(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の空気入りタイヤは、トレッドと、該トレッドに隣接するウイング又はサイドウォールとを有し、前記トレッドは、架橋剤由来の純硫黄成分配合量が特定量のトレッド用ゴム組成物、前記ウイング、サイドウォールは、架橋剤由来の純硫黄成分配合量が特定量のウイング、サイドウォール用ゴム組成物からなり、かつ、前記トレッド用ゴム組成物及び前記ウイング、サイドウォール用ゴム組成物の前記架橋剤由来の純硫黄成分配合量の配合比率が特定の関係式を満たしている。
【0013】
なお、本明細書において、トレッド用、ウイング用、サイドウォール用ゴム組成物に配合される架橋剤などの薬品の配合量は、全て架橋前のゴム組成物における配合量(添加量)を意味する。すなわち、トレッド用、ウイング用、サイドウォール用ゴム組成物に含まれる薬品の配合量は、トレッド用、ウイング用、サイドウォール用未加硫ゴム組成物に含まれる薬品の理論配合量を意味する。ここで、理論配合量とは、未加硫ゴム組成物を調製する際に、投入した薬品の量を意味する。
【0014】
乗用車用空気入りタイヤとして、
図1で示される構造、すなわち、トレッド・オーバー・サイドウォール(TOS)構造のものが汎用され、該構造はトレッドとウイングが隣接しているため、その構造の未加硫タイヤの加硫時には、
図1(c)に示されているとおり、加硫後にウイング上端が
図1(d)に示すトレッドショルダーエッジ(基準)±10mm程度の範囲内に位置することが望ましいが、
図1(b)に示されている加硫後にトレッド接地部がウイングに大きく被覆される薄皮現象(−10mm超)や、逆に
図1(a)に示されているウイング先端が団子状に仕上がる現象(+10mm未満)が生じるケースがある。薄皮現象が生じると、前述のような初期グリップ性能の低下やウイング先端仕上がり及びバラツキの悪化、更には
図3(b)に示されているトレッド接地部での剥離などの問題が発生する。また、ウイング先端のゴム流れが悪いと、
図3(a)に示されているウイングの先端位置に凹凸が生じることや、ウイング先端が団子状に仕上がること(目安θ>45°となる)による仕上がり状態の悪化(ウイングエッジでの割れ)、色相の違い、オゾン割れ性の違いなどの問題が発生するが、本発明では、トレッドとウイングに添加する架橋剤由来の純硫黄量を特定量とし、かつ特定の関係式を満たすように調整することで、前述の問題を改善できる。
【0015】
一方、トラック、バスなどの重荷重用空気入りタイヤ、ライトトラック用空気入りタイヤ、大型SUV用空気入りタイヤ、大型乗用車用空気入りタイヤなどでは、
図2で示される構造、すなわち、サイドウォール・オーバー・トレッド(SOT)構造のものが汎用され、該構造はトレッドとサイドウォールが隣接しているため、
図2(c)に示されているとおり、加硫後にサイドウォール上端が
図2(d)に示すトレッドショルダーエッジ(基準)±10mm程度の範囲内に位置することが望ましいが、乗用車用空気入りタイヤと同様、
図2(b)のサイドウォールがトレッドを被覆する現象や、
図2(a)のサイドウォールが正しく巻き上がらず、サイドウォールの先端が団子状に仕上がることがある。そしてこの場合も前記と同様の問題が生じるが、トレッドとサイドウォールに添加する架橋剤由来の純硫黄量を特定量とし、かつ特定の関係式を満たすように調整することにより、同様に改善できる。
【0016】
前述の問題の薄皮状
図1(b)の現象は、加硫時におけるトレッドへの純硫黄成分移行の結果、ウイングの薄い部分と厚い部分に含まれる純硫黄成分量に違いが生じることで助長される。つまり、加硫時において、
図4(a)の純硫黄成分移行現象の断面模式図で示されるウイングからトレッドへの純硫黄成分の移行により、
図4(b)の加硫後のウイングの比較的厚い部分の断面(1)及び比較的薄い部分の断面(2)における純硫黄成分量の分布図で示されているように、ウイング内に純硫黄成分量に分布が生じる。そして、
図4(b)に示されているとおり、ウイングの厚みが薄い断面(2)では、モールド表面から1.0mm位置などでのトレッドへの硫黄流出が多く、厚みの薄い部分の純硫黄成分量が設計値より低くなる。そのため、当該部分の加硫が遅延して硬化が進行せず、柔らかい状態が長く続き、その間に硫黄流入で硬化が早められるトレッドに押されて、更にウイングが薄く延ばされるという悪循環によりウイング薄膜化が発生する。これに対し、本発明では、隣接する部材の純硫黄配合量を調整することにより、ウイングやサイドウォールの初期加硫の遅延現象が緩和され、タイヤ加硫時のこれらの部材からトレッドへの架橋剤の移行が抑制されるため、薄皮現象などを防止できるとともに、初期グリップ性能、耐摩耗性などのタイヤの要求性能の確保も可能になる。
