(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記半芳香族ポリアミドと、脂肪族ポリアミドとを単純に併用するのみでは、両者が完全に混ざって完全相溶状態となるため、バリア性および柔軟性の点で不充分であった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、バリア性(燃料バリア性、ガスバリア性)と柔軟性に優れた樹脂ホースおよびその製法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、バリア性(燃料バリア性、ガスバリア性)と柔軟性に優れた燃料ホース等の樹脂ホースを得るため、鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、脂肪族ポリアミド(A)と、半芳香族ポリアミド(B)とを単純に混合すると、両者が完全に混ざって完全相溶状態となるため、(A)と(B)の平均の性能しか得ることができないが、
(A)と(B)とを特定の割合で混合し、これにアジピン酸ジイソブチル(C)を
特定の割合で併用すると、脂肪族ポリアミド(A)と、半芳香族ポリアミド(B)とが完全相溶状態とはならずに、半相溶状態となる。そのため、上記脂肪族ポリアミド(A)および半芳香族ポリアミド(B)を主成分とする海相中に、上記半芳香族ポリアミド(B)のみからなる針状の島相が存在するようになる。しかも、その針状の島相は、ホースの長手方向(押出方向)に沿って配列されるようになるため、脂肪族ポリアミド(A)と半芳香族ポリアミド(B)の平均の性能よりも優れた、バリア性(燃料バリア性、ガスバリア性)と、柔軟性が得られることを見いだし、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明は、下記の(A)および(B)を主成分とし、下記の(C)を含有
し、(A)と(B)との重量比が、(A)/(B)=10/90〜60/40であり、(C)の含有量が、(A)および(B)の合計100重量部に対して0.1重量部以上2重量部未満である樹脂層を備えた樹脂ホースであって、上記樹脂層は、上記(A)〜(C)からなる海相と、上記(B)のみからなる針状の島相とからなり、その針状の島相が、ホースの長手方向に沿って配列されている樹脂ホースを第1の要旨とする。
(A)脂肪族ポリアミド。
(B)半芳香族ポリアミド。
(C)アジピン酸ジイソブチル。
【0008】
また、本発明は、上記樹脂ホースの製法であって、温度260〜330℃で押し出す樹脂ホースの製法を第2の要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明の樹脂ホースは、その樹脂層が、上記(A)〜(C)からなる海相と、上記(B)のみからなる針状の島相とからなり、その針状の島相が、ホースの長手方向(押出方向)に沿って配列されている。そのため、ホースの厚み方向(ホースの内周側から外周側方向)への、燃料等の拡散が、上記針状の島相によって阻害される。その結果、燃料等はホースの長手方向に沿って配列された針状の島相の間を縫うように、ホースの内周側から外周側方向に拡散するため、ホースの厚み方向に直線的に拡散する場合に比べて、燃料等の拡散経路が長くなり、バリア性(燃料バリア性、ガスバリア性)が向上する。また、上記樹脂層の海相(母材)は、脂肪族ポリアミド(A)と半芳香族ポリアミドの半相溶状態のものを主成分とするため、ホースの柔軟性にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施の形態について詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限られるものではない。
【0012】
本発明の樹脂ホースは、脂肪族ポリアミド(A)および半芳香族ポリアミド(B)を主成分とし、アジピン酸ジイソブチル(C)を含有
し、(A)と(B)との重量比が、(A)/(B)=10/90〜60/40であり、(C)の含有量が、(A)および(B)の合計100重量部に対して0.1重量部以上2重量部未満である樹脂層を備えている。
