(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下,本発明を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態に係る拘束材10は基本的に,
図1の断面図に示されるように表面が凹凸状となっているものである。凸部12の表面が摩擦面3であり,凹部4によって島状に区切られている。この凸部12は,拘束材10の基材5の表面に凹部4を形成することにより残った部分である。基材5上に堆積物を堆積して形成したものではない。よって,凸部12の表面である摩擦面3を対象物に接触させると,拘束材10の基材5そのものが直接に対象物に接触することになる。また,各凸部12は周期的に配置されている。
【0015】
本形態に係る拘束材10では凸部12が,
図2の平面図に示すように配置されている。すなわちこの形態では,各凸部12は上方から見て円形である。また,
図2の平面内で各凸部12は,方向Aと方向Bとの2方向に対して周期的に配置されている。方向Aと方向Bとは直交している。
図2のパターンでは,凸部12同士の間隔に着目すると,方向Bが最も間隔の狭い第1近接方向である。方向Aが,2番目に間隔の狭い第2近接方向である。そして,4つの凸部12による長方形の対角線方向が,3番目に間隔の狭い第2近接方向である。
【0016】
凹部4の深さは,15〜50μmの範囲内が好ましい。浅すぎると,加工材への拘束力が不十分となるので好ましくない。一方,深すぎると,凸部12の形状の耐変形強度が不十分となるので好ましくない。また,凸部12の直径Dは,0.1〜2mmの範囲内が好ましい。小さすぎると,やはり凸部12の形状の耐変形強度が不十分となるので好ましくない。一方,大きすぎると,これも加工材への拘束力が不十分となるので好ましくない。また,摩擦面3の平滑度については特段の限定はなく,肉眼で平面状に見える程度であればよい。また,拘束材10の材質については,後述する硬質材に相当する金属材料等であれば特段の制限はない。例えば炭素鋼や,ステンレス鋼その他の特殊鋼,もしくはそれらにメッキ等の各種表面処理を施した材料を使用することができる。拘束材10にメッキ等の表面処理が施されていても,「拘束材の基材が直接に対象物に接する」に反するものではない。
【0017】
図1および
図2に示した本形態の拘束材10と加工対象板55との接触状況を,
図3,
図4に示す。
図3は,本形態の拘束材10と一般的な平面状の表面を持つ拘束材20とにより加工対象板55を挟み付けている状況を示している。
図4は,本形態の拘束材10同士で上下から加工対象板55を挟み付けている状況を示している。拘束材10が加工対象板55に接している箇所(
図3中の上側,
図4中の上側,同下側)においては,凹部4には荷重が掛からず,各凸部12に荷重Wが掛かる。各凸部12の荷重Wの合計が総荷重ΣWである。この荷重Wによる摩擦力により,拘束材10に対する加工対象板55の滑り(E方向)が規制される。このように加工対象板55の滑りが規制されている状況で,加工対象板55の加工が行われる。
【0018】
ここで,一般的に説明されている自由表面の摩擦モデルについて簡単に述べる。一般的な摩擦モデルによれば,平面と見なされる面同士の接触であっても,
図5の断面図に示されるように微小な突起による接触点90が離散的に多数あるというのが実際の状況である。そしてその接触点90の分布や,各接触点90の具体的な接触状況は,全くコントロールされないものなので不明である。また,各接触点90での接触による応力の発生状況は,理想的な形状同士のモデルについてヘルツの接触応力として議論されているに過ぎない。このような議論により,自由表面の摩擦力は,接触点90での材料間での凝着に基づく凝着項と,硬い方の材料の突起の先端が材料間の滑りにより軟らかい方の材料を掘り起こすことによる掘り起こし項の和として説明されている。
【0019】
一方,
図1および
