特許第5963156号(P5963156)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5963156オキサリプラチンを含む水性医薬組成物の製造方法及び安定化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5963156
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】オキサリプラチンを含む水性医薬組成物の製造方法及び安定化方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/282 20060101AFI20160721BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20160721BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   A61K31/282
   A61K47/26
   A61K9/08
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-58827(P2016-58827)
(22)【出願日】2016年3月23日
【審査請求日】2016年3月24日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000208145
【氏名又は名称】テバ製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 浩晃
(72)【発明者】
【氏名】中島 淳
【審査官】 今村 明子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2007/0054957(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第102525957(CN,A)
【文献】 特表2010−516717(JP,A)
【文献】 特開2014−015414(JP,A)
【文献】 オキサリプラチン点滴静注液50mg「テバ」、オキサリプラチン点滴静注液100mg「テバ」、オキサリプラチン点滴静注液200mg「テバ」,2015年8月改訂(第3版)
【文献】 オキサリプラチン点滴静注液50mg/10mL「サンド」、オキサリプラチン点滴静注液100mg/20mL「サンド」,2015年7月改訂(第3版)
【文献】 Powder Technology,2013年,Vol.246,p.379-394
【文献】 第十四改正 日本薬局方解説書,2001年,初版,D−853〜D−857
【文献】 Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis,1996年,Vol.14,p.891-898
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00−9/72
A61K 31/00−31/80
A61K 33/00−33/44
A61K 47/00−47/48
A61P 1/00−43/00
CAplusREGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキサリプラチン、
水、及び、
乳糖又はその水和物
を含む、水性医薬組成物の製造方法であって、
(a)前記乳糖又はその水和物を水中に溶解して、前記乳糖又はその水和物の水溶液を調製する工程、
(b)前記オキサリプラチンを工程(a)により得られた水溶液に添加する工程、及び
(c)工程(b)により得られた混合水溶液に前記オキサリプラチンを溶解させる工程、
を含み、
前記乳糖又はその水和物が、
(1)レーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積累積径D10が10μm以上であり、D50が100μm以下である
(2)波長270〜300nmにおける水溶液の比吸光度が0.015以下である
の両方を満たすことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記乳糖又はその水和物のレーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積累積径D10が15μm以上であり、D50が80μm以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記乳糖又はその水和物の水溶液の波長270〜300nmにおける比吸光度が0.013以下である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記水性医薬組成物中の前記オキサリプラチンの濃度が1〜10mg/mlである、請求項1から3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記乳糖又はその水和物/前記オキサリプラチンの重量比が1〜1/10である、請求項1から4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記水性医薬組成物が非経口投与用である、請求項1から5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記水性医薬組成物が癌治療用である、請求項1から6のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経時的に安定なオキサリプラチンを含む水性医薬組成物の製造方法、及び、オキサリプラチンを含む水性医薬組成物の安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オキサリプラチンは、白金−DNA架橋を形成してDNA複製を阻害する白金製剤であり、IUPAC名はシス−((1R,2R)−1,2−シクロヘキサンジアミン−N,N’)(オキサラト(2−)−O,O’)白金(II)である。オキサリプラチンは以下の構造式を有する。
