【文献】
小川将克,無線LANアクセスポイントにおける省電力モードの性能評価,電子情報通信学会技術研究報告. MoMuC, モバイルマルチメディア通信,電子情報通信学会,2009年 5月 8日,Vol.109,No.22,p.173-177
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
通信装置は、管理機能を備える他の通信装置(以降、「管理装置」という)が形成するネットワークに所属し、その管理下で通信を行うことがある。そして通信装置は、他のネットワークとの間で通信を行うとき、管理装置を経由して通信を行う。このような通信装置と管理装置とで形成されるネットワークの例としては、無線LAN(Local Area Network)、携帯電話システム、コードレス電話システム、Bluetooth(登録商標)などがある。
【0003】
一般に、これらの通信システムでは、管理装置は、アクセスポイント(以降、「AP」という)、基地局、親機、マスタ等と呼ばれ、管理装置に管理される通信装置は、ステーション(以降、「STA」という)、端末、子機、スレーブ等と呼ばれる。
【0004】
無線LANシステムには、例えば、米国電気電子技術者協会(Institute of Electrical and Electronic Engineers、以降、「IEEE」という)802委員会が標準化したIEEE802.11規格に準拠する無線LANがある。以降、IEEE802.11規格に準拠する無線LANを単に、「無線LAN」と表記し、これを具体例として用いて、本発明の背景技術について説明する。
【0005】
無線LANのネットワーク構成には、インフラストラクチャー・モード(以降、「インフラ・モード」という)とアドホック・モードがある。インフラ・モードとは、STAがAPを経由して他のSTAや他のネットワークと通信を行うモードである。アドホック・モードとは、STA間で通信を行うモードである。
【0006】
IEEEパワーマネジメントは、パワー・マネジメント機能に関して、インフラ・モード時のSTA、アドホック・モード時のSTAともに、パワーセーブ・モード(以降、「PSモード」という。)の機能が規定されている。PSモードでは、STAは、送受信が可能なアウェイク(Awake)と休止状態であるドーズ(Doze)状態の2種類の動作状態をとる。
【0007】
インフラ・モードでは、PSモードにあるSTAは、APが定期的に送信するビーコン(Beacon)に同期して起動し、アウェイク状態となり、通信を行わない期間はドーズ状態に遷移する。このように、PSモードでは、アウェイク状態とドーズ状態を間欠的に繰り返すことによって、平均的な消費電力を低減する。
【0008】
アドホック・モードでは、PSモードにあるSTAは、ビーコンの送信間隔ごとに、一定の期間、アウェイク状態を継続する。この期間を、「ATIM(Announcement Traffic Indication Message)ウインドウ」という。STAは、ATIMウインドウの期間に他のSTAからのフレームの送信予告を受信する。送信予告を受信したSTAは、他のSTAからのフレームを受信するためにアウェイク状態を継続する。他のSTAからのフレームの送信予告を受信しなかった場合は、STAはスリープ状態に遷移し、平均的な消費電力を低減する。
【0009】
一方、APは、複数のSTAから任意のタイミングで送られてくるフレームを確実に受信しなければならない。そのため、通常は、常時、アウェイク状態にある必要があり、ドーズ状態に遷移させることは容易ではない。このような背景もあり、IEEE802.11規格には、APのパワーマネジメント機能に関する規定がない。
【0010】
ところで、一般的なAPは据え置き型であり、商用電源を用いる。そのため、据え置き型のAPに関しては、省電力は特に重視されていなかった。
【0011】
しかし、無線LANシステムが普及したことによって、小型のポータブル機器への無線LAN機能の搭載が増えつつある。そして、STA機能だけでなく、AP機能も搭載する機器も登場している。ポータブル機器は、バッテリ駆動のタイプが一般的である。従って、バッテリ駆動による動作可能な時間(以降、「バッテリ駆動時間」という)を長くするためには、その機器の各機能ブロックの省電力制御が重要である。
【0012】
無線LANシステムにおけるSTAの省電力制御は、IEEE802.11規格で規定された方式や、その他の方式を用いて実現されている。しかし、APの省電力制御については、規格として規定されていないことも要因の一つとなっており、容易には実現できない。省電力機能を備えることなく、ポータブル機器にAP機能を備えた場合、省電力機能を備えるSTA機能のみを備える場合に比べて、バッテリ駆動時間が極めて短くなる。このように、APの省電力対応が、バッテリ駆動のポータブル機器にAP機能を搭載する際の課題となっている。
【0013】
APの省電力化を実現するために、各種の技術が考案されている。例えば、特開2004−336401号公報(以降、「特許文献1」という)に記載の技術では、APは、各STAに対して、送信停止期間情報を含むCTS(Clear To Send)フレームを送信する。そして、各STAが、CTSフレームで指示された送信停止期間中、送信停止状態を維持していることを前提とした上で、その期間、APがスリープ(ドーズ)状態に遷移する。これによって、APの省電力を実現している。
【0014】
基地局の省電力のための技術も開示されている。例えば、特開2002−158609号公報(以降、「特許文献2」という)に記載の技術は、基地局が、報知信号を使用して、移動局に対して省電力モードへの移行指示を送信する。そして、移動局を省電力モードに移行させ、その後、基地局が省電力モードに移行する。
【0015】
また、例えば、特開2002−152129号公報(以降、「特許文献3」という)には、基地局が無条件に省電力モードへ移行するのではなく、所定時間内に通信側の通信装置との通信がない場合に省電力モードへ移行する技術も開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、通信装置の省電力化を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明にかかる通信システムは、
第1の通信装置と、送信を停止する送信停止機能を備える第2の通信装置と、を有し、前記第1の通信装置と、前記第2の通信装置と、はインフラ・モード
で動作する通信システムであって、
前記第1の通信装置は、
