(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
船舶用自動操舵装置は、舵角を制御して設定方位に船首方位を追従させる方位制御系(HCS: Heading Control System)と、計画航路に船体位置を追跡させる航路制御系(TCS:Track Control System)とに分けられる。マイクロチップの高機能化、衛星測位システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)の小型化・低コスト化・高精度化により位置情報が簡単に得られるようになったことに伴い、航路制御系の要求が高まっている。
【0003】
航路制御系の船舶用自動操舵装置は、
図1に示すように軌道計画部12、軌道航路誤差演算部14、フィードバック制御部16及び加算器17を備える。誘導システム22からの計画航路に基づき軌道計画部12が出力する参照方位ψ
Rと参照位置x
R、y
Rと、センサから検出される船首方位ψと位置x、yとの誤差を軌道航路誤差演算部14が求める。フィードバック制御部16は、主として保針時にその誤差から船体の方位と位置とを追跡させるべくフィードバック舵角δ
FBを出力する。航路制御系のフィードバック制御系の制御時定数は方位制御系の制御時定数より長く、且つ、旋回時間は方位制御系の時定数より通常短いので、旋回で生じた航路誤差は、旋回中にフィードバック制御系で収斂させることは難しい。よって、旋回時には軌道計画部12からフィードフォワード舵角δ
FFが出力される。加算器17は、フィードバック舵角δ
FBとフィードフォワード舵角δ
FFとを加算して指令舵角δ
Cを船体24の操舵機に出力する。計画航路は、直線と円弧の曲線とから定められる。
【0004】
旋回時には、船体に印加する潮流成分は船首方位によって変化するために、潮流成分を考慮しないと、航路誤差が過渡的に生じることになる。
【0005】
そこで、本願発明者は、特許文献1、非特許文献1及び特許文献2で提案する、方位制御系において、船首方位を参照方位に遅れなく追従させることができる参照方位とフィードフォワード制御との技術を基礎にして、さらに船体に作用する旋回時の潮流成分を考慮することによって、旋回時に計画旋回の軌跡に乗せることができる船舶用自動操舵装置を特許文献3で提案している。
【0006】
特許文献3においては、旋回時に軌道計画部12から出力されるフィードフォワード舵角δ
FFは、参照舵角δ
Rと潮流舵角δ
Dとの加算となり、δ
Rは船首方位ψを変針量Δψ
0相当分変針させ、δ
Dは潮流による航路誤差を修正するものとなっている。
【0007】
対地速度は、対水速度と潮流速度との和になる。潮流による船体の参照方位方向速度成分は方位に連動して変化するために、旋回中に対地速度は変化する。そのため、指定旋回角速度を一定とした場合、旋回条件の1つである旋回半径を一定に保つことができなくなる。そこで旋回半径を一定に保つために、指定旋回角速度の更新を行い、更新した指定旋回角速度に基づき、フィードフォワード舵角の再演算が行われるようになっている。
【0008】
即ち、指定旋回角速度r
0は、対地速度の参照座標系における参照方位方向の速度成分をu
*としたときに、
【0009】
【数1】
と設定する。ここで、SetΔu:速度更新設定値(例えば1knot)、u
0*:前回更新時の値である。
【0010】
上式は、対地速度の参照座標系における参照方位方向の速度成分u
*が前回更新時の値u
0*に対して速度更新設定値SetΔuを超えた場合に指定旋回角速度r
0をu
*に更新し、速度成分u
*が前回更新時の値u
0*に対して、速度更新設定値SetΔuを超えていない場合には、指定旋回角速度r
0の更新は行わずu
0*を維持することを意味しており、更新は段階的に行われている。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
【0027】
図1は、船舶用自動操舵装置と制御対象の全体のブロック図である。船舶用自動操舵装置10は、計画航路に船体位置を追跡させるために舵を制御する装置であり、軌道計画部12、軌道航路誤差演算部14、フィードバック制御部16、加算器17及び各パラメータを同定する図示しない同定器を備えている。誘導システム22から計画航路及びセンサ類26のスピードログからの船速U(正確には船体のsurge速度u(後述のようにu≒U))が軌道計画部12に入力され、軌道計画部12からは参照方位ψ
