(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
この明細書で回転中心軸とは回転運動の中心となる直線のことであり、ロータの回転中心軸とはロータの回転運動の中心となる中心線であり、この中心線を中心としてロータが回転運動を行う。
【0020】
1.アキシャル型磁気浮上モータ100の機械的な構成について
以下、本発明の一実施例を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施例であるアキシャル型磁気浮上モータ100の構成を説明する説明図である。アキシャル型磁気浮上モータ100は、X軸とY軸、Z軸を備える直交座標系のZ軸に沿ってロータ30の回転中心軸を配置すると共に、Z軸に沿って一方側に配置した一側ステータ10とZ軸に沿って他方側に配置した他側ステータ20の2つのステータを備えており、ロータ30はZ軸方向において、前記一側ステータ10と他側ステータ20とに挟まれて配置されている。
【0021】
この実施例では、アキシャル型磁気浮上モータ100の外観を覆うハウジングを取り除いて、中の構造が見えるようにしている。一側ステータ10と他側ステータ20はそれぞれ図示していない前記ハウジングに機械的に固定されているが、ロータ30は機械的に支持されていない構造であり、磁気力によりロータ30はZ軸方向における所定の位置に維持されるように制御されている。さらに、ロータ30の傾きや回転中心軸のX軸とY軸における位置が、所定の位置に維持されるように、後述する方法により制御されている。
【0022】
図1に示すアキシャル型磁気浮上モータ100は人工心臓に用いられる遠心ポンプへの使用を想定したものであるが、アキシャル型磁気浮上モータ100の利用はこれに限られるものでは無く、色々なポンプの駆動用モータとして使用することができることは当然であり、もちろんポンプ以外の装置の駆動用モータとして使用可能である。例えばポンプ以外の他の用途として、本発明に係るアキシャル型磁気浮上モータ100は高速回転する機構に使用することができ、本発明を高速回転モータに適用することにより、機械的な軸受けを使用しないことにより大きな効果を奏する。
【0023】
上述した如く、ロータ30を回転可能に機械的に支持する軸受機構を用いないことにより、上述の人工心臓用のポンプに使用した場合には、ポンプ全体の体積を他の方式に比べ小さくできる効果がある。また機械的な軸受けは潤滑に関する課題や摩擦熱に関する課題など、長期間使用する場合に色々な問題を生じる。これら機械軸受けに起因して生じる課題には、単に機械的な問題に止まらず、例えば血液が凝固する恐れがある等の健康上の課題も考えられる。以下に説明する制御方法により、ロータ30を磁気力により安定に支持することができるので、本実施例では、上述した機械軸受けに起因して生じる色々な課題を解決できる。
【0024】
また、高速回転する装置では機械的な軸受け部分に関する色々な課題が存在する。本実施例に示すロータ30は機械的に支持されるのではなく磁気力により支持されるので、機械軸受けに関する色々な課題の発生を抑制できる大きな効果がある。このため、
図1に示すアキシャル型磁気浮上モータ100は高速回転する機構に使用すると大きな効果を奏する。本実施例のモータは、ロータ30が高速回転しているにもかかわらず機械軸受けであれば発生するはずの発熱量を大幅に抑制できる。さらにロータ30が空中に浮く構造のため、ロータ30の表面に設けられた以下で説明する永久磁石をロータ外周の空気により、より冷却し易い効果がある。
【0025】
1.1 一側ステータ10あるいは他側ステータ20の構造について
図1に示すZ軸における正方向に位置する一側ステータ10とZ軸における負方向に位置する他側ステータ20は、Z軸方向に於いて互いに逆向きに配置されているが、機械的な構造は略同じである。一側ステータ10と他側ステータ20はそれぞれ磁路を形成するためのステータ鉄心15および25を有している。ステータ鉄心15あるいはステータ鉄心25には以下で説明する例えば6個の突極が設けられている。ステータ鉄心15に設けられた6個の突極にはそれぞれ第1コイル112および第2コイル122が巻回されている。なお、6個の突極に巻回された図示の全てのコイルに符号を付すと煩雑になるので、代表して112や122の符号を付している。前記ステータ鉄心15の突起に巻回された6個の第1コイル112は第1巻線11を構成し、第1巻線11は回転磁界を発生して永久磁石32を備えるロータ30に回転トルクを発生する作用をする。さらに第1巻線11はZ軸上において、ロータ30の位置を所定の位置に維持する制御に使用される。
【0026】
また、前記ステータ鉄心15の突起には6個の第2コイル122が平設されていて、第2巻線12を構成し、その第2巻線12はロータ30の傾きを抑制する制御を行うと共に、さらにロータ30の回転中心軸のX軸およびY軸における位置を所定の位置に維持する制御を行うために使用される。
【0027】
同様にステータ鉄心25に設けられた6個の突極にはそれぞれ第1コイル221および第2コイル222が巻回されている。前記6個の第1コイル221は第1巻線21を構成し、第1巻線21は、回転磁界を発生して永久磁石33を備えるロータ30に回転トルクを発生するのに使用され、さらにZ軸上において、ロータ30の位置を所定の位置に維持する制御に使用される。
【0028】
1.2 ロータ30の構造について
ロータ30は、磁気空隙を持って対向するロータヨーク2枚のロータヨークを持ち、前記一側ステータ10および他側ステータ20に対向するロータヨークの面にはそれぞれ永久磁石32、33が複数個配置されている。永久磁石32や永久磁石33は磁性材で作られた各ロータヨークと共にロータ磁極を形成し、上述した第1巻線11や第1巻線21が作る回転磁界に基づき、回転トルクを発生する。ロータを遠心ポンプのインペラーとする場合は前記ロータヨーク間の空隙に複数枚のインペラー31を設け、インペラー31はその外周がポンプケースで覆われることにより、遠心ポンプとして動作する。
図1ではロータ30の構造を説明するために、前記ポンプケースを図示していない。前記ポンプケースはロータ30を内部に収納し、例えば特許文献1である特開2010−279230号公報に符号51が付されて記載されているポンプケーシングと同様の形状を成している。
【0029】
2.制御部70の構成について
上述した制御を行うために、第1巻線11や第2巻線12、第1巻線21、第2巻線22に制御電流が制御部70から供給される。制御部70は制御対象の状態を計測する計測部40と計測部40の計測結果に基づき制御値を演算する演算処理部50と演算処理部50の演算結果に基づいて第1巻線11や第2巻線12、第1巻線21、第2巻線22にそれぞれ制御電流を供給する出力部60とを備えている。