前記第2の通信装置に対して所定の時間間隔でビーコンを送信する送信手段と、
受信を停止する受信停止機能を備え、前記第2の通信装置によって送信されるフレームを受信する受信手段と、
前記第2の通信装置に対して前記第1の通信装置への前記フレームの送信の停止を要求する送信停止要求情報を前記ビーコンに含ませる送信停止要求手段と、
前記送信停止要求情報を含む前記ビーコンの送信後、前記第2の通信装置の前記送信停止機能による前記第1の通信装置への前記フレームの送信の停止に同期して、前記受信停止機能による前記フレームの受信を停止する動作を一定期間行う受信停止手段と、を備え、
前記第2の通信装置は、
前記第1の通信装置から送信される前記ビーコンを受信する受信手段と、
前記第1の通信装置
にフレームを送信する送信手段と、
前記ビーコンに前記送信停止要求情報が含まれる場合に、前記送信停止機能により、少なくとも前記第1の通信装置への前記フレームの送信を停止する送信停止手段と、を備え、
前記第1の通信装置は第1の時刻に前記第2の通信装置に対して前記送信停止要求情報を含むビーコンを送信し、
前記第2の通信装置は前記第1の時刻以降の送信停止時刻に前記送信停止機能による前記第1の通信装置
への前記フレームの送信を停止し、
前記第1の通信装置は前記送信停止時刻以降の第2の時刻に前記受信停止機能による前記フレームの受信を停止し、
前記第1の通信装置は前記第2の通信装置が前記第1の通信装置
への前記フレームの送信を再開する送信再開時刻以前の第3の時刻に前記フレームの受信を可能にし、
前記第2の通信装置は前記送信再開時刻に前記第1の通信装置
への前記フレームの送信を可能にすることを特徴とする。
また、本発明にかかる通信システムは、
第1の通信装置と、送信を停止する送信停止機能を備える第2の通信装置と、を有し、前記第1の通信装置と、前記第2の通信装置と、はインフラ・モード
で動作する通信システムであって、
前記第1の通信装置は、
前記第2の通信装置に対して所定の時間間隔でビーコンを送信する送信手段と、
受信を停止する受信停止機能を備え、前記第2の通信装置によって送信されるフレームを受信する受信手段と、
前記第2の通信装置に対して前記第1の通信装置への前記フレームの送信の停止を要求する送信停止要求情報を前記ビーコンに含ませる送信停止要求手段と、
前記送信停止要求情報を含む前記ビーコンの送信後、前記第2の通信装置の前記送信停止機能による前記第1の通信装置への前記フレームの送信の停止に同期して、前記受信停止機能による前記フレームの受信を停止する動作を一定期間行う受信停止手段と、を備え、
前記第2の通信装置は、
前記第1の通信装置から送信される前記ビーコンを受信する受信手段と、
前記第1の通信装置
にフレームを送信する送信手段と、
前記ビーコンに前記送信停止要求情報が含まれる場合に、前記送信停止機能により、少なくとも前記第1の通信装置への前記フレームの送信を停止する送信停止手段と、を備え、
前記第1の通信装置は第1の時刻に前記第2の通信装置に対して前記送信停止要求情報を含む第1のビーコンを送信し、
前記第1の通信装置から前記第2の通信装置に対する前記第1の時刻以降の第2のビーコンの送信完了時刻から前記第1の通信装置から前記第2の通信装置に対する前記送信完了時刻以降の第3のビーコンの送信時刻までの期間、前記第1の通信装置と前記第2の通信装置との間で互いに信号を送受信し、
前記第1の通信装置は前記第3のビーコンの送信時刻以降の第4の時刻に前記第2の通信装置に対して前記送信停止要求情報を含まない第4のビーコンを送信し、
前記第2の通信装置は前記第4の時刻以降の送信停止時刻に前記送信停止機能による前記第1の通信装置
への前記フレームの送信を停止し、
前記第1の通信装置は前記送信停止時刻以降の第5の時刻に前記受信停止機能による前記フレームの受信を停止し、
前記第1の通信装置は前記第2の通信装置が前記第1の通信装置
への前記フレームの送信を再開する送信再開時刻以前の第6の時刻に前記フレームの受信を可能にし、
前記第2の通信装置は前記送信再開時刻に前記第1の通信装置
への前記フレームの送信を可能にすることを特徴とする。
さらに、本発明にかかる通信システムは、
第1の通信装置と、送信を停止する送信停止機能を備える第2の通信装置と、を有し、前記第1の通信装置と、前記第2の通信装置と、はインフラ・モード
で動作する通信システムであって、
前記第1の通信装置は、
前記第2の通信装置に対して所定の時間間隔でビーコンを送信する送信手段と、
受信を停止する受信停止機能を備え、前記第2の通信装置によって送信されるフレームを受信する受信手段と、
前記第2の通信装置に対して前記第1の通信装置への前記フレームの送信の停止を要求する送信停止要求情報を前記ビーコンに含ませる送信停止要求手段と、
前記送信停止要求情報を含む前記ビーコンの送信後、前記第2の通信装置の前記送信停止機能による前記第1の通信装置への前記フレームの送信の停止に同期して、前記受信停止機能による前記フレームの受信を停止する動作を一定期間行う受信停止手段と、を備え、
前記第2の通信装置は、
前記第1の通信装置から送信される前記ビーコンを受信する受信手段と、
前記第1の通信装置
にフレームを送信する送信手段と、
前記ビーコンに前記送信停止要求情報が含まれる場合に、前記送信停止機能により、少なくとも前記第1の通信装置への前記フレームの送信を停止する送信停止手段と、を備え、
前記第1の通信装置は第1の時刻に前記第2の通信装置に対して送信する第4のビーコンに、前記送信停止要求情報と、前記第1の時刻から前記第2の通信装置が前記第1の時刻以降に前記送信停止機能による前記第1の通信装置
への前記フレームの送信を停止する送信停止時刻までの時間を繰り返す回数と、を含めて送信し、
前記第2の通信装置は前記第1の時刻以降の送信停止時刻に前記送信停止機能による前記第1の通信装置
への前記フレームの送信を停止し、
前記第1の通信装置は前記送信停止時刻以降の第2の時刻に前記受信停止機能による前記フレームの受信を停止し、
前記第1の通信装置は前記第2の通信装置が前記第1の通信装置
への前記フレームの送信を再開する送信再開時刻以前の第3の時刻に前記フレームの受信を可能にし、
前記第2の通信装置は前記送信再開時刻に前記第1の通信装置
への前記フレームの送信を可能にすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、通信装置の省電力化を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の第1の実施形態の通信装置の構成を示すブロック図である。
