(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
気筒の燃焼室内に臨むアンテナを介して燃焼室内に生成される電界と、点火プラグの中心電極と接地電極との間に発生する火花放電とを相互作用させて燃焼室内にプラズマを生成し、混合気に着火する火花点火式内燃機関用の点火プラグであって、
火花放電時に中心電極が接地電極に対して高電位とされるものであり、
中心電極と接地電極とが対向する軸線方向から見て、接地電極の投影面積が中心電極の投影面積よりも大きいことを特徴とする点火プラグ。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態における車両用内燃機関の全体構成を示す図。
【
図3】同実施形態における電界発生装置の構成を示す図。
【
図4】同実施形態における電界発生装置の要素であるHブリッジの回路図。
【
図5】同実施形態の点火プラグを下面側から見た斜視図。
【
図6】同実施形態の点火プラグの電極部分を示す拡大正面図。
【
図7】同実施形態の点火プラグの電極部分を示す拡大側面図。
【
図8】同実施形態の点火プラグの電極部分を示す底面図。
【
図9】本発明の変形例の一に係る点火プラグの電極部分を示す、一部を破断した拡大正面図。
【
図10】本発明の変形例の一に係る点火プラグの電極部分を示す拡大正面図。
【
図11】本発明の変形例の一に係る点火プラグを下面側から見た斜視図。
【
図12】同変形例に係る点火プラグの電極部分を示す拡大正面図。
【
図13】同変形例に係る点火プラグの電極部分を示す拡大側面図。
【
図14】同変形例に係る点火プラグの電極部分を示す底面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1に、本実施形態における車両用内燃機関の概要を示す。
【0011】
本実施形態における内燃機関は、火花点火式ガソリンエンジンであり、複数の気筒1(
図1には、そのうち一つを図示している)を具備している。各気筒1の吸気ポート近傍には、燃料を噴射するインジェクタ11を設けている。また、各気筒1の燃焼室の天井部に、点火プラグ12を取り付けてある。
【0012】
図2に、火花点火用の電気回路を示している。点火プラグ12は、点火コイル14にて発生した誘導電圧の印加を受けて、中心電極121と接地電極122との間で火花放電を惹起するものである。点火コイル14は、半導体スイッチング素子であるイグナイタ13とともに、コイルケースに一体的に内蔵される。
【0013】
本実施形態の内燃機関には、気筒1の燃焼室内に電界を発生させる電界発生装置を付帯させている。この電界発生装置は、燃焼室内でプラズマを生成する目的のものである。電界発生装置の例としては、高周波の交流電圧を印加する交流電圧発生回路や、高周波の脈流電圧を印加する脈流電圧発生回路等を挙げることができる。
【0014】
図3及び
図4に示すように、高周波を発生させる電界発生装置は、車載バッテリを電源とし、低圧直流を高圧交流に変換する回路を含む。具体的には、バッテリが提供する約12Vの直流電圧を100V〜500Vに昇圧するDC−DCコンバータ61と、DC−DCコンバータ61が出力する直流を交流に変換するHブリッジ回路62と、Hブリッジ回路62が出力する交流をさらに高い電圧に昇圧する昇圧トランス63とを構成要素とする。
【0015】
電界発生装置の出力端には、第一ダイオード64及び第二ダイオード65を介設することが好ましい。第一ダイオード64は、カソードが昇圧トランス63の二次側巻線の信号ラインに接続し、アノードが点火コイル14との結節点であるミキサ66に接続している。第二ダイオード65は、アノードが昇圧トランス63の二次側巻線のグランドラインに接続し、カソードが接地している。これら第一ダイオード64及び第二ダイオード65は、点火タイミングにおいて点火コイル14の二次側から流れ込む負の高圧パルス電流を遮る役割を担う。
【0016】
電界発生装置が発振する高周波電圧は、通常、火花放電開始と略同時、火花放電開始直前または火花放電開始直後に、点火プラグ12の中心電極121に印加する。つまり、気筒1の燃焼室内に臨む点火プラグ12の中心電極121を、電界を放射するアンテナとする。これにより、燃焼室内における、点火プラグ12の中心電極121と接地電極122との間の空間に、高周波電界が形成される。そして、高周波電界中で火花放電を行うことによりプラズマが発生し、このプラズマが火炎伝搬燃焼の始まりとなる大きなラジカルプラズマ火炎核を生成する。
【0017】
上記は、火花放電による電子の流れ及び火花放電によって生じたイオンやラジカルが、電界の影響を受け振動、蛇行することで行路長が長くなり、周囲の水分子や窒素分子と衝突する回数が飛躍的に増加することによるものである。イオンやラジカルの衝突を受けた水分子や窒素分子は、OHラジカルやNラジカルになるとともに、イオンやラジカルの衝突を受けた周囲の気体も電離した状態、即ちプラズマ状態となることで、飛躍的に混合気への着火領域が大きくなり、火炎核も大きくなるのである。この結果、火花放電のみによる二次元的な着火から三次元的な着火に増幅され、燃焼が燃焼室内に急速に伝播、高い燃焼速度で拡大することとなる。
【0018】
