(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ヒドロキシ末端を有しメチル基及びフェニル基で修飾されたメチルフェニルポリシロキサン(A)とアルミニウムアルコキシド(B)とを混合したポリシロキサン混合物(X)と、前記ポリシロキサン混合物(X)とフェニル基で修飾されたケイ素アルコキシド(C)とを脱水縮合反応して得た有機無機ハイブリッド組成物(Y)であって、
前記メチルフェニルポリシロキサン(A)のヒドロキシ基(Af)に対する前記アルミニウムアルコキシド(B)のアルコキシド基(Bf)の数の比率が、1:0.001ないし1:0.8の範囲を満たす
ことを特徴とする有機無機接着性組成物。
前記メチルフェニルポリシロキサン(A)のヒドロキシ基(Af)に対する前記フェニル基修飾ケイ素アルコキシド(C)のアルコキシド基(Cf)の比率が、1:0.001ないし1:50の範囲を満たす請求項1に記載の有機無機接着性組成物。
【発明を実施するための形態】
【0023】
各種の光学機器には、石英ガラス、ケイ酸ガラス等から形成されたレンズ、プリズム、回折格子、またはフィルタ等のガラス材が組み込まれる。そして、分光や屈折調整のためレンズやプリズム等のガラス材同士は接合により組み合わされる。また、集光型太陽光発電装置では、二次光学系ガラス材が太陽電池と組み合わされる。さらに、基板に実装したLED素子は上方から封止され損傷から保護される必要がある。
【0024】
そこで、本発明の有機無機接着性組成物とは、1つに光学機器用のガラス材同士の接合、あるいは二次光学系ガラス材と太陽電池との接合のようにガラス材と当該ガラス材と性質が近い他の部材との接着用途に用いられる組成物である。2つに基板上のLED素子を保護する封止剤(封止材料)となり得る組成物である。後出の実施例に開示のとおり、組成成分量比によってガラス用接着剤またはLED素子用封止剤の両方もしくは一方の用途を選択することができる。
【0025】
そのため、当該有機無機接着性組成物は、ガラス用接着剤用途においては主に接合後に接着対象のガラス材と同様に透明化して光線の透過に影響を与えない性質が求められる。接合対象となるガラス材表面への塗工が容易な液粘度を有するとともに、硬化後は十分な接着力を発揮することが求められる。また、LED素子用封止剤の用途においては透過するLEDの光量をより下げにくくすること、つまり透明性が求められる。加えて、ガラス材やLED素子等との密度差に起因する屈折率の変化を低減し、光取り出し効率の改善が求められる。むろん、両用途は代表的な用途であり、本発明の有機無機接着性組成物は接着特性を活かす限りこれら以外の好適な用途に用いることも可能である。
【0026】
有機無機接着性組成物のもととなる有機無機ハイブリッド組成物(Y)の構成分子には、ヒドロキシ末端を有しメチル基及びフェニル基で修飾されたメチルフェニルポリシロキサン(A)、アルミニウムアルコキシド(B)、フェニル基で修飾されたケイ素アルコキシド(C)が含まれる。はじめに、前記のヒドロキシ末端を有するメチルフェニルポリシロキサン(A)とアルミニウムアルコキシド(B)は混合されてポリシロキサン混合物(X)となる。そしてさらに、ポリシロキサン混合物(X)にフェニル基修飾のケイ素アルコキシド(C)が添加される。このとき、脱水縮合反応により各分子の架橋が進み、有機無機ハイブリッド組成物(Y)が生成する。
【0027】
有機無機ハイブリッド組成物(Y)は、シロキサン結合を備えたポリシロキサン(ポリオルガノシロキサン)が3次元的に複雑に架橋した構造となる。そのため、いわゆる無機ガラスに近似した構造である。シロキサン結合に由来した耐熱性、耐光性等の好適な性質を得ることができる。ガラス材との接着用途の場合、接着対象のガラス材との化学的性質が近似していることや耐候性等の性質から非常に好適材料である。
【0028】
有機無機ハイブリッド組成物(Y)において、ポリシロキサン等の架橋度を高くし過ぎると当該組成物自体の弾力性が失われてしまう。このため、対象とするガラス材に塗布や塗工して接着、熱硬化した場合、ガラス材の熱膨張率と乖離が大きくなることによって有機無機ハイブリッド組成物の接着剤に剥離や亀裂が生じ、ガラス材同士の接着強度を低下させる脆弱な材料となる。結果的に、接合面により光線透過量を低下させる。逆にポリシロキサン等の架橋度を低くし過ぎた場合、ガラス材との接着力が低くなり、永続的な接合状態を得ることができない。また、LED素子の封止剤とする場合においても、塗工後の剥離や亀裂により不具合を生じさせるおそれがある。
【0029】
そこで、ガラス材を接合する接着剤やLED素子の封止剤として用いる際の前述の問題点、加工時の作業性と塗工時の組成物の粘性の確保、及び熱硬化し易さ、耐熱性、光線透過性、接着強度等の性質を備えるべく、有機無機ハイブリッド組成物(Y)に用いる材料を検討した。以下、順に組成材料を述べる。
【0030】
ヒドロキシ末端を有しメチル基及びフェニル基で修飾されたメチルフェニルポリシロキサン(A)は、有機無機ハイブリッド組成物(Y)の骨格構造を形成する物質であり、分子中の末端部分にヒドロキシ基(シラノール基)を有するとともに、メチル基及びフェニル基(芳香環)で修飾されたケイ素化合物である。
【0031】
メチルフェニルポリシロキサン(A)同士、あるいはアルミニウムアルコキシド(B)またはフェニル基修飾のケイ素アルコキシド(C)との架橋反応性を高めるため、当該(A)に規定のとおり末端部位はヒドロキシ基(シラノール基)に置換される。ヒドロキシ末端を有するメチルフェニルポリシロキサン(A)は、概ね分子量1000ないし50000の範囲から選択される。実施例にて使用したヒドロキシ末端を有するメチルフェニルポリシロキサンの分子量は約2500である。本願における分子量とは、重量平均分子量を意味する。
