(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5963712
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】粉体塗装方法
(51)【国際特許分類】
B05D 1/32 20060101AFI20160721BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
B05D1/32 E
B05D7/24 301A
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-130558(P2013-130558)
(22)【出願日】2013年6月21日
(65)【公開番号】特開2015-3306(P2015-3306A)
(43)【公開日】2015年1月8日
【審査請求日】2015年8月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000117009
【氏名又は名称】旭サナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087538
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 和久
(74)【代理人】
【識別番号】100085213
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 洋
(72)【発明者】
【氏名】海住 晴久
【審査官】
北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭61−078453(JP,A)
【文献】
特開平09−141185(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00−7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治具装着工程において被塗装物にマスキング治具を装着した後、塗装工程においてマスキング治具を装着した被塗装物に粉体塗料を塗布し、脱荷工程において塗装後に被塗装物からマスキング治具を取り外し、次いで、脱荷したマスキング治具を治具装着工程に戻して再利用する際に、脱荷したマスキング治具を被塗装物に装着し、その後、塗装工程においてマスキング治具を装着した被塗装物に粉体塗料を塗布する前に、治具清掃工程においてマスキング治具を被塗装物に装着した状態でマスキング治具の外面に付着する粉体塗料を取り除くことを特徴とする粉体塗装方法。
【請求項2】
前記治具清掃工程を行う清掃ブースを、塗布工程を行う塗装ブースと別個に設けたことを特徴とする請求項1記載の粉体塗装方法。
【請求項3】
マスキング治具を被塗装物に装着した状態で行うマスキング治具の治具清掃工程を、塗装工程を行う塗装ブース内で、粉体塗料を塗布する前に行うことを特徴とする請求項1記載の粉体塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被塗装物にマスキング治具を装着して粉体塗料を吹き付け、マスキング治具の装着部分を未塗装部分として残す粉体塗装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
粉体塗装は有機溶剤を含まず、被塗装物に付着しなかったオーバースプレー粉を回収して再使用することができるので、環境にやさしい塗装として、近年多くの製品に採用されている。
【0003】
当初はガードレール、照明器具等の道路資材から始まり、冷蔵庫、エアコンの室外機、学校の椅子や机の塗装、あるいは、ワイパー、コイルスプリング、ナンバープレート等の車部品の塗装にも多く採用されている。最近では、車体ボディーのトップクリアーにも粉体塗装が使用されている。
【0004】
ところで、被塗装物の中には、ネジ部分やアース部分など、塗装面の一部を未塗装状態のままで残しておくことが要求される場合ある。
粉体塗装によって未塗装部分を部分的に残して塗装を行う場合、未塗装部分に粉体塗料が付着しないように、未塗装部分にマスキング治具を装着している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−170088号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、
