特許第5963363号(P5963363)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5963363Auroraキナーゼプロモーターを含む増殖制御型ウイルスベクター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5963363
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】Auroraキナーゼプロモーターを含む増殖制御型ウイルスベクター
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20160721BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20160721BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20160721BHJP
   A61K 35/761 20150101ALI20160721BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C12N7/01
   A61K48/00
   A61K35/761
   A61P35/00
【請求項の数】20
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2012-536543(P2012-536543)
(86)(22)【出願日】2011年9月29日
(86)【国際出願番号】JP2011072357
(87)【国際公開番号】WO2012043710
(87)【国際公開日】20120405
【審査請求日】2014年3月12日
(31)【優先権主張番号】特願2010-223150(P2010-223150)
(32)【優先日】2010年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100120293
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 智子
(72)【発明者】
【氏名】小戝 健一郎
【審査官】 白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−046101(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/115476(WO,A1)
【文献】 国際公開第03/025190(WO,A1)
【文献】 特表2007−508036(JP,A)
【文献】 特表2007−535315(JP,A)
【文献】 ケミカル・エンジニヤリング,2009年,vol.54 no.1,pp.32-38
【文献】 Mol Cancer Res,2008年,vol.6 no.12,pp.1937-1945
【文献】 THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,2002年,vol.277 no.12,pp.10719-10726
【文献】 Biochemical and Biophysical Research Communications,2004年,vol.316,pp.930-936
【文献】 CANCER RESEARCH,1998年,vol.58,pp.4811-4816
【文献】 The EMBO Journal,1998年,vol.17 no.11,pp.3052-3065
【文献】 nature genetics,1998年,vol.20,pp.189-193
【文献】 CANCER RESEARCH,1999年,vol.59,pp.2041-2044
【文献】 Clin Cancer Res,2006年,vol.12 no.23,pp.6869-6875
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/MEDLINE/BIOSIS(STN)
PubMed
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子をコードする核酸のプロモーターがAuroraキナーゼプロモーターで置換されていることを特徴とするアデノウイルスベクター
【請求項2】
Auroraキナーゼプロモーターが、ヒトAuroraキナーゼA遺伝子のプロモーターである、請求項1に記載のウイルスベクター。
【請求項3】
ヒトAuroraキナーゼA遺伝子のプロモーターが、配列番号1に示されるヌクレオチド配列中少なくとも1363〜1840番目のヌクレオチド配列を含む、請求項2に記載のウイルスベクター。
【請求項4】
ヒトAuroraキナーゼA遺伝子のプロモーターが、配列番号1に記載の塩基配列からなるプロモーターである、請求項2に記載のウイルスベクター。
【請求項5】
ヒトAuroraキナーゼA遺伝子のプロモーターが、配列番号2に記載の塩基配列からなるプロモーターである、請求項2に記載のウイルスベクター。
【請求項6】
Auroraキナーゼプロモーターが、ヒトAuroraキナーゼB遺伝子のプロモーターである、請求項1に記載のウイルスベクター。
【請求項7】
ヒトAuroraキナーゼB遺伝子のプロモーターが、配列番号3に示されるヌクレオチド配列中少なくとも1595〜2140番目のヌクレオチド配列を含む、請求項6に記載のウイルスベクター。
【請求項8】
ヒトAuroraキナーゼB遺伝子のプロモーターが、配列番号3に記載の塩基配列からなるプロモーターである、請求項6に記載のウイルスベクター。
【請求項9】
ヒトAuroraキナーゼB遺伝子のプロモーターが、配列番号4に記載の塩基配列からなるプロモーターである、請求項6に記載のウイルスベクター。
【請求項10】
更に、少なくとも1つの他のウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子をコードする核酸のプロモーターがAuroraキナーゼプロモーターとは異なる外来性プロモーターで置換されていることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項11】
少なくとも1つのウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子が、E1A、E1AΔ24、E1B、およびE1BΔ55Kから選択される因子である、請求項1〜10のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項12】
少なくとも1つのウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子が、E1A、E1AΔ24から選択される因子である、請求項11に記載のウイルスベクター。
【請求項13】
更に、細胞毒性因子または治療因子をコードする核酸と機能的に結合した、AuroraキナーゼプロモーターまたはAuroraキナーゼプロモーターとは異なる外来性プロモーターを含む発現カセットを包含する請求項1〜12のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項14】
Auroraキナーゼプロモーターとは異なる外来性プロモーターが、臓器特異的に発現が亢進している因子のプロモーター、がん細胞特異的に発現が亢進している因子のプロモーター、または哺乳類において恒常的に発現し得るプロモーターである、請求項10又は13に記載のウイルスベクター。
【請求項15】
臓器特異的に発現が亢進している因子のプロモーターが、アルブミン、α−フェトプロテイン、前立腺特異的抗原(PSA)、ミトコンドリア型クレアチンキナーゼ(MCK)、ミエリン塩基性タンパク質(MB)、グリア繊維酸性タンパク質(GFAP)、または神経特異的エノラーゼ(NSE)のプロモーターである、請求項14に記載のウイルスベクター。
【請求項16】
がん細胞特異的に発現が亢進している因子のプロモーターが、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)、がん胎児性抗原(CEA)、低酸素応答性領域(HRE)、Grp78、L−プラスチン、ヘキソキナーゼII、またはサバイビンのプロモーターである、請求項14に記載のウイルスベクター。
【請求項17】
哺乳類において恒常的に発現し得るプロモーターが、サイトメガロウイルス前初期遺伝子プロモーター(CMV)である、請求項14に記載のウイルスベクター。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1項に記載のウイルスベクターを含有する癌治療剤。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか1項に記載のウイルスベクターを含有する臨床診断剤。
【請求項20】
がんの診断用である、請求項19に記載の診断剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Auroraキナーゼプロモーターを含む治療または予防用ベクター、特に増殖制御型ウイルスベクターに関する。より詳細には、本発明は、Auroraキナーゼプロモーターを含むことにより、がん細胞で特異的に増殖するアデノウイルスベクター、および/またはがん細胞で特異的に細胞毒性因子または治療因子を発現するベクターに関する。また、本発明は、Auroraキナーゼプロモーターを担持するベクターを含む、がん治療用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
がんの遺伝子治療は1991年以後、多くの臨床試験がおこなわれ、その結果、安全性についてはよく確認されたものの、患者体内のすべてのがん細胞を死滅するところまでに至らないため、根治レベルに達していない。がんの遺伝子治療の臨床試験は、1990年代前半には、レトロウイルスを利用したex vivo遺伝子治療、つまり免疫を誘導できるサイトカイン遺伝子などをin vitroで導入して、放射線などで増殖能を不活化されたがん細胞を体内に戻す治療法が行われた。しかし、不十分な治療効果に加え、臨床手技などの多くの問題点により、ex vivo遺伝子治療は製剤化には至らなかった。その後1990年代にアデノウイルスを中心とする非増殖型ベクターを体内の腫瘍細胞に直接投与するin vivo遺伝子治療の臨床試験が行われるようになり、医薬としての臨床開発が進んだ。その後、2000年代にはがん特異的増殖型ウイルスによる遺伝子治療の研究開発が進み、臨床試験も進められてきた。
最近、本発明者らは、独自に、次世代のがん特異的増殖型ウイルスというべき、多因子制御によるがん特異的アデノウイルスベクターを効率的に作製できる技術を開発し(特許文献1)、これらのアデノウイルスベクターによるがんの遺伝子治療技術の開発を進めている(特許文献2)。
【0003】
Auroraキナーゼは、細胞分裂期の様々なイベントを制御するキナーゼとして知られており、現在、Aurora−A、BおよびCが同定されている。このキナーゼは、多くのヒトがん細胞で正常細胞に比して高発現していることがいくつか報告されているが(非特許文献1〜4)、いずれも分子の機能解析についての報告であり、Auroraキナーゼプロモーターが遺伝子治療の観点から検討された報告はない。これまで、Auroraキナーゼプロモーターを含むベクターを利用した遺伝子治療技術は知られておらず、また、本プロモーター自体を他の治療用途に利用した先行例も皆無である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-46101号公報
【特許文献2】国際公開第2005/115476号パンフレット