【0032】
一般に、メチルフェニルポリシロキサンは、熱や紫外線の影響によるフェニル基部分の分解により変色することが知られている。そのため、フェニル基含有ポリシロキサンは、有機無機ハイブリッド組成物の透明度を下げてしまうとも考えられる。しかし、メチルフェニルポリシロキサンはフェニル基部分を分子中に有することから密度を大きくすることができ、出来上がる有機無機接着性組成物(Y)の密度を高めて同組成物の屈折率を上げることができる。
【0033】
光学機器用途の場合、可視光領域の光線透過が大半であり紫外線の影響は軽微である。また、本発明のガラス用接着剤の用途にあっては、ガラス材接合面の接着剤領域において屈折率の変化を抑制する必要がある。つまり、ガラスとの屈折率の差を少なくするためである。あるいは、LED素子の封止剤として用いる場合、可視光域のLED素子の封止とすることで対応可能である。屈折率の変化による光線透過量の減少を回避するためである。従って、フェニル基を含有するポリシロキサンの使用は可能であり有用である。
【0034】
アルミニウムアルコキシド(B)はヒドロキシ末端を有するメチルフェニルポリシロキサン(A)の末端部分であるヒドロキシ基(シラノール基)と縮合反応し、分子同士による網目構造を形成する役割を持つ。当該アルミニウムアルコキシド(B)として、アルミニウムsec−ブトキシド、アルミニウムtert−ブトキシド、アルミニウムジイソプロピレートモノsec−ブチレート(別名、アルミニウム(2−ブタノラート)ジ(2−プロパノラート)、モノsec−ブトキシアルミニウムジイソプロピレート)、アルミニウムトリメトキシド、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムジイソプロピレートモノsec−ブチレート等をはじめとする各種のアルミニウムアルコキシドが挙げられる。後記する実施例からも明らかであるように、アルミニウムsec−ブトキシド、アルミニウムジイソプロピレートモノsec−ブチレートが好ましく用いられる。
【0035】
アルミニウムアルコキシド(B)は、フェニル基修飾のケイ素アルコキシド(C)と比較して加水分解や縮合等の反応性に富む高反応性の金属アルコキシドの一種である。その結果、アルミニウムアルコキシド(B)は、酸、塩基等の触媒を用いることなく加水分解が生じ、ヒドロキシ末端を有するメチルフェニルポリシロキサン(A)のヒドロキシ基(シラノール基)と縮合反応し、架橋形成が可能である。従って、従前、ポリジメチルシロキサンの縮合に使用していたジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、ビス(アセトキシジブチル錫)オキサイド、ビス(ラウロキシジブチル錫)オキサイド等のスズ系の反応促進剤を省略できる。
【0036】
一般に、高反応性の金属アルコキシドとして、列記のアルミニウムアルコキシド以外にもジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド、錫アルコキシド、亜鉛アルコキシド等の各金属アルコキシドの使用が可能である。ここで、広範囲波長領域の光線透過性確保を勘案した場合、有機無機ハイブリッド組成物(X)に含まれる高反応性金属アルコキシドの反応生成物に由来する金属酸化物には、ある程度のバンドギャップの大きさが必要である。バンドギャップよりも高いエネルギーの光は吸収される。そのため、バンドギャップに相当する波長は吸収端の波長となる。これに対し、バンドギャップよりも低いエネルギーの光は吸収されずに透過する。
【0037】
E=hνであることから、E=(h・c)/λとすることができ、まとめると、E(eV)=1240(eV・nm)/λ(nm)となる。各金属酸化物のバンドギャップについて、Al
2O
3が6.9eV、ZrO
2が5.0eV、TiO
2が3.2eV、SnO
2が3.7eV、ZnOが3.4eVである。なお、TiO
2は3.2eVのバンドギャップ構造が紫外線を吸収するため除外される。
【0038】
各金属酸化物のバンドギャップを代入すると、その吸収端の波長が求まる。順に、Al
2O
3は179.7nm、ZrO
2は248nm、SnO
2は335.1nm、ZnOは364.7nmである。このように、Al
2O
3は180nm以上の波長の透過が可能である。しかし、Al
2O
3以外は、いずれも240nm以下の短波長紫外線領域の透過を得ることはできない。現実的には紫外線に曝露される使用条件は忌避されるものの、広汎な波長領域を網羅できることから、アルミニウムアルコキシド(B)の使用が最も適している。
【0039】
フェニル基修飾のケイ素アルコキシド(C)もヒドロキシ末端を有するメチルフェニルポリシロキサン(A)の末端部分であるヒドロキシ基(シラノール基)と縮合反応し、分子同士による網目構造を形成する役割を持つ。フェニル基修飾ケイ素アルコキシドは、アルミニウムアルコキシド(B)よりもメチルフェニルポリシロキサン(A)との縮合反応が温和な種類から選択される。また、有機無機ハイブリッド組成物は、最終的にガラス骨格を形成することも考慮して他の金属種の使用よりもケイ素を含有するケイ素アルコキシドが好ましい。例えば、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等をはじめとする各種のケイ素アルコキシドが挙げられる。
【0040】