なお、本発明において、主成分とは、樹脂層の特性に大きな影響を与える成分の意味であり、その成分の含有量は、通常、樹脂層を形成する樹脂組成物全体の50重量%以上である。
【0013】
本発明においては、上記樹脂層が、上記(A)〜(C)からなる海相と、上記半芳香族ポリアミド(B)のみからなる針状の島相とからなり、その針状の島相が、ホースの長手方向に沿って配列されていることが最大の特徴である。
【0014】
まず、上記樹脂層を構成する樹脂組成物の各成分について具体的に説明する。
【0015】
《脂肪族ポリアミド(A)》
上記脂肪族ポリアミド(A)としては、例えば、ポリアミド46(PA46)、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)、ポリアミド92(PA92)、ポリアミド99(PA99)、ポリアミド610(PA610)、ポリアミド612(PA612)、ポリアミド11(PA11)、ポリアミド912(PA912)、ポリアミド12(PA12)、ポリアミド6とポリアミド66との共重合体(PA6/66)、ポリアミド6とポリアミド12との共重合体(PA6/12)等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、耐熱性、耐融雪剤性の観点で、PA612が好ましい。
【0016】
《半芳香族ポリアミド(B)》
上記半芳香族ポリアミド(B)としては、例えば、ポリアミド4T(PA4T)、ポリアミド6T(PA6T)、ポリアミドMXD6(PAMXD6)、ポリアミド9T(PA9T)、ポリアミド10T(PA10T)、ポリアミド11T(PA11T)、ポリアミド12T(PA12T)、ポリアミド13T(PA13T)等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、燃料バリア性、耐加水分解性、剛直性の点で、PA9Tが好ましい。
【0017】
本発明においては、脂肪族ポリアミド(A)と半芳香族ポリアミド(B)との重量混合比は、(A)/(B)=10/90〜60/40
であり、好ましくは(A)/(B)=10/90〜30/70である。脂肪族ポリアミド(A)が少なすぎる〔(B)が多すぎる〕と、柔軟性に劣る傾向がみられ、脂肪族ポリアミド(A)が多すぎる〔(B)が少なすぎる〕と、燃料バリア性、剛直性が悪くなる傾向がみられる。
【0018】
《アジピン酸ジイソブチル(C)》
上記アジピン酸ジイソブチル(C)は、脂肪族ポリアミド(A)と、半芳香族ポリアミド(B)とが完全に相溶状態となるのを阻害する作用を有する。
【0019】
上記アジピン酸ジイソブチル(C)の含有量は、脂肪族ポリアミド(A)および半芳香族ポリアミド(B)の合計〔(A)+(B)〕100重量部に対して0.1重量部以上、2重量部未満の範囲
であり、好ましくは0.5〜1.5重量部である。上記アジピン酸ジイソブチル(C)の含有量が上記範囲から外れると、アジピン酸イソブチル(C)が単独で存在し、燃料バリア性が悪くなる傾向がみられる。
【0020】
なお、本発明の樹脂層を形成する樹脂組成物には、上記(A)〜(C)に加えて、耐衝撃剤、可塑剤、充填剤、耐加水分解防止材、耐熱老化防止剤、紫外線防止剤、酸化防止剤、柔軟成分、造核剤、滑剤等を、必要に応じて適宜に配合しても差し支えない。
【0021】
上記耐衝撃剤は、柔軟性、耐衝撃性を向上させる観点から使用され、例えば、アイオノマー樹脂、変性ポリオレフィン、ポリエーテルアミドエラストマー、ポリエステルアミドエラストマー、ポリエーテルエステルアミドエラストマー、ポリエーテルエステルエラストマー、アクリルゴム、エチレン・プロピレン系ゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0022】
上記耐衝撃剤の含有量は、脂肪族ポリアミド(A)および半芳香族ポリアミド(B)の合計〔(A)+(B)〕100重量部に対して0.1〜10重量部であり、好ましくは3〜5重量部である。
【0023】