【0017】
本発明の空気入りタイヤは、トレッドと、該トレッドに隣接するウイング又はサイドウォールとを有する。
トレッドとは、路面と直接接する部材、ウイングとは、ショルダー部において、トレッドとサイドウォールの間に位置する部材であり、具体的には、特開2007−176267号公報の
図1、3等に示される部材である。サイドウォールとは、ショルダー部からビード部にかけてケースの外側に配された部材であり、具体的には、特開2005−280612号公報の
図1、特開2000−185529号公報の
図1等に示される部材である。
【0018】
本発明において、トレッド、ウイング、サイドウォールは、それぞれ架橋剤が配合されたトレッド用ゴム組成物、ウイング用ゴム組成物、サイドウォール用ゴム組成物からなる。
【0019】
架橋剤としては、架橋作用を有する硫黄含有化合物が挙げられ、例えば、硫黄架橋剤、硫黄含有ハイブリッド架橋剤、仕上げ練り工程で添加されるシランカップリング剤などが挙げられる。
【0020】
硫黄架橋剤としては、ゴム分野の加硫で汎用される硫黄が挙げられ、具体的には、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などが例示される。
【0021】
硫黄含有ハイブリッド架橋剤としては、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、1,6−ヘキサメチレンジチオ硫酸ナトリウム・二水和物、1,6−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンなどのアルキルスルフィド架橋剤、ジチオ燐酸スルフェート(Dithiophosphate)などが挙げられる。具体的には、田岡化学工業(株)製のタッキロールV200、フレキシス社製のDURALINK HTS、ランクセス社製のVulcuren VP KA9188、RheinChemie社製のRhenogran SDT−50(Dithiophosphoryl polysulfide)などが市販されている。
【0022】
また、仕上げ練り工程で配合(添加)されるシランカップリング剤も本発明の架橋剤に該当し、ベース練り工程で配合されたシランカップリング剤はシリカと優先して反応するため、該当しない。
シランカップリング剤としては、ゴム工業において、従来からシリカと併用される硫黄(スルフィド結合)を含む化合物などが挙げられ、例えば、スルフィド系、メルカプト系、ビニル系、アミノ系、グリシドキシ系、ニトロ系、クロロ系シランカップリング剤などが挙げられる。具体的には、Evonik社製のSi69、Si75などが市販されている。
【0023】
本発明において、トレッド用ゴム組成物及びそれに隣接するウイング用ゴム組成物、トレッド用ゴム組成物及びそれに隣接するサイドウォール用ゴム組成物に配合される架橋剤由来の純硫黄成分配合量は、下記式を満たす。
(ウイング、サイドウォール用ゴム組成物の架橋剤由来の純硫黄成分配合量/トレッド用ゴム組成物の架橋剤由来の純硫黄成分配合量)≦2.5
2.5を超えると、ウイング、サイドウォールの初期加硫速度t10が遅延して薄皮現象が起きたり、剥離損傷が起きやすくなる。
【0024】
前記純硫黄成分配合量の配合比率(添加比率)は、2.5以下であれば特に限定されないが、好ましくは0.75〜2.4、より好ましくは1.0〜2.3の範囲内である。なお、本発明において、架橋剤由来の純硫黄成分配合量とは、配合(添加)した全架橋剤中に含まれる全硫黄分の合計量を意味する。
【0025】
また、本発明において、トレッド用ゴム組成物と、ウイング用ゴム組成物、サイドウォール用ゴム組成物との初期加硫速度(t10)は、下記関係式を満たすことが好ましい。
0.4≦(ウイング、サイドウォール用ゴム組成物のt10)/(トレッド用ゴム組成物のt10)≦2.5
これにより、薄皮現象を防止できる。前記t10の比率(0.4〜2.5)は、より好ましくは0.5〜2.3の範囲内である。
【0026】
次に、本発明において使用されるトレッド用ゴム組成物と、ウイング用ゴム組成物又はサイドウォール用ゴム組成物について説明する。
【0027】
