(54)【発明の名称】ストロンチウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカおよびそれを用いたストロンチウムイオン収集剤およびストロンチウムイオン濃度センサおよびストロンチウム除去フィルターおよびストロンチウム回収方法
【文献】
Hamid Sepehrian,Development of Thiol-Functionalized Mesoporous Silicate MCM-41 as a Modified Sorbent and Its Use in Choromatographic Separation of Metal Ions from Aqueous Nuclear Waste ,Chromatographia,2009年,Vol.70,No.1/2,277-280
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
目標元素であるストロンチウムイオンを含む各種イオンが溶解された溶液(ストロンチウムイオン溶解溶液)からストロンチウムイオンを吸着するとともに吸着されたストロンチウムイオンを遊離することが可能な、ストロンチウムイオンを吸着するストロンチウムイオン吸着性化合物を結合したメソポーラスシリカであって、
前記ストロンチウムイオン吸着性化合物は、
4−(2−ジアゼニル−1,3,4−チアジアゾル)−6−ドデシルレゾルシノール{4-(2-diazenyl-1,3,4-thiadiazole)-6-dodecylresorcinol (DTDR)}および/またはクロロホスホナゾ3(Chlorophosphonazo−III)であることを特徴とするメソポーラスシリカ。
前記クロロホスホナゾ3の場合には、臭化ジメチルアンモニウムジラウリル{dilauryl dimethyl ammonium bromide (DDAB)}を介してメソポーラスシリカに結合していることを特徴とする、請求項1に記載のメソポーラスシリカ。
ストロンチウムを吸着する前の前記ストロンチウムイオン吸着性化合物を結合したメソポーラスシリカの色調はストロンチウムを吸着することにより変色し、さらにストロンチウムを分離するともとの色調に戻ることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のメソポーラスシリカ。
目標元素であるストロンチウムイオンを良く吸着するpH値に調整された、目標元素であるストロンチウムイオンを含むストロンチウムイオン溶解溶液に、ストロンチウムイオン吸着性化合物を結合したメソポーラスシリカを接触させ、前記ストロンチウムイオン吸着性化合物に目標元素であるストロンチウムイオンを吸着する工程、および
目標元素であるストロンチウムイオンを吸着した前記ストロンチウムイオン吸着性化合物から目標元素であるストロンチウムイオンを遊離する工程
を含むことを特徴とするメソポーラスシリカを用いたストロンチウム回収方法であって、
前記ストロンチウムイオン吸着性化合物は、4−(2−ジアゼニル−1,3,4−チアジアゾル)−6−ドデシルレゾルシノール{4-(2-diazenyl-1,3,4-thiadiazole)-6-dodecylresorcinol (DTDR)}および/またはクロロホスホナゾ3(Chlorophosphonazo−III)であることを特徴とするストロンチウム回収方法。
前記クロロホスホナゾ3の場合には、臭化ジメチルアンモニウムジラウリル{dilauryl dimethyl ammonium bromide (DDAB)}を介してメソポーラスシリカに結合していることを特徴とする、請求項7に記載のストロンチウム回収方法。
比色法を用いて前記ストロンチウムイオン吸着性化合物を結合したメソポーラスシリカに吸着されたストロンチウムイオンの濃度を判定する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項7〜9のいずれか1項に記載のストロンチウム回収方法。
前記ストロンチウムイオン吸着性化合物を結合したメソポーラスシリカがストロンチウムイオンを吸着すると変色することを用いてストロンチウムイオンを抽出すること、および/またはストロンチウムイオンを吸着した前記メソポーラスシリカがストロンチウムイオンを溶離すると変色し前記ストロンチウムイオン吸着性化合物を結合したメソポーラスシリカに戻ることを用いてストロンチウムイオンを分離することを特徴とする、請求項7〜12のいずれか1項に記載のストロンチウム回収方法。
ストロンチウムイオンを含む各種イオンが溶解された溶液(ストロンチウムイオン溶解溶液)からストロンチウムイオンを収集するストロンチウムイオン吸着性化合物を結合したメソポーラスシリカをベースとしたストロンチウムイオン収集剤であって、
前記ストロンチウムイオン吸着性化合物は
4−(2−ジアゼニル−1,3,4−チアジアゾル)−6−ドデシルレゾルシノール{4-(2-diazenyl-1,3,4-thiadiazole)-6-dodecylresorcinol (DTDR)}および/またはクロロホスホナゾ3(Chlorophosphonazo−III)であることを特徴とするストロンチウムイオン収集剤。
前記クロロホスホナゾ3の場合には、臭化ジメチルアンモニウムジラウリル{dilauryl dimethyl ammonium bromide (DDAB)}を介してメソポーラスシリカに結合していることを特徴とする、請求項14に記載のストロンチウムイオン収集剤。
ストロンチウムイオン吸着性化合物を結合したメソポーラスシリカをベースとしたストロンチウムイオン濃度センサであって、ストロンチウムイオン濃度を色調変化(比色法)またはストロンチウムイオン濃度を紫外可視分光分析(UV-VIS-NIR spectroscopy)によって検出することを特徴とする、ストロンチウムイオン濃度センサであって、
前記ストロンチウムイオン吸着性化合物は
4−(2−ジアゼニル−1,3,4−チアジアゾル)−6−ドデシルレゾルシノール{4-(2-diazenyl-1,3,4-thiadiazole)-6-dodecylresorcinol (DTDR)}および/またはクロロホスホナゾ3(Chlorophosphonazo−III)であることを特徴とするストロンチウムイオン濃度センサ。
前記クロロホスホナゾ3の場合には、臭化ジメチルアンモニウムジラウリル{dilauryl dimethyl ammonium bromide (DDAB)}を介してメソポーラスシリカに結合していることを特徴とする、請求項18に記載のストロンチウムイオン濃度センサ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−327886
【特許文献2】特開2007−327887
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】M. S. Denton,M. J. Manos, M. G. Kanatzidis, Highly selective removal of cesium and strontiumutilizing a new class of inorganic ion specific media−9267, WM2009 Conference, March 1−5, 2009, Phoenix, AZ.
【非特許文献2】R. O. Abdel Rahman,H. A. Ibrahium, Y.T Hung, Liquid Radioactive Wastes Treatment: A Review, Water2011, 3, 551−565.
【非特許文献3】E. Bascetin, G.Atun, Adsorptive removal of strontium by binary mineral mixtures ofmontmorillonite and zeolite, J. Chem. Eng.Data 2010, 55, 783−788.
【非特許文献4】Lisa Axe,Paul R. Anderson,Sr Diffusion and Reaction within Fe Oxides: Evaluation of the Rate-LimitingMechanism for Sorption, J. ColloidInterf. Sci. 1995, 175, 157−165.
【非特許文献5】N. Sahai, S.A.Caroll, S. Roberts, P.A. O’Day, X-ray adsorption spectroscopy of strontium(II) coordination.II.Sorption and precipitation at kaolinite, amorphous silica and goethitesurfaces, J. Colloid Interf. Sci., 2000,222, 198−212.
【非特許文献6】O.N.Karasyova, L.I. Ivanova, L.Z. Lakshtanov and L. Lovgren, Strontium sorption on hematiteat elevated temperatures, J. Colloid Interf. Sci., 1999, 220, 419−428.
【非特許文献7】C.H. Jeong,Mineralogical and hydrochemical effects on adsorption removal of Cs-137 andSr-90 by kaolinite, J. Environ. Sci. Health A. Toxicol. Hazard. Subst. Environ.Eng.,2001, 36, 1089−1099.
【非特許文献8】R.A. Shawabkeh, D.A.Rockstraw and R.K. Bhada, Copper and strontium adsorption by a novel carbonmaterial manufactured from pecan shells, Carbon, 2002, 40, 781−786.
【非特許文献9】R. Qadeer, J. Hanif,M. Saleem and M. Afzal, Selective adsorption of strontium on activated charcoalfrom electrolytic aqueous solutions, Collection Czechoslovak Chem. Comm., 1992,57, 2065−2072.
【非特許文献10】S. A. El-Safty,T.Balaji, H. Matsunaga, T. Hanaoka, F. Mizukami, Optical sensors based onnanostructured cage materials for the detection of toxic metal ions, Angew.Chem. Int. Ed. 2006, 45, 7202−7208.
