(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5963460
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】スピーカ用ダンパー及びこれを用いたスピーカ
(51)【国際特許分類】
H04R 9/02 20060101AFI20160721BHJP
【FI】
H04R9/02 103Z
【請求項の数】5
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-20452(P2012-20452)
(22)【出願日】2012年2月2日
(65)【公開番号】特開2013-162196(P2013-162196A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2015年1月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】512027511
【氏名又は名称】株式会社遊音工房
(74)【代理人】
【識別番号】100098969
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 正行
(72)【発明者】
【氏名】人見 隆典
【審査官】
武田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−016687(JP,A)
【文献】
特開2004−112276(JP,A)
【文献】
特開昭59−139797(JP,A)
【文献】
実開昭59−033393(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームと、
軸線の周囲に磁気ギャップを有し、前記フレームに支持された磁気回路と、
互いに連結された振動板及びボイスコイルを含み、振動板の端部が前記フレームに固定され、ボイスコイルが軸方向に振動可能に前記磁気ギャップ内に配置された振動系部材と
を備えるスピーカの前記ボイスコイルを弾性的に支持するために、外周端部が前記フレームに、内周端部が前記ボイスコイルにそれぞれ固定されたダンパーにおいて、
前記軸線を中心とする一つの円周線上に、周方向に延び且つ平面視で実質的に面積を有しない線状をなす切り込みが設けられていることを特徴とするスピーカ用ダンパー。
【請求項2】
前記外周端部と内周端部との間にコルゲーションを有し、前記切り込みがコルゲーションの頂部又は底部に設けられている請求項1に記載のスピーカ用ダンパー。
【請求項3】
前記複数の切り込みのうち隣り合う切り込みの間に肉厚部が形成されている請求項1又は2に記載のスピーカ用ダンパー。
【請求項4】
前記複数の切り込みの長さの合計が前記円周線の全長3分の2以上、隣り合う切り込み間の前記円周線上の円弧の長さが10mm以下、切り込みの本数が3〜8である請求項1〜3のいずれかに記載のスピーカ用ダンパー。
【請求項5】
請求項1〜4に記載のスピーカ用ダンパーと、前記フレームと、前記磁気回路と、前記振動系部材とを備えていることを特徴とするスピーカ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スピーカ用ダンパー及びこれを用いたスピーカに関する。
【背景技術】
【0002】
音響機器などに用いられるスピーカは、基本的に
図6に軸方向断面図でスピーカ11として示すように支持体としてのフレーム12、磁気回路13、ボイスコイル14、振動板15及びダンパー16を備えている。磁気回路13はフレーム12に支持されていて、ボイスコイル14は磁気回路13に設けられた筒状の磁気ギャップ13aに対して軸方向に振動可能に配置され、振動板15はその一端がフレーム12に固定され、他端がボイスコイル14に連結されている。
【0003】
ダンパー16は、外周端部がフレーム12に固定され、内周端部でボイスコイル14を支持しており、ボイスコイル14の振動に追従して弾性変形しうる材質又は形状からなる。ボイスコイル14を確実に支持しようとしてダンパー16の剛性をあまり高くすると、ダンパー16がボイスコイル14の振動を抑制することとなる。かといって、ダンパー16を軟らかくしすぎると、ボイスコイル14が振動時に偏芯したり傾いたりし、磁気回路13と接触して異音を発生してしまう。
【0004】
従って、一般にダンパーは、ボイスコイルを支持するとともに、入力信号に応じて忠実にボイスコイルを軸方向に振動させるという相矛盾する二つの機能を両立させる構造をとる必要がある。これを実現するべく、例えばダンパーに部分的にスリットないし開口を設けることにより、その部分における剛性を低下させ、入力される音声信号の振幅が小さいときは、この部分が反応して再生し、振幅が大きいときは、スリットや開口の無い部分を含む全体が反応して再生するようにした構造が提案されている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−281637号公報
【特許文献2】特開2011−166335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1や特許文献2に記載のダンパーを板ばねに置き換えると、通常の板ばねが一様な幅を有しているのに対して、これらのダンパーは
図7(a)に平面図で示すようにスリットや開口に対応する位置でくびれたものとなる。従って、このようなダンパーの振動は、たとえ入力される音声信号の振幅が小さいときであっても幅小の部分が長さを有することから、
図7(b)に正面図で示すように、振動の節の位置が固定端に近いp点になったり、遠いq点になったりする。従って、再現性に乏しい。
【0007】
また、複数のスリットや開口が同一円周線上に対称に設けられているとしても、節の位置が非対称となることから、結局はボイスコイルが傾きやすくなる。