(トレッド用ゴム組成物)
トレッド用ゴム組成物において、架橋剤由来の純硫黄成分合計配合量は、ゴム成分100質量部に対して0.56〜1.15質量部である。0.56質量部未満では、ウイング、サイドウォールからトレッドへの硫黄の移行量が多く、ウイング、サイドウォールゴムのt10が遅延するため、接着面の仕上がりが悪化する傾向がある。1.15質量部を超えると、トレッドゴムの耐摩耗性及び経年変化が悪化する傾向がある。該純硫黄成分合計配合量は、好ましくは0.6〜1.10質量部である。
【0028】
トレッド用ゴム組成物に使用できるゴム成分としては特に限定されず、天然ゴム(NR)やイソプレンゴム(IR)などのイソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等のジエン系ゴムが挙げられる。なかでも、良好な操縦安定性、低燃費性、破断時伸びを確保しつつ、良好な耐久性が得られるという理由から、イソプレン系ゴム、BR、SBRが好ましい。特にサマータイヤでは、BRとSBRを併用することが好ましく、スタッドレスタイヤでは氷上性能も重要であることから、BRとイソプレン系ゴムを併用することが好ましい。
【0029】
BRとしては、特に限定されず、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1220、宇部興産(株)製のBR150B等の高シス配合量のBR、宇部興産(株)製のVCR412、VCR617等の1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶(SPB)を含むBR、Polimeri Europa社製のEuroprene BR HV80等の高ビニル含量のBR、希土類元素系触媒を用いて合成されたBR(希土類系BR)等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。また、スズ化合物により変性されたスズ変性ブタジエンゴム(スズ変性BR)も使用できる。なかでも、良好な操縦安定性、低燃費性、破断時伸びを確保しつつ、良好な耐久性が得られるという理由から、希土類系BRが好ましい。また、各種シリカ用変性BRも好適に使用できる。
【0030】
希土類系BRとしては、従来公知のものを使用でき、例えば、希土類元素系触媒(ランタン系列希土類元素化合物、有機アルミニウム化合物、アルミノキサン、ハロゲン含有化合物、必要に応じてルイス塩基を含む触媒)などを用いて合成したものが挙げられる。なかでも、ネオジム系触媒を用いて合成したNd系BRが好ましい。
【0031】
また、各種シリカ変性用BRとしても、従来公知のものを使用でき、各種変性剤でポリマーの末端や主鎖が変性されたBRなどが挙げられる。例えば、特開2010−077412号公報、特開2006−274010号公報、特開2009−227858号公報、特開2006−306962号公報、特開2009−275178号公報などに記載の変性BRなどが挙げられ、具体的には、下記一般式(I)で表される変性剤を反応させて得られるMwが1.0×10
5〜2.5×10
6の変性BRを好適に使用できる。
【化1】
(式中、nは1〜10の整数を表し、Rは2価の炭化水素基を表し、例えば−CH
2−であり、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、炭素原子数が1〜4のヒドロカルビル基又は炭素原子数が1〜4のヒドロカルビルオキシ基を表し、R
1、R
2及びR
3の少なくとも1つがヒドロカルビルオキシ基であり、Aは窒素原子を有する官能基を表す。)
【0032】
ゴム成分100質量%中のBRの配合量は、好ましくは35質量%以上、より好ましくは45質量%以上である。該BRの配合量は、好ましくは75質量%以下、より好ましくは65質量%以下である。BRの配合量が上記範囲内であると、良好な耐摩耗性、操縦安定性、低燃費性、破断時伸びを確保しつつ、良好な耐久性が得られる。
【0033】
イソプレン系ゴムのNRとしては、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用でき、IRとしても、IR2200等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。SBRとしては特に限定されず、例えば、溶液重合SBR、乳化重合SBRを使用でき、特に各種シリカ用変性SBRが好適であり、例えば、各種変性剤でポリマーの末端や主鎖が変性されたSBRなど、従来公知のものが挙げられる。例えば、特開2010−077412号公報、特開2006−274010号公報、特開2009−227858号公報、特開2006−306962号公報、特開2009−275178号公報などに記載の変性BRなどが挙げられ、具体的には、上記一般式(I)で表される変性剤を反応させて得られるMwが1.0×10
