(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記カバー部材は、先端に開口部と、基端に底部が設けられ、前記胴部のほぼ全体を覆う筒状の本体部と、該本体部に対して着脱自在に装着され、前記口部を覆う蓋部とを有する請求項7に記載の薬剤収納容器。
前記難変形部は、大開口部が形成され、該大開口部を封止するように易変形部が接合される第1の壁部と、該第1の壁部の前記カバー部材の軸方向と平行な端部同士を繋ぎ、前記カバー部材の内周面に沿って湾曲した第2の壁部とを有し、
前記容器本体離脱防止部材は、リング状をなしており、その内周部に突出し、前記第1の壁部と当接する当接部が設けられた突片を有し、
前記回転防止部は、前記突片から構成されている請求項14に記載の薬剤収納容器。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の薬剤収納容器を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0021】
<第1実施形態>
図1は、本発明の薬剤収納容器(第1実施形態)の初期状態を示す斜視図、
図2は、
図1に示す薬剤収納容器の分解斜視図、
図3は、
図1に示す薬剤収納容器での容器本体の溶解液充填状態を示す斜視図、
図4は、
図1中のA−A線断面図、
図5は、
図3中のB−B線断面図である。
【0022】
なお、以下では、説明の都合上、
図1〜
図12中の上側を「先端」、「上」または「上方」、下側を「基端」、「下」または「下方」と言う。
【0023】
図1に示す薬剤収納容器1は、中空の容器本体2と、容器本体2を覆うカバー部材8と、カバー部材8の基端に装着されたシート材9と、容器本体2内に収納された粉末状の薬剤Qとで構成されている。
【0024】
薬剤Qは、薬剤収納容器1が
図1および
図4に示す初期状態(未使用状態)で、予め容器本体2に収納されている。この薬剤Qは、例えばシリンジ(図示せず)から容器本体2の口部7を介して充填された溶解液Rによって溶解される。以下、薬剤Qが溶解液Rによって溶解されたものを「薬液P」と言う。また、容器本体2に溶解液Rが充填された
図3および
図5に示す状態を「溶解液充填状態」と言う。
【0025】
容器本体2は、筒状の胴部3と、胴部3の先端側に設けられた口部7とで構成されている。胴部3には、その基端開口(口部7の反対側の開口)を塞ぐように底部4が設けられている。また、胴部3の内部空間は、薬剤Qを収納する収納空間31となっている。
【0026】
以下の説明では、特に断らない限り、「初期状態」についてのものを言う。なお、初期状態での収納空間31の容積は、特に限定されないが、例えば、5〜80mLであるのが好ましく、10〜50mLであるのがより好ましい。
【0027】
胴部3は、収納空間31に溶解液Rが充填された際に、変形しないか変形し難い難変形部(硬質部)32と、変形することにより収納空間31の容積を増大させる易変形部(反転部)33とを備えている。また、胴部3では、その大部分を難変形部32が占めており、残りの部分を易変形部33が占めている。
【0028】
本実施形態では、難変形部32と易変形部33とは、別部材で構成され、例えば、融着、接着剤による接着等により互いに接合されている。かかる構成とすることにより、難変形部32および易変形部33が、それらの機能を確実に発揮し得るように、各部の構成や構成材料を選択することができる。
【0029】
難変形部32は、底部4と口部7とを接続する機能を有する部分であり、平板状の第1の壁部32aと、第1の壁部32aの左辺と右辺とを繋ぎ、すなわち、カバー部材8の軸方向と平行な端部同士を繋ぎ、カバー部材8の内周面に沿って湾曲した第2の壁部32bとが一体的に形成されている。従って、難変形部32の上面視(または下面視)での外形形状は、D字状をなしている。なお、第1の壁部32aと第2の壁部32bとは、難変形部32の上面視(または下面視)での外形形状が閉じた形状となるように形成されていればよい。そのため、第2の壁部32bは、その上面視(または下面視)での外形形状が、例えばコの字状であってもよい。
【0030】
第1の壁部32aの中央部には、大開口部320が形成されている。この大開口部320に易変形部33が挿入され、易変形部33の接合部330となる縁部が第1の壁部32aの外面に接合、固定されている。つまり、大開口部320を封止するように易変形部33が接合されている。
【0031】
