前麻酔後、ペントバルビタールナトリウムを腹腔内投与して全身麻酔を行った状態で開腹した。
ポリグリコリドからなる不織布(ネオベールTypeNV−M015G、グンゼ社製)を1.5×1.5cmの大きさにカットし、グルコン酸カルシウム水溶液0.1mL(8.5%水溶液、カルチコール、日医工社製)又は生理食塩水0.1mLを浸漬させた。グルコン酸カルシウム水溶液又は生理食塩水を染み込ませた不織布を開腹したラットの右側腹壁に7−0フッ化ビニリデン樹脂縫合糸(河野製作所社製)を用いて四隅を縫合した。次いで、縫合した不織布上に粉末状のアルギン酸ナトリウム(アルト、カイゲン社製)を4.4、8.9、17.8、35.6、71.1mg/cmの密度になるように振り掛けた。次いで、アルギン酸ナトリウムを振り掛けた不織布上に生理食塩水0.9mLを滴下した。
その後、4−0ナイロン縫合糸にて閉腹した。この際、筋層は連続縫合、皮膚は単純縫合を行った。
この実験を6検体において行った。
【0056】
(評価)
移植8週後に麻酔下にて開腹し、上記と同様の基準にて癒着の面積及び強度を評価した。
グルコン酸カルシウム水溶液を用いた場合の結果を表4に、生理食塩水を用いた場合の結果を表5に示した。なお、評価は6検体の平均値を示した(面積×強度の数値は、8検体の各々について面積の値と強度の値とを掛け合わせた後、これを平均した数値である。)。
また、腹水の発生の有無を目視にて評価し、腹水の発生した検体数を計数した。
【0057】
【表4】
【0058】
【表5】
【0059】
表4より、アルギン酸ナトリウム4.4、8.9mg/cmを添加した場合、癒着防止効果が見られず、17.8mg/cm以上の場合、癒着防止効果がみられた。ただし、アルギン酸ナトリウム35.6mg/cm以上添加した場合には、腹水の発生がみられた。
表5について、8.9mg/cm以上の場合、癒着防止効果がみられた。腹水の発生は表4と同様の傾向がみられた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、血液製剤を用いることなく、脆弱化した組織を補強でき、かつ、高い耐圧性と癒着を起こさない癒着防止能とを有する生体組織補強材料キットを提供することができる。