(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項6に記載の方法で複数種のカレット原料を作製し、少なくとも前記カレット原料を含む原料を再熔融して熔融ガラスを作製し、前記熔融ガラスを成形する光学ガラスの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0007】
ガラス融液の温度を徐々に下げ、液相温度と呼ばれる温度より低い温度域まで低下させると、結晶相のほうが安定になるため、融液の中に結晶が析出し始める。一度、析出した結晶は、ガラス融液の温度を上昇させない限り、消えることはなく、結晶が析出したガラス融液を冷却すると、結晶粒を含むガラスになる。このようなガラスに光を照射すると、結晶粒によって光が散乱され、不透明となり、即ち「失透する」こととなる。
結晶析出はガラス融液中の構成物質が微視的に規則的に配列することにより起こる。そこで、このような規則的な配列がおこる前にガラス融液を急冷し、固化すれば、結晶を析出させずに透明なガラスを製造することができる。
次に固化した結晶を含まないガラスを再加熱すると粘度が低下し、ガラス中の構成物質の規則的な配列(結晶の析出)が起こる。結晶が析出したガラスをさらに昇温させ、その温度が液相温度に達すると結晶が融解し、均質なガラス融液が得られる。
【0008】
(1)熔融状態のガラスの耐失透性
本願発明において、一度固化したガラスを再加熱し、結晶が析出した後、さらに昇温して結晶が融解して消滅する温度を液相温度とする。液相温度が低いほど、ガラス融液を低温で扱っても失透を回避することができ、製造が楽になる。すなわち液相温度が低いほど、熔融状態の耐失透性が高いということになる。本願発明においては、(1)熔融状態のガラスの耐失透性の指標として液相温度を使用する。
【0009】
[液相温度LT]
本願発明において、液相温度の好ましい範囲は1120℃以下である。より好ましい範囲は1115℃以下、さらに好ましい範囲は1110℃以下、一層好ましい範囲は1100℃である。液相温度の下限は本願発明の組成から自ずと定まる。目安として900℃を液相温度の下限と考えることができる。
液相温度を低下させることにより、次のような効果を得ることができる。
(1)ガラス融液の成形が容易になる。
(2)熔解温度を低く設定できるので、白金製容器でガラスを熔融しても白金イオンの溶け込み量を少なくすることができ、白金イオンによるガラスの着色を抑制することができる。
(3)熔解温度を低く設定できるので、ガラス融液からの揮発量を抑制することができ、屈折率、アッベ数などの光学特性をはじめとする諸特性を安定化することができる。揮発に起因する脈理の発生を抑制することはでき、高品質の光学ガラスを得ることができる。
(4)シリカなどの非金属製の器具を用いて粗熔解する際、粗熔解温度を低くすることができるのでガラス熔融物による非金属製器具の侵蝕を抑制することができる。したがって、シリカなどの非金属材料の溶け込みによる光学特性の変動を抑制することができる。
【0010】
(2)ガラス融液を急冷固化した後再加熱した時の耐失透性
固化したガラスを再加熱すると、原子分子の凍結が解除され、結晶の析出が始まる。結晶析出が始まる最低温度が結晶化ピーク温度Txである。固化したガラスを再加熱して成形する際、ガラスを軟化させないと成形ができない。ただし、軟化時のガラスの温度が結晶化ピーク温度Txに近づきすぎると失透してしまう。そこで、Tx−軟化温度が大きいほど、ガラスを失透させずに成形しやすくなる。本願発明では、軟化温度の代わりに測定が容易なガラス転移温度Tgを用い、Tx−Tgを(2)ガラス融液を急冷固化した後再加熱した時の耐失透性の指標とする。
【0011】
[結晶化ピーク温度Txとガラス転移温度Tg]
結晶化ピーク温度Txの測定は以下のとおりである。まず、ガラスを乳鉢で十分粉砕したものを試料とし、高温型示差走査熱量計を使用して測定し、試料の温度を上昇させながら試料の発熱・吸熱量を測定する。横軸に試料の温度、縦軸に試料の発熱・吸熱量をとると示差走査熱量曲線(DSC曲線)が得られる。示差走査熱量分析において、試料を昇温すると吸熱ピークが現れ、さらに昇温すると発熱ピークが現れる。この発熱ピークが生じ始める点が結晶化ピーク温度(Tx)である。示差走査熱量曲線(DSC曲線)においてベースラインから発熱ピークが現れる際に傾きが最大になる点における接線と前記ベースラインの交点を結晶化ピーク温度(Tx)とする。