【0030】
計測部40は、回転しているロータ30の永久磁石32や永久磁石33が作る磁極位置を計測するためのロータ磁極の回転角センサや、ロータ30の回転速度を計測するためのロータ30の回転速度センサ、Z軸上のおけるロータ30の位置と傾きを計測するロータ位置センサ、ロータ30の回転中心軸がX−Y座標系のどこに位置しているかを計測する回転中心軸位置センサを備えている。
【0031】
ここでロータ30の永久磁石32や永久磁石33が作る磁極位置を計測する回転角センサは、制御に必要な精度に対応した細かい回転角毎に回転角を表す信号をセンサから出力しても良いが、ロータ30の磁極位置を粗い角度で計測し、ロータ30の回転速度あるいはその回転速度の加減速に基づき補間演算し、ロータ30の磁極位置を表す細かい角度を計測するようにしても良い。また、センサに依らずにステータコイルに発生する逆起電力から回転角度、回転角度を推定しても良い。
【0032】
また、ロータの回転速度センサは、前記ロータ30の磁極を表すセンサ出力を利用して演算処理により回転速度を得るものであっても良い。ロータ30の磁極位置を計測するセンサは、ロータ30の回転に基づき計測値を出力するので、例えば一定時間内に前記回転角センサが出力する計測値であるパルスを計数する方法で回転速度を求めても良い。あるいはロータ30が所定の回転角を回転するのに要した時間を計測しその計測値から回転速度を演算により求めても良い。
【0033】
演算処理部50は、計測部40の計測結果に基づいて得られたロータ30に係る制御対象の計測値が制御目標値となるように、供給する電流値を演算する。出力部60は演算された電流値に基づき制御電流を供給する。演算処理部50の具体的な演算処理内容については後述する。
【0034】
3.ロータ30の磁極について
図2はロータ30に設けられた永久磁石32が作る磁極を説明する説明図である。
図2は、ロータ30のインペラー31が有する一側ヨークに設けられた永久磁石32により作られる磁極の状態を示している。
図3は
図2のA−A断面図である。なお、インペラー31が有する他側ヨークも同様の構造および形状であり、同様の磁極が作られる。これらロータ30に永久磁石により作られる磁極を代表し、一側ヨークに作られる磁極について説明する。一側ヨークの磁極も他側ヨークの磁極も、技術的には同じであるのでインペラー31が有する他側ヨークで作られる磁極の説明は省略する。
【0035】
図2および
図3において、一側ヨーク312は磁性材である例えば磁性軟鉄で作られ、中央に穴314が形成されている。この穴は遠心ポンプに流入する例えば血液などの流体の取り入れ口として利用されるものであり、モータの作用としては無くても動作する。一側ヨーク312のステータ鉄心15に対向する一側ヨーク312の面に、この実施例では、4個の永久磁石32a、32b、32c、32dが固定されている。これら永久磁石32はネオジウムあるいはフェライト材で作られている。ネオジウム材の方がフェライト材より残留磁束密度や保持力が大きく、大きな力を発生することができる。なお、永久磁石32の材料は上記に限定されるものではなく、如何なるものでもよい。
【0036】
4個の永久磁石32a、32b、32c、32dを使用することで、この実施例では4極の磁極を発生することが可能となる。以下で説明する4極以外の磁極であっても、磁極の数を変えることにより達成することができる。なお、磁極を固定する面の大きさが同じ場合には、磁極数が増加するに従って1つの極を構成する永久磁石の大きさが小さくなる。
【0037】
図2では、4極の磁極を作り出す永久磁石32a、32b、32c、32dを隙間なく配置しているが、これに限るものではなく、磁極を構成する永久磁石間に隙間を設けても良い。
【0038】
図2は、ロータ30の永久磁石32のステータ鉄心15側の磁極の状態を表しており、永久磁石32を構成する永久磁石32aと永久磁石32cはステータ鉄心15側がS極、その裏面である一側ヨーク312の側がN極である。一方永久磁石32bと永久磁石32dはステータ鉄心15側の面がN極で、その裏面である一側ヨーク312側の面がS極である。本明細書では、ロータ30に設けられた永久磁石の磁極の表示を、ステータ鉄心側の永久磁石面の磁極で表示している。
【0039】
4.ロータ30の傾き制御について
図4と
図5は、Y軸を中心として生じるロータ30の傾きを目標値に制御するための制御の概念を説明する説明図である。ロータ30の傾きはY軸を中心とした傾き成分とX軸を中心とした傾き成分とを有しているが、理解し易くするために先ずY軸を中心とした傾き成分の制御について説明する。全く同様の考え方でX軸を中心とした傾き成分の制御も可能であり、Y軸を中心とした傾き制御とX軸を中心とした傾き制御の両方を組み合わせることでロータ30の全ての傾きに対応する制御が可能となる。また、ロータ30の傾きに対する制御は、一側ステータ10の第2巻線12を用いた制御と他側ステータ20の第2巻線22を用いた制御の何れか一方でも可能であり、もちろんこれら両方を用いることも可能である。
【0040】
一側ステータ10の第2巻線12による制御も他側ステータ20の第2巻線22による制御も技術的には同じであり、説明の煩雑さを避けるために、一側ステータ10の第2巻線12による制御について説明する。即ち、ロータ30の一側の永久磁石32が作る磁極と一側ステータの第2巻線12が作る磁極との関係においてロータ30の傾き制御を説明するが、この考え方はロータ30の他側の永久磁石33が作る磁極と他側ステータの第2巻線22が作る磁極とに基づく傾き制御に関しても同様である。
【0041】
ロータ30は一側ステータ10の第1巻線11が作る回転磁界に基づいて、所定の位相関係で回転している。この実施例では、ロータ30の傾きを第2巻線12に供給する制御電流により制御するので、ある瞬間におけるロータ30の磁極の極性と一側ステータ10の第2巻線12がつくる磁極の極性との関係を
図4に示す。
図4では、ロータ30に設けられた永久磁石32の磁極が4極であり、第2巻線12が作る磁極が2極である場合を示している。以下で説明するが、ロータ30の磁極の極数をPとし、第2巻線12が作る磁極の極数をMとすると、M=P±2の関係が成り立つ。なお、この実施例では第1巻線11が作る磁極数がロータ30の永久磁石32が作る磁極数と同じにしている。
【0042】
第1巻線11が作る磁極数とロータ30の永久磁石32が作る磁極数とを同じにすることにより、大きなトルクを発生することができ、第1巻線11が作る磁極数とロータ30の永久磁石32が作る磁極数とを同じにすることが好ましいが、必ずしもこれに限るものではなく、第1巻線11が作る磁極数とロータ30の永久磁石32が作る磁極数とを異なるようにしても良い。このことは他側ステータ20においても同様である。
