特許第5963489号(P5963489)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5963489
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】積層ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20160721BHJP
【FI】
   B32B27/36
【請求項の数】1
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2012-62962(P2012-62962)
(22)【出願日】2012年3月21日
(65)【公開番号】特開2013-193331(P2013-193331A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2014年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006172
【氏名又は名称】三菱樹脂株式会社
(72)【発明者】
【氏名】筑摩 和哉
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雄三
【審査官】 相田 元
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−214354(JP,A)
【文献】 特開2004−010875(JP,A)
【文献】 特開2011−230442(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C08J 7/00− 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両最表層がエステル環状三量体の含有量0.5重量%以下のポリエステル80重量%以上から構成された厚み4μm以上の層であり、少なくとも3層以上の積層構造を有する、厚み45〜200μmの積層ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、ポリエステル樹脂と平均粒径15nm以下の酸化チタン粒子を含有する塗布液から形成された塗布層を有することを特徴とする積層ポリエステルフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層ポリエステルフィルムに関するものであり、例えば、150℃条件下での長時間の熱処理や、高い張力がかかる条件下でのスパッタリング工程や、高温高湿雰囲気下での耐久性試験など、過酷な条件下での工程を経た後であっても、フィルムヘーズの上昇が極力小さいこと、ハードコート等の種々の表面機能層を積層した際に外光反射による干渉ムラが少ないことを特徴とし、光学部材用の製品として加工した後でも光学特性・視認性に優れた光学用積層ポリエステルフィルムに関する。本発明は、特に光を透過して見る、いわゆる視認性を重視し、高度な透明性が必要とされる光学用途、例えば、タッチパネル用として好適な積層ポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、タッチパネル用途においては、位置検出方法により、抵抗膜方式、静電容量方式等の各種方式が採用されている。その中でも、多点検出が可能で、光透過率が高いこと、かつ分解能が高く応答速度が速いことが特徴である静電容量方式の普及が増加する傾向にある。静電容量方式のタッチパネルには表面型と投影型の2つの方式がある。表面型はカバー、透明導電層、ガラス基板の3層から成る構成となっており、投影型は、ガラスやプラスチック製のフィルム、透明電極層、演算処理を行うICを搭載した基板層から構成される。
【0003】
透明導電性積層体の製造工程においては、加熱加工されるのが一般的である。例えば、透明導電性膜を形成するために、スパッタリング法によりITO膜を形成し、その後、結晶化させるために150℃で熱処理を行う場合や(特許文献1)、導電性積層フィルム作製の際に低熱収縮化処理のために150℃で1時間放置する場合や(特許文献2)、透明導電性フィルムを加工する際に、銀ペーストなどを印刷するために150℃程度の熱処理が必要な場合がある(特許文献3)。透明導電性薄膜製造工程においては、高温雰囲気下における熱処理に伴い、ポリエステルフィルム中に含有されるエステル環状三量体がフィルム表面に析出・結晶化し、塗布欠陥等の発生により、高精度な透明導電性薄膜を得るのが困難になる場合がある。
【0004】
また、タッチパネル用途においては、近年、携帯電話、PDA(Personal Digital Assistance)等の通信情報機器、ゲーム機等への搭載頻度が増加する傾向にあり、当該分野の市場成長に伴い、従来よりもさらに高度な視認性が嗜好される傾向にある。その結果、当該分野に使用されるポリエステルフィルムにおいては、加工後のエステル環状三量体析出に起因するフィルムヘーズ上昇に伴う視認性低下もますます問題視されるようになってきている状況にあった。
【0005】
ポリエステルフィルム基材上に塗布層を塗設することにより、エステル環状三量体の析出を抑える手法も提案されている(特許文献4)。しかしながら、加工工程における搬送用ガイドロールとポリエステルフィルム面との接触、擦れなどによる塗布層の剥がれなどが生じることもあり、このような場合は当該部分のエステル環状三量体析出が抑えられないこと、また、ポリエステル基材のエステル環状三量体析出量自体が減少した場合は、エステル環状三量体析出を抑える機能を有する塗布層との組み合わせでエステル環状三量体析出量をさらに低減できるためポリエステルフィルム基材自体のエステル環状三量体析出を抑える手法が強く求められている状況にもある。
【0006】
さらに、これらのフィルムには、カール防止や耐擦傷性の向上、表面硬度等の性能を向上させるために、ハードコート加工されることが多い。また、基材としては、透明性と機械特性に優れたポリエステルフィルムが一般的に使用される。ポリエステルフィルムとハードコート層の密着性を向上させるために、中間層として易接着の塗布層が設けられる場合が一般的であるが、ハードコート層と塗布層の界面での反射光と、塗布層とポリエステルフィルムの界面での反射光が干渉することで、虹模様のムラ(干渉ムラ)が発生することがある。
【0007】
干渉ムラのあるフィルムをタッチパネル等のディスプレイ部材に使用すると、視認性が悪く、使用しづらいものとなってしまう。このため、干渉ムラを軽減したフィルムを製造することが求められている。干渉ムラを軽減させるための塗布層の屈折率は、基材の二軸延伸ポリエステルフィルムの屈折率とハードコート層の屈折率の相乗平均付近と考えられ、この辺りの屈折率に調整することが理想的である。ポリエステルフィルムの屈折率が高いため、一般的には塗布層の屈折率を高く設計する必要がある。
【0008】
