【文献】
紙およびパルプ 製紙の化学と技術,日本,有限会社 中外産業調査会,1983年 4月30日,第3巻,第115〜117頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
段ボールは、例えば、外装用ライナ、中芯、内装用ライナ等の板紙が、貼合機(コルゲータ)で貼合(接着)されることで製造される。中芯は、中芯原紙が貼合機に備わる段ロールでフルート(波)状に加工されることで製造される。中芯のフルート頂上部(段頂部)には、澱粉糊やPVA等の接着成分を含む水溶液(貼合糊)が塗布される。貼合糊が塗布された中芯は、内装用ライナや外装用ライナ等のライナと積層された後、表面温度120〜160℃の熱板によって80℃程度まで加熱される。この加熱によって澱粉が糊化(β→α化変性)するとともに余分な水分を蒸発させることで、中芯とライナとが接着される。この接着後の段ボールは、続けて、罫線加工や切断加工等の加工処理が施される。しかるに、中芯とライナとの接着強度が弱いと、当該罫線加工や切断加工等に際して、中芯とライナとが剥離するおそれがある。
【0003】
そこで、現在では、接着強度を向上するための様々な提案がなされている。例えば、特許文献1は、苛性ソーダ又は苛性カリと硼砂との混合剤を中芯やライナの表面に塗布することを提案する。また、特許文献2は、硼砂等によって中芯やライナの表面をpH6〜10に調節することを提案する。また、特許文献3は、八硼酸ナトリウムや八硼酸ナトリウムの溶解水、硫酸や苛性ソーダによってpH6.0〜8.5に調整した硼砂溶解水を中芯やライナの表面に塗布することを提案する。また、特許文献4は、多価アルコール水溶液中に硼砂を溶解させた貼合速度向上剤を中芯やライナの表面に塗布することを提案する。
【0004】
しかしながら、これらの方法は、中芯やライナの表面に薬品を塗布するものであるため、中芯やライナの製造工程が煩雑になるとの問題を有する。しかも、当該薬品の塗布は、中芯とライナとの接着に関係のない部分(段頂部以外の部分)にも行われるため、経済性に劣るとの問題も有する。
【0005】
そこで、本出願人は、特許文献5において、薬品を塗布することなく接着強度を向上するための提案を行った。この提案は、例えば、表層、中層及び裏層で構成されるライナ原紙の坪量を100〜300g/m
2にするとともに、「コッブ吸水度(10秒)/坪量」を0.7〜2.5にするというものであり、接着に関与するライナ原紙の裏層には内添サイズ剤を実質的に含有させないとするものである。
【0006】
しかしながら、このライナ原紙も高速での貼合(接着)を可能とするためには、改良の余地がある。例えば、数年前までは250m/分程度であった貼合速度が、近年では300m/分〜450m/分程度にまで高速化される場合があり、ライナ原紙の改良が重要課題になっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする主たる課題は、薬品を塗布しなくても高速貼合することができる段ボール用ライナ原紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決するための本発明は、次の通りである。
〔請求項1記載の発明〕
300m/分以上の速度で貼合される段ボール用ライナ原紙であって、
裏面の動的浸透性試験による信号強度が、浸透時間0.3秒以内において最大値を示し、かつ浸透時間1秒後において5〜50%を示
し、
前記段ボール用ライナ原紙は、少なくとも裏層を有する複数層構造であり、
前記裏層は、ロジンエマルジョンサイズ剤、硫酸バンド、及びポリアクリルアミド紙力増強剤を含有し、
固形分換算での含有量は、前記ロジンエマルジョンサイズ剤が0.5kg/t以下、前記硫酸バンドが2.0kg/t以下である、
