特許第5963670号(P5963670)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5963670
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】遺伝子細胞療法のための移植材料
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/32 20150101AFI20160721BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20160721BHJP
   A61L 27/00 20060101ALI20160721BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20160721BHJP
   A61K 38/28 20060101ALI20160721BHJP
   A61K 38/21 20060101ALI20160721BHJP
   A61K 38/46 20060101ALI20160721BHJP
   A61K 38/45 20060101ALI20160721BHJP
   A61K 38/43 20060101ALI20160721BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20160721BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20160721BHJP
   A61P 1/14 20060101ALI20160721BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20160721BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20160721BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20160721BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20160721BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20160721BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20160721BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20160721BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20160721BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20160721BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20160721BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20160721BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20160721BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20160721BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20160721BHJP
   A61P 29/02 20060101ALI20160721BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20160721BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20160721BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20160721BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20160721BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20160721BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20160721BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20160721BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20160721BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20160721BHJP
   C12N 5/077 20100101ALN20160721BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20160721BHJP
【FI】
   A61K35/32
   A61K35/545
   A61L27/00 UZNA
   A61K37/02
   A61K37/26
   A61K37/66
   A61K37/54
   A61K37/52
   A61K37/48
   A61P3/10
   A61P3/04
   A61P1/14
   A61P1/04
   A61P29/00
   A61P9/00
   A61P7/04
   A61P3/06
   A61P7/00
   A61P9/12
   A61P9/04
   A61P17/00
   A61P13/12
   A61P15/00
   A61P13/08
   A61P35/04
   A61P25/04
   A61P29/02
   A61P19/10
   A61P35/00
   A61P1/16
   A61P37/08
   A61P25/00
   A61P17/06
   A61P37/06
   A61P1/18
   A61P9/10
   !C12N5/077
   !C12N15/00 A
【請求項の数】9
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2012-512930(P2012-512930)
(86)(22)【出願日】2011年4月28日
(86)【国際出願番号】JP2011060488
(87)【国際公開番号】WO2011136378
(87)【国際公開日】20111103
【審査請求日】2014年4月17日
(31)【優先権主張番号】特願2010-104754(P2010-104754)
(32)【優先日】2010年4月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 修
(72)【発明者】
【氏名】岸田 綱郎
【審査官】 井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2003/070291(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/128533(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/061824(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00 −38/58
A61L 27/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分泌タンパク質遺伝子を導入したiPS細胞を分化させて分泌タンパク質を発現する軟骨細胞を得る工程を含む移植材料の製造方法であって、iPS細胞の分化誘導の途中で分泌タンパク質遺伝子を導入することを特徴とする、移植材料の製造方法。
【請求項2】
前記軟骨細胞を放射線照射して細胞の増殖能を失わせる工程をさらに含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
iPS細胞を分化させて得られた前記細胞が細胞集団又は細胞塊であり、1つの集団または塊として移植及び摘出が可能である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
iPS細胞由来の分化細胞を含む移植材料であって、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法により得ることができる、分泌タンパク質遺伝子を発現可能に含む移植材料。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法により得られた移植材料或いは請求項4に記載の移植材料を有効成分とする前記分泌タンパク質の欠損、不足又は機能低下に起因する疾患の治療剤。
【請求項6】
前記分泌タンパク質がインスリン、GLP−1、GLP−1受容体アゴニストポリペプチド、GLP−2、インターロイキン1(IL−1)、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、IL−13、IL−15、IL−17、IL−18、IL−21、IL−22、IL−27、IL−28、IL−33、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、GM−CSF、G−CSF、M−CSF、SCF、FASリガンド、TRAIL、レプチン、アディポネクチン、血液凝固第VIII因子/第IX因子、リポプロテインリパーゼ(LPL)、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)、エリスロポエチン、アポA−I、アルブミン、心房性ナトリウムペプチド(ANP)、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)、アンギオスタチン/エンドスタチン、内因性オピオイドペプチド、カルシトニン骨形成因子(BMP)、膵分泌性トリプシンインヒビター、カタラーゼ、スーパーオキサイドジスムターゼ及び抗体からなる群から選ばれる、請求項5に記載の治療剤。
【請求項7】
前記疾患が糖尿病、肥満、摂食障害、炎症性腸疾患、消化管障害、血管障害、血友病、リポプロテインリパーゼ(LPL)欠損症、高トリグリセリド血症、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)欠損症、赤血球減少症、低HDL血症、低蛋白血症、高血圧、心不全、悪性黒色腫、腎癌、乳癌、前立腺癌、癌転移、疼痛緩和、骨粗しょう症、悪性腫瘍、肝炎、アレルギー、多発性硬化症、乾癬、自己免疫疾患、膵炎及び虚血再灌流障害からなる群から選ばれる、請求項5または6に記載の治療剤。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法により得られた移植材料或いは請求項4に記載の移植材料の、バンク。
【請求項9】