本願発明において、再加熱時の耐失透性を改善する上から、結晶化ピーク温度Txとガラス転移温度Tgの温度差ΔTが95℃以上であることが好ましい。
再加熱時のガラスの耐失透性を改善する上から、ΔTのより好ましい下限は100℃、さらに好ましい下限は110℃、一層好ましい下限は120℃、より一層好ましい下限は130℃、さらに一層好ましい下限は140℃、なお一層好ましい下限は150℃である。ΔTの上限は本願発明の組成から自ずと定まる。目安として250℃をΔTの上限と考えることができる。
再加熱時のガラスの耐失透性を改善する上から、結晶化ピーク温度Txの好ましい下限は500℃、より好ましい下限は550℃、さらに好ましい下限は600℃であり、所望の光学特性、熔融状態における耐失透性を実現する上から、結晶化ピーク温度Txの好ましい上限は950℃、より好ましい上限は900℃、さらに好ましい上限は850℃である。
再加熱によるガラスの成形、成形後の徐冷をより低温で行い、生産設備の熱的消耗を抑える上から、ガラス転移温度Tgの好ましい上限は750℃、より好ましい上限は700℃、さらに好ましい上限は650℃である。
所望の光学特性、熔融状態における耐失透性を実現する上から、ガラス転移温度Tgの好ましい下限は350℃、より好ましい下限は400℃、さらに好ましい下限は450℃である。
なお、本願発明の光学ガラスは、後述するリヒートプレス法による成形に好適であるとともに、ガラス転移温度が低いため、精密プレス成形用ガラスとしても好適である。
【0012】
以下、本願発明の実施の形態について説明する。
[ガラス組成]
以下、特記しない限り、ガラス成分の含有量及び合計含有量は質量%表示とする。また、ガラス成分の含有量同士の比は質量比により表すものとする。
【0013】
(B
2O
3+SiO
2)
B
2O
3、SiO
2はともにガラスのネットワーク形成成分である。ガラスの熱的安定性を良好にするために、B
2O
3及びSiO
2の合計含有量(B
2O
3+SiO
2)を15%以上とする。一方、B
2O
3及びSiO
2の合計含有量が37%を超えると所要の光学特性を維持することが困難になる。したがって、B
2O
3及びSiO
2の合計含有量は15〜37%である。
なお、ガラスの熱的安定性とは、(1)熔融状態のガラスの耐失透性、(2)ガラス融液を急冷、固化した後、再加熱した時の耐失透性、の両方((1)及び(2))を意味する。
熱的安定性を改善する上から、B
2O
3+SiO
2の好ましい下限は17%であり、より好ましい下限は19%、さらに好ましい下限は21%、一層好ましい下限は23%である。所要の光学特性を維持する上から、B2O
3+SiO
2の好ましい上限は35%であり、より好ましい上限は33%、さらに好ましい上限は31%、一層好ましい上限は29%、より一層好ましい上限は28.5%である。
【0014】
(B
2O
3/(B
2O
3+SiO
2))
ただし、B
2O
3及びSiO
2の合計含有量が上記範囲であっても、B
2O
3及びSiO
2の合計含有量に対するB
2O
3含有量の質量比(B
2O
3/(B
2O
3+SiO
2))が0.15未満であると液相温度が上昇し、熔融状態のガラスの耐失透性が低下する。したがって、質量比(B
2O
3/(B
2O
3+SiO
2))は0.15以上である。
ガラスの熱的安定性、特に熔融状態のガラスの耐失透性を改善する上から、B
2O
3/(B
2O
3+SiO
2)の好ましい下限は0.2、より好ましい下限は0.24、さらに好ましい下限は0.25、一層好ましい下限は0.3である。また、ガラスの熱的安定性、特に再加熱時のガラスの耐失透性を改善する上から、B
2O
3/(B
2O
3+SiO
2)の好ましい上限は0.99、より好ましい上限は0.96、さらに好ましい上限は0.95、一層好ましい上限は0.94、より一層好ましい上限は0.9、さらに一層好ましい上限は0.8、なお一層好ましい上限は0.7、特に好ましい上限は0.6である。
【0015】
(TiO
2+Nb
2O
5+ZrO
2)
TiO
2、Nb
2O
5及びZrO
