特許第5963252号(P5963252)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5963252
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】液体ターゲットガイド
(51)【国際特許分類】
   G21K 5/08 20060101AFI20160721BHJP
【FI】
   G21K5/08 N
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-163177(P2012-163177)
(22)【出願日】2012年7月24日
(65)【公開番号】特開2014-21078(P2014-21078A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年4月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183945
【氏名又は名称】助川電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100081927
【弁理士】
【氏名又は名称】北條 和由
(72)【発明者】
【氏名】古林 徹
(72)【発明者】
【氏名】林▲崎▼ 規託
(72)【発明者】
【氏名】三浦 邦明
【審査官】 鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−224798(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給路(3)を通してターゲット部(5)においてターゲットガイド(4)に液体ターゲットを供給し、同ターゲットガイド(4)の表面で液体ターゲットの膜層流を形成した後、排出ガイド(6)及び排出路(7)を通して液体ターゲットをクエンチ面(8)まで排出する中性子発生源の液体ターゲットガイドにおいて、液体ターゲットを案内するガイド面が別部材の継ぎ合わせからなり、そのガイド面の継ぎ合わせ部分にガイド面の隙間を生じると共に、液体ターゲットの流れの方向が変わる変曲を伴う場合、その継ぎ合わせ部分における液体ターゲットの流れが前のガイド面を離れて次のガイド面に着くまでガイド面の隙間Δを0mm<Δ≦60mmとし、且つ変曲角θ1を20゜≦θ1≦45゜としたことを特徴とする中性子発生源の液体ターゲットガイド。
【請求項2】
液体ターゲットを案内するガイド面が別部材の継ぎ合わせからなり、そのガイド面の継ぎ合わせ部分にガイド面の隙間を生じると共に、液体ターゲットの流れの方向が変わる変曲を伴わない場合、その継ぎ合わせ部分における液体ターゲットの流れが前のガイド面を離れて次のガイド面に着くまでガイド面の隙間δを0mm≦δ≦2mmとしたことを特徴とする請求項1に記載の中性子発生源の液体ターゲットガイド。
【請求項3】
排出路(7)を流れる液体ターゲットがクエンチ面(8)に入るときの変曲角θ2を20゜≦θ2≦45゜としたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の中性子発生源の液体ターゲットガイド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば癌治療を目的として適用されるホウ素中性子捕捉療法(BNCT)において、中性子源となる液体リチウムターゲットの膜流を形成するための液体ターゲットガイドに関し、特に流路壁面に沿って液体リチウムターゲットが飛散の少ない膜流を形成することを可能とした液体ターゲットガイドに関する。
【背景技術】
【0002】
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)は、熱中性子線や熱外中性子線をガン組織に照射し、予めガン組織に取り込ませた中性子捕獲断面積が大きいホウ素同位体(10B)化合物のホウ素同位体(10B)が中性子捕獲核反応によって生成する、α線(ヘリウム核)とリチウム核(Li)の二次粒子線によって、選択的にガン細胞を殺すことを目的とした治療法である。α線等の飛程が非常に短い為、ホウ素同位体(10B)を取り込んだ細胞だけを破壊するので極めて副作用の少ない癌治療として着目されている。
【0003】