難変形部32は、できる限り変形し難いように、硬質材料で構成されている。かかる硬質材料としては、例えば、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)のような環状ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートのようなポリエステル等の各種樹脂材料、各種金属材料、各種セラミックス材料が挙げられるが、その中でも、内部の視認性を確保する観点から、各種樹脂材料が好ましく、さらに、環状ポリオレフィン、ポリオレフィンまたはポリエステルがより好ましい。これらの樹脂材料は、成形が容易であり、かつガスバリア性が高いためである。
【0032】
また、難変形部32の内面(収納空間31に臨む面)の性質によっては、この内面に薬剤Qが付着(吸着等)する場合がある。この場合、薬剤収納容器1から取り出された薬液P中の薬剤Qの濃度が、目的とする濃度より低下する。従って、難変形部32は、薬剤Qが付着し難い材料、すなわち、薬剤Qの吸着が少ない低吸着性材料で構成されているのが好ましい。かかる低吸着性材料としては、例えば、環状ポリオレフィン等が挙げられる。
【0033】
以上のようなことを総合的に勘案した場合、難変形部32の構成材料としては、環状ポリオレフィンを主成分とするものが好適である。特に、環状ポリオレフィンは、タンパク質の吸着性が低いことから、かかる薬剤収納容器1は、薬剤Qとしてタンパク質製剤(ペプチド製剤を含む)を収納する容器に最適である。
【0034】
難変形部32の厚さは、特に限定されないが、0.5〜2.5mm程度であるのが好ましく、0.8〜1.5mm程度であるのがより好ましい。これにより、難変形部32の透明性(透光性)を維持しつつ、収納空間31に溶解液Rが充填された際に変形しないか変形し難い程度に十分な強度を確保することができる。
【0035】
なお、薬剤Qが付着するのを防止する観点からは、難変形部32の内面付近のみを、前述した低吸着性材料で構成するようにしてもよい。
【0036】
難変形部32は、別々に射出成形した肩部34と胴部3とを溶着などの手段により接合して製造される。
【0037】
このような難変形部32に対して、易変形部33が固定されている。易変形部33は、全体形状がお椀状をなしており、その縁部に沿って環状の接合部330が形成されている。この接合部330において、易変形部33は、難変形部32に接合、固定されている。
【0038】
図4に示すように、易変形部33は、薬剤収納容器1が起立した起立状態で、薬剤Qよりも上方に位置することとなる。これにより、凍結乾燥された薬剤Qが難変形部32にあるため、輸送時の振動や接触などにより薬剤Qが崩れることを防止できる。また、凍結乾燥の際に、難変形部32の底面(底部4)に充填された薬剤Qがあるため、冷却用の棚板から薬剤Qへの熱伝導性がよくなるという利点もある。
【0039】
図4、
図5に示すように、易変形部33の厚さは、難変形部32の厚さより薄く形成されている。これにより、収納空間31に溶解液Rが充填された際に、難変形部32は変形しないか、ほとんど変形することなく、易変形部33が変形するよう構成されている。すなわち、収納空間31に溶解液Rが充填された際に、易変形部33は、難変形部32よりも優先的に変形するよう構成されている。
【0040】
また、易変形部33は、収納空間31に臨んで設けられた内側層331と、この内側層331の外側(収納空間31と反対側)に接合された外側層332とで構成されている。
【0041】
易変形部33の内面(収納空間31に臨む面)に薬剤Qが付着するのを防止する観点から、内側層331は、好ましくは低吸着性材料で構成されている。これにより、目的とする濃度で薬剤Qを含有する薬液Pを薬剤収納容器1から取り出すことができる。
【0042】
この場合、低吸着性材料(特に、環状ポリオレフィン)は、靭性が比較的低いため、内側層331の厚さを薄く形成すると、溶解液Rの収納空間31内への注入速度等によっては、内側層331にしわやひび、割れが生じるおそれがある。
【0043】
そこで、内側層331に接合して、内側層331を補強する外側層332が設けられている。従って、外側層332は、易変形部33が容易に変形し得るように(十分な可撓性を維持できるように)、薄肉に形成した場合でも、高い靭性を有するものであるのが好ましい。
【0044】
かかる外側層332の構成材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレンのような各種熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0045】