図9に示すように、本体部分1aから棒状の未塗装部分1bが突き出た被塗装物1を、粉体塗装する場合には、パイプ型のマスキング治具2を使用し、次の工程で塗装を行っている。
【0007】
まず、マスキング治具2を被塗装物1に装着する治具装着工程Aにおいて、被塗装物1にマスキング治具2を装着する。
図9に示す例では、パイプ型のマスキング治具2内に、本体部分1aから突き出た塗装を行わない棒状の未塗装部分1bを挿し入れて、被塗装物1にマスキング治具2を装着する。
【0008】
マスキング治具2は、コンベアハンガー3に複数個設置されている。
【0009】
次いで、マスキング治具2を装着した被塗装物1は、コンベアハンガー3によって塗装ブース4内に送られ、塗装ブース4内での塗装工程Cにおいて、被塗装物1にマスキング治具2を装着した状態のまま、塗装ガン5によって、粉体塗料を塗布し、本体部分1aに粉体塗料を付着させる。
【0010】
この後、コンベアハンガー3によって、脱荷工程Dに送られ、被塗装物1からマスキング治具2を取り外し、被塗装物1の取り出しが行われる。
【0011】
脱荷工程Dにおいて取り出した被塗装物1は、焼付け乾燥炉6に送られ、本体部分1aに付着した粉体塗料の焼付けを行う。
【0012】
ところで、脱荷工程Cにおいて、被塗装物1を取り出したマスキング治具2は、再利用するために、コンベアハンガー3によって治具装着工程Aに戻されるが、マスキング治具2の外面には、塗装工程Cにおいて粉体塗料が付着して汚れているため、治具装着工程Aに戻される前に、マスキング治具2の外面をエアーブロー装置7によって清掃する治具清掃工程Bを経て、治具装着工程Aに戻される。
【0013】
ところが、例えば、パイプ型のマスキング治具2の外面を、治具清掃工程Bにおいてエアーブロー装置7によって清掃した場合、エアーブローによって吹き飛ばされた粉体塗料が、パイプ型のマスキング治具2のマスク部分であるパイプの内側に入り込み、その後、治具装着工程Aにおいて、パイプ型のマスキング治具2内に、被塗装物1の棒状の未塗装部分1bを挿し入れると、パイプ型のマスキング治具2内の粉体塗料が棒状の未塗装部分1bに付着し、未塗装部分1bが粉体塗料によって汚染される。
【0014】
未塗装部分1bに粉体塗料が付着して汚染されると、その後に、付着した粉体塗料を除去する必要が生じる。
【0015】
そこで、この発明は、治具清掃工程においてマスキング治具を清掃する際に、マスキング面に粉体塗料が付着しないようにして、マスキング治具による未塗装部分の汚染を防止することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記の課題を解決するために、この発明は、被塗装物にマスキング治具を装着する治具装着工程と、マスキング治具を装着した被塗装物に粉体塗料を塗布する塗装工程と、塗装後に被塗装物からマスキング治具を取り外し、被塗装物を取り出す脱荷工程と、脱荷したマスキング治具の外面に付着する粉体塗料を取り除く治具清掃工程とを備え、脱荷したマスキング治具を治具装着工程に戻して再利用する粉体塗装方法において、前記治具清掃工程におけるマスキング治具の清掃を、治具装着工程において被塗装物にマスキング治具を装着した後に、マスキング治具を装着した状態で行うようにしたものである。
【0017】
マスキング治具に被塗装物を装着した状態で、エアーブロー装置等を使用してマスキング治具の清掃を行うと、マスキング治具のマスキング面が被塗装物によって塞がれ、マスキング面への粉体塗料の侵入を防止することができる。
【0018】
そして、治具清掃工程において、粉体塗料が飛び散って被塗装物の塗装面に付着しても、付着する粉体塗料は、その後の塗装工程における粉体塗料と同じ塗料であるため、塗装不良の問題が生じない。
【発明の効果】
【0019】
この発明の粉体塗装方法は、以上のように、治具清掃工程を、マスキング治具に被塗装物を装着した状態で行うことにより、マスキング面への粉体塗料の付着を防止することができるので、マスキング治具による未塗装部分の汚染をなくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】この発明に係る粉体塗装方法の被塗装物にマスキング治具を装着し、コンベアハンガーに吊るした状態を示す概略図である。
【