ことを特徴とする段ボール用ライナ原紙。
【0010】
(主な作用効果)
現在、汎用化されている貼合糊は、例えば、α化澱粉及びβ澱粉を13〜18:87〜82の質量割合で300%相当の水に分散させた水溶液からなる。なお、α化澱粉とは、生澱粉を水に分散して膨潤させた後、加熱して糊化させた糊化澱粉である。また、β澱粉とは、生澱粉を水に分散して膨潤させただけの未糊化澱粉である。
【0011】
この貼合糊によって中芯とライナとの接着が図られるメカニズムは、次の通りである。すなわち、まず、相対的に粘度の高いα化澱粉によって中芯及びライナが位置決め接着される。この状態において熱板によって加熱されることでβ澱粉がゲル化(α化変性)され、更に当該ゲル化澱粉及びα化澱粉を含む貼合糊が乾燥されることで接着が完了する。そして、この接着は、中芯及びライナに貼合糊が浸透しており、かつ両者間にも貼合糊が存在している状態で乾燥された場合、いわゆるアンカー効果が生じるため、当該接着の強度が著しく向上する。
【0012】
しかるに、裏面の動的浸透性試験による信号強度が浸透時間0.3秒を超えたときに最大値を示すライナ原紙によると貼合糊の初期浸透性が悪く、高速貼合した場合は、ライナに貼合糊が浸透していない状態、つまり「浸透不十分」な状態で当該貼合糊の乾燥が行われることになる。したがって、アンカー効果が十分に得られず、接着強度が不十分となり、剥離等が生じるおそれがある。
【0013】
もっとも、信号強度が浸透時間0.3秒以内において最大値を示すとしても、浸透時間1秒後において信号強度(超音波弾性率)が50%を超えるライナ原紙によると単に毛細管現象等によって貼合糊が浸透(Z軸浸透)しているだけであり、貼合糊がパルプ繊維と十分に絡み合っていない状態(X−Y軸浸透していない状態)で乾燥されることになるため、アンカー効果が十分に得られず、接着強度が不十分となり、剥離等が生じるおそれがある。
【0014】
なお、前述特許文献5はライナ原紙に貼合糊を十分染み込ませる(浸透させる)ことで接着強度を向上させようとするものであり、ライナ原紙のコッブ吸水度を1つのファクターとしている。しかしながら、前述したように高速貼合した場合には、剥離等が生じることがあった。この点について、本発明者等はさまざまな検討をしたところ、貼合糊が塗布された中芯と接したダブル側のライナは約1.5〜2.0秒後には熱板によって加熱されていたが、貼合速度が劇的に高速化すると加熱されるまでの時間が0.6秒程度にまで短くなるため、数十秒〜分単位を基準とするコッブ吸水度との相関性がなくなり、ライナ原紙の特性を全く把握できないことを知見した。この知見に基づいて創作したのが上記発明である。
通常のライナ原紙は、貼合機においてシングル側のライナとして使用されるか、ダブル側のライナとして使用されるかが決まっていない。この点、ダブル側のライナは、貼合糊が塗布された中芯と積層された後、直ちに熱板によって加熱されることになり、浸透速度の向上は好ましいものである。しかるに、シングル側のライナは、貼合糊が塗布された中芯と積層されてから熱板によって加熱されるまでの時間が長い。したがって、信号強度が、浸透時間0.3秒以内において最大値を示すとしても、測定時間1秒後において5%未満を示すライナ原紙によると、シングル側のライナとして使用された場合において、中芯とライナとの間に貼合糊が存在していない状態、つまり「浸透過多」な状態で乾燥されることになるため、アンカー効果が十分に得られず、接着強度が不十分となり、剥離等が生じるおそれがある。
【0015】
【0016】
【0017】
〔請求項
2記載の発明〕
JIS P 8118:1998に準拠して測定した密度が0.75〜0.95g/cm