易変形部33の厚さ、すなわち、内側層331と外側層332との合計の厚さは、特に限定されないが、50〜300μm程度であるのが好ましく、100〜200μm程度であるのがより好ましい。これにより、易変形部33は、十分な強度を維持しつつ、高い可撓性(柔軟性)を有することができる。
【0046】
また、内側層331の厚さも、特に限定されないが、5〜80μm程度であるのが好ましく、5〜50μm程度であるのがより好ましい。
【0047】
なお、内側層331と外側層332との間には、任意の目的の層を1つ以上設けるようにしてもよい。かかる目的としては、例えば、内側層331と外側層332との密着性を向上させる目的、易変形部33全体としてのガスバリア性(水蒸気透過性)を向上させる目的等が挙げられる。
【0048】
また、十分な強度および可撓性を有し、かつ、薬剤Qへの親和性の低減が図れる材料を選択した場合には、易変形部33を1層(一部材)で構成することもできる。この場合、例えばブロー成形により、易変形部33と難変形部32とを一体的に形成してもよい。
【0049】
容器本体2の先端側の部分には、収納空間31に溶解液Rを注入したり、収納空間31から薬液Pを排出したりする口部7が配置されている。
図4および
図5に示すように、この口部7には、弾性材料で構成された、自己閉塞性を有する弁体5が装着されている。なお、弁体5の代わりに、針により穿刺することができるゴム栓等であってもよい。
【0050】
口部7は、胴部3の難変形部32の先端部を縮径させるとともに、円筒状に形成した筒状部72と、筒状部72に装着される口部用蓋部73とを備えている。
【0051】
図4および
図5に示すように、筒状部72は、その内部に弁体設置部721が形成されている。この弁体設置部721は、第2の内腔部723と、それより基端側に位置し、第2の内腔部723の内径よりも縮径した第3の内腔部724とに分けることができる。また、第3の内腔部724の内径は、後述する弁体5の胴部55の最大外径より若干大きいのが好ましい。
【0052】
また、筒状部72の底面722の中心部には、管状体で構成された内部突起725が設けられている。口部7にシリンジが接続されて、弁体5が下方に向かって押圧され始めたとき、この内部突起725により、弁体5の内部が支えられて、弁体5に座屈が生じるのを防止することができる。また、溶解液Rが口部7内を通過するに際し、溶解液Rの滞留が生じるのを防ぐことができる。
【0053】
口部用蓋部73は、内部に弁体5を収納する内腔部を有し、筒状部72に連結されるものである。この口部用蓋部73は、例えば、硬質樹脂材料で構成されている。
【0054】
口部用蓋部73の内部には、後述する弁体5の頭部50が挿入可能な第1の内腔部731と、第1の内腔部731に連通し、第1の内腔部731より拡径した嵌合部733とが形成されている。
【0055】
第1の内腔部731は、その形状が弁体5の頭部50の外形に対応するよう形成されている。
【0056】
また、嵌合部733は、筒状部72の外周部に嵌合する部位である。これにより、口部用蓋部73と筒状部72とが液密に連結され、よって、口部7の内部の溶解液Rが口部用蓋部73と筒状部72との間から漏れるのを防止することができる。また、口部用蓋部73と筒状部72とが連結した際、第1の内腔部731と第2の内腔部723とが連通し、第1の内腔部731、第2の内腔部723および第3の内腔部724で形成された空間に弁体5を設置することができる。
【0057】
口部用蓋部73の外周部には、雄ネジ部738が形成されている。雄ネジ部738は、シリンジが口部7に接続される際に、当該シリンジと螺合する部分である。
【0058】
このような構成の口部7では、その内側の内腔部が、溶解液Rが通過可能な流路として機能する。
【0059】
図4および
図5に示すように、口部7には、弁体5が設置されている。弁体5の構成材料としては、例えばイソプレンゴム等のような各種ゴム材料、ポリオレフィン系等の各種熱可塑性エラストマーが挙げられる。このような弾性材料を用いることにより、弁体5の先端面511に適度な弾性を得ることができる。これにより、口部7にシリンジを接続した際、当該シリンジの端面と先端面511とが液密に密着ことができる。
【0060】
弁体5は、管状の胴部55と、胴部55の一端部に一体的に設けられた頭部50とを有している。
【0061】
頭部50は、その形状が有底筒状をなしており、溶解液Rや薬液Pが通過可能な内腔部515と、平面状の先端面511から内腔部515に到達し、開閉可能な開閉部としてのスリット512とが形成されている。
【0062】