塗布層の屈折率を高くして、干渉ムラを改善した例としては、例えば、塗布層中に屈折率の高い金属キレート化合物や金属微粒子を配合する方法がある。キレート化合物の場合、水溶液中での金属キレートの不安定さから、組み合わせによっては塗布液の安定性が十分でない場合があり、長時間の生産を行う場合、液交換作業の増加を招く可能性がある(特許文献5)。また、ポリエステル樹脂と金属微粒子の組み合わせで屈折率を高くした例も知られているが、この場合は近年要求されている、厳しい耐湿熱密着性を十分に出すことができない場合がある(特許文献6,7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−200823号公報
【特許文献2】特開2007−42473号公報
【特許文献3】特開2007−320144号公報
【特許文献4】特開2003−237005号公報
【特許文献5】特開2005−97571号公報
【特許文献6】特開2004−54161号公報
【特許文献7】特開2008−169277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、光学部材用の製品として加工した後でも光学特性・視認性に優れた光学用積層ポリエステルフィルムを提供することであって、具体的には例えば、150℃条件下での長時間の熱処理や、高い張力がかかる条件下でのスパッタリング工程や、高温高湿雰囲気下での耐久性試験など、過酷な条件下での工程を経た後であっても、フィルムヘーズの上昇が小さく抑えられ、さらにハードコート等の種々の表面機能層を積層した際に外光反射による干渉ムラが少なく、光学部材用の製品として加工した後でも光学特性・視認性に優れた光学用積層ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記実情に鑑み、鋭意検討した結果、特定構成のポリエステルフィルムによれば上述の課題を容易に解決できることを知見し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は、両最表層がエステル環状三量体の含有量0.5重量%以下のポリエステル80重量%以上から構成された厚み4μm以上の層であり、少なくとも3層以上の積層構造を有する、厚み45〜200μmの積層ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、ポリエステル樹脂と平均粒径15nm以下の酸化チタン粒子を含有する塗布液から形成された塗布層を有することを特徴とする積層ポリエステルフィルムに存する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、例えば、150℃条件下での長時間の熱処理や、高い張力がかかる条件下でのスパッタリング工程や、高温高湿雰囲気下での耐久性試験など、過酷な条件下での工程を経た後であっても、フィルムヘーズの上昇が小さく抑えられ、またハードコート等の種々の表面機能層を積層した際の外光反射による干渉ムラが少なく、光学部材用の製品として加工した後でも光学特性・視認性に優れた光学用積層ポリエステルフィルムを提供することができ、高度な視認性が必要とされる光学用途、例えば、タッチパネル用として好適に利用でき、本発明の工業的価値は高い。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の光学用積層ポリエステルフィルムは、少なくとも3層以上の多層フィルムであることを必須の要件とするものである。本発明にいう光学用積層ポリエステルフィルムとは、押出口金から溶融押し出される、いわゆる押出法により、押し出されたポリエステルフィルムであって、必要に応じ、縦方向および横方向の二軸方向に配向させたフィルムである。
【0015】
本発明において、ポリエステルとは、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られる。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。代表的なポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレ−ト(PET)、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレ−ト(PEN)等が例示される。
【0016】
また、本発明で用いるポリエステルは、ホモポリエステルであっても共重合ポリエステルであってもよい。共重合ポリエステルの場合は、通常30モル%以下の第三成分を含有した共重合体である。共重合ポリエステルのジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、および、オキシカルボン酸(例えば、P−オキシ安息香酸など)の一種または、二種以上が挙げられ、グリコール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノーネオペンチルグリコール等の一種または二種以上が挙げられる。
【0017】
本発明で両最表層は、エステル環状三量体の含有量が0.5重量%以下であるポリエステル80重量%以上から構成される。エステル環状三量体の含有量が0.5重量%を超えたポリエステルを使用した場合、もしくはその含有量が80重量%未満だった場合、生成される積層ポリエステルが150℃条件下での長時間の熱処理や、高い張力がかかる条件下でのスパッタリング工程や、高温高湿雰囲気下での耐久性試験など、過酷な条件下での加工工程で使用される際、フィルムヘーズが大きく上昇し、製品として加工した後に光学特性・視認性の点で光学部材用としては適さない。
【0018】
本発明のフィルムは、その両最表層の厚みを4μm以上とし、好ましくは5μm以上、さらに好ましくは6μm以上である。最表層の厚みが4μm未満とした場合、エステル環状三量体含有量が少ない最表層のエステル環状三量体析出封止効果が薄れてしまう。
【0019】
全フィルム厚みが45μm未満の場合、フィルムに透明導電性膜を形成した後、フィルム−フィルムを張り合わせて形成する透明導電性膜シート(積層透明導電膜フィルム)を形成する際、フィルムにシワが生じて適正に透明導電膜シートを形成できない。また、200μmを超える場合、フィルムに透明導電性膜を形成した後、フィルム−フィルムを張り合わせて形成する透明導電性膜シート(積層透明導電膜フィルム)を形成するシートのシート柔軟性(flexibility)が損なわれてしまう。
【0020】
本発明のフィルムのポリエステル層中には、易滑性の付与および各工程での傷発生防止を主たる目的として、粒子を配合しても良い。配合する粒子の種類は、易滑性付与可能な粒子であれば特に限定されるものではなく、具体例としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化チタン等の粒子が挙げられる。また、特公昭59−5216号公報、特開昭59−217755号公報等に記載されている耐熱性有機粒子を用いてもよい。この他の耐熱性有機粒子の例として、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂、熱硬化性エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等が挙げられる。さらに、ポリエステル製造工程中、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。
