特許第5963744号(P5963744)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5963744
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】薬剤組成物塗布デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/02 20060101AFI20160721BHJP
   A61J 1/05 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   A61M25/02 500
   A61J1/05 313M
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-507313(P2013-507313)
(86)(22)【出願日】2012年3月5日
(86)【国際出願番号】JP2012055584
(87)【国際公開番号】WO2012132774
(87)【国際公開日】20121004
【審査請求日】2015年1月6日
(31)【優先権主張番号】特願2011-73476(P2011-73476)
(32)【優先日】2011年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】木村 恭大
(72)【発明者】
【氏名】千野 直孝
(72)【発明者】
【氏名】吉野 敬亮
【審査官】 佐藤 智弥
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/140971(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/011023(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体に挿入される挿入体と生体組織との間の隙間に薬剤組成物を塗布する薬剤組成物塗布デバイスであって、
前記挿入体と、
前記挿入体に設けられ、前記生体組織に対する抗菌性を有しかつ流動性を備えた前記薬剤組成物が内部に収容された収容部と、
前記収容部を開封自在な開封部と、を有し、
前記挿入体は、前記薬剤組成物が該挿入体を伝わって前記隙間へ向けて流下するように前記薬剤組成物の流れをガイドするガイド部を有し、
前記収容部の開封に伴って流出される前記薬剤組成物が、前記挿入体の少なくとも一部を伝わって流れることにより前記隙間へ案内されることを特徴とする薬剤組成物塗布デバイス。
【請求項2】
前記収容部は、前記薬剤組成物を封入可能な袋状のバッグによって構成され、
前記開封部は、前記バッグの少なくとも一部に設けられたシール強度が弱い弱シール部によって構成され、
前記弱シール部の破断により前記バッグが開封されることを特徴とする請求項1に記載の薬剤組成物塗布デバイス。
【請求項3】
前記バッグは、隔壁を隔てて区画された複数の収容室を有し、各収容室に異なる薬剤組成物を収容し、前記バッグの破裂操作により前記異なる薬剤組成物を混合することを特徴とする請求項2に記載の薬剤組成物塗布デバイス。
【請求項4】
前記バッグは、異なる薬剤組成物がそれぞれ収容された複数のバッグからなり、これらのバッグの破裂操作により前記異なる薬剤組成物を混合することを特徴とする請求項2又は3に記載の薬剤組成物塗布デバイス。
【請求項5】
前記挿入体は、生体に挿入される挿入部材と、該挿入部材の近位端側に設けられた大径部とを有し、該大径部に前記収容部を設けたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の薬剤組成物塗布デバイス。
【請求項6】
前記挿入体は、前記挿入部材が外針であり、前記大径部がカテーテルハブから構成された留置針である請求項5に記載の薬剤組成物塗布デバイス。
【請求項7】
前記薬剤組成物は、特定の色で着色したことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の薬剤組成物塗布デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体に挿入留置される挿入体と生体組織との間の隙間内に薬剤組成物を塗布し、外部から隙間内への細菌や汚れなどの異物の入り込みを防止する薬剤組成物塗布デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、生体に挿入体を挿入し留置するときには、挿入体と生体組織(例えば、体表面)との間に隙間が生じることがあり、この隙間に微生物(例えば、皮膚に常在する細菌)や汚れなどの異物が入り込むと、感染症や炎症を引き起こすおそれがある。