このスリット512は、その形状がほぼ一文字状をなしている。スリット512の形状がこのように簡単であることにより、先端面511のスリット512付近を押圧した際に当該先端面511が変形し、よって、スリット512が確実に開口する。また、この押圧を解除した際には、先端面511が復元し、よって、スリット512が確実に閉じる。このように弁体5は、自己閉塞性を有するものである。
【0063】
また、このようなスリット512の作動により、口部7を容易かつ確実に封止/封止解除することができる。
【0064】
また、頭部50は、前述したような押圧力が付与されていないとき、口部用蓋部73の第1の内腔部731に挿入され、スリット512が閉じている。
【0065】
胴部55は、蛇腹状をなす筒状体で構成されている。すなわち、胴部55は、外形において大径リング部552と小径リング部553とが軸方向に交互に配列された蛇腹状をなしている。このような胴部55は、頭部50が口部用蓋部73の第1の内腔部731に挿入される方向に付勢する変形部として機能している。
【0066】
一方、口部7と反対側にある、胴部3の基端開口は、当該胴部3の難変形部32と一体的に形成された底部4により塞がれている。
【0067】
このような構成の胴部3で画成される収納空間31には、薬剤Qが収納されている。薬剤Qとしては、特に限定されないが、例えば、抗がん剤、免疫抑制剤等、医療従事者が誤って触れると危険な薬剤や、抗生剤、止血剤、ホルモン製剤等の使用にあたって溶解が必要な薬剤、小児用の薬剤等の希釈が必要な薬剤、ワクチン、ヘパリン、小児用の薬剤等の複数回取り分ける薬剤等が挙げられる。
【0068】
また、この薬剤Qを溶解する溶解液Rは、前述したようにシリンジを用いて薬剤収納容器1に充填される。溶解液Rとしては、例えば、生理食塩水とすることができる。
【0069】
図1、
図4に示すように、容器本体2は、カバー部材8で覆われている。また、カバー部材8の底部83の中心部には、小さな孔(連通孔831)が開口して形成されており、連通孔831がシート材9で覆われている。換言すれば、容器本体2は、カバー部材8とシート材9とで画成される空間に収納されている。連通孔831は、カバー部材8の側面に形成されていてもよい。
【0070】
また、連通孔831には、気体は通過するが液体および固体は通過しない機能を有するフィルタが設けられていてもよい。これにより、後述するように、変形空間810を開放するためにシート材9を除去した後も、容器本体2の外面に付着した薬剤Qが連通孔831を通じて飛散する可能性をなくすことができる。なお、前記フィルタは、その表面が疎水化処理されているか、または、疎水性膜(疎水膜)であるのが好ましい。前記疎水性膜の構成材料としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルの共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、エチレンとテトラフルオロエチレンの共重合体(ETFE)、エチレンとクロロトリフルオロエチレンの共重合体(ECTFE)、ポリプロピレン(PP)等が挙げられる。
【0071】
このカバー部材8は、容器本体2の胴部3のほぼ全周を覆う筒状の本体部81と、本体部81と一体的に形成され、当該本体部81の基端開口を塞ぐ板状の底部83とを有している。また、本体部81の先端部に対して着脱自在に装着され、容器本体2の口部7を覆う蓋部82とで構成されている。
【0072】
本体部81は、円筒状の部材で構成されている。この本体部81の内寸は、容器本体2の胴部3を抵抗なく本体部81内に挿入可能な程度の大きさに設定されている。本体部81内に容器本体2を収納した状態で、胴部3の第2の壁部32bの外面は、本体部81の内面に近接(または当接)し、第1の壁部32aの外面と本体部81の内面との間には、易変形部33が変形するための変形空間810が形成されている。
【0073】
図5に示すように、溶解液充填状態において、容器本体2の外側に向かって反転するように変形した易変形部33は、この変形空間810に突出する。
【0074】
本体部81の先端縁部には、「D」字状の板片811が、中心軸側に向かって突出して形成されている。本体部81内に容器本体2を収納した状態で、板片811は、胴部3の肩部34に密着し、変形空間810の先端側を封止する。このとき、板片811と胴部3の肩部34とは、ほぼ連続する平滑な面を構成するようになっている(
図1参照)。なお、本体部81を製造する際には、板片811を別体で構成し、当該別体を先端縁部に後から溶着して、本体部81の製造を行なうことができる。
【0075】