【0021】
一方、使用する粒子の形状に関しても特に限定されるわけではなく、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。これら一連の粒子は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
【0022】
ポリエステルフィルム中に配合する粒子の平均粒径としては、特に限定されるものではないが、通常0.02μm〜3μm、好ましくは0.02μm〜2.5μm、さらに好ましくは0.02μm〜2μmの範囲である。平均粒径が0.02μm未満の粒子を用いた場合には、十分な易滑性の付与が出来ないため、フィルム製造工程における巻き特性が劣る傾向がある。また、平均粒径が3μmを超える場合には、フィルム表面の粗面化の度合いが大きくなりすぎてフィルムヘーズが上昇する場合がある。
【0023】
さらにポリエステル層中の粒子含有量は、通常0.0005〜0.5重量%、好ましくは0.001〜0.3重量%の範囲である。粒子含有量が0.0005重量%未満の場合には、フィルムの易滑性が不十分な場合がありフィルム加工時に傷等の外観不良が生じる。一方、0.5重量%を超えて添加する場合にはフィルムの透明性が不十分な場合がある。
【0024】
本発明において、ポリエステルに粒子を配合する方法としては、特に限定されるものではなく、公知の方法を採用し得る。例えば、ポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、好ましくはエステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後重縮合反応開始前の段階でエチレングリコール等に分散させたスラリーとして添加し、重縮合反応を進めてもよい。また、ベント付き混練押出機を用い、エチレングリコールまたは水などに分散させた粒子のスラリーとポリエステル原料とをブレンドする方法、または、混練押出機を用い、乾燥させた粒子とポリエステル原料とをブレンドする方法などによって行われる。
【0025】
本発明の積層ポリエステルフィルムを構成する塗布層の形成について説明する。塗布層に関しては、ポリエステルフィルムの製膜工程中にフィルム表面を処理する、インラインコーティングにより設けられてもよく、一旦製造したフィルム上に系外で塗布する、オフラインコーティングを採用してもよい。製膜と同時に塗布が可能であるため、製造が安価に対応可能であることから、インラインコーティングが好ましく用いられる。
【0026】
インラインコーティングについては、以下に限定するものではないが、例えば、逐次二軸延伸においては、特に縦延伸が終了した横延伸前にコーティング処理を施すことができる。インラインコーティングによりポリエステルフィルム上に塗布層が設けられる場合には、製膜と同時に塗布が可能になると共に、延伸後のポリエステルフィルムの熱処理工程で、塗布層を高温で処理することができるため、塗布層上に形成され得る各種の表面機能層との接着性や耐湿熱性等の性能を向上させることができる。また、延伸前にコーティングを行う場合は、塗布層の厚みを延伸倍率により変化させることもでき、オフラインコーティングに比べ、薄膜で均一な塗工を行うことができる。すなわち、インラインコーティング、特に延伸前のコーティングにより、ポリエステルフィルムとして好適なフィルムを製造することができる。
【0027】
本発明においては、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、ポリエステル樹脂と酸化チタン粒子を含有する塗布液から形成される塗布層を有することを必須の要件とする。 本発明者らは、高度に干渉ムラを軽減させるために、ハードコート層等の表面機能層の屈折率と塗布層の屈折率を、二軸延伸ポリエステルフィルムの屈折率と同等付近に設計する方法を考えついた。干渉ムラを軽減させるための塗布層の屈折率は、基材の二軸延伸ポリエステルフィルムの屈折率とハードコート層の屈折率の相乗平均付近に調整することが理想的であるが、さらにこれらの屈折率を同等付近にすることで、それぞれの界面での反射がより抑えられるため干渉ムラはより高度に軽減される。また干渉ムラは塗布層の厚み振れによっても引き起こされるが、本発明の塗布層では、塗布層に厚み振れがあっても干渉ムラが発生しにくいということが考えられる。本発明は、この設計思想を実現するために塗布層の屈折率をポリエステルフィルムと同等付近に設計したものである。
【0028】
本発明におけるポリエステル樹脂とは、主な構成成分として例えば、下記のような多価カルボン酸および多価ヒドロキシ化合物からなる。すなわち、多価カルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、フタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸および、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2−カリウムスルホテレフタル酸、5−ソジウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、グルタル酸、コハク酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、無水トリメリット酸、無水フタル酸、p−ヒドロキシ安息香酸、トリメリット酸モノカリウム塩およびそれらのエステル形成性誘導体などを用いることができ、中でも塗布層間の屈折率差を小さくすることで干渉ムラが抑制できるため、ナフタレン構造を有することが好ましい。多価ヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオ−ル、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオ−ル、2−メチル−1,5−ペンタンジオ−ル、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、p−キシリレングリコ−ル、エチレングリコール変性ビスフェノールA、ジエチレングリコール変性ビスフェノールA、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコ−ル、ポリプロピレングリコ−ル、ポリテトラメチレングリコ−ル、ポリテトラメチレンオキシドグリコ−ル、ジメチロ−ルプロピオン酸、グリセリン、トリメチロ−ルプロパン、ジメチロ−ルエチルスルホン酸ナトリウム、ジメチロ−ルプロピオン酸カリウムなどを用いることができる。これら多価ヒドロキシ化合物の中でも、ポリエステル樹脂の屈折率をより上げられることから、芳香族化合物、例えばビスフェノールA構造を有することが好ましい。これらの多価カルボン酸と多価ヒドロキシ化合物の中からそれぞれ適宜1つ以上を選択し、常法の重縮合反応によりポリエステル樹脂を合成すればよい。
【0029】