【0003】
【化1】
【0004】
また、オキサリプラチンは、治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌、結腸癌における術後補助化学療法、治癒切除不能な膵癌、治癒切除不能な進行・再発の胃癌に適応を有している。また、上記以外にも、様々な癌への治療が検討されている。
【0005】
当初、オキサリプラチンは凍結乾燥製剤の形態で供給されていたが、最近では、添加剤を含まない又は含む完全溶解型製剤の形態でも供給されている(特表平10−508289号公報及び特表2002−504524号公報)。
【0006】
しかしながら、オキサリプラチンは水に溶解すると容易に分解される場合があることが知られており、特に塩化物含有溶液中では急速に分解することがある。例えば生理食塩水などの塩化ナトリウムを含んだ溶液中で分解されやすいため、その安定性の向上が課題とされてきた。
【0007】
そこで、水に溶解させた際のオキサリプラチンの安定性を向上させるための種々の工夫が提案されている。例えば、特開2014−31350号公報には、乳酸及び/又は無機酸を含み、製剤のpHが4.5よりも低いオキサリプラチンを含有する製剤が記載されている。また、特開2014−15414号公報には、水と共に炭素数3個のポリオールを少なくとも1種含む、オキサリプラチンを含む医薬組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表平10−508289号公報
【特許文献2】特表2002−504524号公報
【特許文献3】特開2014−31350号公報
【特許文献4】特開2014−15414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、pHを低下させるためには、通常、酸を使用する必要があるところ、酸は医薬品への使用が制限される場合がある。また、従来の医薬製剤ではその安定性が不十分な場合があった。
【0010】
本発明は、上記従来技術の課題を解決すべくなされたものであり、水に溶解されたオキサリプラチンの分解抑制に基づく、経時的に安定なオキサリプラチンを含む水性医薬組成物の製造方法、並びに、オキサリプラチンを含む水性医薬組成物の安定化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題について鋭意検討した結果、予期しないことに、特定の物理的性質を有する乳糖若しくはその水和物を使用することでオキサリプラチンが安定化することを見出し本発明に到達した。
【0012】
医薬用添加剤としての乳糖又はその水和物は、通常、粒子として存在し、乳糖又はその水和物を水に溶解させるとその粒子としての形態は失われる。しかし、水に溶解する前の乳糖又はその水和物の粒子径分布が水に溶解されたオキサリプラチンの安定化に影響を及ぼすことが今般判明した。更に、乳糖若しくはその水和物の水溶液の比吸光度が水に溶解されたオキサリプラチンの安定性に影響を及ぼすことも今般判明した。本発明は当業者の予測を超えるこれらの知見に基づくものである。
【0013】
本発明の目的は、オキサリプラチン、水、及び、乳糖又はその水和物を含む、水性医薬組成物の製造方法であって、
(a)前記乳糖又はその水和物を水中に溶解して、前記乳糖又はその水和物の水溶液を調製する工程、
(b)前記オキサリプラチンを工程(a)により得られた水溶液に添加する工程、及び
(c)工程(b)により得られた混合水溶液に前記オキサリプラチンを溶解させる工程、
を含み、
前記乳糖又はその水和物が、
(1)レーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積累積径D10が10μm以上であり、D50が100μm以下である
(2)波長270〜300nmにおける水溶液の比吸光度が0.015以下である
のいずれか又は両方を満たすことを特徴とする製造方法によって達成される。
【0014】
本発明の目的はまた、オキサリプラチン及び水を含む水性医薬組成物の安定化方法であって、
前記水又は前記水性医薬組成物に
(1)レーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積累積径D10が10μm以上であり、D50が100μm以下である
(2)波長270〜300nmにおける水溶液の比吸光度が0.015以下である
のいずれか又は両方を満たす乳糖又はその水和物を添加することを特徴とする安定化方法によっても達成される。
【0015】