R、参照位置x
R、y
Rといった参照信号及び旋回時にはフィードフォワード舵角δ
FFが出力される。
【0028】
軌道航路誤差演算部14には、ジャイロコンパスからの船首方位ψ、GPS等の衛星測位システム(GNSS)からの位置(x,y)といったセンサ類26からの検出信号が入力され、軌道航路誤差演算部14は、前記参照方位ψ
R、参照位置x
R、y
Rと検出信号との比較を行い方位誤差ψ
e、位置誤差x
e、y
e(方位誤差、位置誤差を合わせて航路誤差とも称する)等を出力する。
【0029】
フィードバック制御部16は、
図1(b)に示すように、推定器18とフィードバックゲイン器20とからなる。軌道航路誤差演算部14からの方位誤差及び位置誤差は、推定器18に入力される。推定器18において、方位誤差ψ
e及び位置誤差x
e、y
eから、方位誤差系の状態量ψ
^e、位置誤差y
^e、潮流ベクトルd
^x,d
^yを推定する。フィードバックゲイン器20は、各誤差に対して、フィードバックゲインG
FBを掛けて、フィードバック舵角δ
FBを出力する。
【0030】
加算器17でフィードフォワード舵角δ
FFとフィードバック舵角δ
FBとが加算されて、指令舵角δ
Cが操舵機へと出力され、操舵機は指令舵角に比例した舵角を動かして、操舵機を含む船体24を運動させる。
【0031】
誘導システム22から与えられる計画航路は、直線航路の場合は開始位置と終端位置とから決定され、曲線航路の場合は旋回の開始位置(直線航路の終端位置に相当する)と終端点(旋回半径と旋回角で決まり、旋回後の直線航路の開始位置に相当する)とで規定される。船舶用自動操舵装置の機能は直線航路と曲線航路とにおいて、船体を許容誤差内に航跡させることであり、直線航路に関してはフィードバック制御部16が受け持ち、曲線航路に関しては軌道計画部12が受け持つ。
【0032】
軌道計画部12は、
図2に示すように、誘導システム22から曲線航路の計画航路が入力されると、その旋回条件を求め旋回条件に合致する参照方位ψ
Rを発生する参照方位発生部30と、船体の参照速度を発生する参照速度発生部34と、船体の参照速度を積分して参照位置を発生する参照位置発生部36と、推定潮流を座標変換して参照座標系の潮流成分を発生する潮流座標変換部40と、潮流に対抗するための斜航角β
dを発生する潮流修正部42と、対地速度の修正を行い指定旋回角速度の更新を行う指定旋回角速度r
0を求める指定旋回角速度演算部44と、船体方位を参照方位ψ
R+斜航角β
dに遅れなく追従させるためのフィードフォワード舵角δ
FFを出力するフィードフォワード舵角発生部46と、フィードフォワード舵角の修正を行うフィードフォワード舵角修正部48と、旋回開始位置と操舵開始位置との間の距離であるリーチ(Reach)を演算するリーチ演算部50と、を備える。
【0033】
対地系で推定される潮流成分を参照方位ψ
Rに基づき潮流座標変換部40で変換して、座標変換された潮流成分から潮流に対抗するための斜航角β
dを潮流修正部42で求め、斜航角β
dを含めてフィードフォワード舵角発生部46でフィードフォワード舵角に変換してフィードフォワード制御を実行することにより、潮流の参照方位横方向速度成分と斜航角β
dとが相殺されて、船体航路は参照方位ψ
Rに従い、潮流による航路誤差を防止することができる。
【0034】
また、潮流による船体の参照方位方向速度成分は方位に連動して変化するために、旋回中に対地速度は変化する。半径一定旋回を実現するために、対地速度が変化したら指定旋回角速度演算部44において、参照方位を求めるために用いられる指定旋回角速度r
0を修正する。これによって船体航路はほぼ半径一定旋回の航路に従う。
【0035】
以下、上記構成の詳細について説明する。
【0036】
1.運動方程式
1.1 座標系
航路制御系で用いる座標系は、
図3に示すように、以下の座標系から構成する。
・対地座標系(XOY):地球固定の緯度経度座標系で、GNSSからの位置出力(x、y)に相当する。
