特許第5963394号(P5963394)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5963394
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】折畳式乳母車
(51)【国際特許分類】
   B62B 7/08 20060101AFI20160721BHJP
【FI】
   B62B7/08
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-46296(P2011-46296)
(22)【出願日】2011年3月3日
(65)【公開番号】特開2012-183848(P2012-183848A)
(43)【公開日】2012年9月27日
【審査請求日】2014年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】508189474
【氏名又は名称】アップリカ・チルドレンズプロダクツ合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】特許業務法人アイミー国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100091409
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100096792
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 八郎
(74)【代理人】
【識別番号】100091395
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 博由
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(74)【代理人】
【識別番号】100140338
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 直樹
(72)【発明者】
【氏名】大西 伊知朗
【審査官】 林 政道
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−253976(JP,A)
【文献】 実開昭54−095761(JP,U)
【文献】 特開2001−039314(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3045150(JP,U)
【文献】 特開2010−247592(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62B 7/00−19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下端に前輪を有する1対の前脚と、
上端が前記前脚の上端部と回動可能に連結し、下端に後輪を有する1対の後脚と、
前記後脚の中間領域に摺動可能に連結する1対の摺動部材と、
前方端領域が前記前脚の中間領域と回動可能に連結し、後方端が前記摺動部材と回動可能に連結する1対の前後方向部材と、
前記摺動部材に設けられて、前記後脚に形成された被係合部と係合可能な1対のロック部材と、
前記1対のロック部材と連結するリンク部材と、前記リンク部材に連結して前記1対のロック部材を同時に操作する1個の操作部材を含み、前記操作部材を原位置にして前記1対のロック部材を係合状態にすることにより、前記摺動部材を摺動不能にして前記後脚が前記前脚に対し所定角度で開いた展開状態を保持し、前記操作部材を前記原位置から移動させて前記1対のロック部材を非係合状態にすることにより、前記摺動部材の摺動を許容して前記後脚が前記前脚に対して回動することを可能にするロック機構とを備え
前記ロック機構が前記1対の摺動部材とともに前記後脚に沿って変位する際に前記後脚が、前記前後方向部材を介して前記摺動部材と連結する前記前脚に対して回動し、折り畳み状態にされるよう構成される、折畳式乳母車。
【請求項2】
前記後脚の被係合部は、乳母車の前記展開状態に対応する位置と、後脚が前脚に近づくよう閉じた乳母車の折り畳み状態に対応する位置の双方に形成される、請求項1に記載の折畳式乳母車。