本発明における酸化チタン粒子は、主に塗布層の屈折率調整のために使用するものである。特に塗布層中に使用する樹脂の屈折率が低いために、高い屈折率を有する酸化チタン粒子を使用することが好ましく、ポリエステルフィルムと同等付近の屈折率を有する塗布層を得るためには、屈折率として1.7以上のものを使用することが好ましい。必要に応じて、2種類以上の酸化チタン粒子を併用しても良い。
【0030】
酸化チタン粒子の平均粒径は透明性の観点から、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは25nm以下、特に好ましくは15nm以下である。
【0031】
本発明における塗布層の形成には、表面機能層との密着性や、塗布外観、表面機能層を形成したときの視認性や透明性を向上させるために、上述したポリエステル樹脂以外のポリマーを併用することも可能である。
【0032】
ポリマーの具体例としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニル(ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体等)、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンイミン、メチルセルロース、ヒドロキシセルロース、でんぷん類等が挙げられる。
【0033】
さらに本発明における塗布層の形成には、各種の表面機能層との密着性を向上させるために、架橋剤を併用することが望ましい。架橋剤としては、例えばエポキシ化合物、オキサゾリン化合物、イソシアネート系化合物などが挙げられる。特に、塗布層の厚みが薄くても密着性を向上させることができるという観点で、2種類以上の架橋剤を併用することが好ましい。
【0034】
エポキシ化合物とは、分子内にエポキシ基を含む化合物であり、例えば、エピクロロヒドリンとエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、ビスフェノールA等の水酸基やアミノ基との縮合物が挙げられ、ポリエポキシ化合物、ジエポキシ化合物、モノエポキシ化合物、グリシジルアミン化合物等がある。ポリエポキシ化合物としては、例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、トリグリシジルトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアネート、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ジエポキシ化合物としては、例えば、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、モノエポキシ化合物としては、例えば、アリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、グリシジルアミン化合物としてはN,N,N’,N’,−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノ)シクロヘキサン等、およびこれらの反応物が挙げられる。これらは単独でも2種以上の併用であってもよい。
【0035】
オキサゾリン化合物とは、分子内にオキサゾリン基を有する化合物であり、特にオキサゾリン基を含有する重合体が好ましく、付加重合性オキサゾリン基含有モノマー単独もしくは他のモノマーとの重合によって作成できる。付加重合性オキサゾリン基含有モノマーは、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン等を挙げることができ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。これらの中でも2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。他のモノマーは、付加重合性オキサゾリン基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば制限なく、例えばアルキル(メタ)アクリレート(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基)等の(メタ)アクリル酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸、スチレンスルホン酸およびその塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、第三級アミン塩等)等の不飽和カルボン酸類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;(メタ)アクリルアミド、N−アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド、(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等)等の不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレン、プロピレン等のα−オレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等の含ハロゲンα,β−不飽和モノマー類;スチレン、α−メチルスチレン、等のα,β−不飽和芳香族モノマー等を挙げることができ、これらの1種または2種以上のモノマーを使用することができる。
イソシアネート系化合物とは、イソシアネート、あるいはブロックイソシアネートに代表されるイソシアネート誘導体構造を有する化合物のことである。イソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メチレンジフェニルジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、イソプロピリデンジシクロヘキシルジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート等が例示される。これらは単独で用いても、複数種併用してもよい。
【0036】
ブロックイソシアネートの状態で使用する場合のブロック剤としては、例えば重亜硫酸塩類、フェノール、クレゾール、エチルフェノールなどのフェノール系化合物、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコール、ベンジルアルコール、メタノール、エタノールなどのアルコール系化合物、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトンなどの活性メチレン系化合物、ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン系化合物、ε‐カプロラクタム、δ‐バレロラクタムなどのラクタム系化合物、ジフェニルアニリン、アニリン、エチレンイミンなどのアミン系化合物、アセトアニリド、酢酸アミドの酸アミド化合物、ホルムアルデヒド、アセトアルドオキシム、アセトンオキシム、メチルエチルケトンオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム系化合物が挙げられ、これらは単独で用いても、複数種併用してもよい。