・船体座標系(X
BGY
B):船体固定の運動座標系で、船体の重心を原点とし、船首方位をX
B 軸とし、船体運動を定める。
・参照座標系(X
RO
RY
R):誘導システム22により生成され指定された計画航路から定まる移動座標系である。
【0037】
尚、座標系の回転極性は右ネジ方向を正とし、Z軸方向は重力方向を正とする。座標系はX軸、Y軸の2次元を用いる。
【0038】
1.2 船体モデル
制御対象である船体24の船体モデルは、方位軸周りと、船体のsway方向との練成運動から求まり、
【0040】
と表すことができる。ここで、sはラプラス演算子を意味し、R(s)、rは旋回角速度、V(s)、vは横流れ速度(またはsway速度)、Δ(s)、δは舵角、K
s、K
v、T
s、T
s3、は船体パラメータで、K
sは旋回力ゲイン、K
vは横流れゲイン、T
s、T
s3は時定数であり、通常、T
s3≪T
sである。
【0041】
図4に、基本的な旋回制御系におけるフィードフォワード制御の概要を示す。同図においてG
FB はフィードバック制御部16のゲインを示す。P
R-1のパラメータ不確かさは無視できるほど小さいとすれば、フィードフォワード舵角発生部の伝達特性を、
【0042】
【数3】
とすれば、船首方位ψ は参照方位ψ
R に遅れなく追従することができる。
即ち、
【0044】
2.旋回軌道
2.1 舵速度設定値と舵角設定値
軌道計画部12に入力される信号は、計画航路と船速Uであり、軌道計画部12から出力される信号は、参照方位ψ
R、参照位置x
R、y
R、フィードフォワード舵角δ
FFとなる。
【0045】
参照方位発生部30は、誘導システム22から曲線航路の計画航路が入力されると、計画航路から旋回条件である旋回半径R、変針量(旋回角)Δψ
0、指定旋回角速度r
0を決定する。また、これ以外の旋回条件として、船体パラメータK
s、T
s、T
s3、K
v等(これらの船体パラメータは既定値であるか、または同定器によって旋回する毎に同定される)、船体運動の初期角加速度C
1a、初期角速度C
2a、舵角設定値δ
0、舵角最大値δ
max、舵速度最大値δ
・max、舵速度設定値δ
・0などがある。
【0046】
2.2 参照方位
参照方位発生部30は、旋回条件の変針量(旋回角)Δψ
0、指定旋回角速度r
0を決定すると、これらを満足する参照方位ψ
Rを算出する。この算出にあたっては、特許文献1または特許文献2で提案する軌道演算部を利用することができ、軌道演算部は、船舶の所望される変針量に対して参照方位を加速モード、等速モード及び減速モードに分けて順次、時系列的に出力する(
図5)。具体的には、次のようにすることができる。
【0047】
加速モードにおける参照方位の2階微分、1階微分、参照方位ψ
Raは、次のように表すことができる。
【0048】
【数5】
ここでt:[0≦t≦T
a]、T
a:加速時間、η
a:加速定数、C
1a,C
2a:初期値で変針開始時は両者とも0である。
【0049】
等速モードにおける参照方位の2階微分、1階微分、参照方位ψ
Rvは、次のように表すことができる。
【0050】
【数6】
ここでt:[T
a≦t≦T
v]、T
v:等速時間、r
R:参照旋回角速度、C
3v:初期値である。
【0051】
減速モードにおける参照方位の2階微分、1階微分、参照方位ψ
Rdは、次のように表すことができる。
【0052】
【数7】
ここでt:[0≦t≦T
d]、T
d:減速時間、η
d:減速定数、である。C
1d,C
2d:初期値で各モード間の連続性、ψ
・・Ra(T
a)=0、ψ
・Rd(T
d)=0等を考慮すると、
【0054】
参照舵角δ
Rは、参照方位ψ
Rから(4)式を用いて
【0056】
2.3 参照舵角の最大
参照舵角δ
Rは参照方位の2階微分が2次関数であるから加速と減速とのモードで極値を持つ。参照舵角δ
Rと舵速度δ
・Rとは、加速と減速の各モードの参照方位の(5)式及び(7)式を(8)式に代入すると、
【0058】
【数11】
となる。ここで、a
3、a
2、a
1、a
0はそれぞれ加速モード(添字(・)
a)と減速モード(添字(・)
d)に対して、
【0061】
最大舵角の最大値は舵速度をゼロにする極値で生じるから(10)式よりその時間は、