5〜2.5×10
6の変性BRを好適に使用できる。
【0034】
トレッド用ゴム組成物において、ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴム及びSBRの合計配合量は、好ましくは25〜100質量%であり、サマータイヤでは前記範囲のSBRを配合すること、スタッドレスタイヤでは前記範囲のイソプレン系ゴムを配合することが好ましい。
【0035】
トレッド用ゴム組成物には、カーボンブラック及び/又はシリカを配合しても良い。カーボンブラック、シリカを配合する場合、配合量は、耐摩耗性のなどのトレッドの要求性能に応じて適宜設定すれば良いが、これらの合計配合量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは30〜180質量部、より好ましくは45〜120質量部である。
【0036】
トレッド用ゴム組成物には、前記成分の他に、従来ゴム工業で使用される配合剤、例えば、他の補強用充填剤、ワックス、酸化防止剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛等を配合してもよい。また、グアニジン系、アルデヒド−アミン系、アルデヒド−アンモニア系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チオ尿素系、ジチオカルバメート系、ザンデート系などの加硫促進剤を配合してもよい。
【0037】
(ウイング用ゴム組成物、サイドウォール用ゴム組成物)
ウイング用、サイドウォール用ゴム組成物において、架橋剤由来の純硫黄成分合計配合量は、ゴム成分100質量部に対して1.3〜2.5質量部である。1.3質量部未満では、加硫促進剤を多く配合する必要が生じ、破断時伸びが低下する傾向がある。2.5質量部を超えると、酸化劣化後、弾性率E
*が上昇し、破断時伸びEBが低下し、かえって耐久性が悪化する傾向がある。また、特にトラック・バス用タイヤにおいては、隣接するサイドウォールやプライとの濃度差も大きくなり、更に耐久性が低下する傾向がある。該純硫黄成分合計配合量は、好ましくは1.4〜2.0質量部である。
【0038】
ウイング用、サイドウォール用ゴム組成物に使用できるゴム成分としては特に限定されず、トレッド用ゴム組成物と同様のジエン系ゴムを使用できる。なかでも、良好な操縦安定性、低燃費性、破断時伸びを確保しつつ、良好な耐久性が得られるという理由から、BR、イソプレン系ゴム、SBRが好ましく、BRとイソプレン系ゴムを併用することがより好ましい。BRとしては、高シス配合量のBR(Co系BR、Nd系BRなど)、SPBを含むBR、スズ変性BRが好適で、イソプレン系ゴム、SBRは、前記と同様のものを使用できる。
【0039】
ゴム成分100質量%中のBRの配合量は、好ましくは35質量%以上、より好ましくは40質量%以上である。該BRの配合量は、好ましくは75質量%以下、より好ましくは65質量%以下である。BRの配合量が上記範囲内であると、良好な操縦安定性、低燃費性、破断時伸びを確保しつつ、良好な耐屈曲亀裂成長性及び耐久性が得られる。
【0040】
ウイング用、サイドウォール用ゴム組成物において、ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの配合量は、好ましくは25〜65質量%、より好ましくは35〜55質量%である。また、SBRを配合する場合、その配合量は、好ましくは15〜40質量%、より好ましくは20〜35質量%である。
【0041】
ウイング用、サイドウォール用ゴム組成物には、カーボンブラックを配合しても良い。カーボンブラックを配合する場合、その配合量は、耐屈曲亀裂成長性などのサイドウォールやウイングの要求性能に応じて適宜設定すれば良いが、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは20〜80質量部、より好ましくは30〜60質量部である。
【0042】