この中でも、屈折率の差を少なくして密度を高くできることからフェニル基で修飾されたケイ素アルコキシドが適する。後記する実施例からも明らかであるように、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシランが好例である。
【0041】
従来、ポリオルガノシロキサン類と、ケイ素アルコキシド等との反応に際しては、前出のスズ系の反応促進剤を必要としていた。そのため、反応促進剤に起因して、出来上がる有機無機ハイブリッド組成物の透明度低下のおそれがある。しかし、アルミニウムアルコキシドのように、より反応性の高いアルコキシドを配合することにより、反応促進剤の添加を省略することができ、透明度低下の回避は可能と考えられる。
【0042】
そうすると、使用するアルコキシドの全てをジルコニウムアルコキシド等の高反応金属アルコキシドとすることが可能であり、フェニル基で修飾されたケイ素アルコキシド等の金属アルコキシドの必要性はないようにも思われる。しかし、ヒドロキシ末端を有するメチルフェニルポリシロキサン(A)の末端部分であるヒドロキシ基(シラノール基)と温和にかつ未反応を少なくして縮合反応をするためには、むしろフェニル基修飾のケイ素アルコキシド(C)のように、反応性を抑えた化学種も必要と考えられる。アルミニウムアルコキシド(B)のみでは、高反応性ゆえに単独で反応してメチルフェニルポリシロキサン(A)と未反応となるおそれがあると考えられる。
【0043】
つまり、アルミニウムアルコキシド(B)はそれ自体による架橋剤としての作用と、メチルフェニルポリシロキサン(A)とフェニル基修飾ケイ素アルコキシド(C)との縮合反応を促進する反応促進剤としての双方の役割を有する。このため、(B)と(C)の両アルコキシドの性質の相違に鑑みジルコニウムアルコキシド(B)とフェニル基修飾ケイ素アルコキシド(C)の双方の使用が望ましいと考える。
【0044】
有機無機ハイブリッド組成物(Y)の形成と配合量は、おおよそ次のとおり規定される。有機無機ハイブリッド組成物(Y)の形成に際し、ヒドロキシ末端を有するメチルフェニルポリシロキサン(A)とアルミニウムアルコキシド(B)との混合により、アルミニウムアルコキシド(B)とメチルフェニルポリシロキサン(A)の末端ヒドロキシ基との脱水縮合により架橋が始まり、前駆体としてポリシロキサン混合物(X)が生成される。
【0045】
ポリシロキサン混合物(X)の生成において、単純な重量換算では、使用する分子種により重量が大きく変動してしまい反応の把握に不向きである。そこで、メチルフェニルポリシロキサン(A)とアルミニウムアルコキシド(B)に含まれ、反応の中心となる官能基の数量比に着目して混合量を規定することとした。
【0046】
具体的には、ヒドロキシ末端を有するメチルフェニルポリシロキサン(A)のヒドロキシ基(Af)の数とアルミニウムアルコキシド(B)のアルコキシ基(Bf)との数が規定される。そこで、ヒドロキシ基(Af)の数(前者)とアルコキシ基(Bf)の数(後者)の比率は、1:0.001ないし1:0.8(Af/Bfは、1/0.001ないし1/0.8である。)の範囲である。そして、より好ましくは、1:0.01ないし1:0.08(1/0.01ないし1/0.08)の範囲に規定される。
【0047】
ヒドロキシ末端を有するメチルフェニルポリシロキサン(A)のヒドロキシ基(Af)の数に対するアルミニウムアルコキシド(B)のアルコキシ基(Bf)の数の比率が1:0.001よりも少なくなる場合、フェニル基修飾ケイ素アルコキシド(C)のみの架橋となり有機無機ハイブリッド組成物(Y)の硬化が進まない。従って、ガラス用の接着剤は言うに及ばずLED素子の封止剤としても適さない。
【0048】
LED素子用封止剤への使用の場合、固着性よりもむしろ塗布時の流動性(低液粘度)が重視される傾向にある。このことから、目的に合わせた液粘度に調整するべく架橋抑制の点からからアルミニウムアルコキシド(B)の配合割合を少なくすることができる。
【0049】
ガラス用接着剤の用途を勘案した場合、ヒドロキシ末端を有するメチルフェニルポリシロキサン(A)のヒドロキシ基(Af)の数とアルミニウムアルコキシド(B)のアルコキシ基(Bf)との数の比率は、1:0.1ないし1:0.8(Af/Bfは、1/0.1ないし1/0.8である。)の範囲である。
【0050】
有機無機ハイブリッド組成物(Y)をガラス用接着剤として使用する場合、架橋を促進して接着強度を高めるため、より多くアルミニウムアルコキシド(B)の添加を必要とする。このことから、ヒドロキシ末端を有するメチルフェニルポリシロキサン(A)のヒドロキシ基(Af)の数に対するアルミニウムアルコキシド(B)のアルコキシ基(Bf)の数の比率が1:0.1よりも少なくなる場合、後記の実施例より、最終的に出来上がる有機無機ハイブリッド組成物(Y)をガラス材に塗布して接着した場合、良好な接着力を得ることができない。
【0051】
ヒドロキシ基(Af)の数に対するアルコキシ基(Bf)の数の比率が1:0.8を超える場合、総じてアルミニウムアルコキシド(B)が過剰であり、有機無機ハイブリッド組成物(Y)自体の液粘度が過剰に上昇する。従って、塗布等の作業性に支障を来すため、用途に関わりなく当該比率はアルミニウムアルコキシド(B)を添加する際の上限と勘案する。
【0052】
ヒドロキシ末端を有するメチルフェニルポリシロキサン(A)とアルミニウムアルコキシド(B)との反応に際し、アルミニウムアルコキシド(B)自体の反応性は高く、前述のとおり、アルミニウムアルコキシド(B)同士で結合することがある。そこで、アルミニウムアルコキシド(B)の反応促進剤としての効果を最大限生かしつつフェニル基修飾ケイ素アルコキシド(C)の縮合反応を促進する必要がある。
【0053】