【0022】
通信装置10は、送信を停止する送信停止機能を備える外部の通信装置へ、所定の時間間隔で第1の信号15を送信する送信部11と、受信を停止する受信停止機能を備え、外部の通信装置によって送信される第2の信号16を受信する受信部12とを備えている。また外部の通信装置に対して第2の信号の送信の停止を要求する送信停止要求情報を、第1の信号に含ませる送信停止要求部13と、送信停止要求情報を含む第1の信号の送信後、受信部の受信動作を停止させる受信停止部14を備えている。
【0023】
すなわち、送信部11は、所定の時間間隔で、外部へ第1の信号15を送信する。第1の信号15は、図示しない外部の通信装置によって受信される。第1の信号15は、外部の通信装置へ各種の情報を通知するために使用することができる。送信部11は、後述の送信停止要求部13からの指示に従って、第1の信号15に送信停止要求情報を含ませて外部へ送信する。
【0024】
受信部12は、外部から通信装置10へ送信される第2の信号16を受信する。また、受信部12は、後述の受信停止部14からの指示に従って、受信可能状態または受信停止状態に設定される。「受信可能状態」とは、第2の信号16が送信されてきたときに受信することができる状態を意味する。「受信停止状態」とは、第2の信号16が送信されてきたときであっても、受信することができない状態を意味する。受信部12が受信停止状態にあるときの受信部12の消費電力(以降、「受信停止時消費電力」という)は、受信部12が受信可能状態を保っているときの受信部12の消費電力(以降、「受信可能時消費電力」という)よりも小さく抑えることができる。
【0025】
送信停止要求部13が出力する送信停止要求情報は、外部の通信装置に対して、第2の信号の送信を停止するように要求するための情報である。上述のように、送信停止要求情報を受けた送信部11は、第1の信号15に送信停止要求情報を含ませて、外部の通信装置に第1の信号15を送信する。
【0026】
受信停止部14は、送信停止要求部13が送信停止要求情報を発生したとき、受信部12を受信停止状態に設定する。
【0027】
なお、第1の信号15および第2の信号16は、それぞれ第1の通信装置10と外部の通信装置との間で送受信される信号であればよく、有線信号であっても、無線信号であってもよい。このことは、以降の各実施形態においても同様である。
【0028】
本実施形態の通信装置は、以上のような構成により、外部に信号の送信の停止を要求し、自らは受信動作を停止する。すなわち受信停止時消費電力は受信可能時消費電力よりも小さく抑えられるので、外部からの信号を停止させた状態で消費電力を低下させることができる。なお外部の通信装置はドーズ状態などの通信動作の停止状態に移行することなく、信号の送信を停止しているだけの状態が保たれている。
【0029】
このように本実施形態の通信装置は、外部の通信装置の通信動作を停止させることがなく、その通信装置からの信号の受信に与える影響も極力抑えながら、受信動作を停止させることができる。
【0030】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について、図面を参照して説明する。
図2は、
図1における通信装置10および外部の通信装置の動作を示すタイミング・チャートである。
【0031】
図2に示すように、時刻t0に、通信装置10が送信停止要求情報を含む第1の信号15を送信し、外部の通信装置がその第1の信号15を受信する。外部の通信装置は、時刻t1に第2の信号16の送信を停止する。時刻t2に、通信装置10は受信部12を受信停止状態に設定する。
【0032】
なお、通信装置10は、t1より前の時刻t3に、受信部12を受信停止状態に設定してもよい。この場合の動作を、
図3に示す。
図3は、
図2の動作の変形例を示すタイミング・チャートである。この場合は、t3からt1までの間に第2の信号16が送信される可能性があるので、第2の信号16が受信部12によって正常に受信されない可能性がある。しかし、t1以降は確実に第2の信号16は送信されないので、第2の信号16が送信されたにも関わらず通信装置10が受信できないという事態は生じない。
【0033】
なお、その第2の信号16が受信部12によって正常に受信されなかった場合は、再送、送信の遅延あるいは通信エラーとしての処理等、所定の処理を行えばよい。この問題については本発明の範囲外であり、当業者には容易に解決可能なので、詳細な説明は省略する。
【0034】
図4は、通信装置10をCPU(Central Processing Unit)を用いてコンピュータによるソフトウェア処理により制御するときの構成を示すブロック図である。
【0035】
図4において通信装置10は、送信部11、受信部12、CPU17、メモリ18を備える。CPU17は、メモリ18に格納されたプログラムを読み取り、前述の送信停止要求部13、受信停止部14と同等の機能を処理する。
【0036】
なお、送信部11は所定の間隔で第1の信号15を送信するが、第1の信号15の送信時間間隔は一定でなくてもよい。ただし、送信時間間隔を変化させるときは、外部の通信装置が第1の信号15を受信することができるように、送信時間間隔を、通信装置10から外部へ通知するか、あるいは外部の通信装置から通信装置10へ通知するなどすればよい。
【0037】
また送信停止要求部13は、所定の送信停止要求条件を満たすとき、送信部11に送信停止要求情報を出力する。この送信停止要求条件は、通信装置10の状態に基づいて、必要性が生じたときに受信部12の受信動作を停止できるように、所定の条件を設定するものであり、特に限定されない。
【0038】
送信停止要求条件には次のようなものがある。例えば、送信停止要求条件を、通信装置10と外部の通信装置との間のトラフィック(通信情報量)が少ないとき、と設定すれば、そのようなときに、受信部12を受信停止状態に設定することができる。
【0039】
あるいは、送信停止要求条件を、通信装置10の内部に受信よりも優先して行うべき処理があるとき、としてもよい。具体的には、通信装置10の内部処理の負荷が重く、第2の信号16を受信し処理する処理能力が少ないとき、等である。この場合は、受信部12を受信停止状態に設定することによって、通信装置10の処理負荷も低下させることができる。
【0040】
図5は、
図4の通信装置10の動作を示すフローチャートである。
図5のフローチャートを参照して、
図4の通信装置10の動作を説明する。
【0041】