【0003】
このような感染症や炎症を防止するため、従来から生体に挿入した挿入体あるいはその周辺部を上から覆うように粘着性フィルムドレッシングを貼付する処置(下記特許文献1参照)、抗菌性繊維から形成されたパッド(下記特許文献2参照)、あるいは抗菌剤放出用の重合体を含む弾性パッドにより挿入体あるいはその周辺部を覆うように貼付する処置(下記特許文献3参照)などが取られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−94299号
【特許文献2】特開2008−220633号
【特許文献3】特許第3046623号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなドレッシング剤やパッドを挿入体あるいはその周辺部に貼付する処置は、感染症や炎症の予防に対して一定の効果を得ることができる。
【0006】
ところが、このようなドレッシング剤やパッドにより挿入体あるいはその周辺部を覆う処置は、挿入体と生体組織との間の隙間を単に上方から覆うのみであるため、隙間内に入り込んだ細菌や汚れなどの異物に対しては対処できず、確実に感染症や炎症を防止することは難しい。
【0007】
また、パッドを貼着する場合、挿入体の外径をパッドに開設された開口の内径よりも小さくしなければならず、挿入体あるいはパッド開口のサイズ選定が困難になることもあり、場合によっては、挿入体の全周あるいは全方位を確実に塞ぐことができないという不具合もある。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたもので、挿入体と生体組織との間に生じる隙間を薬剤組成物で確実に塞ぎ、外部から隙間への細菌や汚れなどの異物の入り込みを防止し、感染症や炎症の発生リスクを大幅に軽減することができる薬剤組成物塗布デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明の薬剤組成物塗布デバイスは、生体に挿入される挿入体と生体組織との間の隙間に薬剤組成物を塗布する薬剤組成物塗布デバイスであって、前記挿入体と、前記挿入体に設けられ、前記生体組織に対する抗菌性を有しかつ流動性も備えた薬剤組成物が内部に収容された収容部と、前記収容部を開封自在な開封部と、前記収容部の開封に伴って流出される前記薬剤組成物が、前記挿入体の少なくとも一部を伝わって流れることにより前記隙間へ案内されるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、生体組織に対する抗菌性を有しかつ流動性を備える薬剤組成物が収容された収容部を挿入体に設け、この収容部の開封に伴って流出する薬剤組成物が、挿入体の少なくとも一部を伝わって挿入体と生体組織との間の隙間へ案内されるようにしたので、挿入体を生体に挿入した後に、収容部を開封させる作業のみで隙間の入口部分である挿入部の周辺部分を薬剤組成物で覆うことができる。さらに、従来の粘着性フィルムドレッシングあるいはパッドでは粘着部に手指が触れ、手指に付着した細菌や血液、汚れなどにより粘着部を汚染させていたが、挿入時に粘着部に触れることなく挿入部の周辺部分を薬剤組成物で覆うことができる。したがって、手技者は、挿入体を生体に挿入した後、挿入体と生体組織との間に生じる隙間内に細菌や汚れなどの異物が入り込み、感染症や炎症を発生させるリスクを大幅に軽減できる。また、従来のように挿入体の外径あるいはパッド開口などのサイズ選定作業は全く不要となり、手技数やデバイス数の増加を最小限に抑えて、手技の迅速化を図ることができ、手技の利便性も大幅に向上する。また、薬剤組成物が挿入体を伝わって隙間へ向けて流下するように薬剤組成物の流れをガイドするガイド部が設けられるため、収容部から隙間までの薬剤組成物の円滑な流れを形成することができ、薬剤組成物の塗布を簡単かつ迅速に行うことができる。
【0011】
請求項2の発明は、収容部が、薬剤組成物を封入可能な袋状のバッグによって構成され、かつ、開封部が当該バッグの少なくとも一部に設けられたシール強度が弱い弱シール部によって構成されているため、弱シール部の破裂により前記薬剤組成物を前記挿入体と生体組織との間の隙間に向かって流出させることができる。特に、手技者は、挿入体を生体に挿入した後に、バッグの弱シール部を破裂させるので、挿入体の挿入操作と、弱シール部の破裂操作を独立して行うことができ、挿入体の挿入操作を繰り返した後に、所望の位置にセットする場合に有効なものとなり、挿入体の挿入セット後、1回の破裂操作で所定量の薬剤組成物を適切に塗布でき、手技の利便性が大幅に向上する。