ウイング用、サイドウォール用ゴム組成物には、上記ゴム成分、カーボンブラック以外に、トレッド用ゴム組成物と同様の配合材料を添加してもよい。
【0043】
(空気入りタイヤ)
本発明の空気入りタイヤは、以下の方法など、従来公知の方法で製造できる。
先ず、バンバリーミキサー、オープンロールなどのゴム混練装置に前記架橋剤及び加硫促進剤以外の成分を配合(添加)して混練りした後(ベース練り工程)、得られた混練物に、更に前記架橋剤及び加硫促進剤を配合(添加)して混練することにより、トレッド用、ウイング用、サイドウォール用未加硫ゴム組成物をそれぞれ作製する。
【0044】
次いで、それぞれの未加硫ゴム組成物をトレッド、ウイング、サイドウォールの形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて成形し、更に他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを作製した後、その未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することで、空気入りタイヤを製造できる。
【0045】
本発明の空気入りタイヤは、乗用車用タイヤ、大型乗用車用、大型SUV用タイヤ、トラック、バスなどの重荷重用タイヤ、ライトトラック用タイヤに好適であり、それぞれのサマータイヤ、スタッドレスタイヤとして使用可能である。
【実施例】
【0046】
乗用車用のTOS構造タイヤの実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0047】
<末端変性剤の作製>
窒素雰囲気下、100mlメスフラスコに3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン(アヅマックス(株)製)を23.6g入れ、さらに無水ヘキサン(関東化学(株)製)を加え、全量を100mlにして作製した。
【0048】
<共重合体製造例1>
充分に窒素置換した30L耐圧容器にn−ヘキサン(関東化学(株)製)を18L、ブタジエン(高千穂商事(株)製)を2000g、テトラメチルエチレンジアミン(関東化学(株)製)を2mmolを加え、60℃に昇温した。次に、ブチルリチウム(関東化学(株)製)を10.3mL加えた後、50℃に昇温させ3時間撹拌した。次に、上記末端変性剤を11.5mL追加し30分間撹拌を行った。反応溶液にメタノール(関東化学(株)製)15mL及び2,6−tert−ブチル−p−クレゾール(大内新興化学工業(株)製)0.1gを添加後、反応溶液を18Lのメタノールが入ったステンレス容器に入れて凝集体を回収した。得られた凝集体を24時間減圧乾燥させ、変性BRを得た。Mwは440,000であり、ビニル含量は13%であった。
【0049】
<共重合体製造例2>
充分に窒素置換した30L耐圧容器にn−ヘキサンを18L、スチレン(関東化学(株)製)を740g、ブタジエンを1260g、テトラメチルエチレンジアミンを10mmolを加え、40℃に昇温した。次に、ブチルリチウムを10mL加えた後、50℃に昇温させ3時間撹拌した。次に、上記末端変性剤を11mL追加し30分間撹拌を行った。反応溶液にメタノール15mL及び2,6−tert−ブチル−p−クレゾール0.1gを添加後、反応溶液を18Lのメタノールが入ったステンレス容器に入れて凝集体を回収した。得られた凝集体を24時間減圧乾燥させ、変性SBRを得た。Mwは270,000であり、ビニル含量は56%、スチレン含有量は37質量%であった。
【0050】
得られた変性BR及び変性SBRのMw、ビニル含量及びスチレン含有量については以下の方法により分析した。
【0051】
<重量平均分子量Mwの測定>
共重合体の重量平均分子量Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)(東ソー(株)製GPC−8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ−M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めた。
【0052】
<ビニル含量及びスチレン含有量の測定>
日本電子(株)製JNM−ECAシリーズの装置を用いて、共重合体の構造同定を行った。測定結果から、共重合体中のビニル含量及びスチレン含有量を算出した。
【0053】
以下に、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