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、高い選択性と光学的検出機能を有する種々のキレート等の化合物を用いたストロンチウムイオン検出技術およびストロンチウム回収技術を提供するものである。この技術の特徴は異種原子から構成されるメソポーラス材料の原子レベルで配列したナノサイズの表面状態を利用していることである。本発明は、各種の活性イオン(カチオンやアニオン)や界面活性剤等を含む廃棄物や生活用水や環境からストロンチウムを抽出する方法として非常に優れている。特に近年問題となっている放射性ストロンチウムを環境等から排除するための方法として極めて優れている。
【0025】
メソポーラスシリカのナノレベルで配列した内表面は、pHなどの環境条件を制御して固着・解離状態を可変することによってストロンチウムイオンコレクターおよびセンサーを作る。隣接原子と電子軌道構造の異なる表面原子とキレート等の化合物との結合によって、ストロンチウムイオンを確実に吸着できる。さらに、メゾポーラス材の内壁表面のナノレベルの高秩序化配列は電荷移動を増大させるので、ppbレベルの非常に微量のストロンチウム吸着でも肉眼で観察可能な光学的変化が速やかに(高速の応答が)起こる。
【0026】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明のストロンチウム回収システムを示す図である。まず、第1段階で高度に秩序化したメソポーラスシリカ(HOMシリカ(HOMS):High Ordered Mesoporous Silica、尚通常、HOMと言った場合、シリカ(Silica)は含まないが、本明細書等においてはHOMと記載した場合も、特に明記しない限りシリカ(Silica)も含むものとする。)を合成する。ここで、メソポーラスシリカとは、多孔質シリカの1種であり、メソポア領域と呼ばれる、2nmから50nmの領域の大きさのほぼ均一で規則的な直径の細孔(メソ孔)を有し、細孔の作るネットワークの様式(空間対称性)や製造方法等によって、様々な特性を有することが知られている多孔質物質群である。しかし、本特許出願においては、メソ孔よりも小さなマイクロ孔(2nm以下の細孔)やメソ孔よりも大きなマクロ孔(50nm以上の細孔)を有するポーラスシリカもメソポーラスシリカと呼ぶ。
【0027】
本発明に用いられるHOMの形態は、薄膜状形態やモノリス形態を含む。モノリス形態とは、通常薄膜以外の各種の形態、たとえば微粒子、粒子、ブロック状のもの等の形態を言う。高度に秩序化したとは、立方晶や六方晶系メソポーラス構造が3次元的に表面や内壁表面に規則正しく配列した状態を言い、たとえば立方晶Ia3d、Pm3n、Fm3mや六方晶P6m構造を言う。これらの構造が広範囲に存在すると、ストロンチウムイオン吸着性化合物を大量に担持することができ、全体のストロンチウムイオン吸着量を大きくすることができる。また、HOMのBET比表面積は大きいほど良いが、通常400m
2/g以上であり、好適には500m
2/g以上である。
【0028】
HOMシリカは種々の方法により合成できる。たとえば、界面活性剤を鋳型としたゾルゲル法においては、水溶液中に臨界ミセル濃度以上の濃度で界面活性剤を溶解させると、界面活性剤の種類に応じて一定の大きさと構造をもつミセル粒子が形成される。しばらく静置するとミセル粒子が充填構造をとり、コロイド結晶となる。ここで溶液中にシリカ源となる有機シリコン化合物などを加え、微量の酸あるいは塩基を触媒として加えると、コロイド粒子の隙間でゾルゲル反応が進行しシリカゲル骨格が形成される。最後に高温で焼成すると、鋳型とした界面活性剤が分解・除去されて純粋な高度に秩序化したメソポーラスシリカ(HOMシリカ)が得られる。また、たとえば、好適には、有機シリコン化合物と界面活性剤を混合してリオトロピック型液晶相を形成し、さらに、酸水溶液を加えることによって、短時間に有機シリコン化合物の加水分解反応を起こし、メソポーラスシリカと界面活性剤の複合生成物を得た後、界面活性剤を除去して、HOMシリカを得る方法が利用される。
【0029】
有機シリコン化合物として、たとえば、テトラメチルオルトケイ酸{C4H12O4Si、TMOS(テトラメトキシシラン)とも言う}やテトラエチルオルトケイ酸{C8H20O4Si、TEOS(テトラエトキシシラン)とも言う}などのシリコンアルコキシドを用いる。(生成物から加熱や真空引き等でエタノールよりメタノールを除去する方が容易であるから、生産性はTEOSよりTMOSの方が好適である。)尚、HOMの形成には、有機シリコン化合物の他に無機シリコン化合物を用いることもできる。たとえば、カネマイト(NaHSi2O5・3H2O)、ジ珪酸ナトリウム結晶(Na2Si2O5)、マカタイト(NaHSi4O9・5H2O)、アイラアイト(NaHSi8O17・XH2O)、マガディアイト(Na2HSi14O29・XH2O)、ケニヤアイト(Na2HSi20O41・XH2O)、水ガラス(珪酸ソーダ)、ガラス、無定形珪酸ナトリウムを用いることもできる。これらは、2種以上を混合して用いてもよい。
【0030】
また、テンプレート(鋳型)となる界面活性剤も、種々のものを使用できる。たとえば、カチオン性やアニオン性や両性や非イオン性の界面活性剤を使用できる。鋳型となる陽イオン性界面活性剤としては、たとえば、第1級アミン塩、第2級アミン塩、第3級アミン塩、第4級アンモニウム塩が挙げられる。また、鋳型となる陰イオン性界面活性剤としては、たとえば、カルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩などが挙げられ、セッケン、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルキルエーテル硫酸エステル塩、硫酸化油、硫酸化脂肪酸エステル、硫酸化オレフィン、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸塩および高級アルコールリン酸エステル塩が挙げられる。
【0031】
鋳型となる両性界面活性剤としては、たとえば、ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタインが挙げられる。鋳型となる非イオン界面活性剤としては、たとえば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン2級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステロールエーテル、ポリオキシエチレンラノリン酸誘導体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどのエーテル型のものや、ポリオキシエチレンアルキルアミンなどの含窒素型が挙げられる。これらは、2種以上混合して用いても良い。
【0032】
界面活性剤の種類を変更することによりHOMの構造(細孔の大きさや形、結晶構造など)を制御することができるので、結晶構造の秩序性が高くBET比表面積が大きい細孔密度の大きなHOMを形成できる界面活性剤が好適である。たとえば、ポリオキシエチレン(10)セチルエーテル(Brij56:C16H33(OCH2CH2)10OH、C16EO10)、トリブロック共重合体界面活性剤(たとえば、pluronic(登録商標)P123:EO20PO70EO20、Pluronic(登録商標)F108:EO141PO44O141)を用いることができる。Brij56:TMOS=0.5の重量比の混合により、立方晶構造Pm3nが得られ、P123:TMOS=0.7〜0.8の重量比の混合により、立方晶構造Ia3dが得られ、F108:TMOS=0.7の重量比の混合により、立方晶構造Im3mケージ状シリカ構造が得られる。
【0033】
図2は、HOM(立方晶Im3m)シリカ・モノリスの合成方法を示す図である。HOMシリカ・モノリスはコポリマー界面活性剤F108(EO
141PO
44EO
141)を用いて瞬間直接鋳型法を採用することにより合成された。通常、立方晶Im3m (HOM)ケージ状メソ細孔を持つメソポーラスシリカモノリスは、F108/テトラメチルオルトケイ酸(TMOS)混合相にドデカンをドデカン:F108:TMOS=1:2.8:4の比率で付加することによって形成されたマイクロエマルジョン相を使って作製された。このHOMSは白い粉末状の固体である。
【0034】
次に、第2段階で、ストロンチウムイオン吸着性化合物をHOMに担持させる。この段階では、ストロンチウムイオン吸着性化合物にはストロンチウムイオンは(他のイオンも)吸着されていない。(ストロンチウムイオンを吸着していないことを示す用語として「ストロンチウムイオン吸着性化合物」と称する。本発明に用いられるストロンチウムイオン吸着性化合物として、イオン錯体、無機化合物や有機化合物がある。セルロース、タンパク質などのストロンチウムイオン吸着性化合物も含まれる。金属錯体として、無機および有機の金属錯体や金属カルボニル化合物、金属クラスターや有機金属化合物が挙げられる。また、キレート化合物も含まれる。基本的には、ストロンチウム(イオン)を吸着できる化合物であって、HOMに担持でき、化学処理により、目標元素であるストロンチウム以外のイオンを遊離でき、その後に他の化学処理により目標元素であるストロンチウムを遊離できる化合物である。ストロンチウムイオン吸着性化合物は、化学的にはたとえばOH基を介してHOMシリカに強固に結合している。