【0012】
請求項3の発明は、バッグ内を隔壁により複数の収容室に区画し、各収容室に異なる薬剤組成物を収容し、バッグの破裂操作により複数の薬剤組成物を混合することになるので、抗菌性や粘着性などの異なる特性が要求される薬剤組成物であっても問題なくセットすることができ、しかも、混合された薬剤組成物を、生体組織と挿入部材との隙間を塞ぐように、また、挿入部の周辺部分を広く覆うように塗布することもでき、感染症や炎症の発生リスクを大幅に軽減することができる。特に、1つのバッグ内を隔壁により複数の収容室に区画すれば、1回の押し潰し操作により混合された薬剤組成物を、前記隙間乃至挿入部の周辺部分に塗布できる。
【0013】
請求項4の発明では、バッグが異なる薬剤組成物をそれぞれ収容する複数のバッグからなり、これらの各バッグの弱シール部の破裂操作により前記異なる性状の薬剤を混合するので、前項の効果に加え、バッグの破断を行いやすく、手技の利便性が向上する。
【0014】
請求項5の発明は、挿入体が、生体に挿入される挿入部材と、該挿入部材の近位端側に設けられた大径部とを有し、該大径部に収容部を設けたので、通常の手技、つまり、挿入部材を大径部近傍まで挿入する手技を行う場合、前記挿入部材を挿入した状態では、操作した手先の近傍に収容部が存在することになり、収容部の開封を容易に行うことができる。また、収容部の開封は、生体組織と挿入部材との隙間の入口部分近傍でなされるので、当該収容部から流出した薬剤組成物は、直ちに生体組織と挿入部材との隙間を塞ぐと共に、挿入部の周辺部分を覆うように塗布され、感染症や炎症の発生リスクを大幅に軽減することができる。
【0015】
請求項6の発明は、挿入体が、前記挿入部材としての外針と、前記大径部としてのカテーテルハブとを有する留置針であるので、前項の効果を有効に発揮し、円滑な手技を容易に行うことができる。
【0016】
請求項7の発明では、薬剤組成物が着色されるため、挿入体を挿入する場合に、薬剤組成物自体が一種の目安となり、挿入体の穿刺部分の範囲や封止具合などを目視で確認でき、手技を円滑にかつ確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1実施形態を示す一部破断概略正面図である。
図2】同実施形態の作用状態を示す概略斜視図である。
図3】本発明の第2実施形態を示す要部概略斜視図である。
図4】同実施形態の変形例を示す要部概略斜視図である。
図5】本発明の第3実施形態を示す概略斜視図である。
図6】本発明の第4実施形態を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態を示す一部破断概略正面図、図2は同実施形態の作用状態を示す概略斜視図である。本発明に係る挿入体の対象とされるものは、後に例示するように種々のものがあるが、本実施形態では、留置針について説明する。
【0020】
本実施形態の留置針10は、図1に示すように、外針部11と、内針部15とを有し、例えば、輸液などの動静脈留置用あるいは人工透析に用いる透析装置の動静脈瘻留置用として使用される。外針部(通常、カテーテルと称される)11は、大径部を構成する外針ハブ(カテーテルハブ)12と、外針ハブ12の近位端に設けられた軟質樹脂製の外針13とから構成されている。外針ハブ12の構成材料としては、透明(無色透明)、着色透明または半透明の樹脂で構成され、内部の視認性が確保されているものが好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル等の各種樹脂材料が挙げられる。外針13の材質としては、例えば樹脂材料、特に、軟質樹脂材料が好適であり、その具体例としては、例えば、PTFE、ETFE、PFA等のフッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂またはこれらの混合物、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテルナイロン樹脂、前記オレフィン系樹脂とエチレン−酢酸ビニル共重合体との混合物等が挙げられる。このような外針13は、その全部または一部が内部の視認性を有しているのが好ましい。すなわち、外針13は、透明(無色透明)、着色透明または半透明の樹脂で構成されているのが好ましい。これにより、外針12が血管を確保した際、血液が後述する内針17を通って外針ハブ12に流入する現象(フラッシュバック)を目視で確認することができる。また、外針13の構成材料中には、例えば硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸ビスマス、タングステン酸のようなX線造影剤を配合したり、ガドリニウム塩のようなMRI視認剤を配合し、造影機能を持たせることもできる。