【請求項3】
前記リンク部材は、一端が一方の前記ロック部材に連結し他端が前記操作部材に連結する第1リンク部材と、一端が他方の前記ロック部材に連結し他端が前記操作部材に連結する第2リンク部材とを含む、請求項1または2に記載の折畳式乳母車。
【請求項4】
前記第1および第2リンク部材は棒状体であって、乳母車の幅方向に進退動し、
前記操作部材は、乳母車の幅方向に対し直角方向に変位し、
これら操作部材およびリンク部材のいずれか一方に、前記幅方向および前記直角方向に対し斜めに傾斜した案内軌道が形成され、
これら操作部材およびリンク部材の残る他方に、前記案内軌道に案内される突起部が形成される、請求項3に記載の折畳式乳母車。
【請求項5】
前記1対の摺動部材に架設されて乳母車の幅方向に延びるパイプ部材をさらに備え、
前記第1および第2リンク部材は前記パイプ部材の一方端領域および他方端領域にそれぞれ摺動可能に収容される、請求項4に記載の折畳式乳母車。
【請求項6】
前記前脚に摺動可能に取り付けられた押し棒と、
前記前後方向部材よりも下方に配置されて、前方端が前記押し棒と回動可能に連結し、
後方端が前記後脚と回動可能に連結する脚部連結部材とをさらに備える、請求項1〜5のいずれかに記載の折畳式乳母車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、折畳式乳母車の展開状態を保持するロック機構に関する。
【背景技術】
【0002】
折畳式乳母車は、不使用時には折り畳み状態にされ、使用時には展開状態にされるところ、展開状態の乳母車が使用中に不用意に折り畳まれることを防止する観点から、ロック機構を備えるのが常套である。例えば特開2009−120182号(特許文献1)の乳母車は、折り畳みの際、押し棒が前脚に沿ってスライド移動することにより、高さ方向の寸法が縮小し、X字形状に交差する底面クロス部材および背面クロス部材の交差角が変化することにより、前後方向および幅方向の寸法が縮小する。
【0003】
かかる特許文献1の乳母車のロック機構は、相互に回動可能に連結された第1リンク棒、操作部材、第2リンク棒を有し、かかる順で直列配置されて、背面クロス部材に架設される。そして、乳母車の幅方向中央部に配置された操作部材が、思案点を僅かに越えた位置にされて、背面クロス部材の交差角が固定される。このとき、第1リンク棒、操作部材、および第2リンク棒は、乳母車の幅方向略直線状に整列することから、ロック機構は乳母車の幅方向に延びている。これに対し、乳母車を折り畳もうとするときには、操作部材を手で引き上げる。このとき、第1リンク棒は、操作部材から斜め下方へ延びるように傾斜し、第2リンク棒は、操作部材から斜め下方へ延びるように傾斜する。したがって、ロック機構は逆V字形状に折れ変形して幅方向に縮小される。
【0004】
さらに特許文献1の乳母車では、前脚の上端部に固定された連結部材が、ロックピンを有する操作ボタンを有する。また押し棒が、少なくとも乳母車の展開状態においてロックピンを受け入れるロック穴を有する。これにより、乳母車の展開状態において前脚に対する押し棒の位置を固定する押し棒ロック機構が構成される。操作ボタンを操作してロックピンとロック穴との係合を解除すれば、押し棒を前脚に沿ってスライドさせることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−120182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の乳母車にあっては、ロック機構を背面クロス部材や押し棒に設けているものであるが、本発明者は全く新しい構成によるロック機構を見いだした。
【0007】