この場合、アルミニウムアルコキシド(B)の作用を勘案して、フェニル基修飾ケイ素アルコキシド(C)の配合量が規定される。前記同様、官能基同士による規定が簡便であるため、有機無機ハイブリッド組成物におけるヒドロキシ末端を有するメチルフェニルポリシロキサン(A)のヒドロキシ基(Af)の数(前者)とフェニル基修飾ケイ素アルコキシド(C)のアルコキシ基(Cf)の数(後者)の比率が、1:0.001ないし1:50(言い換えると、Af/Cfは、1/0.001ないし1/50である。)を満たす範囲、より好ましくは、1:0.001ないし1:15(1/0.001ないし1/15)の範囲に規定される。
【0054】
ヒドロキシ末端を有するメチルフェニルポリシロキサン(A)のヒドロキシ基(Af)の数に対するフェニル基修飾ケイ素アルコキシド(C)のアルコキシ基(Cf)の数の比率が1:0.001の場合であっても、後記実施例のとおり良好な結果を示したことから、当該比率をフェニル基修飾ケイ素アルコキシド(C)のアルコキシ基(Cf)の数の下限と考えることができる。また、ヒドロキシ基(Af)の数に対するアルコキシ基(Cf)の数の比率が1:50よりも多くなる場合、相対的にフェニル基修飾ケイ素アルコキシド(C)の割合が多く、未反応分が多く残存し硬化しなくなる。それゆえ、ガラス材同士の接着にもLED素子の封止にも適さない。このことから、前記の配合割合の範囲値を規定した。
【0055】
LED素子用封止剤の場合、組成物の固着性よりも流動性を勘案して架橋反応性を適度に抑えて調整することが便利な場合もある。このことから、反応性がアルミニウムアルコキシド(B)よりも低いフェニル基修飾ケイ素アルコキシド(C)の配合割合を相対的に増やすことが可能である。従って、前記のとおりヒドロキシ基(Af)の数に対するアルコキシ基(Cf)の数の比率1:50までが許容される。原料使用量の観点から、ヒドロキシ基(Af)の数に対するアルコキシ基(Cf)の数の比率1:15までが実用的な範囲である。
【0056】
ガラス用接着剤の用途を勘案した場合、塗布時の流動性とともに接着後の接着強度も確保する必要がある。そこで、LED素子用封止剤とする場合よりも相対的にアルミニウムアルコキシド(B)の配合割合を増やしてより架橋を促すことが望ましい。このことを踏まえ、ガラス用接着剤の用途にあっては、ヒドロキシ末端を有するメチルフェニルポリシロキサン(A)のヒドロキシ基(Af)の数とフェニル基修飾ケイ素アルコキシド(C)のアルコキシ基(Cf)との数の比率は、1:0.001ないし1:15(Af/Cfは、1/0.001ないし1/15)の範囲である。
【0057】
さらに好適な接着強度を勘案すると、ヒドロキシ末端を有するメチルフェニルポリシロキサン(A)のヒドロキシ基(Af)の数とフェニル基修飾ケイ素アルコキシド(C)のアルコキシ基(Cf)との数の比率は、1:0.001ないし1:1、より好ましくは1:0.001ないし1:0.20を満たす範囲の配合割合となる。
【0058】
ヒドロキシ末端を有するメチルフェニルポリシロキサン(A)、アルミニウムアルコキシド(B)、及びフェニル基修飾ケイ素アルコキシド(C)を前述の配合割合において調製する場合、アルコールが溶媒として用いられる。アルミニウムアルコキシド(B)はアルコールに溶解され、その上でメチルフェニルポリシロキサン(A)に混合され、ポリシロキサン混合物(X)、有機無機ハイブリッド組成物(Y)の順に調製が進む。すなわち、成分同士の混合を容易とし、しかも使用前の流動性を維持するためである。各材料の混合後、使用したアルコール溶媒は真空吸引により除去される。
【0059】
特に、アルミニウムアルコキシド(B)は、前述のとおり反応性に富むため、単純にメチルフェニルポリシロキサン(A)に添加するとアルミニウムアルコキシド(B)同士により脱水縮合して酸化アルミニウムを析出する。あるいは、添加したアルミニウムアルコキシド(B)の周りのメチルフェニルポリシロキサン(A)のみと反応して不均一な生成物が生じる。そのため、アルミニウムアルコキシド(B)は、アルコール溶媒中に分散された上でヒドロキシ末端を有するメチルフェニルポリシロキサン(A)と混合される。
【0060】
一般にアルコールは水素結合により水分子と親和性が高い。溶媒に用いるアルコールに求められる主な性質は、水分の吸収が少ないこと、かつ沸点が100℃以下であることである。そこで、1−プロパノール、1−ブタノール等の1級アルコール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール)、2−ブタノール(sec−ブチルアルコール)等の2級アルコール、2−メチル−2−プロパノール(tert−ブチルアルコール)等の3級のアルコールが例示される。さらに、紫外線領域での吸収がないことを考慮すると2−メチル−2−プロパノールが好ましい。後述の実施例にあるとおり、アルミニウムアルコキシド(B)は、2−メチル−2−プロパノールに溶解され、メチルフェニルポリシロキサン(A)と混合される。
【0061】
まず、アルミニウムアルコキシド(B)は、2−メチル−2−プロパノールに溶解され、メチルフェニルポリシロキサン(A)と混合される。アルミニウムアルコキシド(B)とメチルフェニルポリシロキサン(A)の末端ヒドロキシ基との脱水縮合により架橋した前駆体として、ポリシロキサン混合物(X)が生成する。ここにフェニル基修飾ケイ素アルコキシド(C)も添加され、さらに脱水縮合により架橋し、有機無機ハイブリッド組成物(Y)が生成する。
【0062】