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Bishoff JR et al., EMBO J. 1998, 17(11): 3052-65
【非特許文献2】Zhou H et al., Nat Genet. 1998, 20(2): 189-93
【非特許文献3】Tatsuka M et al., Cancer Res. 1998, 58(21): 4811-6
【非特許文献4】Tanaka T et al., Cancer Res. 1999, 59(9):2041-4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまでに開発されているがんのウイルス療法および遺伝子治療は、特異性および効果の面で課題を有するため、より特異性が高く、抗がん作用の強いウイルス療法および遺伝子治療のためのツールが所望されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、Auroraキナーゼプロモーターが、その制御下にあるウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子、ならびに/あるいは細胞毒性因子および/または治療因子をコードする核酸と機能的に結合させた場合に、がん細胞特異的かつ十分な抗がん作用を発揮する程度の転写活性を有することを見出し、これを利用してがん特異的な治療用または予防用ベクターを作製することに成功し、本発明を完成させた。
具体的には、本発明は:
[1]細胞毒性因子または治療因子をコードする核酸と機能的に結合したAuroraキナーゼプロモーターを含む発現カセット。
[2][1]に記載の発現カセットを包含するベクター。
[3]ベクターがウイルスベクターである、[2]に記載のベクター。
[4]更に、少なくとも1つのウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子をコードする核酸のプロモーターがAuroraキナーゼプロモーターまたはAuroraキナーゼプロモーターとは異なる外来性プロモーターで置換されていることを特徴とする、[3]に記載のウイルスベクター。
[5]少なくとも1つのウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子が、E1A、E1AΔ24、E1B、またはE1BΔ55Kである、[4]に記載のウイルスベクター。
[6]Auroraキナーゼプロモーターとは異なる外来性プロモーターが、臓器特異的に発現が亢進している因子のプロモーター、がん細胞特異的に発現が亢進している因子のプロモーター、または哺乳類において恒常的に発現し得るプロモーターである、[4]に記載のウイルスベクター。
[7]臓器特異的に発現が亢進している因子のプロモーターが、アルブミン、α-フェトプロテイン、前立腺特異的抗原(PSA)、ミトコンドリア型クレアチンキナーゼ(MCK)、ミエリン塩基性タンパク質(MB)、グリア繊維酸性タンパク質(GFAP)、または神経特異的エノラーゼ(NSE)のプロモーターである、[6]に記載のウイルスベクター。
[8]がん細胞特異的に発現が亢進している因子のプロモーターが、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)、がん胎児性抗原(CEA)、低酸素応答性領域(HRE)、Grp78、L-プラスチン、ヘキソキナーゼII、またはサバイビンのプロモーターである、[6]に記載のウイルスベクター。
[9]哺乳類において恒常的に発現し得るプロモーターが、サイトメガロウイルス前初期遺伝子プロモーター(CMV)である、[6]に記載のウイルスベクター。
[10]少なくとも1つのウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子をコードする核酸のプロモーターがAuroraキナーゼプロモーターで置換されていることを特徴とするウイルスベクター。
[11]更に、少なくとも1つの他のウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子をコードする核酸のプロモーターがAuroraキナーゼプロモーターとは異なる外来性プロモーターで置換されていることを特徴とする、[10]に記載のウイルスベクター。
[12]少なくとも1つのウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子が、E1A、E1AΔ24、E1B、およびE1BΔ55Kから選択される因子である、[10]または[11]に記載のウイルスベクター。
[13]更に、細胞毒性因子または治療因子をコードする核酸と機能的に結合した、AuroraキナーゼプロモーターまたはAuroraキナーゼプロモーターとは異なる外来性プロモーターを含む発現カセットを包含する[10]〜[12]のいずれか1つに記載のウイルスベクター。
[14]Auroraキナーゼプロモーターとは異なる外来性プロモーターが、臓器特異的に発現が亢進している因子のプロモーター、がん細胞特異的に発現が亢進している因子のプロモーター、または哺乳類において恒常的に発現し得るプロモーターである、[11]または[13]に記載のウイルスベクター。
[15]臓器特異的に発現が亢進している因子のプロモーターが、アルブミン、α-フェトプロテイン、前立腺特異的抗原(PSA)、ミトコンドリア型クレアチンキナーゼ(MCK)、ミエリン塩基性タンパク質(MB)、グリア繊維酸性タンパク質(GFAP)、または神経特異的エノラーゼ(NSE)のプロモーターである、[14]に記載のウイルスベクター。
[16]がん細胞特異的に発現が亢進している因子のプロモーターが、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)、がん胎児性抗原(CEA)、低酸素応答性領域(HRE)、Grp78、L-プラスチン、ヘキソキナーゼII、またはサバイビンのプロモーターである、[14]に記載のウイルスベクター。
[17]哺乳類において恒常的に発現し得るプロモーターが、サイトメガロウイルス前初期遺伝子プロモーター(CMV)である、[14]に記載のウイルスベクター。
[18]ウイルスベクターが、細胞溶解性ウイルスベクターである、[3]〜[17]のいずれか1つに記載のウイルスベクター。
[19]細胞溶解性ウイルスベクターがアデノウイルスベクターである、[18]に記載のウイルスベクター。
[20]Auroraキナーゼプロモーターが、配列番号1に示されるヌクレオチド配列中少なくとも1363〜1840番目のヌクレオチド配列、または配列番号3に示されるヌクレオチド配列中少なくとも1595〜2140番目のヌクレオチド配列を含む、[2]〜[19]のいずれか1つに記載のベクター。
[21][2]〜[20]のいずれか1つに記載のベクターを含有する癌治療剤。
[22]有効量の[2]〜[20]のいずれか1つに記載のベクターを、がんを有する哺乳動物に投与することを含む、がんの治療方法。
[23]Auroraキナーゼプロモーターを含むベクターを含有する臨床診断剤。
[24]がんの診断用である、[23]記載の診断剤。
を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、特異性が高く、効果的ながんの治療が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】多因子がん特異的増殖制御型アデノウイルス(m-CRA)作製に用いるプラスミドの構造を示す模式図である。
図2】Auroraプロモーターでウイルス増殖が制御されるがん特異的増殖制御型アデノウイルス(CRA)の遺伝子構造、および、非増殖(E1欠損)型であり、かつ恒常的発現プロモーターの制御下にLacZを発現するアデノウイルス(Ad.RSV-LacZおよびAd.CMV-LacZ)の遺伝子構造を示す模式図である。
図3】各種細胞での内因性Aurora mRNA発現を示すグラフである。II型ポリメラーゼのmRNA量に対して補正してある。
図4】Aurora-AおよびAurora-Bプロモーターのがん特異的高活性を示すグラフである。
図5】Auroraプロモーター制御がん特異的増殖制御型アデノウイルス(CRA)のがん細胞特異的な細胞傷害能を示すプロットである。
図6】Auroraプロモーター制御がん特異的増殖制御型アデノウイルス(CRA)のがん細胞全般に対する細胞傷害能を示したプロットである。
図7】Auroraプロモーター制御がん特異的増殖制御型アデノウイルス(CRA)のがん動物モデルにおける治療効果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のベクターは、少なくとも1つのウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子をコードする核酸のプロモーターがAuroraキナーゼプロモーターで置換されていること、ならびに/あるいは、細胞毒性因子および/または治療因子をコードする核酸がAuroraキナーゼプロモーターに制御可能に結合している発現カセットを含むことを特徴とする。
ヒトのAuroraキナーゼAおよびAuroraキナーゼB遺伝子のプロモーターは単離されており(Tanaka, M. et al., J. Biol. Chem., 277(12): 10719-26, 2002; Kimura, M. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 316: 930-6, 2004)、これらのプロモーターの下流にレポーター遺伝子を挿入した、プロモーター機能の解析のためのプラスミドベクターは報告されている。しかし、ウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子をコードする核酸のプロモーターをAuroraキナーゼプロモーターで置換したウイルスベクターや、細胞毒性に関与したり、治療活性を有するタンパク質やRNAをコードする核酸がAuroraキナーゼプロモーターと制御が可能であるように連結されているベクター、ならびに、これらのベクターの治療または予防効果については報告が無かった。また、マーカー遺伝子をAuroraキナーゼプロモーターと制御が可能であるように連結したベクターを利用した診断用途は報告されていない。特には、がん細胞などの標的疾患細胞において特異的に発現するタンパク質が多く報告されている中で、Auroraキナーゼの特異的な発現に着目して、Auroraキナーゼ依存的にウイルス増殖を引き起こし標的疾患細胞を特異的に殺傷するという、標的疾患特異的、特にはがん特異的な増殖制御型ウイルスの作製のためにAuroraキナーゼを用いた例は、いかようなものも報告されていない。
特に、内因性Auroraキナーゼはいくつかのヒトがん細胞で高発現しているが、正常細胞においても若干の発現が見られる(例えば、図3参照)。よって、Auroraキナーゼプロモーターは、ヒトがん細胞の他、正常細胞においても作用することが予想されていた。しかしながら、本発明者が見出した発明によれば、本発明のベクターに搭載され、外因的に導入されたAuroraキナーゼプロモーターは、がん細胞などの標的疾患細胞で極めて特異的に下流に連結された遺伝子の発現を駆動する一方、正常細胞では検出し得る程度の転写活性を示さない(例えば、図4参照)。このようなAuroraキナーゼプロモーターの高度な特異性は、内因的な該キナーゼの発現パターンからは予測不可能なものである。尚、本明細書において「特異的」であるとは、図4に示されるように正常細胞で全く転写活性を示さない場合に限定されるわけではなく、治療上許容される範囲で正常細胞においても遺伝子発現を駆動する場合も包含される。
【0011】