また、本体部81の先端部には、その外径が段階的に変化した段差部812が周方向に沿って形成されている。蓋部82を本体部81に装着した状態では、この段差部812に、蓋部82の基端が当接する。これにより、蓋部82の本体部81に対する位置決めがなされる。
【0076】
蓋部82は、有底筒状の部材で構成されている。そして、蓋部82の内部形状が容器本体2の口部7の外部形状に対応するように、蓋部82の内径は、軸方向(上下方向)の途中で多段階に縮径している。
【0077】
このようなカバー部材8(特に、本体部81)は、容器本体2の易変形部33よりも硬度が高い、すなわち、硬質に設定されている。これにより、薬剤収納容器1では、易変形部33が直接外部に露出しないため、易変形部33に不本意に外力が加わるのを防止することができる。このため、比較的強度の弱い易変形部33が破損するのを防止しつつ、容器本体2の収納空間31に溶解液Rを容易に充填して、薬剤Qを確実に溶解し、薬液Pを確実に調製することができる。
【0078】
また、仮に、薬剤Qが、医療従事者が誤って触れると危険な薬剤である場合において、かかる薬剤Qが例えば薬剤収納容器1の製造中に、容器本体2の外面に付着したとしても、カバー部材8で容器本体2が覆われるため、周囲の汚染を防止することや、医療従事者の安全性を確保することができる。
【0079】
カバー部材8の基端には、シート材9が装着されている。このシート材9は、収納空間31に溶解液Rを充填する前に、カバー部材8から除去されるものである。シート材9をカバー部材8から除去することにより、容器本体2とカバー部材8(本体部81)との間に形成される変形空間810を、連通孔831を通じて開放することができる。
【0080】
これにより、変形空間810内への空気の流入および変形空間810内からの空気の流出が阻害されることがなくなり、容器本体2の収納空間31に溶解液Rを注入したり、収納空間31から薬液Pを排出したりする際に、易変形部33が容易かつ確実に反転することができるようになる(
図3〜
図5参照)。
【0081】
また、シート材9の縁部には、外側に向かって突出する耳部91が形成されている。この耳部91を指等で把持することにより、シート材9をカバー部材8から容易に除去することができる。
【0082】
かかるカバー部材8およびシート材9は、ガスバリア性や水蒸気バリア性を有しているのが好ましい。これにより、薬剤収納容器1の保管時等に収納空間31に酸素や水蒸気が侵入するのを防止して、薬剤Qが変質、劣化することを防止することができる。また、カバー部材8がガスバリア性を有している場合、カバー部材8のガスバリア性を確保するために、蓋部82を本体部81に装着した状態では、蓋部82と本体部81との間は、その全周を外側から覆うようにガスバリア性を有する材料でシールするのが好ましい。
【0083】
このようなカバー部材8およびシート材9の構成材料としては、それぞれ、例えば、環状ポリオレフィン、ポリオレフィン、ポリエステル等が挙げられる。また、シート材9は、ポリアミド、アルミなどの金属やシリカの蒸着フィルムで構成することもできる。
【0084】
また、この場合、容器本体2自体(特に、易変形部33)にガスバリア性を付与するのを省略することができるため、易変形部33をより薄肉に形成することが可能である。
【0085】
以上のような薬剤収納容器1では、内部の視認性を確保する観点からは、透明性を有するのが好ましいが、収納される薬剤Qの種類に応じて、遮光性を有するように構成することもできる。
【0086】
次に、薬剤収納容器1の使用方法の一例について説明する。
[1] まず、
図1および
図4に示す初期状態の薬剤収納容器1と、溶解液Rが充填されたシリンジとを用意する。このシリンジには、薬剤収納容器1中の薬剤Qを溶解するのに十分な液量の溶解液Rが充填されている。
【0087】
[2] 次に、シート材9の耳部91を指等で把持し、カバー部材8の本体部81から除去するとともに、本体部81から蓋部82を取り外す。
【0088】
[3] その後、容器本体2の口部7とシリンジとを接続する。このとき、前述したように、口部7の弁体5が基端方向に向かって押圧されて、当該弁体5のスリット512が開状態となる。これにより、容器本体2内とシリンジ内とが連通する。
【0089】
[4] 次に、シリンジの押し子を押圧操作する。これにより、シリンジ内の溶解液Rが容器本体2の口部7を介して容器本体2内に注入され、容器本体2が溶解液充填状態となる(
図3および
図5参照)。
【0090】