本発明は、使用時には乳母車の展開状態を保持するようロックするが、乳母車を折り畳もうとするときには容易にロックを解除することができるロック機構を備える折畳式乳母車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的のため本発明による折畳式乳母車は、下端に前輪を有する1対の前脚と、上端が前脚の上端部と回動可能に連結し、下端に後輪を有する1対の後脚と、後脚の中間領域に摺動可能に連結する1対の摺動部材と、前方端領域が前脚の中間領域と回動可能に連結し、後方端が摺動部材と回動可能に連結する1対の前後方向部材と、摺動部材に設けられて、後脚に形成された被係合部と係合可能な1対のロック部材と、これら1対のロック部材と連結するリンク部材、該リンク部材に連結して1対のロック部材を同時に操作する1個の操作部材を含み、操作部材を原位置にして1対のロック部材を係合状態にすることにより、摺動部材を摺動不能にして後脚が前脚に対し所定角度で開いた展開状態を保持し、1対のロック部材を非係合状態にすることにより、摺動部材の摺動を許容して後脚が前脚に対して回動することを可能にするロック機構とを備える。そしてロック機構が1対の摺動部材とともに後脚に沿って変位する際に後脚が、前後方向部材を介して摺動部材と連結する前脚に対して回動し、折り畳み状態にされるよう構成される。
【0009】
かかる本発明によれば、後脚に摺動可能に連結する摺動部材が、係合状態のロック部材を介して後脚に固定される。また摺動部材は、ロック部材が非係合状態にされる間、後脚に沿って摺動することができる。したがって簡易な構成により、乳母車の展開状態を保持するロック機構を実現することができる。
【0010】
本発明は一実施形態に限定されるものではない。例えば、乳母車の展開状態はかかるロック機構によって保持されるところ、乳母車の折り畳み状態はフックや、ピンによって保持されてもよい。この場合例えば、前脚に設けられたフックやピンが、前脚の近傍まで回動した後脚を、前脚の近傍に保持する。好ましい実施形態として、後脚の被係合部は、乳母車の展開状態に対応する位置と、後脚が前脚に近づくよう閉じた乳母車の折り畳み状態に対応する位置の双方に形成される。かかる実施形態によれば、展開状態のみならず折り畳み状態も保持することが可能となり、操作性能が向上する。
【0011】
ロック機構の構造は特に限定されず、例えば、1対のロック部材を連結するワイヤーと乳母車の使用者に操作されてワイヤーを引き込むプーリと、ロック部材を係合状態に復帰させる弾性部材で構成されてもよい。また例えば、ロック機構は、ロック部材と連結する棒材を有してもよい。ロック機構が、ロック部材と連結するリンク部材と、乳母車の使用者に操作されてリンク部材を動作させる操作部材とで構成される実施形態では、1本のリンク部材の両端がそれぞれロック部材に連結してもよいし、2本1対のリンク部材が各ロク部材にそれぞれ連結してもよい。好ましい実施形態としてリンク部材は、一端が一方のロック部材に連結し他端が操作部材に連結する第1リンク部材と、一端が他方のロック部材に連結し他端が操作部材に連結する第2リンク部材とを含んでもよい。かかる実施形態によれば、1個の操作部材で2個のロック部材を同時に動かすことができる。
【0012】
好ましくは、第1および第2リンク部材は棒状体であって、乳母車の幅方向に進退動し、操作部材は、乳母車の幅方向に対し直角方向に変位し、これら操作部材およびリンク部材のいずれか一方に、幅方向および直角方向に対し斜めに傾斜した案内軌道が形成され、これら操作部材およびリンク部材の残る他方に、案内軌道に案内される突起部が形成される。かかる実施形態によれば、1対のロック部材を左右対称に動作させることができる。また、第1リンク部材の他端と第2リンク部材の他端とを突き合わせてこれら第1リンク部材および第2リンク部材を同軸に配置し、これらのリンク部材間にリターンスプリングを介在させることにより、これらのリンク部材を原位置に付勢して、ロック部材を係合位置に復帰させることができる。
【0013】
かかる実施形態は例えば、1対の摺動部材に架設されて乳母車の幅方向に延びるパイプ部材をさらに備え、第1および第2リンク部材はパイプ部材の一方端領域および他方端領域にそれぞれ摺動可能に収容されることによって好適に実現される。
【0014】
乳母車は押し棒を備えることが常套であり、好ましい実施形態として、前脚に摺動可能に取り付けられた押し棒と、前後方向部材よりも下方に配置されて、前方端が押し棒と回動可能に連結し、後方端が後脚と回動可能に連結する脚部連結部材とをさらに備える。かかる実施形態によれば、折り畳み動作の際、押し棒が連動してスライド移動することが可能になり、乳母車の高さ寸法が縮小される。
【発明の効果】
【0015】