3で、JIS P 8117:2009に準拠して測定した透気抵抗度が50〜150秒である、
請求項
1記載の段ボール用ライナ原紙。
【0018】
(主な作用効果)
密度が0.95g/cm
3を超えるライナ原紙は貼合糊の浸透速度が遅く、前述した接着における浸透不十分による問題が生じるおそれがある。また、当該ライナ原紙は熱の伝達性が悪くβ澱粉のゲル化が進み難いとの問題や、熱がこもり、クーリングパートでの冷却を円滑に行えないとの問題が生じるおそれもある。他方、密度が0.75g/cm
3未満のライナ原紙は貼合糊の浸透速度が速く、前述した接着における浸透過多による問題が生じるおそれがある。
【0019】
一方、透気抵抗度が150秒を超えるライナ原紙は貼合糊の浸透速度が遅く、上記密度が0.95g/cm
3を超える場合と同様の問題が生じるおそれがある。他方、透気抵抗度が50秒未満のライナ原紙は浸透速度が速く、上記密度が0.75g/cm
3未満である場合と同様の問題が生じるおそれがある。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、薬品を塗布しなくても高速貼合することができる段ボール用ライナ原紙となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施の形態を説明する。
図1に示すように、本形態の段ボール用ライナ原紙1は、表層2、表下層3、中層4及び裏層5からなる4層構造とされている。ただし、1層構造とすることや、表層及び裏層からなる2層構造とすること、表層、中層及び裏層からなる3層構造とすること、5層以上の複数層構造とすることもできる。
【0023】
いずれの形態とする場合においても、本形態において重要な要素となるのは、図示しない中芯と貼合される裏面1a側の物性であり、具体的には、当該裏面1aの動的浸透性試験による信号強度(超音波弾性率)が、浸透時間0.3秒以内において、好ましくは0〜0.2秒において、より好ましくは0〜0.1秒において最大値を示し、かつ浸透時間1秒後において50%以下、好ましくは40〜5%、より好ましくは30〜5%を示す。
【0024】
ここで、動的浸透性試験による信号強度は、emtec社製のEST−12を用いて測定した値である。この測定は、
図2に示すように、ライナ原紙(試験片)1を両面テープ24でサンプルホルダー23に貼り付け、水槽20内の水Wに浸した(浸漬した)後、超音波発信部21から超音波を発信し、超音波受信部22に到達する超音波伝達強度(信号強度)の経時変化を測定するものである。
【0025】
図3に示すように、この信号強度Sは、ライナ原紙裏面1aの空気が拡散してライナ原紙裏面1aが水Wと接触することや、ライナ原紙1に毛細管現象により水Wが浸透することによって、初期段階においては上昇する。この段階における信号強度Sの曲線は、ライナ原紙1の初期浸透性を示す。他方、その後、ライナ原紙1が吸水してパルプ繊維が膨潤すると、弾性率が低下して信号強度Sが下降する。信号強度Sの最大値Sxは、この上昇から下降に変化するときに記録される。
【0026】
この最大値Sxを記録するときの浸透時間(測定時間)Txが0.3秒を超えると、浸透速度が遅すぎ、前述した接着における浸透不足の問題が生じるおそれがある。
【0027】
一方、浸透時間1秒後における信号強度Syが5%未満であると、貼合糊の浸透速度が速すぎ、当該ライナ原紙1がシングル側のライナとして使用された場合において、前述した接着における浸透過多の問題が生じるおそれがある。他方、浸透時間1秒後における信号強度Syが50%を超えると、浸透速度が遅すぎ、前述した接着における浸透不足の問題が生じるおそれがある。
【0028】