分泌タンパク質遺伝子を導入したiPS細胞を分化させて分泌タンパク質を発現する移植材料を得る工程を含む移植材料の製造方法であって、前記移植材料を放射線照射して細胞の増殖能を失わせる工程を含む、移植材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、悪性腫瘍、アレルギー性疾患、自己免疫疾患、炎症性疾患、遺伝性疾患等の分泌性タンパク質の欠損、不足もしくは機能低下に起因する疾患の治療と予防に関する。より詳しくは、本発明は、これら疾患に対する治療用の移植材料とその製造方法、治療法に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍、アレルギー性疾患、自己免疫疾患、炎症性疾患、遺伝性疾患等の治療に有用な遺伝子を、患者体内で発現せしめ、治療効果を得ようとする遺伝子治療は、これまでさまざまなものが試みられてきた。サイトカインなどの可溶性のタンパクの遺伝子を用いた試みは、それらの遺伝子を患者体内に直接導入するin vivo法と、何らかの細胞に遺伝子導入した後に、その細胞を患者に移植するex vivo法に大別できる。In vivo法としては、たとえばインターフェロン遺伝子を組み込んだレトロウイルスベクターを癌患者の腫瘍内に注入し、腫瘍細胞や腫瘍近辺の細胞にインターフェロンを発現させることによって腫瘍抑制効果を期待する治療法が行われている(非特許文献1)。しかしながら、in vivo法では、治療用の遺伝子を、目標とする細胞に、十分な効率で導入し、またその遺伝子産物を、必要な期間に亘って必要な量、発現させるのは、いずれも非常に困難であった。さらに、途中で何らかの副作用が認められた場合、あるいは治療の継続が必要でなくなった場合に、導入した遺伝子を除去することはほとんど不可能であった。
【0003】
一方、Ex vivo法では、アロまたは患者由来の細胞に治療用遺伝子を導入後、患者に移植する。たとえば自家線維芽細胞にIL-12遺伝子を導入後、癌患者に移植する戦略が、前臨床研究として行われている(非特許文献2)。また、アロ細胞にTNF-alpha遺伝子を導入後、ホストの免疫拒絶を回避するために封入し、担癌マウスに移植する戦略も報告されている(非特許文献3)。
【0004】
しかしながら、これらの移植した細胞が、生体内で長期間生存し遺伝子を発現しつづけるとは限らず、細胞の種類によっては、酸素や栄養の要求量が高いなどの理由で、移植部位で長期生存できない可能性がある。移植部位に長期間生存するのに適した細胞を、必要な数だけ準備するのは、従来の技術では容易でない。なぜなら、移植に適した細胞種を十分な数だけ採取すること、あるいは移植に適した細胞種を少数採取後に十分な数にまで増殖させること、あるいはより採取しやすい細胞を採取後、それらを移植に十分な数にまで増殖させ、なおかつ移植に適した細胞種に分化させること、これらのいずれかを達成しなければならないが、従来の技術ではいずれも容易でない。さらにこれらの細胞に治療目的の遺伝子を導入し必要な量必要な期間だけ産生させつづけるのはさらに困難である。一方で、悪性腫瘍に限っては、自家腫瘍細胞を手術的に摘出し、培養するとともに治療用の遺伝子(たとえばGM-CSF)を導入し、患者に摂取するという、いわゆる腫瘍ワクチン療法が行われている。腫瘍ワクチンは、導入した分泌型遺伝子の産物が体内で働くことを期待する以上に、むしろ腫瘍抗原の提示を期待して行われるのが通常であるが、いずれにせよこの場合でも、患者から切除した腫瘍細胞が実際にin vitroで増殖させられるとは限らず、また遺伝子導入が効率よく行え、さらに導入した遺伝子が必要な量必要な期間発現させられるとは限らず、また患者体内に移植した後に必ずしも長期間生存できるわけではない。実際、このような手法による治療成績は必ずしも良いものではない。
【0005】
したがって、患者由来の細胞、あるいはアロの細胞(望ましくは、HLAが一部以上マッチした細胞)を、最小限の数だけ採取し(望ましくはできるだけ侵襲がないような手段で)、それらを必要な数にまで増殖せしめ、それらに遺伝子導入などの処置を施し、なおかつ生体内に移植した場合に生存に適した細胞種(たとえば軟骨細胞)に分化させて、移植材料として用いることができれば、ex vivo法による悪性腫瘍、アレルギー性疾患、自己免疫疾患、炎症性疾患、遺伝性疾患等の治療にきわめて適していると考えられる。しかしながら、そのようなことは従来は技術的に容易ではなかった。
【0006】
特許文献1には、関節などから軟骨細胞を採取、培養し、そこに治療目的の分泌タンパク質の遺伝子を導入する技術が開示されている。
【0007】
しかしながら、生体から採取した軟骨細胞は培養が困難で、増殖させにくく、さらに遺伝子導入の効率が悪く、導入した遺伝子の発現を十分に強く得ることは非常に難しい。
【0008】
特許文献1では、同じ患者から何度も軟骨を採取し、何度も遺伝子を導入しなければ、事実上反復した治療は不可能であり、これを行おうとすると患者への負担、侵襲は大きなものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】US2009/0155229
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Yoshida J,他、Hum Gene Ther. 2004 Jan;15(1):77-86
【非特許文献2】Cancer Gene Ther. 2009 ;16(4):329-37
【非特許文献3】Exp. Oncol. 2005 ;27(1):56-60
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、分泌タンパク質の欠損、不足、機能低下に起因する疾患の治療剤、治療方法、該疾患の治療に有効な移植材料及びその製造方法を提供することを目的とする。また、分泌タンパク質の欠損、不足、あるいは機能低下に起因する疾患でなくても、何らかの分泌タンパク質の投与が患者に有益な結果をもたらすと考えられる疾患であれば、その疾患の治療剤、治療方法、治療に有効な移植材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ex vivo法に用いるための遺伝子導入細胞を含む移植材料、それを調製する方法、それを用いた疾患の治療方法、及びバンクを提供するものである。
項1. 分泌タンパク質遺伝子を導入したiPS細胞を分化させて分泌タンパク質を発現する移植材料を得る工程を含む移植材料の製造方法。
項2. 分泌タンパク質遺伝子は、iPS誘導因子の細胞内への導入の前、同時又は後、好ましくはiPS細胞を分化させる途中で導入される項1に記載の方法。
項3. 分泌タンパク質遺伝子は、ウイルスベクターにより導入される、項1又は2に記載の方法。
項4. 前記ウイルスベクターがレトロウイルスベクターである、項3に記載の方法。
項5. 前記移植材料が軟骨細胞を含む、項1〜4のいずれかに記載の方法。
項6. 分泌タンパク質遺伝子を導入した細胞を選抜する工程をさらに含む、項1〜5のいずれかに記載の方法。
項7. 前記移植材料を放射線照射して細胞の増殖能を失わせる工程をさらに含む項1〜6のいずれかに記載の方法。
項8. 放射線照射の線量が、15−80Gy、好ましくは20−40Gyである、特に30−40Gyである項7に記載の方法。
項9. iPS細胞を分化させて得られた前記細胞が細胞集団又は細胞塊であり、1つの集団または塊として移植及び摘出が可能である項1〜8のいずれかに記載の方法。
項10. 前記移植材料が体細胞を脱分化させ、その後、または脱分化と同時進行的に、別の体細胞に分化誘導し、その途上に遺伝子を導入することで、得られた体細胞(脱分化体細胞)を含む、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
項11. iPS細胞由来の分化細胞を含む移植材料であって、分泌タンパク質遺伝子を発現可能に含む移植材料。
項12. iPS誘導因子を分化細胞内に含む項11に記載の移植材料。
項13. 前記iPS誘導因子がOct遺伝子群、Klf遺伝子群、Sox遺伝子群、Myc遺伝子群及びこれらの発現産物からなる群から選ばれる少なくとも1種、必要に応じてさらにNanog遺伝子群、Lin-28遺伝子群及びこれらの発現産物から選ばれる少なくとも1種を含む、項12に記載の移植材料。
項14. 前記分化細胞が軟骨細胞である、項11〜13のいずれかに記載の移植材料。
項15. 前記移植材料が前記分化細胞の集団又は塊である、項11〜14のいずれかに記載の移植材料。
項16. 前記移植材料が体細胞を脱分化させ、その後、または脱分化と同時進行的に、別の体細胞に分化誘導し、その途上に遺伝子を導入することで、得られた体細胞(脱分化体細胞)を含む、請求項11〜15のいずれかに記載の移植材料。
項17. 項1〜10のいずれかに記載の方法により得られた移植材料或いは項11〜16のいずれかに記載の移植材料を有効成分とする前記分泌タンパク質の欠損、不足又は機能低下に起因する疾患の治療剤。
項18. 前記分泌タンパク質がインスリン、GLP-1、GLP-1(7-37)などのGLP-1受容体アゴニストポリペプチド、GLP−2、インターロイキン1〜33(例えばIL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-15、IL-17、IL-18、IL-21、IL-22、IL-27、IL-28、IL-33)、インターフェロン(α、β、γ)、GM-CSF、G-CSF、M-CSF、SCF、FASリガンド、TRAIL、レプチン、アディポネクチン、血液凝固第VIII因子/第IX因子、リポプロテインリパーゼ(LPL)、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)、エリスロポエチン、アポA-I、アルブミン、心房性ナトリウムペプチド(ANP)、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)、アンギオスタチン/エンドスタチン、内因性オピオイドペプチド(エンケファリン、エンドルフィン等)、カルシトニン・骨形成因子(BMP)、膵分泌性トリプシンインヒビター、カタラーゼ、スーパーオキサイドジスムターゼ、抗体からなる群から選ばれる、項17に記載の治療剤。
項19. 前記疾患が糖尿病、肥満、摂食障害、炎症性腸疾患、消化管障害、血管障害、血友病、リポプロテインリパーゼ(LPL)欠損症、高トリグリセリド血症、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)欠損症、赤血球減少症、低HDL血症、低蛋白血症、高血圧、心不全、悪性黒色腫、腎癌、乳癌、前立腺癌、癌転移、疼痛緩和、骨粗しょう症、悪性腫瘍、肝炎、アレルギー、多発性硬化症、乾癬、自己免疫疾患、膵炎、虚血性心疾患などの虚血再灌流障害からなる群から選ばれる、項17又は18に記載の治療剤。
項20. 項17,18又は19に記載の治療剤を前記疾患の患者に投与することを特徴とする疾患の治療方法。
項21. 項1〜10に記載の方法により得られた移植材料或いは項11〜16のいずれかに記載の移植材料の、バンク。
項22. 移植材料が軟骨細胞である、項21に記載のバンク。
項23. 移植材料が分泌するタンパク質がサイトカイン、ケモカイン又は抗体である、項21または22に記載のバンク。
項24. 前記移植材料を構成する細胞が、本質的に増殖能を有しない項21〜23のいずれかに記載のバンク。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、iPS細胞がex vivo遺伝子導入に極めて適していることを見出した。すなわち、(i)iPS細胞は患者本人から樹立することができるので、そのiPS細胞を分化させることにより、患者由来の細胞で、ex vivo治療にふさわしい細胞(たとえば軟骨細胞)をつくって治療用の移植材料に供することができる。(ii)iPS細胞をin vitroで増殖させてからこれを行うことで、多数の治療用細胞を提供できる。(iii)ex vivo治療にふさわしい細胞(たとえば軟骨細胞)への分化の途上にある細胞に遺伝子を導入することが可能である。