始めに、CPU17は、送信停止要求条件を満足するか確認する(ステップS1)。送信停止要求条件とは、後述の通り、通信装置10の状態に基づいて、受信部12の受信動作を停止する必要が生じていると判断するための条件である。
【0042】
CPU17は、ステップS1において送信停止要求条件が満たされていると判断すると、送信停止要求情報を生成し、送信部11へ出力する(ステップS2)。
【0043】
CPU17は、ステップS1において送信停止要求条件が満たされていないと判断すると、ステップA1に進み、送信部11に第1の信号15の送信を指示する。そしてステップA2において、受信部12が第2の信号16を受信可能な状態を保つ。
【0044】
一方、ステップS1において送信停止要求条件が満たされていると判断された場合は、CPU17は、送信部11に送信停止要求情報を含んだ第1の信号15の送信を指示する(ステップS3)。そして、CPU17は、受信部12に受信動作の停止を指示する(ステップS4)。
【0045】
以上のように、本実施形態の通信装置は、設定された送信停止要求条件に応じて通信動作の制御を行うことができる。
【0046】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。第1、2の実施形態の通信装置では、外部に対して送信停止要求情報を含む第1の信号を送信した後、自らを受信停止状態に設定している。この送信停止要求情報に、各種のパラメータを含ませることによって、さらに機能を追加することができる。
【0047】
図6は第3の実施形態の通信システムの構成を示すブロック図である。本実施形態の通信システムは、通信装置10と通信装置20を備える。
【0048】
通信装置10は、
図1に示した第1の実施形態の通信装置と同じ構成を備える。そして、通信装置10は、通信装置20へ、第1の信号15を送信する。通信装置20は、通信装置10へ、第2の信号16を送信する。第1の信号15には、送信停止要求情報が含まれることがある。
【0049】
通信装置20は、受信部21、送信部22、送信停止部23を備える。受信部21は、通信装置10からの第1の信号15を受信する。送信部22は、通信装置10へ、第2の信号16を送信する。なお、第2の信号16は、送信すべきデータがあるときのみ送信されるのであって、必ずしも常に出力され続ける必要はない。また、送信部22は、後述の送信停止部23からの指示に従って、送信可能状態または送信停止状態に設定される。「送信可能状態」とは、送信すべき情報があるときに、第2の信号16にその情報を含めて送信することができる状態を意味する。「送信停止状態」とは、第2の信号16に含めて送信すべき情報があったとしても、第2の信号16を送信することができない状態を意味する。送信停止部23は、受信部21が受信した第1の信号15に送信停止要求情報が含まれるとき、送信部22を送信停止状態に設定する。
【0050】
本実施形態における送信停止要求情報には、送信部22を送信停止状態に設定させる時刻である送信停止時刻、および送信部22を送信可能状態に設定させる時刻である送信再開時刻が含まれる。送信停止要求情報への送信停止時刻と送信再開時刻の設定は、送信停止要求部13が行う。送信停止部23と受信停止部14は、送信停止時刻および送信再開時刻を利用して、おのおの送信部22、受信部12の動作を制御する。なお、送信停止要求情報に、送信停止時刻と送信再開時刻を含ませるのではなく、その一方と送信停止状態を継続する期間である送信停止期間を含ませてもよい。あるいは、送信停止要求情報に、送信停止期間のみを含ませてもよい。
【0051】
通信装置20においては、送信停止部23が、送信停止時刻に送信部22を送信停止状態に設定し、送信再開時刻に送信部22を送信可能状態に設定する。また、通信装置10においては、受信停止部14は、送信停止時刻以降に受信部12を受信停止状態に設定し、送信再開時刻以前に受信部12を受信可能状態に設定する。
【0052】
タイミング・チャートを参照して、本実施形態の通信システムの動作を説明する。
図7、
図8、
図9は、通信装置10および外部の通信装置の動作を示すタイミング・チャートである。
【0053】
図7に示すように、時刻t0に、通信装置10が送信停止要求情報を含む第1の信号15を送信し、第2の通信装置20がその第1の信号15を受信する。第2の通信装置20は、送信停止時刻(時刻t1)に第2の信号16の送信を停止する。t1以降の時刻t2に、通信装置10は受信部12を受信停止状態に設定する。
【0054】
そして、送信再開時刻(時刻t4)以前の時刻t3に、通信装置10は受信部12を受信可能状態に設定する。そして、t4に、通信装置20は送信部22を送信可能状態に設定する。
【0055】
以上のように制御することによって、通信装置10は、通信装置20において送信部22を送信停止状態にした後、受信部12を受信停止状態に設定することができる。そして、通信装置10は、通信装置20において送信部22を送信可能状態にする前に、受信部12を受信可能状態にすることができる。
【0056】
図8のように、送信停止時刻および送信再開時刻を、送信停止要求情報を含む第1の信号15の、次の第1の信号の送信時刻(時刻t7)以降に設定することもできる。こうするとt7に送信される、2つ目の第1の信号15には送信停止要求情報が含める必要はない。この場合は、1つ目の第1の信号の送信完了後から2つ目の第1の信号の送信までの期間(時刻t5からt6まで)は、送信部22および受信部12は動作可能状態に設定されている。従って、通信装置10と通信装置20は、互いに信号を送受信することができる。そのため、例えば、通信装置10と通信装置20との間で、データの送受信を行ったり、情報を交換したり、あるいは通信装置10と通信装置20との間の通信状況を確認したりすることができる。
【0057】
また、送信停止要求情報には、送信停止時刻および送信再開時刻以外に、送信の停止および再開の繰り返し回数を含ませてもよい。
図9は、t0に送信された第1の信号15に、繰り返し回数「3」が含まれている場合の動作を示す。このように、時刻t7、t8に送信される第1の信号15に送信停止要求情報が含まれていなくても、通信装置20は3回送信停止状態に設定される。そして、その都度、通信装置10は受信停止状態に設定することができる。なお、送信停止状態の設定の繰り返し回数を含ませる場合は、送信停止時刻および送信再開時刻を、第1の信号の送信時刻からの遅延時間として設定すればよい。すなわち、各第1の信号の送信時刻を基準時刻とし、その基準時刻から送信停止時刻および送信再開時刻を計測する。