前記乳糖又はその水和物のレーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積累積径D10が15μm以上であり、D50が80μm以下であることが好ましい。また、前記乳糖又はその水和物の水溶液の波長270〜300nmにおける比吸光度が0.013以下であることが好ましい。
【0016】
前記水性医薬組成物中の前記オキサリプラチンの濃度は1〜10mg/mlであることが好ましい。
【0017】
前記乳糖又はその水和物/前記オキサリプラチンの重量比は1〜1/10であることが好ましい。
【0018】
前記水性医薬組成物は、好ましくは非経口投与用である。
【0019】
前記水性医薬組成物は、好ましくは癌治療用である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、
(1)レーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積累積径D10が10μm以上であり、D50が100μm以下である、
(2)波長270〜300nmにおける水溶液の比吸光度が0.015以下である、
のうちの少なくとも1つを満たす乳糖又はその水和物を用いることによって、水に溶解されたオキサリプラチンの分解を抑制し、経時的に安定なオキサリプラチンを含む水性医薬組成物を製造することができ、また、オキサリプラチンを含む水性医薬組成物を安定化することができる。
【0021】
本発明により製造又は安定化されたオキサリプラチンを含む水性医薬組成物は水に溶解した形態でもオキサリプラチンを安定に含むことができるので、長期に亘って安定に保存乃至使用することができる。
【0022】
また、本発明により製造又は安定化されたオキサリプラチンを含む水性医薬組成物は完全溶解の形態をとることができるので、オキサリプラチンの凍結乾燥製剤とは異なり、使用直前に水などで溶解した形態に復元する必要がなく、誤って生理食塩水などの塩化ナトリウムを含んだ水溶液で復元されることがない。したがって、使用方法の誤りによるオキサリプラチンの分解を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[製造方法及び安定化方法]
本発明に係る、オキサリプラチン、水、及び、乳糖又はその水和物を含む、水性医薬組成物の製造方法は、
(a)乳糖又はその水和物を水中に溶解して、乳糖又はその水和物の水溶液を調製する工程、
(b)オキサリプラチンを工程(a)により得られた水溶液に添加する工程、及び
(c)工程(b)により得られた混合水溶液に前記オキサリプラチンを溶解させる工程、
を含み、
前記乳糖又はその水和物が
(1)レーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積累積径D10が10μm以上であり、D50が100μm以下である
(2)波長270〜300nmにおける水溶液の比吸光度が0.015以下である
のいずれか又は両方を満たす。
【0024】
前記工程(a)〜(c)における溶解、添加の操作の具体的な手法は特に限定されるものではなく、従来公知の方法・装置を使用することができる。例えば、溶解操作として従来公知の攪拌・混合装置を用いて攪拌・混合を行うことができる。
【0025】
前記工程(b)は、オキサリプラチンをそのまま添加してもよく、或いは、オキサリプラチンを含む水溶液を添加してもよい。前記工程(c)においてオキサリプラチンを完全に溶解させることが好ましい。なお、前記工程(c)の後に、更に水を添加してオキサリプラチンの濃度を調整する工程を設けてもよい。
【0026】
また、本発明の安定化方法では、オキサリプラチン及び水を含む水性医薬組成物における当該水又は当該水性医薬組成物に
(1)レーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積累積径D10が10μm以上であり、D50が100μm以下である
(2)波長270〜300nmにおける水溶液の比吸光度が0.015以下である
のいずれか又は両方を満たす乳糖又はその水和物を添加する。
【0027】
本発明の安定化方法においては、上記(1)及び/又は(2)の特性を備える乳糖若しくはその水和物の水への添加後に、オキサリプラチンを当該水に溶解させることが好ましい。乳糖又はその水和物を予め含む水にオキサリプラチンを添加する方が、オキサリプラチンを予め含む水に乳糖又はその水和物を添加する(この場合は乳糖が水中に当初存在していないのでオキサリプラチンの分解が比較的進行する)よりも、オキサリプラチンの乳糖又はその水和物による安定化効果をより確実に発揮させることができる。上記添加、溶解の操作の具体的な手法は特に限定されるものではなく、従来公知の方法・装置を使用することができる。例えば、溶解操作として従来公知の攪拌・混合装置を用いて攪拌・混合を行うことができる。
【0028】
本発明の製造方法及び安定化方法では、オキサリプラチンの安定化剤として上記(1)及び/又は(2)の特性を備える乳糖若しくはその水和物を使用する。上記(1)及び/又は(2)の特性を備える乳糖若しくはその水和物が水中のオキサリプラチンの優れた安定化剤として機能することはこれまで知られておらず、本発明者らによって初めて見出された。
【0029】