このように本発明は、簡易な構成でロック機構を実現することができる。したがって、折り畳み操作の際の操作性能が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施例になる折畳式乳母車の展開状態を示す側面図である。
図2】同実施例の折畳式乳母車の折り畳み状態を示す側面図である。
図3】展開状態における折畳式乳母車を模式的に示す背面図である。
図4】係合状態にされたロック機構を拡大して示す断面図である。
図5】非係合状態にされたロック機構を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施例になる乳母車を示す側面図であって、使用中の展開状態を表す。図2は、同実施例の乳母車の折り畳み状態を示す側面図であり、使用されないときはコンパクトに折り畳まれる。図3は、展開状態における乳母車を模式的に示す背面図である。本発明の理解を容易にするため、図1図3では車体フレームを主に示し、座席を構成する部材や幌等を省略してある。
【0019】
乳母車は、高さ方向のサイズが縮小して折り畳まれる折畳式である。乳母車は、車体フレームの主要構成要素として、乳母車の幅方向両端を左右1対として、1対の前脚11と、1対の後脚13と、1対の前後方向部材15と、1対の押し棒21と、ハンドル部材24と、1対の脚部連結部材25と、背面部材33とを備える。
【0020】
各前脚11は、略上下方向に延びており、その下端部に前輪12を有し、その上端部に連結部材22を有している。連結部材22は、前脚11に固定されており、その前方部に筒状体22aを有し、その後方部に張出し部22bを有している。各前脚11の中間領域には、案内スリーブ23が固定して取り付けられている。この案内スリーブ23は、その前方部に筒状体23aを有している。
【0021】
各後脚13は、略上下方向に延びており、その下端部に後輪14を有している。各後脚13の上端部は、前脚11に固定された連結部材22の張出し部22bに回動可能に連結されている。図1に示す展開状態においては、後脚13が前脚11に対して所定角度に保持され、後脚13が前脚11から遠ざかるよう相互に開いた状態にされる。
【0022】
乳母車の折り畳み動作に伴って各後脚13は各前脚11に近づく方向に回動し、図2に示す折り畳み状態においては、各後脚13と各前脚11とは平行な関係で位置し、後輪14は前輪12の上方に位置する。
【0023】
後脚13の中間領域には摺動部材31が摺動可能に連結する。摺動部材31は、筒状体31aと、筒状体31aから前方へ張り出した張り出し部31bと、筒状体31aから幅方向内方へ張り出した外筒31cとを有する。筒状体31aには後脚13が貫通する。
【0024】
さらに後脚13の中間領域には固定ブラケット32が取付固定される。固定ブラケット32は、摺動部材31が固定ブラケット32を越えて下方へ摺動しないよう規制する。これにより摺動部材31は、後脚13に沿って、連結部材22と固定ブラケット32の間を摺動することができる。乳母車の展開状態では、摺動部材31が固定部ラケット32上に隣接する。
【0025】
各前後方向部材15は、略前後方向に延びており、1対の前後方向部材15,15間に図示しない幼児用座席を支持する。前後方向部材15の前方端領域は、回動軸16を介して前脚11の中間領域と回動可能に連結する。前後方向部材15の後方端は、回動軸17を介して摺動部材31の張り出し部31bと回動可能に連結する。前後方向部材15の中央部は、回動軸18を介して背もたれ支持部材19と回動可能に連結する。図3に示すように、背もたれ支持部材19は逆U字形状であり、両端が1対の前後方向部材15とそれぞれ連結する。そして背もたれ支持部材19は図示しない幼児用座席の背もたれ部をリクライニング可能に支持する。
【0026】
乳母車の折り畳み動作に伴って各摺動部材31は各後脚13に沿って上方へ摺動する。また後脚が前脚に近づくよう回動する。図2に示す折り畳み状態においては、摺動部材31が連結部材22の近傍に位置し、後脚13が前脚11に近づくよう閉じた状態となる。
【0027】
各押し棒21は、その下方領域が各前脚11上に重なるように配置されて上下方向に延びている。この押し棒21は、前脚11に固定された連結部材22および案内スリーブ23の筒状体22a,23aにスライド移動可能に保持されている。乳母車の折り畳み動作に伴って各押し棒21は各前脚11上を下方に向かってスライド移動し、図2に示す折り畳み状態においては、各押し棒21の下方端が地面Gに当接するようになる。地面Gに接する押し棒21の下方端と前輪12とによって、折り畳み状態の乳母車は自立することが可能である。