図9では、期間T0がこの遅延時間に相当する。ただし、
図9では、第2の通信装置20が第1の信号15の受信開始から受信を完了し、送信停止要求情報を認識するまでに要する時間は無視している。このように、送信停止要求情報に通信装置20における送信停止の繰り返し回数を含ませることによって、1度の送信停止要求情報の送信によって、送信停止および送信再開を繰り返し行うことができる。
【0058】
上記のように、送信停止を繰り返すときは、繰り返し周期を所定値に設定して、送信停止周期情報として送信停止要求情報に含ませてもよい。
【0059】
なお、各時刻の設定には、各種の伝達遅延時間、応答遅延時間を考慮する必要があることは言うまでもない。例えば、伝達遅延時間としては、通信装置10による第1の信号の送信から第2の通信装置20による受信までの遅延時間がある。応答時間としては、第2の通信装置20が第1の信号を受信してから送信停止要求情報を認識するまでの処理時間、送信部22および受信部12が動作可能状態と動作停止状態を切り替えるのに要する時間などがある。
【0060】
また、受信部12および送信部12の動作可能状態、停止状態への設定時刻の前後関係は、必ずしも上記のものに限定する必要はない。ただし、設定時刻の前後関係によっては、通信装置20からの第2の信号16が通信装置10によって確実に受信できない可能性がある。その場合は、前述の通り、再送、送信の遅延、エラー処理等によって対処すればよい。
【0061】
本実施形態の通信装置10も、第1の実施形態と同様に、コンピュータによるソフトウェア処理を用いて実現してもよい。すなわち、通信装置10の送信停止要求部13、受信停止部14の機能は、ソフトウェアによって処理することができる。
【0062】
以上のようにこの実施形態では、送信停止および送信再開のパターンに応じた制御を、1度の送信停止要求情報の送信によって行うことができる。
【0063】
(第4の実施形態)
第4の実施形態の通信システムは、通信装置10と通信装置20との間の通信状態に基づいて、通信装置10が送信停止要求情報を通信装置20へ送信することができる。
【0064】
第4の実施形態の通信システムの構成は、第3の実施形態の通信システムと同様であり、通信装置10と通信装置20を備える。
【0065】
通信装置10は第1および第2の実施形態の通信装置10と同じ構成を備え、通信装置20は第2の実施形態の通信装置20と同じ構成を備える。そして、通信装置10は、通信装置20へ第1の信号15を送信する。第1の信号15には、送信停止要求情報が含まれることがある。通信装置20は、通信装置10へ第2の信号16を送信する。
【0066】
本実施形態では、通信装置10の送信停止要求部13は、通信装置10と通信装置20との間の通信状態に基づいて、送信停止要求情報を生成する。通信状態は、例えば、トラフィックの大きさの測定結果に基づいて判断することができる。すなわち、送信停止要求部13は、トラフィックを測定し、トラフィックの大きさに基づいて、通信装置20への送信停止要求の実施の有無や要求内容を決定する。
【0067】
例えば、送信停止要求部13は、トラフィックが大きいときは、送信停止状態に設定するべきではないと判断し、送信停止要求情報を生成しない。あるいは、トラフィックが大きいときは、送信停止時間を短く設定したり、送信停止時刻を遅く設定したり、送信停止の繰り返し回数を少なく設定したりしてもよい。逆に、トラフィックが小さいときは、送信停止状態に設定することが有効であると判断し、送信停止要求情報を生成する。例えば、トラフィックが小さいときは、送信停止時間を長く設定したり、送信停止時刻を早く設定したり、送信停止の繰り返し回数を多く設定したりしてもよい。
【0068】
あるいは、送信停止要求部13は、送信停止期間の発生周期を、トラフィックの状況に合わせて設定してもよい。
図10は、本実施形態の通信システムにおいて、送信停止期間の発生周期をトラフィックの状況に合わせて設定するときの動作を示すタイミング・チャートである。送信停止期間の発生周期とは、
図10におけるT1の期間であり、この周期ごとに送信停止期間が発生する。
図10は、t0に送信された第1の信号15に、発生周期「3」が含まれている場合の動作を示す。このように、時刻t7、t8に送信される第1の信号15に送信停止要求情報が含まれていなくても、通信装置20は3回の第1の信号15の送信ごとに送信停止状態に設定される。そして、その都度、通信装置10は受信停止状態に設定することができる。
【0069】
例えば、送信停止要求部13は、トラフィックが大きいときには周期を短く、トラフィックが小さいときには周期を大きくすればよい。あるいは、通信装置10と通信装置20との間でフレームが送受信されるときの周期に基づいて、送信停止期間の発生周期を設定してもよい。このような、周期的に送受信されるフレームには、リアルタイムなデータ、例えば、音声、画像などのデータを含むフレームがある。例えば、VoIP(Voice over Internet Protocol)において、20msごとに60バイトのフレームが送受信されるならば、送信停止時刻および送信再開時刻のそれぞれの間隔を20msとすればよい。そして、送信停止時刻から送信再開時刻までの長さである送信停止期間を、通信レートを考慮して60バイトのフレームが十分に送受信できるように設定すればよい。
【0070】
トラフィックの測定を行うタイミングは特に限定されない。例えば、送信停止要求情報の送信前でもよいし、送信停止要求情報を送信した後でもよい。例えば、第3の実施形態の通信システムのように送信停止時刻が設定されているときは、通信装置10は、送信停止要求情報を送信した後、実際に通信装置20の送信部22が送信停止状態になるまでの間、受信部12が受信停止状態には設定されない。そのため、通信装置10は通信装置20から第2の信号16を受信することができる。また、通信装置10は、常に通信装置20へ送信部11から第1の信号15、その他の信号を送信することができる。このように、通信装置20の送信部22が送信停止状態になるまでの間は、通信装置10は通信装置20との間で通信を行うことができる。従って、通信装置10は、送信停止要求情報を送信した後、実際に通信装置20の送信部22が送信停止状態になるまでの間の、通信装置20との間のトラフィックを測定することができる。そして、測定されたトラフィックに基づいて、次に送信する送信停止要求情報に含める各種のパラメータ、例えば、送信停止時刻や送信停止の繰り返し回数等を設定することができる。
【0071】