【0043】
図4では、第2巻線12と永久磁石32は実際にはZ軸方向に対向する関係に配置されているが、模式的に内側にロータ30の一側永久磁石が作る磁極の状態を記載し、その外周に第2巻線12が作る磁極の状態を記載する。
図5は、
図4に示す磁極のZ軸方向の配置状態と、磁極により発生するY軸を中心とする回転力との関係を説明する説明図であり、Z軸上に配置された一側永久磁石32が作る磁極と第2巻線12が作る磁極との関係を示す。
【0044】
図4および
図5の右側(X軸の正側)では、永久磁石32dが作る磁極と第2巻線12が作る磁極が各々N極であり、第2巻線12の磁極により永久磁石32の右側では反発力41が発生する。一方左方向(X軸の負側)では吸引力42が発生する。上述したように第2巻線12は機械的に固定されているので、ロータ30には、第2巻線12が作る磁極によりY軸を中心とする時計方向の回転力が発生する。この回転力の大きさは第2巻線12に制御部70から供給する制御電流に基づいて定まるので、第2巻線12に供給する制御電流の値を適正に制御することにより前記回転力の大きさを制御できる。第2巻線12に供給する制御電流値を負の値にすると、すなわち位相をπずらすことにより、
図5に記載した極性とは逆の極性の磁極を発生することが可能となり、反時計方向の回転力を発生することができる。
【0045】
第2巻線12に供給する電流とロータ30の永久磁石32との位相を例えばこの実施例ではπ/2シフトすることにより、X軸を中心とする回転力を発生することができる。このように永久磁石32が作る磁極に対して第2巻線12が作る回転磁界の大きさおよび位相を制御することにより、
図4や
図5に示すX軸およびY軸を中心としてロータ30に作用する回転力をそれぞれ組み合わせた回転力を自由に発生することが可能となる。ロータ30のX軸とY軸に対する傾きをセンサで計測し、傾きの目標値に対する計測値のずれに基づき、ロータ30の傾きを目標の状態に戻すための回転力を演算し、演算に基づいて制御電流を第2巻線12に供給することにより、ロータ30の傾きを制御目標値に維持する制御が可能となる。
【0046】
図4や
図5では、一側ステータ10と他側ステータ20およびロータ30に配置された永久磁石32と永久磁石33の内、一側についてのみ説明したが、他側ステータ20および他側の永久磁石33でも同様にX軸およびY軸を中心とする回転力を発生することができる。一側ステータ10により制御される傾き修正力と他側ステータ20により制御される傾き修正力が共にロータ30に作用するので、一側ステータ10による制御と他側ステータ20による制御との組み合わせを色々選択することにより、色々な制御方法が可能となる。状態に適した制御方法を選択することや用途に適した制御方法を選択することができる。
【0047】
ロータ30の傾きを目標値に維持する制御方法として、一側ステータ10と他側ステータ20とで同様の回転力を発生してロータ30の傾き制御を行っても良い。また例えば、Y軸を中心とする傾きの制御を一側ステータ10で行い、X軸を中心とする傾きの制御を他側ステータ20により行うようにし、X軸を中心とする傾き制御とY軸を中心とする傾き制御とに分けて制御するようにしても良い。また、制御の信頼性を高めるために、傾き制御に加えて制御装置の診断を行い、不具合の恐れがある場合には、不具合の生じた方の制御を停止し、正しく動作している方のみでロータ30の傾き制御を行うことが可能である。
【0048】
図6は、
図4や
図5で説明した傾き制御の原理をアキシャル型磁気浮上モータ100で実現する場合の具体的構造を示す説明図である。なお、他側ステータ20およびロータ30の他側ヨークに設けられた永久磁石33の図示を省略する。ロータ30はインペラー31を有し、インペラー31には磁気回路を作るための磁性材から成る一側ヨーク312と他側ヨーク313が設けられている。一側ヨーク312にはその一側ステータ10に対向する面に4個の永久磁石32が設けられており、永久磁石32により4極の磁極が作られている。一方一側ステータ10は、6個の突極を有するステータ鉄心15を有し、各突極に巻回されたコイルにより、第1巻線11と第2巻線12を形成している。第1巻線11はロータ30と同じ4極の回転磁界を発生し、ロータ30の永久磁石32に対して回転トルクを発生する。
【0049】
一方第2巻線12は、ロータ30に設けられた磁極数Pに対してP±2極の磁界を発生する。この実施例では、第2巻線12によりステータ鉄心15のロータ30側に作られるステータ磁極13は2極であり、
図4や
図5を用いて説明したごとく、ステータ磁極13と永久磁石32の磁極との間に、反発力41や吸引力42が発生する。前記反発力41や吸引力42によりY軸を中心とする回転力43が発生する。第2巻線12へ供給する電流値やロータの磁極位置に対する位相を制御することにより、回転力43の大きさや回転力の方向を自由に制御することができるので、ロータ30の実際の傾きをセンサで計測し、ロータ30の傾きを目標値に制御するための制御電流を演算して第2巻線12に供給することにより、ロータ30の傾きを目標値に維持する制御を行うことが可能となる。
【0050】
図7は、ロータ30の永久磁石の極数をPとし、ステータ巻線が作る極数をMとした場合に、M=P±2を満足する場合の状態を示す説明図である。一側ステータ10の第2巻線12と永久磁石32とが作る磁極の関係は、他側ステータ20の第2巻線22とロータ30の他側ステータ20の対向面に設けられた永久磁石とが作る磁極の関係と同じであり、
図7は代表して第2巻線12と永久磁石32との磁極関係のみ記載している。
【0051】
図4と同様に第2巻線12と永久磁石32とはZ軸に沿う方向に於いて、互いに対向しているが模式的に内側に、ロータ30に設けられた永久磁石32により作られる磁極を示し、その外周側に第2巻線12により作られる磁極を示す。
図7(A)はロータ30側の永久磁石32が作る磁極が2極で第2巻線12が作る磁極が4極の状態を示す。
図7(B)はロータ30側の永久磁石32が作る磁極が4極で第2巻線12が作る磁極が6極の状態、
図7(C)はロータ30側の永久磁石32が作る磁極が6極で第2巻線12が作る磁極が8極の状態、
図7(D)はロータ30側の永久磁石32が作る磁極が4極で第2巻線12が作る磁極が2極の状態、
図7(E)はロータ30側の永久磁石32が作る磁極が6極で第2巻線12が作る磁極が4極の状態、
図7(F)はロータ30側の永久磁石32が作る磁極が8極で第2巻線12が作る磁極が6極の状態を、それぞれ示している。
【0052】
先に
図1〜
図6を用いて説明した実施例は、