その後、空気中の水分は有機無機ハイブリッド組成物(Y)の表面から内部に吸収される。組成物表面から吸収された水分により、アルミニウムアルコキシド(B)及びフェニル基修飾ケイ素アルコキシド(C)の加水分解は進行する。そして、さらにヒドロキシ末端を有するメチルフェニルポリシロキサン(A)との脱水縮合が促進する。縮合により生成した水に起因して、さらにアルミニウムアルコキシド(B)及びフェニル基修飾ケイ素アルコキシド(C)の加水分解が誘発される。このように、アルコキシドの加水分解とポリシロキサンの脱水縮合は連鎖的に生じ、有機無機ハイブリッド組成物(Y)の表面から次第に内部全体の架橋、硬化の反応が進行する。最終的に、ガラス材等に塗工された時点では流動物であった有機無機ハイブリッド組成物(Y)は、その内部で架橋、硬化することによって、互いのガラス材同士の接着は可能となる。
【0063】
有機無機ハイブリッド組成物(Y)について、これを組成するヒドロキシ末端を有するメチルフェニルポリシロキサン(A)、アルミニウムアルコキシド(B)、及びフェニル基修飾ケイ素アルコキシド(C)に加え、当該組成物の目的、作用に反しない限りにおいて必要に応じて任意の成分を添加することができる。
【0064】
本発明の有機無機ハイブリッド組成物(Y)よりなる有機無機接着性組成物について、その具体的な用途、用法について
図1ないし
図4を用い説明する。図示は封止用途並びに接着用途の例である。そこで、封止や接着の作用が適用可能であれば、図示以外の対象物にも適用可能である。
【0065】
有機無機ハイブリッド組成物(Y)は、硬化前の状態であれば流動性を利用できる。このことからLED全体の上方からの被覆は極めて容易である。例えば、
図1の概要図としての例示するように、本発明の有機無機ハイブリッド組成物(Y)をLED素子の封止剤5として用いる場合、有機無機ハイブリッド組成物は、LED素子2を実装した基板1上に塗工装置6から吐出、滴下される。そして、当該基板1にてLED素子2の全体を被覆して同基板に被着する。なお、図示の基板1では、プリント配線、その他の部品についての図示を省略している。
【0066】
図2はLED素子を実装した基板の概略断面図である。この図示の例示では、接着剤4となる有機無機ハイブリッド組成物が、前出の塗工装置6により、基板1に形成された穴部3内に滴下される。LED素子2が同接着剤の上に載置、固定され、LED素子の配線8は穴部3の底面部分の所定位置に接続される。続いて、LED素子の封止剤5となる有機無機ハイブリッド組成物が、塗工装置6から吐出、滴下される。LED素子2とともに穴部3内が封止剤5で満たされることによって、穴部3のLED素子2は有機無機ハイブリッド組成物Yにより完全に被覆、保護される。
【0067】
その後、基板1は室温下にて静置され、さらに70℃ないし200℃で加熱されることにより、組成物内の分子の架橋反応が進み、有機無機ハイブリッド組成物は熱硬化する。接着剤4は基板とLED素子を強力に接着し、封止剤5はLED素子2を保護する。そして、必要により、レンズ7が装着される。
【0068】
図示以外の基板やLED素子の形態、塗工手法によっても有機無機ハイブリッド組成物を接着剤や封止剤として利用することができる。こうして、LED素子の好適な接着や被覆、保護が可能である。また、最終的に出来上がるLED素子用接着性組成物の形状も図示の例に限られない。
【0069】
次に示す
図3及び
図4は本発明の有機無機ハイブリッド組成物(Y)をガラス用接着剤の用途として使用する際の模式図である。有機無機ハイブリッド組成物(Y)は硬化前の状態では流動性を利用でき接着対象のガラス材への塗工は容易である。
図1はプリズム同士の接着である。
図4は集光型太陽光発電装置における太陽電池と二次光学系ガラス部材との接着であり、例えば、特開2008−305879号公報等が参照される。
【0070】
図3(a)では、接着対象となる第1プリズム11と第2プリズム12が示される。そして、この例では、第1プリズム11の接着面13に本発明のガラス用接着剤Gaが塗工される。符号14は第2プリズム12の接着面である。続く
図3(b)では、第1プリズム11の接着面13と第2プリズム12の接着面14が所定位置で接合され、面同士で密着する。そして、ガラス用接着剤Gaの有機無機ハイブリッド組成物内で架橋、硬化を経て、第1プリズム11と第2プリズム12の接着は完了する。結果、プリズム同士の接合により接合ガラス材10が形成される。
【0071】
図4(a)は、集光型太陽光発電装置の主要部分である太陽電池20(発電素子)と二次光学系ガラス材25の接合前の分離状態を示す模式図となる。図示の二次光学系ガラス材25は、本体部26、上面部27、底面部28、側面部29から形成された角錐台形状であり、ホモジナイザ等とも称される。光線は上面部27から入光し本体部26の側面部29により反射を繰り返すことによって光線のスペクトル、強度等は均質化される。そして、光線は底面部28から出光し二次光学系ガラス材25直下の太陽電池20に到達する。二次光学系ガラス材を備えることにより発電効率は高まる。
【0072】
図4(b)では、二次光学系ガラス材25の底面部28にガラス用接着剤Gaが塗工される。そして、接着対象となる太陽電池20の上表面21の所定位置で接合され、面同士で密着する。太陽電池20の表面はシリコン結晶(単結晶、アモルファス等)、あるいは被覆用ガラス材等であるため、ガラス材と性質が近似する。従って、本発明の有機無機接着性組成物の好適な接着対象となる。
【0073】
図4(c)は接合状態の断面模式図である。二次光学系ガラス材25の底面部28と太陽電池20の上表面21は、ガラス用接着剤Gaにより隙間なく接着される。二次光学系ガラス材25に入光した光線Lは本体部26の側面部29で反射して底面部28から出光し、ガラス用接着剤Gaを透過して太陽電池20に到達する。なお、