図2の拘束材10では,実際の加工または搬送の対象物(以下,単に加工対象物という)への接触は,凸部12の表面(摩擦面3)の中でも縁辺の部分に集中して起こることとなる。すなわち,摩擦面3内での接触圧力の分布が,
図6のグラフに示されるような形となる。
図6のグラフに示しているのは,拘束材10における,凸部12の中心を通り,方向A(もしくは方向B)に平行な線上における接触圧力の分布である。
【0020】
このグラフでは,凹部4に相当する箇所における接触圧力は当然,ゼロである。凸部12に相当する箇所(摩擦面3)には有限値の圧力が存在するが,その分布は一様ではない。すなわち,凸部12の中心付近では圧力値は比較的低く,縁辺付近で圧力値が高くなっている。そして縁辺のところで圧力値がピークQをなしている。ピークQでの圧力値は当然,前述のヘルツモデルのような単純平面の場合の接触圧力より高い。このような圧力分布が生じるのは,拘束材10が,
図1および
図2に示した凹凸パターン形状を有していることによる特有の現象である。
【0021】
これにより拘束材10では,一般的な材料の摩擦特性と異なる特有の摩擦特性を奏する。すなわち,凸部12の配置により,摩擦特性をコントロールできるのである。なぜなら,ピークQの高さは,滑り方向についての凸部12の配置ピッチ(滑り方向に隣接する凸部12の中心同士の距離)に左右されるからである。例えば
図7は,
図6と似たようなグラフであるが,凸部12の配置ピッチが異なっている。
図7のグラフに示されるものでは,
図6と比較して,配置ピッチが大きい。つまり凸部12の分布密度が,
図6の配置パターンでは高く,
図7の配置パターンでは低い。これによりピークQの高さが,
図7においては
図6よりも高くなっている。なお,
図6と
図7とでは縦軸および横軸のスケールは同じである。
【0022】
ここで「滑り方向」とは,拘束材10に対して加工対象物を滑らせようとする力が働く場合の,その力の方向をいう。一般的には,
図2に示したような凸部12の格子状の配置パターンにおける第1近接方向(方向B),もしくは第2近接方向(方向A),あるいは第3近接方向(斜め方向)が滑り方向となるように加工機器が構成される。
【0023】
これより,凸部12の分布密度により拘束材10は,3通りの摩擦特性を奏する。このことを
図8および
図9のグラフにより説明する。
図8および
図9のグラフでは,縦軸が滑り方向における凸部12の分布密度に,横軸が加工対象物への押圧力に,それぞれ対応している。
図8は,加工対象物が薄鋼板のような硬質材(引っ張り強度TSが590MPa以上のもの)である場合のグラフである。
図9は,アルミ薄板のような軟質材(引っ張り強度TSが590MPa未満のもの)を加工対象物とする場合のグラフである。
【0024】
より詳細には,
図8および
図9のグラフの縦軸は,凸部12の直径(厳密にいえば滑り方向に対する最大径)をDとし,滑り方向についての凸部12の配置ピッチをPとしたときの(P/D)で示している。以下,この(P/D)を「パターン指数」という。
図2に示した凹凸パターン形状の場合には,凸部12の直径Dは,滑り方向を問わず一定である。配置ピッチPは,滑り方向が
図2中の方向AであればP1であり,滑り方向が方向BであればP2である。
図8および
図9の縦軸において,上方ほど凸部12の分布密度としては低密度であり,下方ほど高密度である。
図8および
図9のグラフの横軸は,凸部12の表面(摩擦面3)の巨視的な面積当たりの押圧力をFとし,加工対象物の降伏応力をYとしたときの(F/Y)で示している。以下,この(F/Y)を「作用力指数」という。
【0025】
図8および
図9のグラフではいずれも,上記の縦軸および横軸による第一象限の範囲が,カーブL1,L2という2本の略双曲線状の曲線により,3つの領域に区画されている。カーブL1,L2はいずれも,当該第一象限内で左上がり右下がり,かつ右へ行くほど傾斜が緩くなっている曲線である。全範囲で,カーブL1よりもカーブL2の方が上(右)にある。また,