本発明のベクターに用いられるAuroraキナーゼプロモーターとしては、Auroraキナーゼファミリーに属する遺伝子由来のプロモーターであれば特に制限はないが、例えば、ショウジョウバエAurora-A、-Bおよび-C遺伝子の哺乳動物(例えば、ヒト、サル、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、マウス、ラット等)オルソログが挙げられる。好ましくはヒトまたは他の哺乳動物由来のAuroraキナーゼA遺伝子またはAuroraキナーゼB遺伝子のプロモーター、より好ましくはヒトAuroraキナーゼA遺伝子またはヒトAuroraキナーゼB遺伝子のプロモーターである。治療対象である哺乳動物に応じて、それと同種のAuroraキナーゼプロモーターを用いることが好ましい。
【0012】
Auroraキナーゼプロモーターのヌクレオチド配列長は、標的疾患細胞(例えば、がん細胞)特異的で、かつ目的の疾患に対して十分な治療活性を発揮する程度に、下流に連結された遺伝子の転写を活性化し得る限り特に制限されない。例えば、ヒトAuroraキナーゼA遺伝子プロモーターの場合、転写開始点を+1として-124〜+354位のヌクレオチド配列(配列番号2に示されるヌクレオチド配列;配列番号1に示されるヌクレオチド配列中1363〜1840番目のヌクレオチド配列)、ヒトAuroraキナーゼB遺伝子プロモーターの場合、転写開始点を+1として-185〜+361位のヌクレオチド配列(配列番号4に示されるヌクレオチド配列;配列番号3に示されるヌクレオチド配列中1595〜2140番目のヌクレオチド配列)を含んでいれば、目的の特異性および転写活性が得られうる(例えば、図4参照)。従って、好ましくは、本発明のベクターに用いられるヒトAuroraキナーゼプロモーターは、配列番号1に示されるヌクレオチド配列中少なくとも1363〜1840番目のヌクレオチド配列、または配列番号3に示されるヌクレオチド配列中少なくとも1595〜2140番目のヌクレオチド配列を含む。Auroraキナーゼプロモーターのヌクレオチド配列長の上限も特に制限はないが、5’上流域の長さが大きくなりすぎると却ってプロモーターの転写活性や特異性に好ましくない影響を与える場合がある。例えば、ヒトAuroraキナーゼA遺伝子プロモーターの場合、転写開始点を+1として-1486〜+354位のヌクレオチド配列(配列番号1に示されるヌクレオチド配列)、ヒトAuroraキナーゼB遺伝子プロモーターの場合、転写開始点を+1として-1779〜+361位のヌクレオチド配列(配列番号3に示されるヌクレオチド配列)であれば、目的の特異性および転写活性が得られうる(例えば、図4参照)。従って、好ましい一実施態様においては、本発明のベクターに用いられるヒトAuroraキナーゼプロモーターの5’末端として、配列番号1に示されるヌクレオチド配列中1〜1363番目のヌクレオチド、または配列番号3に示されるヌクレオチド配列中1〜1595番目のヌクレオチドが挙げられる。他の哺乳動物由来のAuroraキナーゼプロモーターを用いる場合も、同様にして好ましい領域を選択することができる。
【0013】
Auroraキナーゼプロモーターはまた、天然の哺乳動物由来Auroraキナーゼプロモーターとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸であって、該天然プロモーターと実質的に同一の特性を有する核酸を包含する。「実質的に同一の特性」とは、がん細胞などの標的疾患細胞特異的な遺伝子発現を駆動する性質を意味し、転写活性の程度は同等(例えば、約0.5〜約2倍)であることが好ましいが、目的の疾患に対して十分な治療活性を発揮できる程度の遺伝子発現を駆動し得る限り、量的要素は異なっていてもよい。例えば、ヒトAuroraキナーゼAまたはBプロモーターの場合、配列番号1または3に示されるヌクレオチド配列の相補鎖配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸が挙げられる。このような核酸としては、例えば、配列番号1または3に示されるヌクレオチド配列と約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上、特に好ましくは約97%以上、最も好ましくは約98%以上の相同性を有するヌクレオチド配列を含有する核酸などが挙げられる。本明細書におけるヌクレオチド配列の相同性は、例えば、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST (National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool) を用い、以下の条件 (期待値=10; ギャップを許す; フィルタリング=ON; マッチスコア=1; ミスマッチスコア=-3) にて計算することができる。
ハイブリダイゼーションは、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、Molecular Cloning, 2nd ed. (J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989) に記載の方法などに従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。ハイブリダイゼーションは、好ましくは、ハイストリンジェントな条件に従って行なうことができる。ストリンジェントな条件としては、(1) 洗浄に低イオン強度および高温、例えば、50℃で0.015 M 塩化ナトリウム/0.0015 M クエン酸ナトリウム/0.1% 硫酸ドデシルナトリウムを使用し、(2) ホルムアミドのような変性剤、例えば、0.1% ウシ血清アルブミン/0.1% フィコール/0.1% ポリビニルピロリドン/750 mM 塩化ナトリウム、75 mM クエン酸ナトリウムを含む50 mM リン酸ナトリウム緩衝液 (pH 6.5) とともに、50% (v/v) ホルムアミドを42℃で使用することを特徴とする反応条件が例示される。あるいは、ストリンジェントな条件は、50% ホルムアミド、5xSSC (0.75 M NaCl、0.075 M クエン酸ナトリウム)、50 mM リン酸ナトリウム (pH 6.8)、0.1% ピロ燐酸ナトリウム、5xデンハート溶液、超音波処理鮭精子DNA (50 mg/ml)、0.1% SDS、及び10% 硫酸デキストランを42℃で使用し、0.2xSSC及び50% ホルムアルデヒドで55℃で洗浄し、続いて55℃でEDTAを含有する0.1xSSCからなる高ストリンジェント洗浄を行うものであってもよい。当業者は、プローブ長等のファクターに応じて、ハイブリダイゼーション反応および/または洗浄時の温度、緩衝液のイオン強度等を適宜調節することにより、容易に所望のストリンジェンシーを実現することができる。
【0014】
Auroraキナーゼプロモーターは、ヒトまたは他の哺乳動物(例:サル、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、マウス、ラット等)由来の細胞・組織から抽出したゲノムDNAより、公知のAuroraキナーゼ遺伝子プロモーター配列(例えば、Tanaka, M. et al., J. Biol. Chem., 277(12): 10719-26, 2002; Kimura, M. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 316: 930-6, 2004参照)からなる核酸をプローブとして該プロモーター領域を含むゲノムDNAをクローニングし、DNA分解酵素、例えば、適当な制限酵素を用いて所望の部分プロモーター配列を含むDNA断片に切断、ゲル電気泳動で分離後、所望のバンドを回収してDNAを精製することにより調製することができる。あるいは、上記細胞の粗抽出液もしくはそこから単離したゲノムDNAを鋳型として、公知のAuroraキナーゼ遺伝子プロモーター配列を基に合成したプライマーを用いたPCRにより、Auroraキナーゼプロモーター部分配列を増幅、単離することもできる。Auroraキナーゼプロモーターのヌクレオチド配列が未知の哺乳動物については、該動物のAuroraキナーゼcDNA配列をクエリーとして該動物のゲノムDNAに対してBLAST検索を行うことにより、該動物のAuroraキナーゼプロモーター領域のヌクレオチド配列を入手することができる。
また、Auroraキナーゼプロモーターは、公知のAuroraキナーゼ遺伝子プロモーター配列(例えば、配列番号1または3で表されるヌクレオチド配列)を基に、そのヌクレオチド配列の全部または一部を含む核酸を、市販のDNA/RNA自動合成装置を用いて化学合成することによっても得ることができる。
【0015】
一の態様において、本発明は、細胞毒性因子または治療因子をコードする核酸と機能的に結合したAuroraキナーゼプロモーターを含む発現カセット、および当該発現カセットを有するベクターに関する。本発明のベクターに用いられる、Auroraキナーゼプロモーターの制御下にある細胞毒性因子をコードする核酸は、例えば、該核酸が転写(および翻訳)された場合に、直接的もしくは間接的に、細胞に対して死、もしくは少なくとも増殖阻害をもたらす限り、いかなるタンパク質またはRNAをコードするものであってもよい。
【0016】
本発明のベクターに用いられる、Auroraキナーゼプロモーターの制御下にある治療因子は、該遺伝子が転写(および翻訳)された場合に、細胞毒性作用以外の作用によって直接的もしくは間接的に標的疾患に対して治療効果をもたらす限り、いかなるタンパク質(もしくはRNA)をコードするものであってもよい。例えば、標的疾患ががんの場合、細胞毒性因子または治療因子としては、腫瘍サプレッサー遺伝子(p53、p21など)、サイトカイン遺伝子(GM-CSF、IL-2、IL-4、IFNなど)、アポトーシス誘導遺伝子(Fasなど)、イオンチャネル(ナトリウムチャネルなど)の構成タンパク質をコードする遺伝子、プロドラッグを毒物に変換することによって細胞を傷害しうるタンパク質の遺伝子(自殺遺伝子)(HSV-チミジンキナーゼ、シトシンデアミナーゼなど)、がん原因遺伝子に対するアンチセンス核酸(TGF-βに対するアンチセンス核酸、サバイビンに対するアンチセンス核酸など)、血管新生抑制遺伝子(血小板第IV因子、アンジオスタチン、エンドスタチン、可溶性VEGFレセプターなど)、がん抑制作用のあるmiRNA若しくはそのmimic、またはがん促進作用のあるmiRNAのアンチセンス核酸、アプタマー、リボザイム等が挙げられる。
【0017】
細胞毒性因子または治療因子をコードする核酸は、それを産生する細胞・組織から自体公知の方法によりcDNAとして単離することができ、Auroraキナーゼプロモーターの下流に機能的に連結することができる。Auroraキナーゼプロモーターの制御下にある細胞毒性因子または治療因子をコードする核酸を含む発現カセットは、好ましくは該核酸または遺伝子の下流に適当なポリアデニレーション配列を含む。