図2】この発明に係る粉体塗装方法の工程図である。
【
図3】この発明に係る粉体塗装方法の工程を示す概略平面図である。
【
図4】この発明に係る粉体塗装方法の治具清掃工程における清掃ブースの側面図である。
【
図5】この発明に係る粉体塗装方法の塗装工程における塗装ブースの側面図である。
【
図6】この発明に係る粉体塗装方法の被塗装物の別例を示す斜視図である。
【
図7】
図6の被塗装物にマスキング治具を装着した状態を示す断面図である。
【
図8】
図6の被塗装物に装着するマスキング治具の別例を示す断面図である。
【
図10】従来の粉体塗装方法の工程を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0022】
まず、計測用のマイクロメーター本体を、被塗装物11とする粉体塗装方法について説明する。
【0023】
被塗装物11である計測用のマイクロメーターは、
図1に示すように、塗装を行う本体部分11aと、この本体部分11aから突き出した棒状の未塗装部分11bとからなり、本体部分11aの粉体塗装を行う際には、棒状の未塗装部分11bにマスキング治具12を装着し、棒状の未塗装部分11bに粉体塗料が付着しないようにしている。
【0024】
棒状の未塗装部分11bをマスキングするマスキング治具12は、棒状の未塗装部分11bを収容するパイプ部12aを有する。
【0025】
このパイプ部12aを有するマスキング治具12は、コンベアハンガー13に複数個設置されており、コンベアハンガー13によって、
図2及び
図3に示すように、治具装着工程A、治具清掃工程B、塗装工程C、脱荷工程Dへと順次移送され、脱荷工程Dを経て治具装着工程Aに戻され、循環再利用される。
【0026】
棒状の未塗装部分11bを収容するマスキング治具12のパイプ部12aは、棒状の未塗装部分11bよりも長く形成されている。
【0027】
マスキング治具12のパイプ部12aの底部には、パイプ部12aに挿し入れた棒状の未塗装部分11bを取り出す脱荷工程Dの際に、被塗装物11を把持する把持アーム14が、塗装された本体部分11aではなく、棒状の未塗装部分11bを把持できるように、パイプ部12aの下部に、棒状の未塗装部分を上方へ押し上げる押し上げ棒12bが設置されている。マスキング治具12のパイプ部12aから被塗装物11を取り出す際に、パイプ部12aの下部の押し上げ棒12bを押し上げて、マスキング治具12のパイプ部12aから棒状の未塗装部分11bの上部を露出させ、この露出した棒状の未塗装部分11bを把持アーム14によって把持することにより、塗装された本体部分11aの塗装面の把持アーム14による傷つけを防止している。
【0028】
把持アーム14によってマスキング治具12から取り外した被塗装物11は、
図3に示すように、把持アーム14を旋回させて、焼き付け乾燥炉15に送り、塗装面を焼き付けることにより、本体部分11aの塗装が完了する。
【0029】
マスキング治具12は、前記のように、脱荷工程Dを経て循環再利用されるが、マスキング治具12の外面には、塗装工程Cにおいて粉体塗料が付着しているため、再利用する際には、マスキング治具12の外面を清掃する必要がある。
【0030】
従来、このマスキング治具12の外面の清掃は、脱荷工程Dで被塗装物11を取り出した後に、治具清掃工程Bに送られてエアーブロー装置16によって行っている。そして、エアーブロー装置16によってマスキング治具12の外面に付着した粉体塗料を除去した後に、治具装着工程Aに送って、マスキング治具12のパイプ部12aに、棒状の未塗装部分11bを挿し入れるようにしていた。
【0031】
ところが、脱荷工程Dで被塗装物11を取り出した後に、治具清掃工程Bに送ってエアーブロー装置16によってマスキング治具12のパイプ部12aの外面に付着した粉体塗料を吹き飛ばして清掃を行うと、吹き飛ばされた粉体塗料がパイプ部12a内に侵入し、パイプ部12aの内面に粉体塗料が付着することがある。
【0032】
この状態で、マスキング治具12のパイプ部12aに、被塗装物11の棒状の未塗装部分11bを挿し入れると、マスキング治具12のパイプ部12a内に付着した粉体塗料が被塗装物11の棒状の未塗装部分11bに付着して、棒状の未塗装部分11bを汚染するという塗装不良の問題が生じる。
【0033】