【0021】
内針部15は、中央部分に設けられた内針ハブ16と、内針ハブ16の近位端側に設けられた金属製の内針17と、内針ハブ16の遠位端側に設けられたフィルター18と、フィルターキャップ19と、から構成されている。内針ハブ16の材質としては、外針ハブ12と同質の材料を使用することが出来る。内針17の材質としては、例えばステンレス鋼、アルミニウムまたはアルミニウム合金、チタンまたはチタン合金のような金属材料が挙げられる。
【0022】
なお、留置針10は、通常、外針13内に内針17を挿入した状態で、密閉ケース(不図示)内に収納され、保存されている。
【0023】
留置針10を使用するに当たっては、次のように行う。まず、外針13に内針17が挿入された状態の留置針10を生体に穿刺する。そして、内針17のみを抜去することで、外針13を生体内に留置させ、その後、例えば、輸液を行う場合には、外針ハブ12に輸液チューブを連結することになる。
【0024】
生体に留置された外針13は、生体と外針13との間に隙間が生じる。この隙間に薬剤組成物Y1を塗布するように、本実施形態の留置針10では、図1に示すように、挿入体である外針部11に、生体組織に対する抗菌性を有しかつ流動性も備えた薬剤組成物Y1が内部に封入された袋状のバッグ(収容部に相当する)Bを設けている。バッグBには、少なくとも一部にシール強度の異なる弱シール部(開封部に相当する)Jが設けられており、このバッグBの弱シール部Jを破裂させることにより薬剤組成物Y1を外針部11と生体組織との間の隙間に向かって流出させるようにしている。
【0025】
具体的には、外針部11における外針ハブ12の先端側(外針13よりも大径に形成されたカテーテルハブ先端部)に薬剤組成物Y1を収容するバッグBを設けている。外針13は、生体の表面に対し斜め上方から挿入され、傾斜した状態で留置されるが、通常の手技では、基本的に外針ハブ12(カテーテルハブ先端部)近傍まで生体内に挿入されることになるので、この挿入した後の状態で、手先近くとなる位置である外針ハブ12の上部にバッグBを設けると、外針13を生体に挿入した後に、使用者がバッグBを破裂操作するための加圧力Pを加え易いものとなる。
【0026】
なお、バッグBを設ける位置としては、必ずしも外針ハブ12(カテーテルハブ先端部)の上部のみに限定されるものではなく、側部あるいは下部、上部と側部の中間位置であってもよく、外針ハブ12上に位置し、カテーテル外周上に薬剤組成物Y1を流出できる位置であればいずれに設けてもよい。また、バッグBは、外針部11に着脱可能に構成されていてもよい。このように構成される場合、外針部11を生体に挿入した後にバッグBを外針部11に装着させて薬剤組成物Y1を流出させる操作を行ってもよいし、薬剤組成物Y1を流出させる操作を行う前に外針部11にバッグBを装着させてもよい。
【0027】
そして、加圧力PによってバッグBの弱シール部Jを破裂させると、バッグBからは、図2に矢印で示すように、薬剤組成物Y1が流出することになる。薬剤組成物Y1は、重力により外針ハブ12から外針13に沿って流れ、生体と外針13との間の隙間に向うことになる。薬剤組成物Y1は、流動性のみならず、抗菌性を有するので、生体組織と挿入部材との隙間を塞ぐとともに、挿入部の周辺部分をも覆って、感染症や炎症の発生リスクを大幅に軽減することができる。したがって、使用者は、外針13を生体に挿入してバッグBの弱シール部Jを破裂させる加圧力Pを加える手技を行うのみで、外針13と生体組織との隙間および挿入部の周辺部分の汚染を薬剤組成物Y1により防止できる。特に、使用者は、外針13を生体に挿入する操作と、弱密封シール部Jを破裂させる操作とをそれぞれ独立して行うことができるので、外針13の挿入操作を繰り返した後に、所望の位置にセットする場合には有効なものとなる。なお、バッグBの弱シール部Jを破裂させるための加圧力Pは、使用形態に応じて任意に設定することが可能であるが、使用者の手による押圧で使用者に過度な負担を掛けることなくバッグBを開封させることが可能な範囲で設定されることが好ましく、本実施形態においては、例えば、0.1〜5N/10mm、特に好ましくは、0.3〜3N/10mm程度に設定することができる。また、外針部11とともにバッグBは非常に小さく形成される場合があるが、このような場合には使用者の手ではバッグBに加圧力Pを加えづらいので、バッグBを押圧し易くすることによってバッグBに加圧力Pを加え易くするための開封具(不図示)を挿入体に装着・離脱することもできる。
【0028】