2は、ガラスの屈折率、分散を高める働きがある成分である。所要の光学特性を得るために、TiO
2、Nb
2O
5及びZrO
2の合計含有量(TiO
2+Nb
2O
5+ZrO
2)を15%以上とする。一方、TiO
2、Nb
2O
5及びZrO
2の合計含有量が45%を超えるとガラスの熱的安定性が低下する。したがって、TiO
2、Nb
2O
5及びZrO
2の合計含有量は15〜45%である。
所要の光学特性を得る上から、TiO
2+Nb
2O
5+ZrO
2の好ましい下限は18%、より好ましい下限は21%、さらに好ましい下限は24%、一層好ましい下限は25%、より一層好ましい下限は27%である。ガラスの熱的安定性を改善する上から、TiO
2+Nb
2O
5+ZrO
2の好ましい上限は43%、より好ましい上限は41%、さらに好ましい上限は40%、一層好ましい上限は39%、より一層好ましい上限は36%、さらに一層好ましい上限は34%である。
【0016】
(TiO
2/(TiO
2+Nb
2O
5+ZrO
2))
TiO
2+Nb
2O
5+ZrO
2に対するTiO
2の含有量の質量比(TiO
2/(TiO
2+Nb
2O
5+ZrO
2))が0.01未満であると液相温度が上昇し、熔融状態のガラスの耐失透性が低下する。また、質量比(TiO
2/(TiO
2+Nb
2O
5+ZrO
2))が0.8を超えると液相温度が上昇し、熔融状態のガラスの耐失透性が低下するとともに、再加熱時の耐失透性も低下する。したがって、質量比(TiO
2/(TiO
2+Nb
2O
5+ZrO
2))は0.01〜0.8である。
熔融状態のガラスの耐失透性を改善する上から、TiO
2/(TiO
2+Nb
2O
5+ZrO
2)の好ましい下限は0.05であり、より好ましい下限は0.09、さらに好ましい下限は0.15、一層好ましい下限は0.25、より一層好ましい下限は0.35、さらに一層好ましい下限は0.45である。また、熔融状態のガラスの耐失透性及び再加熱時のガラスの耐失透性を改善する上から、TiO
2/(TiO
2+Nb
2O
5+ZrO
2)の好ましい上限は0.75であり、より好ましい上限は0.7、さらに好ましい上限は0.65である。
【0017】
(Nb
2O
5、TiO
2)
熔融状態のガラスの耐失透性、再加熱時のガラスの耐失透性をともに良化する上から、TiO
2の含有量の好ましい範囲は0.5〜23%であり、Nb
2O
5の含有量の好ましい範囲は2〜38%である。
ガラスの熱的安定性を改善する上から、TiO
2の含有量のより好ましい下限3%、さらに好ましい下限は6%、一層好ましい下限は9%、より一層好ましい下限は12%であり、TiO
2の含有量のより好ましい上限21%、さらに好ましい上限は19%、一層好ましい上限は17%である。
ガラスの熱的安定性を改善する上から、Nb
2O
5の含有量のより好ましい下限は4%、さらに好ましい下限は6%、一層好ましい下限は8%であり、Nb
2O
5の含有量のより好ましい上限は34%、さらに好ましい上限は30%、一層好ましい上限は26%、より一層好ましい上限は22%、さらに一層好ましい上限は18%、なお一層好ましい上限は17%である。
【0018】
(BaO)
BaOは、ガラスの熔融性を改善し、ガラス転移温度を低下させる働きをする成分であり、光学特性の調整にも有効な成分である。また適量を含有させることにより熔融状態のガラスの耐失透性、再加熱時の耐失透性をともに改善する働きをする。このような効果を得る上から、BaOの含有量の好ましい範囲は5〜35%である。上記効果を一層高める上から、BaOの含有量のより好ましい上限は30%、さらに好ましい上限は27%、一層好ましい上限は25%、より一層好ましい上限は22%であり、BaOの含有量のより好ましい下限は
9%、さらに好ましい下限は
11%である。
【0019】
(ZrO
2)
熔融状態のガラスの耐失透性、再加熱時のガラスの耐失透性をともに良化し、熔融性を改善する上から、ZrO
2の好ましい範囲は0〜6%である。このような効果を高める上から、ZrO
2の含有量のより好ましい下限は0.5%、さらに好ましい下限は1%であり、ZrO
2の含有量のより好ましい上限は5%、さらに好ましい上限は4%、一層好ましい上限は3%である。
【0020】
(NWM=BaO+SrO+CaO+MgO+K
2O+Na
2O+Li