本発明の、細胞毒性因子または治療因子をコードする核酸と機能的に結合したAuroraキナーゼプロモーターを含む発現カセットを有するベクターは、ウイルスの複製またはアッセンブリに必要なタンパク質をコードする核酸がAuroraキナーゼプロモーターまたはAuroraキナーゼプロモーターとは異なる外来性プロモーターの制御下に置かれていてもよい。例えば、Auroraキナーゼプロモーターとは異なる外来性プロモーターとして、哺乳類において恒常的に発現し得るプロモーターを使用する場合、サイトメガロウイルス (CMV) 由来プロモーター (例: CMV前初期プロモーター)、ヒト免疫不全ウイルス (HIV) 由来プロモーター (例: HIV LTR)、ラウス肉腫ウイルス (RSV) 由来プロモーター (例: RSV LTR)、マウス乳癌ウイルス (MMTV) 由来プロモーター (例: MMTV LTR)、モロニーマウス白血病ウイルス (MoMLV) 由来プロモーター (例: MoMLV LTR)、単純ヘルペスウイルス (HSV) 由来プロモーター (例: HSVチミジンキナーゼ(TK) プロモーター)、SV40由来プロモーター (例: SV40初期プロモーター)、エプスタインバーウイルス(EBV) 由来プロモーター、アデノ随伴ウイルス (AAV) 由来プロモーター (例: AAV p5プロモーター)、アデノウイルス (AdV) 由来プロモーター (Ad2またはAd5主要後期プロモーター) など、ならびにβ-アクチン遺伝子プロモーター、PGK遺伝子プロモーター、トランスフェリン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成タンパク質の遺伝子プロモーターなどの構成的プロモーターを用いることができる。Auroraキナーゼプロモーターとは異なる外来性プロモーターとしては、標的疾患細胞で特異的に発現し得る遺伝子のプロモーター、標的臓器特異的に発現が亢進している因子のプロモーターや誘導性プロモーターを用いることもできる。臓器特異的に発現が亢進している因子のプロモーターとしては、例えば、肝臓などに特異的なアルブミンおよびα-フェトプロテインのプロモーター、前立腺に特異的な前立腺特異的抗原(PSA)のプロモーター、筋肉や脳など様々な臓器に特異的なミトコンドリア型クレアチンキナーゼ(MCK)のプロモーター、ならびに、脳などの神経系に特異的なミエリン塩基性タンパク質(MB)、グリア繊維酸性タンパク質(GFAP)および神経特異的エノラーゼ(NSE)のプロモーターなどを例示できる。また、例えば、標的疾患ががんの場合、Auroraキナーゼプロモーターとは異なる外来性プロモーターとして、がん細胞特異的に発現が亢進している因子のプロモーターを用いることができ、例えば、がん細胞でのみ特異的に発現するCEA(Carcinoembryonic antigen、がん胎児性抗原)プロモーター(Mol. Cell. Biol., 10(6), 2738-2748, 1990)、E2Fプロモーター(Neuman, E. et al., Mol. Cell. Biol., 14(10), 6607-6615, 1994)、OC(オステオカルシン)プロモーター(Morrison, N.A. et al., Science, 246, 1158-1161, 1989)、悪性黒色腫、線維肉腫などに特異的なFLK-1プロモーター(Xie, B. et al., Br. J. Cancer, 81, 1335-1343, 1999)、肺がんなどに特異的なVEGFプロモーター(Koshikawa, N. et al., Cancer Res., 60, 2936-2941, 2000)、小細胞肺がんなどに特異的なc-Mycプロモーター(Kumagai, T. et al., Cancer Res., 354-358, 1996)、肺がん、卵巣がんなどに特異的なSLPIプロモーター(Garver, R.I. et al., Gene Ther., 1, 46-50, 1994)、前立腺がんに特異的なPSAプロモーター(Latham, J.P. et al., Cancer Res., 60, 334-342, 2000)、悪性黒色腫などに特異的なTyrosinaseプロモーター(Vile, R.G. et al., Cancer Res., 53, 962-967, 1993)、乳がんに特異的なAP-2プロモーター(Pandha,H.S. et al., J. Clin. Oncol., 17, 2180-2189, 1999)、脳腫瘍をはじめ多くのがんに特異的なテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)プロモーター(Takakura, M. et al., Cancer Res., 59, 551-557, 1999)、ならびに、様々ながんに特異的な低酸素応答性領域(HRE)プロモーター、Grp78プロモーター、L-プラスチンプロモーター、ヘキソキナーゼIIプロモーター、およびサバイビンプロモーターなどを例示できる。また、誘導性プロモーターとしては、例えば、メタロチオネイン-1遺伝子プロモーターなどを用いることができる。メタロチオネイン-1遺伝子プロモーターを用いた場合、金、亜鉛、カドミウム等の重金属、デキサメサゾン等のステロイド、アルキル化剤、キレート剤またはサイトカインなどの誘導物質を、所望の時期に標的疾患細胞の位置に局所投与することにより、任意の時期に標的疾患細胞特異的にウイルスタンパク質の発現を誘導することができる。
【0018】
また、別の態様において、本発明は、少なくとも1つのウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子をコードする核酸のプロモーターがAuroraキナーゼプロモーターで置換されていることを特徴とする標的疾患特異的増殖型ウイルスベクター(conditionally replicating virus: CRV)に関する(以下、「Auroraキナーゼプロモーター依存性CRV」ともいう)。即ち、本発明は、がん細胞などの標的疾患細胞において特異的に(正常細胞よりも優位に)増殖することを特徴とするベクターに関する。これらのウイルスベクターは、がん細胞などの標的疾患細胞で特異的にウイルスの増殖を引き起こすだけでなく、増幅された結果、該標的疾患細胞を殺傷(溶解)する。さらに、溶解した細胞から放出されたウイルスは周辺のベクター未導入の疾患細胞に感染し、このステップが繰り返されることで、最終的には病巣内のすべての疾患細胞に本発明のベクターが導入され治療効果を得ることができる。
本発明のAuroraキナーゼプロモーター依存性CRVは、少なくとも1つのウイルスの複製またはアッセンブリに必要なタンパク質をコードする核酸をAuroraキナーゼプロモーターの制御下におくことにより構築することができる。「ウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子」とは、ウイルスの構造タンパク質などの、ウイルスが自己複製を行うために必須のタンパク質のいずれかをコードする遺伝子、またはウイルスがアッセンブリを行うために必須のタンパク質のいずれかをコードする遺伝子を意味する。より具体的には、ウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子は,用いるウイルス種によって異なるが、例えばアデノウイルスの場合、感染初期から転写が開始された後のウイルスタンパク質の転写制御に働く初期遺伝子(Early gene)であるE1A、E1B、E2およびE4、または後述のRb結合領域欠損型E1A(E1AΔ24)、p53結合領域欠損型E1B(E1BΔ55K)などが挙げられる。特にE1Aは、アデノウイルスの感染後最初に転写され、E1Aの発現がなければその後のウイルス複製が起こらないことより、Auroraキナーゼプロモーターでがんなどの標的疾患特異的にウイルス増殖制御を行なう目的に非常に適している遺伝子であるが、ウイルスの複製に必須のその他の初期遺伝子を制御することでも同様の効果を得ることができる。また、アデノウイルスの構造遺伝子をコードする核酸の後期遺伝子(Late gene)のL1、L2、L3、L4およびL5などは、感染後の細胞分裂が起こる後期に転写されて、ウイルス構造を構成するタンパク質であるが、これらの後期遺伝子をAuroraキナーゼプロモーターで発現制御してもがんなどの標的疾患特異的にウイルス増殖制御を行なうことができる。このように、本発明のAuroraキナーゼプロモーター依存性増殖型ウイルスベクターにおいてAuroraキナーゼプロモーターで発現制御されるウイルスタンパク質をコードする遺伝子は、ウイルスの複製またはアッセンブリに必須のウイルス遺伝子であれば、いずれのものでもよい。かかるAuroraキナーゼプロモーター依存性増殖型ウイルスベクターは、ウイルスの複製またはアッセンブリに必要なタンパク質をコードする核酸の内因性プロモーターをAuroraキナーゼプロモーターで置換することにより得ることができる。好ましくは、本発明の増殖型アデノウイルスベクターにおいて、E1Aおよび/またはE1Bをコードする核酸、より好ましくは少なくともE1Aをコードする核酸がAuroraキナーゼプロモーターの制御下におかれる。
細胞内に導入された本発明のAuroraキナーゼプロモーター依存性CRVは、Auroraキナーゼプロモーターが活性化されない環境下(例えば、正常細胞)では増殖できないため、当該細胞は傷害を受けない。一方、本発明のAuroraキナーゼプロモーター依存性CRVが、Auroraキナーゼプロモーターが活性化される環境(例えば、標的疾患細胞)内に侵入すると、そこでウイルスが増殖し、ウイルスタンパク質の細胞毒性により細胞が傷害される。溶解した細胞から放出されたウイルスは周辺のベクター未導入の細胞に次々と感染し、同様のステップが繰り返される。こうして、最終的には病巣内のすべての疾患細胞に本発明の増殖型ウイルスベクターが導入され得る。
ウイルスの複製またはアッセンブリに必要なタンパク質をコードする核酸の少なくとも1つがAuroraキナーゼプロモーターの制御下におかれていれば、ウイルスの増殖またはアッセンブリはAuroraキナーゼプロモーターが活性化される環境下に限定されるので、他のウイルスの複製またはアッセンブリに必要なタンパク質をコードする核酸は任意のAuroraキナーゼプロモーターとは異なる外来性プロモーターの制御下に置かれてよい。例えば、Auroraキナーゼプロモーターとは異なる外来性プロモーターとして、哺乳類において恒常的に発現し得るプロモーターを使用する場合、サイトメガロウイルス (CMV) 由来プロモーター (例: CMV前初期プロモーター)、ヒト免疫不全ウイルス (HIV) 由来プロモーター (例: HIV LTR)、ラウス肉腫ウイルス (RSV) 由来プロモーター (例: RSV LTR)、マウス乳癌ウイルス (MMTV) 由来プロモーター (例: MMTV LTR)、モロニーマウス白血病ウイルス (MoMLV) 由来プロモーター (例: MoMLV LTR)、単純ヘルペスウイルス (HSV) 由来プロモーター (例: HSVチミジンキナーゼ(TK) プロモーター)、SV40由来プロモーター (例: SV40初期プロモーター)、エプスタインバーウイルス(EBV) 由来プロモーター、アデノ随伴ウイルス (AAV) 由来プロモーター (例: AAV p5プロモーター)、アデノウイルス (AdV) 由来プロモーター (Ad2またはAd5主要後期プロモーター) など、ならびにβ-アクチン遺伝子プロモーター、PGK遺伝子プロモーター、トランスフェリン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成タンパク質の遺伝子プロモーターなどの構成的プロモーターを用いることができる。Auroraキナーゼプロモーターとは異なる外来性プロモーターとしては、標的疾患細胞で特異的に発現し得る遺伝子のプロモーター、標的臓器特異的に発現が亢進している因子のプロモーターや誘導性プロモーターを用いることもできる。臓器特異的に発現が亢進している因子のプロモーターとしては、例えば、肝臓などに特異的なアルブミンおよびα-フェトプロテインのプロモーター、前立腺に特異的な前立腺特異的抗原(PSA)のプロモーター、筋肉や脳など様々な臓器に特異的なミトコンドリア型クレアチンキナーゼ(MCK)のプロモーター、ならびに、脳などの神経系に特異的なミエリン塩基性タンパク質(MB)、グリア繊維酸性タンパク質(GFAP)および神経特異的エノラーゼ(NSE)のプロモーターなどを例示できる。