(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ステップ(7)の座標変換を前記ステップ(6)で前記カム溝側壁面の前記XYZ座標値を収集しながらコンピュータによってリアルタイムに行なう請求項1に記載のレンズ鏡筒用カム筒のカム溝測定方法。
前記カム筒及び前記測定治具は、前記カム筒が前記測定治具に対して常に同一の回転角度で搭載されるように位置合せ部位を備えており、かつ、前記測定治具はカム筒回転基準点を備えており、
前記ステップ(3)は、前記測定治具の前記カム筒回転基準点のXYZ座標値を測定することにより、前記カム筒回転基準点の前記回転方向傾斜度を測定する工程も含み、
前記ステップ(5)を行なわない、請求項1又は2に記載のレンズ鏡筒用カム筒のカム溝測定方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の問題の解決方法として、例えば特許文献1に一つの方法が提案されている。その方法は、三次元測定機を用いた倣い測定によってカム溝を測定する。倣い測定では被測定物が回転円盤(ロータリーテーブル)の上に配置される。
【0008】
倣い測定の工程を順に説明する。まず、三次元測定機の測定台の上に回転円盤を載置する。回転円盤の中心を測定する。回転円盤上に被測定物であるカム筒を固定設置する。このとき、回転円盤の中心とカム筒の中心とを概ね合致させる。カム筒の中心と傾きを測定する。これにより、カム筒の中心と回転円盤の中心とのずれ量や傾き量を認識しておく。このずれ量及び傾き量を用いて、後述する倣い測定によって収集された被測定物のデータを補正する。この測定過程は、例えば三次元測定機であるCrysta−Apex710(株式会社ミツトヨの製品)に搭載される同社製プログラムソフト等によってなされる一般的な測定方法である。
【0009】
特許文献1に開示された測定方法(以下、従来測定方法という)では、回転円盤上に固定設置された被測定物であるカム筒の中心や傾きを測定するために、測定に先立ち、カム筒に測定用治具を内挿又は外挿し、当該測定用治具の中心や傾きを測定することによってカム筒の中心や傾きを測定する。当該測定治具を取り外した後、倣い測定用のプローブをカム溝に当接させて回転円盤を回転させながらカム溝について深さとカム筒軸方向の位置を倣い測定する。得られたデータを上記ずれ量及び傾き量を用いて補正する。補正後のデータを用いて金型を研削修正する。
【0010】
従来測定方法にて得られるカム溝のデータは、カム溝の深さとカム筒軸方向のカム溝位置のみである。特許文献1に記載された実施例を参酌すると、カム溝の深さとカム筒軸方向の位置を倣い測定する際、段落[0026]及び
図6に記載されているように、倣い測定用のプローブの先端に取り付けられた球形状の当接部は、カム溝の対向する側壁面の両方に接し、かつカム溝の底面には接せず離れるようにカム溝に接触される。当該当接部は、必ずしも球形状でなくともよく、カム溝の対向する両側面に接し、かつカム溝の底面からは離れるように形成されたものであればよいとされている。
【0011】
当該実施例が特許文献1に記載された発明を具体化したものであることを考慮すると、「カム溝の深さ」とは、プローブの当接部がカム溝の両側壁面に当接した状態での、カム筒径方向(X軸方向)での当接部の中心位置である。また、「カム溝の軸方向位置」とは、カム筒軸方向(Z軸方向)でのカム溝の両側壁面間のおおよその中間位置である。従来測定方法において、プローブの当接部の動作は実際の鏡筒内においてカム溝をなぞるカムピンの動作に近い。したがって、従来測定方法は、カムピンの軌跡が所望のものとなるかどうかを調べるには適している。
【0012】
しかし、特許文献1の
図6からも明らかなとおり、従来測定方法はカム溝両側壁面の角度を検出することはできない。
従来測定方法は、カム溝の形状(両側壁面の角度や溝幅)が成形歪みによって設計形状とは異なっていても、カム溝の両側壁面に接したプローブ当接部のカム筒軸方向位置及びカム筒径方向位置が設計形状から予測される位置と同じであれば、同じカム溝と判断してしまうことになる。
【0013】
すなわち、従来測定方法は、球形状のプローブ当接部がカム溝の両側壁面に接触した位置での当接部球中心のカム筒軸方向位置及び径方向位置が分かるのみで、カム溝の形状を知ることができない。したがって、従来測定方法は、カム溝の形状が設計どおりの形状寸法にできているかどうかを測定判断することができないという問題があった。
【0014】
本発明は、従来測定方法の上記問題を解決し、レンズ鏡筒用カム筒について製品設計どおりの形状及び寸法のカム溝が得られているかどうかを測定できるカム溝測定方法、並びに製品設計時のねらいの仕上がり形状及び寸法どおりのカム溝を備えたレンズ鏡筒用カム筒の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明にかかるレンズ鏡筒用カム筒のカム溝測定方法は、以下のステップ(1)〜(7)を含む。
(1)三次元測定機の測定台の上に設置された回転円盤の回転中心位置を測定し、上記三次元測定機が有するXYZ三次元座標のZ軸位置を決定するステップ、
(2)円形の治具基準面と上記治具基準面に同心の基準円周面とを有する測定治具を、上記治具基準面の円中心と上記回転円盤の回転中心とが概ね一致するように、上記回転円盤上に設置するステップ、
(3)上記XYZ三次元座標のXY平面上における上記治具基準面の円中心位置と、上記XY平面に対する上記治具基準面の面傾斜度を測定するステップ、
(4)上記カム筒のカム筒中心軸と直交するようにして上記カム筒に設けられたカム筒基準面を、上記カム筒中心軸と上記治具基準面の円中心とを一致させつつ上記治具基準面に当接させて、上記測定治具に上記カム筒を搭載するステップ、