2O)
SrO、CaO、MgO、K
2O、Na
2O、Li
2Oは、BaOとともにガラスの熔融性を改善し、ガラス転移温度を低下させる働きをする成分であり、光学特性の調整にも有効な成分である。また適量を含有させることによりガラスの熱的安定性を改善する働きもする。
BaO、SrO、CaO、MgO、K
2O、Na
2O及びLi
2Oの合計含有量(BaO+SrO+CaO+MgO+K
2O+Na
2O+Li
2O=NWM)が12%未満であると上記効果が得られず、40%を超えると所要の光学特性を得ることが困難になり、ガラスの熱的安定性も低下する。したがって、BaO、SrO、CaO、MgO、K
2O、Na
2O及びLi
2Oの合計含有量は12〜40%である。ガラスの熔融性、熱的安定性を改善する上から、BaO+SrO+CaO+MgO+K
2O+Na
2O+Li
2Oの好ましい下限は15%、より好ましい下限は17%、さらに好ましい下限は19%であり、ガラスの熱的安定性を改善しつつ、所要の光学特性を得る上から、BaO+SrO+CaO+MgO+K
2O+Na
2O+Li
2Oの好ましい上限は37%、より好ましい上限は33%である。
【0021】
((BaO+SrO+CaO)/(BaO+SrO+CaO+MgO+K
2O+Na
2O+Li
2O))
BaO+SrO+CaO+MgO+K
2O+Na
2O+Li
2Oに対するBaO、SrO及びCaOの合計含有量の質量比((BaO+SrO+CaO)/(BaO+SrO+CaO+MgO+K
2O+Na
2O+Li
2O))が0.4未満であると液相温度が上昇し、熔融状態のガラスの耐失透性が低下するとともに、再加熱時のガラスの耐失透性も低下する。したがって、質量比((BaO+SrO+CaO)/(BaO+SrO+CaO+MgO+K
2O+Na
2O+Li
2O))は0.4以上である。ガラスの熱的安定性を改善する上から、質量比((BaO+SrO+CaO)/(BaO+SrO+CaO+MgO+K
2O+Na
2O+Li
2O))の好ましい下限は0.5であり、より好ましい下限は0.6、さらに好ましい下限は0.7であり、好ましい上限は1、より好ましい上限は0.95、さらに好ましい上限は0.9、一層好ましい上限は0.85である。
【0022】
((K
2O+Na
2O+Li
2O)/(BaO+SrO+CaO+MgO+K
2O+Na
2O+Li
2O))
BaO、SrO、CaO、MgO、K
2O、Na
2O及びLi
2Oの合計含有量(BaO+SrO+CaO+MgO+K
2O+Na
2O+Li
2O)に対する(K
2O、Na
2O及びLi
2Oの合計含有量の質量比((K
2O+Na
2O+Li
2O)/(BaO+SrO+CaO+MgO+K
2O+Na
2O+Li
2O))が0.1未満であると、ガラスの熱的安定性、特に熔融状態の耐失透性が低下し、液相温度が上昇する。したがって、質量比((K
2O+Na
2O+Li
2O)/(BaO+SrO+CaO+MgO+K
2O+Na
2O+Li
2O))は0.1以上である。
質量比((K
2O+Na
2O+Li
2O)/(BaO+SrO+CaO+MgO+K
2O+Na
2O+Li
2O))が0.5を越えるとガラスの熱的安定性、特に再加熱時の耐失透性が低下する傾向を示す。したがって、ガラスの熱的安定性を改善する上から質量比((K
2O+Na
2O+Li
2O)/(BaO+SrO+CaO+MgO+K
2O+Na
2O+Li
2O))を0.5以下にすることが好ましい。
ガラスの熱的安定性をより改善する上から、質量比((K
2O+Na
2O+Li
2O)/(BaO+SrO+CaO+MgO+K
2O+Na
2O+Li
2O))の好ましい下限は0.11、より好ましい下限は0.12、さらに好ましい下限は0.13、一層好ましい下限は0.14、より一層好ましい下限は0.15、さらに一層好ましい下限は0.17であり、好ましい上限は0.45、より好ましい上限は0.4、さらに好ましい上限は0.35、一層好ましい上限は0.3、より一層好ましい上限は0.28である。
【0023】
(ZnO、CaO)
熔融状態のガラスの耐失透性、再加熱時の耐失透性をともに良化する上から、ZnOの含有量の好ましい範囲は0〜27%であり、CaOの好ましい範囲は0〜15%である。