図8と
図9とを比較すると,全般に,カーブL1,L2ともに,
図8中よりも
図9中の方が下(左)寄りになっている。
【0026】
カーブL1よりも下(縦軸および横軸側)の領域Rは,加工対象物が塑性域に至らず弾性域に留まる領域である。領域Rでは凸部12の分布密度が高く,
図6および
図7で説明したように圧力値のピークQが低い(
図6)からである。このためこの領域Rは,拘束材10と加工対象物との間の摩擦係数が小さい領域である。よって領域Rは,拘束材10と加工対象物との間にあまり摩擦力を発生させたくない用途に適している。
【0027】
カーブL1とカーブL2とに挟まれた領域Sは,加工対象物が弾性域から塑性域に達する領域である。領域Sでは領域Rよりも凸部12の分布密度が低く,圧力値のピークQがやや高いからである。このためこの領域Sは,拘束材10と加工対象物との間の摩擦係数がかなり大きい領域である。よって領域Sは,拘束材10と加工対象物との間での滑りをある程度許容しつつ,大きな制動力を発生させたい用途に適している。
【0028】
カーブL2よりも上の領域Tは,加工対象物が局所的に完全に塑性域に入る領域である。領域Tでは領域Sと比べても凸部12の分布密度がさらに低く,圧力値のピークQが相当に高い(
図7)からである。このためこの領域Tは,拘束材10により加工対象物が完全に拘束される領域である。よって領域Tは,拘束材10に対して加工対象物を完全に固定状態に置きたい用途に適している。
【0029】
実際には,
図8,
図9のいずれの場合でも,前述のパターン指数と作用力指数との少なくとも一方を種々振って摩擦試験をすることで,領域R,領域S,領域Tのうち,目的とする用途に適合した領域で使用できる指数の範囲を決定し,その範囲内の条件で使用する。例えば,拘束材10の材質と加工対象物の材質が決まっているものとする。さらに,使用時の作用力指数も決まっているものとする。この場合,パターン指数を振っていくつかの拘束材10を作製してそれぞれ摩擦試験をすることで,目的とする領域で使用できるパターン指数の範囲を決定できる。逆に,パターン指数を既定値として作用力指数の範囲を摩擦試験で定めてもよい。したがって,前述のカーブL1,L2の全体形状を正確に決定する必要は必ずしもない。
【0030】
以下,本形態の拘束材10を用いることが好適な用途をいくつか示す。
【0031】
図10に,そのような機器の一例であるプレス加工機50の概略断面図を示す。
図10のプレス加工機50は,ダイ51と,ストリッパー52と,パンチ53とを有している。ダイ51には,孔部54が形成されている。プレス加工機50は,平板状の加工対象物を,ストリッパー52で押し付けることでダイ51上に固定し,その状態でパンチ53で加工対象物の一部分を孔部54内に押し込むことで加工対象物を加工する機器である。
【0032】
プレス加工機50で,打ち抜きによる穴あけ加工を行うことができる。プレス加工機50で打ち抜き加工を行う場合には,加工対象板をダイ51の上に置いて,その加工対象板をストリッパー52でダイ51上に押し付ける。ストリッパー52は,上方から見て孔部54と重ならない位置で加工対象板を押し付けるものである。これにより,加工対象板をストリッパー52でダイ51上に固定した状態とする。
【0033】
この状態で
図11の上段に示すように,パンチ53を下降させる。パンチ53は,上方から見て孔部54と重なる位置に昇降可能に設けられているものである。これにより,加工対象板55のうち孔部54上の部分が下向きに移動しようとする。一方で加工対象板55のうちダイ51上の部分はストリッパー52により固定されているので不動である。このため,
図11の中段さらには下段に示すように,加工対象板55のうち孔部54上の部分はダイ51上の部分から分離されて孔部54内へ移動していく。こうして,加工対象板55のうち孔部54上の部分が打ち抜かれ,穴あけが行われる。
【0034】