NR:TSR20
BR(1):ランクセス(株)製のCB25(Nd系触媒を用いて合成したハイシスBR、Tg:−110℃)
BR(2):宇部興産(株)製のBR150B(Co系触媒を用いて合成したハイシスBR、Tg:−108℃)
BR(3):日本ゼオン(株)製のNipol BR1250H
BR(4):宇部興産(株)製のVCR617
BR(5):共重合体製造例1で作製した変性BR
SBR(1):共重合体製造例2で作製した変性SBR
SBR(2):JSR(株)製のSBR1502
カーボンブラック(1):コロンビアカーボン(株)製のHP160(N
2SA:165m
2/g)
カーボンブラック(2):キャボットジャパン(株)製のショウブラックN550
シリカ:Evonik社製のULTRASIL VN3(N
2SA:175m
2/g)
レジン:Arizona chemical社製のSYLVARES SA85(α−メチルスチレンとスチレンとの共重合体、軟化点:85℃)
オイル:H&R社製のVivatec500(TDAE)
ワックス:日本精鑞(株)製のOzoace0355
老化防止剤(1):住友化学(株)製のアンチゲン6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
老化防止剤(2):大内新興化学(株)製のノクラック224(2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体)
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
酸化亜鉛:東邦亜鉛(株)製の銀嶺R
シランカップリング剤(1):Momentive社製のNXTZ45
シランカップリング剤(2):Evonik社製のSi75
架橋剤(1):ランクセス社製のVulcuren VP KA9188(1,6−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン)(硫黄配合量:20.6%)
架橋剤(2):フレキシス社製のDURALINK HTS(1,6−ヘキサメチレン−ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物(有機チオサルフェート化合物))(硫黄配合量:56%)
架橋剤(3):田岡化学工業(株)製のタッキロールV200(アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物)(硫黄配合量:24質量%)
架橋剤(4):細井化学工業(株)製のHK−200−5(5%オイル含有粉末硫黄)
加硫促進剤(1):大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS−G(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤(2):大内新興化学工業(株)製のノクセラーDZ(N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤(3):大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(1,3−ジフェニルグアニジン)
【0054】
<実施例及び比較例>
(トレッド用ゴム組成物)
表1のサマータイヤ、表2のスタッドレスタイヤに示す配合内容に従い、バンバリーミキサーを用いて、まず、ゴム成分とカーボンブラックの全量と、シリカとシランカップリング剤の1/2量ずつを150℃の条件下で5分間混練りし、次に架橋剤及び加硫促進剤以外の残りの材料を150℃の条件下で4分間混練りし、混練り物を得た(ベース練り工程)。次に、得られた混練り物に架橋剤及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、105℃の条件下で4分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た(仕上げ練り工程)。
得られた未加硫ゴム組成物を170℃の条件下で12分間プレス加硫し、トレッド用加硫ゴム組成物を得た。
【0055】
(ウイング用ゴム組成物)