ガラスの熱的安定性を改善する上から、ZnOの含有量のより好ましい下限は3%、さらに好ましい下限は6%、一層好ましい下限は9%、より一層好ましい下限は12%であり、ガラスの熱的安定性を改善し、所要の光学特性を得る上から、ZnOの含有量
の好ましい上限は
27%、より好ましい上限は
25%、さらに好ましい上限は
22%、一層好ましい上限は
19%である。
ガラスの熱的安定性を改善する上から、CaOの含有量の好ましい下限は1%、より好ましい下限は2%、さらに好ましい下限は3%、一層好ましい下限は4%であり、CaOの含有量の好ましい上限は13%、より好ましい上限は11%、さらに好ましい上限は9%である。
【0024】
(SrO)
熔融状態のガラスの耐失透性、再加熱時の耐失透性をともに良化する上から、SrOの含有量の好ましい範囲は0〜8%であり、より好ましい範囲は0〜6%、さらに好ましい範囲は0〜4%、一層好ましい範囲は0〜2%である。
【0025】
(MgO)
所望の光学特性を得つつ、ガラスの熱的安定性を維持する上から、MgOの含有量の好ましい範囲は0〜3%、より好ましい範囲は0〜2%、さらに好ましい範囲は0〜1%、一層好ましい範囲は0〜0.5%であり、MgOの含有量を0%としてもよい。
【0026】
(K
2O)
熔融状態のガラスの耐失透性、再加熱時の耐失透性をともに良化する上から、K
2Oの含有量の好ましい範囲は0〜11%であり、K
2Oの含有量のより好ましい下限は0.5%、さらに好ましい下限は1%、K
2Oの含有量のより好ましい上限は9%、さらに好ましい上限は7%、一層好ましい上限は5%である。
【0027】
(Na
2O
、Li2O)
熔融状態のガラスの耐失透性、再加熱時の耐失透性をともに良化する上から、Na
2Oの含有量の好ましい範囲は0〜11%、Na
2Oの含有量のより好ましい下限は1%、さらに好ましい下限は2%、一層好ましい下限は3%であり、Na
2Oの含有量のより好ましい上限は9%、さらに好ましい上限は7%、一層好ましい上限は5%である。
熔融状態のガラスの耐失透性、再加熱時の耐失透性をともに良化する上から、Li
2Oの含有量の好ましい範囲は0〜15%、より好ましい範囲は0〜13%、さらに好ましい範囲は0〜11%、一層好ましい範囲は0〜9%、より一層好ましい範囲は0〜7%、さらに一層好ましい範囲は0〜5%、なお一層好ましい範囲は0〜3%、特に好ましい範囲は0〜2%である。
【0028】
(La
2O
3、Gd
2O
3、Y
2O
3、Yb
2O
3、Lu
2O
3)
なお、屈折率の調整を目的として、La
2O
3、Gd
2O
3、Y
2O
3、Yb
2O
3、Lu
2O
3を合計で10%以下含有させてもよい。ただし、La
2O
3、Gd
2O
3、Y
2O
3、Yb
2O
3及びLu
2O
3の合計含有量が10%を超えるとガラスの熱的安定性が低下し、ガラスの溶融性も低下する。ガラスの安定性、熔融性を良化する上から、La
2O
3、Gd
2O
3、Y
2O
3、Yb
2O
3及びLu
2O
3の合計含有量の好ましい範囲は0〜10%である。ガラスの熱的安定性、熔融性を改善する上から、La
2O
3、Gd
2O
3、Y
2O
3、Yb
2O
3及びLu
2O
3の合計含有量のより好ましい範囲は0〜9%、さらに好ましい範囲は0〜8%、一層好ましい範囲は0〜7%、より一層好ましい範囲は0〜6%、さらに一層好ましい範囲は0〜5%、なお一層好ましい範囲は0〜4%、特に好ましい範囲は0〜3%である。
【0029】
(Sb
2O
3)
なお、清澄剤として少量のSb
2O
3を添加してもよい。ただし、Sb
2O
3の含有量が外割りで0.1%を超えるとガラスの着色が強まるため、Sb
2O
3の含有量を外割りで0〜0.1%にすることが好ましい。Sb
2O
3はガラス中において可視光を吸収するだけでなく、白金製の熔融容器でガラスを熔融するときに白金を侵蝕してガラス中に白金イオンが混入してガラスの着色を増大させる。したがって、Sb
2O
3の含有量は少ないほどよい。外割りでのSb
2O
3の含有量のより好ましい上限は0.05%、さらに好ましい上限は0.02%、一層好ましい上限は0.01%であり、Sb
2O
3の含有量を0%としてもよい。
【0030】
(上記各成分の合計含有量)