図2では集光型太陽光発電装置に含まれる集光用フレネルレンズ、配線等の部材の図示は省略した。
【0074】
二次光学系ガラス材(ホモジナイザ)と太陽電池(発電素子)の接合に際し、光線透過の妨げとならないことを前提として、次の4点が重視される。(1)二次光学系ガラス材と太陽電池の固定に位置ずれが生じないことが必要である。(2)二次光学系ガラス材と太陽電池との直接接触を回避して互いの損傷を防ぐことが求められる。(3)二次光学系ガラス材と太陽電池表面の屈折率を近づけて太陽電池に到達する光量低下を抑制する必要がある。(4)二次光学系ガラス材、太陽電池の熱膨張によりねじれや位置ずれの力が加わったときに、その力を緩和することである。
【0075】
集光型太陽光発電装置によると、太陽光の集光により各部材は高温となる。このため、二次光学系ガラス材(ホモジナイザ)と太陽電池(発電素子)との間に介在する接着剤に対して、
図3にて開示の接着剤以上に耐熱性、耐光性、柔軟性、耐久性が求められる。そうすると、本発明の有機無機ハイブリッド組成物(有機無機接着性組成物)のガラス用接着剤は、後述する実施例からも明らかであるように既存のガラス接着剤よりも耐熱性、耐光性に優れていることから、集光型太陽光発電装置等の苛酷環境を想定した用途により適する。
【0076】
むろん、図示した以外のガラス材等に対しても有機無機ハイブリッド組成物を含有するガラス用接着剤を用いた接着は可能である。当該接着剤の塗工方法はいずれでも良く、その塗布量等も最適に規定される。また、有機無機ハイブリッド組成物を含有するガラス用接着剤にあっては、屈折率の調整あるいは、硬度や強度の調整目的として、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ケイ素等のナノ粒子を添加することもできる。これらは透過率に影響が小さいため、添加可能である。
【実施例】
【0077】
〔使用原料〕
ヒドロキシ末端を有しメチル基及びフェニル基で修飾されたメチルフェニルポリシロキサン(A)として、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製のYF3804(重量平均分子量2500)のヒドロキシ末端を有するメチルフェニルポリシロキサンを使用した(以下、[Ph−PDMS]と称する。)。また、アルコキシドの溶解用に2−メチル−2−プロパノール(tert−ブチルアルコール)(関東化学株式会社製)を使用した。
【0078】
アルミニウムアルコキシドとして、アルミニウムsec−ブトキシド(アルミニウムsec−ブチレート)(川研ファインケミカル株式会社製,商品名:ASBD)(以下、表中を含めて[ASBD]と称する。)を使用した。また、アルミニウムジイソプロピレートモノsec−ブチレート(川研ファインケミカル株式会社製,商品名:AMD)(以下、表中を含めて[AMD]と称する。)を使用した。
【0079】
フェニル基修飾ケイ素アルコキシド(C)として、フェニルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製,商品名:フェニルトリエトキシシラン(LS−4480))を使用した(以下、[PTEOS]と称する。)。また、ジフェニルジエトキシシラン(東京化成工業株式会社製,商品名:ジエトキシジフェニルシラン)を使用した(以下、[DPDEOS]と称する。)を使用した。
【0080】
〔有機無機接着性組成物の作製〕
発明者らは、前記の使用原料を用い次の手順に従い試作例1ないし43の有機無機ハイブリッド組成物を調製した。なお、使用原料、中間生成物等の配合の詳細は、試作例毎の表中に記載の量(重量比、重量)とした。
【0081】
アルミニウムsec−ブトキシド[ASBD]と、その20重量倍の脱水した2−メチル−2−プロパノールを密閉容器に入れて混合してアルミニウムアルコキシド溶液[Bs]を得た。同溶液[Bs]の希釈濃度(1/20)はいずれの試作例も共通とした。メチルフェニルポリシロキサン[Ph−PDMS]の脱水処理の後、別の容器に定量して投入し、密閉状態で両成分を十分に攪拌混合してポリシロキサン混合物[X]を得た。アルミニウムジイソプロピレートモノsec−ブチレート[AMD]を使用した場合もアルミニウムアルコキシドの種類のみの変更であり処理は同様である。
【0082】
そして、当該混合物を70℃に加熱しながらさらに1時間混合攪拌し続け、さらに真空吸引することにより溶媒を除去し、均質で透明な混合液状物[Ms]を得た。混合液状物[Ms]にフェニルトリエトキシシラン[PTEOS]を添加して密封容器内で10分ほど混合攪拌し、各試作例に応じた有機無機ハイブリッド組成物[Y]を得た。ジフェニルジエトキシシラン[DPDEOS]を使用した場合もフェニル基修飾ケイ素アルコキシドの種類のみの変更であり処理は同様である。
【0083】
〔硬化状態の評価〕
各試作例の有機無機ハイブリッド組成物を3gずつフッ素樹脂(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)製のシャーレに流し込んだ。そして、70℃で4時間加熱し、150℃で4時間加熱した。当該加熱経過後、硬化した有機無機ハイブリッド組成物を目視により観察した。そこで、しわ等の硬化により生じた膜のむらの有無並びにその多少に応じて「優」、「良」、「可」の評価をした。「優」はしわのない硬化物である。当該加熱経過によって硬化膜を形成しなかった試作例については「不可」とした。当該硬化状態の評価を踏まえて封止剤としての「優」ないし「不可」を評価した。
【0084】
〔液粘度の測定と評価〕