特に、薬剤組成物がムダに使用されたり、なくなったりすることがなく、外針13の挿入セット後、1回の破裂操作で所定量の薬剤組成物Y1を適切に塗布でき、手技の利便性が大幅に向上する。つまり、薬剤組成物Y1を塗布するデバイスとしては、外針13の外周面に薬剤組成物Y1を塗布するものも考えられるが、このようなデバイスと比較すれば、薬剤組成物Y1がムダに使用されたり、なくなったりすることがなく、手技を良好に行うことができる。
【0029】
薬剤組成物Y1を収容するバッグBとしては、軟質材料で、薬剤組成物Y1と反応しない性質を有するものであれば、どのようなものであってもよいが、具体的には、例えば、ポリオレフィンを含むものであるのが好ましい。軟質バッグ2の形成材料として、特に好ましいものとして、ポリエチレンまたはポリプロピレンに、スチレン−ブタジエン共重合体やスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体等のスチレン系熱可塑性エラストマーあるいはエチレン−プロピレン共重合体やエチレン−ブテン共重合体,プロピレン−αオレフィン共重合体等のオレフィン系熱可塑性エラストマーをブレンドし柔軟化した軟質樹脂等によって構成されたものが挙げられる。
【0030】
バッグBは、外針13に対し常時取付けられていてもよく、また、独立に形成され、使用時に取り付けるようにしてもよい。例えば、常時取付ける場合には、接着剤による接着や、融着、バッグBの材料自体の粘着性を利用する方法など公知の技術を用いることができる。
【0031】
バッグBに収容する薬剤組成物Y1としては、生体内に外針13を挿入したときに、当該外針13と生体組織との間の隙間を塞ぐものであれば、どのようなものであってもよいが、本実施形態では、外針13と共に生体内に入り込みやすく、感染症などを防止するために、抗菌性を有する薬剤で構成されている。また、薬剤組成物Y1は、上述のように外針13に沿って伝わるため流動性を有する液状のものであることが好ましく、外針13と生体組織との隙間を閉塞可能な適度な粘着性を有する薬剤であることが好ましい。
【0032】
さらに、薬剤組成物Y1は、生体内吸収分解性の素材により構成してもよい。このような素材であれば、外針13を生体に留置する場合、留置期間の調整が不要になるか、もしくは調整が容易になる。
【0033】
薬剤組成物Y1の具体例としては、例えば、2−オクチルシアノアクリレート、2-シアノアクリル酸エステルモノマーなどのシアノアクリレート系接着剤、例えば、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルエチルエーテル系、変性コラーゲン、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、ヒドロキシエチルメタクリレートなどのハイドロゲルや、例えば、ポリウレタン、ポリエーテルウレタンウレア、シリコーンエラストマー、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレングリコールおよびそのエステル体などのエラストマーを挙げることができる。
【0034】
これに加える抗菌性を有する薬剤としては、例えば、ペニシリン系、セフェム系、モノバクタム系、カルバペネム系、アミノグリコシド系、ニューキノロン系、マクロライド系、クリンダマイシン、テトラサイクリン系、メトロニダゾール、ST合剤、グリコペプチド系、ストレプトグラミン系、オキサゾリジノン系、リポペプチド系、グリシルサイクリン系、グリコペプチド系、クロラムフェニコール系、ケトライド系などの抗菌剤や、核酸系のたんぱく質合成阻害薬、ピリドンカルボン酸系の合成抗菌剤、葉酸代謝阻害剤、例えばクロルヘキシジン、ポビドンヨード、ヨードチンキ、エタノール、イソプロパノール、イソプロピルアルコール、オキシドールなどの消毒薬や、例えば銀、銅、亜鉛などの金属イオンなどが挙げられる。これらを適宜選択してバッグBに収容すればよい。
【0035】
前述した留置針10を密閉ケース(不図示)内に収納するに当たり、密閉ケースの内部に乾燥剤あるいは脱酸素剤若しくはこれらと共にチェッカーを収納してもよい。このようにすれば、薬剤組成物Yの変質を防止でき、長期にわたり保存できる。また、使用時においてもチェッカーを目視することにより使用の可否を判断でき、利便性が向上する。
(第2実施形態)