所要の屈折率及びアッベ数を備え、熱的安定性の優れたガラスを得る上から、上記各成分の合計含有量を95%以上にすることが好ましく、96%以上にすることがより好ましく、97%以上にすることがさらに好ましく、98%以上にすることが一層好ましく、99%以上にすることがより一層好ましく、99.5%以上にすることがさらに一層好ましく、100%にすることが特に好ましい。
【0031】
(含有しないことが好ましい成分)
Pbはガラス成分として屈折率を高める働きをするが、環境への影響を考慮し、本願発明の光学ガラスにおいて、実質的に含有しない。なお、実質的にPbOを含有しないとは、不純物としてPbOを含むガラスまでも排除する意味ではない。
環境への影響を考慮し、As、Cd、Cr、Te、U、Thを含有しないことが好ましい。
本願発明の光学ガラスは可視域における光線透過率が高く、撮像光学系や投射光学系を構成する光学素子の材料として好適である。ガラスの着色を低減し、可視域における光線透過率を高く維持する上から、ガラスを着色するCu、Eu、Er、Tb、Co、Cr、Ni、Fe
、Ndを含有しないことが好ましい。
Fはガラス熔融時に激しく揮発し、製造するガラスの光学特性が大きく変動する原因となったり、脈理発生の原因となるため、Fを含有しないことが好ましい。
【0032】
[光学特性]
本願発明の光学ガラスの屈折率ndは1.78〜1.84、アッベ数νdは
26〜32である。
撮像光学系、投射光学系などの光学系のコンパクト化、ズーム比を高くするなどの高機能化を行う上から、屈折率ndを1.78以上とする。ガラスの安定性を維持する上から屈折率ndを
1.84以下とする。
光学系のコンパクト化、高機能化を行う上から、屈折率ndの好ましい
下限は1.785、より好ましい
下限は1.790である。ガラスの熱的安定性を維持する上から、屈折率ndの好ましい上限は1.835である。
また、光学系のコンパクト化、高機能化を行う上から、アッベ数νdが27.5以下の範囲において、屈折率nd、アッベ数νdが下記(1)式を満たすことが好ましい。
nd>2.22−0.016×νd ・・・ (1)
【0033】
[ガラスの着色]
本願発明の光学ガラスは可視域の光線透過率が高く、着色が少ない。ガラスの着色度はλ80、λ70、λ5などにより定量的に表される。
互いに平行な光学研磨された平面を備え、厚さ10.0mmのガラス試料を用い、一方の平面に対し垂直に強度Iinの光線を入射し、試料を透過した光線の強度Ioutを測定する。強度比Iout/Iinを外部透過率という。波長280〜700nmの範囲において外部透過率が80%となる波長をλ80、外部透過率が70%となる波長をλ70、外部透過率が5%となる波長をλ5という。厚さ10.0mmのガラスにおいて、λ80〜700nmの波長域における外部透過率は80%以上、λ70〜700nmの波長域における外部透過率は70%以上、λ5〜700nmの波長域における外部透過率は5%以上となる。
好ましい実施形態によれば、λ80は480nm以下であり、λ70は430nm以下であり、λ5は390nm以下である。
【0034】
[部分分散
比]
部分分散比Pg,Fは次式のように定義される。
Pg,F=(ng−nF)/(nF−nC)
本願発明における部分分散比Pg,Fは、例えば、0.58〜0.63の範囲になり、色収差補正用の光学素子材料として好適である。
【0035】
[比重]
本願発明における比重は、例えば3.90以下である。
【0036】
[ガラスの熔融]
ガラスの着色を一層低減する上から、バッチ原料(未ガラス化原料)を、非金属製容器を用いて粗熔解(ラフメルト)してカレットを作製し、カレットを白金製または白金合金製の容器を用いて熔融し、得られた均質なガラス融液(熔融ガラス)を成形することが好ましい。バッチ原料からガラスを得る過程で、バッチ原料がガラス化反応するときに熔融物の侵蝕性が最も強まる。非金属製容器を用いて粗熔解すると非金属が熔融物中に混入しても白金イオンなどのようにガラスを強く着色することはない。非金属製容器の材料としては、シリカが好ましい。シリカが熔融物に溶け込んでもガラス成分と共通する物質であるため、ガラスの着色や異物の混入などの問題は起こらない。
さらに、本願発明によれば、熔融状態の耐失透性が優れ、液相温度が低いため、熔解温度を低くすることができる。その結果、シリカなどの非金属製粗熔解容器材料の侵蝕速度を低減することができ、ガラスへのシリカ混入量を低減することができる。その結果、シリカ混入による光学特性のずれ量を低減することができる。光学特性、例えば屈折率のずれ量を低減することにより、原料調合時にSiO