このため、この発明では、脱荷工程Dで被塗装物11を取り出した後、治具清掃工程Bに送る前に、治具装着工程Aに送り、マスキング治具12のパイプ部12aに新たな被塗装物11の棒状の未塗装部分11bを挿し入れ、マスキング治具12を被塗装物11に装着している。
【0034】
そして、被塗装物11を装着した状態で、マスキング治具12を治具清掃工程Bに送り、マスキング治具12の外面に付着した粉体塗料を、エアーブロー装置16によって吹き飛ばして清掃を行っている。この清掃の際に、吹き飛ばされた粉体塗料が、被塗装物11の本体部分11aに付着しても、付着する粉体塗料は、その後の塗装工程Cにおける粉体塗料と同じ塗料であるため、塗装不良の問題が生じない。一方、マスキングを行うパイプ部12aは、被塗装物11の棒状の未塗装部分11bが挿し入れられて、被塗装物11によって蓋された状態になるため、パイプ部12a内への粉体塗料の侵入を防止することができる。
【0035】
図4は、治具清掃工程Bにおける清掃ブース17の側面図であり、清掃ブース17の背面には、集塵ダクト18が設置され、エアーブロー装置16によって、マスキング治具12の外面に付着した粉体塗料を吹き飛ばし、集塵ダクト18によって粉体塗料を集塵するようにしている。集塵ダクト18の下方には、除去した粉体塗料に含まれるゴミを取り除く精選装置の篩網19が設置され、篩網19を通過した回収粉は、下方の回収タンク20に集められ、再利用される。
【0036】
図5は、塗装工程Cにおける塗装ブース21の側面図であり、清掃ブース17と同様に、塗装ブース21の背面には、集塵ダクト22が設置され、塗装ガン23から吹き付けられた粉体塗料のオーバースプレー粉を集塵ダクト22によって回収するようにしている。
【0037】
集塵ダクト22の下方には、粉体塗料に含まれるゴミを取り除く精選装置の篩網26が設置され、篩網26を通過した回収粉は、下方の回収タンク24に集められ、再利用される。
【0038】
塗装ブース21に設置された塗装ガン23は、レシプロ装置により上下動するように設置されている。また、塗装ブース21内には、マスキング治具12やコンベアハンガー13への粉体塗料の付着を少なくするためのカバー25が設置されている。塗装ブース21内では、マスキング治具12を装着した被塗装物11は、コンベアハンガー13によって回転しながら移動し、被塗装物11の全周に粉体塗料が付着するようにしている。
【0039】
次に、
図6は、被塗装物の別の例である。
図6の被塗装物11は、例えば、アルミニウム製の精密加工部品であり、下面の平坦部と穴部が未塗装部分11bになっている。この未塗装部分11bに粉体塗料が付着すると、精密機械を組み込む際の支障がでるため、塗装の際に、平坦部と穴部の未塗装部分11bに粉体塗料が付着しないようにマスキングが行われる。
【0040】
前記平坦部と穴部の未塗装部分11bをマスキングするマスキング治具12は、
図7に示すように、平坦面を載置するマスキング板12cと、穴部に挿入されるシリコンゴム製のマスキング材12dとからなる。
【0041】
この発明では、マスキング治具12を被塗装物11に装着した状態、即ち、マスキング板12cに被塗装物11を載置すると共に、被塗装物11の穴部にマスキング材12dを詰めた状態で、塗装前に、治具清掃工程Bにおいてエアーブローによって清掃を行う。
【0042】
この治具清掃工程Bにおけるエアーブローを、塗装工程Cの塗装ブース21内で行うようにすると、清掃ブース17を省略することができるので、省エネと省スペース化が図れる。
【0043】
また、前記マスキング板12cと被塗装物11の平坦部との間への粉体塗料の侵入をより高度に防止するために、
図8に示すように、マスキング板12cと被塗装物11の平坦部との間にリンスエアーを注入するための、マスキング板12cにリンスエアー通路27を形成するようにしてもよい。
図8の矢印は、リンスエアーの流れを示している。
【符号の説明】
【0044】
11 被塗装物
11a 本体部分
11b 未塗装部分
12 マスキング治具
12a パイプ部
12b 押し上げ棒
12c マスキング板
12d マスキング材
13 コンベアハンガー
14 把持アーム
15 焼き付け乾燥炉
16 エアーブロー装置
17 清掃ブース
18 集塵ダクト
19 篩網
20 回収タンク
21 塗装ブース
22 集塵ダクト
23 塗装ガン
24 回収タンク
25 カバー
26 篩網
27 リンスエアー通路
A 治具装着工程
B 治具清掃工程
C 塗装工程
D 脱荷工程