【0014】
本発明ではまた、ex vivo治療にふさわしい細胞(たとえば軟骨細胞)を患者から直接採取してこれに遺伝子を導入する場合に比べて、iPS由来の細胞に対しては、遺伝子を効率良く導入、産生できることを見出した。さらに本発明では、iPS由来の細胞に遺伝子を導入した後、放射線照射をすることにより、細胞の増殖能を失い、しかしながら遺伝子産物は産生し続ける、移植材料をつくることができることを見出した。このようなことは従来の技術ではほとんど不可能なため、本発明の大きな利点であると考えられる。
【0015】
本発明の移植材料は、iPS細胞由来の分化細胞に分泌タンパク質遺伝子を導入することで、分化細胞に多数の分泌タンパク質遺伝子を高発現可能な状態で導入できるため、分泌タンパク質の持続的な供給源として優れている。iPS細胞由来の分化細胞を分泌タンパク質の供給源として移植材料に用いた本発明は、十分な量の分泌タンパク質が持続的に供給できるため、分泌タンパク質の欠損、不足もしくは機能低下に起因する疾患の治療剤としても優れている。また、分泌タンパク質の欠損、不足、あるいは機能低下に起因する疾患でなくても、何らかの分泌タンパク質の投与が患者に有益な結果をもたらすと考えられる疾患の治療剤としても優れている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】マウスiPS細胞から軟骨細胞に分化させる途上でレトロウイルスベクターを感染させ、またウサギ初代培養軟骨細胞にレトロウイルスベクターを感染させる実験の概略である。実施例1参照。
図2図1で示された実験の結果である。図2中、矢印はEGFP発現細胞を示す。実施例2参照。
図3A】ヒトiPS細胞由来軟骨細胞に、分化途上でレトロウイルスを感染させる場合と、ヒト初代培養軟骨細胞に感染させた場合の、遺伝子導入・発現効率を比較した実験の概略を示した模式図である。
図3B図3Aで示された実験の、アルシアンブルー染色の結果である。20日目には弱陽性、23日目には強陽性であり、ヒトiPS細胞から軟骨細胞に分化したことが分かる。実施例3参照。
図4図3Aに示された実験の結果である。ヒトiPS由来軟骨細胞に、分化途上でレトロウイルスを感染させる場合では、ヒト初代培養軟骨細胞に感染させた場合と比べ、非常に高い遺伝子導入・発現効率が得られることが、GFPの発現で分かる。実施例4参照。
図5図3Aと同様に、分泌型ルシフェラーゼ遺伝子を含むレトロウイルスベクターを、ヒトiPS由来軟骨細胞に、分化途上で感染させ、またヒト初代培養軟骨細胞に感染させて、両者を比較した。前者のほうが後者と比べ、非常に高い遺伝子導入・発現効率が得られることが、ルシフェラーゼ遺伝子の発現で分かる。実施例5参照。
図6】iPS細胞から分化させた軟骨細胞に軟X線を照射し、細胞増殖に対する線量の影響を見る実験の概略を示した図である。実施例6参照。
図7】iPS細胞から分化させた軟骨細胞に軟X線を照射し、細胞増殖に対する線量の影響を見る実験の結果である。EBは胚様体を示す。実施例7参照。
図8】iPS細胞から分化させた軟骨細胞に導入したプラスミドベクターの発現に対する、軟X線の線量の影響を見る実験の概略を示した図である。実施例8参照。
図9】iPS細胞から分化させた軟骨細胞にプラスミドベクターを導入し、軟X線を照射後さらに培養し、導入遺伝子の発現に対する線量の影響を見る実験の結果である。実施例9参照。
図10】移植実験の概略である。実施例10参照。
図11】プラスミドベクターの模式図である。実施例11参照。
図12】iPS細胞、および図1の培養を行った細胞の、Aggrecan(軟骨細胞の指標)のmRNA発現をreal time RT-PCRで計測したデータである。実施例12参照。
図13】iPS細胞から図1のように培養した細胞の微分干渉顕微鏡像(左)と、この細胞にpmaxGFPを導入後1日目の蛍光顕微鏡像(右)である。実施例13参照。
図14】移植後1日(左)または4日(右)後のマウス血清中のIL-12 p70の濃度をELISAで計測したデータである。実施例14参照。
図15】移植後1日(左)または4日(右)後のマウス血清中のLucの活性をLucアッセイで計測したデータである。実施例15参照。
図16】iPS細胞から分化させた軟骨前駆細胞にマウスIL-12あるいはGFP発現レトロウイルスベクターを感染させ、軟X線を照射後にマウスに移植し、血清中のIL-12またはGFP濃度を測定する実験の概略である。実施例16参照。
図17】血清中のIL-12またはGFP濃度を測定した結果である。実施例16参照。
図18】iPS細胞から分化させた軟骨前駆細胞にマウスIL-12発現レトロウイルスベクターを感染させ、軟X線を照射後にマウスに移植し、移植3日後に移植軟骨塊を切除した群と切除していない群の血清中のIL-12濃度を測定する実験の概略である。実施例17参照。
図19】実施例17の血清中のIL-12濃度を測定した結果を示す。縦軸は血清中のIL-12濃度(pg/ml)である。
図20】iPS由来の胚様体に0-40Gyの軟X線照射をしたときの細胞のヴァイアビリティを測定する実験の概略である。実施例18参照。
図21】実施例18の細胞ヴァイアビリティを測定した結果を示す。
図22】iPS由来の軟骨前駆細胞に20Gyの軟X線を照射し又は照射していない軟骨前駆細胞をSCIDマウスに移植したときの血清中の分泌型ルシフェラーゼ(MetLuc2)あるいはGFPの濃度を測定する実験の概略である。実施例19参照。
図23】実施例19の血清中の分泌型ルシフェラーゼ(MetLuc2)あるいはGFPの濃度を測定した結果を示す。
図24】皮下にマウスメラノーマB16株を5x105個を移植したC57BL/6マウスについて、腫瘍のサイズ(実施例X5)と腫瘍移植後の生存率を測定する実験の概略である。実施例20,21参照。
図25】実施例20の腫瘍体積を測定した結果を示す。縦軸は腫瘍体積を示す。
図26】実施例21の腫瘍移植後の生存率を測定した結果を示す。縦軸は生存率を表す。
図27】Platinum レトロウイルス発現システムを用いて作成したマウスIL-12遺伝子またはGFP遺伝子を挿入したレトロウイルスベクターを感染させたマウスiPS細胞由来の軟骨細胞を5x106個を移植する実験の概略である。実施例22参照
図28】マウスiPS細胞由来の軟骨細胞を移植後、マウスメラノーマB16株に対するCTLアッセイの実験の概略である。実施例22参照
図29】実施例22のCTLアッセイの実験の結果を示す。
図30】Platinum レトロウイルス発現システムを用いて作成したマウスIL-12遺伝子またはGFP遺伝子を挿入したレトロウイルスベクターを感染させたマウスiPS細胞由来の軟骨細胞を5x106個を移植する実験の概略である。実施例23参照。
図31】マウスiPS細胞由来の軟骨細胞を移植後、マウスメラノーマB16株に対するNKアッセイの実験の概略である。実施例23参照
図32】実施例23のNKアッセイの実験の結果を示す。
図33】パッケージング細胞を用いてヒトSox9遺伝子、マウスKlf4遺伝子、マウスcMyc遺伝子、GFP遺伝子のレトロウイルスを作製し、繊維芽細胞に感染させる手順を示す。実施例24参照。なお、図33図42(実施例24〜29)は、体細胞を脱分化させ、その後、または脱分化と同時進行的に、軟骨細胞に分化誘導し(この方法で得られる軟骨細胞を、脱分化軟骨細胞と呼ぶ)、その途上に遺伝子を導入することで、分泌蛋白を産生する脱分化軟骨細胞を得られることを示す。このような体細胞から軟骨細胞への脱分化と分化の途中の段階の細胞も、本発明のiPS細胞に含有される。すなわち、このような体細胞から軟骨細胞への脱分化と分化も、本発明の体細胞からiPS細胞への脱分化とその後の軟骨細胞への分化に包含される。また、このような体細胞からの脱分化と軟骨細胞へ分化の途中に遺伝子を導入することも、本発明のiPSから軟骨細胞への分化の途中に遺伝子を導入することに含まれる。同様に、体細胞を脱分化させ、その後、または脱分化と同時進行的に、別の体細胞に分化誘導し(この方法で得られる体細胞を、脱分化体細胞と呼ぶ)、その途上に遺伝子を導入することで、得られた脱分化体細胞を治療に用いることも可能であり、このような体細胞から別の体細胞への脱分化と分化の途中の段階の細胞も、本発明のiPS細胞に含有される。したがって、このような体細胞から別の体細胞への脱分化と分化も、本発明の体細胞からiPS細胞への脱分化とその後の体細胞への分化に包含される。また、このような体細胞からの脱分化と別の体細胞へ分化の途中に遺伝子を導入することも、本発明のiPSから体細胞への分化の途中に遺伝子を導入することに含まれる。
図34】感染(infection)9日目にアルシアンブルー染色を行った結果を示す。実施例24参照
図35】実施例25で2回目感染の2日後にGFP遺伝子を導入した細胞について蛍光観察とアルシアンブルー染色を行った結果を示す。DICは微分干渉を意味し、NIBAは蛍光像を意味する。
図36】軟骨細胞特異的マーカー遺伝子であるアグリカンとタイプIIコラーゲン遺伝子をターゲットとするTaqManプローブ・プライマーセットを用いて、リアルタイムRT-PCRを行う手順を示す。実施例26参照。
図37】実施例26のリアルタイムRT-PCの結果を示す。
図38】実施例27、28のELISAによるマウスIL-12とルシフェラーゼの測定手順を示す。
図39】実施例27のELISAによるマウスIL-12の測定結果を示す。
図40】実施例28のルシフェラーゼアッセイの結果を示す。
図41】実施例29で上清中のmIL-21とルシフェラーゼのタンパク濃度を測定する手順を示す。
図42】実施例29で上清中のmIL-21とルシフェラーゼのタンパク濃度を測定した結果を示す。
図43】実施例30でIL-21を測定するまでの手順を示す。
図44】実施例30でIL-21を測定した結果を示す。
図45】実施例31で抗HA(PR8)抗体をiPS由来の軟骨細胞で産生させる手順を示す。
図46】実施例31で抗HA(PR8)抗体量を測定した結果を示す。
図47】実施例34の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書において、特に明示のない限り、「治療」という用語は、患者が特定の疾患又は障害を患っている間に行う処置を意図し、これによって疾患若しくは障害の重症度、又は1つ若しくは複数のその症状が軽減されるか、又は疾患若しくは障害の進行が遅延又は減速することを意味する。本明細書において、「治療」には「予防」を含むものとする。
【0018】
本発明の移植材料を用いて治療する対象となる疾患としては、悪性腫瘍(メラノーマ、腎癌、乳癌、前立腺癌、癌転移などを含むが、これに限られない)、疼痛緩和、骨粗しょう症、肝炎、アレルギー性疾患、多発性硬化症、乾癬、自己免疫疾患、炎症性疾患、遺伝病(血友病A、α2アンチトリプシン欠損症などを含むが、これに限られない)、リウマチ性疾患、糖尿病、肥満、摂食障害、炎症性腸疾患、消化管障害、血管障害、血友病、リポプロテインリパーゼ(LPL)欠損症、高トリグリセリド血症、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)欠損症、赤血球減少症、低HDL血症、低蛋白血症、高血圧、心不全、膵炎、虚血性心疾患などの虚血再灌流障害などが挙げられるが、それ以外にも分泌タンパク質の欠損、不足もしくは機能低下に関係するさまざまな疾患が対象となる。また、分泌タンパク質の欠損、不足、あるいは機能低下に起因する疾患でなくても、何らかの分泌タンパク質の投与が患者に有益な結果をもたらすと考えられる疾患が対象となる。