各試作例の有機無機ハイブリッド組成物について、JIS Z 8803(2011):液体の粘度−測定方法に準拠し、粘度計(株式会社セコニック製,VM−10A−M)を用いて測定(mPa・s)した。熱硬化前の段階での塗工作業を想定した流動性を鑑み、概ね1000mPa・s以下を「優」とし、1000ないし2000mPa・sを「良」、2000ないし5000mPa・sを「可」、5000mPa・s以上を「不可」とした。
【0085】
〔耐光性試験〕
試作例毎に調製した有機無機ハイブリッド組成物を3gずつ、フッ素樹脂製のシャーレに流し込み、70℃で4時間加熱し、150℃で4時間加熱し、試作例毎に厚さ約1mmの熱硬化片を調製した。
【0086】
厚さ1mmのスライドガラス2枚の間に熱硬化片を挟むことによって光源照射用試料とした。高圧UVランプ点灯装置(ウシオ電機株式会社製,UM−453B−A)を用い同ランプから発生する紫外線領域の波長をカットし、波長365nmにおいて強度80W/m
2の条件として試作例毎の光源照射用試料に対し照射した。240時間の光線照射後に光源照射用試料を取り出した。光源照射用試料から熱硬化片を取り出し、試作例毎に分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ製,U−4000)を用いて400nmにおける光線透過率(%)を測定した。240時間光線照射後の400nmの光線透過率が85%以上を「優」、80ないし85%を「良」、75ないし80%を「可」、75%未満を「不可」とした。
【0087】
〔耐熱耐光性試験〕
耐光性試験と同様に、試作例毎に調製した有機無機ハイブリッド組成物を3gずつ、前出と同じフッ素樹脂製のシャーレに流し込み、電気炉に入れて70℃で4時間加熱し、150℃で4時間加熱した。こうして試作例毎に厚さ約1mmの熱硬化片を調製した。
【0088】
試作例毎の熱硬化片を150℃の乾燥機内に480時間静置し、加熱負荷を加えた。そして、前出の高圧UVランプ点灯装置を用い、強度80W/m
2の条件とし、試作例毎の熱硬化片に照射した。240時間の光線照射後に光源照射用試料を取り出し、それぞれの熱硬化片について400nmにおける光線透過率(%)を測定した。240時間光線照射後の400nmの光線透過率が85%以上を「優」、80ないし85%を「良」、75ないし80%を「可」、75%未満を「不可」とした。
【0089】
〔接着試験〕
厚さ1.0mm、75mm×25mmのガラス片を用意した。1枚のガラス試験片の長手方向の端から40mmまでの部分に各試作例の有機無機ハイブリッド組成物を一定量(約0.1g)ずつ塗布した(塗布試験片)。塗布試験片の組成物塗布部分は25mm×30mmの大きさである。組成物塗布部分に組成物を塗布していない別のガラス試験片を重ねるとともに、両ガラス試験片とも末端から40mmの重ね合わせのない部分を形成した。そして、両ガラス試験片を2個の事務用クリップで組成物塗布部分のガラス試験片を押圧固定し、150℃で8時間加熱し、当該組成物を熱硬化した。
【0090】
接着強度の評価に際し圧縮せん断接着強さの試験を採用した(JIS K 6852(1994)参照)。前出の有機無機ハイブリッド組成物を熱硬化した後の2枚重ねのガラス試験片の両端となる単層部分を万能材料試験機(シンコー工業株式会社製,TCM5000)のロードセル上に縦方向に保持した。そして、上方向から荷重を加えた。圧縮時、試験機のクロスヘッドの移動速度は10mm/minとした。2枚重ねのガラス試験片が剥離した時点の荷重値を当該有機無機ハイブリッド組成物の接着剤の圧縮せん断接着強さ(N/mm
2)とした。
【0091】
上記の圧縮せん断接着強さにおいて、0.5N/mm
2以上を示した有機無機ハイブリッド組成物を「優」と評価した。同様に0.3ないし0.5N/mm
2を「良」、0.1ないし0.3N/mm
2を「可」、0.1N/mm
2以下あるいは接着自体が不可能であった試作例を「不可」と評価した。当該評価が接着剤適性に相当する。
【0092】
〔総合評価〕
総合評価は、これまでに測定、評価を重ねた指標に基づいて実需要上の観点から総合的に考慮して、ガラス用接着剤用途、LED素子用封止剤用途のいずれかもしくは両方、あるいはいずれも不可の判定を下した。
【0093】
試作例毎に、使用原料とその重量(g)、ヒドロキシ末端を有するポリシロキサン[Ph−PDMS]のヒドロキシ基(Af)とアルミニウムアルコキシド[ASBD]もしくは[AMD]のアルコキシド基(Bf)との官能基数比(Af/Bf換算値)、同[Ph−PDMS]のヒドロキシ基(Af)とフェニル基修飾ケイ素アルコキシド[PTEOS]もしくは[DPDEOS]のアルコキシド基(Cf)との官能基数比(Af/Cf換算値)、硬化状態、液粘度(mPa・s)、液粘度評価、240時間経過光線透過率(400nm)(%)、耐光性評価、耐熱240時間経過光線透過率(400nm)(%)、耐熱耐光性評価、接着強度(N/mm
2)、接着剤適性、封止剤適性、及び総合評価の結果を表1ないし9として示した。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
【表3】
【0097】
【表4】
【0098】
【表5】
【0099】
【表6】
【0100】
【表7】
【0101】
【表8】
【0102】
【表9】
【0103】
〔結果と考察〕
〈「Af/Bf」の比率〉
試作例1ないし23は主にアルミニウムアルコキシド(アルミニウムsec−ブトキシド[ASBD])の配合割合を段階的に増やして有機無機ハイブリッド組成物を調製した結果である。アルミニウムアルコキシドが無配合の試作例1,2は全く性能を発揮しない。従って、アルミニウムアルコキシドは必須成分である。
【0104】