当初のホウ素中性子捕捉療法(BNCT)は、原子炉からの中性子を減速して利用していたが、現在では陽子を加速器で加速して、水冷した固体のベリリウムに陽子を照射して発生させる中性子やリチウムに陽子を照射して発生させる中性子の利用も可能である。このリチウムは銅板などに固体のリチウムを貼りあわせて銅板側を水冷するものと、液体リチウムを熱交換器により連続的に除熱して液体リチウムを循環して使用するものがある。ここでは後者の液体リチウムに陽子を照射して発生させる中性子を利用する方式について説明する。以下説明に出てくるターゲット材とは、陽子が照射される物体の事である。
【0004】
ターゲット材に液体リチウムを用いる方式は、循環することによって熱交換器を通じて連続的に除熱することができ、また照射エネルギーを8MeV以下に選定すると核反応で発生する有害生成物が少なくなる。本件では、陽子の照射によってリチウム同位体(7Li)がベリリウム同位体(Be)になるが、半減期が53.6日あまりで、再びリチウム同位体(Li)に戻るため連続的に使用することが出来る。ベリリウム同位体(Be)は放射性物質では有るが、液体リチウム中に溶けた状態でリチウムループ内に閉じ込められ、時間と共に非放射性のリチウム同位体(Li)に戻る。更に陽子の照射エネルギーを2.0MeV以下にすれば減速する必要がない中性子が発生する領域になり、従ってこの2.0MeV以下、かつ中性子が発生する1.881MeV閾値反応エネルギー以上の照射エネルギーにするのが良い。核反応で発生する有害生成物が少なくなれば、有害生成物に対する対策もなくなり遮蔽も軽減され、更に減速材を使用しなければ装置の小型と簡素化に繋がって、使いやすいホウ素中性子捕捉療法(BNCT)が構築できる。
【0005】
照射する陽子エネルギーを2.0MeV以下、かつ中性子が発生する1.881MeV閾値反応エネルギー以上の照射エネルギーにすることに拠って、減速材で減速せずに使用できる熱外中性子や熱中性子が発生する。ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)を確実なものにするため必要な中性子の数も多くなければならず、この中性子の数を決めるのは陽子の数、即ち陽子電流も数十mAにする必要がある。
【0006】
この中性子減速の必要がない閾値近傍反応の例として、陽子のエネルギーを2MeVとし、その電流を20mAとすると、40kWの大きな熱エネルギーが液体リチウムに与えられることになる。この大きな入熱でも液体リチウムが蒸発せず、連続運転出来る様にする為には、液体リチウムが中性子源のターゲット部を常に高速で安定した厚みで流れて液体リチウムの温度上昇を押さえ、かつ液体リチウムの密閉流路であるリチウムループの途中に液体リチウムを除熱する機器を備えたリチウムループを構成し、ターゲットとなる液体リチウムがこのリチウムループを絶えず循環する必要がある。中性子源のターゲット部の液体リチウムは、陽子の照射方向に発生する中性子の軌道を乱さず、かつ中性子の減衰を押さえる為にできるだけ薄く、且つブラッグピークと呼ばれる照射された陽子が急激に吸収される深さの0.25mm以上の厚みである0.5mm程度の薄く乱れの少ない安定したリチウムターゲット流を形成し、ここに陽子線が当てられ、中性子を発生する。
【0007】
このような中性子源において、適正な液体リチウムターゲットとは、薄型矩形噴出口から液体リチウムが流速20〜30m/s程度の高速で噴出し、安定した膜流を形成しながら、常に壁面に沿って流れ、配管のリチウムクエンチ面まで流れが到達し、そのリチウムクエンチ面に突入する流れが適正角度で入射して、液体リチウム飛沫の飛散が最小になるのが望ましい。
【0008】
陽子ビームを均一に当てて所定の方向に中性子を発生させる液体リチウムターゲットは、陽子を照射する液体リチウムターゲット部において、一旦膜状の安定した流れを形成しなければならない。その膜状流が空間を移動すると、ある距離から液滴化して飛散するので、常に壁面に付着する状態で配管系の中でクエンチ面まで流れを持続させる必要がある。この為特に、陽子ビームが当たって温度が上昇する液体リチウムターゲット部の膜状リチウム噴流は、遠心力が掛かる湾曲板面をガイド面として常に液流がガイド面に付着して張り付かせる様にしている。さらに湾曲板面を出たリチウム液流は、飛散しない様に液流のガイド面を配管系の中に連続して形成し、出来るだけ空間の移動を避けて、配管内面からクエンチ面までリチウム流れを連続させる必要がある。
【0009】