それ故、この発明の課題は、前記相矛盾する二つの機能を両立させながら、耐久性にも優れたダンパーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
その課題を解決するために、この発明のダンパーは、
フレームと、
軸線の周囲に磁気ギャップを有し、前記フレームに支持された磁気回路と、
互いに連結された振動板及びボイスコイルを含み、振動板の端部が前記フレームに固定され、ボイスコイルが軸方向に振動可能に前記磁気ギャップ内に配置された振動系部材と
を備えるスピーカの前記ボイスコイルを弾性的に支持するために、外周端部が前記フレームに、内周端部が前記ボイスコイルにそれぞれ固定されたダンパーにおいて、
前記軸線を中心とする一つの円周線上に
、周方向に
延びる切り込みが設けられていることを特徴とする。
【0009】
この発明のダンパーは、軸線を中心とする一つの円周線上に複数の切り込みを有するので、その円周線上において剛性が低下し、入力される音声信号の振幅が小さいときは、この部分が反応して音声を忠実に再生する。そして、振幅が大きいときは、この部分だけでなく切り込みの無い円周線上をも含む全体が反応して忠実に再生する。切り込みは平面視で実質的に面積を有しない線状をなしている。従って、振幅が小さいときの振動の節は、常にこの円周線上に位置し、再現性に優れるとともに、ボイスコイルが傾くこともない。
【0010】
切り込みの大きさや本数として好ましい範囲は、前記複数の切り込みの長さの合計が前記円周線の全長3分の2以上、隣り合う切り込み間の前記円周線上の円弧の長さが10mm以下、切り込みの本数が3〜8である。そして、この範囲に属する限り、隣り合う切り込み間の円弧の長さは短い方がよい。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、この発明のダンパーによれば、ボイスコイルを安定して支持しつつ、音声を再現性良く忠実に再生するという効果を長期的に発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】同ダンパーのコルゲーションをスプリングで等価的に置き換えたスピーカを示す軸方向一部断面図である。
【
図4】同ダンパーを板ばねで置き換えて表したもので、(a)がその平面図、(b)が正面図である。
【
図5】もう一つの実施形態のダンパーを示す斜視図である。
【
図7】同ダンパーを板ばねで置き換えて表したもので、(a)がその平面図、(b)が正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
−実施形態1−
この発明の実施形態に係るダンパーを図面とともに説明する。実施形態のダンパー6は、
図1に示すように、平面視円形で、外周端部がスピーカのフレームに固定され、内周端部でボイスコイルを支持するもので、その外周端部と内周端部との間に放射状に広がるコルゲーションが形成されている。ダンパー6は、織布又は不織布からなり、必要により樹脂が浸透させられ、コルゲーションの部分で径方向に伸縮可能である。
【0014】
ダンパー6には、そのコルゲーションの頂部に周方向に8本の切り込み6aが等間隔に設けられている。切り込み6aは、例えば刃厚0.5mm前後のカッターで切断することにより、形成されている。ただし、
図2(a)に示すように、切り込み6aの形成によって除去される部分は無く、カッターを抜いた後の対向する切断面は、素材の復元力によって互いに接触している。切り込み6aは、
図2(b)に示すようにコルゲーションの底部に設けられていても良い。
【0015】
ダンパー6のコルゲーションをスプリングで等価的に置き換えたスピーカ構造を示すと
図3の通りである。スピーカ1は、ダンパー6の他に磁気回路4を支持するフレーム2、ボイスコイル4及び振動板5を備えている。ボイスコイル4及び振動板5は、ボイスコイル5の上端と振動板5の内周端部とで互いに連結されている。振動板5の外周端部はフレーム2に固定され、ボイスコイル4は振動板5を伴って軸方向に振動可能に磁気ギャップ3a内に配置されている。
【0016】
ダンパー6は、切り込み6aを有する円周線上では変形しやすくなることから、従来の硬いばね6bに振幅の小さい軟らかいばね6cを直列に接続した弾性体として機能する。即ち、振幅の小さいときは切り込み6aが形成されている円周線上を節として軟らかいばねのように入力信号に応じて忠実に伸縮し、振幅の大きいときは外周端部を節として全体が伸縮する。しかもダンパー6を前記従来のダンパー16と同様に板ばねで置き換えると、
図4(a)に示すように切り込み6aが平面視で面積を実質的に有していないから、振動の節の位置は
図4(b)に示すように常に切り込み6aの線上にあり、再現性に優れる。8本の切り込み6aが等間隔に設けられているので、ボイスコイル4が傾くこともない。
【0017】
尚、切り込み6aをコルゲーションの斜面に設けても良いが、コルゲーションの頂部又は底部に設けることにより、斜面に設けられている構成に比べて少ない本数の切り込み、又は短い切り込みでもダンパー6が弾性変形しやすくなって好ましい。
【0018】
−実施形態2−
第二の実施形態のダンパー26は、
図5に示すように、複数の切り込み26aのうち隣り合う切り込み26aの間に肉厚部26bが形成されており、その他の点では前記実施形態におけるダンパー6と同形同質であってよい。肉厚部26bは、この部分だけもう一枚布を重ね合わせて貼り付ける、ゴムを塗布するなどの手段によって形成される。このように隣り合う切り込み26aの間を肉厚にすることにより、切り込み26aの形成に伴う強度低下を防ぐことができる。
【符号の説明】
【0019】
1、11 スピーカ
2、12 フレーム
3、13 磁気回路
4、14 ボイスコイル
5、15 振動板
6、16、26 ダンパー
6a、26a 切り込み