【0035】
ストロンチウムイオン吸着性化合物は、回収しようとする目標元素イオンであるストロンチウムイオンを選択的にしかも多量に吸着する化合物が望ましい。たとえば、ストロンチウムイオンに対して選択的に結合するキレート化合物やその他の化合物が挙げられる。ストロンチウムを含む各種のイオン(カチオンやアニオン)や界面活性剤などが溶解したストロンチウムイオン溶解溶液のpH値や温度や濃度などを調整すれば、ストロンチウムイオン吸着性化合物に目標(金属)元素であるストロンチウム(イオン)を選択的にしかも優先的に多量に吸着できる。また、キレート化合物等の化合物は、非常に微量の(たとえば、ppbオーダー)ストロンチウムを選択的に吸着することができるので、ストロンチウムイオン溶解溶液中に含まれるストロンチウムイオンの量が少なくても、効率的に選択的にストロンチウムイオンを吸着する。
【0036】
たとえば、我々は、4−(2−ジアゼニル−1,3,4−チアジアゾル)−6−ドデシルレゾルシノール{4-(2-diazenyl-1,3,4-thiadiazole)-6-dodecylresorcinol (DTDR)}(以下レセプターDTDRとも称する)の化合物がストロンチウムイオンを選択的に優先的に吸着することを見出した。(レセプター(receptor)とは本来「受容体」という生物学的用語であるが、本出願では特定元素(ストロンチウム)イオンを吸着する(ストロンチウム)イオン吸着性化合物という意味でレセプターという用語を用いることもある。)
【0037】
このレセプターDTDRは後述するように、溶液を特定のpH値に調節したストロンチウムイオンを含有した溶液(ストロンチウムイオン溶解溶液)にレセプターDTDRを担持したHOMシリカを浸漬すると、レセプターDTDRは他のpH値の溶液における場合よりも大量にしかも選択的にストロンチウムイオンを吸着する。ストロンチウムイオンの吸着量が増していくとレセプターDTDRを担持したHOMシリカの色が薄い茶色から段々色が濃くなっていき、茶色(ストロンチウムイオン濃度1ppm)濃い茶色(ストロンチウムイオン濃度5ppm)へと変化していく。色調と吸着されたストロンチウムイオン濃度とは相関関係にあるので、色調からストロンチウムイオン濃度を知ることができる。すなわち比色分析が可能である。特にppb〜ppmレベルの微量なストロンチウムでも吸着でき、その結果色調変化が生じるので正確な濃度を検出できる。選択的にという意味は、ストロンチウムイオンおよびその他の種々のイオン(カチオンやアニオン)や界面活性剤等を含む溶液にこれらのレセプターDTDRを担持したHOMシリカ(HOM−DTDR)を浸漬すると、ストロンチウムイオンだけを吸着し、他の種々のイオンは殆ど吸着しないということを意味している。すなわち、レセプターDTDRを担持したHOMシリカ(HOM−DTDR)は、ストロンチウムイオン吸着の選択性が極めて優れている。
【0038】
また、ストロンチウムイオン吸着後の光吸収スペクトルからもストロンチウムイオン濃度を測定できる。すなわち、レセプターDTDRを担持したHOMシリカはストロンチウムイオン濃度検出センサーでもある。このレセプターDTDRを担持したメソポーラスシリカ(HOM−DTDR)は、ストロンチウムイオンを吸着すると紫外可視分光法において450nm〜500nmの波長を持つ可視光にストロンチウム吸着に基づく吸収ピークを示し、この波長域の吸収率とストロンチウムイオン濃度とは相関関係があるので、キャリブレーションカーブを事前に作っておくことにより、ストロンチウムイオンを吸着したHOM−DTDRの紫外可視分光法における当該波長の吸収率データから、このHOMS−DTDR−Srのストロンチウムイオン濃度を知ることができる。しかもこのHOMS−DTDR−Srは溶液中のストロンチウムイオンを選択的に吸着するとともに、他の含有イオンはほとんど吸着しないので、非常に感度の良いストロンチウムイオンコレクターおよび濃度センサーとなる。特にppb〜ppmレベルの微量なストロンチウムでも吸着でき、その結果スペクトル変化が生じるので正確な濃度を検出できる。
【0039】
他のストロンチウムイオン吸着性化合物の例として、クロロホスホナゾ3(Chlorophosphonazo-III)があり、他のストロンチウムイオン吸着性化合物も随時発見されるであろう。これらのストロンチウムイオン吸着性化合物のうちの1つまたは2以上の化合物をHOMSに担持して、所望の特性を有するHOMS−レセプターを作製することができる。これらの化合物はストロンチウム(イオン)をその環状分子構造内および/または環状分子間の間に取り込んで、ストロンチウム(イオン)を吸着(収集)する。従って、これらのストロンチウムイオン吸着性化合物はキレート錯体であると言える。これらのストロンチウムイオン吸着性化合物は、他の陰イオンや陽イオン(アルカリ土類族金属等の金属イオンを含む)も殆ど吸着しないので、極めて選択性が高い化合物である。ストロンチウム(イオン)はこれらの化合物と共有接合して吸着(結合)されていると考えられる。
【0040】
このようなストロンチウムイオン吸着性化合物をHOMに担持(修飾)させる方法(複合化法とも呼ぶ)として種々の方法が挙げられる。たとえば、HOMに保持されるべきストロンチウムイオン吸着性化合物が中性である場合には、試薬含浸法(REACTIVE & FUNCTIONAL POLYMERS,49,189(2001)など)が用いられ、陰イオン性である場合には、陽イオン交換法が用いられ、陽イオン性である場合には陰イオン交換法が用いられる。これらの複合化法は、特別の条件や操作ではなく、既知の一般的な技術分野に属するものである。したがって、これらの一般的な技術分野の詳細については、当該固体吸着分野に関する総説、文献などを参照することができる。
【0041】
たとえば、メソポーラスシリカを陽イオン性有機試薬(たとえば、陽イオン性シリル化剤)を用いて表面処理し、そのメソポーラスシリカに陽イオン性官能基を付与し、次いで、この陽イオン性メソポーラスシリカと陰イオン性ストロンチウムイオン吸着性化合物の水溶液やアルコール溶液とを接触させ、ストロンチウムイオン吸着性化合物をメソポーラスシリカ内に吸着させる方法、メソポーラスシリカとストロンチウムイオン吸着性化合物の有機溶媒溶液とを接触させ、有機溶媒だけをろ過あるいは蒸留などにより取り除くことで、ストロンチウムイオン吸着性化合物をメソポーラスシリカ内に物理的に吸着させて担持する方法、メソポーラスシリカをチオール基を持つシリル化剤を用いて表面処理し、次いで、生成する表面のチオール基を酸化処理することで、そのメソポーラスシリカに陰イオン性官能基を付与し、この陰イオン性メソポーラスシリカと陽イオン性金属吸着性化合物の水溶液とを接触させ、ストロンチウムイオン吸着性化合物をメソポーラスシリカ内に吸着させる方法、あらかじめストロンチウムイオン吸着性化合物を細孔内および表面に充填した後に、これを陽イオン性有機試薬の有機溶媒溶液で処理して、ストロンチウムイオン吸着性化合物を細孔内および表面に固定する方法、ストロンチウムイオン吸着性化合物と陽イオン性有機試薬をあらかじめ混合し、得られた試薬複合体の有機溶媒溶液と該シリカとを接触させ、有機溶媒だけをろ過あるいは蒸留などにより取り除くことで、ストロンチウムイオン吸着性化合物を該シリカ内に担持する方法が使用される。
【0042】
たとえば、レセプタークロロホスホナゾ3(CPP)をHOMSに担持させるには、2段階担持工程を用いる。すなわち、最初に臭化ジメチルアンモニウムジラウリル{dilauryl dimethyl ammonium bromide (DDAB)}を使って、HOM細孔表面を官能化し、HOMS−DDABを作製する。次にレセプタークロロホスホナゾ3(CPP)溶解溶液中にHOMS-DDABを添加して、HOMS−DDABのDDAB上にCPPを担持(修飾)させて、HOMS−DDAB−CPP{HOMS−DDAB(CPP)とも記載}を作製する。レセプターDTDRをHOMに担持させるには、レセプターDTDRをエタノールに溶解し、この溶液とHOMSを接触させて、HOMSへレセプターDTDRを含浸させる。このようにしてレセプターDTDRを高密度に整然と担持したHOMシリカ(HOMS−DTDR)が完成する。尚アルコールや水分等の液分を蒸発(加熱や真空引き等)させてさらに乾燥することによりレセプターCPP{DDAB(CPP)}やDTDRを担持したHOMシリカを高純度の固体状態(粉末)で効率良く作製できる。また、結晶構造の秩序性が高くBET比表面積が大きいポーラス(細孔)密度の大きなHOMシリカほど、多くのレセプターが規則的にHOMシリカの表面および細孔内壁に担持される。たとえば、好適には、立方晶構造Im3m、Pm3n、Fm3m、Ia3d、六方晶構造P6mなどの構造が広範囲に形成されたHOMシリカにレセプターCPP{DDAB(CPP)}やDTDR等のストロンチウムイオン吸着性化合物を吸着させる。
【0043】