(5)上記測定治具に搭載された上記カム筒に設けられたカム筒回転基準点のXYZ座標値を測定することにより、上記カム筒中心軸及び上記カム筒回転基準点を通る直線と上記XYZ三次元座標のX軸又はY軸とがなす角度である回転方向傾斜度を測定するステップ、
(6)上記三次元測定機に装着された測定プローブであって当該プローブの先端に上記カム溝の最狭部幅よりも小さい直径の球形状当接部を有する測定プローブを用い、上記カム筒中心軸から所定の距離だけ離れた測定位置で上記プローブの上記当接部を上記カム溝の側壁面の1箇所に接触させた後、上記カム筒中心軸からの上記所定距離を一定に保ったまま、上記回転円盤を回転させて倣い測定を行なって上記カム溝側壁面のXYZ座標値を収集する工程を、上記カム筒中心軸からの距離が互いに異なる複数の測定位置で行なうステップ、
(7)上記カム溝側壁面の上記XYZ座標値を、上記治具基準面の円中心位置及び上記面傾斜度、並びに上記カム筒回転基準点の上記回転方向傾斜度に基づいて、平行移動、傾け及び回転の各座標変換を行なうことによって、上記カム筒基準面をX’Y’平面とし、上記カム筒中心軸をZ’軸とするX’Y’Z’直交座標値にコンピュータによって変換して上記カム溝側壁面の測定データを得るステップ。
【0016】
本発明のカム溝測定方法において、上記ステップ(7)の座標変換を上記ステップ(6)で上記カム溝側壁面の上記XYZ座標値を収集しながらコンピュータによってリアルタイムに行なうようにしてもよい。
【0017】
また、本発明のカム溝測定方法において、上記カム筒及び上記測定治具は、上記カム筒が上記測定治具に対して常に同一の回転角度で搭載されるように位置合せ部位を備えており、かつ、上記測定治具はカム筒回転基準点を備えており、上記ステップ(3)は、上記測定治具の上記カム筒回転基準点のXYZ座標値を測定することにより、上記カム筒回転基準点の上記回転方向傾斜度を測定する工程も含み、上記ステップ(5)を行なわないようにしてもよい。
ここで、ステップ(3)におけるカム筒回転基準点の回転方向傾斜度を測定は、治具基準面の円中心位置の測定又は治具基準面の面傾斜度の測定と同時に行なわれてもよいし、これらの測定とは別途行なわれてもよい。
【0018】
また、本発明のカム溝測定方法は、上記カム溝の対向する両壁に同時に当接する程度の半径をもつ仮想カムピン当接球を設定し、上記ステップ(7)で得られた上記カム溝側壁面の測定データに基づいて、上記カム溝側壁面を対向する上記カム溝側壁面側へ上記仮想カムピン当接球の半径分だけ移動させたときの仮想面が交差して形成される交差曲線を得ることによって、上記仮想カムピン当接球の中心の軌跡を得るステップをさらに含むようにしてもよい。
【0019】
本発明にかかるレンズ鏡筒用カム筒の製造方法は、以下のステップ(A)〜(D)を含む。
(A)製品設計における製品の仕上がり寸法よりもカム溝幅が大きくなるように、予め一定寸法の削り代を残したカム溝形成型を有する金型で成形された円筒状のレンズ鏡筒用カム筒を用意するステップ、
(B)請求項1から3のいずれか一項に記載のレンズ鏡筒用カム筒のカム溝測定方法によって上記レンズ鏡筒用カム筒のカム溝測定を行なうステップ、
(C)得られた上記カム溝側壁面の上記測定データから求まるカム溝側壁面データと上記製品設計における仕上がり寸法との差だけ、上記カム溝形成型を削り込んで上記金型を修正するステップ、
(D)上記ステップ(B)で削り込み修正した上記金型を用いてカム筒を成形するステップ。
【0020】
本発明のレンズ鏡筒用カム筒の製造方法において、上記ステップ(B)において、上記金型の修正はNC(Numerical Control)加工機を用いて行なわれる例を挙げることができる。ここで、NC加工機が行なう加工には、コンピュータを用いたCNC(Computerized Numerical Control)も含まれる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のレンズ鏡筒用カム筒のカム溝測定方法は、カム溝の最狭部幅よりも小さい直径の球形状当接部を有する測定プローブを用い、カム筒中心軸からの距離が互いに異なる複数の測定位置で、カム溝側壁面のXYZ座標値を倣い測定する(ステップ(6))ので、カム溝の側壁面の傾斜具合と対向するカム溝側壁面の間隔など、カム溝形状を特定するためのデータを得ることができる。これにより、本発明のレンズ鏡筒用カム筒のカム溝測定方法は、レンズ鏡筒用カム筒について製品設計どおりの形状及び寸法のカム溝が得られているかどうかを測定できる。
【0022】
本発明のレンズ鏡筒用カム筒の製造方法は、本発明のカム溝測定方法によってカム溝測定を行ない、得られた測定データから求まるカム溝側壁面データと製品設計における仕上がり寸法との差だけ、カム溝形成型を削り込んで金型を修正する工程(ステップ(B))を含むので、製品設計時のねらいの仕上がり形状及び寸法どおりのカム溝を備えたレンズ鏡筒用カム筒を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、三次元測定機の一例を示す概略的な外観斜視図である。
図2は、測定プローブユニットを示す概略的な側面図である。
図3は、三次元測定機に接続される演算処理装置の構成の一例を示すブロック図である。
図4は、三次元測定機の測定台の上に配置された回転円盤装置及び測定治具を示す概略的な斜視図である。
図5は、測定治具を示す概略的な斜視図である。
図6は、測定治具に搭載されたカム筒を示す図であり、(A)は斜視図、(B)は側面図、(C)は測定治具とカム筒の接触部分を拡大して示す断面図である。
図7は、倣い側定時における測定プローブの接触部とカム溝との接触状態を説明するための断面図である。
図8は、倣い側定時における測定プローブの接触部とカム溝との接触状態を示す概略的な斜視図である。