本発明によって製造又は安定化される水性医薬組成物では、使用される乳糖又はその水和物の安定化作用によって、オキサリプラチンの経時的な分解が抑制乃至低減される。したがって、オキサリプラチンが経時的に分解して後述するジアクオジアミノシクロヘキサン白金二量体を生成することが抑制乃至低減される。したがって、本発明により製造又は安定化されたオキサリプラチンを含む水性医薬組成物は長期に亘って安定に保存乃至使用することができる。
【0030】
特に、本発明の製造方法では、乳糖又はその水和物を予め含む水性医薬組成物にオキサリプラチンを添加しているので、オキサリプラチンを予め含む水性医薬組成物に乳糖又はその水和物を添加する(この場合は乳糖が水性医薬組成物中に当初存在していないのでオキサリプラチンの分解が比較的進行する)よりも、オキサリプラチンの乳糖又はその水和物による安定化効果をより確実に発揮させることができる。
【0031】
[オキサリプラチン]
本発明の製造方法及び安定化方法ではオキサリプラチンを使用する。したがって、本発明により製造又は安定化されるオキサリプラチンを含む水性医薬組成物は、活性成分として、オキサリプラチンを含む。オキサリプラチンはそれ自体公知の化合物であり、水に対して7.9mg/mlの溶解度を有し、室温で白色の固体である。オキサリプラチンの合成方法もまた公知であり、例えば特開昭53−31648号公報などに記載されている。
【0032】
オキサリプラチンは水の存在によって分解される場合があり、分解されるとジアクオジアミノシクロヘキサン白金を経て最終的にその二量体等が生じる。すなわち、オキサリプラチンを溶解した水中でジアクオジアミノシクロヘキサン白金二量体の濃度が増加することは、オキサリプラチンが分解していることを意味する。
【0033】
なお、ジアクオジアミノシクロヘキサン白金及びその二量体は以下の構造を有する。
【0034】
[ジアクオジアミノシクロヘキサン白金]
【化2】
[ジアクオジアミノシクロヘキサン白金二量体]
【化3】
【0035】
本発明により製造又は安定化される水性医薬組成物に含まれるオキサリプラチンの濃度は特に限定されないが、重量ベースでは、製剤中に0.005〜15重量%であることが好ましく、0.05〜10重量%であることがより好ましく、0.1〜5重量%であることが特に好ましい。一方、体積ベースでは、製剤中に1〜10mg/mlであることが好ましく、3〜7mg/mlであることがより好ましく、4〜6mg/mlであることが特に好ましい。
【0036】
[乳糖又はその水和物]
本発明の製造方法及び安定化方法では、安定化剤として、特定の物理的性質を備える乳糖又はその水和物を使用する。乳糖の水和物は特には限定されないが、一水和物が好ましい。本発明により製造又は安定化される水性医薬組成物は乳糖又はその水和物以外の添加剤を含まないことが好ましい。
【0037】
本発明のある態様では、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積累積径D10が10μm以上であり、D50が100μm以下である乳糖又はその水和物を使用する。
【0038】
本発明のこの態様において、水に溶解される前の乳糖又はその水和物は粒子の形態をとることが好ましい。粒子の形態の乳糖又はその水和物の粒度分布は、レーザー回折・散乱法を用いて体積分布を測定し、体積基準による累積分布を用いて測定することができる。本発明では、乳糖又はその水和物の粒度分布をレーザー回折・散乱法によって測定し、その粒度分布における累積10体積%粒径をD10とする。同様に、累積50体積%粒径をD50とする。
【0039】
本発明で使用される乳糖又はその水和物のレーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積累積径D10は10μm以上であり、15μm以上であることが好ましく、18μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることが更により好ましい。また、D50は100μm以下であり、80μm以下であることが好ましく、70μm以下であることがより好ましい。更に、D50は40μm以上であることが好ましく、45μm以上であることがより好ましく、50μm以上であることが更により好ましい。
【0040】
本発明で使用される乳糖又はその水和物の粒子の形状は特に限定されず、球状又は扁平状であってもよい。
【0041】
本発明の他の態様では、所定波長における水溶液の比吸光度が0.015以下である乳糖又はその水和物を使用する。この態様においても、水に溶解される前の乳糖又はその水和物は粒子の形態であってもよい。
【0042】
本発明のこの態様において、乳糖又はその水和物の水溶液は、25℃において、波長270〜300nmにおける比吸光度が0.015以下であり、0.013以下であることが好ましく、0.012以下であることが特に好ましい。
【0043】
ここで、比吸光度とは、層長が1cmの場合において、乳糖又はその水和物の濃度1w/v%の水溶液(例えば、mg/mL)に換算したときの吸光度のことである。吸光度は、乳糖又はその水和物の水溶液を通過する光の、透過光の強度に対する入射光の強度の比として定義される透過度を、逆数にして常用対数としたものとして定義され、一般的に層長及び濃度に比例して増加する。一方、比吸光度は層長及び濃度に依存しない。
【0044】