【0037】
さらに本発明の主旨を損なわない範囲において、塗布層の形成には必要に応じて消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、有機系潤滑剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、発泡剤、染料、顔料等を使用することも可能である。
【0038】
本発明における積層ポリエステルフィルムを構成する塗布層を形成する塗布液中の全不揮発成分に対する割合として、ポリエステル樹脂は、10〜90重量%の範囲、より好ましくは40〜85重量%の範囲である。この範囲で使用することにより、塗布層の屈折率の調整が容易になり、ハードコート層など表面機能層を設けた場合に干渉ムラを抑制しやすくなる。また、この範囲以外で使用した場合、表面機能層との密着性が低下する場合がある。
【0039】
本発明における積層ポリエステルフィルムを構成する塗布層を形成する塗布液中の全不揮発成分に対する割合として、酸化チタン粒子は、通常5〜60重量%、好ましくは8〜50重量%、さらに好ましくは20〜40重量%の範囲である。酸化チタン粒子の含量が5重量%以下の場合は塗布層の屈折率が高くならないことで干渉ムラが軽減できない場合があり、60重量%以上の場合は塗布層のヘーズが悪化する場合がある。
【0040】
本発明におけるポリエステルフィルムは少なくとも片面に塗布層を有するが、フィルムの反対面に同様のあるいは他の塗布層や機能層を設けていても、本発明の概念に当然含まれるものである。
【0041】
例えば、ポリエステルフィルムの片面にエステル環状三量体の析出を封止する性能を示す塗布層を設けてもよい。この場合、フィルムに設けられる塗布層を形成する塗布液の成分としては、4級アンモニウム塩基を有する化合物を用いることが好ましい。
【0042】
本用途に用いる4級アンモニウム塩基を有する化合物に関しては、分子中の主鎖や側鎖に、4級アンモニウム塩基を含む構成要素を有するものが対象となる。具体例としては、ピロリジウム環、アルキルアミンの4級化物、さらにこれらをアクリル酸やメタクリル酸と共重合したもの、N−アルキルアミノアクリルアミドの4級化物、ビニルベンジルトリメチルアンモニウム塩、2−ヒドロキシ3−メタクリルオキシプロピルトリメチルアンモニウム塩等が挙げられる。さらに、これらを組み合わせたり、あるいは他のポリマーと共重合させたりしても構わない。また、これら4級アンモニウム塩の対イオンとなるアニオンとしては例えば、ハロゲン、アルキルサルフェート、アルキルスルホネート、硝酸等のイオンが挙げられる。中でも、ハロゲン以外の対イオンが、特に環境を配慮する点で好ましい。
【0043】
本発明においては、4級アンモニウム塩基を有する化合物は高分子化合物であることが望ましい。分子量が低すぎる場合は、塗布層中から容易に除去されて経時的に性能が低下、あるいは塗布層のブロッキング等の不具合を生じる場合がある。また、分子量が低いと耐熱安定性に劣る場合がある。かかる観点より、4級アンモニウム塩基を有する化合物の数平均分子量は通常、1000以上、好ましくは2000以上、さらに好ましくは5000以上であることがよい。一方、数平均分子量が高すぎる場合は、塗布液の粘度が高くなりすぎる等の不具合を生じる場合がある。かかる観点より、数平均分子量の上限は500000以下を目安にするのが好ましい。また、これらの化合物は単独で用いても良いし、2種類以上組み合わせて用いても良い。
塗布層を形成する塗布液中における4級アンモニウム塩基含有ポリマーの配合量は20重量%〜70重量%の範囲であるのが好ましく、さらに好ましくは40重量%〜70重量%の範囲であるのがよい。当該範囲を外れる場合、所望するエステル環状三量体の封止効果を得るのが困難になる場合がある。また、より良好な塗布外観で、エステル環状三量体の析出を封止するため、メラミン化合物やポリビニルアルコールを併用する事が好ましい。
【0044】
塗布層中の各種成分の分析は、例えば、TOF−SIMS、ESCA、蛍光X線等の表面分析によって行うことができる。
【0045】
インラインコーティングによって塗布層を設ける場合は、上述の一連の化合物を水溶液または水分散体として、固形分濃度が0.1〜50重量%程度を目安に調整した塗布液をポリエステルフィルム上に塗布する要領にて積層ポリエステルフィルムを製造するのが好ましい。また、本発明の主旨を損なわない範囲において、水への分散性改良、造膜性改良等を目的として、塗布液中には少量の有機溶剤を含有していてもよい。有機溶剤は1種類のみでもよく、適宜、2種類以上を使用してもよい。
【0046】
本発明における積層ポリエステルフィルムに関して、ポリエステルフィルム上に設けられる塗布層の塗布厚みは、0.001〜1μm、より好ましくは0.01〜0.3μm、さらに好ましくは0.02〜0.15μmの範囲である。塗布量が0.001μm未満の場合は十分な密着性が得られない可能性があり、1μmを超える場合は、外観や透明性、フィルムのブロッキング性が悪化する可能性がある。
【0047】
本発明において、塗布層を設ける方法はリバースグラビアコート、ダイレクトグラビアコート、ロールコート、ダイコート、バーコート、カーテンコート等、従来公知の塗工方式を用いることができる。
【0048】
本発明において、ポリエステルフィルム上に塗布層を形成する際の乾燥および硬化条件に関しては特に限定されるわけではなく、例えば、オフラインコーティングにより塗布層を設ける場合、通常、80〜200℃で3〜40秒間、好ましくは100〜180℃で3〜40秒間を目安として熱処理を行うのが良い。
【0049】
一方、インラインコーティングにより塗布層を設ける場合、通常、70〜280℃で3〜200秒間を目安として熱処理を行うのが良い。
【0050】
また、オフラインコーティングあるいはインラインコーティングに係わらず、必要に応じて熱処理と紫外線照射等の活性エネルギー線照射とを併用してもよい。本発明における積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルムにはあらかじめ、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理を施してもよい。
【0051】
本発明におけるポリエステル樹脂と酸化チタン粒子を含有する塗布液から形成される塗布層が積層されたポリエステルフィルムの絶対反射率の最小値は、400〜800nmの任意の波長において5.5〜6.5%の範囲、好ましくは5.6〜6.4%の範囲、さらに好ましくは5.7〜6.3%の範囲である。反射率がこの範囲から外れた場合、塗布層上にハードコート等の表面機能層を設けた際に干渉ムラが強くなり、視認性が低下する場合がある。
【0052】