このとき、注入された溶解液Rは、徐々に収納空間31を満たしていき、易変形部33を外側に向かって押圧する。これにより、易変形部33が変形し始めて、収納空間31の容積が増大する。そして、所定量以上の溶解液Rが収納空間31を満たすと、易変形部33は、外側に反転する。従って、薬剤収納容器1では、薬剤溶解時に容器本体2内の圧力を調節するためのポンピング操作が不要となる。また、薬剤溶解時に容器本体2内の圧力上昇によって薬液Pが噴出することを防止できる。
【0091】
また、溶解液Rを充填しても、容器本体2の収納空間31の容積が増大するため、当該収納空間31の圧力上昇を抑制することができ、よって、溶解液Rのシリンジへの逆流を防止することができる。また、溶解液Rの充填量は、容器本体2の収納空間31の最大容積以下とすることができる。
【0092】
[5] 次に、シリンジが接続された薬剤収納容器1全体を振盪する。これにより、溶解液Rで薬剤Qがより確実に溶解され、よって、薬液Pが生成(調製)される。
【0093】
[6] 次に、シリンジの押し子を引張り操作する。これにより、薬剤収納容器1内の薬液Pをシリンジ内に吸引することができる。この薬液Pの吸引量は、シリンジの押し子の引張り量に応じて適宜調整することができる。なお、吸引操作する際には、易変形部33が逆に変形することで、容器本体2内の圧力低下を緩和して薬液Pが正確に吸引し易くなる。
【0094】
そして、薬液Pが吸引されたシリンジを、薬剤収納容器1から取り外し、例えば、患者への薬液投与に用いることができる。
【0095】
<第2実施形態>
図6は、本発明の薬剤収納容器(第2実施形態)の初期状態を示す縦断面図である。
【0096】
以下、この図を参照して本発明の薬剤収納容器の第2実施形態について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
【0097】
本実施形態は、主に易変形部の配置箇所が異なること以外は前記第1実施形態と同様である。
【0098】
図6に示す薬剤収納容器1では、容器本体2の筒状の胴部3(難変形部32)の先端開口部を覆うように、易変形部33が設置されている。この易変形部33は、円環状をなす部材で構成されており、その外側の縁部が接合部330となる。
【0099】
また、易変形部33の中心開口部333を、管状の流路部材10が挿通している。流路部材10は、口部7と連通しており、弁体5を通過した溶解液Rが流下することができる部材である。流路部材10の外周部には、その外径が拡径したフランジ部101が突出形成されている。フランジ部101が易変形部33の中心開口部333の縁部が例えば接着(接着剤や溶媒による接着)により接合されている。
【0100】
流路部材10は、容器本体2の底部4付近にまで延在し、その下端部に欠損部102が形成されている。そして、流路部材10を流下した溶解液Rは、欠損部102を介して容器本体2内に供給される。このように、本実施形態の薬剤収納容器1では、溶解液Rが薬剤Qに対してその上方から散布されるように供給されるのが防止される。これにより、得られる薬液Pに泡立ちが生じるのを防止することができる。
【0101】
また、カバー部材8の本体部81は、有底筒状をなす第1の部材813と、第1の部材813の上端部に例えば融着(熱融着、高周波融着、超音波融着等)により接合される第2の部材814とで構成されている。なお、この接合は、本体部81の全周にわたって行われる。これにより、本体部81内の気密性が確保される。
【0102】
第2の部材814は、その上端部が縮径しており、口部7が挿通される。また、第2の部材814の内側で、変形空間810が形成される。
【0103】
蓋部82は、第2の部材814の上端部に着脱自在に装着される。なお、蓋部82を第2の部材814の上端部に装着した状態では、蓋部82と第2の部材814との間は、その全周を外側から覆うようにガスバリア性を有する部材でシールされている。これにより、カバー部材8のガスバリア性が確保される。
【0104】
なお、本実施形態の薬剤収納容器1では、第2の部材814と口部用蓋部73との間の隙間が連通孔として機能し、蓋部82を除去することで変形空間810を開放することができるため、前記第1実施形態の薬剤収納容器1が有するようなシート材9を省略することができる。
【0105】
<第3実施形態>
図7は、本発明の薬剤収納容器(第3実施形態)の初期状態を示す縦断面図、
図8は、
図7に示す薬剤収納容器での溶解液充填状態を示す縦断面図、
図9は、
図7に示す薬剤収納容器が備える易変形部離脱防止部材を示す斜視図、
図10〜
図12は、それぞれ、
図7に示す薬剤収納容器の組立工程を順に説明するための図である。
【0106】