吸光度及び比吸光度は例えば第16改正日本薬局方「46 一般試験法」「2.24 紫外可視吸光度測定法」に記載の方法によって測定及び決定することができる。例えば、吸光度は、光源としてタングステンランプ又はハロゲンタングステンランプを用いる分光光度計を使用して測定することができる。測定のためのセルとしては、ガラス製又は石英製のものを使用することができる。
【0045】
本発明の製造方法及び安定化方法では、
(1)レーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積累積径D10が10μm以上であり、D50が100μm以下である
(2)波長270〜300nmにおける水溶液の比吸光度が0.015以下である
のいずれか又は両方を満たす乳糖又はその水和物を使用することができる。
【0046】
本発明の製造方法及び安定化方法では、上記(1)及び(2)の両方の特性を満たす乳糖又はその水和物を使用することが好ましい。すなわち、本発明の製造方法及び安定化方法では、(3)レーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積累積径D10が10μm以上であり、D50が100μm以下であり、且つ、波長270〜300nmにおける水溶液の比吸光度が0.015以下である乳糖又はその水和物を使用することが好ましい。
【0047】
なお、本発明で使用される乳糖又はその水和物は、総好気性微生物数が50CFU/g以下であることが好ましい。この態様においても、水に溶解される前の乳糖又はその水和物は粒子の形態であってもよい。
【0048】
この態様において、乳糖又はその水和物の総好気性微生物数は50CFU/g以下であり、30CFU/g以下であることが好ましく、20CFU/g以下であることがより好ましく、10CFU/g以下であることが特に好ましい。
【0049】
ここで、総好気性微生物数は、日本薬局方収載の微生物限度試験法に規定されており、外部からの微生物汚染を回避するように設計された条件下で、メンブレンフィルター法又はカンテン平板法を用いて測定することができる。
【0050】
本発明で使用される乳糖又はその水和物/オキサリプラチンの重量比は特に限定されないが、1〜1/10であることが好ましく、3/10〜7/10であることがより好ましく、1/5であることが特に好ましい。また、本発明で使用される乳糖又はその水和物の量は特に限定はされないが、重量ベースでは、水性医薬組成物中に0.001〜10重量%であることが好ましく、0.01〜5重量%であることがより好ましく、0.05〜1重量%であることが特に好ましい。一方、体積ベースでは、水性医薬組成物中に0.01〜10mg/mlであることが好ましく、0.1〜5mg/mlであることがより好ましく、0.5〜2mg/mlであることが特に好ましい。
【0051】
[水]
本発明の製造方法及び安定化方法では水を使用する。したがって、本発明によって製造又は安定化される水性医薬組成物は水を含む。前記水性医薬組成物に含まれる水は特に限定されず、例えば注射用水を用いることができる。注射用水のpHは、25℃において、4.0〜7.0が好ましく、4.5〜6.5がより好ましく、5.0〜6.0が更により好ましい。
【0052】
本発明によって製造又は安定化される水性医薬組成物は、好ましくは、オキサリプラチン、及び、乳糖又はその水和物が水に完全に溶解された水溶液の形態である。したがって、本発明の水性医薬組成物のpHは、好ましくは4.0〜7.0、より好ましくは4.5〜6.5、特に好ましくは5.0〜6.0である。
【0053】
水の温度も特に限定されるものではなく、本発明に使用される水の温度を適宜調整することができる。本発明に使用される水の水温は、例えば、10〜70℃の範囲で調整することができ、更には、15〜60℃、20℃〜50℃又は25℃〜40℃の範囲とすることができる。
【0054】
[水性医薬組成物]
本発明によって製造又は安定化されるオキサリプラチンを含む水性医薬組成物は、非経口投与用、特に静脈内投与用であることが好ましい。
【0055】
本発明によって製造又は安定化されたオキサリプラチンを含む水性医薬組成物は、例えば、濾過及び滅菌されて、ガラスバイアル中に封入される。
【0056】
また、ガラスバイアルはブチルゴムなどのゴム栓で密封し、アルミニウムなどからなるキャップで蓋をすることが好ましい。ゴム栓は、オキサリプラチンに対して不活性な物質でコーティングされていてもよい。
【0057】
さらに、ガラスバイアル中の水性医薬組成物とゴム栓の間の空間を、オキサリプラチンに対して不活性なガスで置換することが好ましい。オキサリプラチンに対して不活性なガスとしては、例えば窒素が挙げられる。
【0058】
本発明によって製造又は安定化されたオキサリプラチンを含む水性医薬組成物が封入されたガラスバイアルは、例えば、輸液バッグ、チューブ、シリンジ、フィルター、及び輸液ポンプのうちの少なくとも1つを備えた輸液セットの構成部品であってもよい。
【0059】
本発明によって製造又は安定化されたオキサリプラチンを含む水性医薬組成物は各種の癌の治療に使用することができる。例えば、前記水性医薬組成物は、癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌、結腸癌における術後補助化学療法、治癒切除不能な膵癌、治癒切除不能な進行・再発の胃癌の治療に使用することができる。
【0060】