【0063】
で与えられる。ここで、分子の±の極性は+が安定船に、−が不安定船に対応する。舵角の絶対値の最大値は、安定船の場合には、加速モードで生じる最大舵角であり、不安定船の場合には、減速モードで生じる最小舵角であり、(11)式の時間t
δ'R=0を(9)式に代入することで求まる。
【0064】
2.3.1 安定船の場合
初期値C
1a,C
2aを0とし、T
s>T
aとしてテイラー展開の2次までを用いて、極値をとる時間を、(10)式から求めると、
【0066】
になる。上記式の括弧内の第1項は参照方位の2階微分の極値時間に相当し、第2項は参照方位の1階微分の極値時間に相当する。よって、舵角の最大値は(12)式を(9)式に代入して、
【0068】
2.3.2 不安定船の場合
減速モードで最小舵角を生じるのを除き、安定船の場合と同様で、極値の時間は
【0069】
【数17】
となり、舵角の最小値は、
【0071】
参照方位発生部30は、予めまたは現時点で決定されまたは検知された値である、旋回条件の変針量(旋回角)Δψ
0、指定旋回角速度r
0、初期角加速度C
1a、初期角速度C
2a、舵角設定値δ
0、舵速度設定値δ
・0に対して、(6)〜(8)式を解くことで、加速、等速、減速時間T
a、T
v、T
d、加速、減速定数η
a、η
dを決めて、参照方位ψ
R(ψ
Ra、ψ
Rv、ψ
Rd)、参照旋回角速度r
Rを決定する。
【0072】
このとき、参照旋回角速度r
Rが指定旋回角速度r
0に等しくなるようにし、変針量から最大舵速度を決定し、演算される参照方位に基づきそれに対応する参照舵角δ
Rの舵速度が舵速度最大値を超えないように、且つ参照舵角δ
Rが舵角設定値δ
0等から決定される参照舵角設定値δ
0Rを超えないようにする。
【0073】
例外的に参照舵角δ
Rが参照舵角設定値δ
0R以下の条件(舵角条件)を満足しない場合には、参照舵角δ
Rと参照舵角設定値δ
0Rとの偏差を最も小さくする角速度を旋回角速度r
Rに決定し、それを新たな指定旋回角速度とする。
【0074】
2.4 参照位置
参照速度発生部34において、対地系参照速度u
R,v
Rは、参照方位発生部30から出力された参照方位ψ
Rを用いて、
【0075】
【数19】
から得られる。ここでu
R,v
Rはそれぞれx,y方向を表し、tは時間を表す。そして、対地系参照速度を参照位置発生部36で積分することで、参照位置を、
【0077】
2.5 参照舵角
また、参照方位発生部30は、逐次計算される参照方位ψ
Rをフィードフォワード舵角発生部46に出力し、フィードフォワード舵角発生部46では(8)式により、参照舵角δ
Rを演算する。
【0078】
3.参照座標系の速度
3.1 潮流ベクトルの変換
半径一定の旋回時の様子を
図6及び
図7に示す。ここでXOY:対地座標系、WP
1,WP
2:円弧旋回の開始と終端との位置、R:旋回半径、Δψ
0:旋回角(変針量)、ψ
R1,ψ
R2:それぞれ旋回前後の直線航路の方位、WOP:変針モードの開始位置(終了位置はWP
2付近)、u,v:船体座標系の船体のsurge速度、sway速度、d
x,d
y:対地座標系の潮流速度成分であり、風力が船体上部構造物を押すことによる速度成分を含む。
【0079】
参照座標系における対地速度は、対水速度と潮流速度との和になり、
【0081】
になる。ここで、u
*、v
*は参照座標系における速度成分、u
β、v
βは参照座標系における対水速度成分、u
d、v
dは参照座標系における潮流速度成分で、それぞれの成分は、参照方位方向(円弧の接線方向になる)、及びその右手直交方向(円弧では法線方向になる)を正とし、
【0082】
【数22】
となる。ここで、βは斜航角であり、
【0084】
である。ここで、K
v/K
s<0、U(=√(u
2+v
2))は対水速度であり、u
2≫v
2の関係を用い、U=uとする。U
d(=√(d
x2+d
y2))は潮流速度であり、ψ
d(=tan
-1(d
y/d
x))は潮流方位である。
【0085】
潮流座標変換部40は、推定器18から求められた対地座標系の推定潮流成分d
x^,d
y^を潮流速度成分d
x,d
yとして、参照方位発生部30で発生された参照方位ψ