図3は本発明の第2実施形態を示す要部概略斜視図、図4は同実施形態の変形例を示す要部概略斜視図である。本実施形態は、図3に示すように、薬剤組成物Y2およびY3を収容するバッグB内が隔壁Sによって複数の収容室R1,R2に区画され、各収容室R1,R2に異なる性状の流動性のある薬剤組成物Y2およびY3が収容され、バッグBの破裂操作により2つの異なる薬剤組成物Y2,Y3が混合され、外針13の外周面に沿って流れ、外針13と生体組織との間の隙間に入り込むようにしている。なお、隔壁Sで隔てられた収容室R1,R2の配置は、図3に示すように、軸線方向左右であってもよく、軸線に対し上下であってもよいが、いずれにしてもこれらに限定されるものではない。
【0036】
第1実施形態では単一のバッグB内に薬剤組成物を封止しているが、本実施形態では異なる薬剤組成物Y2、Y3をそれぞれ各収容室Rに封止し、両者が混合されると、抗菌性、流動性及び粘着性を発揮するようにしている。両者の混合方法としては、特に限定されないが、収容室R1と収容室R2を隔てる隔壁Sを弱シール部J1で連結する方法がある。この場合、収容室R1と収容室R2の弱シール部J1のシール強度を、収容室R1から外部へ流出させる部分の弱シール部J2の強度より弱く設定することで、バッグBを押し付けることにより、まず収容室R2から収容室R1へ液体が移動し、その後、収容室R1から外部へと液体が移動することになり、両薬剤組成物Y2、Y3を確実に混合させることができる。
【0037】
また、収容室R1と収容室R2の弱シールの位置関係が、図4に示すように、交差する位置関係、つまり押し出された後に、両薬剤組成物Y2、Y3が混合されることになるような配置でも良い。
【0038】
具体的には、薬剤組成物Y2としては、例えば、アルギン酸、トリリジンおよびエステル活性基、又はアルデヒド基などを有するPEG、PVAなど生体適合性の高い高分子が挙げられ、薬剤組成物Y3としては、例えば、Ca、PEGエステルおよびアミン基、イミド基などを有する低分子化合物又はPEG、PVAなどの生体適合性の高い高分子などが挙げられる。
【0039】
特に、図3に示す実施形態では、隔壁Sを隔てて2つの収容室R1,R2が独立に配置されているので、薬剤組成物Y2およびY3の混合に時間差をもたせることができることになり、手技の状態に応じて適宜、薬剤組成物Y2あるいはY3の放出時点を調整することも可能となり、手技の汎用性あるいは利便性が向上する。なお、収容室Rの数は、2つのみに限定されるものではなく、使用する薬剤組成物Yの種類あるいは手技などに応じて適数個にすることができることはいうまでもない。
(第3実施形態)
図5は本発明の第3実施形態を示す概略斜視図である。本実施形態は、図5に示すように、外針13の先端部13aが、外針13の軸線Xに対する傾斜角θが鋭角となるように削落されている場合に有効なものである。
【0040】
すなわち、外針13の先端部13aが削落されている場合、通常、先端部13aの斜面が上になる状態で生体に挿入される。したがって、カテーテルハブ12の上下対向する位置にバッグB1,B2を設けると、通常の操作時に、上下からバッグB1,B2を破断し、内部の薬剤組成物Y2,Y3を流出させることができ、バッグB1,B2の破断を自然な操作で行うことができ、破断時に違和感なく使用できる使い勝手のよいデバイスとなる。
【0041】
なお、本実施形態においても、バッグBの数は、薬剤組成物Yの数などに対応して適数個設けてもよい。
【0042】
また、薬剤組成物Yは、全てを単一色で着色してもよく、場合によっては、薬剤組成物Y2とY3を個別に特定の色で着色してもよい。いずれにしても薬剤組成物Yが着色されると、外針13を挿入する場合に、薬剤組成物自体が一種の目安となり、外針13の穿刺部分の範囲や封止具合などを目視で確認でき、手技を円滑にかつ確実に行うことができる。可視化剤として、例えば、L−アスコルビン酸(ビタミンC)、L−アスコルビン酸カルシウム、ステアリン酸エステルなどのビタミン系着色剤、アマランス、エリスロシン、アルラレッドAC、ニューコクシン、フロキシン、アシッドレッド、タートラジン、サンセットイエローFCF、ファストグリーン、カルミン酸などの食用着色剤が挙げられる
(第4実施形態)
図6(A)〜(C)は本発明の第4実施形態を示す概略斜視図である。本実施形態は、挿入体を構成する外針部11に薬剤組成物の流れをガイドするガイド部14が設けられている点において上述した各実施形態と相違する。このガイド部14は、バッグBから流出された薬剤組成物が外針部11を伝わって外針部11と生体組織との間の隙間へ向けて流下するように、薬剤組成物の流れをガイドする機能を備えるものである。
【0043】
なお、本実施形態に係る外針部11として、外針ハブ12と外針13とが別体で設けられ、この両部材を組み付けた状態で使用される構成のものを示しているが、外針部11はこのような構成に限定されず、例えば、上述した各実施形態において示されるような外針ハブ12と外針13とが予め一体的に製造されたものを使用してもよい。