本発明によって製造又は安定化されたオキサリプラチンを含む水性医薬組成物は公知の方法によって、ヒト等の哺乳動物に投与することができる。本発明によって製造又は安定化されたオキサリプラチンを含む水性医薬組成物は非経口投与によって投与されることが好ましい。本発明によって製造又は安定化されたオキサリプラチンを含む水性医薬組成物は注射用であることより好ましく、静脈内投与のための注射用であることが更により好ましい。本発明によって製造又は安定化されたオキサリプラチンを含む水性医薬組成物は注射液であることが好ましく、静脈内投与用注射液であることがより好ましい。本発明によって製造又は安定化されたオキサリプラチンを含む水性医薬組成物は、場合により他の投与成分と一緒に静脈内に投与することができる。例えば、本発明によって製造又は安定化されたオキサリプラチンを含む水性医薬組成物を5重量%ブドウ糖注射液に注入し、250〜500mLとして静脈内に点滴投与することができる。また、本発明によって製造又は安定化されたオキサリプラチンを含む水性医薬組成物は、10〜20日間ごとに、2〜5時間にわたって投与することができ、合計で5〜10回投与することができる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明するが、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
【0062】
以下の実施例及び比較例においては、乳糖水和物1(DFE PharmaからのRespitose(登録商標) SV003)の微粒子及び乳糖水和物2(DFE PharmaからのPharmatose(登録商標) 200M)の微粒子を使用した。
【0063】
各乳糖水和物の粒子について、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(Microtrack MT3000II)を使用してD10及びD50を求めた。また、日本薬局方に記載の方法に従って、各乳糖水和物の水溶液の25℃における波長270〜300nmでの比吸光度を測定した。測定結果は以下の表1のとおりである。
【0064】
【表1】
【0065】
1.組成物の調製
(実施例1)
0.5gの乳糖水和物1を注射用水に加えて、完全溶解させた。次に、得られた水溶液に2.5gのオキサリプラチン及び注射用水を加え、室温で撹拌してオキサリプラチンを完全に溶解させた。完全に溶解されたことを確認した後、500mLに調製し、組成物1を製造した。組成物1のpHは5.44であった。
【0066】
(比較例1)
乳糖水和物として、乳糖水和物1の代わりに乳糖水和物2を使用した以外は、実施例1と同様の方法で比較組成物1を調製した。
【0067】
(比較例2)
乳糖水和物1を添加しないこと以外は、実施例1と同様の方法で比較組成物2を調製した。
【0068】
2.安定性試験
上記1で調製した各組成物を、70℃で5日間保存して、各組成物中のジアクオジアミノシクロヘキサン白金二量体の含有量を測定した。測定は高速液体クロマトグラフィ(HPLC)を使用して行った。
【0069】
ジアクオジアミノシクロヘキサン白金二量体の含有量を、オキサリプラチンのピーク面積に対するそれぞれの化合物のピーク面積の比率として求めた。そして、保存開始時のジアクオジアミノシクロヘキサン白金二量体の含有量を基準(100%)として、保存後のジアクオジアミノシクロヘキサン白金二量体の含有量の割合(%)を求めた。結果を以下の表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
表2から明らかなように、乳糖水和物を使用しない比較組成物2では、オキサリプラチンの分解によって生成するジアクオジアミノシクロヘキサン白金二量体の含有量が経時的に増加した。
【0072】
また、乳糖水和物2を使用した比較組成物1では、ジアクオジアミノシクロヘキサン白金二量体の含有量の増加が抑制されるだけでなく、経時的に減少したが、その程度は不十分であった。
【0073】
一方、乳糖水和物1を使用した本発明の組成物1では、オキサリプラチンの分解によって生成するジアクオジアミノシクロヘキサン白金二量体の含有量の増加が抑制されるだけでなく、経時的に減少し、しかもジアクオジアミノシクロヘキサン白金二量体の含有量が70℃で5日間保存した後において最も少なかった。すなわち、本発明の組成物1は比較組成物1及び比較組成物2よりも安定であった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、癌等の治療に使用可能なオキサリプラチンを含む水性医薬組成物の安定性を向上させ、また、高い安定性を備えたオキサリプラチンを含む水性医薬組成物を製造することができるため、有用である。
【要約】
【課題】水に溶解されたオキサリプラチンの分解抑制に基づく、経時的に安定なオキサリプラチンを含む水性医薬組成物の製造方法、並びに、オキサリプラチンを含む水性医薬組成物の安定化方法を提供すること。
【解決手段】オキサリプラチン及び水を含む水性医薬組成物の当該水又は当該水性医薬組成物に(1)レーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積累積径D10が10μm以上であり、D50が100μm以下、(2)波長270〜300nmにおける水溶液の比吸光度が0.015以下である、のいずれか又は両方を満たす乳糖又はその水和物を添加する。
【選択図】なし