Rを用いて(18)式により、参照座標系の潮流速度成分u
d、v
dに変換する。
【0086】
3.2 潮流成分に関する修正
(16)式で表される参照座標系の速度成分の、潮流成分に関する修正は、次のように行う。
【0087】
3.2.1 v
*に関して
(16)式、(17)式から、βを微小角として、
【0088】
【数24】
と近似する。vは船体座標系のsway速度で、旋回時に生じる横流れ速度に相当する。横流れ速度vを相殺するための斜航角β
vは、
【0089】
【数25】
と表すことができる。この横流れ速度に関する修正は、旋回の操舵開始位置と旋回開始位置との距離であるリーチの計算で横流れ速度に関する修正を行うことで、対応する。
【0090】
よって、潮流速度成分v
dを相殺するための斜航角β
dは、
【0091】
【数26】
と表せば、β=β
dとなる。潮流修正部42は、(23)式から斜航角β
dを求める。
【0092】
3.2.2 リーチ見積もり
図7に示すように、リーチは、旋回のために操舵を開始してから,船体が旋回方向に移動するまでの前進方向の移動距離であり、WOPと旋回開始位置または円の中心との距離になる。
図7において、実線は計画航路、一点鎖線は船体の実際の軌道航路である。
【0093】
リーチ演算部50によるリーチ見積もり演算はWOPより手前の適当な位置で事前に求め、船体位置から計画航路旋回前に行い、軌道航路を数値計算する。
【0094】
対地系における方位による軌道速度を用いると、直接、軌道航路が計算できる。対地方位は、
【0095】
【数27】
で表され、参照方位に横流れ速度の斜航角及び潮流斜航角の修正を加えたものになる。
【0096】
尚、リーチ演算においては、
図7に示すように、演算を簡単にするために、旋回前の方位ψ
R1を北向きに合わせて演算を行う。このとき位置とリーチは、
【0097】
【数28】
となる。(25)式で示したように、リーチ演算においては、潮流は、旋回前の直線航路の方位ψ
R1で座標変換されたものとし、旋回中、一定と仮定して計算する。
【0098】
求められたリーチから、参照方位発生部30は、船体がWOPに達したときに、参照方位ψ
Rの出力を開始する。
【0099】
3.2.3 u
*に関して
参照方位方向の速度成分u
*は、(16)〜(20)式より、
【0101】
となる。横流れ速度がないとすれば、
図7の仮想線で示すように、軌道航路はWOPを通り参照方位方向を接線とする一定の旋回半径Rの曲線航路と等価となる。この一定の旋回半径Rを実現させるための指定旋回角速度r
0は、
【0103】
4.円弧歪みの修正
旋回半径Rを一定にして円弧航路の歪みを防ぐためには、(28)式で表される指定旋回角速度r
0を参照方位方向の速度成分u
*に合わせて更新することが必要である。しかしながら、潮流の影響を受けて航路中に連続的に変化する参照方位方向の速度成分u
*に追従して連続的に指定旋回角速度を更新することは実用上できないので、更新は、所定の条件(更新条件)を満足したときに行う。
【0104】
4.1 極値(極大値、極小値)における速度更新
従来は、u
*の速度変化が所定値を超えた場合にのみ更新を行い、そのときu
*を更新速度u
0*として採用しているために、参照方位方向の速度成分の速度u
*と更新速度u
0*との差異が大きく、粗い追従となる。本発明では、u
*が極値を示す場合も更新を行うようにする。
【0105】
即ち、更新条件を以下のように定める。
【0106】
【数31】
ここでu
*0:前回更新時の速度、Δu
set:速度しきい値である。
【0107】
極値の探索処理としては、例えば、
図8に示すような極値探索処理を行うことができる。
図8において、まず、現在のu
*がminu
*より小さいかを判定する(ステップS10)。ここで、minu
*は、前回の極値探索処理時から引き継いだ値である。u
*がminu
*より小さい場合には、最小値フラグflgMinを1に立上げ、minu
*をu
*とし(ステップS12)、反対に、u
*がminu
*より小さくない場合には、最小値フラグflgMinは0とする(ステップS14)。
【0108】
次に、現在のu
*がmaxu
*より大きいかを判定する(ステップS16)。ここで、maxu
*も、前回の極値探索処理時から引き継いだ値である。u