【0019】
本発明はまた、疾患の治療に限らず、健康増進や美容(例えば分泌タンパク質がコラーゲン)等の目的で用いることもできる。その際、ヒトに対する処置も、本明細書では便宜上治療と呼び、「患者」は「健常者」あるいは「ヒト」、「疾患」は「健康増進」や「美容」等と読み替えることができる。
【0020】
本発明はまた、ヒトだけでなく、イヌ、ネコ等の愛玩動物やウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ニワトリ等の家畜の疾患の治療にも用いることが可能である。その場合、「患者」を「患畜」あるいは「動物」と読み替えることとする。
【0021】
移植材料とは、外来の分泌タンパク質遺伝子がコードする分泌タンパク質を、その効果を期待して体内において発現させるために生体内に導入する材料をいう。移植材料は、インビトロで分泌タンパク質の遺伝子導入を行った後、同一または別の個体に移植する材料を包含する。
【0022】
iPS細胞とは、体細胞を初期化することにより人工的に誘導された、多分化能及び自己再生能を有すると考えられる細胞のことであり、体細胞は、胚由来であっても胎児由来であっても生体由来であってもよく、またマウス、ヒト等どのような動物種に由来してもよい。
【0023】
iPS細胞が分化誘導される細胞としては、特に限定されないが、例えば繊維芽細胞、上皮細胞(皮膚表皮細胞、角膜上皮細胞、結膜上皮細胞、口腔粘膜上皮、毛包上皮細胞、口腔粘膜上皮細胞、気道粘膜上皮細胞、腸管粘膜上皮細胞など)、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞、靱帯細胞、軟骨細胞、血管内皮細胞、肝細胞、膵細胞、脂肪細胞、神経細胞、心筋細胞、網膜細胞、脾細胞、骨髄細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、免疫細胞(例、マクロファージ、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、肥満細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球、白血球)、巨核球、滑膜細胞、間質細胞、などが例示できる。好ましい分化細胞は、軟骨細胞、骨細胞、繊維芽細胞などである。
【0024】
本明細書において、iPS細胞は、適切な手段で脱分化した細胞と、特定の遺伝子を組み合わせて体細胞に導入するなどの適切な手段でリプログラミングされた細胞の両方を包含する。iPS細胞は、厳密な意味での多能性(pluripotency)を有している必要はなく、体細胞からmesenchymal stem cell様の細胞に脱分化させた細胞や、実施例24で示されるように、脱分化と分化を、連続してまたは同時進行的に、誘導することで、もとの体細胞(例えば線維芽細胞)からそれ以外の細胞(例えば軟骨細胞)に誘導する途上の細胞を広く包含する。
【0025】
分化細胞を初期化するためのiPS誘導因子としては、特に限定されないが、Oct遺伝子群、Klf遺伝子群、Sox遺伝子群のそれぞれの遺伝子群から選択された遺伝子またはその発現産物の組み合わせであることが好ましく、iPS細胞樹立の効率という点では、myc遺伝子群またはその発現産物をさらに含んだ組み合わせとすることがより好ましい。Oct遺伝子群に属する遺伝子としては、Oct3/4、Oct1A、Oct6などがあり、Klf遺伝子群に属する遺伝子としては、Klf1、Klf2、Klf4、Klf5などがあり、Sox遺伝子群に属する遺伝子としては、Sox1、Sox2、Sox3、Sox7、Sox15、Sox17、Sox18などがある。myc遺伝子群に属する遺伝子としては、c-myc、N-myc、L-mycなどがある。myc遺伝子群の遺伝子産物は、サイトカインで置換することができる場合があり、この場合のサイトカインとして、例えばSCFやbFGFなどが挙げられる。また、上記の遺伝子群は、遺伝子を導入することがiPS細胞作成の効率上好ましいが、上記遺伝子群の発現産物である少なくとも1つのタンパク質を分化細胞に導入することでiPS細胞を作製してもよい。
【0026】
iPS誘導因子としては、上記組み合わせ以外にも、Oct遺伝子群の遺伝子、Sox遺伝子群の遺伝子に加え、Nanog遺伝子及びlin-28遺伝子を含む組み合わせが挙げられる。細胞に導入する場合、上記組み合わせの遺伝子に加え、他にも遺伝子産物を導入してもよく、例えば、不死化誘導因子などが挙げられる。
【0027】
或いは、iPS誘導因子は、Oct遺伝子群、Klf遺伝子群、Sox遺伝子群のそれぞれの遺伝子群の発現産物(例えばOctタンパク質、Klfタンパク質、Soxタンパク質)のみで構成されても良い。iPS細胞樹立の効率という点では、c-myc遺伝子群のタンパク質をさらに含んだ組み合わせとすることがより好ましい。このようにタンパク質を導入してiPS細胞を作製した場合、ガン化の可能性が低下若しくはなくなるので好ましい。また、タンパク質に代えて小分子を用いても良い。さらにエピゾーマルベクター、センダイウイルスベクターを用いてiPS細胞を調製した場合も、ガン化の可能性が低下するので好ましい。またこれらの遺伝子、蛋白質、小分子等を組み合わせたものでもよい。
【0028】
上記遺伝子は、いずれも、脊椎動物で高度に保存されている遺伝子であり、本明細書では、特に動物名を示さない限り、ホモログを含めた遺伝子を表すものとする。また、polymorphismを含め、変異を有する遺伝子であっても、野生型の遺伝子産物と同等の機能を有する遺伝子もまた、含まれるものとする。iPS細胞の調製は、周知の方法により可能であり、例えば ”Induction of pluripotent stem cells from adult human fibroblasts by defined factors” Takahashi K, Tanabe K, Ohnuki M, Narita M, Ichisaka T, Tomoda K, Yamanaka S. Cell. 2007 Nov 30;131(5):861-72や、 “Generation of mouse-induced pluripotent stem cells with plasmid vectors” Okita K, Hong H, Takahashi K, Yamanaka S. Nat Protoc. 2010;5(3):418-28.の記載に従い作製することができる。具体的には、iPS誘導因子が細胞内で機能する蛋白質である場合は、その蛋白質をコードする遺伝子を発現ベクターに組み込み、対象とする体細胞などの分化細胞に発現ベクターを導入し、細胞内で発現させることが好ましい。発現ベクターは特に限定されないが、ウイルスベクターを用いることが好ましく、特にレトロウイルスベクターやレンチウイルスベクターを用いることが好ましい。また、Protein Transduction Domain(PTD)と呼ばれるペプチドを蛋白質に結合させ、培地に添加することにより、iPS誘導因子を細胞内に導入してもよい。iPSの原料となる分化細胞で、iPS誘導因子の一部が発現している場合は、その蛋白質に関しては外部から導入する必要がない。また、リプログラミング因子やリプログラミング因子の遺伝子を導入しなくても、小分子で代替してiPS細胞を誘導することができる。たとえば、”Generation of induced pluripotent stem cells using recombinant proteins. ” Zhou H, Wu S, Joo JY, Zhu S, Han DW, Lin T, Trauger S, Bien G, Yao S, Zhu Y, Siuzdak G, Scholer HR, Duan L, Ding S. Cell Stem Cell. 2009 May 8;4(5):381-4. や、”Generation of human induced pluripotent stem cells by direct delivery of reprogramming proteins. ” Kim D, Kim CH, Moon JI, Chung YG, Chang MY, Han BS, Ko S, Yang E, Cha KY, Lanza R, Kim KS. Cell Stem Cell. 2009 Jun 5;4(6):472-6.に記載された方法である。
【0029】
iPS細胞を分化させるための分化誘導培地としては、特に限定されないが、例えば
”Endochondral bone tissue engineering using embryonic stem cells. ” Jukes JM, Both SK, Leusink A, Sterk LM, van Blitterswijk CA, de Boer J. Proc Natl Acad Sci U S A. 2008 May 13;105(19):6840-5. や、”Induction of chondro-, osteo- and adipogenesis in embryonic stem cells by bone morphogenetic protein-2: effect of cofactors on differentiating lineages. ” zur Nieden NI, Kempka G, Rancourt DE, Ahr HJ. BMC Dev Biol. 2005 Jan 26;5:1. ”Embryonic stem cell differentiation models: cardiogenesis, myogenesis, neurogenesis, epithelial and vascular smooth muscle cell differentiation in vitro. ” Guan K, Rohwedel J, Wobus AM. Cytotechnology. 1999 Jul;30(1-3):211-26.を用いることができる。
【0030】
分泌タンパク質の発現は、移植材料を培地中で培養し、培地中に分泌されたタンパク質をELISAなどの免疫学的手法により容易に確認できる。
【0031】
本発明の移植材料は、分泌タンパク質を発現可能な細胞であってもよいが、細胞塊ないし細胞集団であるのが、生体内に導入した後、全部を摘出することができるので好ましい。例えば抗癌用途に用いる分泌タンパク質は、癌が縮小ないし消失した後にはタンパク質の分泌を停止するのが望ましく、この場合には、生体内に導入ないし埋入した移植材料を部分的又は完全に取り除くことができる。
【0032】
本発明の移植材料は、細胞外基質 (ECM) 成分を含むことができる。ECM成分としてはコラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、ヘパラン硫酸、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン、デルマタン硫酸、ケラチン硫酸、エラスチン、またはその2種以上の組み合わせを挙げることができる。これらのECM成分はゲル化させて移植材料を構成する分化細胞と混合させて使用できる。ECM成分と分化細胞は、ゲル状またはペースト状の網構造、繊維状構造、平板(ディスク)状構造、ハニカム状、スポンジ様構造の足場材料に導入されて三次元構造の移植材料とすることができる。
