【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は,急速凝固技術により,金属ストリップを製造する装置を提供する。この装置は,外部表面を有する可動ヒートシンクと圧延装置を含む。溶融物が外部表面に注がれ,凝固することで,ストリップが製造される。ヒートシンクが動いている間,圧延装置を可動ヒートシンクの外部表面に対して押しつけることができる。
【0007】
本発明に係る装置において,外部表面は,ヒートシンクが動いている間,圧延装置と接触している。圧延装置は,溶融物が凝固する前に,繰り返し外部表面を調製するために使用される。外部表面が平滑化するように,圧延装置によって外部表面をローラーバニシングさせ,それによって外部表面は作動することができる。本明細書において,‘作動する’は,材料の再分配を意味すると理解される。ブラシによって達成することができる外部表面の物質の除去は,本発明の圧延装置の使用目的ではない。製造プロセスでは,チップは生成されず,悪影響を及ぼす可能性のあるゴミやほこりもほとんどない。
【0008】
外部表面を作動させるために必要な圧力は,材料とヒートシンク又はヒートシンクの外部表面の状態によって決まる。低い圧力は,鋼のような硬質材料よりも銅などの軟質材料に使用される。
【0009】
圧延装置は,ストリップがヒートシンクから分離する位置と注湯表面,すなわち溶融物がヒートシンクに到達する位置との間に位置する,可動ヒートシンクの外部表面に対して特に押しつけられる。外部表面は,ストリップがその上で凝固した後,次の溶融物との接触の前に,圧延装置によって作動することができる。
【0010】
ある態様では,圧延装置は,外部表面が圧延装置で平滑化されるように,可動ヒートシンクの外部表面に押し付けられる。その結果,圧延装置と接触する前よりも,圧延装置と接触した後又は圧延装置により作動した後のほうが,外部表面の粗さはより少なくなる。これは,可動ヒートシンクの外部表面上のストリップの凝固によって製造されるストリップの粗さ,特にストリップの表面の粗さを低く抑えることができるという利点がある。その結果,ストリップの均質性は,長い区間にわたって保証されることになる。
【0011】
これは長い鋳造プロセスを可能にし,生産コストを削減する。加えて,低い表面粗さは,製造されるストリップの様々な特性を向上させることができる。いくつかの磁気合金の表面粗さは,例えば,それらの磁気特性に影響を与える。均質で低い表面粗さの長いストリップを生産することによって,均質な特性を有する複数の磁心が,1つの鋳造プロセスで製造することができることになる。これは,無駄がより少なくなることにより,製造コストを削減する。
【0012】
ある態様では,圧延装置は,溶融物が可動ヒートシンクの外部表面に注がれている間に,継続的に可動ヒートシンクの外部表面に接触するように設計されている。この構成によって,溶融物が凝固する表面を,外部表面が再び溶融物と接触する前に,作動させることができる。この結果,より均質な外部表面が生じることで,急速に凝固されたストリップが生成される。
【0013】
他の態様では,圧延装置は,溶融物が可動ヒートシンクの外部表面に注がれている間,外部表面を作動させることによって可動ヒートシンクの外部表面の粗さを取り除くように設計されている。外部表面が作動することによって,表面の粗さが取り除かれる。
【0014】
ある態様では,可動ヒートシンクは,回転軸を中心に動く。すなわち運動は回転である。所望の冷却速度と,目的のストリップの厚さを達成するために,ヒートシンクの周速は,それに応じて設定されている。周速が増加するにつれて,ストリップの厚さは,薄くなっていく。典型的な冷却速度は,10
5K/s以上である。周速度は10m/sから50m/sでもよい。
【0015】
ヒートシンクは,車輪又はローラーの形状を有してもよく,それぞれの車輪やローラーの外周面に溶融物が接触してもよい。したがって,回転軸は,車輪の円周の中心に垂直となる。
【0016】
ある態様では,圧延装置は,可動ヒートシンクの回転軸に平行に動く。この構成では,圧延装置は,ヒートシンクの幅の異なる領域,例えば車輪の外周面の一部のみに接触することができる。これは,ヒートシンク上にいくつかの鋳造帯がある場合,有利である。ある鋳造帯は,他の鋳造帯の後に圧延装置により作動することができる。これにより,複数の鋳造物を,ヒートシンクを交換する必要がなく,異なる鋳造帯ではなく,1つでかつ同一のヒートシンクで製造できる。これは,製造時間を短縮させ,生産コストを減らすことになる。
【0017】
圧延装置は,代わりに可動ヒートシンクの外部表面と垂直に動いてもよい。外部表面が,z軸方向に動く場合,圧延装置は,x軸方向及び/又はy軸方向に動いてもよい。x軸方向の運動は,例えば,外部表面の異なるストリップ形状領域を作動させてもよい。y軸方向の運動は,外部表面に圧延装置を押しつける圧力を調整するために使用することができる。
【0018】