表3に示す配合内容に従い、バンバリーミキサーを用いて、架橋剤及び加硫促進剤以外の材料を170℃の条件下で5分間混練りし、混練り物を得た(ベース練り工程)。次に、得られた混練り物に架橋剤及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、105℃の条件下で4分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た(仕上げ練り工程)。
得られた未加硫ゴム組成物を170℃の条件下で12分間プレス加硫し、ウイング用加硫ゴム組成物を得た。
【0056】
(空気入りタイヤ)
また、得られた未加硫の各トレッド用ゴム組成物、各ウイング用ゴム組成物を用いて、それぞれの部材の形状に押出し成形し、タイヤ成形機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、170℃の条件下で12分間加硫し、各試験用タイヤ(タイヤサイズ:245/40R18、乗用車用)を得た(架橋工程)。なお、表4に、各試験用タイヤの純硫黄成分配合比率「ウイング用ゴム組成物中の純硫黄成分配合量/トレッド用ゴム組成物中の純硫黄成分配合量」の値を示している。
【0057】
得られたトレッド用、ウイング用未加硫及び加硫ゴム組成物、試験用タイヤを使用して、下記の評価を行った。評価結果を表1〜3、5に示す。
【0058】
(加硫速度)
各未加硫ゴム組成物について、JIS K6300に記載されている振動式加硫試験機(キュラストメーター)を用い、測定温度160℃で加硫試験を行って、時間とトルクとをプロットした加硫速度曲線を得た。加硫速度曲線のトルクの最小値をML、最大値をMH、その差(MH−ML)をMEとしたとき、ML+0.1MEに到達する時間t10(分)を算出した。
【0059】
(粘弾性試験)
(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメータVESを用いて、温度40℃、周波数10Hz、初期歪10%及び動歪2%の条件下で、上記加硫ゴム組成物の複素弾性率E
*(MPa)及び損失正接tanδを測定した。なお、E
*が大きいほど剛性が高く、操縦安定性に優れることを示し、tanδが小さいほど発熱性が低く、低燃費性に優れることを示す。
【0060】
(引張試験)
加硫ゴム組成物からなる3号ダンベル型試験片を用いて、JIS K6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に準じて、室温にて引張試験を実施し、破断時伸びEB(%)を測定した。EBが大きいほど、破断時伸び(耐久性)に優れることを示す。
【0061】
(耐摩耗性)
上記試験用タイヤを排気量2000ccの国産FR車に装着し、ドライアスファルト路面のテストコースにて実車走行を行った。その際におけるタイヤトレッドゴムの残溝量を計測し(新品時8.0mm)、耐摩耗性として評価した。残溝量が多いほど、耐摩耗性に優れる。表1のサマータイヤ配合では、トレッド用ゴム組成物14残溝量を100、表2のスタッドレスタイヤ配合では、トレッド用ゴム組成物18の残溝量を100として指数表示した(耐摩耗性指数)。指数が大きいほど、耐摩耗性に優れることを示す。
【0062】
(トレッド部とウイング部の接着面の仕上がり状態)
試験用タイヤにおいて、トレッド接着面付近でのウイングゴムの押し出し性、薄皮状の捲れ、剥離、脱落及びベアー(=ケロイド状)により仕上がり状態を指数化した。押し出し性が良好であると、発熱が少なく、所定の寸法に、真っ直ぐに(凹凸なく)、均一な厚みで、形状を保つことができる。なお、10本製造したタイヤの仕上がり状態を指数化し、仕上がり指数100は工程適合、110は仕上がり寸法の安定性、ユニフォミティーにも優れ、90は不具合が頻繁に発生し、仕上がり寸法が1つのタイヤ内でも安定せず、工程不適合を示す。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
【表4】
【0067】
【表5】
【0068】
表5の仕上がり指数と表1〜2の耐摩耗指数の評価結果から、トレッド及びウイングの純硫黄成分配合量を特定量とし、かつこれらの配合比率が特定の関係式を具備する場合、良好な耐摩耗性を確保しつつ、仕上がり状態を改善できることが明らかとなった。また、実施例では、操縦安定性(E
*)、低燃費性(tanδ)、耐久性(EB)についても良好な性能が得られた。
【0069】
更に上記では、トレッド及びウイングに適用した乗用車用タイヤ(TOS構造)の例を示したが、トレッド及びサイドウォールに適用したタイヤ(SOT構造のトラック・バス用タイヤなど)でも、同様の効果が得られた。