その時複雑な液流のガイド面を供給路側から排出路のクエンチ面まで一体で作れないので、ガイド面を区間ごとに別部材で組み合わせることになる。この別部材からなるガイド面の隙間が広すぎたり、ある角度でリチウム膜流が流路面に当たった時には液膜流から飛沫が発生し、液流によって流路面が潰食されることになる。さらにクエンチ面へのリチウム流の入射角も適正でないと飛沫の発生や、液流よって流路面が潰食されることになる。
【0010】
潰食は装置の寿命を短くしてしまい、飛沫は真空排気側に運ばれてフィルターの目詰まりを起こしたり、液体リチウムターゲット周辺に不要なリチウムを付着してしまうことになる。リチウム同位体(Li)は、半減期が53.6日の放射性物質のベリリウム同位体(Be)に核変換するので、陽子線が当たるリチウムターゲット流は必要な時だけターゲット部に流れていて、それ以外はドレンしてしまうのが良いので、リチウム液流の付着は無いほうが良い。実験によれば、一旦付着したものは、ある量になるまで雫の形で落下しないので、飛沫を抑えることは重要なことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−84099号公報
【特許文献2】特開2002−64000号公報
【特許文献3】特開平07−249498号公報
【特許文献4】特開平07−191198号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は前記従来の中性子源となる液体ターゲットの液流形成における課題を踏まえ、液体ターゲットの液流を形成する液体ターゲットガイドにおいて、流路壁面に沿って液体ターゲットが適正な膜状流を形成することを可能とした液体ターゲットガイドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は前記の目的を達成するため、別部材で組み合わせて形成した液流ガイドのガイド面の継ぎ合わせ部分において、その隙間寸法を適正なものとした。さらに流れの角度が変わる変曲部を有するガイドの継ぎ合わせ部分では、その変曲角を適正なものとし、これにより、液体ターゲットがターゲット部を通過した後も液流による潰食や飛沫が発生しないようにした。
【0014】
すなわち本発明による液体ターゲットガイドは、供給路3を通してターゲット部5においてターゲットガイド4に液体ターゲットを供給し、同ターゲットガイド4の表面で液体ターゲットの膜状流を形成した後、排出ガイド6及び排出路7を通して液体ターゲットをクエンチ面8まで排出するものである。このような液体ターゲットガイドにおいて、液体ターゲットを案内するガイド面が別部材の継ぎ合わせからなり、そのガイド面の継ぎ合わせ部分にガイド面の隙間を生じると共に、液体ターゲットの流れの方向が変わる変曲を伴う場合、その継ぎ合わせ部分における液体ターゲットの流れが前のガイド面を離れて次のガイド面に着くまでガイド面の隙間Δを0mm<Δ≦60mmとし、且つ変曲角θ1を20゜≦θ1≦45゜とする。
【0015】
本件発明者の実験とシミュレーションによれば、液体ターゲットの流れがガイド面を一旦離れて次のガイド面に移り変わり再付着するときは、前後のガイド面の角度が10゜傾いた時が最も液流の潰食が大きく、液体ターゲットの飛散も生じやすい。これが前後のガイド面の角度が20゜になると液体ターゲットの潰食と跳ねが少なくなる。これに対し、前後のガイド面の角度がさらに45゜を越えると、液体ターゲットの潰食と跳ね返りが大きくなる。従って、前後のガイド面の変曲角θ1は20゜≦θ1≦45゜が良い。また同様にして排出路(7)を流れる液体ターゲットがクエンチ面(8)に入るときの変曲角θ2を20゜≦θ2≦45゜とする。
【0016】
さらに液体ターゲットの流れが前のガイド面を離れて、次のガイド面に着くまでのガイド面の隙間Δ、δは、出来るだけ狭い方が良い。この場合、前述のように前後のガイド面に変曲角が有る場合は(θ1>0)、隙間Δは60mmまで許容出来る。これに対して、前後のガイド面に変曲角が無い場合は(θ1=0)、隙間δはさらに狭くする必要があり、その最大許容値は2mmである。すなわち、0mm≦δ≦2mmとする。
【発明の効果】
【0017】
本発明による液体ターゲットガイドによれば、複数の部材を組み合わせてなるためガイド面の継ぎ合わせ部分を有する場合であっても、液体ターゲットの液流に潰食や飛沫を発生することなく、液膜流を維持したままターゲットガイド4から排出することが出来る。これにより、ターゲットガイド4における液体ターゲットの膜状流を安定して維持することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ターゲットガイドへの液体ターゲットの供給路を示す概略断面図である。