ある態様では,圧延装置は,可動ヒートシンクの外部表面に回転自在に押しつけられたローラーを含む。圧延装置のローラーは,繰り返し外部表面を調整するために,可動ヒートシンクの外部表面に接触している。圧延装置は,ローラーが回転自在に取り付けられ,それぞれの外部表面で動くように,例えば,可動ヒートシンクの回転軸に平行な,及び/又はヒートシンクの外部表面に平行な,ローラー保持具をさらに含むことになる。
【0019】
ある態様では,100mm未満の直径を有する球形ローラーでかつ1000N以上の接触力で,圧延装置を可動ヒートシンクの外部表面に対して押しつけることができる。接触力又は表面の圧力は,材料の巨視化,すなわち大規模な表面,又は変位や変形を避けるために,ヒートシンクの降伏強度よりは低いのが一般的である。前述したように,外部表面を適切に作動させる圧力は,圧延装置やローラーの形状だけでなく,外部表面の材料によっても決定される。
【0020】
ある態様では,ローラーは,ローラーの速度を設定する制御装置を別個に有している。これにより,圧延装置のローラーの速度を,ヒートシンクの速度とは無関係に調整することができる。
【0021】
さらなる態様では,本装置は,ヒートシンクの運動によって圧延装置を駆動させるために,圧延装置のローラーを可動ヒートシンクの外部表面に対して押しつけることがきるように設計されている。この場合,ローラーは独自の駆動力を持っていない。そのため,回転するローラーの表面は,ヒートシンクの外部表面を確実に作動させる圧力で回転するヒートシンクの外部表面に押し付けられる。
【0022】
ある態様では,圧延装置のローラーは第1の回転方向を有し,ヒートシンクは第2の回転方向を有する。第1の回転方向は第2の回転方向と逆方向である。この構成では,可動ヒートシンクの外部表面は,圧延プロセス又はローラーバニシングプロセスによって調整される。
【0023】
ある態様では,圧延装置のローラーは,ヒートシンクの第2の回転軸と平行に外部表面にわたって動く。第2の回転軸に平行な方向の運動で,外部表面は,らせん状に接触され,作動することができる。これは,外部表面が曲がっていないという利点を有しているため,ストリップの厚さはその幅全体にわたって同じままである。
【0024】
ある態様では,本装置は,注がれることになる溶融物のコンテナをさらに有している。このコンテナは,1回の量の溶融物が注がれる開口部が,外部の表面からわずかな距離で配置されるため,外部表面に近接するノズルのコンテナであってもよい。
【0025】
コンテナ又は本装置は,それぞれ,さらに溶融材料を溶融する加熱手段及び/又は溶融材料を溶融状態で保つための加熱手段をさらに含んでもよい。
【0026】
本装置は,凝固したストリップを受け取る,受取装置をさらに含んでもよい。この受取装置は,例えばリールでもよい。
【0027】
また,本発明は,急速凝固技術によるストリップの製造方法を提供する。本方法では,溶融物及び外部表面を含む可動ヒートシンクが提供される。溶融物は,可動ヒートシンクの外部表面上に注がれ,ストリップを形成しながら,外部表面で凝固する。圧延装置は,ヒートシンクが動いている間,ヒートシンクの外部表面に押し付けられる。
【0028】
本方法は,ヒートシンクとそれに伴う外部表面を速く運動させながら,金属または合金の溶融物がヒートシンクの外部表面との接触面で急速に凝固させる,急速凝固技術に基づいている。溶融物は,ヒートシンクの運動によって,凝固した金属又は合金から長いストリップが形成されるように,外部表面に続々と注がれている。
【0029】
ヒートシンクの外部表面は,ヒートシンクとそれに伴う外部表面が回転している間に,圧延装置の手段によりローラーバニシングされる。このローラーバニシングは,外部表面が平滑化されながら作動するように行われる。
【0030】
外部表面の粗さと不規則性は,溶融物と外部表面との接触により生じる。外部表面は,繰り返し溶融物と接触するため,その品質は鋳造時間が増えるとますます悪くなる。
【0031】
再度溶融物と接触する外部表面が滑らかになるように,これらの不規則性を圧延装置で平滑化することができる。その結果,溶融物が外部表面で凝固するときに形成されるストリップの底面の粗さを,ストリップの長さにわたってより均一に保つことができる。
【0032】
ある態様では,圧延装置は,溶融物がヒートシンクの外部表面に注がれている間に,継続的に,外部表面と接触し,外部表面を作動させるように,ヒートシンクの外部表面に押し付けられている。これにより,溶融物が凝固する表面を作動させ又は滑らかにできる。
【0033】
外部表面を作動させることにより,圧延装置と接触する前の外部表面の粗さよりも,圧延装置に接触した後のほうが,外部表面の粗さは取り除かれる。圧延装置は,溶融物が外部表面に注がれる前に,可動ヒートシンクの可動する外部表面に押し付けられる。したがって,圧延装置は,溶融物が外部の接触面に当たる位置の下流側に配置される。これは,急速に凝固されたストリップの裏面の均一性だけでなく,ヒートシンクの外部表面の均一性も向上させる。