図1から
図7を参照して、本発明のレンズ鏡筒用カム筒のカム溝測定方法の一実施例を説明する。
【0025】
この実施例では、三次元測定機として、例えば株式会社ミツトヨ製のCNC三次元測定機(CRYSTA−Apex Sシリーズ)を用いた。また、測定プローブユニットとして同社製MPP−319(スキャニングプローブ)を用いた。また、回転円盤装置として、同社製ロータリーテーブル(MRT320)を用いた。
【0026】
図2に示されるように、測定プローブユニット1は、先端部に当接部3を備えた測定プローブ5を水平方向及び垂直方向の向きに取り付け可能である。
図1に示されるように、測定プローブユニット1は三次元測定機7に装着される。三次元測定機7には演算処理装置(コンピュータ)9が接続されている。演算処理装置9は、三次元測定機7の動作を制御して、測定プローブ5の当接部3を被測定物に接触させたまま被測定物の座標値データ群を高速度で収集記録保存する。得られた座標値データ群は演算処理装置9に接続された表示装置11に表示することが可能である。演算処理装置9には、キーボードやマウス等の操作部13も接続されている。
【0027】
図3を参照して演算処理装置9の構成について説明する。演算処理装置9は、制御部(CPU:Central Processing Unit)9a、RAM(Random Access Memory)9b、ROM(Read Only Memory)9c、HDD(Hard Disk Drive)9d、表示制御部9eを備えている。
HDD9dは、各種制御プログラムを格納する記録媒体である。RAM42は、各種プログラムを格納する他、各種処理のワーク領域を提供する。
【0028】
操作部13から入力される情報は、I/F(インターフェース)9fを介して制御部9aに入力される。制御部9aは、ROM9cに格納されたマクロプログラム、及びHDD9dからI/F9gを介してRAM9bに格納された各種プログラムに従って、各種の処理を実行する。また、制御部9aは、測定実行処理に従って、I/F9hを介して三次元測定機7の動作を制御する。また、制御部9aは、表示制御部9eを介して表示装置11に測定結果等を表示する。
【0029】
図4に示されるように、三次元測定機7の測定台15の上に被測定物を載せる回転円盤装置17を設置する。回転円盤装置17は被測定物が配置される回転円盤19を備えている。
三次元測定機7にはX軸、Y軸、Z軸の方向が定められている。実際の測定に際して、測定装置としての座標軸位置、特にZ軸位置を定める必要がある。回転円盤19の回転中心はZ軸位置として定められる。
【0030】
次に、カム溝測定方法の一実施例の各工程を説明する。
[ステップ(1)]
回転円盤19の回転中心位置を測定して三次元測定機7に認識させる。回転円盤19の回転中心位置の測定方法は、上記ミツトヨ社製CNC三次元測定機CRYSTA−Apex Sシリーズ等も標準ソフトとして有している極めて一般的な方法である。当該測定方法の詳細な説明は省略するが、例えば、回転円盤19上の回転中心を除く特定の1点について、回転円盤19を回転させて得られる3箇所の異なる位置でのXY座標値を測定し、当該3箇所の位置を頂点とする三角形の外接円の中心を計算することにより得られる。
【0031】
なお、本発明のカム溝測定方法において、回転円盤の回転中心位置の測定方法は、この実施例の回転円盤19の回転中心位置の測定方法に限定されない。上述のように回転円盤の回転中心位置の測定方法は一般的な方法であり、本発明のカム溝測定方法における回転円盤の回転中心位置の測定方法は、どのような方法であってもよい。
【0032】
[ステップ(2)]
図4に示されるように、回転円盤19上に測定治具21を搭載する。
図5に示されるように、測定治具21は真円度の高い円形の治具基準面23を有する。測定治具21は、治具基準面23が上向きとなり、かつ治具基準面23の中心が回転円盤19の中心に概ね一致するように回転円盤19の上に設置される。このとき、測定治具21はマグネット台25を介して回転円盤19の上に設置することができる。
【0033】
測定治具21において、円形の治具基準面23と測定治具21の底面は互いに平行に形成されている。したがって、治具基準面23は、それを受けるマグネット台25の上面とも平行になっている。
【0034】
本実施例の場合、測定治具21は、円柱状台座部27と、治具基準面23を端面とし基準円周面29を有する基準面形成円柱部とで構成されている。測定治具21は、円柱状のものであってもよいし、
図5に示されるように、基準円周面29と同心の内周面31を有するように軸方向にくり抜かれた筒状のものであってもよい。治具基準面23が筒状の場合は、円形の治具基準面23は
図5に示されるようにリング状の円形面となる。
また、円形の治具基準面23は、完全に円形のものでなくてもよく、例えば円形の一部分が切り欠かれた形状であってもよい。
【0035】
基準円周面29は、測定治具21に搭載されるカム筒の内周面にガタなく嵌合する寸法で形成されている。また、治具基準面23は、カム筒のカム筒基準面にガタなく当接するように形成されている。
【0036】
治具基準面23の中心を通り、治具基準面23に垂直な軸をZ’軸とし、治具基準面23をX’Y’面とする三次元座標(X’,Y’,Z’)を定義する。上述のように、三次元測定機7は三次元座標(X,Y,Z)を有する。XY平面とX’Y’平面とが完全な平行関係にあって、かつZ軸とZ’軸とが完全に一致しているのが理想である。しかし、回転円盤装置17やマグネット台25を搭載したことによる積み重ね誤差や、目視による測定治具21の設置等により、通常、これらは完全には一致していない。
【0037】
[ステップ(3)]