【0033】
本発明の分泌タンパク質としては、ホルモン、サイトカイン、ケモカインなど挙げられる。具体的な分泌タンパク質としては、インスリン、GLP−1、GLP-1(7-37)などのGLP-1受容体アゴニストポリペプチド、GLP−2、インターロイキン1〜33(例えばIL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-17、IL-18、IL-21、IL-22、IL-27、IL-33)、インターフェロン(α、β、γ)、GM-CSF、G-CSF、M-CSF、SCF、FASリガンド、TRAIL、レプチン、アディポネクチン、血液凝固第VIII因子/第IX因子、リポプロテインリパーゼ(LPL)、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)、エリスロポエチン、アポA-I、アルブミン、心房性ナトリウムペプチド(ANP)、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)、アンギオスタチン/エンドスタチン、内因性オピオイドペプチド(エンケファリン、エンドルフィン等)、カルシトニン・骨形成因子(BMP)、膵分泌性トリプシンインヒビター、カタラーゼ、スーパーオキサイドジスムターゼ、抗TNF-a抗体、可溶性IL-6レセプター、IL-1レセプターアンタゴニスト、α2アンチトリプシンなどの抗体、そのほか、可溶性のタンパク質の遺伝子であって、その発現がなんらかの疾患の治療としての意義があるものであれば用いることが可能である。また、ペプチドをコードするものであってもよく、可溶性たんぱくをペプチドと読み替えて本発明をペプチドで効果のある疾患の治療に用いることが可能である。
【0034】
疾患と分泌タンパク質の組み合わせとしては、インスリン/糖尿病、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)/糖尿病・肥満・摂食障害、GLP-2/炎症性腸疾患・癌化学療法などに伴う消化管障害、レプチン/肥満症・脂肪萎縮性糖尿病、アディポネクチン/糖尿病・血管障害、血液凝固第VIII・第IX因子/血友病、リポプロテインリパーゼ(LPL)/LPL欠損症・高トリグリセリド血症、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)/LCAT欠損症、エリスロポエチン/赤血球減少症、アポA-I/低HDL血症、アルブミン/低蛋白血症、心房性ナトリウムペプチド(ANP)/高血圧・心不全、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)/乳癌・前立腺癌、アンギオスタチン・エンドスタチン/血管新生・転移阻害、モルヒネ受容体作動ペプチド(内因性オピオイドペプチド)/疼痛緩和、カルシトニン・骨形成因子 (BMP)/骨粗しょう症、インターフェロン-α・-β/悪性腫瘍、インターフェロン-γ/悪性腫瘍・肝炎・アレルギー、インターフェロン-β1/多発性硬化症、インターロイキン-1α・-1β/悪性腫瘍、インターロイキン-4/乾癬、インターロイキン-10/自己免疫疾患、インターロイキン-12/悪性腫瘍、膵分泌性トリプシンインヒビター/膵炎、スーパーオキサイドジスムターゼ/虚血性心疾患・血管障害、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)可溶化受容体/慢性関節リュウマチ、可溶化IgE受容体/アレルギー、可溶化IgA受容体/食物アレルギー、可溶化細胞障害性Tリンパ球抗原-4(CTLA4)/自己免疫疾患、可溶化CD40リガンド/免疫疾患、ドミナントネガティブ型血液凝固第VIIa因子/血栓症、繊維芽細胞増殖因子(FGF)可溶化受容体/血管内膜肥厚などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
分泌タンパク質遺伝子は、iPS誘導因子の細胞内への導入の前に分化細胞に導入してもよいが、iPS誘導因子と同時に細胞内に導入してもよい。より好ましくは分泌タンパク質遺伝子は、iPS細胞内に導入し、その後分化誘導するのが望ましい。さらに好ましくは、iPS細胞を一旦途中まで分化させ、遺伝子導入に適した細胞(たとえば胚様体)を作成し、そのiPS由来細胞に分泌タンパク質遺伝子を導入し、その後さらに分化させて移植に適した細胞を作成することが望ましい。これは、iPS細胞の分化の過程では、遺伝子導入が効率よく行いやすいためである。分泌タンパク質遺伝子の導入は、プラスミドにより行ってもよいが、導入効率と安定に保持することを考えるとウイルスベクターを用いるのが好ましい。ここで、「安定に保持する」とは、細胞分裂に伴い、分泌タンパク質遺伝子が娘細胞に受け継がれることを意味し、より具体的には分泌タンパク質遺伝子が細胞の染色体に組み込まれていることを意味する。本発明の移植材料に含まれる分化細胞は、好ましくは外来の分泌タンパク質遺伝子が染色体組み込み型のウイルスベクターにより安定に導入されている。より好ましくは、分泌タンパク質遺伝子がレトロウイルスベクターにより導入されている。
【0036】
好ましくは分泌タンパク質遺伝子が染色体組み込み型のウイルスベクターにより安定に導入されている。より好ましくは、分泌タンパク質遺伝子がレトロウイルスベクターにより導入されている。レトロウイルス中の分泌タンパク質遺伝子はLTRにより転写させることもできるし、ベクター内部の別のプロモーターから発現させてもよい。例えばCMVプロモーター、EF-1αプロモーター、CAGプロモーターなどの構成的発現プロモーター、または所望の誘導性プロモーターを利用することができる。また、LTRの一部を他のプロモーターに置換したキメラプロモーターを利用してもよい。
【0037】
ただし、iPS誘導因子と同時に分泌タンパク質遺伝子をレトロウイルスベクターで細胞内に導入すると、分泌タンパク質遺伝子は染色体に組み込まれるが、発現は抑制される(サイレンシング)ことが予想されるので、好ましくない。したがって、iPS細胞を一旦途中まで分化させてから、分泌タンパク質遺伝子を導入すると、分泌タンパク質遺伝子を発現可能な移植材料が効率よく得られるために好ましい。
【0038】
レトロウイルスベクターは、細胞の染色体に安定に組み込まれ導入遺伝子を長期間にわたって発現する能力を有しているが、導入効率および導入遺伝子の発現の持続性は細胞種に依存している。例えば、レトロウイルスベクターにより導入した遺伝子は、細胞が増殖している間は発現が持続するが、細胞の増殖が止まると発現が停止することがある。分泌タンパク質遺伝子の発現の抑制は、特にインビボまたはエクスビボにより体内に遺伝子を導入した後にしばしば観察される。本発明者らがレトロウイルスベクターを介してiPS由来細胞に分泌タンパク質遺伝子を導入したところ、分泌タンパク質遺伝子の発現はインビトロおよびインビボの両方において、極めて安定に持続する。導入遺伝子の発現は、分化前のiPS細胞でも、分化後の細胞でも安定しており、インビトロ培養においては4日間以上にわたって、また体内に移植された場合はそれ以上にわたって発現が持続する。分泌タンパク質遺伝子が安定に導入されたiPS由来の分化細胞を含む本発明の移植材料は、長期間安定して該遺伝子を発現する分泌タンパク質の供給源となるインプラントとして利用できる。
【0039】
移植後に免疫応答が起きないようにする目的で、治療用の移植細胞は、患者自身から樹立した自家細胞であることが望ましい。しかしながら、患者由来の細胞からiPS細胞を樹立、分化、調製等を行うのに長時間を要し、その時間の長さが治療効果を上げる上で望ましくないと考えられる場合などでは、アロやゼノの細胞であっても本発明に用いることができる。ただしその場合、血液型、HLAのタイピング等を行いできるだけ拒絶されにくい細胞を用いることが望ましい。この観点からは、異なるHLAを有する多くのドナー由来のアロiPS細胞からなるバンクを作っておくことが望ましい。さらに、これらのアロiPS細胞由来から、移植に適した細胞種(たとえば軟骨細胞)に分化させた細胞、その細胞を含む移植用の組織(3次元培養を行ったものなど)、それらに治療用の遺伝子(たとえばIL-12)を導入した細胞や組織、またそれらからなる移植材料の、いずれかまたはすべてのバンクを作っておくことがさらに望ましく、このようなバンクがあれば、その遺伝子で治療が必要な患者(たとえば癌患者)が出た場合に迅速に移植材料を提供することが可能となると考えられる。
【0040】
移植材料を患者に移植した後、導入した遺伝子の発現が不要になった場合、あるいは何らかの副作用が認められる場合には、移植した細胞を患者から取り除けば、その時点から導入遺伝子の産物である分泌タンパクの産生を失くすことが可能である。これを確実に行うためには、移植した細胞が、識別と切除が容易な何らかの固形、あるいは組織的な形状を保っていることが望ましい。この例として、軟骨細胞からなる組織、あるいは、スキャホルドを用いて3次元培養した軟骨細胞組織等が挙げられる。
【0041】
iPS細胞由来の細胞を移植に用いる場合、移植した細胞から癌化する可能性が否定しにくく、これがいわゆる再生医療では大きな障害となっている。たとえば軟骨に分化させてから移植した場合でも、ごく一部iPS様の未分化な細胞が混入していれば、移植後にその細胞からテラトーマが発生する可能性が否定できない。この問題を防ぐためには、移植材料を構成する細胞を放射線照射し、増殖能を失わせてから移植することが望ましい。この放射線照射は、移植材料を患者に移植する直前に行ってもよいが、より望ましくは、移植用の細胞に最終的に分化させた後で移植材料を調製する前に行う。本発明では、この目的に適した放射線照射の条件を提供する。すなわち、照射線量は、軟X線の場合15−80Gyが望ましく、より望ましくは20−40Gy、特に30−40Gyである。軟X線でなくても、たとえばガンマ線でも可能であり、その場合は照射線量を換算して決定することが可能である。
【0042】
移植する細胞は、移植に適した種類の細胞に分化させておくことが望ましい。疾患と治療遺伝子の組み合わせによって、移植に相応しい部位が異なる可能性があるので、それぞれの目的に応じた移植部位とその部位に適した細胞種を選択することができるのも本発明の特色である(iPS細胞からはさまざまな細胞に分化誘導が可能であるため)。たとえば、メラノーマに対するサイトカイン遺伝子治療の場合に、治療用サイトカイン(たとえばIL-12)の遺伝子を導入した細胞を、腫瘍近傍の皮下に移植する場合には、皮下に生着しやすいと考えられる細胞、たとえば線維芽細胞などを選択することができる。
【0043】
一般的には、たとえば軟骨に分化させるのが望ましい。なぜならば、軟骨は本来無血管の組織であり、高い酸素分圧を必要としない。したがって、移植した部位が血流に乏しく、新生血管の形成が悪くても、その場で長期間生存し得る。また、iPS細胞から比較的容易に分化誘導できる。軟骨組織は、その形状、硬さから他の組織から識別が可能であり、またスキャホルドの上で3次元的な培養も可能である。したがって、誘導した軟骨組織、あるいは3次元培養した軟骨組織を患者に移植した後、導入した遺伝子の発現が不要になった際、あるいは何らかの副作用が認められるなどの原因で、移植した細胞を取り除く際には、移植部位から移植片を取り除くことが比較的容易に可能である。軟骨細胞はまた、細胞分裂せずに比較的長期間生体内で生存することが期待できる。加えて軟骨細胞は、比較的放射線照射に強く、iPS細胞のような増殖能の高い細胞は放射線照射に感受性であるので、放射線照射することにより、さらに確実に、細胞分裂はしないが長期間生存し導入した分泌タンパク質遺伝子を発現しつづけることが期待できる。