ストロンチウムイオン吸着性化合物単独でも当然選択的に目標元素であるストロンチウムイオンを吸着できるが、ストロンチウムイオン吸着性化合物は凝集等するため、ストロンチウムイオン吸着が可能な官能基を有効に利用することができない。すなわち、凝集された(たとえば、粒子状の)ストロンチウムイオン吸着性化合物物質の表面に存在する官能基に目標元素であるストロンチウムイオンが吸着しても、拡散または浸透によりストロンチウムイオン吸着性化合物内部のストロンチウムイオン濃度は距離(の2乗)に対して指数関数的に減少するから、その粒子状物質の内部にあるストロンチウムイオン吸着性化合物の官能基全部にストロンチウムイオンが吸着することは困難である。また、仮にその粒子状物質の内部にあるストロンチウムイオン吸着性化合物の官能基にストロンチウムイオンが吸着したとしても、その吸着したストロンチウムイオンを取り出す(遊離するまたは逆抽出する)ことが難しいという問題がある。かなりの時間をかければ粒子状物質の内部にストロンチウムイオンを拡散させ、さらに取り出すことも可能であるが、長時間をかけてストロンチウムイオンを粒子状物質の内部を移動させることは生産性が悪く工業的には利用できない。
【0044】
これに対して、メソポーラスシリカは、細孔表面積が非常に大きく高度に秩序化した配向構造を持つので、メソポーラスシリカの表面および細孔内壁にストロンチウムイオン吸着性化合物を担持したものは、ストロンチウムイオン吸着性化合物が整然と配列して結合しているので、ストロンチウムイオン吸着性化合物のストロンチウムイオン吸着率が非常に高くなる。すなわち、ストロンチウムイオン吸着性化合物の1分子ずつがストロンチウムイオン吸着に利用できる。ストロンチウムイオン溶解溶液や遊離(逆抽出)溶液は、メソポーラスシリカの表面や細孔へ容易に速やかに侵入していくので、HOMSに担持されたストロンチウムイオン吸着性化合物(の反応基)と容易に、しかも速やかに接触する。このことは、HOMSに担持されたストロンチウムイオン吸着性化合物がストロンチウムイオン溶解溶液と接触するとストロンチウムイオンを速やかに吸着するということを意味する。また、吸着されたストロンチウムイオンを遊離するときも遊離溶液と接触すれば吸着されたストロンチウムイオンが速やかに遊離されるということも意味するので、ストロンチウムイオンの吸着(収集)および遊離(分離)が非常に効率的に進行し、その結果として生産性が飛躍的に向上する。
【0045】
たとえば、キレート樹脂単独の場合には、キレート樹脂の表面において、表面原子がすべて有効にキレート(官能基)を持った状態にはならず、原子的には離散的にキレートの反応端がある状態となっている。キレート樹脂単独でストロンチウムイオンを吸着する時も、キレート樹脂のどの部分につくか制御できない。また、ストロンチウムイオン溶解溶液と接触した部分のキレート官能基にはストロンチウムイオンが吸着(抽出とも言う)されると予想されるが、ストロンチウムイオン溶解溶液が浸透しにくいキレート樹脂内部ではストロンチウムイオンは殆ど吸着されないと考えられる。すなわち、ストロンチウムイオン吸着効率が非常に悪い。さらにキレート樹脂に吸着したストロンチウムイオンを遊離するとき(逆抽出とも言う)も、キレート樹脂内部に吸着したストロンチウムイオンを取り出すことも困難となる。
【0046】
このキレート樹脂を繰り返し利用するときも、キレート樹脂中の残存物等の影響により、ストロンチウムイオンの抽出・逆抽出の効率がどんどん悪くなり、繰り返し使用でキレート樹脂の性能が大幅に劣化してしまう。これに対して、キレート樹脂をHOMに担持したものは、HOMの大きな比表面積と整列した原子配列を使って、キレート官能基をHOMの表面上に広範囲に形成することができる。言い換えれば、HOMではキレートの反応端はほぼ同一の性状になる。しかも、従来のキレート樹脂単独では実現できないほどに、HOM表面および細孔内壁に多量にキレートの反応端を有する。そのキレート官能基がストロンチウムイオンもしくはストロンチウムイオンを含む錯体イオンを選択的に捕獲するので、ストロンチウムイオンの吸着効率が非常に高くなる。また、その捕獲されたストロンチウムイオンもしくはストロンチウムイオンを含む錯体イオンを逆抽出で取り出すことも容易に可能となる。さらに、キレート樹脂単独で使用した場合には樹脂そのものの物理的および/または化学的強度が不十分であるため、キレート樹脂の繰り返し使用による劣化が大きいが、キレート樹脂をHOMに担持したものは、その骨格たるHOMの物理的および/または化学的強度が十分であるため、繰り返し使用による劣化が小さく、繰り返して使用すること、すなわち何回でもリユースすることができる。
【0047】
第3段階では、ストロンチウムイオンを含む各種のイオン(カチオンやアニオン)や界面活性剤等が溶解した水溶液(これをストロンチウムイオン溶解溶液という)を準備する。このストロンチウムイオン溶解溶液は、たとえば放射性ストロンチウムを含む原子力施設の冷却液や廃液は排液、あるいは原子力施設等から飛散した放射性ストロンチウムが生活用水や生活排水に溶解した溶液である。このような溶液には、ストロンチウムの外に各種の金属イオン等のカチオンや種々のアニオンや界面活性剤等様々なイオンが溶け込んでいる。もし、この溶液に固形分が含まれていれば、事前に取り除くことが望ましい。何故なら、この溶液に浸漬するHOM−MCプローブは固体なので、これと固形分が混合してしまうからである。
【0048】
従って、この溶液から固形分を除いた溶液がストロンチウムイオン溶解溶液である。ストロンチウムイオン溶解溶液中にストロンチウムイオン吸着性化合物(これをMCとする)を高密度に担持したHOM(以下、HOM−MCとも言う)を浸漬等してストロンチウムイオン溶解溶液とHOM−MCと接触させる。この接触により、HOM−MCにストロンチウムイオンが吸着される。(これをHOM−MC−Sr−M(Sr:目標元素であるストロンチウム(Sr)、M:ストロンチウム以外の吸着されたイオンとする。)ストロンチウムイオン吸着性化合物は、一定の条件(pH値、温度、濃度等)下で目標元素であるストロンチウムイオンを選択的にかつ優先的に吸着するので、その条件下のストロンチウムイオン溶解溶液中にストロンチウムイオン吸着性化合物を浸漬すれば、目標元素であるストロンチウムだけを吸着したHOM(すなわち、HOM−MC−Sr)を得ることができる。
【0049】
たとえば、ストロンチウムイオンを最も良く吸着するpH値に調整されたストロンチウムイオン溶解溶液にHOM−MCを接触(浸漬を含む)させ、HOM-MCにストロンチウムイオンを選択的に大量に吸着することができる。しかし、条件などの多少の変動によりわずかの他のイオンMが吸着される可能性もあるので、ストロンチウムイオン溶解溶液中の目標元素であるストロンチウム以外のイオンをあらかじめ少なくしておくことにより、ストロンチウム以外のイオンMの吸着量が非常に少ないHOM−MC−Sr−Mが得られる。たとえば、ストロンチウムイオン溶解溶液中のpH調整や化学処理等を行いストロンチウムイオン以外のイオンを析出沈殿させ除去しておくなどの方法がある。あるいは、ストロンチウムイオンは少なくとも吸着しない化合物(これも適当なHOM−MCを作製すれば良い。)を用いてストロンチウムイオン以外のイオンを析出沈殿させ除去しておくという方法もある。
【0050】
上述のレセプターCPPの場合、ストロンチウムイオン溶解溶液をpH=10.0〜12.0、好適にはpH=10.5〜11.5に調節することにより、ストロンチウムイオンをHOM-MC{HOM−DDAB(CPP)}に効率的に吸着させることができる。また、上述のレセプターDTDRの場合、ストロンチウムイオン溶解溶液をpH=7.0〜11.0、好適にはpH=8.0〜10.5、もっと好適にはpH=9.0〜10.0に調節することにより、ストロンチウムイオンをHOM-MC(HOM−DTDR)に効率的に吸着させることができる。尚、エタノールや水分等の液分を蒸発(加熱や真空引き等)させてさらに乾燥することによりストロンチウムイオンを吸着したHOMシリカを高純度の固体状態(粉末)で効率良く収集できる。
【0051】
第4段階では、目標元素であるストロンチウムイオンを含むイオンを吸着したHOM−MC−Sr−Mを、目標元素であるストロンチウムイオン以外のイオンを遊離できる溶液中に浸漬して、目標元素であるストロンチウムイオン以外のイオンを除去してほぼ目標元素であるストロンチウムだけを吸着したHOM−MC−Srとする。或いは、pH値や温度や溶液濃度などの条件調整により目標元素であるストロンチウム以外のイオンを除去してHOM−MC−Srにできる場合もある。尚、目標元素であるストロンチウム以外のイオンの吸着が非常に少ない場合(このときは、最初からHOM−MC−Srである)や、目標元素であるストロンチウムだけを遊離できる方法があれば、第4段階は省略することもできる。たとえば、上述したレセプターCPPを担持したHOM−DDAB(CPP)またはレセプターDTDRを担持したHOM−DTDR の場合には、Mを殆ど吸着しないので、すなわち、HOM−DDAB(CPP)、DTDR−Srの状態になっているので、第4段階は省略することが可能となる。
【0052】