図7(D)の状態に相当し、ロータ30の永久磁石が作る磁極が4極、第2巻線12あるいは第2巻線22が作る磁極が2極である。第1巻線11や第1巻線21が作る磁極数はロータ30の磁極数と同じであり、4極である。
【0053】
図7(A)〜(C)はM=P+2の状態を表し、
図7(D)〜(F)は M=P−2 の状態を表している。
図7(A)〜(F)は、何れも図の右側では反発力を発生し、図の左側では吸引力を発生する。従って
図4および
図5を用いて先に説明した如く、第2巻線12に供給する電流値や位相を制御することにより、ロータ30の傾きを修正する制御が可能である。
図7(A)〜(F)以外の更に多くの極数に組み合わせにおいても、ロータ30の磁極数をPとし第2巻線12が発生する磁極数をMとした場合に、上述のM=P±2の関係を満足すれば、上述と同様、ロータ30の傾きを修正し、ロータ30の傾きを目標値に維持する制御を行うことが可能である。
【0054】
5.6突極に巻回されたコイルによる2極あるいは4極の回転磁界の発生方法について
図8と
図9は、ステータ鉄心15に形成された6突極に第1巻線11あるいは第2巻線12を巻回し、あるいはステータ鉄心25に形成された6突極に第1巻線21あるいは第2巻線22を巻回して、2極の回転磁極を作る場合のコイルの結線状態をおよびその時の磁極の状態を示す説明図である。ここで
図8はコイルの結線状態を示し、
図9は磁極の状態を示す。
図8で矢印はステータ鉄心15あるいはステータ鉄心25にそれぞれ形成されている突極に巻回されるコイルの巻回方向を示している。またコイルC1からコイルC6は、ステータ鉄心15あるいはステータ鉄心25の突極に対して時計回りに順に配置されているものとする。
【0055】
U相ではコイルC1と該コイルC1に対して逆方向に巻回されたコイルC4が直列接続されている。同様にV相ではコイルC2と該コイルC2に対して逆方向に巻回されたコイルC5が直列接続されている。W相ではコイルC3と該コイルC3に対して逆方向に巻回されたコイルC6が直列接続されている。このように接続して各突極にコイルが巻回されることにより、
図9に示す如く磁極P1と磁極P2を有する回転磁界を発生することができる。この例では、磁極P1がN極となり磁極P2がS極となっている。磁極P1と磁極P2は、
図8のU相、V相、W相を流れる交流電流の周波数に基づく回転速度で回転する回転磁界の磁極を表しており、
図9は、回転している磁極のある瞬間の状態を、静止画として示している。
【0056】
図10と
図11はステータ鉄心15やステータ鉄心25に形成された6突極に第1巻線11あるいは第2巻線12、あるいは第1巻線21、あるいは第2巻線22を巻回して、4極の磁極を発生する場合のコイルの結線状態および発生する磁極を示す説明図であり、
図10はコイルの結線状態を示し、
図11は発生した磁極の状態を示している。
【0057】
図10で矢印はステータ鉄心15やステータ鉄心25の突極に巻回されるコイルの巻回方向を示しており、コイルC1〜C6は突極に対して順に時計回りに配置されているものとする。この場合は、コイルC1〜C6は全て突極に対して同じ巻回方向である。U相ではコイルC1とコイルC4が直列接続されており、V相ではコイルC2とコイルC5が直列接続されており、W相ではコイルC3とコイルC3が直列接続されている。このように接続されることにより、
図11に示す如く磁極P1がN極、磁極P2がS極、磁極P3がN極、磁極P4がS極となる回転磁界が生じる。
図11は回転している磁極のある瞬間を示しており、これら磁極の回転速度は
図10に示すU相、V相、W相を流れる交流電流の周波数に基づいている。
【0058】
6.ロータ30の回転中心軸のX軸あるいはY軸上の位置制御について
6.1 ロータ30のX軸方向の磁気力の発生について
次に、ロータ30の永久磁石の極数をP、一側ステータ10の第2巻線12あるいは他側ステータ20の第2巻線22が作る磁極の極数をMとした場合に、M=P±2の関係を満足するときの磁極配置により発生するX−Y軸上における磁気力について説明する。先ず説明を簡単にするためにX軸上における磁気力について説明する。
図12は、アキシャル型磁気浮上モータ100のロータ30にX軸方向の磁気力が発生する原理を示す説明図である。
図6と同様に、他側ステータ20およびロータ30の他側ヨークに設けられた永久磁石33の図示を省略する。また、ロータ30と一側ステ−タ10の構造も
図6で説明した構造と同様である。
【0059】
図6と同様に、本実施例では一側ステータ10の第2巻線12が発生する磁極13は2極であり、ロータ30の磁極数は4極である。ステータ磁極13とロータ30の永久磁石32の磁極との間に、反発力41と吸引力42が発生するため、Y軸を中心とする時計方向に回転力43が発生する。
図12において、ロータ30の左半分(X軸負方向)の永久磁石が作る磁界のN極32とステ−タの磁極13のS極が吸引力44を発生し、ロータ30の右半分(X軸正方向)の永久磁石が作る磁界のN極32とステ−タの磁極13のN極が反発力45を発生する。吸引力44と反発力45によりX軸方向の力の成分が表れる。その結果、ロータ30の磁極数Pとステータ巻線により作られる回転磁界の磁極数Mとの間に、M=P±2の関係が成り立つ場合には、X軸の正方向に、吸引力44と反発力45に基づいて磁気力46が発生することを発明者が見つけた。
【0060】
ロータ30は、安定した回転を行うために、一側ステータ10および他側ステータ20に基づいて定まる中心軸500にロータ30の回転中心軸が位置して回転することが望ましい。しかし機械的な支持機構が無いのでロータ30が回転している間にロータ30の中心軸である回転中心軸がロータ30の径方向すなわちX軸方向またはY軸方向にずれることがある。本実施例では、ロータ30の回転中心軸と中心軸500の位置のX軸及びY軸方向のずれをセンサで計測し、ロータ30の回転中心軸を中心軸500の位置に戻すための径方向磁気力、例えば磁気力46を発生する制御が可能である。
【0061】
つまり、制御部70の出力部60から第2巻線12へ供給する制御電流の電流値やロータの磁極位置に対する位相を制御することにより、回転力43の大きさや回転力の方向を制御するときと同様に、磁気力46の大きさやその磁気力46の方向を制御することができる。例えば、ロータ30の回転中心軸がX軸の正方向にずれている場合には、ロータ30に対してX軸の負方向に作用する磁気力46を発生することが必要であり、第2巻線12に供給する電流値を負の値にして、すなわち第2巻線12に供給する電流値の位相をπずらして、反時計方向の回転力43を発生させ、X軸の負の方向に磁気力46を発生させればよい。
【0062】
また例えば、ロータ30の回転中心軸のずれを修正するために、ロータ30に対してY軸の正方向に作用する磁気力46を発生することが必要な場合には、