2の量を減らすなどして、ずれ量をキャンセルする光学特性の補正が容易になる。
カレットを熔融し、光学ガラスを生産する方法としては、公知の方法を適用することができる。例えば、白金あるいは白金合金製の坩堝中にカレットを入れて加熱、熔融し、熔融ガラスを得る。それから熔融ガラスを昇温して清澄し、熔融ガラス中の泡を除去する。その後、熔融ガラスを降温してから攪拌し均質化してから、坩堝から熔融ガラスを流出して鋳型へ鋳込んで成形する。
得られたガラス成形体を徐冷して歪を低減するとともに、必要に応じてガラスの屈折率を微調整する。
【0037】
[プレス成形用ガラス素材]
本願発明のプレス成形用ガラス素材は、前述の光学ガラスからなる。プレス成形用ガラス素材の製法としては公知の方法も用いることができる。
【0038】
[光学素子]
本願発明の光学素子は、前述の光学ガラスからなる。光学素子としては、球面レンズ、非球面レンズ、レンズアレイ、マイクロレンズなどの各種レンズ、回折格子、プリズムなどを例示することができる。光学素子の表面には、必要に応じて反射防止膜などの光学多層膜を形成してもよい。
光学素子の製造方法としては、例えば、上記プレス成形用ガラス素材を加熱し、プレス成形してガラス成形品を作製し、このガラス成形品を研磨する方法や、前述の光学ガラスを研削、研磨して光学素子を作製する方法などがある。
プレス成形用ガラス素材のプレス成形は、例えば、ガラスの粘度が10
4〜10
6dPa・sになる温度までプレス成形用ガラス素材を加熱し、成形型によってプレス成形すればよい。プレス成形用ガラス素材の加熱、軟化、プレス成形は大気中で行ってもよい。この方法(以下、リヒートプレス法という)では、精密プレス成形を行う際のガラスの粘度よりも低い粘度でプレス成形する。精密プレス成形は、光学素子の光学機能面をプレス成形によって形成するが、リヒートプレス法では、光学素子の概観形状をプレス成形で形成し、光学素子の光学機能面は研磨を含む機械加工により形成する。
【0039】
ヒートプレス法では精密プレス成形法と比較し、高い温度でプレス成形を行うため、プレス成形時のガラスの温度が結晶化温度域に達し、再加熱時の失透が発生するリスクが高くなる。本願発明の光学ガラスによれば、再加熱時の耐失透性が優れているため、リヒートプレス法により均質なガラス成形品を得ることはできる。
プレス成形により、ガラス素材は、目的とする光学素子の形状に近似する形状の成形品に成形される。この成形品を光学素子ブランクと呼ぶ。光学素子ブランクを徐冷して内部の歪を低減するとともに、ガラスの屈折率を微調整する。その後、光学素子ブランクを研削、研磨して、例えばレンズなどのように高い形状精度が要求される光学素子に仕上げることができる。
本願発明の光学素子は、熱的安定性が優れているガラスからなるため、上記のようにガラスを加熱、軟化しても失透することがない。
【実施例】
【0040】
以下本願発明を具体的に説明する為に実施例を示すが、本願発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0041】
実施例1:[光学ガラスの作製及び諸特性の評価]
表1に示すガラス組成No.1〜39になるように、各成分を導入するための原料としてそれぞれ相当するリン酸塩、フッ化物、酸化物などを用い、原料を秤量し、十分混合して調合原料(バッチ原料)とし、この調合原料をシリカ製坩堝に入れて1150℃で30分〜1時間、加熱、粗熔解した。得られた熔解物を急冷し、ガラス化するとともに粉砕してカレットを得た。
次に、カレットを白金製坩堝に入れて、1100℃で1〜2時間、加熱、熔融して熔融ガラスとし、この熔融ガラスを清澄、均質化し、坩堝から鋳型中に流し出し
て、均質な光学ガラスを成形した。
【0042】
得られた各光学ガラスの組成、特性を次のようして分析、測定した。組成については表2、諸特性については表3に示す。
(1)ガラス組成
誘導結合プラズマ原子発光法(ICP−AES法)、必要に応じてイオンクロマトグラフフィー法により各成分の含有量を定量した。
(2)屈折率nd、アッベ数νd
1時間あたり30℃の降温速度で冷却した光学ガラスについて測定した。