第5段階では、ほぼ目標元素であるストロンチウムだけを吸着したHOM−MC−Srを、目標元素であるストロンチウムを溶解可能な溶液に浸漬して、目標元素であるストロンチウムイオンを溶解する。(溶離処理)或いは、pH値や温度や溶液濃度などの条件調整により目標元素であるストロンチウムイオンだけを遊離できる場合もある。或いは、目標元素であるストロンチウムイオンだけを遊離できる溶液に浸漬することにより、目標元素であるストロンチウムイオンを溶解できる。このような場合には、必ずしも目標元素であるストロンチウムイオンだけを吸着したHOM−MC−Srにする必要がない。この溶解液から目標元素であるストロンチウムイオンが遊離されたHOM−MCは固形物であるから、ろ過して取り除く。固形物として取り除かれたHOM−MCは再度使用可能である。
【0053】
また、溶離処理によりストロンチウムを溶解した溶離液から種々の方法(たとえば、溶融塩電解法や蒸留法)により、目標元素であるストロンチウムを分離すると目標元素であるストロンチウムを回収できる。すなわち、ストロンチウムが溶け込んだ環境水から目標元素であるストロンチウムを回収できた。この結果、固形物HOM−MCはろ過して再利用でき、第3段階において再び使用できる。尚、HOM−MCに目標(金属)元素であるストロンチウムを吸着してHOM−MC−Srにすることを目標元素であるストロンチウムの抽出と考えた場合に、この工程はHOM−MC−SrからSrを遊離してHOM−MCにするので逆抽出(工程)と言うこともできる。
【0054】
以上述べた第1段階〜第5段階の工程を経ることにより、原子力施設等からの廃液や生活用水や環境水から得られた目標元素である放射性ストロンチウムを含むストロンチウムを溶解したストロンチウムイオン溶解溶液から、ストロンチウムイオン吸着性化合物を担持した高度に秩序化したHOMシリカ(HOMS)を用いて、目標元素であるストロンチウムを回収することができる。
【実施例1】
【0055】
<HOM(立方晶Ia3d)シリカ・モノリスの合成>
図2は、HOM(立方晶Im3m)シリカ・モノリスの合成方法を示す図である。HOMシリカ・モノリスはコポリマー界面活性剤F108(EO
141PO
44EO
141)を用いて瞬間直接鋳型法を採用することにより合成された。立方晶Im3m (HOM)ケージ状メソ細孔を持つメソポーラスシリカモノリスは、F108/オルトケイ酸テトラメチル(TMOS)混合相にドデカンをドデカン:F108:TMOS=1:2.8:4の比率で付加することによって形成されたマイクロエマルジョン相を使って作製された。
【0056】
すなわち、丸形フラスコ容器中に8.0gのテトラメチルオルトケイ酸(TMOS)および5.6gの界面活性剤F108を入れ、その中に2.0gのドデカンを加え、界面活性剤を完全に溶解させ、フラスコ容器は約50−60℃の温水中で5−10分間攪拌され、均質な透明溶液を得た。この均質混合溶液にロータリーエバポレーター中で、pH1.3の酸性水溶液(H
2O-HCl)を4gを素早く添加し蒸発させると、TMOSの発熱加水分解および濃縮が急速に起こる。
【0057】
この発熱加水分解/濃縮反応はロータリーエバポレーターで排気中も継続するので、液体材料の粘性が増大し、生成した有色のゲル状物質が反応容器中に形成される。ロータリーエバポレーターで10分排気後に半透明のガラス状モノリスが収集され、オーブン中において45℃で1日乾燥された。その後450℃で8時間焼成することにより界面活性剤および水分が取り除かれ、白い粉末状のHOM(立方晶Im3m)シリカ・モノリスが作製された。
【0058】
このHOMシリカ・モノリスは、窒素吸着/脱着等温線測定結果により、細孔サイズが7nmと非常に小さく、細孔体積が0.7cm
3/gであり、BET比表面積が700m
2/gと非常に大きい。また、X線回折パターンおよび電子顕微鏡解析により、HOMシリカ・モノリスは約15.7nmの格子定数を有する秩序化した立方晶構造(Im3m)を有することが分かった。このように上述の方法で作製したHOMシリカは、細孔サイズが非常に小さく比表面積が非常に大きな高度に秩序化したメソポーラスシリカである。
【実施例2】
【0059】
<放射性ストロンチウムの回収に使用されるレセプター(1)>
<4−(2−ジアゼニル−1,3,4−チアジアゾル)−6−ドデシルレゾルシノール{4-(2-diazenyl-1,3,4-thiadiazole)-6-dodecylresorcinol (DTDR)}の作製>
図3は、レセプターDTDRの作製方法(反応式)およびストロンチウムを取り込んだDTDRの構造式を示す図である。約0.05モルの2−アミノ−1,3,4−チアジアゾル(2-amino-1,3,4-thiadiazol)を40mlのHClに溶解し、この溶液を0℃に冷却し、水に溶かした3.5gのNaNO
2をゆっくりと添加した。この反応の進行は、ヨードデンプン紙によってコントロールされた。最終的にジアゾニウム塩の溶液は、60mlの4NHClに溶けた6−ドデシルレゾルシノール(6-dodecylresorcinol)3.4gの充分に冷却された溶液にゆっくりと注がれた。この結果生じた溶液はその後0℃で30分間冷却され、180mlの水に溶かされた60gの酢酸ナトリウム溶液が添加された。このカップリング反応は2時間の間に0℃で行なわれた。析出物が生成し、この析出物は水洗された。この析出物がDTDRである。
図3に示すように、このDTDRはストロンチウムを選択的に吸着することができるストロンチウムイオン吸着性化合物である。ストロンチウム(Sr)はDTDRの環状分子構造の中に取り込まれる。すなわち、DTDRはストロンチウムを優先的に吸着するキレート錯体である。また、ストロンチウムを分離(遊離)すれば元のDTDRに戻る。このようにストロンチウムとDTDRの吸着遊離反応は可逆的である。従って、レセプターDTDRは放射性ストロンチウムの回収に使用できる。
【実施例3】
【0060】
<放射性ストロンチウムの回収に使用されるレセプター(2)>
レセプタークロロホスホナゾ3(Chlorophosphonazo−III)(以下、CPPと略すことがある)は工業的に製造されており容易に入手可能である。
図4は、ストロンチウムを取り込んだレセプタークロロホスホナゾ3の構造式を示す図である。
図4に示すように、このCPPはストロンチウムを選択的に吸着することができるストロンチウムイオン吸着性化合物である。ストロンチウム(Sr)はCPPの環状分子構造の中に取り込まれる。すなわち、CPPはストロンチウムを優先的に吸着するキレート錯体である。また、ストロンチウムを分離(遊離)すれば元のCPPに戻る。このようにストロンチウムとCPPの吸着遊離反応は可逆的である。従って、レセプタークロロホスホナゾは放射性ストロンチウムの回収に使用できる。
【実施例4】
【0061】
<HOM−プローブ材料の合成(1)>
<HOM−DDAB−クロロホスホナゾ3(コレクター)の作製>
図5は、表面改質ステップを用いてクロロホスホナゾ3を担持したHOMを作製する方法を示す図である。実施例1において作製したHOMは、
図5に示すように高度に秩序化した立方晶構造(Im3m)の表面を持っている。ストロンチウム吸着性化合物であるクロロホスホナゾ3(CPP)は、HOM上では安定して配置できないので、HOMに直接担持(修飾)することはできない。そこで、HOMにCPPを担持するまえに、HOMに臭化ジメチルアンモニウムジラウリル{dilauryl dimethyl ammonium bromide (DDAB)}を担持する。DDABは、正電荷を有するHOM細孔表面を活性化するために使われるカチオン性界面活性剤の一種である。この界面活性剤の役割は、HOM上でストロンチウムがCPPと容易に相互作用して結合するための中間介在化合物(中間調整剤)である。すなわち、CPPはDDABを介してHOMに担持される。
【0062】
CPPをDDABを介してHOMに担持させるために、我々は2段階担持工程を採用した。
図5に示すように、第1に臭化ジメチルアンモニウムジラウリル{dilauryl dimethyl ammonium bromide (DDAB)}を使って、HOM細孔表面を官能化した。すなわち、1.0gのHOMに対して臭化ジメチルアンモニウムジラウリルの0.1Mエタノール溶液を使い、30分間攪拌した。この後、エタノールをロータリーエバポレーターによって蒸発し、固形物を水洗した後、650℃で6時間焼成した。
【0063】
こうして、
図5に示すようにHOMの高度に秩序化した表面および細孔内面にDDABが担持され、HOM−DDABが作製された。第2に、20mgのクロロホスホナゾ3が水30mlに溶解され、これに1.0gのHOM−DDABが添加され、12時間攪拌された。この後、この材料はろ過され、固体生成物は、溶出が全く観察されなくなるまで洗浄された。この後、この材料は65−70℃で5時間乾燥された後、この材料をすりつぶして粉末状にして、種々の実験条件でストロンチウム除去用に使われた。この材料は、
図5に示すように活性されたHOM−DDABの表面にストロンチウム吸着性化合物が整然と修飾されたHOM−DDAB(CPP)である。このHOM−DDAB(CPP)にストロンチウムを吸着させるとSrはHOM−DDAB(CPP)上のCPPに取り込まれ(吸着され)HOM−DDAB(CPP)−Srとなり、Srを収集することができる。