本発明においては、ディスプレイ用途等、透明性が要求される用途に使用する場合のために、透明性が高いフィルムがより好まれる。例えば、透明性の1つの指標としてヘーズが挙げられ、その値は、好ましくは2.0%以下、より好ましくは1.5%以下の範囲である。ヘーズが高い場合は、フィルムの視認性が低下する場合がある。
【0053】
本発明のポリエステルフィルムには、塗布層の上にハードコート層等の表面機能層を設けるのが一般的である。ハードコート層に使用される材料としては、特に限定されないが、例えば、単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、テトラエトキシシラン等の反応性珪素化合物等の硬化物が挙げられる。これらのうち生産性および硬度の両立の観点より、紫外線硬化性の多官能(メタ)アクリレートを含む組成物の重合硬化物であることが特に好ましい。
【0054】
紫外線硬化性の多官能(メタ)アクリレートを含む組成物としては特に限定されるものではない。例えば、公知の紫外線硬化性の多官能(メタ)アクリレートを一種類以上混合したもの、紫外線硬化性ハードコート剤として市販されているもの、あるいはこれら以外に本実施形態の目的を損なわない範囲において、その他の成分をさらに添加したものを用いることができる。
【0055】
紫外線硬化性の多官能(メタ)アクリレートとしては、特に限定されるものではないが、例えばジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ビス(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)ヘキサン等の多官能アルコールの(メタ)アクリル誘導体や、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、そしてポリウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0056】
紫外線硬化性の多官能(メタ)アクリレートを含む組成物に含まれるその他の成分は特に限定されるものではない。例えば、無機または有機の微粒子、重合開始剤、重合禁止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、分散剤、界面活性剤、光安定剤およびレベリング剤等が挙げられる。また、ウェットコーティング法において製膜後乾燥させる場合には、任意の量の溶媒を添加することができる。
【0057】
ハードコート層の形成方法は、有機材料を用いた場合にはロールコート法、ダイコート法等の一般的なウェットコート法が採用される。形成されたハードコート層には必要に応じて加熱や紫外線、電子線等の活性エネルギー線照射を施し、硬化反応を行うことができる。
【0058】
紫外線硬化性の多官能(メタ)アクリレートを含む組成物に含まれる無機粒子としては、二酸化ケイ素、アルミナ、酸化ジルコニウム、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化バリウム、カーボンブラック、硫化モリブデン、酸化アンチモン等が挙げられる。これらの中では、二酸化ケイ素が安価でかつ粒子径が多種あるので利用しやすい。
【0059】
紫外線硬化性の多官能(メタ)アクリレートを含む組成物に含まれる有機粒子としては、炭素−炭素二重結合を一分子中に2個以上含有する化合物(例えばジビニルベンゼン)により架橋構造を達成したポリスチレンまたはポリアクリレートポリメタクリレートが挙げられる。
【0060】
上記の無機粒子および有機粒子は表面処理されていてもよい。表面処理剤としては、例えば、界面活性剤、分散剤としての高分子、シランカップリング剤、チタンカップリング剤などが挙げられる。塗布層中の粒子の含有量は、透明性を阻害しない適切な添加量として10重量%以下が好ましく、さらには5重量%以下が好ましい。
【0061】
また、本発明のポリエステルフィルムに関して、着色剤、導電材料等を加えてもよく、さらにその上に静電気による電撃、ゴミ付着防止、さらには電磁波シールドを目的とした機能性多層薄膜を形成してもよい。
【0062】
また、本発明のポリエステルフィルムには、本発明の効果を損なわない範囲であれば、他の熱可塑性樹脂、例えばポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等を混合することができる。また、紫外線吸収剤、酸化防止剤、界面活性剤、蛍光増白剤、潤滑剤、遮光剤、マット化剤、および染料、顔料などの着色剤等を配合してもよい。また、必要に応じ、フィルムの滑り性や耐摩耗性を改良する目的などのために、ポリエステルに対し、不活性な無機または有機の微粒子などを配合することもできる。
【0063】
本発明における積層ポリエステルフィルムを熱処理(150℃、90分間)した前後におけるフィルム表面からジメチルホルムアミドにより抽出されるエステル環状三量体の量が、好ましくは0.4mg/m以下であり、より好ましくは0.3mg/m以下、さらに好ましくは0.2mg/m以下である。エステル環状三量体の量が0.4mg/mを超える場合、後加工において、例えば、150℃、90分間等、高温雰囲気下で長時間の加熱処理に伴い、エステル環状三量体析出量が多くなり、フィルムの透明性が低下する場合がある。
【0064】
使用される用途としては、例えば透明導電性のフィルム−フィルムを貼り合わせた静電容量タイプのタッチパネル用途に最適である。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、積層ポリエステルフィルムのポリエステル樹脂と酸化チタン粒子を含有する塗布層を有する面もしくは塗布層の無い面をA面、もう片面をB面と示す。また、本発明で用いた測定法は次のとおりである。
【0066】
(1)ポリエステルの極限粘度の測定
ポリエステルに非相溶な他のポリマー成分および顔料を除去したポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100mlを加えて溶解させ、30℃で測定した。
【0067】
(2)ポリエステル原料に含有される粒子の平均粒径の測定(d50)
(株)島津製作所社製遠心沈降式粒度分布測定装置SA−CP3型を用いてストークスの抵抗則にもとづく沈降法によって粒子の大きさを測定した。
【0068】
(3)塗布層に含有される粒子の平均粒径の測定
TEM(Hitachi社製 H−7650、加速電圧100V)を使用して塗布層を観察し、粒子10個の粒径の平均値を平均粒径とした。
【0069】
(4)ポリエステル原料に含有される含有エステル環状三量体量の測定方法
ポリエステル原料を約200mg秤量し、クロロホルム/HFIP(ヘキサフルオロ−2−イソプロパノル)の比率3:2の混合溶媒2mlに溶解させる。溶解後、クロロホルム20mlを追加した後、メタノール10mlを少しずつ加える。沈殿物を濾過により除去し、さらに沈殿物をクロロホルム/メタノールの比率2:1の混合溶媒で洗浄し、濾液・洗浄液を回収し、エバポレーターにより濃縮、その後、乾固させる。乾固物をDMF(ジメチルホルムアミド)25mlに溶解後、この溶液を液体クロマトグラフィー(島津製作所製:LC−7A)に供給して、DMF中のエステル環状三量体量を求め、この値をクロロホルム/HFIP混合溶媒に溶解させたポリエステル原料量で割って、含有エステル環状三量体量(重量%)とする。DMF中のエステル環状三量体量は、標準試料ピーク面積と測定試料ピーク面積のピーク面積比より求めた(絶対検量線法)。