また、送信停止要求情報に送信停止時間が設定されている場合、送信停止までの間に通信装置20から通信装置10へ第2の信号16を送信することができる。このときは、通信装置20から通信装置10へ、送信部22の送信停止状態への設定の拒否、または通信装置10の受信部12の受信停止状態への設定の中止を送信してもよい。
【0072】
以上のように、第4の実施形態の通信システムでは、通信装置間の通信状況に基づいて、送信停止要求情報の、送信停止時間、送信停止の繰り返し回数、送信停止の発生周期等を設定する。そのため、通信装置間での通信を継続することが望ましい状況であるにも関わらず、おのおの通信装置が送信停止状態および受信停止状態に移行してしまうことがない。従って、通信の中断、遅延等を防止し、効率的に省電力を実現しながら、通信へ与える影響も最小限に留めることができるという効果がある。
【0073】
なお本実施形態の通信装置10も、第1の実施形態と同様に、コンピュータによるソフトウェア処理を用いて実現してもよい。すなわち、通信装置10の送信停止要求部13、受信停止部14の機能は、ソフトウェアによって処理することができる。
【0074】
(第5の実施形態)
次に、本発明の具体例な実施形態として、無線LANシステムへの適用例を示す。
図11は、本発明の第5の実施形態の無線LANシステムの全体を示す構成図である。
【0075】
本無線LANシステムは、AP40と、STA51、52、53を備え、インフラ・モードで動作する。STA51、53は無線LANのSTA機能を備える携帯電話機、STA52は無線LANのSTA機能を備えるパーソナル・コンピュータ(以降、「PC」という)である。AP40は、ネットワーク61を介して、LAN(Local Area Network)やWAN(Wide Area Network)60に接続されている。
【0076】
AP40およびSTA51、52、53は、
図12に示す無線LANモジュール30を内蔵する。AP40およびSTA51、52、53の無線LAN機能は、無線LANモジュール30によって実現されている。AP40、STA51、52、53の無線LANモジュール30の、基本的なハードウェア構成は同じである。
【0077】
図12は無線LANモジュール30のハードウェア構成のブロック図である。無線LANモジュール30は、無線周波数(以下、「RF」という)部31、ベースバンド(以下、「BB」という)部32、MAC(Media Access Control)部33を備える。また無線LANモジュール30は、CPU34、メモリ35、ホスト・インタフェース(以下、「ホストI/F」という)部36、パワーマネジメント(以下、「PM」という)部37を備える。
【0078】
RF部31は、BB部32から受け取ったベースバンド信号を無線媒体で使用する高周波信号に変換する。また、RF部31は無線媒体を介して受信した高周波信号をBB部32で扱う周波数帯域の信号に変換する。BB部32は、BB信号を無線信号に変調する、または無線信号を復調してBB信号を取り出す。MAC部33は、フレームの構成および送受信を制御する。
【0079】
ホストI/F36は、ホストとの間でアプリケーション・データや制御情報を授受するためのインタフェースである。AP40の場合には、装置としてのAPを制御するメイン処理部(図示なし)がホストに相当する。AP40のメイン処理部は、例えば、無線LANモジュール30を用いたAP機能の制御や、無線LANとLAN/WAN60との間の通信制御を行う。STA51、53の場合には、携帯電話機としての処理と、携帯電話機と無線LAN間の通信制御を行う部分がホストに相当する。STA52の場合には、PCとしての処理と、PCと無線LAN間の通信制御を行う部分がホストに相当する。
【0080】
ホストI/F36を構成する具体的なハードウェアは各種の方式が可能である。例えば、ホストI/Fは、SDIO(Secure Digital Input/Output)、USB(Universal Serial Bus)やPCI(Peripheral Component Interconnect)バスなどを用いて実現することができる。
【0081】
PM部37は、RF部31、BB部32、MAC部33など、無線LANモジュール30に備えられた各回路ブロックで使用されるクロックや電源を供給する。PM部37は、各ブロックの動作状態、すなわち、通常の動作状態であるか省電力状態であるかによって、クロックの供給の実施、停止または周波数の変更や、電源の供給の有無を制御する。
【0082】
CPU34は、メモリ35に格納されたプログラムに従って、RF部31、BB部32、MAC部33を制御し、AP40またはSTA51、52、53としての機能を実現する。
【0083】
始めに、IEEE802.11規格で定義されているQUIETエレメントと、そのQUIETエレメントの利用方法を説明する。QUIETエレメントの詳細についてはIEEE802.11規格で定義されているので、説明は本実施形態の理解に必要な範囲に留める。
【0084】
IEEE802.11シリーズ規格で規定される無線LANでは、物理層として、2.4GHz帯と5GHz帯について規定されている。5GHz帯はレーダーでも使用されているため、無線LANシステムが5GHz帯を使用する際は、レーダーへの干渉を回避することが義務付けられている。レーダー波の検出は、通常、無線LANシステムのAPが行う。APは、レーダー波が存在するか否かを観測するにあたり、STAからの送信波が妨害になるので、ビーコンに含まれるQUIETエレメントにて送信停止期間情報を送信し、各STAの送信を一時停止させ、その期間にレーダー波の検出を行う。本実施形態では、QUIETエレメントを使用して、AP40とSTA51、52、53の省電力化を実現する。
【0085】
なお、2.4GHz帯はレーダーには使用されていないため、2.4GHz帯では、無線LANによるレーダー波の検出は不要である。そのため、IEEE802.11規格で定義されている目的でのQUIETエレメントは不要である。しかし、2.4GHz帯を使用する無線LANにおいても、IEEE802.11規格で定義されているQUIETエレメントを使用することによって、以降説明する本実施形態を2.4GHz帯の無線LANに適用することができる。
【0086】