【実施例5】
【0064】
<ストロンチウムイオン抽出の最適pH値の調査>
ストロンチウム吸着(収集剤)剤(ストロンチウムコレクター)を担持したHOM(HOM−ストロンチウムプローブ)がどのような環境条件のときに最も効率的にストロンチウムを吸着・収集するかを調査することは極めて重要なステップである。我々は、HOM−DDAB(CPP)コレクターについてストロンチウム吸着の最適環境条件(溶液のpH値)の調査を行なった。
【0065】
ナノ細孔を持つ(放射性)ストロンチウムイオンコレクターの効率はpH値によって影響を受ける。プローブの電荷移動錯体の吸収スペクトルは、広範囲のpH値の水溶液に渡って注意深くモニターされた。我々は、7種類のpH水溶液(2.0、 3.5、 5.2、 7.0、 9.5、 11.0 および12.5)を用いて調査した。pH値2.0および3.5に関して0.01M硫酸か0.2MのKCl−HClのどちらかのpH調整溶液を使い、また、pH値5.2を調整するためにCH
3COOH−CH
3COONaが使用された。3−モルホホリノプロパン・スルホン酸{3-morpholinopropane
sulfonic acid (MOPS)}、N−シクロヘキシル−3−アミノプロパン−スルホン酸{N-cyclohexyl-3-aminopropane sulfonic acid(CAPS)}、2−(シクロヒキシルアミノ)エタンスルホン酸{2-(cyclohexylamino) ethane sulfonic acid (CHES)}、およびKClをそれぞれpH7.0、9.5、11.0および12.5に関して使い、また0.2MのNaOHを使ってpH値を調整した。各pH溶液2mlを取り、これにストロンチウム(Sr
2+)2ppmを添加し、その後必要量の水を加えて10ml溶液にした。この後、6mgのHOM−DDAB(CPP)コレクターを6mg添加し、1時間攪拌後ろ過した。ろ過後の固形材料はストロンチウムイオンを吸着したHOM−DDAB(CPP)−Srである。この固形材料は紫外線可視分光法(UV-VIS-NIR Spectroscopy)によって調査され、吸収スペクトルを取った。ストロンチウム吸着を特に良く表す特定波長における吸光度を各固形材料についてプロットした。
【0066】
図6は、HOM−DDAB(CPP)−Srの紫外線可視分光スペクトル信号強度(室温測定)と溶液のpH値との関係を示すグラフであり、2ppmのストロンチウムイオンを溶解した種々のpH値溶液からHOM−DDAB(CPP)がストロンチウムイオンを吸着したHOM−DDAB(CPP)−Srの吸光度のpH値依存性を示す。
図6において、HOM−DDAB(CPP)−Srの特定波長における紫外線可視分光スペクトル信号強度(比)を縦軸に、2ppmのストロンチウムイオンを溶解した溶液のpH値を横軸にプロットした。参照pH値として最高の信号強度を持つpH値溶液を使った。すなわち、
図6の縦軸はpH値が11.0の水溶液の信号強度に対する比を取っている。HOM−DDAB(CPP)−Sr中のストロンチウム量が増えると紫外線可視分光スペクトルの吸光度が増大することが分かっているので、
図6から分かるように、信号強度のデータは、ストロンチウムイオンのコレクター(吸着剤)としてHOM− DDAB(CPP)を使用する場合、最も良くストロンチウムイオンを吸着する最良のpH値は11.0であることを示している。測定誤差やばらつきも考えると良好なpH値は9.5〜12.5、好適には10.0〜12.0、もっと好適には10.5〜11.5である。
図6の上図の比色分析のデータから、pH11.0のHOM−DDAB(CPP)コレクターはストロンチウムイオン(Sr
2+など)を吸着すると色調が変化する。すなわち、HOM− DDAB(CPP)は赤系統の紺色であるが、HOM− DDAB(CPP)−Srは紺色となる。従って、HOM−DDAB(CPP)コレクターは視覚的コレクター(収集剤)である。
【実施例6】
【0067】
<様々な濃度のストロンチウム溶液からHOM−DDAB(CPP)を用いてストロンチウム抽出を行なうときの感度の調査>
ストロンチウムイオンを最も良く吸着するpH11.0溶液を2ml取り、種々の濃度(0.5ppm−4.0ppm)のストロンチウムイオン(Sr
2+)を添加した後、適量の水を加えてガラステストチューブで10ml溶液にした。その後、HOM−DDAB(CPP)コレクターを6mg添加し、1時間振って、室温でろ過した。固体材料は紫外線可視分光法(UV-VIS-NIR Spectroscopy)によって調査され、吸光度スペクトルを取った。
【0068】
図7は、ストロンチウムイオン濃度をパラメータとしたHOM−DDAB(CPP)−Srの室温における吸収スペクトルおよび比色分析を示す図である。
図7において横軸は測定波長、縦軸は吸光度である。測定波長域は250nm〜900nmである。
図7から分かるように、ストロンチウムイオン濃度が増えるに従い、吸収スペクトル強度は波長域(30nm〜700nm)の光のほぼすべてで増大する。従って、HOM−DDAB(CPP)−Srの紫外線可視分光スペクトル測定を行えば、その吸光度から溶液中のストロンチウムイオン濃度を知ることができる。
【0069】
実際に、ストロンチウムイオン吸着と関係する最も吸光度が大きくなる波長(λ=585nm)において、吸光度とストロンチウムイオン濃度の関係を調べると、
図16のようになる。すなわち、
図8はpH=11.0の溶液中のストロンチウムイオン濃度とHOM−DDAB(CPP)−Sr の紫外線可視分光スペクトルの吸光度(λ=585nmにおける)との関係を示す図であり、ストロンチウムイオン濃度と吸光度(λ=585nmにおける)のキャリブレーション曲線である。このように、溶液中のストロンチウムイオン濃度が増えるに従い、HOM−DDAB(CPP)−Srの紫外線可視分光スペクトルの吸光度は増大することを明瞭に把握することができる。逆に言えば、HOM−DDAB(CPP)−Srの紫外線可視分光スペクトルの吸光度から溶液中のストロンチウムイオン濃度を知ることができる。特にストロンチウムイオン濃度が低い所(50μM以下)では、
図8に示されるように直線性が良い。すなわち、
図8に示すカーブ曲線は吸収率と濃度との検量線と言っても良い。従って、HOMプローブ(HOM−DDAB(CPP))は、ストロンチウムイオンの優れたコレクターおよび濃度検出センサーである。これらのスペクトル変化は、CPPが電荷移動錯体を形成するために、ストロンチウム−レセプター結合事象のインジケータ(指示計)であることを現わしている。尚、紫外線可視分光スペクトルの測定は10回の繰り返し測定を行なったがバラツキは殆どなく再現性が非常に良い。また、ストロンチウムイオン濃度は既知のサンプルを基にして較正されている。
【0070】
図7には、ストロンチウムイオン濃度とHOM−DDAB(CPP)−Srの色調との関係、すなわち比色分析のデータが示されている。
図7に示すように、ろ過後の固形材料の色調は、ストロンチウムイオン濃度が増大するに従い、赤系統の紺色(ストロンチウムイオン濃度0ppb、すなわちHOM−DDAB(CPP)コレクターの色調)から段々濃くなり、紺色(ストロンチウムイオン濃度2ppm)となり、さらに濃い紺色(ストロンチウムイオン濃度4.0ppm)に変化する。この色調の変化は連続的なので、逆にろ過後の固形材料{HOM−DDAB(CPP)−ストロンチウム}の色調からストロンチウムイオン濃度を知ることが可能である。このように比色分析の結果からも、HOMプローブ{HOM−DDAB(CPP)−Sr}は、ストロンチウムイオンの優れたコレクターおよび濃度検出センサーである。
【0071】
図9は、上記の実施例から得られた本発明のHOM−DDAB(CPP)−Srの適用範囲を示した表である。HOM−DDAB(CPP)コレクターをストロンチウムイオン溶解溶液に浸漬したときのHOM−DDAB(CPP)コレクターがストロンチウムイオンを吸着する応答時間は約2分、検出限界は3.19x10
−6(mol.dm-3)で、有効な収集範囲は0.5〜4.0ppmである。ストロンチウム1gを吸着するHOM−DDAB(CPP)コレクターの必要量は14gである。またストロンチウムを吸着したHOM−DDAB(CPP)コレクターは、溶離溶液として酸性溶液あるいはアルカリ溶液を用いることにより、元のHOM−DDAB(CPP)コレクターに戻る。しかも、HOM−DDAB(CPP)コレクターはHOMS骨格の安定な構造を有しており繰り返し使用できるので、少ない材料で多くのストロンチウムを回収することができる。
【実施例7】
【0072】
<HOM-DTDR[4−(2−ジアゼニル−1,3,4−チアジアゾル)−6−ドデシルレゾルシノール{4-(2-diazenyl-1,3,4-thiadiazole)-6-dodecylresorcinol (DTDR)}]の合成>