そこで、これらの不一致度を知るために、マグネット台25に設置した測定治具21の治具基準面23の中心のXY座標値(円中心位置)を測定する。治具基準面23の中心の座標値は、例えば、プローブユニット1の測定プローブ5の先端の当接部3を測定治具21の基準円周面29上の周方向の異なる任意の3点に接触させて、それらの3点のXY座標値を測定し、それらの3点で形成される三角形の外接円の中心を計算することにより求まる。なお、基準円周面29上の4点以上の測定点でXY座標値の測定を行ない、それらの測定点で形成される多角形の外接円の中心を計算して基準円周面29の円中心位置を求めてもよい。
また、治具基準面23の中心の座標値は、高い真円度で治具基準面23と同心に形成された内周面31を基準円周面として利用して同様に測定することでも求まる。
【0038】
次にX’Y’平面のXY平面に対する傾き度合(面傾斜度)を調べる。
治具基準面23上の周方向の異なる任意の3点のXYZ座標値を求める。これにより、XY平面に対する治具基準面23の傾き、すなわちXY平面に対するX’Y’平面の傾き度合いが求まる。
【0039】
[ステップ(4)]
図6に示されるように、レンズ鏡筒用カム筒33を測定治具21に搭載する。
図6(C)に示されるように、カム筒33の内周面に形成されたカム筒基準面35と、測定治具21の治具基準面23とがピタリと当接する。また、カム筒基準面35よりも下端側のカム筒内周面部分37と、測定治具21の基準円周面29とがピタリと当接する。このとき、カム筒33の端面38と、測定治具21の円柱状台座部27の上端面28とは接触せず、治具基準面23とカム筒基準面35との正確な接触を妨げないようになっている。
【0040】
カム筒33を測定治具21に搭載する際、プラスチック成形品であるカム筒33は非常に軽いので、カム筒33のカム筒基準面35と測定治具21の治具基準面23との接触が安定維持されるように、カム筒33の上部に適度な重さの錘を置いてもよい。錘の形状としては、カム筒33の円周壁になるべく均等に荷重がかかる形状のものがよい。
【0041】
図6(A),(B)に示されるように、カム筒33には複数のカム溝39が形成されている。この実施例で用いられるカム筒33には、カム筒33の内周面及び外周面にそれぞれ複数のカム溝39が形成されている。
【0042】
図6では、カム筒33の内周面にカム筒基準面35が設けられた例を示したが、カム筒基準面35はカム筒33の外周面に設けられているものであってもよい。この場合、
図6とは逆に、カム筒を測定治具に内挿することになる。また、測定治具の基準円周面は、カム筒が内挿される測定治具の内周面(例えば
図5の符号31を参照)になる。
【0043】
[ステップ(5)]
XYZ座標系に対するX’Y’Z’座標系のX’座標もしくはY’座標の位置関係を定めるために、カム筒33のカム筒回転基準点を定める。カム筒33の外周面には、通常、筒固定用の穴や突起等が設けられているので、これらの穴や突起の中心位置を基準位置として定めると便利である。例えば、カム筒33の外周面上の円柱状の突起41の円柱中心をカム筒回転基準点と定める。なお、当該カム筒回転基準点は、カム筒33の内周面や上端面に設けられてもよい。
【0044】
突起41の中心のXYZ座標値を求める。ここで重要なのはカム筒回転基準点のXY平面内における回転量であり、そのZ座標値はあまり重要ではない。例えば、突起41のXYZ座標値は、測定プローブ5の当接部3をZ軸方向は一定として突起41の左右両サイドに当接させてそれらの位置のXY座標値を測定し、それらのXY座標値の中間座標値として求めることができる。もちろん突起41の円形端面部の円中心のXYZ座標値を正確に求めてもよい。
【0045】
カム筒33のカム筒回転基準点座標値が求まれば、XY平面において治具基準面23の中心座標値(カム筒33の中心軸座標値)及びカム筒33のカム筒回転基準点座標値を通る直線が伸びる方向をX’軸又はY’軸として定義できる。また、当該直線が伸びる方向と、X軸又はY軸がなす角度(回転方向傾斜度)が求まる。
【0046】
[ステップ(6)]
図7に示されるように、測定プローブ5の先端の球形状当接部3の直径tは、カム溝39の最狭部幅Wよりも十分に小さい。また、当接部3の直径tは、カム溝39の深さDよりも小さい。ただし、当接部3の直径tは、カム溝39の深さDと同じであってもよいし、カム溝39の深さDよりも大きくてもよい。
【0047】
カム筒33の中心軸から所定の距離だけ離れた測定位置Aで測定プローブ5の当接部3をカム溝39の底面に接触させることなくカム溝39の側壁面の1箇所に接触させる。例えば、
図7に示されるように、カム溝39の上側壁面に当接部3を接触させる。
【0048】
回転円盤19を回転させて倣い測定を行なう。このとき、回転円盤19の回転にともなって、測定位置Aでのカム溝39の側壁面のZ軸位置は変化する。三次元測定機7は、演算処理装置9の制御によって、カム筒中心軸からの距離が常に一定の測定位置Aでカム溝39の側壁面に当接部3が接触するように測定プローブ5を修正移動させる。三次元測定機7は、回転円盤の回転中心座標値とカム筒の中心軸座標値とのズレ量を認識しているので、回転円盤19が回転に応じたこのような制御が可能である。これにより、回転円盤19の回転にともなって測定位置Aでのカム溝39の側壁面のZ軸位置が変化しても、当接部3はカム筒中心軸から一定距離の測定位置Aでカム溝39の側壁面に接触する。この倣い測定により、測定位置Aにおけるカム溝39の側壁面のXYZ座標値を収集する。
【0049】
例えば、カム溝39の上側壁面に当接部3を接触させ倣い測定を開始した場合、当接部3は、回転円盤19が一方向に回転されるにともなってカム溝39の上側壁面に沿ってZ軸方向に移動し、やがてカム溝39の一端に到達する。