本形態のライナ原紙1は、JIS P 8118:1998「紙及び板紙−厚さ及び密度の試験方法」に準拠して測定した密度が0.75〜0.95g/cm
3、好ましくは0.75〜0.90g/cm
3、より好ましくは0.80〜0.90g/cm
3であると好適である。また、ライナ原紙1は、JIS P 8117:2009「紙及び板紙−透気度及び透気抵抗度試験方法(中間領域)−ガーレー法」に準拠して測定した透気抵抗度が50〜150秒、好ましくは70〜130秒、より好ましくは80〜120秒であると好適である。
【0029】
密度が0.95g/cm
3を超えるライナ原紙や、透気抵抗度が150秒を超えるライナ原紙は、貼合糊の浸透速度が遅く、前述した接着における浸透不十分による問題が生じるおそれがある。また、当該ライナ原紙は熱の伝達性が悪くβ澱粉のゲル化が進み難いとの問題や、熱がこもり、クーリングパートでの冷却を円滑に行えないとの問題が生じるおそれもある。
【0030】
他方、密度が0.75g/cm
3未満のライナ原紙や、透気抵抗度が50秒未満のライナ原紙は、貼合糊の浸透速度が速く、前述した接着における浸透過多による問題が生じるおそれがある。
【0031】
以上のように、本形態のライナ原紙1は、裏面1aの動的浸透性試験による信号強度Sやライナ原紙1全体の密度、透気抵抗度等の各要素が適宜調節されることで、薬品を塗布しなくても高速貼合することができるライナ原紙とされている。そこで、次に、各要素の調節方法について説明する。
【0032】
〔繊維長〕
まず、パルプ繊維の繊維長を長くすると信号強度Sが最大値Sxを示すまでの時間Txが短くなる傾向や、浸透時間1秒後における信号強度Syが弱くなる傾向がある。また、パルプ繊維の繊維長を長くすると、密度や透気抵抗度が低くなる傾向がある。他方、パルプ繊維の繊維長を短くすると信号強度Sが最大値Sxを示すまでの時間Txが長くなる傾向や、浸透時間1秒後における信号強度Syが強くなる傾向がある。また、パルプ繊維の繊維長を短くすると密度や透気抵抗度が高くなる傾向がある。
【0033】
したがって、ライナ原紙1の裏層5を構成するパルプ繊維の繊維長を調節することによって信号強度Sが最大値Sxを示すまでの時間Txや、浸透時間1秒後における信号強度Syを調節することができる。また、裏層5を構成するパルプ繊維の繊維長や、他の層2,3,4を構成するパルプ繊維の繊維長を調節することによってライナ原紙1全体の密度や透気抵抗度を調節することができる。
【0034】
この点、パルプ繊維の繊維長自体は、高濃度パルパーや低濃度パルパー等の離解機の選定、ホールスクリーンやスリットスクリーン等の粗選・精選機の選定等、パルプ化設備の選定によって調節することもできるが、パルプ原料の種類や叩解の有無・程度等によって調節するのが好適である。
【0035】
パルプ原料としては、例えば、NUKP、LUKP、NBKP、LBKP等の化学パルプや機械パルプ、古紙パルプ等を使用することができるが、例えば、繊維長を長くする場合はN材の配合割合を増やし、他方、繊維長を短くする場合はL材や機械パルプ、古紙パルプ等の配合割合を増やすとよい。
【0036】
また、裏層5を構成するパルプ原料の叩解は、例えば、JIS P 8121:1995「パルプのろ水度試験方法」に準拠して測定したフリーネス(叩解度)が250〜450ml(CSF)となるように行うことができるが、省略することもできる。他方、他の層2,3,4を構成するパルプ原料の叩解は、例えば、上記フリーネスが300〜600ml(CSF)となるように行うことができる。なお、フリーネスが低くなると密度や透気抵抗度が高くなる傾向があり、他方、フリーネスが高くなると密度や透気抵抗度が低くなる傾向がある。
【0037】
〔サイズ剤〕