ヒドロキシ末端を有するメチルフェニルポリシロキサン[Ph−PDMS]のヒドロキシ基(Af)に対するアルミニウムsec−ブトキシド[ASBD]のアルコキシド基(Bf)の間に成立する好適な比率「Af/Bf」を検討すると、「1/0.001」より多くなると封止剤適性は生じる(試作例3,4以降)。さらにBfの比率が高まり、試作例11と13との差から、「Af/Bf」の比率「1/0.1」辺りから接着強度が高まり接着剤適性も発揮する。ただし、試作例21と22の差から「Af/Bf」の比率「1/0.80」を超過すると、液粘度が急上昇して塗工性等の取り扱い易さが急低下する。このため、いずれの用途であっても、液粘度の観点から「Af/Bf」の比率「1/0.80」が上限となる。
【0105】
〈LED素子封止剤の用途〉
この結果から、適度な硬化性能を有するのみで足りるLED素子封止剤の用途にあっては、「Af/Bf」の比率「1/0.001」が下限である。そこで、ヒドロキシ末端を有するメチルフェニルポリシロキサン(A)のヒドロキシ基(Af)の数とアルミニウムアルコキシド(B)のアルコキシ基(Bf)との数の比率は、1:0.001ないし1:0.8の範囲に規定することができる。
【0106】
〈ガラス用接着剤の用途〉
次に、接着対象となるガラス材の良好な接着強度から接着剤の用途を勘案すると、「Af/Bf」の比率「1/0.1」が下限である。さらに強固な接着強度を加味すると試作例13,15の差から好ましくは「1/0.3」が下限であり、試作例16,17まで考慮すると「1/0.5」が下限である。そこで、ヒドロキシ末端を有するメチルフェニルポリシロキサン(A)のヒドロキシ基(Af)の数とアルミニウムアルコキシド(B)のアルコキシ基(Bf)との数の比率は、1:0.1ないし1:0.8の範囲であり、好ましくは、1:0.3ないし1:0.8、より好ましくは1:0.5ないし1:0.8の範囲に規定することができる。
【0107】
〈「Af/Cf」の比率〉
試作例24ないし41は主にフェニル基修飾ケイ素アルコキシド(フェニルトリエトキシシラン[PTEOS])の配合割合を段階的に増やして有機無機ハイブリッド組成物を調製した結果である。ケイ素アルコキシドの配合範囲は希薄濃度から高濃度まで極めて広範囲の配合が可能であった。
【0108】
ヒドロキシ末端を有するメチルフェニルポリシロキサン[Ph−PDMS]のヒドロキシ基(Af)に対するフェニルトリエトキシシラン[PTEOS]のアルコキシド基(Cf)の間に成立する好適な比率「Af/Cf」を検討すると、「1/0.001」を満たしていればいずれの用途にも好適である。このため、「Af/Cf」の比率「1/0.001」が下限となる。上限について見ると、試作例40と41の差から「Af/Cf」の比率「1/50」を超過するといずれの用途も不可となる。試作例36と37の差から、いずれの用途にも可能とする点を考慮すると「Af/Cf」の比率「1/15」が上限となる。この理由として、アルミニウムアルコキシドよりも反応性の低いケイ素アルコキシドの存在割合が相対的に増加し過ぎとなり、組成物中における分子同士の架橋が十分に進行しなかったためと考える。
【0109】
〈LED素子封止剤の用途〉
この結果から、適度な硬化性能を有するのみで足りるLED素子封止剤の用途にあっては、前述のとおり、試作例40と41の差から「Af/Cf」の比率「1/50」が作成上の上限である。ただし、フェニル基修飾ケイ素アルコキシドの使用量が過剰である。現実的な使用量として試作例36の「1/15」が妥当な比率である。そこで、ヒドロキシ末端を有するメチルフェニルポリシロキサン(A)のヒドロキシ基(Af)の数とフェニル基修飾ケイ素アルコキシド(C)のアルコキシ基(Cf)との数の比率は、1:0.001ないし1:50の範囲であり、より好ましくは、1:0.001ないし1:15の範囲に規定することができる。
【0110】
〈ガラス用接着剤の用途〉
次に、接着対象となるガラス材の良好な接着強度から接着剤の用途を勘案すると、接着強度を加味して試作例36,37の接着強度の差から「Af/Cf」の比率「1/15」が上限である。ここで好ましくは、試作例30,31の接着強度の差から「Af/Cf」の比率「1/1」となり、さらに好ましくは試作例28,29の接着強度の差から「1/0.2」が上限である。そこで、ヒドロキシ末端を有するメチルフェニルポリシロキサン(A)のヒドロキシ基(Af)の数とフェニル基修飾ケイ素アルコキシド(C)のアルコキシ基(Cf)との数の比率は、1:0.001ないし1:15の範囲であり、好ましくは、1:0.001ないし1:1、より好ましくは1:0.001ないし1:0.2の範囲に規定することができる。
【0111】
〈耐光性、耐熱耐光性〉
耐光性並びに耐熱耐光性の評価において、前述の反応に関与する官能基同士の比率が本発明に規定する数値内であれば、当該有機無機ハイブリッド組成物は使用上十分な透過率を得ることができた。従って、熱や光に耐性を備え経時劣化が少なく耐久性と経済性に富む組成物となる。
【0112】
〔使用原料の拡張性〕
試作例51はアルミニウムアルコキシドとしてアルミニウムジイソプロピレートモノsec−ブチレート[AMD]を使用して調製した例であり、試作例52はフェニル基修飾ケイ素アルコキシドとしてジフェニルジエトキシシラン[DPDEOS]を使用して調製した例である。表の結果から明らかなように、「Af/Bf」及び「Af/Cf」の好適な比率を満たした配合量の調製とすると、使用原料を変更しても良好な性能を備える有機無機ハイブリッド組成物を得ることができた。従って、本発明の有機無機ハイブリッド組成物を調製するに際し、アルミニウムアルコキシドやフェニル基修飾ケイ素アルコキシドの種類拡張が可能であることを示唆する。