【0044】
遺伝子を導入する方法としては、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターなどのウイルス性ベクターを感染させる方法のほか、カチオニック・リポソーム、カチオニック・ポリマー、電気穿孔法等の非ウイルスベクターで、プラスミドベクターやエピゾーマルベクター等をトランスフェクションする方法も用いることができる。また、RNAを導入することもできる。これら遺伝子導入に用いる手段をすべて包括して、本明細書ではベクターと呼ぶ。
【0045】
また、治療目的の遺伝子とともに薬剤選択マーカーとなる遺伝子(ピューロマイシン耐性、ブラストサイジンS耐性、ネオマイシン耐性、ハイグロマイシン耐性など)を導入し、その後薬剤選択を行うことによって、治療用遺伝子を発現する細胞を選択してから用いることができる。
【0046】
好ましい1つの実施形態において、本発明に基づく具体的な移植用細胞の調製法、とくに遺伝子を導入するタイミングとしては、さまざまな選択肢から目的、症例等に応じて選ぶことができる。たとえば、治療開始までの時間的余裕が比較的ある場合には、患者の体細胞(たとえば線維芽細胞)から新たにiPS細胞を誘導し、そこから移植材料に用いる細胞を分化させることが可能である。この場合、治療目的の遺伝子(たとえばIL-12)と薬剤選択マーカー遺伝子(たとえばピューロマイシン耐性遺伝子)を有するベクターを、Oct-3/4、Sox2、Klf-4等と同時に患者由来の体細胞に導入する。この細胞からiPS細胞を誘導し、さらに移植用の細胞(たとえば軟骨細胞)に分化する期間に、継続して薬剤選択をおこなうことにより、IL-12を産生する軟骨を選択することが可能と考えられる。この場合のメリットは、一度の導入でリプログラミングと治療用遺伝子の両者を導入できるが、デメリットとして、治療用遺伝子の発現が抑制されることがある(サイレンシング)。一方で、患者由来の体細胞からまずiPS細胞を樹立してから、治療用遺伝子と薬剤選択マーカー遺伝子を導入し、その後薬剤選択と分化誘導を行うことにより、移植用の細胞を調整することも可能である。この場合、サイレンシングの可能性が低いので望ましく、またひとりの患者に対して、異なる治療用遺伝子を発現する2つ以上の移植用細胞を調整したい場合などにはこの方法に特にメリットがある。また、患者由来の体細胞からまずiPS細胞を樹立してから、分化誘導を行い、その後、治療用遺伝子と薬剤選択マーカー遺伝子を導入し、その後薬剤選択とさらなる分化誘導を行うことにより、移植用の細胞を調製することも可能である。この場合も、サイレンシングの可能性が低いので望ましく、またひとりの患者に対して、異なる治療用遺伝子を発現する2つ以上の移植用細胞を調製したい場合などにはメリットがある。また、治療開始を急ぐ必要がある場合であって、患者由来のiPS細胞が使えない場合には、アロやゼノのiPS細胞由来の細胞を使うことができる。そのような場合を想定して、HLAの異なる多くのドナー由来のアロiPS細胞のバンクを作っておくことが望ましく、そのバンクの中から患者のHLAとマッチするiPS細胞を選び、治療用の遺伝子を導入し、その後薬剤選択と分化誘導を行って移植用の細胞を調整することが可能である。より望ましくは、癌のような発症頻度の高い疾患にたいしては、HLAの異なる多くのドナー由来のアロiPS細胞由来の細胞であって、あらかじめIL-12のような治療用の遺伝子を導入したものを、移植材料としてバンクをつくっておけば、HLAのタイピング等を行ったのちに比較的すみやかに治療に用いることができる。さらに、HLAの異なる多くのドナー由来のアロiPS細胞由来の細胞であって、あらかじめIL-12のような治療用の遺伝子を導入した細胞を、軟骨細胞のような移植に適した細胞に分化誘導したものを、移植材料バンクとすることができる。さらに、HLAの異なる多くのドナー由来のアロiPS細胞由来の細胞であって、あらかじめIL-12のような治療用の遺伝子を導入した細胞を、軟骨細胞のような移植に適した細胞に分化誘導した後、放射線照射したものを、移植材料バンクとすることができる。
【0047】
本発明で用いるiPS細胞は、患者の体細胞からなんらかの手段でリプログラミング、または脱分化した細胞であればどのような細胞でもよく、厳密な意味での多能性(pluripotency)を有している必要はない。したがって、狭義のiPS細胞である必要はなく、たとえば体細胞からmesenchymal stem cell様の細胞に脱分化させた細胞でもよい。ここで脱分化とは、正常な個体発生における細胞分化とは異なる方向への細胞の変化すべてを指す。望ましくは、移植用の細胞(たとえば軟骨細胞を含む)に分化する能力を有する細胞であることが望ましい。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を示すが、本発明はこの実施例だけに限定されるものではない。
【0049】
実施例1
マウスiPS細胞由来軟骨細胞の分化途上での遺伝子導入とウサギ初代培養軟骨細胞への遺伝子導入。Takahashi and Yamanakaの方法(非特許文献Cell. 2006 25;126(4):663-76)に準じて、C57Bl/6マウス線維芽細胞に、Oct-3/4、Sox2、Klf-4、c-Mycを含むレトロウイルスベクターを感染させ、iPS細胞を樹立した。このマウスiPS細胞を、R&D Syste社から購入したBMP2(10 ng/ml)とPepro Tech 社から購入したTGFbeta1(2 ng/ml)、FBS(10%)を含むdMEM培地中で接着性の低い培養ディッシュを用いて5 日培養し、胚様体を形成せしめた。得られた胚様体を、BMP2 ,SIGMA社より購入したインスリン(1μg/mlとナカライテスク社から購入したアスコルビン酸(50μg/ml)の存在下にゼラチンでコートした培養皿上で15 日培養した。この細胞に、タカラバイオ社より購入したRetro Virus Packaging Kit Amphoを用いてEGFP発現ユニットを有するアンフォトロフィックレトロウイルスベクターを、その作成手順に従って作成して細胞に感染させた。pGPベクター、pE-ampho、とpDON-5 GFP Neoの3種類のベクターあるいはリン酸カルシウム法でパッケージング細胞GT3hiに導入し導入後24時間−48時間の培養上清を回収しレトロウイルス原液とした。タカラバイオ社より購入したレトロネクチンで24穴培養プレートを50 μg/mlの濃度でコーティングしてレトロネクチンコートプレートを作成した。作成したプレートに2倍希釈したレトロウイルス原液を添加してウイルス粒子を吸着させたのち細胞を1×105個のマウスiPS細胞より分化誘導した軟骨前駆細胞あるいは、白色ウサギの膝関節より得たウサギ軟骨細胞を蒔いた。添加した。その後3 日間、軟骨細胞誘導条件にて培養し、軟骨細胞に分化させた。微分干渉顕微鏡で観察した。
【0050】
実施例2
図2に実施例1の実験結果を示す。マウスiPS細胞由来軟骨細胞と、ウサギ軟骨細胞初代培養のそれぞれについて、異なる2つの視野の、微分干渉顕微鏡(DIC)、および、それぞれの視野の蛍光顕微鏡像(NIBA)を示す。蛍光顕微鏡写真の中の矢印は、EGFP発現細胞を示す。マウスiPS細胞から軟骨細胞に分化させる途上で遺伝子導入を行うと、ウサギの軟骨より得た軟骨細胞に導入する場合と比べて、高い効率で遺伝子を発現させられることが分かる。
【0051】
実施例3
ヒトiPS細胞由来軟骨細胞に、分化途上でレトロウイルスを感染させる場合と、ヒト初 代培養軟骨細胞に感染させた場合の、遺伝子導入・発現効率の比較。
図3Aに実験の概略を示す。ケラチノサイトに、Oct-3/4、Sox2、Klf-4、c-Myc、Lin28を含むプラスミドベクター導入し、iPS細胞を樹立した。このヒトiPS細胞を、FBS(10%)を含むDMEM培地中で接着性の低い培養ディッシュを用いて5 日培養し、胚様体を形成せしめた。得られた胚様体を、BMP2 ,インスリン(1μg/ml)とアスコルビン酸(50μg/ml)の存在下にゼラチンでコートした培養皿上で18 日間培養した。この細胞の一部を培養20日目と23日目にをPBS(−)で2回洗浄したのち3%酢酸溶液で1回洗浄したのちナカライテスク社のPH2.5 アルシアンブルー染色液を加えて1時間、室温で染色した。PBS(-)で3回洗浄したのち顕微鏡で観察した。20日目の細胞において青い染色像が薄く認められた(図3B)。23日目の細胞においては20日目の細胞に比して強力に染色しており、本系においては20日目から23日目に軟骨への分化誘導が強く起こっていることが確認された。
【0052】
培養15日目の細胞にタカラバイオ社より購入したRetro Virus Packaging Kit Amphoを用いてEGFP発現ユニットあるいは分泌型ルシフェラーゼ発現ユニットを有するアンフォトロフィックレトロウイルスベクターを、その作成手順に従って作成した。pGPベクター、pE-ampho、とpDON-5 GFP NeoあるいはpDON-5 Luc2 Neoの3種類のベクターをリン酸カルシウム法でパッケージング細胞GT3hiに導入し導入後24時間−48時間の培養上清を回収しレトロウイルス原液とした。タカラバイオ社より購入したレトロネクチンを用いて24穴培養プレートを50 μg/mlの濃度でコーティングしてレトロネクチンコートプレートを作成した。作成したプレートにpDON-5 GFP Neoを用いて作成したレトロウイルス原液を2倍希釈し添加して、室温で4時間静置しウイルス粒子を吸着させたのち1×105個のヒトiPS細胞より分化誘導した軟骨前駆細胞あるいは、ヒト初代軟骨細胞を蒔いた。その後3 日間、軟骨細胞誘導条件にて培養し、軟骨細胞に分化させ、微分干渉顕微鏡で観察した。
【0053】
実施例4
図3Aに示された実験の結果を図4に示す。ヒトiPS細胞から分化の途上にGFP遺伝子を導入後軟骨細胞にさらに分化させた細胞(上)と、GFP遺伝子を導入したヒト初代培養軟骨細胞(下)の、微分干渉顕微鏡(左)、および蛍光顕微鏡像(右)である。前者では、効率よくGFPを導入・発現させられるが、後者ではほとんど発現は認められない。したがって、ヒトiPS由来軟骨細胞に、分化途上でレトロウイルスを感染させる場合では、ヒト初代培養軟骨細胞に感染させた場合と比べ、非常に高い遺伝子導入・発現効率が得られることが、GFPの発現で分かる。
【0054】
実施例5
図3Aと同様に、pDON-5 GFP Neoを用いて作成したレトロウイルス原液をもちいてウイルス粒子を吸着させたのち1×105個のヒトiPS細胞より分化誘導した軟骨前駆細胞あるいは、ヒト初代軟骨細胞を蒔いた。その後3 日間、軟骨細胞誘導条件にて培養し、その培養上清を回収しクローンテック社製のReady To-Glow Dual Secreted Repoter Assayキットを用いて培養上清中のルシフェラーゼ活性を測定した。結果を図5に示す。ヒトにおいてもiPS細胞から胚様体を経て軟骨細胞に分化させる途上で遺伝子導入を行うと、高い効率で遺伝子を発現させられることが、ルシフェラーゼの発現で分かる。
【0055】
実施例6
iPS細胞から分化させた軟骨細胞に軟X線を照射し、細胞増殖に対する線量の影響を見る実験の概略を図6に示す。マウスiPS細胞を、BMP2と TGFβ存在下に5 日培養し、胚様体を形成せしめた。得られた胚様体に、0から40 Gyの種々の線量の軟X線を照射した後、ゼラチンでコートした培養皿上でBMP2 とインスリンの存在下にさらに2日間培養した。これらの細胞に、ナカライテスクのセルカウントリエイジェントを2時間添加後、OD450を測定した(テトラゾリウム塩アッセイ)。照射前のレフェレンスとして、図3のように軟X線を照射しない胚様体に、ナカライテスクのセルカウントリエイジェントを2時間添加後、OD450を測定した。