裏層5を構成するパルプ原料に内添するサイズ剤の量を少なくすると信号強度Sが最大値Sxを示すまでの時間Txが短くなる傾向や、浸透時間1秒後における信号強度Syが弱くなる傾向がある。他方、裏層5を構成するパルプ原料に内添するサイズ剤の量を多くすると信号強度Sが最大値Sxを示すまでの時間Txが長くなる傾向や、浸透時間1秒後における信号強度Syが強くなる傾向がある。
【0038】
したがって、ライナ原紙1の裏層5を構成するパルプ原料に内添するサイズ剤の量を調節することによって信号強度Sが最大値Sxを示すまでの時間Txや、浸透時間1秒後における信号強度Syを調節することができる。なお、他の層2,3,4におけるサイズ剤の内添量は上記各要素に対する大きな影響がなく、したがって、裏層5にはサイズ剤を内添せず、他の層2,3,4にのみサイズ剤を内添することもできる。
【0039】
サイズ剤としては、例えば、ロジンエマルジョンサイズ剤、アルキルケテンダイマー(AKD)サイズ剤、アルケニル無水コハク酸(ASA)サイズ剤等の公知のサイズ剤を使用することができる。ただし、裏層5にサイズ剤を内添する場合は、当該サイズ剤としてロジンエマルジョンサイズ剤及びアルキルケテンダイマーサイズ剤の少なくとも一方を使用するのが好ましい。サイズ剤が、ロジンエマルジョンサイズ剤及びアルキルケテンダイマーサイズ剤の少なくとも一方であると、初期浸透速度の微妙な調節を行うことができる。もちろん、これらのサイズ剤を内添することによって信号強度Sが最大値Sxを示すまでの時間Txが0.3秒を超えるようであればサイズ剤の内添を省略する必要がある。
【0040】
なお、アルケニル無水コハク酸サイズ剤は、サイズ性には問題ないものの、パルプ原料の濃度や填料の添加率等の他の操業条件によって歩留りが大きな影響を受けるため、初期浸透速度の微妙な調整には不向きである。
【0041】
〔硫酸バンド等の定着剤〕
裏層5を構成するパルプ原料として古紙パルプを使用する場合は、パルプ原料に内添する硫酸バンド等の定着剤の量を少なくすると信号強度Sが最大値Sxを示すまでの時間Txが短くなる傾向や、浸透時間1秒後における信号強度Syが弱くなる傾向がある。他方、パルプ原料に内添する硫酸バンド等の定着剤の量を多くすると信号強度Sが最大値Sxを示すまでの時間Txが長くなる傾向や、浸透時間1秒後における信号強度Syが強くなる傾向がある。これは古紙パルプ由来のサイズ剤が、前述した内添サイズ剤と同様の作用を有するためである。
【0042】
したがって、裏層5を構成するパルプ原料として古紙パルプを使用する場合は、当該パルプ原料に内添する定着剤の量を調節することによって信号強度Sが最大値Sxを示すまでの時間Txや、浸透時間1秒後における信号強度Syを調節することができる。なお、他の層2,3,4における定着剤の内添量は上記各要素に対する大きな影響がなく、したがって、裏層5には定着剤を内添せず、他の層2,3,4にのみ定着剤を内添することもできる。
【0043】
〔紙力増強剤〕
裏層5を構成するパルプ原料に内添する紙力増強剤の量を少なくすると信号強度Sが最大値Sxを示すまでの時間Txが短くなる傾向や、浸透時間1秒後における信号強度Syが弱くなる傾向がある。他方、裏層5を構成するパルプ原料に内添する紙力増強剤の量を多くすると信号強度Sが最大値Sxを示すまでの時間Txが長くなる傾向や、浸透時間1秒後における信号強度Syが強くなる傾向がある。
【0044】
したがって、ライナ原紙1の裏層5を構成するパルプ原料に内添する紙力増強剤の量を調節することによって信号強度Sが最大値をSx示すまでの時間Txや、浸透時間1秒後における信号強度Syを調節することができる。なお、他の層2,3,4における紙力増強剤の内添量は上記各要素に対する大きな影響がなく、したがって、裏層5には紙力増強剤を内添せず、他の層2,3,4にのみ紙力増強剤を内添することもできる。