上記において,プレス加工機50の構成要素のうち,本形態の拘束材10を用いることが好適なのは,ダイ51およびストリッパー52である。両方が理想的だがいずれか一方のみでもよい。ダイ51やストリッパー52のうち,加工対象板55を固定している状態で加工対象板55に接する面が,
図2等に示したパターン面とされる。これによりプレス加工機50では,ダイ51およびストリッパー52が,加工対象板55に対して高い摩擦係数を発生し,良好な打ち抜き加工が行われる。
【0035】
このような打ち抜き加工の場合には,ダイ51およびストリッパー52における前記パターン面は,
図8もしくは
図9のグラフにおける領域Tに相当する条件で使用されるようになっていることが望ましい。打ち抜き加工の場合には,ダイ51およびストリッパー52により,加工対象板55を完全に固定した状態で加工を行うことが望ましいからである。特に,打ち抜き加工の際には,加工対象板55は全体として,パンチ53および孔部54による打ち抜き箇所へ向かう引っ張りを受ける。このため,ダイ51およびストリッパー52における前記パターン面は,打ち抜き箇所を中心とする半径方向を前述の滑り方向として,領域Tの条件が成立するようになっていることが望ましい。ただし,360°すべての方向についてこのことが成立することまでは必要ではない。打ち抜き箇所に対して少なくとも4方向に,領域Tの条件が成立しているパターン面が配置されていればよい。
【0036】
具体的には,当該プレス加工機50におけるストリッパー52のダイ51への押圧力と,加工対象板55の降伏応力との比により
図8もしくは
図9のグラフにおける横軸座標が決まる。これに対して,前記パターン面における直径Dと配置ピッチPとにより定まる比が,グラフ中の領域T内に位置するようにすればよい。実際には前述のように摩擦試験で定めればよい。
【0037】
図12に,別の例として,プレス加工機50による絞り加工の場合の例を示す。ダイ61,ストリッパー62,パンチ63といった基本構成要素は打ち抜き加工の場合と同じようなものだが,次の点が相違している。つまり,矢印Cに示すように,ダイ61およびパンチ63の肩部が丸められている。また,ダイ61の孔部64とパンチ63の側面との間に,加工対象板55の厚み程度のクリアランスが設けられている。
図12の例では,パンチ63や孔部64の断面形状は円形であるものとする。むろん,ダイ61やストリッパー62のうち加工対象板55に接する面を前述のパターン面とするという点は打ち抜き加工の場合と同じである。
【0038】
絞り加工の場合,加工対象板55のもともとの形状は前記と同様に平板状であるが,加工により孔部64上の部分がダイ61上の部分から分離されるのではなく,
図12に示されるように両部位が繋がったまま,加工対象板55が変形させられることとなる。このため打ち抜き加工の場合と異なり,絞り加工の場合には,加工に際して,加工対象板55のうちダイ61上の部分から孔部64内への材料の流入がある。もし流入がないと,前述の打ち抜きの場合のように,加工対象板55の一部が他の部分から引きちぎられてしまうからである。一方で,加工部分における皺の発生を防止する必要もある。
【0039】
このため,絞り加工を行うプレス加工機50では,ダイ61およびストリッパー62における前記パターン面が,材料の流入の方向とそれに直交する方向とで異なる摩擦特性を奏するようにされていることが望ましい。すなわち,前述の材料の流入の方向,すなわちパンチ63の軸心を中心とする半径方向に関しては,
図8のグラフにおける領域Sに相当する条件が満たされるようになっていることが望ましい。一方でそれと直交する方向,すなわちパンチ63の軸心を中心とする円周方向に関しては,
図8のグラフにおける領域Tに相当する条件が満たされるようになっていることが望ましい。例えば