また、上記可塑剤としては、例えば、アルキルアミド類から選ばれた1種類以上の化合物であることが望ましく、例えば、N−エチル−o−トルエンスルホン酸ブチルアミド、N−エチル−p−トルエンスルホン酸ブチルアミド、N−エチル−p−トルエンスルホン酸2−エチルヘキシルアミド、N−エチル−p−トルエンスルホン酸2−エチルヘキシルアミド、N−プロピル−p−トルエンスルホン酸アミド、p−トルエンスルホン酸1−エチルヘキシル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0024】
上記可塑剤の含有量は、脂肪族ポリアミド(A)および半芳香族ポリアミド(B)の合計〔(A)+(B)〕100重量部に対して0.1〜10重量部であり、好ましくは3〜5重量部である。
【0025】
上記樹脂組成物は、例えば、つぎのようにして作製することができる。すなわち、上記脂肪族ポリアミド(A)、半芳香族ポリアミド(B)およびアジピン酸ジイソブチル(C)に、必要に応じて耐衝撃剤、可塑剤等の他の成分を適宜配合し、これらを噛合型同方向2軸混練機等を用いて混練することにより調製することができる。
【0026】
つぎに、本発明の樹脂ホースについて説明する。
【0027】
図1は、樹脂層1のみからなる単層構造の樹脂ホースを示す模式図(一部拡大断面図)である。
【0028】
上記樹脂層1においては、上記脂肪族ポリアミド(A)および半芳香族ポリアミド(B)を主成分とし、アジピン酸ジイソブチル(C)を含有してなる海相2中に、上記半芳香族ポリアミド(B)のみからなる針状の島相3が分散され、その針状の島相3が、ホースの長手方向(押出方向)に沿って配列されている。
【0029】
図1においては、ホースの内周面近傍および外周面近傍に配列される針状の島相の直径(D1)は、ホース中央部に配列される針状の島相3の直径(D2)よりも短くなるように、ホースの長手方向(押出方向)に沿って配列されている。このように針状の島相3を配列すると、ホースの内周面近傍および外周面近傍に配列される短径の針状の島相3によって、主に柔軟性が確保され、ホース中央部に配列される長径の針状の島相3によって、主にバリア性が確保されるため、柔軟性とバリア性のバランスが向上するようになる。
【0030】
ホースの内周面近傍および外周面近傍に配列される針状の島相3の直径(D1)は、通常、10〜40nmであり、好ましくは20〜30nmであり、ホース中央部に配列される針状の島相3の直径(D2)は、通常、40〜70nmであり、好ましくは40〜60nmである。
【0031】
なお、上記樹脂層1における針状の島相3の配列状態は、例えば、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)等を用いて確認することができる。
【0032】
つぎに、本発明の樹脂ホースの製法について説明する。すなわち、上述の方法に準じて、樹脂組成物を調製し、これをマンドレル上
にホース状に押し出し成形して、管状の樹脂層1からなる単層構造の樹脂ホースを作製することができる。この押し出しの剪断力によって、針状の島相3がホースの長手方向(押出方向)に沿って配列されるようになる。なお、マンドレルの使用は省略しても差し支えない。
【0033】
押し出し成形時の温度は、250〜350℃が好ましく、特に好ましくは260〜330℃である。温度が低すぎると、増粘による押出成形ができなくなる傾向がみられ、温度が高すぎると、(A)と(B)が溶融して、完全な相溶状態となるため、針状の島相3が形成されない傾向がみられる。
【0034】
押出速度は、通常1〜30m/minであり、好ましくは5〜20m/minである。また、スクリュー回転数は、通常10〜600rpmであり、好ましくは20〜150rpm、吐出量は、通常2g/min〜100kg/min、好ましくは20g/min〜3kg/minである。
【0035】
なお、押し出し工程後に、水冷処理やオイルバス処理等で温度を制御することにより、針状の島相3の配列状態を制御することも可能である。
【0036】
本発明の樹脂ホースは、上記特殊な樹脂層1のみからなる単層構造(