また、例えば、標的疾患ががんの場合、Auroraキナーゼプロモーターとは異なる外来性プロモーターとして、がん細胞特異的に発現が亢進している因子のプロモーターを用いることができ、例えば、がん細胞でのみ特異的に発現するCEA(Carcinoembryonic antigen、がん胎児性抗原)プロモーター(Mol. Cell. Biol., 10(6), 2738-2748, 1990)、E2Fプロモーター(Neuman, E. et al., Mol. Cell. Biol., 14(10), 6607-6615, 1994)、OC(オステオカルシン)プロモーター(Morrison, N.A. et al., Science, 246, 1158-1161, 1989)、悪性黒色腫、線維肉腫などに特異的なFLK-1プロモーター(Xie, B. et al., Br. J. Cancer, 81, 1335-1343, 1999)、肺がんなどに特異的なVEGFプロモーター(Koshikawa, N. et al., Cancer Res., 60, 2936-2941, 2000)、小細胞肺がんなどに特異的なc-Mycプロモーター(Kumagai, T. et al., Cancer Res., 354-358, 1996)、肺がん、卵巣がんなどに特異的なSLPIプロモーター(Garver, R.I. et al., Gene Ther., 1, 46-50, 1994)、前立腺がんに特異的なPSAプロモーター(Latham, J.P. et al., Cancer Res., 60, 334-342, 2000)、悪性黒色腫などに特異的なTyrosinaseプロモーター(Vile, R.G. et al., Cancer Res., 53, 962-967, 1993)、乳がんに特異的なAP-2プロモーター(Pandha,H.S. et al., J. Clin. Oncol., 17, 2180-2189, 1999)、脳腫瘍をはじめ多くのがんに特異的なテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)プロモーター(Takakura, M. et al., Cancer Res., 59, 551-557, 1999)、ならびに、様々ながんに特異的な低酸素応答性領域(HRE)プロモーター、Grp78プロモーター、L-プラスチンプロモーター、ヘキソキナーゼIIプロモーター、およびサバイビンプロモーターなどを例示できる。また、誘導性プロモーターとしては、例えば、メタロチオネイン−1遺伝子プロモーターなどを用いることができる。メタロチオネイン−1遺伝子プロモーターを用いた場合、金、亜鉛、カドミウム等の重金属、デキサメサゾン等のステロイド、アルキル化剤、キレート剤またはサイトカインなどの誘導物質を、所望の時期に標的疾患細胞の位置に局所投与することにより、任意の時期に標的疾患細胞特異的にウイルスタンパク質の発現を誘導することができる。
また、2以上のウイルスの複製またはアッセンブリに必要なタンパク質をコードする核酸をAuroraキナーゼプロモーターの制御下におく場合、用いるプロモーターは同一のプロモーターであってもよいし、異なるものであってもよい。例えば、AuroraキナーゼAプロモーターとAuroraキナーゼBプロモーターとを、1つのベクター内で併用することもできる。また、Auroraキナーゼプロモーター依存性CRVが、更に細胞毒性因子または治療因子をコードする核酸と機能的に結合したAuroraキナーゼプロモーターを含む発現カセットを備えていてもよい。
【0019】
本発明のウイルスベクターは、ウイルスタンパク質の、正常細胞におけるウイルスの増殖に必要な細胞環境を誘導するのに必須であるが、標的疾患細胞におけるウイルスの増殖には必要でない領域を欠損させてもよい。例えば、標的疾患ががんの場合、正常細胞でのアデノウイルス増殖のためには、細胞周期を回すためにRbやp53を不活性化することが必要であるが、がん細胞ではすでに細胞周期が回っている状態にあるので、がん細胞でのアデノウイルスの増殖には、E1AのRb結合領域やE1Bのp53結合領域は必要ではない。したがって、例えばアデノウイルスの場合、E1A24KDaの領域を欠損させ(E1AΔ24)、E1B55KDaの領域を欠損させ(E1BΔ55K)、またはE1B19KDaの領域を欠損させる(E1BΔ19)ことにより、がん細胞特異的なウイルスの増殖が可能になる。このタイプのウイルスベクターの場合、ウイルスの複製に必要なタンパク質をコードする核酸がAuroraキナーゼプロモーターなどのがん細胞特異的なプロモーターの制御下におかれていなくてもがん細胞特異的な増殖を起こすことができる。したがって、本発明は、ウイルスの複製またはアッセンブリに必要なタンパク質をコードするいずれの核酸もAuroraキナーゼプロモーターの制御下になく、正常細胞におけるウイルスの増殖に必要な細胞環境を誘導するのに必須であるが、標的疾患細胞におけるウイルスの増殖には必要でない領域(例えば、E1A24KDaの領域、E1B55KDaの領域、および/またはE1B19KDaの領域)が欠損したウイルスベクターであって、Auroraキナーゼプロモーターの制御下に細胞毒性因子または治療因子をコードする核酸が機能的に結合されたベクターを含む。もちろん、正常細胞におけるウイルスの増殖に必要な細胞環境を誘導するのに必須であるが、標的疾患細胞におけるウイルスの増殖には必要でない領域(例えば、E1A24KDaの領域、E1B55KDaの領域、および/またはE1B19KDaの領域)を欠損させたウイルスタンパク質をコードする核酸が、Auroraキナーゼプロモーターの制御下におかれてもよいし、該欠損ウイルスタンパク質以外のウイルスの複製に必要なタンパク質をコードする核酸のいずれかが、Auroraキナーゼプロモーターの制御下におかれてもよい。このように、正常細胞におけるウイルスの増殖に必要な細胞環境を誘導するのに必須であるが、標的疾患細胞におけるウイルスの増殖には必要でない領域(例えば、E1A24KDaの領域、E1B55KDaの領域、および/またはE1B19KDaの領域)を欠損させたウイルスタンパク質をコードする核酸が、Auroraキナーゼプロモーターの制御下におかれているか、該欠損ウイルスタンパク質以外のウイルスの複製に必要なタンパク質をコードする核酸のいずれかが、Auroraキナーゼプロモーターの制御下におかれている場合、本発明の増殖型ウイルスベクターは、必ずしもAuroraキナーゼプロモーターの制御下にある治療因子をさらに含む必要はない。
本発明のベクターは、宿主細胞で自律増幅するための複製起点や、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等) をさらに含有することもできる。
【0020】
本発明のベクターを治療用ベクターとして使用し得る疾患は、Auroraキナーゼプロモーターが、該疾患を治療し得る程度に十分な遺伝子発現を駆動し得るプロモーター活性を発揮する細胞を病原とする疾患であれば特に制限はないが、好ましくはがんである。がんとしては、例えば、腎細胞がん、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸がん、膵がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、扁平上皮がん、基底細胞がん、腺がん、汗腺がん、皮脂腺がん、乳頭状がん、乳頭状腺がん、嚢胞腺がん、髄様がん、気管支原生がん、肝臓がん、胆管がん、絨毛がん、精上皮腫、胎生期がん、ウィルムス腫瘍、子宮頚がん、精巣腫瘍、肺がん、小細胞肺がん、膀胱がん、上皮がん、神経膠腫、星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣細胞腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、乏突起膠腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、白血病、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性白血病、真性赤血球増多症、リンパ腫、多発性骨髄腫などが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい対象がんとして、肝臓がんや骨肉腫などが含まれる。
【0021】
本発明のベクターは、ウイルスベクターであっても非ウイルスベクターであってもよいが、好ましくはアデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、単純ヘルペスウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス等のウイルスベクターである。アデノウイルスは、遺伝子導入効率が極めて高く、非分裂細胞にも導入可能であり、導入遺伝子の宿主染色体への組込みが極めて稀である等の利点を有する。特に、パッケージングシグナル (ψ) 以外のアデノウイルスゲノムのほぼ全長を導入遺伝子に置換したgutted (gutless) ベクターの開発によって、第一世代ベクターにおける免疫原性の問題が解消され、それに伴い導入遺伝子発現の長期持続性が実現された。同様に、アデノ随伴ウイルスも、比較的遺伝子導入効率が高く、非分裂細胞にも導入可能で、動物実験で生体内投与により導入遺伝子の発現が長期にわたって持続することが知られているので、本発明におけるウイルスベクターとして好ましい。
【0022】
本発明の好ましい一実施形態では、本発明者らが開発した多因子がん特異的増殖制御型組換えアデノウイルス系(m-CRA; 特開2005−046101号及び国際公開第2005/012536号)の一部として、Auroraキナーゼプロモーターを用いる。m-CRAの構築に好適に用いられるプラスミドベクターの例を、図1に提示する。図中で、プラスミドベクターP1のうち、プロモーターAおよび/またはプロモーターBとしてAuroraキナーゼプロモーターを用い、プラスミドベクターP2のプロモーターC(細胞毒性因子または治療因子の発現を制御する)として、Auroraキナーゼプロモーターもしくは別の標的組織特異的プロモーターまたは構成的プロモーター等の他の任意のプロモーターを用いることができる。標的組織特異的プロモーターとしては、標的組織ががん細胞であれば、がん細胞でのみ特異的に発現する上記の各種プロモーターを例示できる。プロモーターCに制御される細胞毒性因子または治療因子としては、標的疾患ががんであれば、上記した各種細胞毒性因子または治療因子を例示できる。
後述の実施例に示した具体的な実施形態では、Auroraキナーゼプロモーターと機能的に連結したE1A遺伝子(24KDa領域を欠損していてもよい)、および構成的プロモーター(CMVプロモーターなど)と機能的に連結したE1B遺伝子(19KDaまたは55KDa領域を欠損していてもよい)を含むプラスミドベクターP1、構成的プロモーター(CMVプロモーターなど)と機能的に連結されたレポーター遺伝子(細胞毒性因子または治療因子のモデル系として)を含むプラスミドベクターP2、ならびにE1領域を欠失するアデノウイルスゲノム(ファイバー遺伝子内に標的細胞特異的な変異を有していてもよい)を含むバックボーンプラスミドP3が提供される。これら3種のプラスミドを適宜組み合わせ、CreリコンビナーゼloxPシステムを用いてプラスミド融合と、各プラスミドに搭載された薬剤耐性遺伝子とoriを利用した目的プラスミドの選択により、Auroraキナーゼプロモーター-E1A発現カセット、構成的プロモーター-E1B発現カセットおよび構成的プロモーター−細胞毒性因子または治療因子発現カセットを搭載した、がん細胞特異的増殖型アデノウイルス(CRA)ベクタープラスミドを作製する。続いて該ベクターを用いて、E1Aを相補する細胞株(例:293細胞)にトランスフェクションすることにより、CRAベクターを作製することができる。図2に示したm-CRAベクターは、E1Aの発現を制御するプロモーター(Aurora-Aまたは-B)、E1B遺伝子(E1BΔ55K)の2因子でベクターの増殖が制御されているが、E1A遺伝子、E1Bの発現を制御するプロモーター、細胞毒性因子または治療因子の発現を制御するプロモーター、細胞毒性因子または治療因子、さらにはバックボーンのファイバー遺伝子を他の要素に置換することにより、さらに多因子による高度な増殖および発現制御が可能となる。