図6に示されるように、カム溝39の端部は、カム筒33の上端面に解放されている形状と、閉鎖されている形状とがある。
【0050】
三次元測定機7及び演算処理装置9は、当接部3からの僅かな接触圧が無くなること等によって当接部3がカム溝39の開放された一端に到達したことを検知する。続いて、当接部3はカム溝39の下側壁面に移動接触される。回転円盤19が上側壁面測定時とは逆回転に回転される。当接部3は、カム溝39の下側壁面に沿ってZ軸方向に移動し、やがてカム溝39の閉鎖された他端に到達する。
図8に、当接部3がカム溝39の下側壁面に接触されている状態を示す。
【0051】
カム溝39の閉鎖された他端に到達した当接部3はU字状にカーブした側壁面をなぞりながら再びカム溝39の上側壁面に接触される。回転円盤19が上記上側壁面測定時と同じ方向に回転される。当接部3は、カム溝39の上側壁面に沿ってZ軸方向に移動し、やがて測定開始時の位置に到達する。
【0052】
このように、当接部3は、カム溝39の側壁面の全周を一巡して元のスタート位置に戻ってくる。こうして、1つのカム溝39の側壁面全周について、カム筒39の中心軸からの距離が一定の測定位置Aでのカム溝39の側壁面のXYZ座標値群を収集する。カム溝39の倣い測定において、回転円盤19を回転させて倣い測定を開始するスタート位置を予め決めておくと、後のデータ比較に都合がよい。
【0053】
次に、当接部3をカム溝39の中心軸からの距離が測定位置Aとは異なる任意の測定位置Bに移動させる(
図7の二点鎖線を参照。)。測定位置Bで当接部3を、測定位置Aでの倣い測定を行なったカム溝39と同一のカム溝39の側壁面の一箇所に接触させる。測定位置Bにおいて、測定位置Aでの倣い測定動作と同様にして、回転円盤19の回転動作及び測定プローブ5の動作を制御して、倣い測定を行なう。これにより、測定位置Bでのカム溝39の側壁面のXYZ座標値を収集する。
【0054】
通常、1つのカム筒33には、同形状又は異形状の複数のカム溝39が形成されているので、必要に応じて、他のカム溝39についても同様に倣い測定を行なう。
なお、ここで得られるカム溝39の側壁面のXYZ座標値は、当接部3の中心位置に関する座標値である。
また、ここでは1つのカム溝39について、測定位置A,Bの2箇所で倣い測定を行なったが、カム溝39の中心軸からの距離が互いに異なる測定位置は3箇所以上であってもよい。
【0055】
[ステップ(7)]
上記ステップ(6)で収集されたカム溝39の側壁面のXYZ座標値を演算処理装置9(コンピュータ)によってX’Y’Z’直交座標値に変換してカム溝側壁面の測定データを得る。具体的には、上記ステップ(3)で得られた治具基準面23の円中心位置及び面傾斜度、並びに上記ステップ(5)で得られたカム筒回転基準点の回転方向傾斜度に基づいて、平行移動、傾け及び回転の各座標変換を行なう。これにより、カム筒基準面をX’Y’平面とし、カム筒中心軸をZ’軸とするX’Y’Z’直交座標値が得られる。
なお、これらの座標変換自体は公知の座標変換であって、演算処理装置9に搭載されたコンピュータプログラムが自動で行なってくれる。
【0056】
このようにしてカム溝39の上下側壁面全周に亘って側壁面上の異なる2位置でのX’Y’Z’座標値群データが収集される。これにより、カム溝39の上下側壁面の傾斜具合や上下側壁面の間隔等、カム溝39の形状を特定するためのデータを得ることができる。カム溝39の形状が特定されれば、製品設計時における成形品のねらいのカム溝寸法形状と比較することが可能となる。
【0057】
この実施例において、上記ステップ(7)の座標変換は、上記ステップ(6)でXYZ座標値を収集しながら演算処理装置9によってリアルタイムに行なわれてもよい。
【0058】
また、カム筒33及び測定治具21は、カム筒33が測定治具21に対して常に同一の回転角度で搭載されるように位置合せ部位を備えるとともに、測定治具21はカム筒回転基準点を備えているようにしてもよい。この場合、上記ステップ(3)において、治具基準面23の円中心位置の測定もしくは治具基準面23の面傾斜度の測定と同時に、又はこれらの測定とは別の工程で、測定治具21のカム筒回転基準点のXYZ座標値を測定することにより、カム筒回転基準点の上記回転方向傾斜度も測定することができる。これにより、上記ステップ(5)を省略することができる。この場合、測定治具のカム筒回転基準点は測定治具に専用のものが設けられてもよいが、測定治具に設ける上記位置合わせ部位をカム筒回転基準点として併用することも可能である。
【0059】
カム筒33に設けられる位置合せ部位は、当該位置合せ専用に設けられてもよいし、カム筒33の所定位置に形成される突起又は凹部であってもよい。測定治具21には、カム筒33に設けられる位置合せ部位に対応した位置合せ部位が形成される。
例えば、カム筒33の外周面に設けられた突起41をカム筒側の位置合せ部位とし、測定治具21には、突起41を受ける凹部を設けるようにすればよい。
【0060】
ところで、従来測定方法では、特許文献1の段落[0025]に記載されているように、カム溝の深さを測定するためにプローブのカム筒径方向(X軸方向)の移動は固定されない。すなわち、従来測定方法において、プローブの当接部がカム溝に接触する接触位置のカム筒中心軸からの距離は、固定された一定値ではなく、倣い測定中常に変化する。したがって、測定中、測定プローブの当接部をカム溝の両側壁面に当接させるためにカム溝に若干強く押し当てた状態を保つ必要がある。このため、測定時にカム筒が倒れないように、カム筒を回転円盤上に接着剤等で強力に固定しておく必要がある。この故に、先ず回転円盤にカム筒がしっかりと取り付けられる。その後、カム筒の中心及び傾きを測定するための測定治具がカム筒に装着される。
【0061】