0.030gのDTDRを丸形フラスコのエタノール中に溶解して、HOM(Cage状)を1.0g添加した。溶液中のエタノールは、ロータリーエバポレーターに連結されて45℃でゆっくりと真空引きされて取り除かれた。この後、この材料は、洗浄され、65−70℃で5時間乾燥された。この材料は、すり潰されて粉末状になり、色々な実験条件でストロンチウムの除去に使用された。この材料がストロンチウムイオン吸着性化合物を担持したHOM-DTDRである。
【0073】
図10は、HOMシリカへDTDRを担持させたHOM−DTDRコレクターを用いたストロンチウムイオンの収集/分離プロセスを模式的に描いた図である。高度に秩序化したHOMシリカキャリアの表面および細孔内面にDTDRを担持させてHOM−DTDRコレクターを作製する。このHOM−DTDRコレクターをストロンチウムイオン溶解溶液に接触(浸漬)させてストロンチウムイオンをHOM−DTDRコレクターに吸着させて、HOM−DTDR−Srを得る。すなわち、ストロンチウムイオン(Sr
2+)は、HOM−DTDRコレクター上のDTDRの環状分子構造内に取り込まれる。このHOM−DTDR−Srを適当な溶離溶液に接触(浸漬)させてストロンチウムを分離(遊離)させる。この結果、HOM−DTDR−Srは元のHOM−DTDRに戻り、再びストロンチウムを収集するためのHOM−DTDRコレクターとして使用することができる。尚、ストロンチウムイオン吸着化合物であるDTDRは直接HOMシリカに担持することができるので、この担持方法を直接担持法と呼んでも良い。これに対して前述のストロンチウムイオン吸着化合物であるCPPの場合は、DDABを介してCPPをHOMシリカに担持するので、この担持方法を間接担持法と呼ぶことができる。
【実施例8】
【0074】
<ストロンチウムイオン抽出の最適pH値の調査>
ストロンチウム(イオン)吸着(収集剤)剤(ストロンチウム(イオン)コレクター)を担持したHOM(HOM−ストロンチウムプローブ)がどのような環境条件のときに最も効率的にストロンチウムを吸着・収集するかを調査することは極めて重要なステップである。我々は、HOM−DTDRコレクターについてストロンチウム吸着の最適環境条件(溶液のpH値)の調査を行なった。
【0075】
ナノ細孔を持つ放射性ストロンチウムイオンコレクターの効率はpH値によって影響を受ける。プローブの電荷移動錯体の吸収スペクトルは、広範囲のpH値の水溶液に渡って注意深くモニターされた。我々は、7種類のpH水溶液(2.0、 3.5、 5.2、 7.0、 9.5、 11.0 および12.5)を用いて調査した。pH値2.0および3.5に関して0.01M硫酸か0.2MのKCl−HClのどちらかのpH調整溶液を使い、pH値5.2を調整するためにCH
3COOH−CH
3COONaが使用された。3−モルホホリノプロパン・スルホン酸{3-morpholinopropane
sulfonic acid (MOPS)}、N−シクロヘキシル−3−アミノプロパン−スルホン酸{N-cyclohexyl-3-aminopropane sulfonic acid(CAPS)}、2−(シクロへキシルアミノ)エタンスルホン酸{2-(cyclohexylamino) ethane sulfonic acid (CHES)}、およびKClをpH7.0、9.5、11.0および12.5それぞれに関して使い、また0.2MのNaOHを使ってpH値を調整した。各pH溶液2mlを取り、これにストロンチウム(Sr
2+)3ppmを添加し、その後必要量の水を加えて10ml溶液にした。この後、10mgのHOM−DTDRコレクターを添加し、1時間攪拌後ろ過した。ろ過後の固形材料はストロンチウムイオンを吸着したHOM−DTDR−Srである。この固形材料は紫外線可視分光法(UV-VIS-NIR Spectroscopy)によって調査され、吸収スペクトルを取った。ストロンチウム吸着を特に良く表す特定波長における吸光度を各固形材料についてプロットした。
【0076】
図11は、HOM−DTDR−Srの紫外線可視分光スペクトル信号強度(室温測定)と溶液のpH値との関係を示すグラフであり、3ppmのストロンチウムイオンを溶解した種々のpH値溶液からHOM−DTDRがストロンチウムイオンを吸着したHOM−DTDR−Srの吸光度のpH値依存性を示す。
図11において、HOM−DTDR−Srの特定波長における紫外線可視分光スペクトル信号強度(比)を縦軸に、3ppmのストロンチウムイオンを溶解した溶液のpH値を横軸にプロットした。参照pH値として最高の信号強度を持つpH値溶液を使った。すなわち、
図11の縦軸はpH値が9.5の水溶液の信号強度に対する比を取っている。HOM−DTDR−Sr中のストロンチウム量が増えると紫外線可視分光スペクトルの吸光度が増大することが分かっているので、
図11から分かるように、信号強度のデータは、ストロンチウムイオンのコレクター(吸着剤)としてHOM−DTDR−Srを使用する場合、最も良くストロンチウムイオンを吸着する最良のpH値は9.5であることを示している。測定誤差やばらつきも考えると良好なpH値は7.0〜11.0、好適には8.0〜10.5、もっと好適には9.0〜10.0である。
【実施例9】
【0077】
<様々な濃度のストロンチウム溶液からHOM−DTDRを用いてストロンチウム抽出を行なうときの感度の調査>
ストロンチウムイオンを最も良く吸着するpH9.5の溶液を2ml取り、種々の濃度(0.5ppm−5.0ppm)のストロンチウムイオン(Sr
2+)を添加した後、適量の水を加えてガラステストチューブで10ml溶液にした。その後、HOM−DTDRコレクターを10mg添加し、1時間振って、室温でろ過した。固体材料は紫外線可視分光法(UV-VIS-NIR Spectroscopy)によって調査され、吸光度スペクトルを取った。
【0078】
図12は、ストロンチウムイオン濃度をパラメータとしたHOM−DTDR−Srの室温における吸収スペクトルおよび比色分析を示す図である。測定波長域は250nm〜900nmである。
図12において横軸は測定波長、縦軸は吸光度である。
図12から分かるように、ストロンチウムイオン濃度が増えるに従い、吸収スペクトル強度は波長域(300nm〜700nm)の光のほぼすべてで増大する。従って、HOM−DTDR−Srの紫外線可視分光スペクトル測定を行えば、その吸光度から溶液中のストロンチウムイオン濃度を知ることができる。たとえば、ストロンチウムの吸着に関係する479nmの波長の吸光度を用いることによりかなり正確に溶液中のストロンチウムイオン濃度を把握できる。
【0079】
図12には、ストロンチウムイオン濃度とHOM−DTDR−Srの色調との関係、すなわち比色分析のデータが示されている。
図12に示すように、ろ過後の固形材料の色調は、ストロンチウムイオン濃度が増大するに従い、薄い茶色(ストロンチウムイオン濃度0ppb、すなわちHOM−DTDRコレクターの色調)から段々濃くなり、茶色(ストロンチウムイオン濃度1.0ppm)となり、さらに濃い茶色(ストロンチウムイオン濃度5.0ppm)に変化する。この色調の変化は連続的なので、逆にろ過後の固形材料{HOM−DTDR−ストロンチウム}の色調からストロンチウムイオン濃度を知ることが可能である。このように比色分析の結果からも、HOMプローブ(HOM−DTDR−Sr)は、ストロンチウムイオンの優れたコレクターおよび濃度検出センサーである。
【0080】
これらの試料のHOM−DTDRコレクターを入れる前後における溶液のストロンチウムイオン濃度をICP-OES(ICP発光分光分析)によって測定した所、約90%の回収率でストロンチウムイオンを除去することができた。条件を最適化することにより、さらに除去効率を高めることができ、回収率を100%に近づけることが可能である。またストロンチウムを吸着したHOM−DTDRコレクター(HOM−DTDR−Sr)は、溶離溶液として酸性溶液あるいはアルカリ溶液などを用いることにより、元のHOM−DTDRコレクターに戻る。しかも、HOM−DTDRコレクターはHOMS骨格の安定な構造を有しており繰り返し使用できるので、少ない材料で多くのストロンチウムを回収することができる。
【0081】
図13は、本発明のストロンチウムイオン吸着性化合物であるCPP{DDAB(CPP)}またはDTDRを担持したメソポーラスシリカ(HOMS)を用いて放射性ストロンチウム等を含むストロンチウムイオン溶解溶液からストロンチウム(Sr)を回収するシステムを示した図である。第1段階でメソポーラスシリカ(HOMS)を作製し、第2段階でストロンチウム吸着性化合物であるCPP{DDAB(CPP)}またはDTDRをHOMSへ担持させ、HOMS−DDAB(CPP)コレクターまたはHOMS−DTDRコレクターを作製する。次に第3段階でストロンチウム(このストロンチウムには当然放射性ストロンチウムも含む)を含むストロンチウム(イオン)溶解溶液にHOMS−DDAB(CPP)またはHOMS−DTDRを浸漬(接触)し、抽出すべき(あるいは収集すべき)目標(金属)元素であるストロンチウムをHOMS−DDAB(CPP)またはHOMS−DTDRに吸着(抽出、収集)し、HOMS−DDAB(CPP)−SrまたはHOMS−DTDR−Srを作る。次の第4段階(