【0070】
標準試料の作成は、予め分取したエステル環状三量体を正確に秤量し、正確に秤量したDMFに溶解し作成した。標準試料の濃度は、0.001〜0.01mg/mlの範囲が好ましい。
【0071】
なお、液体クロマトグラフの条件は下記のとおりとした。
【0072】
移動相A:アセトニトリル
移動相B:2%酢酸水溶液
カラム:三菱化学(株)製『MCI GEL ODS 1HU』
カラム温度:40℃
流速:1ml/分
検出波長:254nm
【0073】
(5)積層ポリエステル層の厚み
フィルム小片をエポキシ樹脂にて固定成形した後、ミクロトームで切断し、フィルムの断面を透過型電子顕微鏡写真にて観察した。その断面のうちフィルム表面とほぼ平行に2本、明暗によって界面が観察される。その2本の界面とフィルム表面までの距離を10枚の写真から測定し、平均値を積層厚さとした。
【0074】
(6)フィルムヘーズの測定
試料フィルムをJIS−K−7136に準じ、村上色彩技術研究所製ヘーズメーター「HM−150」により、フィルムヘーズを測定した。
【0075】
(7)積層ポリエステルフィルムの表面から抽出されるエステル環状三量体量の測定方法
あらかじめ、未処理の積層ポリエステルフィルムを空気中、150℃で90分間加熱する。その後、熱処理をした当該フィルムを上部が開いている縦横10cm、高さ3cmの箱の内面に出来るだけ密着させて箱形の形状とする。このとき、A面が外側となるようにする。次いで、上記の方法で作成した箱の中にDMF4mlを入れて3分間放置した後、DMFを回収する。回収したDMFを液体クロマトグラフィー(島津製作所製:LC−7A)に供給して、DMF中のエステル環状三量体量を求め、この値を、DMFを接触させたフィルム面積で割って、フィルム表面のエステル環状三量体量(mg/m)とした。なお、DMF中のエステル環状三量体量は上記(3)ポリエステル原料に含有される含有エステル環状三量体量の測定方法に記載の絶対検量線法に従い算出した。
【0076】
(8)透明導電膜積層後のフィルム視認性評価方法(実用特性代用評価)
積層ポリエステルフィルムにおいて、B面に、アルゴンガス95%と酸素ガス5%とからなる0.4Paの雰囲気下で、酸化インジウム95重量%、酸化スズ5重量%の焼結体材料を用いた反応性スパッタリング法により、厚さ25nmの ITO膜(透明導電性薄膜)を形成した。また、ITO膜は150℃×1時間の加熱 処理により結晶化させた。
得られたフィルムの透明性・視認性について、下記判定基準により、判定を行った。
《判定基準》
○:透明性・視認性良好(実用上、問題ないレベル)
×:透明性・視認性不良(実用上、問題あるレベル)
【0077】
(9)フィルム−フィルム貼り合わせ性評価方法(実用特性代用評価)
150℃、2時間加熱したフィルムに芯なし両面粘着材を貼り、反対面にフィルムを張り合わせ判定を行った。尚、貼り合わせ時には、ローラーを使用した。
《判定基準》
○:シワが入らず特に良好(実用上、問題ないレベル)
×:シワが入り不良(実用上、問題あるレベル)
【0078】
(10)フィルム−フィルム シート柔軟性(flexibility)評価方法(実用特性代用評価)
A4カット判サイズのフィルムサンプルをループ状に曲げ、そのループの直径方向
を押しつぶしたときのロードによって、コシの強弱を評価した。
《判定基準》
○:フィルムのコシが弱くシート柔軟性が良好(実用上、問題ないレベル)
×:フィルムのコシが強くシート柔軟性が不良(実用上、問題あるレベル)
【0079】
(11)塗布層の膜厚測定
A面の表面をRuOで染色し、エポキシ樹脂中に包埋した。その後、超薄切片法により作成した切片をRuO染色し、塗布層断面をTEM(Hitachi社製 H−7650、加速電圧100V)を用いて測定した。
【0080】
(12)ポリエステルフィルムにおける一方の塗布層表面からの絶対反射率の測定
あらかじめ、ポリエステルフィルムの測定裏面に黒テープ(ニチバン株式会社製、ビニールテープVT−50)を貼り、分光光度計(日本分光株式会社製、紫外可視分光光度計V−570、および自動絶対反射測定装置AM−500N)を使用して同期モード、入射角5°、N偏光、レスポンスFast、データ取区間隔1.0nm、バンド幅10nm、走査速度1000nm/minでA面を波長範囲400〜800nmの絶対反射率を測定した。
【0081】
(13)干渉ムラの評価
ポリエステルフィルムのA面に、ジペンタエリスリトールアクリレート60重量部、1,6−ヘキサンジオールアクリレート15重量部、五酸化アンチモン25 重量部、光重合開始剤(商品名:イルガキュア184、チバスペシャリティケミカル製)1重量部、メチルエチルケトン200重量部の混合塗液を乾燥膜厚が5μmになるように塗布し、紫外線を照射して硬化させ、ポリエステルフィルムと同等の屈折率を有するハードコート層を形成した。得られたフィルムを3波長域型蛍光灯下にて、目視にて干渉ムラを観察し、干渉ムラが確認できないものを◎、薄くまばらな干渉ムラが確認されるものを○、薄いが線状の干渉ムラが確認できるものを△、明瞭な干渉ムラが確認されるものを×とした。
【0082】
(14)密着性の評価
密着性の評価を行うために、上記(10)の評価で使用したハードコート液から五酸化アンチモンを除いた材料で検討した。すなわち、ジペンタエリスリトールアクリレート80重量部、1,6−ヘキサンジオールアクリレート20重量部、光重合開始剤(商品名:イルガキュア184、チバスペシャリティケミカル製)5重量部、メチルエチルケトン200重量部の混合塗液を乾燥膜厚が5μmになるように塗布し、紫外線を照射して硬化させハードコート層を形成した。得られたフィルムに対して、60℃、90%RHの環境下で100時間後、10×10のクロスカットをして、18mm幅のテープ(ニチバン株式会社製セロテープ(登録商標)CT−18を貼り付け、180°の剥離角度で急激に剥がした後の剥離面を観察し、剥離面積が3%未満ならば◎、3%以上10%未満なら○、10%以上50%未満なら△、50%以上なら×とした)
【0083】
〈ポリエステルの製造〉
[ポリエステル(A1)の製造方法]
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし、触媒として酢酸マグネシウム・四水塩0.09重量部を反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物にエチルアシッドフォスフェート0.04重量部を添加した後、三酸化アンチモン0.04重量部を加えて、4時間重縮合反応を行った。すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度0.63に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させた。得られたポリエステル(A1)の極限粘度は0.65、エステル環状三量体の含有量は0.97重量%であった。