図2】ターゲットガイドへの液体ターゲットの供給路を示すターゲット部の要部拡大概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明では、部材で組み合わせて形成したガイド面の継ぎ合わせ部分において、その隙間寸法や変曲角を適正なものとし、これにより液体ターゲットがターゲット部を通過した後も飛沫や液流による潰食が発生しないようにした。
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら具体的且つ詳細に説明する。
【0020】
図1はターゲット部5において、ターゲットガイド4の表面に形成される液体Li等の液体ターゲットに陽子ビームPBを照射し、中性子を発生させる装置の概略を示す図であり、図2はそのターゲット部5の周囲の要部拡大図である。
加速器9において加速および収束して形成された陽子ビームPBは、陽子通過管1を通してターゲットガイド4が配置されるターゲット部5に入射し、ターゲットガイド4の表面に形成された液体リチウム等の液体ターゲット流に照射される。この液体ターゲットに対する陽子の照射により液体ターゲットから中性子が発生する。
【0021】
ターゲットガイド4はなだらかな曲面を有し、その表面に液体リチウム等の液体ターゲットの膜状流が形成される。この液体ターゲットは、管状の供給路3を通してその先端のノズル部からターゲットガイド4の表面に流される。このターゲットガイド4の表面では、それに沿って液体ターゲットの膜状流が形成される。
ターゲットガイド4の表面に沿って流れた液体ターゲットは、排出ガイド6及び排出路7を通して排出路7の途中に設けたクエンチ面8まで排出される。
【0022】
この液体ターゲットの排出系統において、液体ターゲットはターゲットガイド4からまず排出ガイド6に移り、流れるが、この間にδの隙間が存在する。但し、ターゲットガイド4から排出ガイド6に流れが移る部分では流れの方向の変化は無く、変曲角は0である。このような場合、前記隙間δは2mm以下とする必要がある。すなわち、0mm≦δ≦2mmとする。
【0023】
次に、液体ターゲットは排出ガイド6から管状の排出路7に移り、流れるが、この間にΔの隙間が存在する。またこの排出ガイド6から排出路7に流れが移る部分では流れの方向の変化が有り、その変曲角はθ1である。このような場合、前記隙間Δは60mm以下とし、変曲角θ1は20゜以上、45゜以下とする必要がある。すなわち、0mm<Δ≦60mm、20゜≦θ1≦45゜とする。
【0024】
排出ガイド6から管状の排出路7に移った液体ターゲットは、排出路7の中を流れ、その排出路7に設けたクエンチ面8に達する。このクエンチ面8は、液体ターゲットを排出路7の途中に一時的に貯留するトラップの液面部分であるが、このクエンチ面8は液面であるが故に水平である。排水路7は、重力で液体トラップを流して排出する機能を有しているので、所要の勾配を持たせてある。従って排出路7とクエンチ面8との間には流れの方向の変化が有り、その変曲角はθ2である。このような場合、変曲角θ2は前記θ1と同様に20゜以上、45゜以下とする必要がある。すなわち、20゜≦θ2≦45゜とする。
【0025】
このような構成を有する流路系である液体ターゲットガイドによれば、複数の部材を組み合わせてなるためガイド面の継ぎ合わせ部分を有する場合であっても、液体ターゲットの液流による潰食や飛沫の発生を防止することが出来る。これにより、液状流を維持したままターゲットガイド4から排出することが出来、ターゲットガイド4における液体ターゲットの膜状流が安定して維持される。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明による液体ターゲットガイドは、例えば癌治療を目的として適用されるホウ素中性子捕捉療法(BNCT)において、加速した陽子を液体ターゲット流に衝突させて中性子を発生させるための中性子源において、陽子を衝突させる液体リチウムターゲットの膜層流を形成するための液体ターゲットガイドとして利用することが出来る。
【符号の説明】
【0027】
4 ターゲットガイド
5 ターゲット部
6 排出ガイド
7 排出路
8 クエンチ面
図1
図2