図12のX軸の正方向の磁気力46を発生している第2巻線12に供給する制御電流に対して、ロータ30の磁極に対する位相をさらにπ/2ずらした制御電流を第2巻線12に供給すれば良い。このように、ロータ30の磁極に対する第2巻線12への制御電流の位相と該制御電流の大きさを変えることにより、ロータ30に作用する磁気力46のX−Y座標系での方向やその大きさを制御することができる。
【0063】
図12でロータ30の磁極数Pが4極、第2巻線12が発生する回転磁界の磁極数Mが2極の例を説明した。しかし上記説明は
図12の磁極の関係に限るものではない。
図13は
図7と同様に、ロータ30の永久磁石の極数がP、ステータ巻線が作る極数Mが、M=P±2の関係を満足する場合の磁極の状態と、発生する磁気力の向きを示す説明図である。
図7と同様に、
図13では説明の簡略化のため、第2巻線12と永久磁石32との磁極の関係のみ記載している。
【0064】
図13はロータ30の永久磁石の極数をPとし、ステータ巻線が作る極数をMとした場合に、M=P±2を満足する場合の状態を示す場合に生じるX軸方向力の説明図である。
図13(A)〜(F)のロータ30側の永久磁石32が作る磁極と、第2巻線12が作る磁極の状態は、
図7(A)〜(F)の磁極と同様であるため、説明を省略する。なお、
図12を用いて説明した実施例は、
図13(D)の状態に相当する。
図13(A)〜(C)に記載のロータ30の磁極数Pと第2巻線12が発生する回転磁界の磁極数Mとの関係は、M=P+2の関係である。このときは、X軸の負方向に磁気力が発生する。一方、
図13(D)〜(F)に記載のロータ30の磁極数Pと第2巻線12が発生する回転磁界の磁極数Mとの関係は、M=P−2の関係である。このとき、
図12を用いて説明したようにX軸の正方向に磁気力が発生する。
【0065】
6.2 ロータ30の傾きに対する制御とロータ30の回転中心軸位置の制御について
図6及び、
図12においては、説明の簡単化のため一側ステ−タ10と、ロータ30に発生する回転力43と磁気力46について述べたが、次に
図1で説明したように一側ステ−タ10とZ軸方向に対向するように、同一構造の他側ステ−タ20が配置されているため、この2つのステ−タによるロータ30の制御について説明する。本実施例では、ロータ30の傾きを制御するための回転力とロータ30の回転中心軸のずれを修正するための磁気力を発生させるため、ロータ30の永久磁石の極数がP、ステータ巻線が作る極数Mが、M=P±2の関係を満足するように、例としてロータ30の永久磁石の極数が4、ステータ巻線が作る磁界の極数が2の場合について説明する。
【0066】
図14(a)と(b)は、一側ステ−タ10と他側ステ−タ20によりロータ30のY軸を中心とした傾きとX軸方向の回転中心軸の位置を制御する場合の制御原理を示す説明図である。ここでは、一側ステ−タ10の第2巻線12と他側ステ−タ20の第2巻線22へ供給する電流値は同じとし、前記両ステ−タにより発生する回転力43と回転力48および磁気力46と磁気力47の大きさは同じとする。一側ステ−タ10と他側ステ−タ20は同一のものである(巻き線の巻き方、方向が同じで上下をひっくり返したもの)とし、一側ステ−タ10の第2巻線12と他側ステ−タ20の第2巻線22に同一方向で等しい電流を流した時には
図14(a)の13、23のように磁極が発生されるものとする。
【0067】
ロータ30の一側ステ−タ10に対向する面32と、他側ステ−タ20に対向する面33には極数4の永久磁石が設けられている。
図14に記載の実施例では、ロータの両側面で同じ磁極配置となるように永久磁石が配置されている。
図14(a)と(b)に示す様に、ロータの磁石の配置は面32と面33の両側面で同じ磁極配置、つまり面32のN極の他側面33がN極になる磁極の配置状態で以下説明するが、これに限るものではない。
図12や
図4〜
図6で説明した如く、第2巻線12やステータ磁極13に供給する電流の位相をロータの磁極との関係において制御することにより、傾きを是正するために発生する回転力の方向や、ロータ30の回転中心軸の位置を是正するために発生する磁気力46の方向を、X-Y座標上で自由に制御できるので、ロータ30の一側ステータ10に対向する永久磁石32の磁極配置と、他側ステータ20に対向する永久磁石33の磁極配置とを、ずらしても良い。例えば永久磁石32のN極に対応する永久磁石33がS極となるように90度ずらして配置してもよい。以下の説明では、説明を分り易くするために、
ロータ30の両側面に配置された永久磁石32と永久磁石33とが同じ配置で、磁極配置が同じであるとする。
【0068】
図14(a)は、一側ステ−タ10の第2巻線12と他側ステ−タ20の第2巻線22にそれぞれ同一方向の制御電流を供給し、Y軸を中心とする回転力43と回転力48とが発生するようにした場合の回転力と磁気力との関係を示す図である。一側ステ−タ10の第2巻線12と他側ステ−タ20の第2巻線22が作る回転磁界はロータ30に対して常に同位相とする。
図6と
図12を用いて説明したように、一側ステ−タ10が作る磁界13と、ロータ30の永久磁石32が作る磁界により、Y軸周りに時計方向の回転力43が発生する。同時に、X軸の正方向に磁気力46が発生する。
【0069】
他側ステ−タ20にも一側ステ−タ10と同じ大きさで同じ位相の制御電流を供給している。他側ステ−タ20が作る磁界23とロータ30の永久磁石33が作る磁界により、Y軸周りに時計方向の回転力48が発生し、同時にX軸の負方向に磁気力47が発生する。このとき、ロータ30の両側面の回転力43と48は同じ時計方向に発生するため互いに強め合い、磁気力46と磁気力47は反対方向に発生するため、互いに打ち消しあう。
【0070】
従って、一側ステ−タ10と他側ステ−タ20にそれぞれ同一方向の制御電流を供給した場合には、ロータ30には回転力43、48のみを発生させることができる。この力によりロータ30を、Y軸を中心として時計周りに傾けることができる。ロータ30の回転中心軸のずれが少なく、傾きのみを是正する場合には、このようにして同一方向の制御電流を第2巻線12と第2巻線22とに供給することにより回転力のみを発生させて傾きのみを制御することができる。また、第2巻線12と第2巻線22が作る回転磁界のロータに対する位相を変化させることにより、同様に磁気力46と磁気力47とを互いに相殺しながら回転力43と回転力48の回転軸をX−Y座標上で任意の方向に回転させることが可能となる。例えば、回転磁場とロータの位相差をπとすることで、回転力43と回転力48はX軸周りに発生することになる。また、
図14に示す状態で第2巻線12と第2巻線22に供給している制御電流の方向を負の方向に逆転することで、磁気力46と磁気力47の方向を逆転させ、回転力43や回転力48の回転方向を時計方向から反時計方向に変えることができる。