図2に示した凸部12の格子状の配置パターンの場合,第1近接方向(方向B)と第2近接方向(方向A)が直交している。そこで,方向Aと方向Bとの一方が領域Sの条件を満たし,他方が領域Tの条件を満たすように配置ピッチP1,P2を設定し,これらの方向が上記の方向に一致するように方向を設定すればよい。これにより,基本的には高い摩擦係数で加工対象板55の動きを規制して皺の発生を防止しつつ,半径方向には材料の必要な流入を許容する状態とできる。こうして,製品形状の安定した,高品質な絞り加工を行うことができる。むろんこの場合でも,加工箇所に対して少なくとも4方向に,上記の条件を満たすパターン面が配置されていればよい。
【0040】
プレス成形であって
図13に示すような四角形状の凸部を形成する場合には,加工後も平板状に残る部分のうち,頂点部よりも辺部において,材料の流入により生じる「引け」が大きい。高精度な製品形状を安定的に得るためには,この「引け」を適度にコントロールしつつ,頂点部での材料の流入を最小限に抑える必要がある。また,
図14に示すような異方形状の場合には,材料の流入の方位による不均衡もあってフラットな底面部56に面歪みが出やすい。このため従来,絞りビード57を多様に駆使してプレス成形がなされている。しかしそれでも,なかなか形状を決めることが難しいケースがある。
図13のような比較的単純な形状を成形する場合でも絞りビード57が使われることがある。
【0041】
しかしこのような場合でも,本形態の拘束材10をダイ61やストリッパー62に用いることにより,良好な成形が可能である。すなわち,ダイ61やストリッパー62における,材料の流入を抑制したい方位の部位においては,少なくとも流入方向に対して
図8のグラフの領域Tの条件が成り立つようにすればよい。一方,材料の流入をある程度許容したい方位の部位においては,流入方向に対しては領域Sの条件が成り立つようにし,流入方向と直交する方向に対しては領域Tの条件が成り立つようにすればよい。これにより,絞りビード57に頼らずに,
図13や
図14のような製品形状を安定して高精度に成形できるプレス加工機50とすることができる。なお,絞りビード57と併用してもよい。
【0042】
図15に,帯状物の搬送処理装置70の概略を示す。これも,本形態の拘束材10の適用例の1つである。搬送処理装置70は,シート送出部71,ブライドルロール72,シート巻取部73を有している。これにより搬送処理装置70では,搬送対象シート74をシート送出部71から送出してシート巻取部73で巻き取るようになっている。ここで,ブライドルロール72が駆動源75と接続されており,搬送対象シート74を搬送方向に駆動するようになっている。また,ブライドルロール72の回転速度が搬送対象シート74の搬送速度を支配するようになっている。このためブライドルロール72により,搬送対象シート74に張力も印加されるようになっている。また,シート送出部71とブライドルロール72との間には,処理区間が設けられており,搬送対象シート74に対して何らかの処理(圧延,表面処理,熱処理,塗工など)が施されるようになっている。
【0043】
搬送対象シート74の典型例は薄鋼板であるが,これに限らず,アルミ箔その他の各種金属箔,非鉄金属の薄板,樹脂シート,樹脂フィルムなどであってもよい。以下では,特記しない限り薄鋼板であるものとする。
【0044】
図15の搬送処理装置70では,ブライドルロール72が,本形態の拘束材10の適用対象要素である。すなわち,ブライドルロール72の円筒面が,
図2等に示したパターン面とされる。この搬送処理装置70におけるブライドルロール72では,少なくとも搬送対象シート74の搬送方向,すなわち円周方向に対して,
図8のグラフにおける領域Tに相当する条件で使用されるようになっていることが望ましい。搬送対象シート74をブライドルロール72に対して確実に拘束することで,スリップなく良好に駆動するためである。さらに,搬送方向に直交する方向,すなわち軸方向に対しても領域Tに相当する条件で使用されるようになっているとよりよい。このようになっていれば,搬送対象シート74の幅方向(ブライドルロール72の軸方向)へのスリップも防止される。