本実施形態では、AP40からSTA51、52、53に対して送信停止を要求するために、QUIETエレメントを利用する。すなわち、AP40は、STA51、52、53に対してQUIETエレメントを付加したビーコンを送信し、STA51、52、53を一定期間、送信停止状態に遷移させる。「送信停止状態」とは、少なくともAP40へのフレームの送信を停止した状態である。従って、RF部31による電波の送信を停止させ、すべてのフレームの送信を停止した状態であってもよい。RF部31による送信が停止している期間は、BB部32およびMAC部33の送信に関する機能も不要となるので、これらの機能も停止してもよい。あるいは、STA51、52、53は、AP40へのフレームの送信のみを停止させ、STA51、52、53間のフレームの送信や、他のAPへのフレームの送信を行ってもよい。逆に、STA51、52、53は、送信停止状態において、送信の停止のみでなく、送受信とも停止した状態であるドーズ状態に設定されてもよい。
【0087】
AP40は、STA51、52、53が送信停止状態となることを前提として、その期間に同期して、ドーズ状態に遷移する。このように、STA51、52、53を確実に送信停止状態に遷移させ、その間にAP40がドーズ状態に遷移することによって、AP40の省電力を実現する。
【0088】
なお、AP40は、STA51、52、53からのフレームの受信を停止させさえすればよい。従って、必ずしも上記のように、AP40を、送受信を停止するドーズ状態に設定する必要はない。例えば、STA51、52、53を含め、周囲のすべてのAPやSTAからのフレームの受信は停止させるが、フレームの送信機能は停止させずに動作可能状態で維持してもよい。また、AP40は、ドーズ状態に設定されても、無線信号の送受信以外の処理、例えば、ホスト装置とのインタフェースに関わる処理等は行ってもよい。ただし、AP40の省電力の観点からは、AP40内の必要なブロック以外はすべて停止させることによって、極力消費電力を小さくすることが望ましい。
【0089】
IEEE802.11規格では、MACレイヤのフレームとして、マネジメント・フレーム、制御フレーム、データ・フレームの3種類のフレームが提示されている。マネジメント・フレームには、ビーコン、プローブ・リクエスト(Probe Request)、プローブ・レスポンス(Probe Response)等のフレームが定義されている。ビーコンは、インフラ・モードではAPが定期的に送信するフレームで、STAへ報知するための各種の情報を含む。プローブ・リクエストは、STAが周辺に対して無線セルの存在を問い合わせるためのフレームである。プローブ・レスポンスは、インフラ・モードではプローブ・リクエストに対してAPが応答するためのフレームである。
【0090】
図13は、IEEE802.11規格で定義されているQUIETエレメントの構成を示す。QUIETエレメントは、ビーコンまたはプローブ・レスポンスに含ませることができる。QUIETエレメントは、6種類のパラメータで構成される。Element IDには、QUIETエレメントの識別子である40(固定値)を設定する。Lengthは、QUIETエレメントの長さである6(固定値)を設定する。Quiet Count、Quiet Period、Quiet Duration、Quiet Offsetには、Quiet Intervalの内容を設定する。Quiet Intervalとは、QUIETエレメントの送信から、そのQUIETエレメントによって指定された条件で行われるSTAの送信停止の終了までの、STAの送信停止制御に関わる条件を意味する。Quiet Countとは、STAを送信停止状態に設定する回数を示す。Quiet Periodとは、STAに対する送信停止状態への設定の繰り返し周期を示す。Quiet Durationは、STAを送信停止状態で維持する期間の長さを示す。Quiet Offsetは、STAを送信停止状態に設定するまでの、ビーコンの送信からの遅延時間を示す。なお、各パラメータの詳細については、IEEE802.11シリーズ規格に規定されているので、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0091】
次に、本実施形態の動作を図面を参照して説明する。
図14は、
図11の無線LANシステムにおける、AP40、STA51、52、53の基本動作を示すタイミング・チャートである。
【0092】
AP40は、
図13で示したQUIETエレメントを含むビーコン1を送信する。STA51、52、53は、ビーコン1に含まれるQUIETエレメントの各パラメータの内容に従って、ビーコン2を起点にQuiet Intervalで規定された期間を開始する。すなわち、STA51、52、53は、送信停止状態に遷移する。一方、AP40はドーズ状態に遷移する。
【0093】
図14の動作の例では、Quiet Count=1、Quiet Period=0、Quiet Duration=10、Quiet Offset=0と設定されている。Quiet Count=1は、ビーコン1の次のビーコンであるビーコン2からQuiet Intervalで規定された期間が開始することを示す。Quiet Period=0は、Quiet Intervalで規定された期間が周期を持たないこと、すなわちQuiet Intervalの対象となる期間が1回のみであることを示す。Quiet Duration=10は、STAが送信停止状態に設定される期間が10[TU]であることを示す。単位TUはtime unitの略で、IEEE802.11規格において1[TU]=1024[μsec]と定義されている。従って、10[TU]は10.24[msec]となる。Quiet Offset=0は、ビーコン2からQuiet Intervalで規定された期間を開始するまでの時間が0[TU]、すなわちビーコン2を受信すると直ちに送信停止状態に遷移することが要求されていることを示す。
【0094】
なお、ここで示したQuiet Count、Quiet Period、Quiet Duration、Quiet Offsetの値は一例であり、無線LANシステムのポリシーにあわせて設定されるべきパラメータである。従って、本実施形態では特に上記の値に限定しない。
【0095】
以上、ビーコン1に含まれるQUIETエレメントによって、定期的にSTA51、52、53を送信停止状態にし、AP40をドーズ状態に遷移させることによって、AP40の省電力を実現することができる。以上が本実施形態の基本的な動作である。
【0096】