【0028】
1対の押し棒21の上方端は、乳母車の幅方向に延びるハンドル部材24によって連結されている。図3に示すように、ハンドル部材24の中間領域は、乳母車の操作者が握り易いよう太く形成される。これにより操作者は、片手で乳母車を真直ぐに前進させることができる。また押し棒21の上方端には、乳母車の操作者が握り易いよう1対のグリップ部28が設けられている。これにより操作者は、両手で乳母車を押すことが可能となり、グリップ部28を押す左手および右手の力を加減することで乳母車を所望の方向へ前進させることができる。
【0029】
各脚部連結部材25は、前後方向部材15よりも下方に配置され、各前脚11と各後脚13との間に架設されて略前後方向に延びるものである。具体的には、前方端が回動軸26を介して押し棒21の下端部と回動可能に連結し、後方端が回動軸27を介して後脚13と回動可能に連結する。
【0030】
回動軸16よりも下方で前脚11に固定された案内スリーブ23は、押し棒21の下端領域を摺動可能に支持する。回動軸26は、案内スリーブ23から下方へ突出した押し棒21の下端部に配設される。乳母車の折り畳み動作に伴って脚部連結部材25が後端部の回動軸27を中心として下方へ回動すると、脚部連結部材25の前端部が下方へ変位することから、押し棒21が下方に向かってスライド移動する。
【0031】
背面部材33は、パイプ部材であり、1対の摺動部材31,31間に架設されて乳母車の幅方向に延びる。具体的には、背面部材33の左端が、左側の摺動部材31と固定され、背面部材33の右端が、右側の摺動部材31と固定される。この固定は、背面部材33の端部外周面が摺動部材31の外筒31cの内周面に嵌合し、さらに抜け止めのためのピン37が外筒31cの内周面および背面部材33の外周面を横切って貫通するものである。これにより、背面部材33の端部が摺動部材31に固定される。背面部材33の内部には、乳母車の展開状態を保持するロック機構が設けられる。
【0032】
図4および図5は、乳母車のロック機構を拡大して示す断面図である。そして、図4は係合状態にされたロック機構を示し、図5は非係合状態にされたロック機構を示す。ロック機構は、1対のロックピン34と、1対のロックピン孔35と、1対のリンク部材である第1リンク部材36lおよび第2リンク部材36mと、操作部材41とを有する。
【0033】
ロックピン34は、摺動部材31に設けられて、摺動部材31を摺動不能にするロック部材である。摺動部材31にはロックピン34が貫通する貫通孔31hが形成され、後脚13にはロックピン34を受け入れる被係合部としてのロックピン孔35が形成される。これらの貫通孔31hおよびロックピン孔35は、後脚の長手方向とは直角な方向、すなわち乳母車の幅方向、に貫通する。またロックピン34は、後述するリンク部材によって、乳母車の幅方向に進退動する。
【0034】
リンク部材としての第1リンク部材36lおよび第2リンク部材36mは、乳母車の幅方向に延びる棒状体であり、背面部材33の内部に収容されて、幅方向に進退動可能である。第1リンク部材36lには長孔39が形成され、この長孔39に背面部材33から突出するピン37が貫通する。長孔39は第1リンク部材36lの長手方向に延びる。これにより第1リンク部材36lの進退動距離は長孔39の長さ寸法に規定される。
【0035】
第1リンク部材36lの幅方向外方端にはロックピン34が取り付けられている。取付方法は機械的な連結であってもよいが、本実施例ではロックピン34が第1リンク部材36lの外方端から幅方向外方へさらに延びるよう、第1リンク部材36lの外方端に固定される。第1リンク部材36lの幅方向内方端には幅方向に対し斜めに傾斜して延びる長孔38が形成される。第2リンク部材36mは第1リンク部材36lと同一部材であり、幅方向左右対称に配置される。
【0036】
操作部材41は、背面部材33の中央部に設けられて、乳母車の幅方向に対し直角方向に押し込まれる操作子である。乳母車の幅方向(背面部材33の長手方向)に測定した操作部材41の長さ寸法は、例えば乳母車の操作者にとって握りやすいよう、大人の手の幅程度に形成される。そして図4に示すように、操作部材41は原位置で下方へ突出する。