以下、これらの図を参照して本発明の薬剤収納容器の第3実施形態について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
本実施形態は、薬剤収納容器が易変形部離脱防止部材等をさらに備えること以外は前記第1実施形態と同様である。
【0107】
図7、
図8に示すように、本実施形態の薬剤収納容器1は、易変形部離脱部防止部材12、容器本体離脱防止部材13とをさらに備えている。
易変形部離脱部防止部材12は、容器本体2とともに、カバー部材8に収納され、変形空間810を埋めることができる。
図9に示すように、この易変形部離脱部防止部材12は、全体としてかまぼこ状をなす部材で構成され、容器本体2に臨む平坦部121と、平坦部121と反対側、すなわち、カバー部材8の内周部に臨む湾曲部122とを有している。なお、易変形部離脱防止部材12には、その湾曲部122に、成形上のヒケ防止のための凹部を適宜設けてもよい。
【0108】
平坦部121は、易変形部33の接合部330を押さえ付けることができる。そして、溶解液充填状態で容器本体2(胴部3)の易変形部33が膨張した際には、当該易変形部33の接合部330が剥離される方向に引張られるが、平坦部121によりその剥離が確実に防止される。これにより、易変形部33が難変形部32から離脱するのを確実に防止することができる。
【0109】
また、平坦部121には、易変形部33が臨む部分に、凹部123が形成されている。凹部123は、易変形部33が変形するための変形空間であり、溶解液充填状態で膨張した易変形部33の形状とほぼ同じ形状をなす。このような凹部123には、溶解液充填状態で膨張した易変形部33が入り込むことができる(
図8参照)。これにより、易変形部33の過剰な膨張が防止され、よって、易変形部33の破損を確実に防止することができる。また、接合部330に剥離限界を超えるような力が加わるのを確実に防止することができる。
【0110】
また、易変形部離脱部防止部材12と容器本体2とは、互いに係合することができるよう、一方の部材(本実施形態では容器本体2)に突出形成された突部35と、他方の部材(本実施形態では易変形部離脱部防止部材12)に形成された係合溝124とが配置されている。突部35は、容器本体2の第1の壁部32aに配置されている。係合溝124は、易変形部離脱部防止部材12の平坦部121に配置されている。
【0111】
容器本体離脱防止部材13は、容器本体2が易変形部離脱部防止部材12とともにカバー部材8の、有底円筒状で先端に開口部815を有する本体部81に収納された際、容器本体2および易変形部離脱部防止部材12がカバー部材8の本体部81から離脱することを防止する部材である。
図12に示すように、容器本体離脱防止部材13は、リング状の部材で構成され、その外周部である固定部131がカバー部材8の開口部815に嵌合することができる。これにより、容器本体離脱防止部材13がカバー部材8に対して確実に固定される。なお、固定部131の固定方法としては、嵌合に限らず、融着や接着剤による接着等でもよい。
【0112】
また、容器本体離脱防止部材13の基端面は、カバー部材8に収納された容器本体2および易変形部離脱部防止部材12に先端側から係合する係合部134として機能する。これにより、容器本体2内の薬液Pをシリンジ内に吸引するために、カバー部材8ごと容器本体2を上下逆さにした際に、容器本体2および易変形部離脱部防止部材12がカバー部材8から離脱することが防止される。よって、カバー部材8を把持して、薬液Pをシリンジ内に吸引することができる。なお、本実施形態において、容器本体2および易変形部離脱部防止部材12は、係合部134とカバー部材8の底部83とに挟持されている。これにより、容器本体2および易変形部離脱部防止部材12は、カバー部材8に収納された状態で、がたつくことが防止または規制され、輸送時の振動や接触などにより薬剤Qが崩れることを確実に防止することができる。
【0113】
また、容器本体離脱防止部材13の内周部には、突片132が突出形成されている。容器本体離脱防止部材13は、この突片132でカバー部材8と嵌合することができ、この嵌合により、容器本体2のカバー部材8に対する回転を防止することができる。
【0114】
また、容器本体離脱防止部材13の突片132の、第1の壁部32aと当接する当接部135には、溝133が形成されており、易変形部離脱部防止部材12の平坦部121にも、溝125が形成されている(
図9、
図10、
図12参照)。溝133と溝125とは、互いに連通している。これにより、凹部231(変形空間)と外部空間とが連通することとなる。つまり、溝133および溝125は、凹部231(変形空間)と外部空間とを連通する連通部として機能する。