(3)結晶化ピーク温度Tx
ガラスを乳鉢で十分粉砕したものを試料とし、この試料について高温型示差走査熱量計を使用して得た示差走査熱量曲線(DSC曲線)に基づき求めた。DSC曲線においてベースラインから発熱ピークが現れる際に傾きが最大になる点における接線と前記ベースラインの交点を結晶化ピーク温度(Tx)とした。
(4)ガラス転移温度Tg
熱機械分析装置を用いて、昇温速度10℃/分の条件下で測定した。
(5)液相温度LT
白金坩堝内に室温まで冷却したガラスを5cc程度入れ、内部が所定の温度に均熱化した炉の中に置き、炉の設定温度を所定の温度にして2時間保持した後、坩堝を炉内から取り出し、ガラスの結晶化、変質の有無を観察した。炉内の設定温度を5℃刻みで変え、上記作業を繰り返し行い、結晶化、変質が認められない最低の設定温度を液相温度とした。結晶化、変質の有無は、光学顕微鏡を用いて100倍で拡大観察し、確認した。ここに上記「変質」とは、ガラスとは異質のもの(微小な結晶など)が生じたことを意味する。
(6)着色度λ80、λ70、λ5
厚さ10.0mmのガラス試料の分光透過率を波長280〜700nmの範囲で測定し、外部透過率が80%となる波長をλ80、外部透過率が70%となる波長をλ70、外部透過率が5%となる波長をλ5とした。
(7)部分分散比
1時間あたり30℃の降温速度で冷却した光学ガラスについて屈折率nC、nF、ngを測定し、測定結果に基づき算出した。
(8)比重
アルキメデス法により測定した。
得られた光学ガラス中には原料の溶け残り、結晶の析出、気泡、脈理は認められなかった。
なお、バッチ原料の粗熔解はシリカ製坩堝内で行ったが、シリカ製坩堝の代わりに、シリカ製の管を炉内に傾斜状態で配置し、高位置側の開口部よりバッチ原料をシリカ管内に導入し、熔解したバッチ原料が熔解物となってシリカ管内を流動し、低位置側の開口部より滴下させ、下方に置いた水槽中の水で熔解物を受けて急冷し、固化したカレットを自ら取り出し、乾燥させた後、白金製坩堝で熔融してもよい。
【0043】
実施例2:[光学素子の作製]
実施例1で作製した各種光学ガラスを切断して複数個のガラス片とし、これらガラス片をバレル研磨して複数個のプレス成形用ガラス素材を作製した。これらプレス成形用ガラス素材の表面はバレル研磨により粗面化されている。
次に粗面化したプレス成形用ガラス素材の表面に窒化ホウ素粉末を塗布し、加熱炉内に入れてガラスの粘度が10
4〜10
6dPa・sになる温度までプレス成形用ガラス素材を加熱し、成形型に導入してプレス成形した。プレス成形によりレンズ形状に近似する形状のレンズブランクを作製した。
レンズブランクをレアと呼ばれる徐冷炉に入れて徐冷し、歪を低減した後、公知の方法で研削、研磨して球面レンズを得た。
このようにして実施例1で作製した各種光学ガラスからなる光学素子を作製した。得られた全ての光学素子の内部には結晶の析出、脈理、気泡は認められなかった。
【0044】
比較例1:[光学ガラスの作製及び諸特性の評価]
特許文献1の実施例1に記載されているガラス組成(表1、組成A)を特許文献1に記載されている方法により作製し、得られた各光学ガラスの組成、特性を実施例1と同様の方法で分析、測定した。結果を表3に示す。ガラス組成Aは質量比((K
2O+Na
2O+Li
2O)/(BaO+SrO+CaO+K
2O+Na
2O+Li
2O))が0.07であって、0.1よりも小さく、液相温度は1140℃と高かった。
【0045】
比較例2:[光学ガラスの作製及び諸特性の評価]
特許文献3の実施例10に記載されているガラス組成(表1、組成B)を特許文献3に記載されている方法により作製し、得られた各光学ガラスの組成、特性を実施例1と同様の方法で分析、測定した。結果を表3に示す。結晶化ピーク温度Txが605℃、ガラス転移温度Tgが526℃であり、ΔTは79℃であった。なお、ガラス組成Bの質量比(B
2O
3/(B
2O
3+SiO
2))は0.137であり、0.15よりも小さい。
ガラス組成Bは精密プレス成形用ガラスであり、ガラス転移温度が低く、精密プレス成形に好適なガラスであるが、精密プレス成形時の温度からガラスの粘度が10
4〜10
6dPa・sになる温度にまで加熱したところ、ガラス中に結晶が析出した。
【表1】
【表2】
【表3】