【0045】
紙力増強剤としては、例えば、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール系高分子、尿素/ホルマリン樹脂、メラミン/ホルマリン樹脂、澱粉等の公知の紙力増強剤を使用することができる。ただし、信号強度Sが最大値Sxを示すまでの時間Txを短くするという観点や、浸透時間1秒後における信号強度Syを弱くするという観点からは、澱粉を使用するのが好ましい。澱粉以外の合成紙力増強剤を使用すると、繊維長等を調節したとしても本形態のライナ原紙1を得るにあたって困難を伴うおそれがある。
【0046】
〔カレンダ処理〕
カレンダ処理を弱く行うと密度や透気抵抗度が低く維持される傾向があり、他方、カレンダ処理を強く行うと密度や透気抵抗度が高くなる傾向がある。したがって、カレンダ処理の強度を調節することによってライナ原紙1の密度や透気抵抗度を調節することができる。ただし、ライナ原紙1の表面は印刷等がされる場合があり、この場合は当該表面の平滑性等も考慮する必要がある。したがって、密度や透気抵抗度を調節するにあたっても、カレンダ処理の強度だけではなく、前述したパルプ繊維の繊維長等も十分に考慮する必要がある。
【0047】
〔その他〕
本形態のライナ原紙1を構成するパルプ原料には、必要に応じて、ポリアクリルアミド、アクリルアミド/アミノメチルアクリルアミドの共重合物の塩、カチオン化澱粉、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキサイド、アクリルアミド/アクリル酸ナトリウム共重合物等の歩留り向上剤や、ポリアミド、ポリアミン、エピクロルヒドリン等の耐水化剤、消泡剤、タルク等の填料、染料、スライムコントロール剤、抗菌剤、紫外線防止剤、防滑剤、滑剤、耐油剤、撥油剤、耐光・耐候性付与剤等の内添剤を内添することができる。
【0048】
ライナ原紙1のJIS P 8124:1998「紙及び板紙−坪量測定方法」に準拠して測定した坪量は、例えば、100〜320g/m
2、好ましくは120〜300g/m
2とすることができる。坪量が100g/m
2より低いと段ボールシートに加工すると波うちが発生するため外観が悪くなるおそれがあり、300g/m
2を超えるとコルゲータで高速で貼合する際に糊の乾燥熱量が不足してライナと中芯の初期接着強度が低下するおそれがある。
【0049】
本形態のライナ原紙から、ライナや段ボール(シート)を製造する方法は特に限定されない。例えば、ライナ原紙は、必要により、所定の大きさに切断される等してシングル側ライナやダブル側ライナとされる。シングルフェーサにおいて波状に成形(段繰り加工)され、かつ一方段頂部に貼合糊が塗布された中芯とシングル側ライナは貼り合わされて片面段ボールとされる。この片面段ボールは、グルーマシンで中芯の他方段頂部に貼合糊が塗布された後、ヒーティングパート及びクーリングパートからなるダブルフェーサに送られる。ヒーティングパートでは中芯の他方段頂部側にダブル側ライナが積層された状態で熱板によって加熱される。この加熱により貼合糊が乾燥され、接着が完了する。接着が完了した段ボールはクーリングパートにおいて放熱された後、罫線加工や切断加工等の加工が施される。本形態のライナ原紙1は接着強度が向上するように製造されているため、この加工段階において剥離等が生じるおそれはない。
【0050】