【0044】
図6(A)に示すように、ガイド部14は、例えば、外針ハブ12の先端に設けられた溝14aと、外針13に設けられた溝14bとによって構成することができる。バッグBから流出させた薬剤組成物は、溝14aに沿って流下した後、溝14bに沿って流下する。図示するように、溝14aの下端と溝14bの上端とを近接するように配置すれば、外針ハブ12から外針13へ薬剤組成物をより円滑に流下させることができる。そして、溝14bに流れ込んだ薬剤組成物は、溝14bの下端から流れ出て、生体組織と外針部11との間の隙間へ案内される。
【0045】
このように、ガイド部14を設けることにより、バッグBから生体組織と外針部11との間の隙間までの薬剤組成物の円滑な流れを形成することができるため、生体組織と外針部11との間の隙間、およびその周辺部への薬剤組成物の塗布を簡単かつ迅速に行うことができる。これにより、本デバイスの利便性をより一層向上させることができる。
【0046】
ガイド部14には、例えば、図6(B)に示すような側壁24を設けることができる。側壁24は、薬剤組成物が流下する際に各溝14a、14b内から薬剤組成物が不用意に流出することを防止し、塗布が予定されていない部位に薬剤組成物が垂れたり、付着したりすることを防止する。したがって、ガイド部14とともに側壁24を設けることにより、生体組織と外針部11との間の隙間に薬剤組成物を無駄なく、かつ確実に塗布することが可能になる。
【0047】
また、例えば、図6(C)に示すように、外針13の所定の部位にガイド機能を備える湾曲形状を付与し、この部位をガイド部14として機能させることも可能である。図示するように、ガイド部14を構成する湾曲部分は、外針13において外針ハブ12側に位置する根本部分から外針13の先端側へ向けて外径が徐々に大きくなるように形成することができる。外針ハブ12から流下する薬剤組成物は、外針13に設けられたガイド部14を経由して、外針13の先端側へ流下する。この際、薬剤組成物は、ガイド部14の湾曲形状に沿うように先端側へ流下し、生体組織と外針部11との間の隙間へ案内される。このようなガイド部14によれば、外針ハブ12の外径と外針13の外径との寸法差によって両部材の接続部分に段差が形成されているような場合においても、外針ハブ12から外針13へ薬剤組成物を円滑に流下させることができる。
【0048】
本発明は、上述した各実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、前述した実施形態は、挿入体として留置針の外針について説明したが、本発明は、これのみでなく、挿入体の対象となり得るものとしては、例えば、血管カテーテル、導尿カテーテル及び硬膜外カテーテル等の各種カテーテル、又は、留置針、ヒューバー針の挿入部、留置ドレーン、腹膜透析チューブ、あるいは生体埋め込み型医療機器のケーブル、さらには気管切開カニューレなどがある。
【0049】
また、本発明は、挿入体に設けられた収容部から流出させた薬剤組成物を、該挿入体の少なくとも一部に沿って流下させることにより、該挿入体と生体組織との間の隙間へ薬剤組成物が案内される機能が発揮され得る限りにおいて、各構成を変更することが可能である。例えば、各実施形態においては薬剤組成物を収容する収容部に袋状のバッグを利用した形態を示したが、収容部は、薬剤組成物を収容して保持し得る機能を有する限りにおいて変更することができ、例えば、バッグの代わりに硬質または軟質の樹脂材料からなる容器などを用いることもできる。収容部を開封する開封部についても、収容部を開封自在な構成を備える限りにおいて変更することが可能であり、弱シール部の代わりに、例えば、嵌合式のキャップ、押圧や引っ張るなどの操作によって破断するキャップ、開閉機構が設けられた弁体を内部に備えるキャップなど、流体および流動体の流出操作を行うために用いられる公知の部材の中から適宜選択することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、生体に挿入留置される挿入体と生体組織との間の隙間内および挿入部の周辺部分に薬剤を塗布する薬剤組成物塗布デバイスとして利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
10…薬剤組成物塗布デバイス、
11…外針部(挿入体)、
12…外針ハブ(大径部)、
13…外針(挿入部材)、
14…ガイド部、
B(B1,B2)…バッグ(収容部)、
J(J1,J2)…弱シール部(開封部)、
R1,R2…収容室、
S…隔壁、
Y(Y1,Y2,Y3)…薬剤。
図1
図2
図3
図4
図5
図6