【0023】
本発明の非ウイルスベクターは、Auroraキナーゼプロモーターの制御下にある細胞毒性因子または治療因子を含む発現カセットを含む。ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド (例: pBR322、pBR325、pUC12、pUC13)、枯草菌由来のプラスミド (例: pUB110、pTP5、pC194)、酵母由来プラスミド (例: pSH19、pSH15)、動物細胞発現プラスミド (例: pA1-11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neo) などを用いることができる。ここで「細胞毒性因子」および「治療因子」とは上記と同義であり、標的疾患ががんの場合には、上記の各種がん治療因子が例示される。
本発明の非ウイルスベクターは、上記の他に、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製起点などを含有しているものを用いることができる。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素 (dhfr) 遺伝子 [メソトレキセート (MTX) 耐性]、アンピシリン耐性(Ampr) 遺伝子、ネオマイシン耐性 (Neor) 遺伝子 (G418耐性) 等が挙げられる。
非ウイルスベクターを使用する場合、該ベクターの導入は、ポリL-リジン-核酸複合体などの高分子キャリアーを用いるか、リポソームに被包して行うことができる。リポソームはリン脂質からなる数10〜数100 nmの粒径のカプセルで、その内部にAuroraキナーゼプロモーターの制御下にある細胞毒性因子または治療因子を含むプラスミド等のベクターを封入できる。あるいは、パーティクルガン法を用いてベクターを標的細胞に直接導入することもできる。
【0024】
本発明の少なくとも1つのウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子をコードする核酸のプロモーターがAuroraキナーゼプロモーターで置換されていることを特徴とする標的疾患特異的増殖型ウイルスベクター、あるいはAuroraキナーゼプロモーターの制御下にある、細胞毒性因子および/または治療因子を含むベクターは、がん細胞などの標的疾患細胞で特異的に増殖させあるいは該細胞毒性因子および/または治療因子を発現させることができるので、必要に応じて薬理学的に許容し得る担体とともに混合して注射剤などの種々の製剤形態とした後に、該標的疾患、好ましくはがんの治療薬として用いることができる。ここで薬理学的に許容し得る担体としては、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質が用いられ、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤; 液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤などとして配合される。また必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤などの製剤添加物を用いることもできる。
【0025】
賦形剤の好適な例としては、乳糖、白糖、D-マンニトール、D-ソルビトール、デンプン、α化デンプン、デキストリン、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アラビアゴム、プルラン、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどが挙げられる。
滑沢剤の好適な例としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカなどが挙げられる。
結合剤の好適な例としては、α化デンプン、ショ糖、ゼラチン、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、白糖、D-マンニトール、トレハロース、デキストリン、プルラン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
崩壊剤の好適な例としては、乳糖、白糖、デンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、軽質無水ケイ酸、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどが挙げられる。
溶剤の好適な例としては、注射用水、生理的食塩水、リンゲル液、アルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ゴマ油、トウモロコシ油、オリーブ油、綿実油などが挙げられる。
溶解補助剤の好適な例としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D-マンニトール、トレハロース、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどが挙げられる。
懸濁化剤の好適な例としては、ステアリルトリエタノールアミン、 ラウリル硫酸ナトリウム、 ラウリルアミノプロピオン酸、 レシチン、 塩化ベンザルコニウム、 塩化ベンゼトニウム、 モノステアリン酸グリセリンなどの界面活性剤、例えばポリビニルアルコール、 ポリビニルピロリドン、 カルボキシメチルセルロースナトリウム、 メチルセルロース、 ヒドロキシメチルセルロース、 ヒドロキシエチルセルロース、 ヒドロキシプロピルセルロースなどの親水性高分子、ポリソルベート類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが挙げられる。
等張化剤の好適な例としては、塩化ナトリウム、グリセリン、D-マンニトール、D-ソルビトール、ブドウ糖などが挙げられる。
緩衝剤の好適な例としては、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液などが挙げられる。
無痛化剤の好適な例としては、ベンジルアルコールなどが挙げられる。
防腐剤の好適な例としては、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などが挙げられる。
抗酸化剤の好適な例としては、亜硫酸塩、アスコルビン酸塩などが挙げられる。
着色剤の好適な例としては、水溶性食用タール色素(例: 食用赤色2号および3号、食用黄色4号および5号、食用青色1号および2号などの食用色素)、水不溶性レーキ色素 (例: 前記水溶性食用タール色素のアルミニウム塩など)、天然色素 (例: β-カロチン、クロロフィル、ベンガラなど) などが挙げられる。
甘味剤の好適な例としては、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、アスパルテーム、ステビアなどが挙げられる。
【0026】
本発明のベクターを含有する疾患治療剤の投与は、治療対象動物自身の標的細胞 (あるいは治療対象動物と同種異形もしくは異種の動物における細胞)を体外に取り出し、培養してから導入を行って体内に戻す (あるいは移植する) ex vivo法と、投与対象の体内に直接ベクターを投与して導入を行うin vivo法のいずれかで行われるが、in vivo法で行うことが好ましい。ex vivo法の場合、標的細胞へのベクターの導入は、マイクロインジェクション法、リン酸カルシウム共沈殿法、PEG法、エレクトロポレーション法等により行うことができる。また、in vivo法の場合、該製剤の投与は、例えば、注射、カテーテル、バルーンカテーテル、局所注入、本発明のベクターを組み込んだインプラントの病変部への移植などにより行うことができる。
【0027】
本発明のベクターを含有する疾患治療剤の投与量は、ベクターの種類、標的細胞におけるプロモーター活性、治療因子の種類、投与経路、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なるが、例えば、ウイルスベクターとしてがん特異的増殖型アデノウイルスを用いる場合、従来のがん遺伝子治療の臨床試験において、ウイルス粒子 (particle)で1x1010〜1012 particle/腫瘍を用いて安全性が確認されているため、同量が投与の目安となる(Molecular Therapy, 18: 429-434, 2010)。一方、非ウイルスベクターをリポソームに被包して用いる場合には、体重約4 kgのカニクイザルを用いた臨床研究では666 μgのDNAを静脈投与して安全性が確認されているため同量が目安となる。例えば成人1回投与量は約2〜約10 mgで、好ましくは約5〜約8 mgである。
【0028】
本発明はまた、Auroraキナーゼプロモーターを含むベクターを含有する臨床診断剤を提供する。本発明の診断剤を用いて診断可能な疾患は、外因的に導入されたAuroraキナーゼプロモーターが、特異的に、即ち、正常細胞よりも優位に下流に機能的に連結された遺伝子の発現を駆動し得る細胞を病原とする疾患であれば特に制限はないが、好ましくはがんである。Auroraキナーゼプロモーターの下流に機能的に連結される遺伝子としては、該遺伝子の発現が容易にモニタリングできるものであれば特に制限はなく、例えば、ルシフェラーゼ遺伝子、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子、β-ガラクトシダーゼ(LacZ)遺伝子などの各種レポーター遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。あるいは、上記疾患治療剤として用いられる増殖型ウイルスベクターを使用して、細胞傷害性を指標として遺伝子発現をモニタリングすることもできる。
例えば、被験者の、がんが疑われる病変部から採取した細胞に、Auroraキナーゼプロモーターを含むベクターを導入し、該細胞におけるレポーター遺伝子の発現や該細胞の溶解性を検出することにより、好ましくは対照正常細胞に該ベクターを導入した場合と比較することにより、正常細胞よりも有意にレポーター遺伝子の発現レベルや細胞の溶解性が高い場合に、被験者はがんを発症している可能性が高いと診断することができる。
【0029】
本発明の診断剤で診断可能ながんとしては、例えば、腎細胞がん、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸がん、膵がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、扁平上皮がん、基底細胞がん、腺がん、汗腺がん、皮脂腺がん、乳頭状がん、乳頭状腺がん、嚢胞腺がん、髄様がん、気管支原生がん、肝臓がん、胆管がん、絨毛がん、精上皮腫、胎生期がん、ウィルムス腫瘍、子宮頚がん、精巣腫瘍、肺がん、小細胞肺がん、膀胱がん、上皮がん、神経膠腫、星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣細胞腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、乏突起膠腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、白血病、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性白血病、真性赤血球増多症、リンパ腫、多発性骨髄腫などが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい対象がんとして、肝臓がんや骨肉腫などが含まれる。