ただし、以上の基本動作では、AP40がドーズ状態になって、一定期間通信できない期間が生じる。そのため、システム全体としてのスループットが低下する可能性がある。そこで、本実施形態では、AP40は、トラフィック状態を監視し、トラフィックの大きさが一定量以上の場合は通信優先モードに設定される。「通信優先モード」とは、AP40の動作状態の一つであり、省電力よりも通信の継続を優先するモードである。通信優先モードに遷移したAP40は、QUIETエレメントを含まないビーコンを送信することによって、STA51、52、53ともに、通常動作状態で通信を継続することが可能である。以降、通信優先モードのAP40動作について、
図15、
図16を参照して説明する。
【0097】
図15は、STA52から連続してフレームを受信した場合の動作を示すタイミング・チャートである。
図15に示すように、ビーコン1に含まれるQUIETエレメントの各パラメータの内容により、ビーコン2の受信完了後、一旦、STA51、52、53は送信停止状態に設定され、AP40はドーズ状態に遷移する。
【0098】
このとき、AP40が、あるSTA、例えばSTA52から複数のフレーム(
図15では「F」と表記する)を連続して受信すると、AP40は通信優先モードに移行する。そして、次のビーコン2以降はQUIETエレメントを含まないビーコン3、4を送信する。これにより、ビーコン3の後は、STA51、52、53およびAP40は通常動作をするため、スループットの低下を防ぐことができる。
【0099】
その後、AP40が、STA51、52、53のいずれかからフレームを一定期間連続して受信しない場合は、通信優先モードを終了し、省電力優先モードに遷移する。「省電力優先モード」は、AP40の動作状態の一つであり、通信の継続よりも省電力を優先するモードである。省電力優先モードに遷移したAP40は、ビーコン5以降、ビーコン6、7と、QUIETエレメントを付加して送信し、AP40の省電力動作を再開する。
【0100】
以上の説明では、AP40がSTA52から連続してフレームを受信した場合を例として説明したが、STA51、53からの連続受信でも同様である。また、複数のSTAから交互に連続して受信した場合でも同様に、AP40は通信優先モードに遷移することができる。
【0101】
なお、AP40における連続受信の判断基準は、システムのポリシーによって、任意に設定することが可能であり、本実施形態では特に限定しない。例えば、あるビーコンと次のビーコンとの間で複数のフレームを受信した場合に連続受信と判断してもよい。あるいは、監視タイマーを用意して、そのタイマー周期の中で複数のフレームの受信があった場合に連続受信と判断してもよい。
【0102】
以上の説明は、AP40がSTA51、52、53からフレームを連続して受信した場合についての説明である。逆に、AP40がホスト側から連続してフレームを受信した場合についても、同様の制御を行うことができる。以下、
図16を参照して、AP40がLAN/WAN60からフレームを受信した場合の動作を説明する。
【0103】
図16は、LAN/WAN60から連続してフレームを受信した場合の動作を示すタイミング・チャートである。
図16に示すように、ビーコン1に含まれるQUIETエレメントの内容により、ビーコン2の受信完了後、一旦、STA51、52、53は送信停止状態に設定され、AP40はドーズ状態に遷移する。このとき、AP40は、LAN/WAN60からSTA51、52、53のフレーム(
図16では「F」と表記する)を連続受信すると、それらのフレームをメモリ35に保持する。そして、その保持量が一定量以上に達した場合、AP40は通信優先モードに移行し、次のビーコン2からQUIETエレメントを付加せずにビーコンを送信する。これにより、ビーコン3の後は、STA51、52、53、およびAP40は通常の動作をするため、スループットの低下を防ぐことができる。さらに、その後、AP40は、STA51、52、53宛フレームの保持量が一定量以下となった場合に通信優先モードを終了し、省電力優先モードに遷移する。省電力優先モードに遷移したAP40は、ビーコン5以降、ビーコン6、7と、QUIETエレメントを含むビーコンを送信し、AP40の省電力動作を再開する。なお、
図15の場合と同様に、通信優先モードに遷移するか否かのフレームの保持量の判断基準は、システムのポリシーによって任意に設定することが可能であり、本実施形態では特に限定されない。
【0104】
図17は、AP40がビーコンを送信するときの処理を、CPU34を用いて行うときのフローチャートである。上記のように、AP40のトラフィックが所定の条件を満たすとき、AP40は通信優先モードに遷移する。所定の条件とは、AP40がSTA51、52、53から連続してフレーム受信した場合や、LAN/WAN60から受信したSTA51、52、53宛のフレームの保持量が一定量以上となった場合などである。AP40が通信優先モードに遷移している場合(S1:Yes)にはQUIETエレメントは生成されない。AP40が通信優先モードに遷移していない場合(S1:No)はQUIETエレメントを生成する(S2)。生成されたQUIETエレメントはビーコンとして送信されるフレームに含められる。
【0105】
そして、AP40はビーコンを送信する(S3)。従って、AP40が通信優先モードに遷移している場合は、QUIETエレメントが付加されたビーコンが送信される。AP40が通信優先モードに遷移していない場合は、QUIETエレメントが付加されずにビーコンが送信される。
【0106】
以上説明したように、本実施形態の無線LANシステムは、APにおけるトラフィックに基づいて、STAに対する送信停止状態への遷移要求を行う。そして、STAを送信停止状態に設定した後、APはドーズ状態に遷移する。従って、通信効率を維持したまま、APの省電力を図ることができるという効果がある。
【0107】
なお、本実施形態では、インフラ・モードにおける動作について説明したが、アドホック・モードにおいてビーコンを送信するSTAに適用することも可能である。すなわち、アドホック・モードにおいても、いずれかの1つのSTAがビーコンを送信し、他のSTAがそのビーコンを受信する。そこで、ビーコンに、本実施形態で説明したインフラ・モード時と同様に、QUIETエレメントを含ませて送信すればよい。そうすることによって、QUIETエレメントを受信したSTAを送信停止状態に設定させることができるので、ビーコンを送信したSTAはドーズ状態に遷移することができる。
【0108】
また、以上の実施形態はおのおの他の実施形態と組み合わせることができる。
【0109】
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態に限定されものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。