中芯とライナとを接着する際に使用される貼合糊は特に限定されないが、安価な澱粉を原料として使用した貼合糊が好適である。このような貼合糊としては、例えば、前述したような、水、キャリアと呼ばれる糊化した澱粉(α化澱粉)、未糊化のメイン澱粉(β澱粉)で構成される貼合糊や、これにアルカリ化合物や硼素化合物等が添加された貼合糊等を例示することができる。β澱粉(メイン澱粉)としては、例えば、とうもろこし澱粉、小麦澱粉、ポテト澱粉、タピオカ澱粉等の各種生澱粉や、燐酸エステル化澱粉、アミノ化澱粉等のカチオン基で澱粉を化学修飾したカチオン化澱粉、酸で加水分解させ分子量を制御した酸化澱粉、α−アミラーゼで加水分解し分子量を制御した酵素変性澱粉等の化学変性された各種化工澱粉、遺伝子操作したとうもろこし等から採取されるハイアミロース澱粉等を用いることができる。他方、α化澱粉(キャリア澱粉)としては、例えば、酸加水分解澱粉、カチオン化澱粉、酵素変性澱粉等の化工澱粉やハイアミロース澱粉等を用いることができる。また、耐水性を要求される耐水段ボールには、アクリル、SBR等の合成樹脂エマルジョンと澱粉とを混合した貼合糊が好適である。
【実施例】
【0051】
次に、本発明の実施例を示し、本発明によるライナ原紙が従来のライナ原紙とは異なるものであること、また、上記した作用効果を奏するものであることを明らかにする。なお、以下においては、特に断りのない限り、%は質量%を、薬品添加量はパルプ絶乾質量(t)当たりの固形分質量(kg)を意味する。
【0052】
〔実施例1〕
表層用の原料を、針葉樹未晒クラフトパルプ(フリーネス550ml)55質量%、段ボール古紙パルプ45質量%の配合割合からなるパルプのスラリーに、ロジンエマルジョンサイズ剤6kg/t、ポリアクリルアミド紙力増強剤10kg/t、硫酸バンド(有姿)15kg/tを添加して得た。また、表下層用及び中層用の原料を、段ボール古紙パルプ80質量%、雑誌古紙パルプ20質量%の配合割合からなるパルプのスラリーに、ロジンエマルジョンサイズ剤2kg/t、ポリアクリルアミド紙力増強剤5kg/t、硫酸バンド(有姿)15kg/tを添加して得た。さらに、裏層用の原料を、表1に示すように、段ボール古紙パルプ(段古紙)100質量%のスラリーに、サイズ剤無添加としつつ、紙力増強剤として両性澱粉3.5kg/t、硫酸バンド(有姿)10kg/tを添加して得た。以上の表層用、表下層用、中層用及び裏層用の原料(パルプスラリー)を、それぞれ抄紙し、抄合せ、プレス、乾燥及びマシンカレンダー処理をして、4層ライナ原紙を製造した。なお、表層の坪量を45g/m
2、表下層の坪量を55g/m
2、中層の坪量を90g/m
2、裏層の坪量を90g/m
2とした。得られた4層ライナ原紙の物性は、表2に示す通りであった。
【0053】
〔実施例2〜実施例17〕
表1及び表2に示すように、構成原料等の各種ファクターを種々変化させて、4層ライナ原紙を製造した。なお、実施例2の4層ライナ原紙は、表層の坪量を45g/m
2、表下層の坪量を55g/m
2、中層の坪量を60g/m
2、裏層の坪量を60g/m
2とした。また、実施例3の4層ライナ原紙は、表層の坪量を35g/m
2、表下層の坪量を40g/m
2、中層の坪量を45g/m
2、裏層の坪量を50g/m
2とした。
【0054】
(評価)
各4層ライナ原紙について、シングル側のライナとして使用した場合と、ダブル側のライナとして使用した場合とのそれぞれについて、剥がれ及び接着強度を評価した。結果は、表3に示した。なお、測定方法や薬品、評価方法等の詳細は、下記の通りである。
【0055】
〔比較例1〜4〕
比較のために、従来品についても評価を行った。原料構成や物性等の条件は表1及び表2に、評価結果は表3に示した。
【0056】
〔他社品A〜D〕
比較のために、他社のライナ原紙についても評価を行った。物性等の条件は表2に、評価結果は表3に示した。
【0057】
〔測定方法・薬品・評価方法等〕
(フリーネス)