*がmaxu
*より大きい場合には、最大値フラグflgMaxを1に立上げ、maxu
*をu
*とし(ステップS18)、反対に、u
*がmaxu
*より大きくない場合には、最大値フラグflgMaxは0とする(ステップS20)。
【0109】
そして、Δu=u
*−u
*0を求め、Δuがu
marginよりも大きいかどうかを判定する(ステップS22)。ここでu
marginは、速度余裕度とし、速度余裕度u
marginはu
*に含まれるノイズ成分による誤検出を防止するために設定する。
【0110】
ステップS22における判定結果がnoである場合には、現在の速度u
*と前回更新時の速度u
0*との差異とが、速度余裕度を超えていないので、極値判定は行わず、極小値フラグflgPeakMin及び極大値フラグflgPeakMaxを0にリセットして終了する(ステップS24)。
【0111】
一方、ステップS22における判定結果がyesである場合には、flgMinの立下りを検出したかを判定する(ステップS26)。flgMinの立下りが検出されると極値(極小値)が検出されたとして、極小値フラグflgPeakMinを1に立上げ、maxu
*をリセットする(ステップS28)。ここで、maxu
*をリセットする理由は計画航路の曲線航路が複数円弧の連続したものであり多回転する場合や、曲線航路の航行中に潮流が変化する場合に、速度u
*は、複数の極大値と極小値とをとることが考えられるからである。flgMinの立下りが検出されない場合には、極小値フラグflgPeakMinは0とする(ステップS30)。
【0112】
次に、flgMaxの立下りを検出したかを判定する(ステップS32)。flgMaxの立下りが検出されると極値(極大値)が検出されたとして、極大値フラグflgPeakMaxを1に立上げ、minu
*をリセットする(ステップS34)。ここで、minu
*をリセットする理由はmaxu
*をリセットする理由と同じである。flgMaxの立下りが検出されない場合には、極小値フラグflgPeakMaxは0とする(ステップS36)。
【0113】
極値が検出されると、速度u
*を更新する。この極値における更新によって、追従性を良好にし、実際の速度と用いている速度との差異を小さくすることができる。
【0114】
図9は、従来と本発明の相違を示す図であり、破線が従来による更新を、実線が本発明による更新を表している。従来においては、極値の付近において更新がなされないので、更新の機会が少なく、実際の速度との差異が大きくなっている。これに対して、本発明によれば、極値で更新がなされるので、更新の機会が多くなり、実際の速度との差異を小さくすることができる。
【0115】
4.2 平均速度による旋回角速度設定
旋回角速度は、時系列に
図9(b)に示すように速度更新に連動する。従来の旋回角速度は更新時の速度から求めているため、更新区間の速度変化による半径誤差を生じる。本発明は、その半径誤差の発生を防ぐため、
図9(b)の実線で示したように、更新区間の平均速度を用いて、
【0117】
とする。ここで、u
−*:更新区間の平均速度である。平均速度は次の速度更新までの速度変化を予測して決定する。平均速度とすることで、修正の時間遅れがなくなり誤差発生を抑制できる。
【0118】
今、速度uが1次式(a≠0)で変化するときを考える。速度uとその平均値u
−、及びそれぞれの角速度r、r
−は、
【0119】
【数33】
を時間[0,τ]で積分すると
【0120】
【数34】
になり、両者は一致する。これより速度が1次式で表されるとき、速度の平均を用いれば半径誤差は生じないことが分かる。
【0121】
次に、平均速度u
−*の算出について説明する。平均速度u
−*は、第1回目の速度更新まで、即ち初期値と、それ以降の速度更新とで異なる方法によって設定をする。
【0122】
4.2.1 第1回目の速度更新まで
第1回目の速度更新までは、1回目の平均速度u
−*1を設定する(1回目に限り添字1を付ける。i=1)。1回目の速度更新としては、(29)式に従い、
図10(a−1)、(a−2)、(b−1)、(b−2)に示す4つの更新区間のパターンが考えられるが、潮流方位ψ