因みに、電界発生装置として脈流電圧発生回路を採用する場合、当該脈流電圧発生回路は周期的に電圧が変化する直流電圧を発生させるものであればよく、その波形も任意であってよい。脈流電圧は、基準電圧(0Vであることがある)から一定周期で一定電圧まで変動するパルス電圧、交流電圧を半波整流した電圧、交流電圧に直流バイアスを加味した電圧等をおしなべて含む。電界発生装置が発振する高周波電圧は、周波数が200kHz〜3000kHz程度、振幅が3kVp−p〜10kVp−p程度であることが好ましい。
【0019】
内燃機関の気筒1に吸気を供給するための吸気通路3は、外部から空気を取り入れて各気筒1の吸気ポートへと導く。吸気通路3上には、エアクリーナ31、電子スロットルバルブ32、サージタンク33、吸気マニホルド34を、上流からこの順序に配置している。
【0020】
気筒1から排気を排出するための排気通路4は、気筒1内で燃料を燃焼させた結果発生した排気を各気筒1の排気ポートから外部へと導く。この排気通路4上には、排気マニホルド42及び排気浄化用の三元触媒41を配置している。
【0021】
内燃機関の運転制御を司るECU(Electronic Control Unit)0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。
【0022】
入力インタフェースには、車両の実車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、クランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するエンジン回転センサから出力されるクランク角信号(N信号)b、アクセルペダルの踏込量またはスロットルバルブ32の開度をアクセル開度(いわば、要求負荷)として検出するセンサから出力されるアクセル開度信号c、ブレーキペダルの踏込量を検出するセンサから出力されるブレーキ踏量信号d、吸気通路3(特に、サージタンク33)内の吸気温及び吸気圧を検出する温度・圧力センサから出力される吸気温・吸気圧信号e、機関の冷却水温を検出する水温センサから出力される冷却水温信号f、シフトレバーのレンジを知得するためのセンサ(または、シフトポジションスイッチ)から出力されるシフトレンジ信号g、吸気カムシャフトまたは排気カムシャフトの複数のカム角にてカム角センサから出力されるカム角信号(G信号)h等が入力される。
【0023】
出力インタフェースからは、点火プラグ12のイグナイタに対して点火信号i、インジェクタ11に対して燃料噴射信号j、スロットルバルブ32に対して開度操作信号k、電界発生装置に対して電界(即ち、高周波)発生指令信号l等を出力する。
【0024】
ECU0のプロセッサは、予めメモリに格納されているプログラムを解釈、実行し、運転パラメータを演算して内燃機関の運転を制御する。ECU0は、内燃機関の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、g、hを入力インタフェースを介して取得し、エンジン回転数を知得するとともに気筒1に充填される吸気量を推算する。そして、それらエンジン回転数及び吸気量等に基づき、要求される燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火タイミング、燃焼室内に電界を発生させるか否かやその電界発生のタイミングといった各種運転パラメータを決定する。運転パラメータの決定手法自体は、既知のものを採用することが可能である。ECU0は、運転パラメータに対応した各種制御信号i、j、k、lを出力インタフェースを介して印加する。
【0025】
以降、本実施形態の点火プラグ12に関して詳述する。
【0026】
一般に、点火プラグ12は、火花放電に際し、「マイナス放電」を行う場合と、「プラス放電」を行う場合とがある。前者は、中心電極121を接地電極122に対して低電位とする、即ち中心電極121にマイナスの電圧を印加して放電を惹起するものである。言うまでもなく、接地電極122は恒常的に零電位である。火花放電に伴い、電子は中心電極121から発し、接地電極122に向かって飛ぶ。翻って、後者は、中心電極121を接地電極122に対して高電位とする、即ち中心電極121にプラスの電圧を印加して放電を惹起するものである。火花放電に伴い、電子は接地電極122から発し、中心電極121に向かって飛ぶ。
【0027】
本実施形態の点火プラグ12は、「プラス放電」を行うためのものである。即ち、火花点火時において、中心電極121にはプラス電圧を印加する。
【0028】
図5ないし
図8に示しているように、本実施形態の点火プラグ12においては、中心電極121と接地電極122とが対向する軸線L方向から見て、接地電極122の投影面積が中心電極121の投影面積よりも大きくなるよう、接地電極122を設計している。
【0029】
詳述すると、点火プラグ12の中心電極121は、コイルケースのプラグ装着部に挿入して装着された状態で点火コイル14に接続するターミナル123に電気的に接続している。これら中心電極121及びターミナル123は、絶縁碍子124により外部から絶縁される。絶縁碍子124は、ハウジング125により外方から支持される。接地電極122は、ハウジング125の下端部に取り付けられる。ハウジング125ひいては接地電極122は、接地される。