JIS P 8121:1995「パルプのろ水度試験方法」に準拠してカナダ標準ろ水度を測定した。
【0058】
(平均繊維長)
JIS P 8226:2006「パルプ−光学的自動分析法による繊維長測定方法−第1部:偏光法」に準拠して、質量加重平均繊維長をメッツォオートメーション製「カヤーニFiberLab繊維長測定機」を用いて測定した。
【0059】
(ロジン(ロジンエマルジョンサイズ剤))
東邦化学株式会社製のR1600(固形分50%)を使用した。
【0060】
(硫酸バンド)
朝日化学工業社製の液体硫酸バンド(酸化アルミニウム8%)を使用した。なお、表1の添加量は有姿での添加量である。
【0061】
(共重合PAM(ポリアクリルアミド紙力増強剤))
星光PMC社製のDS4690(固形分25%)を使用した。
【0062】
(両性澱粉(紙力増強剤))
日本NSC社製のOPTIBONDを使用した。
【0063】
(坪量)
JIS P 8124:1998「紙及び板紙−坪量測定方法」に準拠して測定した。
【0064】
(密度)
JIS P 8118:1998「紙及び板紙−厚さ及び密度の試験方法」に準拠して測定した。
【0065】
(透気抵抗度(ガーレー))
JIS P 8117:2009「紙及び板紙−透気度及び透気抵抗度試験方法(中間領域)−ガーレー法」に準拠してガーレー試験機を用いて測定した。
【0066】
(動的浸透性試験)
動的浸透性試験器としてemtec社製のEST−12を使用し、ライナ原紙の裏面を試験液に接触させ信号強度が最大値を示すまでの時間及び浸透時間1秒後における信号強度を測定した。なお、試験液として23℃の蒸留水を用い、測定用の超音波周波数は2MHzとした。
【0067】
(コッブ吸水度)
JIS P 8140:1998「紙及び板紙−吸水度試験方法−コッブ法」に準拠してライナ原紙の裏面を測定した。
【0068】
(貼合速度)
各ライナ原紙をシングル側又はダブル側のライナとして使用し、中芯と貼合機で貼り合わせた際の速度である。中芯、貼合機、貼合糊としては、以下のものを使用した。
【0069】
中芯:いわき大王製紙(株)製の強化芯(180g/m
2)を使用した。
【0070】
貼合機:(株)ISOWA製のコルゲータCWDXを使用した。貼合速度は350m/分として段ボールシートを得た。
【0071】
貼合糊:日本澱粉社製のローコンスを使用した。塗工量(ダブル側3.2g/m
2、シングル側5.0g/m
2)、濃度(ダブル側3.2%、シングル側3.0%)。
【0072】
(剥がれ評価)
貼合後の完成段ボールのコルゲータ幅方向両端を手で折り曲げ、以下の基準による3段階の官能評価を行った。
○:幅方向両端まで完全に接着されており、剥がれが見られなかった場合。
△:折り曲げた時に「パリパリ」との剥がれ音が生じ、微少な剥がれが見られた場合。
×:折り曲げ前から明らかな剥がれが見られた場合。
【0073】
(接着強度)
得られた段ボールシートのライナと中芯との接着力をJIS Z 0402:1995「段ボールの接着力試験方法」に準拠し、以下の基準に従い、評価した。なお、試験はシングルフェーサ側及びダブルフェーサ側について、それぞれ10個の試験片について行い、平均値を求めた。
◎:接着力が270N以上である。
〇:接着力が250N以上270N未満である。
△:接着力が230N以上250N未満である。
×:接着力が230N未満である。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
【表3】
【0077】
表3に示されるように、本発明のライナ原紙は、300〜450m/分の高速貼合適性に優れ、段ボールシートにした際に優れた接着強度が得られる段ボール用ライナ原紙であることがわかる。