【0084】
[ポリエステル(A2)の製造方法]
ポリエステル(A1)を、予め160℃で予備結晶化させた後、温度220℃の窒素雰囲気下で固相重合し、極限粘度0.75、エステル環状三量体含有量0.46重量%のポリエステル(A2)を得た。
【0085】
[ポリエステル(A3)の製造方法]
ポリエステル(A1)の製造方法において、エチルアシッドフォスフェート0.04重量部を添加後、平均粒子径1.6μmのエチレングリコールに分散させたシリカ粒子を0.2重量部、三酸化アンチモン0.04重量部を加えて、極限粘度0.65に相当する時点で重縮合反応を停止した以外は、ポリエステル(A−1)の製造方法と同様の方法を用いてポリエステル(A3)を得た。得られたポリエステル(A3)は、極限粘度0.65、エステル環状三量体含有量0.82重量%であった。
【0086】
塗布層を構成する化合物例は以下のとおりである。
(化合物例)
・ポリエステル樹脂(A4)
下記の組成で共重合したポリエステル樹脂の水分散体
モノマー組成:(酸成分)テレフタル酸/イソフタル酸/5−ソジウムスルホイソフタル酸//(ジオール成分)エチレングリコール/1,4−ブタンジオール/ジエチレングリコール=56/40/4//70/20/10(mol%)
・縮合多環式芳香族を有するポリエステル樹脂(A5)
下記の組成で共重合したポリエステル樹脂の水分散体
モノマー組成:(酸成分)2,6−ナフタレンジカルボン酸/5−ソジウムスルホイソフタル酸//(ジオール成分)ジエチレングリコール変性ビスフェノールA/エチレングリコール変性ビスフェノールA=94/6//90/10(mol%)
【0087】
・エポキシ化合物(B1A)
ポリグリセロールポリグリシジルエーテルである、デナコールEX−521(ナガセケムテックス製)
・エポキシ化合物(B1B)
エポキシ樹脂である、デナコールEX−1410(ナガセケムテックス製)
・エポキシ化合物(B1C)
エポキシ樹脂である、デナコールEX−1610(ナガセケムテックス製)
・オキサゾリン化合物(B2)
オキサゾリン基およびポリアルキレンオキシド鎖を有するアクリルポリマー、エポクロスWS−500(日本触媒製)
・イソシアネート化合物(B3)
ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加物とマレイン酸からなる平均分子量1000のポリエステル200重量部と、ヘキサメチレンジイソシアネート33.6重量部からなるポリイソシアネートのイソシアネート基を重亜硫酸ナトリウム84重量部でブロックして得られる、ポリエステル樹脂含有ブロックイソシアネート系化合物
・ヘキサメトキシメチルメラミン(B4)
【0088】
・屈折率1.9、平均粒径15nmの酸化チタン粒子(C1)
・4級アンモニウム塩基含有ポリマー(D):
2−ヒドロキシ3−メタクリルオキシプロピルトリメチルアンモニウム塩ポリマー
対イオン:メチルスルホネート 数平均分子量:30000
・ポリエチレングリコール含有アクリレートポリマー(E):
ポリエチレングリコール含有モノアクリレートポリマー 数平均分子量:20000
・粒子(C2):アルミナ表面変性コロイダルシリカ(平均粒径:0.05μm)
・バインダー(F):ポリビニルアルコール(けん化度88モル%、重合度500)
【0089】
実施例1:
上記ポリエステル(A2)、(A3)、をそれぞれ85重量%、15重量%の割合で混合した混合原料を表層の原料とし、ポリエステル(A1)100重量%の原料を中間層の原料として、2台の押出機に各々を供給し、各々285℃で溶融した後、40℃に冷却したキャスティングドラム上に、2種3層で、表層:中間層:表層の厚み構成比が6:38:6になるように共押出し冷却固化させて無配向シートを得た。
次いで、ロール周速差を利用してフィルム温度85℃で縦方向に3.6倍延伸した後、この縦延伸フィルムの片面(A面)に下記表1に示す塗布液1を乾燥後膜厚が0.1μmとなるように塗布し、もう片面(B面)に4級アンモニウム塩基含有ポリマー(D)、ポリエチレングリコール含有アクリレートポリマー(E)、ヘキサメトキシメチルメラミン(B4)、粒子(C2)、バインダー(F)の化合物を塗布層を形成する塗布液中の全不揮発成分に対する割合として30、10、40、10、10重量%となるように混合した塗付液を乾燥後膜厚が0.03μmとなるように塗布し、テンターに導き、横方向に120℃で4.7倍延伸し、225℃で熱処理を行った後、フィルムをロール上に巻き、厚さ50μmの積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を下記表2、3に示す。
【0090】
実施例2:
実施例1において、厚み構成比を4:42:4と変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、ポリエステルフィルムを得た。得られた積層ポリエステルフィルムの特性を下記表2、3に示す。
【0091】
実施例3〜27:
実施例1において、A面に塗布する塗布剤1を表1に示す塗布液2〜22に変更する以外は実施例1と同様にして製造し、ポリエステルフィルムを得た。得られた積層ポリエステルフィルムの特性を下記表2、3に示す。
【0092】
比較例1:
実施例1において、厚み構成比を3:44:3と変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、ポリエステルフィルムを得た。得られた積層ポリエステルフィルムの特性を下記表2、3に示す。
【0093】
比較例2:
実施例1において、表層の原料としてポリエステル(A2)、(A3)、をそれぞれ70重量%、30重量%の割合で混合したこと以外は、実施例1と同様の方法で、ポリエステルフィルムを得た。得られた積層ポリエステルフィルムの特性を下記表2、3に示す。
【0094】
比較例3:
実施例1において、厚み構成比を5:13:5とし、積層ポリエステルフィルムとしたときの厚みを23μmとした以外は実施例1と同様の方法で、ポリエステルフィルムを得た。得られた積層ポリエステルフィルムの特性を下記表2、3に示す。
【0095】
比較例4:
実施例1において、厚み構成比を7:236:7とし、積層ポリエステルフィルムとしたときの厚みを250μmとした以外は実施例1と同様の方法で、ポリエステルフィルムを得た。得られた積層ポリエステルフィルムの特性を下記表2、3に示す。
【0096】
比較例5〜7:
実施例1において、A面に塗布する塗布剤1を表に示す塗布液23〜25に変更する以外は実施例1と同様にして製造し、ポリエステルフィルムを得た。得られた積層ポリエステルフィルムの特性を下記表2、3に示す。
【0097】
比較例8:
実施例1において、A面に塗布液を塗布しないこと以外は実施例1と同様の方法で、ポリエステルフィルムを得た。得られた積層ポリエステルフィルムの特性を下記表2、3に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明のフィルムは、例えば、高度な透明性が必要とされる用途において、好適に利用することができる。