【0030】
接地電極122は、ハウジング125から下方に垂下し、中途で内側方に屈曲して中心電極121の軸心Lに向かって伸長する正面視略L字型をなす。接地電極122の先端部位1221は、中心電極121の軸心Lと交わる位置まで進出しており、中心電極121と軸心L方向に沿って対向している。この接地電極122の先端部位1221を軸心L方向から見たとき、先端部位1221の投影面積が、中心電極121の下端部(また、下端面)の投影面積よりも大きくなっている。
【0031】
中心電極121に臨む接地電極122の先端部位1221は、軸線L方向から見て略正円状または略楕円状の周縁1224をなす円形部としてある。円形部1221は、概ね円盤状に成形してある。円形部1221における、中心電極121の下端面に臨む上表面1222と、略円筒状の外周面1223とが交差する縁端1224は、軸心L方向から見て中心電極121を包囲するような略部分円弧状または略部分楕円弧状となっている。
【0032】
気筒1における一回の燃焼(または、膨張行程)を遂行するべく、当該気筒1に充填された混合気に着火するための火花点火において、火花は一度だけ飛ぶのではなく、極短時間の間に複数の火花が飛ぶ。各火花放電(の電子)は、上述した円形部1221の縁端1224から発し、中心電極121に向かって流れ飛ぶことが多い。
【0033】
その上で、複数回の火花放電の起点は常に同じではない。接地電極122の内部では、自由電子が偏在せず、比較的均等に存在しているものと想像される。故に、複数の火花は、接地電極122の複数箇所、特に円形部1221の縁端1224上の互いに相異するばらばらの場所から、中心電極121に向かって飛ぶことになる。つまり、火花放電の範囲が拡がる。
【0034】
この結果、中心電極121と接地電極122との間に所在する混合気の複数箇所に火花が飛び、より大きな円球状または塊状の火炎核を生成することが可能となる。
【0035】
本実施形態では、気筒1の燃焼室内に臨むアンテナ(中心電極121)を介して燃焼室内に生成される電界と、点火プラグ12の中心電極121と接地電極122との間に発生する火花放電とを相互作用させて燃焼室内にプラズマを生成し、混合気に着火する火花点火式内燃機関用の点火プラグ12であって、火花放電時に中心電極121が接地電極122に対して高電位とされるものであり、中心電極121と接地電極122とが対向する軸線L方向から見て、接地電極122の投影面積が中心電極121の投影面積よりも大きいことを特徴とする点火プラグ12を構成した。
【0036】
本実施形態によれば、中心電極121と接地電極122との間に所在する混合気の複数箇所に火花を飛ばして円球状または塊状の火炎核を生成することが可能となる。従って、混合気への着火性がより一層向上し、内燃機関の出力及び燃費の向上、及びエミッションの良化に貢献し得る。
【0037】
加えて、接地電極122における中心電極121に臨む部位に、前記軸線L方向から見て略正円状または略楕円状の周縁1224をなす円形部1221を成形していることから、燃焼初期において気筒1の燃焼室内に円球のような火炎核を生成できる。この火炎核が円筒状の気筒1内で燃え広がることとなり、気筒1の燃焼室内において偏りのない燃焼を惹起することが可能となる。燃焼火炎が均一に広がることにより、火炎伝搬速度が高まり、ノッキングが抑制される。ノッキングが発生しにくくなれば、圧縮比の増大による燃費の向上にも資する。
【0038】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態では、接地電極122の円形部1221の上表面1222は略平坦面であったが、
図9に例示するように、円形部1221の上表面1222を中心電極121から離間する方向に凹ませて凹面としてもよい。
【0039】
上記実施形態では、接地電極122の円形部1221は円盤状をなしていたが、
図10に例示するように、接地電極122の円形部1221を切頭円錐状に成形してもよい。この場合にも、円形部1221における、中心電極121の下端面に臨む上表面1222と、略部分円錐面状の外周面1223とが交差する縁端1224が、軸心L方向から見て中心電極121を包囲するような略部分円弧状または略部分楕円弧状となる。
【0040】
また、
図11ないし
図14に例示するように、接地電極122の先端部位に略正円状または略楕円状の周縁をなさない(円盤状でも切頭円錐状でもない)土台1225を設け、その上に略正円状または略楕円状の周縁1224をなす円形部1221を設けてもよい。
【0041】
内燃機関の気筒1の燃焼室内でプラズマを生成する目的で燃焼室内に電界を発生させる電界発生装置は、高周波の交流電圧を印加する交流電圧発生回路や、高周波の脈流電圧を印加する脈流電圧発生回路に限定されない。
【0042】
気筒1の燃焼室内に電界を放射するアンテナもまた、点火プラグ12の中心電極121には限定されない。点火プラグ12とは異なる、気筒1の燃焼室内に電界を放射するアンテナを設置した内燃機関を構成しても構わない。
【0043】
その他各部の具体的構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。