本発明を以下の実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【実施例】
【0030】
1.Auroraキナーゼプロモーターの制御下にマーカーのLacZ遺伝子を発現する「非」増殖型アデノウイルスベクター(Ad.Aurora-LacZ)、ならびにAuroraキナーゼプロモーター活性依存的にウイルス増殖が制御されるがん特異的「増殖制御」型アデノウイルスベクター(Aurora.CRA)の作製
Ad.Aurora-LacZは、「がん特異的な目的遺伝子の発現が誘導できるか」という予備的な検証実験のために作製されるものである。最終的には、続いて作製するAurora.CRAを用いて、「Auroraキナーゼを高発現するがん細胞に特異的(優位)にウイルス増殖を誘導し、それによりがん細胞特異的に増幅されたウイルスタンパク質ががん細胞特異的に細胞死を引き起こし、さらに増殖するウイルスが連続的にがん細胞に特異的(優位)に感染して細胞死を誘導してがん細胞を特異的に殺傷していく」という、「がん特異的なウイルス増殖および細胞死の誘導という作用ならびにがん治療効果」の検証実験、すなわち「Aurora.CRAががん治療薬となり得る」という本発明の主題となる実験を行なうものである。このように目的と構造が全く異なる2種類のアデノウイルスベクターを以下のように作製した。
【0031】
1.1 Auroraキナーゼプロモーターの単離
ヒトAurora-A(L)プロモーター(配列番号1; 1840 bp; -1486〜+354)は、pGL3-1486(横浜市立大学、上田博士より供与)からMluI/BsmI制限部位を用いて切り出し、平滑末端化した。ヒトAurora-A(S)プロモーター(配列番号2; 478 bp; -124〜+354)は、プライマー(センス: 5’-TCAGTAGGGCCCCAGCTGTGGGACTGCCACAGGTCTGGCTGG-3’ (配列番号5); アンチセンス: 5’-ATCTAGTCTAGACAGCTGCTCTAGCTGTAATAAGTAACAAGC-3’ (配列番号6))を用いてpGL3-1486からPCRにて増幅し、適当なプラスミドベクターにクローニングした後、ApaI/XbaI制限部位を用いて切り出し、平滑末端化した。ヒトAurora-B(L)プロモーター(配列番号3; 2140 bp; -1779〜+361)は、pGL3-1879からXhoI/HindIII制限部位を用いて切り出し、平滑末端化した。ヒトAurora-B(S)プロモーター(配列番号4; 546 bp; -185〜+361)は、pGL-187(岐阜大学、木村博士から供与)からXhoI/HindIII制限部位を用いて切り出し、平滑末端化した。これらの4種類のプロモーターを、以下のAd.Aurora-LacZおよびAurora.CRAの作製に用いた。
【0032】
1.2 Auroraキナーゼプロモーターの制御下にマーカーのLacZ遺伝子を発現する「非」増殖型アデノウイルスベクタープラスミド(pAd.Aurora-LacZ)の作製
プラスミドpHMΔPr-LacZをApaI制限酵素で切り出し、平滑末端化し、CIP酵素で処理した。このプラスミドベクターに、上記のように切り出し平滑末端化した4種類のAuroraキナーゼプロモーターをライゲーションすることで、Aurora-A(S)、Aurora-A(L)、Aurora-B(S)、Aurora-B(L)の各AuroraキナーゼプロモーターからマーカーのLacZ遺伝子を発現する4種類のシャトルベクタープラスミド、pHM.Aurora-A(S)、pHM.Aurora-A(L)、pHM.Aurora-B(S)、pHM.Aurora-B(L)を作製した。
これらのシャトルベクタープラスミドを、E1領域欠損のアデノウイルスゲノムを持つプラスミドpAd.HM4にI-CeuI/PI-SceIの制限酵素部位でサブクローニングすることで、4種類のアデノウイルスベクタープラスミドpAd.Aurora-A(S)、pAd.Aurora-A(L)、pAd.Aurora-B(S)、pAd.Aurora-B(L)を作製した。後述するように、これらのアデノウイルスベクタープラスミドを293細胞にトランスフェクションして、各Auroraキナーゼプロモーターの制御下にマーカーのLacZ遺伝子を発現する「非」増殖型アデノウイルスベクターを、最終的に4種類作製した。
【0033】
1.3 Auroraキナーゼプロモーター活性依存的にウイルス増殖が制御されるがん特異的「増殖制御」型アデノウイルスベクタープラスミド(pAurora.CRA)の作製
増殖制御型プラスミド(図1のP1プラスミド)であるpΔPr-wtE1A-CMV-E1BΔ55KD(特許第4478775号、Nagano S et al. Gene Ther 12: 1385-1393, 2005)を制限酵素NotIで切断し、T4DNAポリメラーゼで平滑末端化し、CIP酵素で処理した。このシャトルベクタープラスミドに、上記1.1で得た4種類のプロモーター配列(ヒトAurora-A(L)、ヒトAurora-A(S)、ヒトAurora-B(L)およびヒトAurora-B(S); 配列番号1〜4)のDNA断片をライゲーションすることで、それらをpΔPr-wtE1A-CMV-E1BΔ55KDのE1Aの上流にそれぞれ挿入し、pAurora-A(L)-wtE1A-CMV-E1BΔ55KD、pAurora-A(S)-wtE1A-CMV-E1BΔ55KD、pAurora-B(L)-wtE1A-CMV-E1BΔ55KD、およびpAurora-B(S)-wtE1A-CMV-E1BΔ55KDを得た。
【0034】
このようにして得られた4種類の「増殖制御型プラスミド」(P1プラスミド)からI-CeuI/PI-SceI制限部位で必要なE1領域のDNA断片を切り出し、「アデノウイルスベクタープラスミド」(図1のP3)のpAd.HM4のI-CeuI/PI-SceI制限部位にライゲーションすることで、AuroraキナーゼプロモーターがE1A遺伝子の上流に組み込まれた増殖制御型アデノウイルスベクター(CRA)のプラスミドを作製した。さらに、CMVプロモーターおよびEGFP遺伝子が挿入された「治療(マーカー)遺伝子クローニングプラスミド」(図1のP2プラスミド)(Kamizono J et al. Cancer Res 65: 5284-5291, 2005)とCre酵素で融合し、大腸菌DH5αにトランスフォーメーションして抗生剤テトラサイクリン入りの培地で培養することで、マーカー遺伝子EGFPを発現するユニットを持つ、Auroraキナーゼプロモーター依存性の増殖制御型アデノウイルスベクタープラスミド(pAurora.CRA)を作製した。こうして得られた4種類の増殖制御型アデノウイルスベクタープラスミド(pAurora.CRA)、pAdAurora-A(L)-wtE1A-CMV-E1BΔ55KD/CMV-EGFP、pAdAurora-A(S)-wtE1A-CMV-E1BΔ55KD/CMV-EGFP、pAdAurora-B(L)-wtE1A-CMV-E1BΔ55KD/CMV-EGFP、およびpAdAurora-B(S)-wtE1A-CMV-E1BΔ55KD/CMV-EGFPは、アデノウイルスゲノムのE1およびE3領域以外の部分と、Auroraキナーゼプロモーターと機能的に連結されたE1A領域、CMVプロモーターと機能的に連結されたE1B領域、およびCMVプロモーターと機能的に連結されたEGFPコード配列を有する。これらのpAurora.CRAプラスミドを以下に記載するように293細胞に導入することで、Auroraキナーゼ依存性増殖制御型アデノウイルスベクター(Aurora.CRA)を作製する。
【0035】
1.4 293細胞でのアデノウイルスベクターの作製
【0036】
<Auroraキナーゼプロモーターの制御下でマーカー遺伝子LacZを発現する非増殖型アデノウイルスベクターの作製>
上記1.2で得られたプラスミド(pAd.Aurora-LacZ)をヒト胎児腎細胞由来の293細胞にトランスフェクションすることにより、Auroraキナーゼプロモーターの制御下にマーカーのLacZ遺伝子を発現する「非」増殖型アデノウイルスベクターを4種類(Ad.Aurora-A(L)-LacZ、Ad.Aurora-A(S)-LacZ、Ad.Aurora-B(L)-LacZ、およびAd.Aurora-B(S)-LacZ)作製した。また、陽性コントロールとして、恒常的発現プロモーターであるラウス肉腫ウイルスLTR(RSV)およびCMVプロモーターのそれぞれ制御下にLacZを発現するアデノウイルス(それぞれ、Ad.RSV-LacZおよびAd.CMV-LacZ)、ならびに、陰性コントロールとして、E1領域を欠損したアデノウイルス(AdΔE1)も、同様に作製した。
【0037】
<Auroraキナーゼプロモーター活性依存的にアデノウイルス増殖が誘導される、Auroraキナーゼプロモーター依存性増殖制御型アデノウイルスベクター(Aurora.CRA)の作製>
上記1.3で得られた増殖制御型アデノウイルスベクタープラスミドを293細胞にトランスフェクションすることにより、4種類のAuroraキナーゼプロモーター依存性増殖制御型アデノウイルスベクター、AdAurora-A(L)-wtE1A-CMV-E1BΔ55KD/CMV-EGFP、AdAurora-A(S)-wtE1A-CMV-E1BΔ55KD/CMV-EGFP、AdAurora-B(L)-wtE1A-CMV-E1BΔ55KD/CMV-EGFP、およびAdAurora-B(S)-wtE1A-CMV-E1BΔ55KD/CMV-EGFPを作製した。
【0038】
<アデノウイルスベクターの作製>
上記のように、非増殖型アデノウイルスベクターおよび増殖制御型アデノウイルスベクターは、目的も構造もアデノウイルスベクタープラスミドの作製法も全く異なるものである。しかし、アデノウイルスベクタープラスミドを作製した後のウイルスを作製する実験過程は同一である。つまり、それぞれのアデノウイルスベクタープラスミドを293細胞にトランスフェクションすることにより、ウイルスを作製するものであり、その詳細は以下の通りである。
293細胞の培養には、10% FBS添加DMEMを用いた。トランスフェクションは、リン酸カルシウム法(Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc., 9.1.4-9.1.9, 1999)に従って行った。具体的には、1.5 mLのHEPES緩衝生理食塩液(pH 7.1)に上記アデノウイルスゲノムを含む直鎖状DNA 20 μg、サケ精子DNA(SIGMA)20 μgの合計40 μgのDNAを加え、2.5 M CaCl2 75 μLを撹拌しながら滴下し、室温で30分間静置した後、培養液を撹拌しながら293細胞に滴下した。CO2インキュベーター中で細胞を4時間半静置した後、10% FBS添加α-MEMと1% アガロースゲル溶液を等量混合した溶液を培養ディッシュに重層し、固形培地中で293細胞の培養を続けた。アデノウイルスが産生されると、293細胞は細胞変性し、プラークを形成する。