図1では第5段階)では、このHOMS−DDAB(CPP)−SrまたはHOMS−DTDR−Srを酸性溶液またはアルカリ溶液などのストロンチウム溶離溶液に浸漬等して目標元素であるストロンチウムを分離する。(HOMS−DDAB(CPP)およびHOMS−DTDRは多種のイオン(カチオンやアニオン)が溶解していても選択的にSrイオンだけを吸着するので
図1における第4段階を省略できる。)この一連の操作によってストロンチウムが回収または収集された。HOMS−DDAB(CPP)またはHOMS−DTDRは第3段階で再び使用することができ、HOMS−DDAB(CPP)コレクターまたはHOMS−DTDRコレクターをリユースして何回でも使用できる。
【0082】
比色法の観点から言えば、第3段階でストロンチウムイオン溶解溶液において、HOMS−DDAB(CPP)コレクターまたはHOMS−DTDRコレクターの色調が変化する。この色調の変化はストロンチウムイオン溶解溶液のストロンチウムイオン濃度により異なる。あるいはHOMS−DDAB(CPP)コレクターまたはHOMS−DTDRコレクターの色調は、これらに吸着されたストロンチウムイオン濃度により異なる。HOMS−DDAB(CPP)コレクターまたはHOMS−DTDRコレクターへのストロンチウムイオン吸着スピードは数分程度と速やかに行なわれるので、色調変化が終了した段階でろ過等によりHOMS−DDAB(CPP)コレクター(HOMS−DDAB(CPP)−Srとなる)またはHOMS−DTDRコレクター(HOMS−DTDR−Srとなる)を分離する。これはストロンチウムイオン溶解溶液中のストロンチウムイオンがHOMS−DDAB(CPP)コレクターまたはHOMS−DTDRコレクターに収集されたということを示す。
【0083】
これらのHOMS−DDAB(CPP)−SrまたはHOMS−DTDR−Srを、これらからストロンチウムを分離できる溶離(遊離、分離)溶液と接触させると、HOMS−DDAB(CPP)コレクターまたはHOMS−DTDRコレクターの色調が再び変化し、元の色調に戻る。すなわち、ストロンチウムを吸着していないHOMS−DDAB(CPP)またはHOMS−DTDRに戻った。HOMS−DDAB(CPP)コレクターまたはHOMS−DTDRコレクターは、ストロンチウムイオンの抽出の選択性が極めて高く、多数のイオンが含まれていてもその効果に対して影響は殆どなく固形物の色調変化にも殆ど影響を与えない。従って、HOMS−DDAB(CPP)コレクターまたはHOMS−DTDRコレクターは、溶液中のストロンチウムをすべて収集でき、ほぼ完全にストロンチウムを除去できるので、完全なストロンチウム収集剤または完全なストロンチウム除去剤と言える。このようにして、比色法を用いて、ストロンチウムイオンの回収のために何度もHOMS−DDAB(CPP)コレクターまたはHOMS−DTDRコレクターを使うことができる。
【0084】
上述したように、比色法による色調の変化を用いてHOMS−DDAB(CPP)コレクターまたはHOMS−DTDRコレクターがどの程度の量のストロンチウムイオンを吸着したか知ることができる。また、ストロンチウムイオン溶解溶液にHOMS−DDAB(CPP)コレクターまたはHOMS−DTDRコレクターを浸漬してHOMS−DDAB(CPP)コレクターまたはHOMS−DTDRコレクターの変色程度を見て終点すれば一定濃度以上のストロンチウムイオンを吸着しているので、HOMS−DDAB(CPP)コレクターまたはHOMS−DTDRコレクターのストロンチウムイオンを含む水溶液への浸漬をやめて、水溶液からHOMS−DDAB(CPP)コレクターまたはHOMS−DTDRコレクターを取り出し、HOMS−DDAB(CPP)−SrまたはHOMS−DTDR−Srからストロンチウムイオンの溶離を行なうことができる。HOMS−DDAB(CPP)−SrまたはHOMS−DTDR−Srはストロンチウムイオン溶離溶液に入れるとストロンチウムを溶離して変色して、ストロンチウムイオンを吸着していないもとのHOMS−DDAB(CPP)またはHOMS−DTDRへ戻る。
【0085】
ストロンチウムイオンが完全に除去されたことは、ICP−OES測定からも確認することができる。このように比色法を用いてストロンチウムイオンの吸着の量を判定でき、終点検知も可能となる。HOMS−DDAB(CPP)コレクターまたはHOMS−DTDRコレクターはストロンチウムイオンの抽出/分離に対して可逆的である。このように色調だけでストロンチウムイオンの吸着量を把握し、あるいはストロンチウムイオンを吸着していないと把握できるので、ストロンチウムイオンの迅速な検出だけでなく、迅速な回収を行なうことができる。この結果生産性を大幅に向上させることもできる。以上のように、HOMS−DDAB(CPP)コレクターまたはHOMS−DTDRコレクター等は、色調の変化(比色法)を活用してストロンチウムの抽出(収集)を行なうことができるので、視覚コレクターと呼ぶこともできる。また、この色調変化(比色法)や前記の分光法を自動化して、自動回収システムを構築して連続処理することもできる。
【0086】
HOMS−DDAB(CPP)またはHOMS−DTDR、あるいは他のストロンチウムイオン吸着性化合物を担持したHOMSは選択性が非常に優れているため、ストロンチウムイオン以外の金属がストロンチウムイオン溶解液に含まれていても、あるいはアニオンイオンや界面活性剤などがストロンチウムイオン溶解溶液に含まれていても、すなわち、これらの競合イオンが存在しても、非常に選択性が良く、ストロンチウムイオンだけを抽出あるいは収集する。ストロンチウムイオンの量がppb〜ppmレベルの微量でもあるいはもっと多量に含まれていても、また他の金属イオンやアニオンや界面活性剤の含有量が微量あるいはもっと多量に含まれていても、本発明のHOMS−DDAB(CPP)またはHOMS−DTDR等はストロンチウムイオンだけを選択的に抽出あるいは収集することができる。
【0087】
本発明の特徴の一つは、メソポーラス材料の内壁を任意の複合酸化物で構成させることにより、異種の原子が整列した状態を作り上げ、そこに適切なキレートまたは化合物を固着させることを通じてセンシングやコレクティングを行うことである。本発明の技術を用いて作製したHOMS−DDAB(CPP)コレクターまたはHOMS−DTDRコレクター等のストロンチウムイオンコレクターは、放射性ストロンチウム等を含む廃(排)液や生活用(排)水等からストロンチウムを吸着すると視覚的に変化することからストロンチウムの回収を容易に行なうことができる。しかもHOMS−DDAB(CPP)コレクターまたはHOMS−DTDRコレクター等は種々のイオンの中でもストロンチウムイオンに対して高選択性を有し、光学的応答機能を備えている。本発明のHOMS−DDAB(CPP)コレクターまたはHOMS−DTDRコレクター等は、特に人体に危険な放射性ストロンチウムの抽出・除去・収集・回収および検出に極めて有用である。
【0088】
上述したように、本発明は、有機シリコン化合物および界面活性剤から作製した高秩序化メソポーラスシリカに目標元素であるストロンチウムイオンを選択的に吸着するキレート化合物のようなストロンチウムイオン吸着性化合物を担持させ、そのストロンチウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを目標元素であるストロンチウムイオンが溶解された溶液と接触させ、目標元素であるストロンチウムイオンを選択的にメソポーラスシリカに担持されたストロンチウムイオン吸着性化合物に吸着させる。その後で、目標元素であるストロンチウムイオンを吸着したストロンチウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを化学的処理し、目標元素であるストロンチウムイオンをメソポーラスシリカに担持されたストロンチウムイオン吸着性化合物から遊離させ、目標元素であるストロンチウムを回収する。目標元素であるストロンチウムイオンが遊離されたストロンチウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカは、再使用できる。また、このストロンチウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカはストロンチウム(イオン)コレクターおよび濃度検出センサーとして使用することもできる。さらに、生活用水や廃液等に(有害な放射性)ストロンチウムが溶け込んでいるかどうかを検査することができるし、その濃度がppb〜ppmオーダーという微量な濃度でも検出することができる。さらに生活用水や廃液等に溶け込んだ(放射性)ストロンチウムを吸着して非常に微量な濃度まで(放射性)ストロンチウム濃度を低減することができる。放射能レベルから言えば許容限度以下に低減できる。従って(放射性)ストロンチウム除去フィルターとしても使用することができる。
【0089】
尚、明細書のある部分に記載し説明した内容を記載しなかった他の部分においても矛盾なく適用できることに関しては、当該他の部分に当該内容を適用できることも言うまでもない。また、上記実施形態や実施例は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施でき、本発明の権利範囲が上記実施形態に限定されないことも言うまでもない。