【0071】
図14(b)は、一側ステ−タ10の第2巻線12に正方向の電流を供給し、他側ステ−タ20の第2巻線22には負方向の電流を供給した場合に、ロータ30に発生する回転力と磁気力の関係を示した図である。前述のように、一側ステ−タ10の第2巻線12が作る磁界13と、ロータ30の永久磁石32が作る磁界により、Y軸周りに時計方向の回転力43が発生し、同時にX軸の正方向に磁気力46が発生する。
【0072】
他側ステ−タ20には負方向の制御電流を供給している。他側ステ−タ20の第2巻線22が作る磁界23とロータ30の永久磁石33が作る磁界により、Y軸周りに反時計方向の回転力48が発生し、同時にX軸の正方向に磁気力47が発生する。このとき、ロータ30の両側面に生じる回転力43と回転力48は反対方向に発生するため互いに打ち消し合い、磁気力46と47は同一方向に発生するため互いに強め合う。
【0073】
従って、一側ステ−タ10の第2巻線12に供給する制御電流と、他側ステ−タ20の第2巻線22に供給する制御電流の方向を逆にすることにより、ロータ30に磁気力46、47のみ発生させることができる。ロータ30の回転中心軸が
図12に示した中心軸よりもX軸の負方向にずれていて、Y軸周りの傾きのずれがない場合には、回転力43と回転力48とを互いに相殺させ、ロータ30の回転中心軸のみをX軸の正方向に移動させるための磁気力46と磁気力47を発生させて、径方向制御であるロータ30の回転中心軸の位置制御のみを行うことが可能である。
図14(b)は、一側ステ−タ10の第2巻線12に正方向の制御電流、他側ステ−タ20の第2巻線22に負方向の制御電流を供給した場合である。この状態で、第2巻線12と第2巻線22にそれぞれ逆方向の制御電流を与えると、回転力43と回転力48を互いに相殺させた状態を維持して(回転力43と回転力48の方向は逆転する)、磁気力46や磁気力47の力の方向を逆方向に変えることができる。
【0074】
このように
図14(b)の構成において、第2巻線12と第2巻線22に供給する制御電流の方向を変化させることにより、回転力43と回転力48とを互いに相殺して、磁気力46と磁気力47を相加することができ、ロータ30の傾きを変えないで、ロータ30の回転中心軸の位置をX軸上で移動することができる。さらに第2巻線12と第2巻線22に供給する制御電流の電流方向を維持したまま、第2巻線12と第2巻線22が生じる回転磁場の位相をロータ30の磁極に対して変えることにより、ロータ30の傾きを変えないで、ロータ30の回転中心軸の位置をX−Y座標上で移動することができる。このように、ロータ30の回転中心軸の位置をX−Y座標上の所定の位置に維持する制御が可能である。
【0075】
また、前述したロータの両側面の永久磁石32と永久磁石33の配置を回転方向にずらすことにより、例えば一側の永久磁石32のN極に対応する他側の永久磁石33がS極となるように、永久磁石32と永久磁石33の磁極を互いに回転方向に90度ずらして配置した場合には、
図14(a)(b)に記載したロータ30の上下面で発生する回転力の方向や磁気力の方向が逆となり、一側ステ−タ10と他側ステ−タ20に同じ方向、すなわち同一方向の制御電流を供給しても
図14(b)で説明した効果が得られる。逆に、この場合には一側ステ−タ10と他側ステ−タ20に逆向きの電流を供給すると、
図14(a)で説明した効果が得られる。
以上の様に、一側ステ−タ10の第2巻線12と他側ステ−タ20の第2巻線22に供給する制御電流の方向や、ロータ30の磁極に対する第2巻線12や第2巻線22が作る回転磁場のロータに対する位相差を調整することで、回転力または磁気力の両方を発生させたりあるいは一方のみを発生させたり、またこれらの力の方向をX−Y座標上で自由に制御することが可能となる。力の大きさを第2巻線12と第2巻線22に供給する制御電流の大きさを変えることによって制御することができる。
【0076】
7.制御部70の演算処理について
7.1 ロータ30のZ軸方向における位置およびロータ30の回転速度制御について
次に、Z軸方向におけるロータ30の位置を所定の位置に維持する制御と、ロータ30の回転速度の制御について説明する。前述のように、一側ステ−タ10の第1巻線11と他側ステ−タ20の第1巻線21は、回転磁界を発生して永久磁石32を備えるロータ30に回転力(トルク)を発生するのに使用され、さらにZ軸上において、ロータ30を所定の位置に維持する制御に使用される。
【0077】
三相交流の制御電流は、q軸(トルク)成分の電流I
qとd軸(界磁)成分の電流I
dからなる二相の直流電流I
d、I
qとして制御量を演算し、演算された制御量を後述する二相三相変換部109で、三相交流に変換して、三相の制御電流値を求めることができる。
【0078】
ロータ30をZ軸の所定位置に維持する制御は、Z軸上に対向して配置される第1巻線11による磁界とロータ30に設けられた永久磁石32との間の磁束密度を増減して吸引力を調整することにより、さらにまたZ軸上に対向して配置される第1巻線21による磁界とロータ30に設けられた永久磁石33との間の磁束密度を増減して吸引力を調整することによりおこなう。永久磁石32や永久磁石33に対して吸引力を増減する磁界は第1巻線11や第1巻線21に供給される制御電流のd軸(界磁)成分で制御することができる。
【0079】
一方ロータ30の回転速度の制御は、目標回転速度との相違に基づき、第1巻線11や第1巻線21による磁界とロータ30に設けられた永久磁石32や永久磁石33により発生する回転トルクの大きさを制御することにより、おこなわれる。回転トルクの大きさは第1巻線11や第1巻線21に供給される制御電流のq軸(トルク)成分の電流I
qにより制御することができる。
【0080】
ロータ30をZ軸の所定位置に維持するためのZ軸方向の増減分の吸引力やロータ30の回転速度を目標速度に維持するための回転トルクの制御は、ベクトル制御の理論を用いることにより、電流の指令値が演算され、演算されたd軸(界磁)成分やq軸(トルク)成分の値に基づき、三相交流電流が指令電流値が求められ、第1巻線11や第1巻線21に供給する制御電流が作られる。前記Z軸方向の増減分の吸引力Fおよび回転トルク(回転力)Tは、d軸(界磁)成分の電流I
qとq軸(トルク)成分の電流I
qを用いて以下の式で計算することができる。
【0081】
【数1】
ここで、k
Fとk
Tは比例定数である。数式(数1)を用いることにより、ロータ30のZ軸方向の位置制御のためのZ軸方向の増減分吸引力を発生する制御電流I
dを演算することができる。さらにロータ30の回転速度の制御に必要な回転トルクを発生するための制御電流I