【0115】
また、
図12に示すように、突片132は、第1の壁部32aとカバー部材8の本体部81との隙間のほぼ全体を埋めることができる。これにより、薬剤収納容器1の使用中に使用者が誤って第1の壁部32aに付着した薬剤Qに触れることを防止できる。また、易変形部離脱防止部材12が省略された場合に、薬剤収納容器1の使用中に使用者が誤って凹部123(変形空間)内に指を入れて易変形部33を破損することを防止できる。
【0116】
図11に示すように、容器本体2および易変形部離脱部防止部材12をカバー部材8に収納する際、収納用治具14を用いてその収納が行なわれる。収納用治具14は、貫通孔142が形成された治具本体141を有している。貫通孔142を画成する内周部の上部には、内径が上方に向かって漸増するテーパ部143が形成されている。そして、収納用治具14を使用する際には、まず、テーパ部143よりも上方に、互いに係合し合う容器本体2および易変形部離脱部防止部材12を配置し、テーパ部143よりも下方に、カバー部材8を配置する。次いで、容器本体2および易変形部離脱部防止部材12を下方に移動させると、これら係合し合う部材同士は、一括して、テーパ部143によって、カバー部材8に向かって案内される。これにより、容器本体2および易変形部離脱部防止部材12を容易かつ確実にカバー部材8に挿入することができる。このような挿入は、容器本体2に薬剤Qが付着している場合に、薬剤Qに作業者が誤って触れるのを防止することができ、好ましい。
【0117】
なお、容器本体2の下部および易変形部離脱部防止部材12にも、例えばテーパ部143と同じテーパ角度を有するテーパ部が設けられていてもよい。これにより、容器本体2および易変形部離脱部防止部材12をカバー部材8に挿入する際に、テーパ部によってその挿入が案内され、容器本体2および易変形部離脱部防止部材12を容易かつ確実にカバー部材8に挿入することができる。
【0118】
次に、容器本体2および易変形部離脱部防止部材12をカバー部材8に収納して組み立てるまでの組立工程について、
図10〜
図12を参照しつつ説明する。
まず、容器本体2の突部35と易変形部離脱部防止部材12の係合溝124とを係合させて、
図10に示すように、容器本体2と易変形部離脱部防止部材12とを組み立てる。
【0119】
次に、
図11に示すように、前記組み立てられた容器本体2と易変形部離脱部防止部材12とを、収納用治具14のテーパ部143よりも上方に配置し、カバー部材8をテーパ部143よりも下方に配置する。そして、前述したように、容器本体2と易変形部離脱部防止部材12とを一括して、カバー部材8に収納する。
【0120】
次に、
図12に示すように、カバー部材8に対し、その上方から容器本体離脱防止部材13を装着する。これにより、容器本体2と易変形部離脱部防止部材12とがカバー部材8から離脱するのが防止された組立体を得る。そして、この組立体に、蓋部82を装着することができる。
【0121】
以上、本発明の薬剤収納容器を図示の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、薬剤収納容器を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
【0122】
また、カバー部材は、前記実施形態では容器本体の底部を除く全体を覆うような構成であったが、蓋部を省略して本体部のみとしてもよく、容器本体の易変形部のみを覆うような構成であってもよい。この場合、カバー部材のガスバリア性を確保するために、容器本体とカバー部材とを融着等により接合するのが好ましい。
【0123】
なお、連通孔は、板片に開けた小さな孔や、板片と肩部との間に開けた小さな隙間として設けてもよい。この場合、蓋部を本体部から外すことで、変形空間が連通孔を通じて開放されるため、シート材が不要となる。
【0124】
また、易変形部の配置数は、前記実施形態では1箇所であったが、これに限定されず、例えば、複数箇所であってもよい。
【0125】
また、初期状態で、容器本体には、例えば、窒素等のような不活性ガスが予め充填されていてもよい。これにより、薬剤の種類にもよるが、当該薬剤が酸化するのをより確実に防止することができる。
【0126】
また、収納される薬剤としては、前記各実施形態では粉末状のものであったが、これに限定されず、例えば、錠剤状、ゲル状、液状のものであってもよい。
【0127】
また、薬剤収納容器の口部には、前記実施形態では弁体が装着されているが、これに限定されず、従来のバイアルで使用されているゴム栓が装着されていてもよい。