dの影響を解析して、1回目の速度更新が速度変化によるものか、極値検出によるものかを判別し更新時間を求めて、平均速度を求めようとすると、その解析は複雑になる。何故なら潮流方位ψ
dのcosψ
dの象限の場合分けが必要になるからである。
【0123】
そこで、1回目の平均速度u
−*1は、旋回開始前のリーチ見積もりの演算を行う直前に、以下のような数値計算(バッチ処理)により、事前に求める。ここで、
図7に示す航路において、リーチ区間は参照方位の加速モードに、曲線航路の開始付近はその等速モードにそれぞれ該当すると仮定する。このとき曲線航路中の旋回角速度r
0tempは一定として簡単化される。
【0124】
まずは、(16)〜(19)式を用いて、参照方位ψ
RがWOP旋回前の直線航路の方位ψ
R1であるときの(すなわち、ψ
R=ψ
R1)、参照方位方向の速度成分u
*を求める。このとき、vは、
【0125】
【数35】
を用いることができる((19)式参照)。
そして、求めた速度成分u
*から、旋回角速度r
0tempを
【0127】
次いで、この旋回角速度r
0tempを用いて、参照方位発生部30によって行う処理により、(6)〜(8)式を解く。これによって、等速モード開始方位である等速モード初期値C
3vを求め、これを初期値として、平均速度の累積値を以下のように繰り返して求める。
【0128】
【数37】
ここで、j:繰り返し回数(j=1,2,・・・)、st:サンプル時間(例えば、0.2sec)である。
【0129】
そして、(29)式の速度更新条件が満足されると、繰り返しループを脱出して、平均速度を
【0130】
【数38】
より求める。但し、速度更新条件が満足されないままψ
Rvが等速モード終了方位C
3dとなったときには、
【0132】
4.2.2 第2回目以降の速度更新
4.2.2.1 速度変化による更新の場合
2回目以降の平均速度u
−*(i≧2)は、
図11(a)に示すように、次の更新までの速度変化が速度しきい値であるΔu
setになると予測する。u
*の速度変化はsin波形になるが、[i,i+1]間でほぼ直線に近似できると仮定する。このとき、平均速度u
−*は、
【0133】
【数40】
によって設定する。ここで、u
−は設定速度であり、設定速度は
【0135】
4.2.2.2 極値検出による更新の場合
速度更新が極値検出による場合、u
*の極値検出は
図11(b)に示すようにsin波形のピーク値になり、ピーク付近の近似は誤差が多少大きくなるが、[i,i+1]間でほぼ直線であると近似する。このとき、u
*の平均速度は、近似的に(38)式で表すことができ、ここで、設定速度は
【0137】
4.2.3 まとめ
以上のことをまとめると、速度更新は、
【0138】
【数43】
と設定され、ここで設定速度は
【0139】
【数44】
に設定される。旋回角速度が上記の平均速度から(30)式によって設定される。
【0140】
4.3 速度しきい値の修正
(27)式のu
*=u
β+u
dの速度変化Δu
*は、船体の対水速度u
βをほぼ一定とすれば、潮流速度成分u
dに専ら依存する。即ち、
【0142】
になる。よって、潮流速度U
dが速度しきい値Δu
setに近接すると(Δu
set≒U
d)、速度更新が検出されない場合が生じて、円弧歪み誤差が最大に近づくことになる。速度しきい値Δu
setを小さくすれば、誤差を抑制できるが、更新が頻発して実用上好ましくない。そこで、速度しきい値を、潮流速度U
dとの関係で可変とする。例えば、
図12に示すように、
【0143】
【数46】
と設定する。ここで、c
usetは係数、u
low,,u
highは設定値である。
【0144】
4.4 円弧歪み修正の組込み
円弧歪み修正は旋回前のリーチ計算と旋回中とで実施する。速度しきい値を潮流推定値から設定し、リーチ計算前に、i=1 の平均速度(4.2.1 参照)を求める。旋回において、i=1の平均速度を用いた指定旋回角速度を用いて参照方位を計算し、i≧2の速度更新から平均速度を設定し旋回角速度を更新する(4.2.2参照)。
【0145】
指定旋回角速度演算部44は、対地速度u
*が更新されると、指定旋回角速度r
0を更新し、対地速度u
*と共にそれを参照方位発生部30へと出力する。参照方位発生部30は、更新された指定旋回角速度r