qを演算により決定することができる。決定した電流値I
dおよびI
qを後述する二相三相変換部109で座標変換することにより、三相交流電流値に変換し、変換された三相交流電流値に基づいて、出力部60により三相交流電流を発生して、第1巻線11を構成するコイルへ交流電流値I
U、I
V、I
Wに基づく制御電流を供給する。
【0082】
図15は、ロータ30のZ軸方向における位置を制御し、さらにロータ30の回転速度を制御するための制御ブロック図である。ロータ30の制御部は、計測部40と高速に演算を行う演算処理部50と演算結果に基づいて制御電流を発生する出力部60を備えている。
【0083】
Z軸方向におけるロータ30の位置の制御およびロータ30の回転速度制御には、3つの渦電流変位センサなどの変位センサ101、102、103と、一側ステ−タ10と他側ステ−タ30に配置されたホールICなどの回転角度センサ104と、それぞれの変位センサの出力をディジタル値に変換するA/D変換器、回転角度、速度を計算する計算部が使用される。3つの変位センサ101、102、103によってZ軸方向におけるロータ30の位置がそれぞれ計測され、A/D変換器によりそれぞれディジタル値に変換される。またロータ30の回転速度はホールICなどを用いたセンサ104により計測される。センサ104により計測されたロータ30の回転速度は後述するロータ30の回転速度の制御に使用される。
【0084】
演算処理部50は、以下に説明する演算を行う。この明細書では、代数計算だけでなく予め算出されたあるいは予め設定されていた結果を入力データに基づいて検索して結果を得る方式なども含めて、演算と定義する。なお、計測部40に記載したA/D変換器は前記マイクロプロセッサが内蔵するA/D変換機能を演算処理の中で適切なタイミングで行っても良い。計測部40、演算処理部50、出力部50はワンチップマイクロコンピュータ、DSPなどのコンピュータシステムを使用して実現しても良い。本実施例ではこれらを構成する各機能ブロックは上記ワンチップマイクロコンピュータと処理プログラムで実現される。
【0085】
演算処理部50は、ディジタル値に変換された各センサ101〜103により計測されたZ軸方向における計測値Z1とZ2、Z3を取り込み、計測値Z1とZ2、Z3の平均値を演算して、Z軸方向におけるロータ30の位置Zを演算する。Z軸方向におけるロータ30の目標位置との偏差を演算し該偏差に基づき必要なZ軸方向の吸引力FをPID制御部105により演算する。演算されたZ軸方向吸引力Fから(数1)を用いて演算部106により、電流値I
dを演算により求める。
【0086】
演算部106で演算された電流値I
dと後述する演算により算出された電流値I
qを二相三相変換部109で変換して三相交流電流値I
U、I
V、I
Wを求める。これら三相交流電流値I
U、I
V、I
Wに基づく三相交流電流を、出力部60が有するD/A変換器201〜203で発生し、リニアアンプ等を通して一側ステータ10の第1巻線11に供給する。
【0087】
次にロータ30の回転トルクの制御に係る演算について説明する。ホールICで作られるセンサ104を用いて、ロータ30の永久磁石32、33を検知することにより、ロータの磁極位置を表す回転角およびロータ30の回転速度が計測される。そして、センサ104の出力信号が回転速度計算部を介して演算処理部50に取り込まれる。上述したZ軸方向吸引力Fの計算と同様に、演算処理部50のPID制御部107においてフィードバック制御のための、予め設定した目標値の回転速度値と測定された回転速度値の差が演算され、目標値の回転速度値になるために必要な回転力Tが算出される。そして、演算部108において回転力Tから(数1)を用いて電流値I
qが演算される。
【0088】
後述する電流値マイナスI
dとI
qを座標変換部110により三相交流電流値I
U、I
V、I
Wに変換する。そして、出力部60のD/A変換器により、演算された三相交流電流値I
U、I
V、I
Wのディジタル信号をアナログ信号に変換して、リニアアンプ等を通して他側ステータ20の第1巻線21に供給する。
【0089】
第1巻線11と第1巻線21でロータ30のZ軸上の位置を制御する。この場合にロータ30に作用する力の作用する方向が第1巻線11と第1巻線21とでは逆となる。このため制御量を互いに逆にすることが必要である。即ちロータ30を一側ステータ10の方向に移動する場合には、第1巻線11とロータ30との間の吸引力を増加し、第1巻線21とロータ30との間の吸引力を減少するようにしなければならない。このため第1巻線21へ供給する三相交流電流値を、演算部106で演算された第1巻線11のための演算値Idの逆方向の力を表すマイナスIdとして二相三相変換部110に入力する。二相三相変換部109で変換された三相交流電流値に基づいて、出力部60により三相交流電流を発生して、一側ステータ10の第1巻線11を構成するコイルへ制御電流としてリニアアンプ等を通して供給する。また、二相三相変換部110で変換された三相交流電流値に基づいて、出力部60により三相交流電流を発生して、他側ステータ20の第1巻線21を構成するコイルへ制御電流としてリニアアンプ等を通して供給する。このようにすることにより、第1巻線11や第1巻線21に基づいて発生した回転磁界により、ロータ30のZ軸上の位置の制御や、ロータ30に作用する回転トルクの制御に基づくロータ30の回転速度の制御を行うことができる。
【0090】
図15に記載の演算ブロック図では、ロータを回転させるために三相交流の制御電流を一側ステ−タ10の第1巻線11と他側ステ−タ20の第1巻線21に供給している。三相交流を使用することにより回転磁界を効率よく発生することができるが、回転磁界を発生させるのに必ずしも三相交流に限る必要はない。後述するように発生させる回転磁界の極数はロータの磁極数の関係できめられ、ステ−タの突極数との関係で三相以外の交流を使用する場合も考えられる。例えば、ロータを回転させるための回転磁界をニ相の交流で発生させることができるし、あるいは六相の交流を使用して回転磁界を発生することもできる。従って第1巻線11や第1巻線21に供給する制御電流に三相交流電流を使用する場合には効率よく回転磁界を発生することができるが、発生する回転磁界の極数や第1巻線11や第1巻線21を構成するコイルの数により、他の相の交流を制御電流として供給することも可能である。
【0091】
7.2ロータの傾き制御およびロータ30の回転中心軸のX−Y座標上の位置について
前述のように、ロータ30の傾き制御と径方向位置の制御は、一側ステ−タ10の第2巻線12と他側ステ−タ20の第2巻線22に供給される制御電流の方向、回転磁場の位相と波高値を調節することにより、行われる。一側ステ−タ10と他側ステ−タ20により発生する傾きを制御する回転力tと径方向磁気力fは、一側ステ−タ10の第2巻線12に供給される電流をI