【0034】
ある態様では,圧延装置は,回転自在に取り付けられたローラーを含む。
【0035】
ヒートシンクは,回転可能な車輪の形で提供されてもよい。溶融物は車輪のリムの上に注がれる。圧延装置のローラーは,リムとともに,リムの表面を作動させ,滑らかにする圧延機を形成するように,配置されてもよい。
【0036】
回転可能なローラーが圧延装置として提供される場合,ヒートシンクが第2の回転方向に駆動している間,このローラーは第1の回転方向に駆動することができる。第1の回転方向は,第2の回転方向と逆向きである。ローラーとヒートシンクの間の摩擦によって,ヒートシンクがローラーを駆動させてもよい。結果として2つの反対向きの回転方向が生じる。別の方法として,ローラーを独自の制御の下で独立して駆動させてもよい。
【0037】
ある態様では,外部表面をらせん状に接触させ作動させるように,ヒートシンクが動いている間,ローラーをヒートシンクの第2の回転軸と平行に,外部表面にわたって動かされる。この態様は,外部表面の全幅にわたってムラを軽減するために使用することができる。
【0038】
他の態様として,外部表面の広い領域に接触できるように,ローラーはヒートシンクの第2の回転軸に平行に動いてもよい。2つ以上の鋳造帯が外部表面で提供されるようにヒートシンクが設計されている場合,この方法を使用することができる。
【0039】
ストリップは,ヒートシンクの外部表面上に急速凝固法によって製造された後,凝固した溶融物のひけと外部表面の回転により,外部表面から分離される。ストリップの割れやねじれを避けるために,リールにこのストリップを継続的に巻きつけることができる。
【0040】
少なくとも30kmの長さを有する金属ストリップも同様に本明細書に含まれる。このストリップは,ストリップの端部から少なくとも20kmの位置で,表面粗さRaが0<Raの<0.6となる少なくとも一つの表面を有する。R
aは,中心線平均高さである。
【0041】
さらなる態様において,表面粗さを可能な限り低くすることは,本発明の目的ではない。ストリップの品質を良くするために,圧延装置の接触圧力によって調整することができる表面粗さは,長い製造工程でもほぼ一定に保たれる。少なくとも20kmの長さにわたって,表面粗さRaを,0.2<Raは<0.6μm+/−0.2μm,好ましくは+/−0.15μmの範囲内に保持させることができる。
【0042】
このストリップは,長い鋳造時間後であって,ストリップの端から,特にストリップの始まりから少なくとも20kmの距離にある位置で,低い表面粗さを得られるように,本発明の装置と方法で製造される。
【0043】
ある態様では,金属ストリップは,延性があり,かつ非晶質であるか又は延性があり,かつナノ結晶である。ストリップの結晶化又は結晶度は,冷却速度及び/又はストリップの組成により設定することができる。
【0044】
金属ストリップは,例えばT
aM
bの多数の異なる組成を有してもよい。ここで,Tは,Fe,Co,Ni,Mn,Cu,Nb,Mo,Cr,Zn,S及びZr等の1つ以上の遷移金属であり,Mは,B,Si,C及びPなどの1つ以上のメタロイドである。aは70原子%≦a≦85原子%であり,bは,15原子%≦b≦30原子%である。
【0045】
ナノ結晶のストリップは,Fe
aCu
bM
cM’
dM’’
eSi
fB
gから組成されてもよい。ここで,Mは,IVa族,Va族,VIa族元素のグループからの1つ以上の元素又は1つ以上の遷移金属であり,M’は,Mn元素,Al元素,Ge元素及び白金元素からの1つ以上の元素であり,M’’は,Co及び/又はNiである。また,式中,a+b+c+d+e+f+g=100原子%であり,それぞれ,0.01≦b≦8,0.01≦c≦10,0≦d≦10,0≦e≦20,10≦f≦25,3≦g≦12,及び17≦f+g≦30である。
【0046】
請求項のいずれかに記載の装置は,T
aM
b又はFe
aCu
bM
cM’
dM’’
eSi
fB
gから成る金属ストリップを生産するのに使用されてもよい。T
aM
bに関して,Tは,Fe,Co,Ni,Mn,Cu,Nb,Mo,Cr,Zn,S及びZr等の1つ又は複数の遷移金属であり,Mは,B,Si,C及びPなどの1つ以上のメタロイドである。aは70原子%≦a≦85原子%であり,bは,15原子%≦b≦30原子%である。Fe
aCu
bM
cM’
dM’’
eSi
fB
gに関して,Mは,IVa族,Va族,VIa族元素のグループからの1つ以上の元素又は遷移金属であり,M’は,Mn元素,Al元素,Ge元素及び白金元素からの1つ以上の元素であり,M’’は,Co及び/又はNiである。また,式中,a+b+c+d+e+f+g=100原子%であり,それぞれ,0.01≦b≦8,0.01≦c≦10,0≦d≦10,0≦e≦20,10≦f≦25,3≦g≦12,17≦f+g≦30である。
【0047】
実施形態については,図面を参照して以下により詳細に説明されている。