トランスフェクション後1週間程度でプラークが出現したので、固形培地ごとプラークを回収し、培地に懸濁して-80℃で保存した(ウイルスシード液)。
次に、得られたウイルスシード液に対して凍結・融解を3回繰り返して、細胞からウイルスを放出させ、これを用いて培養中の293細胞に感染させた。変性細胞を培地ごと回収し、これを新たな293細胞に感染させた。徐々にスケールを拡大して、最終的には15 cmディッシュ40枚の293細胞に感染させ、変性細胞を培地ごと回収した。細胞変性後、培地ごと細胞を回収して、1,000 rpmで遠心し、上清を除去して24 mLのリン酸緩衝生理食塩液(PBS)に懸濁し、-80℃で保存した。
この細胞浮遊液に対して凍結・融解を3回繰り返し、1,000 rpmで遠心して上清を回収し、塩化セシウム密度勾配遠心を、まず10℃、35,000 rpmで1時間実施し、続いて10℃、35,000 rpmで18時間実施し、ウイルスが含まれるバンドを回収した。得られたウイルス液を、脱塩カラムでさらに精製した。この一連の過程で、非増殖型アデノウイルスおよび増殖制御型アデノウイルスのいずれについても、ウイルス作製、増幅、濃縮、精製を行なうことができる。
作製した非増殖型アデノウイルスベクターおよび増殖制御型アデノウイルスベクターの構造を図2に示す。
【0039】
2.定量的RT-PCR解析(qPCR)
種々の細胞株における内因的なAuroraキナーゼのmRNA発現を、定量的RT-PCR解析により解析した。
セパゾールキット(ナカライテスク)を用いて、各種細胞からトータルRNAを回収し、DNaseIで処理した。1 μgのトータルRNAを、SuperScriptIIリバーストランスクリプターゼ(Invitrogen)およびランダムプライマー(Invitrogen)を用いて逆転写し、得られたcDNAの100分の1を、DyNAmoTMHS SYBR(登録商標)Green qPCRキット(FINZYMES)を用いるリアルタイムPCRに供した。PCRの反応条件は、以下のとおりである:94℃、10秒間;58℃、30秒間および72℃、30秒間を40サイクル。反応にはRotor-Gene3000(Corbett)を用いた。プライマー配列は、以下のとおりである:Aurora-A (220 bp): センス: 5’-TCTTTTGGGTGTTATTCAGTGGC-3’ (配列番号7)、アンチセンス: 5’-TTTTCTGTTTTGATGCCAGTTCC-3’ (配列番号8); Aurora-B (167 bp): センス: 5’-AGAACTCCTACCCCTGGCCCTAC-3’ (配列番号9)、アンチセンス: 5’-ATGCTCCACGCCCTCCTTCTCT-3’ (配列番号10)。
結果を図3に示す。各細胞でのmRNA量は、II型ポリメラーゼ遺伝子のmRNA量に対して補正し、HeLa細胞での値を1とする比として表している。Aurora-AおよびAurora-Bの内因性発現は、グラフの左側に示したがん細胞株の一部で顕著に高く、右側に示した正常細胞株では低いことが見て取れる。このことから、本発明で用いるAuroraキナーゼプロモーターが、内因的に、一部のがん細胞で特異的に活性化されていることが示された。
【0040】
3.プロモーター活性アッセイ
単離されたAuroraキナーゼプロモーターのプロモーター活性を、がん細胞株(HepG2細胞およびHOS-MNNG細胞)および正常細胞株(WI-38細胞)で比較した。
プロモーター活性は、β-Galactosidase Enzyme Assay System(Promega)を用いてβ-ガラクトシダーゼ活性を測定することにより検出した。HepG2細胞(ヒト肝臓がん由来)、HOS-MNNG細胞(ヒト骨肉腫由来)、またはWI-38細胞(ヒト胎児肺線維芽細胞:正常対照)に、Ad.Aurora-A(L)-LacZ、Ad.Aurora-A(S)-LacZ、Ad.Aurora-B(L)-LacZ、Ad.Aurora-B(S)-LacZ、Ad.RSV-LacZ、およびAd.CMV-LacZを、それぞれMOI(Multiplicity of infection)10にて1時間、MOI 100にて1時間、またはMOI 30にて24時間感染させた。これらの条件は、それぞれの細胞タイプに対して、明らかな細胞毒性を示さずに、ほぼ同一の遺伝子導入効率をもたらした。アデノウイルス感染の48時間後に細胞を回収し、上記のアッセイシステムを製造業者の取扱説明書にしたがって用いて、β-ガラクトシダーゼ活性を測定した。活性は、既定濃度のβ-ガラクトシダーゼについての標準曲線にしたがって算出した。
結果を図4に示す。肝臓がん細胞株であるHepG2細胞および骨肉腫由来細胞であるHOS-MNNG細胞では、本発明で用いるAuroraキナーゼプロモーター(Aurora-A(L)、Aurora-A(S)、Aurora-B(L)およびAurora-B(S))からのLacZ発現によるβ-ガラクトシダーゼ活性が高いレベルで検出された。一方で、正常細胞由来のWI-38細胞では、本発明で用いるAuroraキナーゼプロモーターからのLacZ発現によるβ-ガラクトシダーゼ活性がまったく検出されなかった。対照的に、CMVプロモーターの制御下にLacZを発現するAd.CMV-LacZを感染させた場合には、いずれの細胞株においてもβ-ガラクトシダーゼ活性が検出された。
このことから、本発明で用いるAuroraキナーゼプロモーターは、がん細胞で特異的に活性化され、下流の遺伝子の発現をもたらすことが示された。図3に示されるように、Auroraキナーゼは内因的にはWI-38を含む正常細胞正常細胞においても若干の発現が見られるが、しかしこのように適切な領域をプロモーターとして取り出して外来遺伝子の発現に利用する場合には、さらに内因性のAuroraキナーゼ遺伝子のがん特異的遺伝子発現パターンを遥かに凌駕する極めて高度ながん特異性がみられることがわかった。つまり、このようなAuroraキナーゼプロモーターを外来遺伝子の発現に使用した場合に非常に高度ながん細胞特異的な発現が得られるということは、単なるAuroraキナーゼの内因性発現パターンのみからは全く予測することができなかったものである。
【0041】
4.in vitro細胞毒性効果
Auroraキナーゼプロモーターを担持する本発明のウイルスベクターによる細胞毒性効果を評価した。
以下のようにして細胞生存率を定量した。96ウェルプレート中の細胞に、4種類のAurora.CRA、またはAdΔE1を、MOI 0.01〜1で感染させた。アデノウイルス感染の2〜6日後に、Cell Count Reagent SF(ナカライテスク)を製造業者の取扱説明書にしたがって用いて、WST-8アッセイにより細胞生存率を定量化した。WST-8アッセイは、簡潔には、ミトコンドリア内の酵素によって変換され、呈色を示す化合物を用いて、ミトコンドリア酵素活性を呈色反応として検出することに基づく。サンプルの450 nmでの吸収、および参照として690 nmでの吸収は、Microplate Reader Model 550(Bio-Rad)を用いて計測した。
がん細胞特異的な細胞傷害能の結果を図5に示す。特にHepG2細胞での4日目、およびHOS-MNNG細胞での6日目の結果から顕著なように、これらのがん細胞株では、対照であるAdΔE1(複製欠損型アデノウイルス)感染細胞に比べて、本発明の増殖制御型ウイルスベクター感染細胞の生存率が低く、本発明の増殖制御型ウイルスベクターによる細胞変性効果を示している。これに対して、正常細胞であるWI-38では、対照ウイルスと本発明のウイルスとの間にほとんど差が見られない。
このことから、本発明の増殖制御型ウイルスベクターが、がん細胞で特異的に細胞変性効果を示し、したがって、生体内のがんを特異的に傷害し得るものであることが明らかとなった。
さらに、このがん細胞障害能(がん治療効果)が、多種多様ながん、つまりがん全般に起こることを示すべく、さらにもう一種の異なる肝がん細胞株のHep3B細胞、ならびに乳がん細胞株であるMCF-7細胞を用い、同様の実験を行った。結果を図6に示す。各ウイルスの感染をMOI 0.01〜10で感染行い、6日目に同様にWST-8アッセイで細胞生存率を定量化した。がん細胞の種類によって各Aurora.CRAの殺傷効果の程度には若干の違いはあるものの、4種類全てのAurora.CRAがコントロール(AdΔE1: 複製欠損型アデノウイルス)に比べて著明ながん細胞傷害効果を示した。このことから、本発明の増殖制御型ウイルスベクターが、がん細胞の種類を問わずがん全般に細胞傷害効果を示し、従ってがん全般の治療薬となり得ることが明らかとなった。
【0042】
5.動物でのがん疾患モデルでの治療効果
4種類全てのAurora.CRAの実際のがん疾患に対する治療効果を調べるため、がん動物モデルにて、前臨床的ながん治療効果を調べた。肝がん細胞Hep3Bを107 細胞(総量200 μlになるようPBSで調整)、8週齢の雌BALB/Cヌードマウスの左背部皮下に注入し、腫瘤形成後 (7-12 mm)、各種ウイルスを5.0×108 pfu/100 μl/tumorで2回(2日空けて)注射を行った。2回注射後、4, 7, 11, 18, 21, 25日後に腫瘤サイズを計測し、25日後にマウスを安楽死させて腫瘍(腫瘤部)を採取した。図7には腫瘤サイズの経過を示しているが、いずれのAurora.CRAにおいても、コントロールと比べて著明な腫瘤径の増大の抑制、すなわち腫瘍増殖の抑制効果がみられた。さらに25日目で病理組織解析したところ、コントロールではがん細胞死はごく一部にみられるに過ぎないのに対し、いずれのAurora.CRAでも、コントロールに比べて非常に顕著ながん細胞死の像がみられた。よって単に腫瘤径を表した図6だけでも、コントロールに対して全てのAurora.CRAが腫瘍抑制効果があることは明確であるが、さらに病理組織像からは、コントロールでの腫瘤部を構成する大部分の細胞は生存したがん細胞であるのに対し、いずれのAurora.CRAで治療したマウスの腫瘤も、多くは死んでいるがん細胞、あるいはそれに伴う出血などによって構成されていることがわかった。つまり腫瘤の大きさを示す図6でみられるよりも、実際にはいずれのAurora.CRAでもさらに著明ながん細胞殺傷効果を示しているものであり、この動物実験により全てのAurora.CRAが著明ながん治療効果を示すことが明確となった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、特異性が高く効果的ながん治療のためのツールが提供されるため、本発明は医療分野での有用性を有する。
【0044】
本発明を好ましい態様を強調して説明してきたが、好ましい態様が変更され得ることは当業者にとって自明であろう。本発明は、本発明が本明細書に詳細に記載された以外の方法で実施され得ることを意図する。したがって、本発明は添付の「請求の範囲」の精神および範囲に包含されるすべての変更を含むものである。
ここで述べられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、ここに引用されたことによって、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
本出願は、2010年9月30日付で日本国に出願された特願2010-223150を基礎としており、それらの内容は全て本明細書に包含される。
【配列表フリーテキスト】
【0045】
配列番号1:ヒトAurora-A(L)プロモーター
配列番号2:ヒトAurora-A(S)プロモーター
配列番号3:ヒトAurora-B(L)プロモーター
配列番号4:ヒトAurora-B(S)プロモーター
配列番号5〜10:プライマー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]