【0045】
ここで,
図2の配置パターンにおける直径Dおよび配置ピッチP(P1もしくはP2)と,拘束材10の摩擦特性との関係についてさらに述べる。
図8のグラフの説明のところで述べたことから明らかなように,拘束材10の摩擦特性には,パターン指数(P/D),作用力指数(F/Y)の2つのパラメータが大きく影響する。このうちの(F/Y)の方は,拘束材10の適用箇所や加工対象物(または搬送対象物)の種類によりだいたい決まってしまう。
【0046】
例えば前述の打ち抜き加工(
図11)や絞り加工(
図12〜
図14)で薄鋼板のような硬質材(引っ張り強度TSが590MPa以上のもの)を加工対象物とする場合には,(F/Y)の値としては2.0以上,好ましくは3.0以上が必要である。
図8から,(F/Y)の値が2.0程度である場合には(P/D)の値が3.1以上となるパターン設定とすることで,領域Tの完全固定条件とすることができる。(F/Y)の値が3.0以上であれば,(P/D)の値が2.0以上となるパターン設定とすることで,領域Tの完全固定条件とすることができる。ただし(P/D)の値は,
図8に基づいて上限が限定されることはないが,100を超えないことが望ましい。より好ましくは,30を超えないことが望ましい。さらに好ましくは,10を超えないことが望ましい。(P/D)の値があまりに大きいと,荷重による撓みにより拘束材10の凹部4が対象物の表面に接してしまう。これでは拘束材10の表面が平面である場合とほとんど変わらない状態となるからである。
図15の搬送処理装置70で硬質材を搬送対象物とする場合も同様である。
【0047】
また,(P/D)の値が1.0〜2.0の範囲内となるパターン設定とする((F/Y)の値が3.0以上である場合)ことで,領域Sの高摩擦ながらある程度滑りを許容する条件とすることができる。(F/Y)の値が2.0程度である場合には(P/D)の値を1.2〜3.0の範囲内とすることで,領域Sの条件とすることができる。絞り加工用には第1の方向について領域Tの条件を満たし,第2の方向について領域Sの条件を満たすようにすればよい。
【0048】
一方,アルミ薄板のような軟質材(引っ張り強度TSが590MPa未満のもの)を打ち抜き加工や絞り加工の加工対象物とする場合には,(F/Y)はだいたい1.4程度(1.3〜1.5程度)である。よってこの場合には
図9から,(P/D)の値が1.8以上となるパターン設定とすることで,領域Tの完全固定条件とすることができる。ただし上記の上限値を超えないことが望ましい。搬送処理装置70で軟質材を搬送対象物とする場合も同様である。また,(P/D)の値が1.0〜1.7の範囲内となるパターン設定とすることで,領域Sの条件とすることができる。絞り加工用には第1の方向について領域Tの条件を満たし,第2の方向について領域Sの条件を満たすようにすればよい。上記より,(P/D)の値が1.0〜100の範囲内にあれば,硬質材,軟質材の少なくとも一方に対して,領域Tもしくは領域Sの条件で使用できる。
【0049】
以上詳細に説明したように本実施の形態によれば,拘束材10の摩擦面3に,基材5そのものによる凸部12の周期的な配列パターンを設け,凸部12以外の部分を凹部4としている。これにより,加工または搬送の対象物への接触時の接触圧力が,
図6や
図7のグラフに示したように,凸部12の縁辺の部分に集中して起こるようにしている。これにより,一般的な摩擦モデルと異なり,用途に応じて対象物への作用力指数(F/Y)を考慮してパターン指数(P/D)を選ぶことで,その場所に求められる摩擦特性を有する拘束材10が実現されるようにしている。また,拘束材10を対象物との接触箇所に配置することで,対象物に対する高い摩擦係数を発揮し,効果的に対象物を拘束して良好に対象物の加工や搬送を行うことができるプレス加工機50や搬送処理装置70が実現されている。
【0050】
また,本実施の形態の拘束材10では,特に