0を満足する参照方位ψ
Rを再計算する。その際の変針量は既に変針された方位分を差し引いた量、
【0146】
【数47】
になる。ここでψ
0*:変化する指定変針量、Δψ
0:計画航路の変針量、Δψ’
R:既に変針された方位量である。
【0147】
また、旋回中においては、推定された潮流自体が時間と共に変化するので、潮流の時間変化によって対地速度u
*が更新されることもあり、この場合にも、指定旋回角速度r
0を更新し、対地速度u
*と共にそれを参照方位発生部30へと出力する。参照方位発生部30は、更新された指定旋回角速度r
0を満足する参照方位ψ
Rを再計算する。
【0148】
5.フィードフォワード舵角
フィードフォワード舵角発生部46は、計画航路に船体航路を追跡させるために、参照舵角((8)式)に加えて潮流の斜航角に対応する潮流舵角δ
Dを求める。
【0149】
潮流の斜航角β
dに対応する潮流舵角δ
Dは、(4)式により、
【0151】
5.1 フィードフォワード修正
潮流の斜航角β
dは、(23)式、(18)式に示されるように、閉ループ系のフィードバック制御部16内にある推定器18から得られる推定潮流成分d
x^、d
y^から求まるので、参照方位ψ
Rに加算して、軌道航路誤差演算部14に出力すると、マイナーループが構成されて、制御系特性が変化してしまう。
【0152】
よって、β
dは前方に帰還できないので、フィードフォワード舵角修正部48によって、後方で修正する。
【0153】
斜航角β
dを前方に帰還した場合の軌道航路誤差演算部14で求まる偏差は、
【0154】
【数49】
になる。ここでψ
e =ψ
R−ψである。斜航角β
dを含めたフィードバック舵角は、
【0155】
【数50】
になる。尚、フィードバックゲインG
FBは、G
FB=K
P+K
Dsである。
よってフィードバック舵角
【0156】
【数51】
による修正を実施すれば、前方のψ
R に帰還した場合と同等の応答特性、を得ることができる。
【0157】
フィードフォワード舵角修正部48は、フィードフォワード舵角発生部46で得られたフィードフォワード舵角に対して、潮流の斜航角β
dに対してフィードバックゲインG
FBを掛けたものを修正フィードバック舵角として、加算して修正する。
【0158】
6.表示装置
本発明の船舶用自動操舵装置10は、表示装置を含むことができ、表示装置に、更新された指定旋回角速度または更新された参照方位方向の対地速度成分u
*を表示して現在の状態を操船者に提示することができる。
【0159】
7.数値計算例
円弧歪みの修正の効果について数値計算によって検証する。旋回条件は、(換算:1NM=1852m,1knot(kt)=0.5144m/s)、船体パラメータK
s=0.0271/s、T
s=17.54s、T
s3=0.1s、Δu
set=1kt、c
uset:1/2、u
low=1.0knot、u
high=2.0knot、U=20knot,R=1NMである。また、Δψ
0=100deg、ψ
R1=40deg、ψ
R2=140degである。
【0160】
図13(a)は開ループ(δ
FF)、(b)は閉ループ(δ
FF+δ
FB)で操舵したときの、1〜5knotの潮流速度を横軸とし、それぞれの潮流速度において潮流方位を360°に亘り変化させたときの航路誤差y
eの平均値を縦軸に表す。
【0161】
図中、A及びBは、従来の速度更新で、速度しきい値をそれぞれu
lowとu
highとした場合、C及びDは、本発明において、前述の4.1〜4.2の修正を行い、速度しきい値をそれぞれu
low及びu
highとした場合(4.3の方法を行わない場合)、Eは、本発明において、前述の4.1〜4.3を行い、u
low〜u
highの間で変化させた場合について、航路誤差を求めたものであり、フィードフォワード舵角δ
FFによって制御した場合を示す。
【0162】
いずれも本発明は、従来のものよりも航路誤差が小さくできることが分かる。従来のA、Bの航路誤差は、Δu
setに比例しており、また、本発明のC、Dの航路誤差は、Δu
setとなっており、特に、U
dが大きい範囲でΔu
setの影響を受けないようになっている。本発明のEの航路誤差は、U
dが小さい範囲でも低減されている。