このやり方では、成形品ごとのバラツキを調べるために複数の成形品で測定データをとろうとすると、倣い測定に先立って、成形品ごとに、回転円盤への成形品の固定、成形品への測定治具の装着、測定治具の中心及び傾きの測定、測定治具の取り外し等の事前作業を行なう必要が生じる。
【0062】
さらに、このようなプローブ押し当て式による倣い測定の場合、プローブ先端の接触球が倣い測定ができるのは、三次元測定機の制御能力上、カム筒の軸方向に対するカム溝の延伸角度が60度程度のものまでである。60度を超えた部分、例えばカム溝がカム筒軸方向に近い角度で沿って形成されているような部分では、三次元測定機の制御能力上、倣い測定ができないという問題があった。
【0063】
これに対し、本発明のカム溝測定方法は、カム筒中心軸からの距離が一定の所定の測定位置で当接部がカム溝側壁面に接触するように測定プローブの移動を制御しながら倣い測定を行なう。すなわち、本発明のカム溝測定方法において、測定プローブの当接部は、従来測定方法のようにカム溝に押し当てられることはなく、単にカム溝側壁面に接触しているだけである。したがって、回転円盤に対してカム筒を強固に固定する必要はない。
【0064】
さらに、本発明のカム溝測定方法では、カム筒中心軸からの距離が一定の測定位置でカム溝側壁面に当接部が単に接触し、その接触状態を維持するように測定プローブを移動させるのでほんのわずかな接触圧が生じるのみであり、測定プローブの当接部にはほとんど測定応力がかからない。したがって、どのようなカム溝の走行形状であってもカム溝側壁面をなぞって測定することが可能である。カム溝の上下両側壁面全周に亘って連続して一巡測定可能なのもこの故である。
【0065】
さらに、本発明のカム溝測定方法では、回転円盤に搭載された測定治具にカム筒が装着されるので、一度、測定治具について治具基準面の円中心位置及び面傾斜度を測定すれば(ステップ(3))、その測定治具への装着に適合したカム筒を交換するごとにそれらの測定を行なう必要はない。したがって、成形条件を変更した場合や製造ロット間でのバラツキを調べる場合など、複数のカム筒についてカム溝測定を行なう場合に、測定時間の著しい短縮が可能になる。
【0066】
さらに、カム筒回転基準点を備えた上記測定治具を用い、当該測定治具のカム筒回転基準点を用いて上記回転方向傾斜度を測定する上記局面において、回転方向傾斜度を一度測定すれば、その測定治具への装着に適合したカム筒を交換するごとにその測定を行なう必要はない。したがって、カム溝測定の測定時間はさらに短縮される。
【0067】
また、従来測定方法では、プローブ先端の当接部がカム溝両側壁面に当接し、かつカム溝底面と離れていなければならないため、カム溝幅の異なるカム筒ごとに測定プローブを作成しなければならないという問題があった。また、1つのカム筒に溝幅が異なる複数のカム溝が形成されている場合には、1つのカム筒でもカム溝ごとに測定プローブの当接部を取替えなければならないというわずらわしさがあった。
【0068】
これに対し、本発明のカム溝測定方法で用いられる測定プローブ先端の当接部は、カム溝の最狭部幅よりも小さいので、カム溝幅の異なるカム筒製品毎に専用のプローブを作成する必要はない。さらに、1つのカム筒であってカム溝幅の異なる複数のカム溝を有するようなものであっても、1つの測定プローブで全てのカム溝の測定を完了することができる。
【0069】
次に、
図7及び
図9を参照して、本発明のレンズ鏡筒用カム筒の製造方法の一実施例について説明する。
図9は、レンズ鏡筒用カム筒を成形するための金型の一部分を示す概略的な断面図である。(A)はカム溝に対応する位置に削り代が残された状態を示す。(B)は(A)の金型を用いて成形されたカム溝の側壁面位置の一例を破線で示す。(C)は(B)のカム溝側壁面位置に対して削り込み修正した状態を示す。
【0070】
[ステップ(A)]
製品設計における狙いの製品の仕上がり寸法よりもカム溝幅が大きくなるように、予め一定寸法の削り代を両側壁に残したカム溝形成型を有する金型で成形された円筒状のレンズ鏡筒用カム筒を用意する。ここで、予め残しておくカム溝形成型の削り代とは、例えば溶融樹脂を金型キャビティ内に射出注入するゲート位置、ガス抜きのガスベント、成形品の樹脂材料や厚みと形状その他の成形条件を含む諸条件に基づくCAE(Computer Aided Engineering)解析データにより並びに経験的に想定される成形品の歪量を考慮して、想定されるカム溝の最大歪量とすることができる。
【0071】
[ステップ(B)]
本発明のレンズ鏡筒用カム筒のカム溝測定方法によってレンズ鏡筒用カム筒のカム溝測定を行ない、カム溝側壁面の測定データを得る。例えば、
図1から
図7を参照して説明した上記カム溝測定方法の実施例によって、カム溝側壁面の測定データを得る。
【0072】
[ステップ(C)]
得られたカム溝側壁面の測定データから求まるカム溝側壁面データと、製品設計における狙いの仕上がり寸法との差を求める。当該差の量だけ、カム溝形成型を削り込んで金型43を修正する。
【0073】
図9を参照して、このカム溝修正の概念を説明する。
図9は、カム溝を成形するためのカム溝成形型のカム筒の軸方向にカットした断面図である。
図9(A)において、金型43はカム溝形成型面45を備えている。カム溝形成型面45は、成形歪が生じないと仮定した場合の製品仕上がりの狙い寸法位置の仕上がり面47に対して、成形条件等により想定される最大歪量の大きさを見込んだ分の削り代Lを残した位置に形成されている。金型43を用いてカム筒の成形を行なう。
【0074】
仮に、成形品のカム筒に成形歪が生じていない、すなわち成形品のカム溝の側壁面の位置とカム溝形成型面45の位置とが一致していれば、金型43の削り代Lを全部削り取ればよい。
【0075】
また、仮に成形品のカム筒において、