【0056】
実施例7
実施例6の結果を図7に示す。縦軸の値(細胞のヴァイアビリティ(%))は、以下の計算式から得た。
細胞のヴァイアビリティ(%)=(各群の細胞のOD450値)/(照射前のレフェレンスのOD450値)*100
照射線量3から10Gyで軟X線を照射した細胞は、照射しなかった細胞と比較して、ほぼ遜色ない細胞増殖を照射後も示すが、15Gy以上照射した細胞は、増殖がほぼ完全に抑制されることが分かった。
【0057】
実施例8
iPS細胞から分化させた軟骨細胞に導入したプラスミドベクターの発現に対する、軟X線の線量の影響を見る実験の概略を図8に示す。マウスiPS細胞を、BMP2と TGFβ存在下に5 日培養し、胚様体を形成せしめた。得られた胚様体を、さらに28日間培養後、pMetLuc2-Control vector(分泌型ルシフェラーゼ遺伝子発現ベクター)を、Microporatorを用いて導入した。これらの細胞に、0から80 Gyの種々の線量の軟X線を照射した後、BMP2 とインスリンの存在下にさらに2 日、または6日間培養した。これらの細胞の培養上清を採取し、ルシフェラーゼアッセイに供した。
【0058】
実施例9
実施例8の結果を図9に示す。縦軸の値(分泌型ルシフェラーゼ産生量(%))は、以下の計算式から得た。
ルシフェラーゼ産生量(%)=(各群の細胞培養上清のRLU値)/(照射しなかった群(0 Gy)の細胞培養上清のRLU値)*100
照射線量に依存して分泌型ルシフェラーゼの産生量が低下することが分かった。40Gyを超える高い線量を照射した場合には、分泌型ルシフェラーゼの産生量は著明に減少することが分かった。
【0059】
実施例10
移植実験の概略を図10に示す。マウスiPS細胞を、BMP2とTGFbeta1を含みLIFを含まない培地にて、接着性の低い培養ディッシュ上で5日間培養した。その後、BMP2、インスリンとアスコルビン酸を含む培地にて、接着性のある培養ディッシュ上で20日間培養した。この細胞を3群に分け、EGFP、分泌型Luc、IL-12をそれぞれ有するプラスミドベクターを、電気穿孔法にて導入した。コントロールとして、遺伝子を導入せず電気穿孔法のみを施行した細胞を準備した。翌日、それぞれの細胞をトリプシンではがし、軟X線を40 Gy照射した。その後遠心し、上清を棄て、ペレットを注射器で採取し、C57BL/6マウスの皮下に、一匹あたり500万個ずつになるように注射した。翌日と4日後に、マウスの尾静脈から採血し、血清を調整し、ELISA法とLucアッセイに供した。また、IL-12遺伝子を導入した細胞を移植したマウスの一部は、移植後3日目に移植部位を切開し、注入した細胞を含む組織を摘出後、上記と同様に移植後4日目に採血を行った。
【0060】
実施例11
実施例10の実験に用いたプラスミドベクターを図11に示す。pMaxGFPはAmaxa社、pMetLuc2はClontech社よりそれぞれ購入した。pGEG.mIL-12とpG.mIL-12は、非特許文献(Asada, H., 他、Mol. Ther. 5 (5): 609-616, 2002)に記載した。
【0061】
実施例12
iPS細胞、および実施例10の培養25日目の細胞より総RNAを採取し、Aggrecanに特異的なプライマーとプローブを用いて、real time RT-PCRを行った。その結果を図12に示す。iPS細胞と比較し、実施例1の培養25日目の細胞ではAggrecanの発現が上昇しており、軟骨様の細胞に分化したことが分かる。
【0062】
実施例13
実施例10で説明した、培養25日目の細胞の、微分干渉顕微鏡像を図13左に示す。軟骨細胞様の細胞集団が認められる。またこの細胞に、実施例1のようにpmaxGFPを導入後、1日経った細胞の、蛍光顕微鏡像を図12右に示す。90%以上の細胞に、GFPの緑色蛍光が認められ、導入した遺伝子が強力に発現していることが分かる。
【0063】
実施例14
IL-12遺伝子の生体内発現。実施例7で説明した、移植後1日目と4日目のマウスより採取した血清中のIL-12 p70の値をR&Dシステムサイエンス社より購入したIL-12 p70 ELISA kitを用いて測定した。その結果を図14左と右に示す。遺伝子導入を行わなかった群と比較し、pGEG.mIL-12、あるいはpG.mIL-12を導入した群では、血清中IL-12 p70の濃度が著明に上昇したこと、pGEG.mIL-12導入群の方がpG.mIL-12導入群よりもより高い血清IL-12 p70濃度であったこと、pGEG.mIL-12導入細胞を移植後3日目に移植組織を摘出した群では、IL-12 p70の血清濃度が低下することが分かった。
【0064】
実施例15
Lucの生体内発現。実施例10で説明した、移植後1日目と4日目のマウスより採取した血清中のLuc活性を、それぞれ図14左と右に示す。IL-12遺伝子を導入した群と比較し、pMetLuc2を導入した群では、血清中Lucの活性が著明に上昇したことが分かった。
【0065】
実施例16
日油株式会社製のリピジュア コート プレートを用いてマウスiPS細胞をマウスリコンビナントTGFβ、ヒトリコンビナントBMP2存在下で浮遊培養をおこない胚様体を作成した。その後、ヒトリコンビナントBMP2、アスコルビン酸、インシュリン存在下で接着培養を15日間行い軟骨前駆細胞を作成した。Platinum レトロウイルス発現システムを用いて作成したマウスIL-12あるいはGFP発現レトロウイルスベクターを軟骨前駆細胞に感染させたのち5日間培養を行った。培養5日目に20Gyの軟X線を照射したのちiPS細胞由来軟骨細胞を5x106個を移植し、1日目、7日目、14日目、21日目、28日目に血清を採取して、R&D社製マウスIL-12ELISA kitを用いて血清中のIL-12濃度を測定した。結果を図17に示す。
【0066】
実施例17
日油株式会社製のリピジュア コート プレート(A-U96)を用いてマウスリコンビナントTGFβ、ヒトリコンビナントBMP2存在下で、1well あたりマウスiPS細胞1000個を塊として浮遊培養をおこない胚様体を作成した。その後、ヒトリコンビナントBMP2、アスコルビン酸、インシュリン存在下で接着培養を15日間行い軟骨前駆細胞を作成した。Platinum レトロウイルス発現システムを用いて作成したマウスIL-12あるいはGFP発現レトロウイルスベクターを軟骨前駆細胞に感染させたのち5日間培養を行った。培養5日目に20Gyの軟X線を照射したのちiPS細胞由来軟骨細胞を5x106個を移植した。移植3日目に移植軟骨塊を切除した群と切除していない群を作成した。移植1日後および移植7日目に両群から血清を採取し、R&D社製マウスIL-12ELISA kitを用いて血清中のIL-12濃度を測定した。結果を図19に示す。
【0067】
実施例18
日油株式会社製のリピジュア コート プレート(A-U96)を用いてマウスリコンビナントTGFβ、ヒトリコンビナントBMP2存在下で、1well あたりマウスiPS細胞1000個を塊として浮遊培養をおこない胚様体を作成した。その後、0G、3Gy、5Gy、10Gy、15Gy、20Gy、30Gy、40Gyの軟X線を照射したのち96well plateで、その後、ヒトリコンビナントBMP2、アスコルビン酸、インシュリン存在下で接着培養を2日間培養したのち細胞増殖をナカライ社製の細胞数測定試薬セルカウントリージェントを用いて細胞のヴァイアビリティを検証した。結果を図21に示す。
【0068】
実施例19
日油株式会社製のリピジュア コート プレート(A-U96)を用いてヒトiPS細胞2000個/wellをマウスリコンビナントTGFβ、ヒトリコンビナントBMP2存在下で浮遊培養をおこない胚様体を作成した。その後、ヒトリコンビナントBMP2、アスコルビン酸、インシュリン存在下で接着培養を15日間行い軟骨前駆細胞を作成した。Platinum レトロウイルス発現システムを用いて作成した分泌型ルシフェラーゼ(MetLuc2)あるいはGFP発現レトロウイルスベクターを軟骨前駆細胞に感染させたのち5日間培養を行った。培養5日目に20Gyの軟X線を照射した群と照射していない群を作成した。ヒトiPS細胞由来軟骨細胞を5x106個を免役不全マウス(SCIDマウス)の皮下に移植した。1日目、7日目、14日目、21日目、28日目に血清を採取して、分泌型ルシフェラーゼを測定した。結果を図23に示す。
【0069】
実施例20
C57BL/6マウスの皮下にマウスメラノーマB16株を5x105個を移植した。7日後に腫瘍の形成を確認し、Platinum レトロウイルス発現システムを用いて作成したマウスIL-12遺伝子発現レトロウイルスベクターを感染させたマウスiPS細胞由来軟骨細胞を5x106個を移植した。腫瘍移植後2日毎に腫瘍の長径と短径を測定し、その数値より体積を算出した。算出には「体積=(長径×短径)/2」という式を用いた。結果を図25に示す。
【0070】
実施例21
C57BL/6マウスの皮下にマウスメラノーマB16株を5x105個を移植した。7日後に腫瘍の形成を確認し、Platinum レトロウイルス発現システムを用いて作成したマウスIL-12遺伝子発現レトロウイルスベクターを感染させたマウスiPS細胞由来軟骨細胞を5x105個を移植した。腫瘍移植後の生存率を検討した。結果を図26に示す。
【0071】
実施例22
C57BL/6マウスの皮下にマウスメラノーマB16株を5x105個を移植した。7日後に腫瘍の形成を確認し、Platinum レトロウイルス発現システムを用いて作成したマウスIL-12遺伝子を挿入したレトロウイルスベクターを感染させたマウスiPS細胞由来の軟骨細胞を5x106個を移植した。2日後に脾細胞を採取しエフェクター細胞とした。Cr51で標識したYac1細胞をターゲット細胞として100対1の割合で混合し37℃ 5%CO2の条件で4時間培養した。培養上清を回収しγカウンターでγ線量を測定し、その数値から腫瘍特異的殺細胞効果であるCTL細胞活性を算出した。結果を図29に示す。
【0072】
実施例23
C57BL/6マウスの皮下にマウスメラノーマB16株を5x105個を移植した。7日後に腫瘍の形成を確認し、Platinum レトロウイルス発現システムを用いて作成したマウスIL-12遺伝子を挿入したレトロウイルスベクターを感染させたマウスiPS細胞由来の軟骨細胞を5x105個を移植した。16日後に脾細胞を採取し、マイトマイシン処理したB16細胞と2ng/mlのマウス・リコンビナントIL-2存在下で3日間、共培養を行いエフェクター細胞とした。Cr51で標識したB16細胞をターゲット細胞として100対1の割合で混合し37℃ 5%CO2の条件で4時間培養した。培養上清を回収しγカウンターでγ線量を測定し、その数値から腫瘍非特異的殺細胞効果であるNK細胞活性を算出した。結果を図32に示す。
【0073】
実施例24
Cell BioLabs社製のパッケージング細胞platGPにヒトSox9遺伝子、マウスKlf4遺伝子、マウスcMyc遺伝子、オワンクラゲ由来のGFP遺伝子をCell BioLabs社製pMXs puro vector組み込んだプラスミドベクターと同じくCell BioLabs社製pCMV.VSVをRosh社製Fugene6を用いて共導入した。導入2日後に培養上清を回収し、終濃度4μg/mlのポリブレンを添加したのちマウス胎仔繊維芽細胞に感染させた。感染9日目にアルシアンブルー染色を行った。結果を図34に示す。