topとし、他側ステ−タ20の第2巻線22に供給される電流をI
bottomとすると、以下の式(数2)で表される。
【0092】
【数2】
ここで、k
Rとk
Tは比例定数である。数式(数2)を用いることにより、ロータの傾き制御および径方向位置制御に必要な径方向磁気力すなわちXあるいはY座標方向の成分を有する磁気力、およびX軸あるいはY軸を中心とする回転成分を有する回転力に従ってI
topおよびI
bottomを演算により決定する。決定した電流値I
topおよびI
bottomを座標変換することにより、例えば三相交流へと変換しコイルへ交流の電流値I
U、I
V、I
Wを算出し、これに基づく交流電流を第2巻線12と22に供給することにより磁界を発生させる。
【0093】
図16はロータ30の傾きと径方向位置の制御を行うための制御ブロック図である。
図16の演算部209を含む方は、X軸回りの傾きおよびY軸方向位置制御を行うための制御ブロック図であり、
図16の演算部307を含む方は、Y軸回りの傾きおよびX軸方向位置制御を行うための制御ブロック図である。ロータ30の制御部は、
図15を用いてロータのZ軸方向位置および回転速度制御で説明でしたものと同様であり、計測部40、高速に演算を行う演算処理部50、出力部60から構成される。
【0094】
計測部40の構成は、
図15で説明した構成と同じであるが、ロータ30の傾きと径方向位置制御には、ロータ30上面の3つの変位センサ101、102、103と、ロータ30の外周のX軸とY軸上にそれぞれ1つ配置された変位センサ204、205と、それぞれのA/D変換器が使用される。
【0095】
演算処理部50は、必要な径方向磁気力fと傾き復元回転力tを算出するPID制御部207、208、305、306と、(数2)を用いて電流値I
topおよびI
bottomが計算される演算部209、307と、電流値I
topおよびI
bottomを座標変換することにより三相交流電流I
U、I
V、I
Wに変換する演算部300、308とからなる。
【0096】
そして、出力部60は、計算された三相交流電流I
U、I
V、I
Wのディジタル信号をアナログ信号に変換するD/A変換器301〜303、309〜311と、一側ステ−タ10の第2巻線12と他側ステ−タ20の第2巻線22に電流を供給するためのリニアアンプから構成される。
【0097】
次に、
図16に示すロータ30のY軸方向位置と傾き回転制御について具体的に説明する。ロータ30のX軸周りの傾きθ
xは、変位センサ101、102、103で検知される。検知されたアナログ信号は、A/D変換器を介してディジタル信号に変換され、Z軸方向の値Z1、Z2、Z3が出力され、それらの値からX軸周りの傾きθ
xがθ
x計算部206で計算される。
【0098】
そして、演算処理部50のPID制御部207においてフィードバック制御により、予め設定した目標値のX軸周りの傾きθ
xと、算出された傾きθ
xの差が計算され、目標値のθ
xになるために必要な回転力t
θxが計算される。
【0099】
また、ロータ30の外周のY軸上に配置された変位センサ205を用いて、ロータ30のY軸方向の位置Yが計測される。そして、位置YがA/D変換器を介して演算処理部50に取り込まれる。演算処理部50のPID制御部208においてフィードバック制御により、予め設定した目標値のYと測定されたYの差が計算され、目標値のYになるために必要な径方向の磁気力f
yが計算される。
【0100】
ロータ30のY軸周りの傾きθ
yは、変位センサ101、102、103で検知される。検知されたアナログ信号は、A/D変換器を介してディジタル信号に変換され、Z軸方向の値Z1、Z2、Z3が出力され、それらの値からY軸周りの傾きθ
yがθ
y計算部304で計算される。
【0101】
そして、演算処理部50のPID制御部305においてフィードバック制御により、予め設定した目標値のX軸周りの傾きθ
yと、算出された傾きθ
yの差が計算され、目標値のθ
yになるために必要な回転力t
θyが計算される。
【0102】
また、ロータ30の外周のX軸上に配置された変位センサ204を用いて、ロータ30のX軸方向の位置Xが計測される。そして、位置XがA/D変換器を介して演算処理部50に取り込まれる。演算処理部50のPID制御部306においてフィードバック制御により、予め設定した目標値のXと測定されたXの差が計算され、目標値のXになるために必要な径方向の磁気力f
xが計算される。
【0103】
そして、演算部209において、回転力t
θxと径方向磁気力f
yから(数2)を用いて電流値I
topθXおよびI
bottomθXが計算される。次に、演算部307で、回転力t
θyと径方向磁気力f
xから(数2)を用いて電流値I
topθYおよびI
bottomθYが計算される。次に演算部300と308で、一側ステ−タ10と他側ステ−タ20にそれぞれ流す電流値I
topおよびI
bottomを求め、座標変換により三相交流電流I
U、I
V、I
Wに変換し、出力部60のD/A変換器301〜303、309〜311により、計算された三相交流電流I
U、I
V、I
Wのディジタル信号をアナログ信号に変換して、一側ステ−タ10の第2巻線12と他側ステ−タ20の第2巻線22にリニアアンプを介して電流を供給する。
【0104】
以上のようにして、ロータ30のX、Y軸方向の位置とX軸周り、Y軸周りの傾き回転制御を行う。
【0105】
8.他の実施例について
上述の実施例では、一側ステータ10あるいは他側ステータ20は第1巻線11と第2巻線12あるいは第1巻線21と第2巻線22とを有し、ステータ鉄心15には第1巻線11と第2巻線12とが発生した磁界が加算された状態の磁界が表れ、ロータ30の永久磁石に作用する。一方第1巻線21と第2巻線22とがそれぞれ発生した磁界がステータ鉄心25で加算され、加算された磁界としてロータ30の永久磁石に作用する。一側ステータ10あるいは他側ステータ20の第1巻線11と第2巻線12あるいは第1巻線21と第2巻線22との代わりに第1巻線11と第2巻線12の機能を持たせるために、あるいは第1巻線21と第2巻線22の機能を持たせるために、少なくとも1つの巻線を一側ステータ10と他側ステータ20にそれぞれ持たせることができる。この場合は、第1巻線11と第2巻線12に供給する制御電流を加算し、この加算した状態の電流を、一側ステータ10に持たせた少なくとも一つの巻線に制御電流として供給する。また第1巻線21と第2巻線22供給する制御電流を加算し、加算した状態の電流を、他側ステータ20に持たせた少なくとも一つの巻線に、制御電流として供給する。