図8のグラフ中の領域Tの条件で使用する場合,対象物との間にスリップがほとんどない状態で使用されることとなる。また,領域Sの条件で使用する場合でも,スリップは皆無ではないものの必要最小限にとどまる。このことから,本実施の形態の拘束材10を適用したダイ51,61,ストリッパー52,62,ブライドルロール72は,耐久使用しても摩滅が著しく少なく,長寿命である。このため従来技術と比較して,装置のメンテナンスのための手間を大幅に削減することができる。特に,
図15に例示した搬送処理装置70については,実際に使用されているものはもっと複雑で,ブライドルロールの個数も多かったりする。また,
図15中では「処理区間」で済ませた部分にも種々の機械的構成が含まれている。このため,ブライドルロールを長寿命化することの意義は大きい。
【0051】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば摩擦面3における凸部12の配置パターンは,
図2に示したものに限らず,
図16の拘束材11のように千鳥状の配置であってもよい。また,
図16の配置パターンでは,図中で斜めの方向Gが凸部12間の第1近接方向となるが,むろん,方向G,方向A,方向Bのいずれかが上記の滑り方向となるようにすればよい。これらのどの方向に対しても,
図8の領域T,領域Sの条件を満たすようにすることができる。
【0052】
前述の絞り加工の場合のように1つの拘束材10(または11)で領域T,領域Sの両方の条件を使用する場合には,方向G,方向A,方向Bのうち第1近接方向以外の方向により領域Tの条件を満たし,それより配置ピッチの小さい方向により領域Sの条件を満たすようにすればよい。なお,
図17に示すように凸部12の配置が平行四辺形状かつ千鳥状の場合には,第1近接方向G1,第2近接方向G2,第3近接方向B,第4近接方向Aのいずれかにより同様のことを行えばよい。また,上に挙げた方向以外の方向について上記の条件を満たしたものとすることも可能である。
【0053】
また,
図18の拘束材13に示すように,円形ではなく多角形の凸部14としてもよい。むろん,
図19の拘束材15に示すように,多角形の凸部14を千鳥状に配置してもよい。これらの場合にもむろん,方向G,方向A,方向Bのいずれかが上記の滑り方向となるようにして使用することができる。多角形の凸部14の場合の直径Dは,目的とする方向と平行な直線が凸部14をよぎる長さの最大値とすればよい。
図19の配置パターンでは,方向Aを滑り方向とする場合にはD1を,方向Bを滑り方向とする場合にはD2を,方向Gを滑り方向とする場合にはD3を,それぞれ直径Dとしてパターン指数(P/D)を算出すればよい。
【0054】
また,拘束材10(以下,11,13,15を含む)の適用対象機器は,前述のプレス加工機50や搬送処理装置70に限らない。対象物を拘束材で拘束しつつ,何らかの加工を施しまたは搬送する機器であれば何でもよい。また,搬送処理装置70の場合,「処理区間」は,複数の処理内容が複合された複雑なものであってもよい。さらに,搬送処理装置70全体の中に複数のブライドルロール72があってもよい。また,搬送対象シート74に対して張力の印加を行わずに単に搬送する他だけのロールであっても,拘束材10の適用は可能である。
【解決手段】対象物に対して圧接されることで対象物を拘束して対象物に摩擦力を及ぼす摩擦面を有する拘束材10であって,摩擦面は,拘束材の基材が直接に対象物に接する面であり,凹部4によって島状部12に区切られ,周期的に島状部が配置されたパターン面とされており,凹部の深さは摩擦面に対して15〜50μmの範囲内であり,パターン面における島状部の周期配置方向として,その方向における島状部の配置ピッチ(P1,P2)をその方向に対する島状部の最大径Dで割った値であるパターン指数が1.0〜100の範囲内にあるとともに,その方向に対する島状部の最大径が0.1〜2mmの範囲内である方向が存在するものである。この拘束材は,加工装置や搬送装置にも適用できる。