【0074】
実施例25
platGPにマウスIL-12遺伝子、ホタル由来の分泌型ルシフェラーゼ(MetLuc2)遺伝子、pMXs puro vector組み込んだプラスミドベクターとpCMV.VSVとFugene6を用いて共導入しマウスIL-12、MetLuc2、GFP 遺伝子を組み込んだレトロウイルスベクターを作成した。作成したレトロウイルスベクターを10cm培養皿に前日に5×105/Dishの細胞数で蒔き直した分化誘導中の脱分化軟骨細胞に、最初の遺伝子導入後12日目に感染させた。2回目感染の2日後にGFP遺伝子を導入した細胞について蛍光観察とアルシアンブルー染色を行った。結果を図35に示す。
【0075】
実施例26
2回目感染後13日目の細胞よりトータルRNAをFujiFilm社製のQuickGene RNA培養細胞キットを用いて回収したのちアプライドバイオシステム社製のHigh Capacity RNA to cDNAキットを用いてcDNAを合成した。その後、軟骨細胞特異的マーカー遺伝子であるアグリカンとタイプIIコラーゲン遺伝子をターゲットとするTaqManプローブ・プライマーセットを用いて、リアルタイムRT-PCRを行った。結果を図37に示す。
【0076】
実施例27
マウスIL-12を組み込んだレトロウイルスベクターを作成した。作成したレトロウイルスベクターを10cm培養皿に前日に5×105/Dishの細胞数で蒔き直した分化誘導中の脱分化軟骨細胞に、hSOX9、mKlf4、mMyc遺伝子を組み込んだレトロウイルスベクターを感染後12日目に感染させた。それから5日間、10%ウシ胎仔血清を含むdMEMで培養したのち、24wellプレートに3.3x104の1 wellあたり細胞数で蒔いた。培地の交換を1日目、3日目、5日目に行った。細胞に対して20Gyの軟X線を照射した群と照射しない群を作成した。照射後2日目、4日目、6日目に培養上清を回収して、ELISAによるマウスIL-12の測定を行った。結果を図39に示す。
【0077】
実施例28
分泌型ルシフェラーゼ遺伝子を組み込んだレトロウイルスベクターを作成した。作成したレトロウイルスベクターを10cm培養皿に前日に5×105/Dishの細胞数で蒔き直した分化誘導中の脱分化軟骨細胞に、hSOX9、mKlf4、mMyc遺伝子を組み込んだレトロウイルスベクターを感染後12日目に感染させた。それから5日間、10%ウシ胎仔血清を含むdMEMで培養したのち、24wellプレートに3.3x104の1 wellあたり細胞数で蒔いた。培地の交換を1日目、3日目、5日目に行った。細胞に対して20Gyの軟X線を照射した群と照射しない群を作成した。照射後2日目、4日目、6日目に培養上清を回収して、ルシフェラーゼアッセイを行った。結果を図40に示す。
【0078】
実施例29
分泌型ルシフェラーゼ遺伝子を組み込んだレトロウイルスベクターを作成した。作成したレトロウイルスベクターを10cm培養皿に前日に5×105/Dishの細胞数で蒔き直した分化誘導中の脱分化軟骨細胞に、hSOX9、mKlf4、mMyc遺伝子を組み込んだレトロウイルスベクターを感染後12日目に感染させた。それから5日間、10%ウシ胎仔血清を含むdMEMで培養したのち、2x106細胞をC57BL/6マウス皮下に移植して2日後に血清を回収して、ルシフェラーゼアッセイを行った。結果を図42に示す。
【0079】
実施例30
日油株式会社製のリピジュア コート プレート(A-U96)を用いてヒトiPS細胞2000個/wellをマウスリコンビナントTGFβ、ヒトリコンビナントBMP2存在下で浮遊培養をおこない胚様体を作成した。その後、ヒトリコンビナントBMP2、アスコルビン酸、インシュリン存在下で接着培養を15日間行い軟骨前駆細胞を作成した。Platinum レトロウイルス発現システムを用いて作成したマウスIL-21発現レトロウイルスベクターを軟骨前駆細胞に感染させたのち培養2日目に20Gyの軟X線を照射した群と照射していない群を作成した。照射後24時間培養し上清を回収した。e-Bioscience社製mIL-21FlowCytemix Simplex Kitを用いて染色したのち、ベクトン・ディッキンソン社製のフローサイトメーターFacsCaliburを用いて上清中のmIL-21のタンパク濃度を測定した。結果を図44に示す。
【0080】
実施例31
マウスの脾臓細胞を10%ウシ胎仔血清を添加したRPMI1640 培地に縣濁後、Sino Biological Inc.社製 Recombinant Influenza H1N1 HA (A/Puerto Rico/8/1934)を添加して5日間培養した。脾臓細胞から総 RNAを抽出し逆転写反応を行ってcDNAを合成した。免疫グロブリンの重鎖のcDNA配列を、VHプライマー(5’-gaggtgaagctggtggagtc)とJHプライアー(5’-tgcagagacagtgaccagag)を用いてPCRを行って増幅し、また軽鎖のcDNA配列を、Vκプライマー(5’-gacattgtgatgacacagtc)とJκプライアー(5’-tttcagctccagcttggtcc)を用いてPCRを行って増幅した。得られたフラグメントをリンカーでつないでNew England Biolabs社製のベクターに挿入し、大腸菌HB101を形質転換した。得られたコロニーのうち96クローンをピックアップして培養した。16時間培養したのち集菌した。
【0081】
これら96クローンの形質転換株に対して、以下のスクリーニングを行った。
Recombinant Influenza H1N1 HA (A/Puerto Rico/8/1934)を1μg/mlの濃度で96ウェルプレートに4℃ オーバーナイトでコーティングした。PBSで洗浄後、ナカライテスク社製のBrockingOneを100μl/wellを添加して室温で60分間ブロッキングを行った。その後、PBSで洗浄し、そこに各菌の抽出液を添加して37℃60分静置して反応させた。PBSで洗浄後New England Biolabs社製のHRP conjugated anti MBP(×2000)を37℃ 60分静置して反応させた。PBSで洗浄後R&Dシステムサイエンス社製の発色試薬を反応させたのち、H2SO4を添加して反応を停止した。プレートリーダーを用いて吸光度を測定した。
もっとも吸光度の高かった1クローンを、antiHA/PR8として以後の実験に用いた。
【0082】
上記で得られたantiHA/PR8の菌体よりキアゲン社製 エンドフリーMaxi Prepキットを用いてプラスミドを採取した。得られたプラスミドのMaltose結合タンパク質遺伝子の上流にpreprotrypsin (PPT) leader sequence配列を挿入し、大腸菌HB101を形質転換した。培養後、プラスミドを回収し、制限酵素処理で構築を確認した。PPTの上流のセンスプライマーと、抗体遺伝子の下流のアンチセンスプライマーを用い、東洋紡社製の酵素、KODplusNeoを用いて、分泌シグナル・Maltose結合タンパク質遺伝子・抗体遺伝子配列部位をPCRで増幅した。そのPCR産物をレトロウイルスベクタープラスミドpMXspuroに挿入し、antiHA/PR8レトロウイルスベクタープラスミドを構築した。
【0083】
このantiHA/PR8レトロウイルスベクタープラスミドから、以下のようにレトロウイルスを作成した。
【0084】
Cell BioLabs社製のパッケージング細胞platGPに、antiHA/PR8レトロウイルスベクタープラスミドと、pCMV.VSVをRosh社製Fugene6を共導入した。導入2日後に培養上清を回収し、終濃度4μg/mlのポリブレンを添加して、以下の感染実験に用いた。
【0085】
日油株式会社製のリピジュア コート プレート(A-U96)を用いてヒトiPS細胞2000個/wellをマウスリコンビナントTGFβ、ヒトリコンビナントBMP2存在下で浮遊培養をおこない胚様体を作成した。その後、ヒトリコンビナントBMP2、アスコルビン酸、インシュリン存在下で接着培養を15日間行い軟骨前駆細胞を作成した。
【0086】
上記で得られたantiHA/PR8発現レトロウイルスベクターを軟骨前駆細胞に感染させたのち2日間培養を行った。培養1日目に20Gyの軟X線を照射した群と照射していない群を作成し、その24時間後の培養上清を回収した。
【0087】
培養上清中のantiHA/PR8抗体を、以下の方法で測定した。
【0088】
Recombinant Influenza H1N1 HA(PR8)を1μg/mlの濃度で96well plateに4℃ オーバーナイトでコーティングした。PBSで洗浄後、ナカライテスク社製のBrockingOneを100μl/wellを添加して室温で60分間ブロッキングを行った。その後、PBSで洗浄し、そこに回収した培養上清を添加して37℃ 60分静置して反応させた。PBSで洗浄後New England Biolabs社製のHRP conjugated anti MBP(×2000)を37℃ 60分静置して反応させた。PBSで洗浄後R&Dシステムサイエンス社製の発色試薬を反応させたのち、H2SO4を添加して反応を停止した。プレートリーダーを用いて吸光度を測定して検討した。
結果を図46に示す。
【0089】
実施例32
日油株式会社製のリピジュア コート プレートを用いてマウスiPS細胞をLIF非存在下で浮遊培養をおこない胚様体を作成した。その後、レチノイン酸存在下で接着培養を10日間行い筋芽細胞の前駆細胞を誘導した。Platinum レトロウイルス発現システムを用いて作成したGFP発現レトロウイルスベクターを筋芽細胞の前駆細胞に感染させたのち2日間培養し、筋芽細胞を分化誘導した。筋芽細胞におけるGFPの発現を蛍光顕微鏡で確認した。これにより、iPS細胞から分化誘導した軟骨細胞以外の体細胞も本発明で用いられることがわかる。
【0090】
実施例33
日油株式会社製のリピジュア コート プレート(A-U96)を用いてヒトiPS細胞をLIF非存在下で浮遊培養をおこない胚様体を作成した。その後、レチノイン酸存在下で接着培養を10日間行い筋芽細胞の前駆細胞を誘導した。Platinum レトロウイルス発現システムを用いて作成したGFP発現レトロウイルスベクターを筋芽細胞の前駆細胞に感染させたのち2日間培養し、筋芽細胞を分化誘導した。筋芽細胞におけるGFPの発現を蛍光顕微鏡で確認した。これにより、iPS細胞から分化誘導した軟骨細胞以外の体細胞も本発明で用いられることがわかる。
【0091】
実施例34
日油株式会社製のリピジュア コート プレート(A-U96)を用いてヒトiPS細胞2000個/wellをマウスリコンビナントTGFβ、ヒトリコンビナントBMP2存在下で浮遊培養をおこない胚様体を作成した。その後、ヒトリコンビナントBMP2、アスコルビン酸、インシュリン存在下で接着培養を15日間行い軟骨前駆細胞を作成した。Platinum レトロウイルス発現システムを用いて作成した分泌型ルシフェラーゼ(MetLuc2)あるいはmIL-12発現レトロウイルスベクターを軟骨前駆細胞に感染させたのち5日間培養を行った。培養5日目に20Gyの軟X線を照射した。ヒトiPS細胞由来軟骨細胞を5x106個を免役不全マウス(SCIDマウス)の皮下に移植した。移植後90日目に腫瘍が形成されているか否かを調べた。
結果を図47に示す。
図1
図2
図3A
図3B
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]