図9(B)の点線49で示されるようなカム溝側壁面の歪が生じていたとする。測定位置Aの部分においては、カム溝成形型を削り代L以上に削り取る必要があり、絶対値Za1−Za0の量削り取ればよい。また、測定位置Bの部分においては、削り代Lよりも少なく絶対値Zb1−Zb0の量だけ削り取ればよい。したがって、必要な削り量は
図9(C)の削り量51となる。
【0076】
ここで、カム溝測定方法の上記実施例のステップ(7)で得られた変換後座標値群データは、
図7に示されるように、正確には測定プローブ5の当接部3の球中心位置Oa,Obの座標値群データである。倣い測定により得られた軌跡面は、測定位置Aでの球中心位置Oaと測定位置Bでの球中心位置Obとを結ぶ直線OaObの軌跡面である。したがって、実際のカム溝側壁面は、直線OaObの軌跡面の法線方向(当該軌跡面に直交する方向)であって当接部3とカム溝側壁面との接触方向に、当該軌跡面から当接部3の半径t/2(tは直径)だけずれていることになる。
【0077】
すなわち、上記軌跡面を当該軌跡面の法線方向で当接部3とカム溝側壁面との接触方向に、t/2だけ移動させたオフセット面が、実際に測定したカム溝壁となる。したがって、当該オフセット面と製品設計上の仕上がり面45との差が実際の削り込み量となる。なお、当該オフセット面の算出は、コンピュータによって自動で行なわれてもよいし、操作者によって行なわれてもよい。
【0078】
金型43を修正する際、当該オフセット面を考慮して、切削工具の加工軌跡データをNC加工機に入力すれば、NC加工機が自動的に必要な補正量を削り込み加工をしてくれる。
【0079】
[ステップ(D)]
上記ステップ(C)で削り込み修正した金型を用いてカム筒の成形製造を行なう。これにより、成形歪のない製品設計時の仕上がり形状と寸法どおりのカム溝を有するカム筒を製造することができる。
【0080】
このように、上記の実施例によれば、成形品の正確なカム溝壁のデータを求めることが可能となるとともに、誤差を最小限に抑えた当初製品設計どおりの正確な寸法のカム溝を有する成形品を得ることができる。
【0081】
ところで、修正前の金型又は修正後の金型を用いて成形したカム筒のカム溝をカムピン(カムフォロア)の当接部がどのようになぞるのか、つまり実際のカムピンの移動軌跡を知りたい場合がある。
【0082】
レンズ鏡筒のカム筒には通常同じ形状のカム溝が円周方向に複数(通常は3個)設けられている。組み上げられたレンズ鏡筒において、カムピンはカム筒のカム溝に当接してカム筒との相対回転方向の角度を変えながら相対移動する。
【0083】
したがって、このようなカム動作時の各回転方向角度におけるカムピン当接部中心位置のカム筒中心軸からのラジアル方向での距離の変動具合や、その距離の複数のカム溝間でのバラツキ具合、各回転方向角度におけるカムピン当接球中心のZ軸方向(カム筒軸方向)の位置とその複数のカム溝間でのバラツキ具合などを知りたい場合がある。カム動作時において、複数のカム溝間でのカムピン当接部中心位置の、上記ラジアル方向での距離の変動とバラツキは駆動されるレンズの光軸の平行方向ズレを生じ、Z軸方向の位置のバラツキはレンズの光軸の傾き方向ズレを生じる結果となるからである。
【0084】
そこで、本発明のレンズ鏡筒用カム筒のカム溝測定方法は、カム溝の対向する両壁に同時に当接する程度の半径をもつ仮想カムピン当接球を設定し、仮想カムピン当接球の中心の軌跡を求めるステップをさらに含むようにしてもよい。
【0085】
図10は、仮想カムピン当接球の中心の軌跡を求めるステップを説明するための図である。
図10を参照して仮想カムピン当接球の中心の軌跡を求めるステップを説明する。
【0086】
[ステップ(a)]
カム溝39の対向する両壁39a,39bに同時に当接する程度の半径Rをもつ仮想カムピン当接球53を設定する。ここで、半径Rは、組み上げられたレンズ鏡筒においてカムピンの実動作時にカム溝39の両壁39a,39bに同時に当接するカムピン当接部の大きさに概ね等しい大きさに設定される。
【0087】
[ステップ(b)]
本発明のレンズ鏡筒用カム筒のカム溝測定方法、例えば、
図1から
図7を参照して説明した上記カム溝測定方法の実施例によって得られたレンズ鏡筒用カム筒33のカム溝39の側壁面39a,39bの測定データ(変換後座標値群データ)に基づいて、カム溝側壁面39a,39bの座標値をカム溝側壁面39a,39bの法線方向であって、かつ対向するカム溝側壁面39b,39a側へ仮想カムピン当接球53の半径R分だけ移動させたときの仮想面55a,55bを算出する。
【0088】
ここで、カム溝測定方法の上記実施例のステップ(7)で得られた変換後座標値群データは、上述のように、正確には測定プローブ5の当接部3の球中心位置Oa,Obの座標値群データであり、実際のカム溝側壁面は、直線OaObの軌跡面から当接部3の半径t/2(tは当接部3の直径)だけずれている。
【0089】
仮想面55a,55bを算出する第1の方法は、まず、直線OaObの軌跡面を当該軌跡面の法線方向で当接部3とカム溝側壁面との接触方向にt/2だけ移動させて実際に測定したカム溝側壁面39a,39bを算出する。その後、カム溝側壁面39a,39bを対向するカム溝側壁面39b,39a側へ半径R分だけ移動させる。これにより、仮想面55a,55bが算出される。
【0090】
仮想面55a,55bを算出する第2の方法は、直線OaObの軌跡面を、仮想カムピン当接球53の半径Rから当接部3の半径t/2を差し引いた値だけ、当該軌跡面の法線方向で、かつ対向するカム溝側壁面39b,39a側へ移動させる。これにより、仮想面55a,55bが算出される。仮想面55a,55bは
図10に示されるように交差する。
【0091】
[ステップ(c)]