【0037】
操作部材41には2個の突起42が形成される。突起42はリンク部材の長孔38に係合する。長孔38は乳母車の幅方向と直角な方向、すなわち上下方向、に対し斜めに延びる。このように乳母車の幅方向に対し斜め45度に延びた長孔38は、突起42を案内する案内軌道として機能する。そして長孔38は、乳母車の幅方向内方かつ下方から乳母車の幅方向外方かつ上方へ延びる。
【0038】
次にロック機構の動作につき説明する。
【0039】
操作部材41が図4に示す原位置にあるとき、突起42は、長孔38の乳母車の幅方向内方かつ下方に位置する。そしてロックピン34が摺動部材31の筒状体31aを貫通して、ロックピン孔35に入り込み係合状態になる。1対のロックピンが1対のロックピン孔に入り込む係合状態で、1対の摺動部材31は1対の後脚13上で摺動不能にされる。ロックピン孔35は乳母車の展開状態(図1)に対応する位置に形成されており、乳母車は展開状態を保持する。
【0040】
乳母車の幅方向に対し斜め方向に延びる長孔38およびこの長孔に係合する突起42は、乳母車の幅方向に対し直角方向に変位する操作部材41の運動を、乳母車の幅方向に変位するリンク部材36l,36mの運動に変換するものである。
【0041】
操作者が背面部材33を握り、図4に太い矢で示す向きに操作部材41を押し込むと、突起42は乳母車の幅方向における位置が一定のまま、長孔38に沿って上方へ移動し、2本のリンク部材36l,36mが図4に細い矢で示す向きに後退する。そしてロックピン34がロックピン孔35から抜け出て非係合状態になる。1対のロックピンが1対のロックピン孔から抜け出る非係合状態で、1対の摺動部材31は1対の後脚13に沿った摺動を許容される。そして操作者が背面部材33を握って操作部材41を押し込んだまま、背面部材33を上方へ引き上げると、背面部材33および摺動部材は上方へ変位し、後脚13が前脚11に対して近づくよう回動する。そして乳母車は図1に示す展開状態から図2に示す折り畳み状態へ変形する。
【0042】
次に操作者が背面部材33から手を離すと、操作部材41はリターンスプリングによって原位置に復帰する。図5に示すようにロックピン孔35は、乳母車の展開状態(図1)に対応する下方位置に形成されるのみならず、乳母車の折り畳み状態(図2)に対応する上方位置にも形成されており、ロックピン34が上方のロックピン孔35に再び入り込んで係合状態になることにより、乳母車は折り畳み状態を保持する。なおリターンスプリングは例えば、リンク部材36l,36m間に縮設されて、リンク部材36l,36mを乳母車の幅方向外方へ付勢するものであってもよい。あるいは、背面部材33と操作部材41間に縮設されて、操作部材41を下方へ付勢するものであってもよい。
【0043】
操作者が乳母車を折り畳み状態から展開状態に展開することを所望する場合、上述の説明と逆の操作を行えばよい。
【0044】
本実施例では、ロック機構が不用意に動作することを防止する安全装置として、安全カバー45を背面部材33に設けてもよい。安全カバー45は操作部材41を覆い、操作者の意に反して操作部材41が上方へ押し込まれることを阻害する。ロック機構を非係合状態にする場合、操作者は安全カバー45を開くなどして、操作部材41を操作すればよい。
【0045】
以上、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明したが、この発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
この発明になる折畳式乳母車は、育児器具の分野において有利に利用される。
【符号の説明】
【0047】
11 前脚、12 前輪、13 後脚、14 後輪、15 前後方向部材、21 押し棒、22 連結部材、23 案内スリーブ、24 ハンドル部材、25 脚部連結部材、
28 グリップ部、31 摺動部材、31h 貫通孔、32 固定ブラケット、33 背面部材、34 ロックピン、35 ロックピン孔、36l 第1リンク部材、36m 第2リンク部材、37 ピン、38,39 長孔、42 突起、45 安全カバー。
図1
図2
図3
図4
図5