図1参照)に限定されるものではなく、ホースの用途に応じて適宜、2層以上の多層構造とすることも可能であり、樹脂層1の内周側もしくは外周側にゴム層を形成してもよく、また、ホースの構成層間に補強糸等からなる補強層を介在させても差し支えない。
【0037】
本発明の樹脂ホースは、ホースの用途に応じて異なるが、ホース内径は、通常1〜69.5mm、ホース外径は、通常1.5〜70mmである。上記樹脂層1の厚みは、通常0.25〜20mmであり、好ましくは0.5〜5mmである。
【実施例】
【0038】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示す材料を準備した。
【0040】
〔脂肪族ポリアミド(A)〕
PA612(ダイセルエ
ボニック社製、DIAMID D22)
【0041】
〔半芳香族ポリアミド(B)〕
PA9T(クラレ社製、N1001D−U03)
【0042】
〔アジピン酸ジイソブチル(C)〕
WAKO社製、アジピン酸ジイソブチル
【0043】
〔耐衝撃剤〕
無水マレイン酸変性エチレン−ブテン共重合体(三井化学社製、タフマーMH7020)
【0044】
〔可塑剤〕
N−ブチルベンゼンスルホンアミド(第八化学社製、BM−4)
【0045】
〔実施例1〕
下記の表1に示す各成分を同表に示す割合で配合し、噛合型同方向2軸混練機を用いて混練することにより、樹脂組成物を調製した。そして、これを押出成形機(日本製鋼所社製、TEX30α)を用いて押し出し成形して、単層構造の樹脂ホース(内径:6mm、外径:8mm)を作製した。
【0046】
なお、押し出し成形時の条件は、押出温度:280℃、押出速度:5m/min、スクリュー回転数:40rpm、吐出量:100g/minであった。
【0047】
〔実施例2〜6、比較例1〜5〕
各成分の種類、配合量等を下記の表1に示すように変更する以外は、実施例1に準じて、樹脂組成物を調製した。そして、この樹脂組成物を用いて、実施例1に準じて、単層構造の樹脂ホースを作製した。
【0048】
【表1】
【0049】
このようにして得られた実施例品および比較例品を用い、下記の基準に従って、各特性の評価を行った。その結果を、上記表1に併せて示した。
【0050】
〔燃料透過量(燃料バリア性)〕
両端をスェージロックで密封したホースに、Fuel C〔トルエン:イソオクタン=50:50(容量基準)〕と、エタノールとの混合燃料液(FC/E10)〔Fuel C:エタノール=90:10(容量基準)〕を封入して、40℃で一カ月間放置して安定化した後、内容物(混合燃料)を排出した。つぎに、新規な混合燃料(FC/E10)を再度封入し、これを、所定の温度サイクル環境に放置し、24時間毎に燃料透過量を測定した。この操作を3回繰り返し、その3回の測定値中の最大値をテスト1回当たりの燃料透過量とした。評価は、燃料透過量が0.75以下(mg・mm/cm
2/day)のものを○、0.75を超える(mg・mm/cm
2/day)のものを×とした。
【0051】
〔引張強さ(剛直性)〕
実施例および比較例の各樹脂組成物を、T−ダイヘッドを有する単層押出機にて押出成形(260〜280℃)した樹脂フィルムを用い、JIS K7161に準じて、引張弾性率(MPa)を測定した。評価は、引張弾性率が1200〜1800MPaのものを○、1200MPa未満もしくは1800MPaを超えるものを×とした。
【0052】
〔針状の島相の有無〕
各ホースの樹脂層における針状の島層の有無を、TEM(日本電子社製、JEM−2100)を用いて、観察した。評価は、脂肪族ポリアミド(A)および半芳香族ポリアミド(B)を主成分とする海相中に、半芳香族ポリアミド(B)のみからなる針状の島相が存在し、その針状の島相がホースの長手方向(押出方向)に沿って配列されていたものを○、針状の島相が存在しないものを×とした。
【0053】
上記結果から、すべての実施例品は、針状の島相がホースの長手方向(押出方向)に沿って配列されているため、燃料バリア性および剛直性に優れていた。
【0054】
これに対して、すべての比較例品は、針状の島相が配列されていないため、燃料バリア性および剛直性の少なくとも一方が劣っていた。