仮想面55a,55bが交差して形成される交差曲線を算出する。この交差曲線は仮想カムピン当接球53の中心の軌跡57を示す。このようにして、仮想カムピン当接球53の中心の軌跡57を算出する。
【0092】
仮想カムピン当接球53の中心の軌跡57のXYZ座標値データ群は、所望する実際のカムピンの移動軌跡データを示すことになる。
上記各ステップにおいて、軌跡面、カム溝側壁面、仮想面、交差曲線を算出するとは、面もしくは曲線を表す面方程式もしくは曲線方程式を算出すること、又は面上点の座標値データ群もしくは曲線上の点の座標値データ群を算出することを意味する。
【0093】
本発明のカム溝測定方法で得られたカム溝側壁面の測定データから直線OaObの軌跡面を求めたり、OaOb軌跡面を法線方向に移動させてオフセット面(カム溝側壁面39a,39b)を求めたり、2つのOaOb軌跡面又は2つのオッフセット面を互いに法線方向に移動させて仮想面55a,55bを求めたり、仮想面55a,55bの交差曲線を求めたりする演算は、例えば、本発明のカム溝測定方法で得られたカム溝側壁面の測定データ群を入力することによってCAD(computer aided design)の有する機能(コンピュータ)で自動的かつ容易に行わせることができる。このような機能を有するCADの一例はシーメンスPLMソフトウェア社(Siemens Product Lifecycle Management Software Inc.)のNXである。さらにこうして形成された面や曲線を定義するデータ群や方程式をCADの内部記憶装置に保存しておくばかりでなくCADモニター上に図形的に表示させることもできる。なお、これらの演算は、CAD以外のコンピュータによって実現されてもよいし、操作者によって行なわれてもよい。
【0094】
このように、実際のカムピンと同じ大きさの測定プローブ(擬似カムピン)を用いてするような実測を行わず、本発明のカム溝測定方法によって得られたカム溝側壁面の測定データを利用して仮想カムピン当接球の中心の軌跡を求めることができる。したがって、従来技術の上記不具合をなんらきたすことなく、容易に実際のカムピンの移動軌跡に極めて近いデータを求めることができる。すなわち本発明のカム溝測定方法によって得られたカム溝側壁面の測定データがあれば、仮想カムピン当接球の半径を変数として与えるのみで任意の大きさのカムピンの軌跡を、実測することなく、速やかに生成することができ、カムピン動作のシミュレーションが極めて容易となる。
【0095】
こうして実際のカムピンの動作軌跡に相当する仮想カムピン当接球の中心の軌跡さえ求まれば、あとは成形品であるカム筒のカム溝を評価するために必要とするデータは自由に作成することができる。
【0096】
例えば、カム筒の回転方向各位置におけるカム溝に押し当てたカムピン当接部の中心のラジアル方向変動量、すなわちカム溝の深さ方向のバラツキを調べたい場合は、カム溝スタート位置から所定の回転角度における仮想カムピン当接球の中心の軌跡位置のX’Y’座標値を求め、このX’Y’座標値からX’Y’平面の座標原点であるカム筒中心軸からの距離を算出し、この距離を回転角度ごとに求めてプロットすればよい。そして複数のカム溝ごとに同様のデータを算出すれば、同じ回転角度位置でのカムピン当接部中心位置のバラツキを比較することができる。
【0097】
例えば、同じ回転角度位置において同一形状の3つのカム溝における各々の仮想カムピン当接部中心のX’Y’座標を結んで形成される三角形の外接円の中心の座標値を回転角度毎、例えば回転角1度ごとにプロットすれば、
図11のような平行偏芯図表が得られる。ここで、1つのカム溝が形成されている回転角度は60度である。3つのカム溝はカム筒の周方向で均等に配置されている。
【0098】
図11は、仮想カムピン当接球の中心の軌跡を用いて求めた、同一形状の3つのカム溝の平行偏芯の一例を示す図である。
図11において、横軸はX’Y’Z’座標のX’値(単位はμm(マイクロメートル))、縦軸はY’値(単位はμm)を示す。
【0099】
図11の平行偏芯図表において、各点の分布の広がり具合が小さいほどカムで駆動されるレンズの光軸の平行方向ズレのバラツキが小さいことを意味する。また、分布が0に近いほどレンズの光軸とカム筒の中心軸との平行方向のズレ量が小さいことを意味する。
【0100】
また、同じ回転角度位置において3つのカム溝における各々の仮想カムピン当接部中心の3つのX’Y’Z’座標で形成される面の傾斜度を回転角度毎、例えば回転角1度ごとにプロットすれば、
図12のような傾き偏芯図表が得られる。ここで、1つのカム溝が形成されている回転角度は60度である。3つのカム溝はカム筒の周方向で均等に配置されている。
【0101】
図12は、仮想カムピン当接球の中心の軌跡を用いて求めた、同一形状の3つのカム溝の傾き偏芯の一例を示す図である。
図12において、横軸は回転角度(単位は度)、縦軸は傾き(単位は分)を示す。
【0102】
図12の傾き偏芯図表において、各点の分布が傾き0近辺での横軸方向直線であるほどレンズの光軸の傾き方向ズレが小さいカム溝であると評価できる。
【0103】
このように、仮想カムピン当接球の中心の軌跡を求めることにより、カム筒のカム溝の評価がし易くなる。
【0104】
以上、本発明の実施例が説明されたが本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【0105】
例えば、本発明のカム溝測定方法は、カム筒の外周面に設けられたカム溝の測定のみならず、カム筒の内周面に設けられたカム溝の測定にも適用できる。
また、カム筒に設けられたカム溝は、カム筒の外周面から内周面へ又は内周面から外周面へ貫通しているものであってもよい。
また、カム筒は、カメラのレンズ鏡筒に使用されるもののみならず、望遠鏡やその他の光学関連機器のレンズ鏡筒に使用されるものであってもよい。