【0016】
(線維芽細胞の増殖状態の鑑別法)
この様な過程を経て、本願発明者らは、線維芽細胞のコラーゲンゲル中での張力負荷培養、具体的には、細胞が培養器の壁面乃至は底面に付着した状態で培養される条件において、ETFBが特異的に産生されることを見出した。即ち、線維芽細胞のコラーゲンゲル中での培養において、ETFBの産生量を指標に線維化等の線維芽細胞の異常増殖が促進されているか否かを鑑別することが出来る。
すなわち、本発明の一形態は、線維芽細胞の増殖状態の鑑別法において、ETFB(エレクトロントランスファー フラボノプロテイン ベータ サブユニット)の発現の度合いを指標とする、増殖状態の鑑別法であって、
ETFBの発現の度合いが高い場合には、線維芽細胞の異常増殖が生じている蓋然性が高く、
ETFBの発現の度合いが低い場合には、線維芽細胞の増殖が正常に保たれている蓋然性が高い、と判別する、線維芽細胞の増殖状態の鑑別法である。
ここで、「ETFBの発現の度合いを指標とする」とは、「ETFBの発現の度合いをマーカーとして測定する」と言うこともできる。
「線維芽細胞の異常増殖が生じている蓋然性が高い」とは、「線維芽細胞の異常増殖が生じているリスクが高い」と言うこともできる。「線維芽細胞の増殖が正常に保たれている蓋然性が高い」とは、「線維芽細胞の異常増殖が生じているリスクが低い」と言うこともできる。「線維芽細胞の増殖状態の鑑別法」は、「線維芽細胞の異常増殖のリスクの予測方法」と言うこともできる。
ETFBの発現の度合いが高い場合とは、被検試料の線維芽細胞における発現量が、対照の線維芽細胞における発現量に対して高い場合であり、
ETFBの発現の度合いが低い場合とは、被検試料の線維芽細胞における発現量が、対照の線維芽細胞における発現量に対して同じ又は低い場合であり得る。
ETFBの発現の度合いが高い場合とは、限定されないが、例えば、被検試料の線維芽細胞においては発現しているが、対照の線維芽細胞においては発現していないか、又は被検試料の線維芽細胞における発現量が、対照の線維芽細胞における発現量に対して150%以上、300%以上、500%以上であり得、
ETFBの発現の度合いが低い場合とは、限定されないが、例えば、被検試料の線維芽細胞における発現量が、対照の線維芽細胞における発現量に対して同じ又は70%以下、50%以下、10%以下であり得る。
被検試料の線維芽細胞は、線維芽細胞の増殖状態を鑑別される必要のある対象の細胞であり、特に限定されず、ヒト、ブタ、サル、チンパンジー、イヌ、ウシ、ウサギ、ラット、マウス等の哺乳動物等由来の細胞であり得る。
対照の線維芽細胞は、対象の正常線維芽細胞又は対象と同一又は類似の生物種の正常線維芽細胞又は確立された正常線維芽細胞であり得る。確立された正常線維芽細胞としては、上記と同様の確立された細胞を用いることが出来る。
ETFBの発現の度合いは、後記のとおり、ETFB蛋白質の発現を測定してもよく、ETFBをコードしたRNA等の遺伝子の発現を測定してもよい。線維芽細胞におけるETFB蛋白質又はETFBをコードした遺伝子の測定方法は、特に限定されず、例えば、常法に従って、細胞を破砕し、ETFB蛋白質又はETFBをコードした遺伝子を含む細胞抽出液を得て、細胞抽出液に含まれるETFB蛋白質又はETFBをコードした遺伝子を、後記のような通常の測定方法により測定することにより行うことが出来る。
本発明において「線維芽細胞の異常増殖」とは、線維芽細胞の異常増殖による疾患状態であり得る。線維芽細胞の異常増殖による疾患状態は、特に限定されず、例えば線維化(具体的には、肥厚性瘢痕、ケロイド、強皮症、面皰瘢痕、肺線維症、肝線維症等)、線維芽細胞のマイオファイブロブラストへの分化に起因している線維化等であり得る。
【実施例1】
【0025】
(細胞培養)
ヒト皮膚正常線維芽細胞の種類は、ATCCより入手可能な細胞が多数存在するが、ケロイド細胞株である(KELFIB)のプロファイルに最も近いCCD-1113Sk細胞(39歳黒人女性由来)を優先的に用いた。
【0026】
線維芽細胞は、DMEM(D-6046、Sigma)にFBS10%(添加した培地で組織培養フラスコ(353024、BD FALCON))にて37℃、CO
2濃度5%の環境下に設定したインキュベーター(M14-3158、Forma Scientific、サンヨー)にて培養した。継代の際にはPBSにて細胞を洗浄後、0.05%トリプシン溶液(T4049、Sigma)を添加し、インキュベーターにて2〜3分インキュベートした後に細胞を回収、継代して用いた。継代は3〜4日おきに実施し、この場合、継代数は7〜12までのものを用いた。
【0027】
(コラーゲンゲル中での細胞培養)
コラーゲンゲル中での培養はVarediらの方法の変法を用いた。即ち、粉末培地より通常の5倍に濃縮したDMEM(5xDMEM、D5523、Sigma)を作製し、以下に示す混合比で最終的にDMEM培地と同様な組成となるようにコラーゲン溶液を作製した。作製したコラーゲン溶液は恒温槽にて12℃にて使用まで保存した。コラーゲン原液の必要量(1mg/mLの際は7mL)、5xDMEM 7mL、200mM HEPES 3.5mL、0.03% NaH
2CO
3 3.5mL、0.01% NaOH 1.5mL、FBS必要量(10%の際は3.5mL)、H
2Oにて総量31.5mLとした。Basal layerを作製する場合には、あらかじめ24穴または6穴組織培養プレート(24穴;353047、6穴;353046、BD FALCON)に24穴の場合は250μL、6穴の場合には1mLのコラーゲン溶液を添加し、インキュベーターにて15分以上静置しコラーゲンを固化させた。
【0028】
1x10
6cells/mLの細胞浮遊液を作製し、12℃に保存したコラーゲン溶液と、コラーゲン溶液:細胞浮遊液=9:1の混合比にて混合し、よく撹拌した後に速やかにプレートに播種、インキュベーターに移動した。播種量は24穴プレートでは1mL、6穴プレートでは4mL(いずれも1x10
5cells/mL)とした。浮遊ゲルを作製する場合は、インキュベーターにて2時間培養後、スパチュラを用いて穴の縁よりゲルを離し遊離させ培養を継続した。
【0029】
(細胞数の計測)
それぞれの実験によって決められた培養時間後、最終濃度310U/mLとなるようにDMEMを用いて調製したコラゲナーゼ溶液に、コラーゲンゲルをスパチュラでプレートよりはがして添加し、37℃にて20〜40分振盪しコラーゲンを消化した。消化した細胞浮遊液を1500rpmにて3〜5分遠心分離し細胞を回収した。回収した細胞に対し100μLの培地を添加し、トリパンブルー染色を施した後Burkel-Turk血球計算盤にて1/5の希釈率にて生細胞数を計測した。
【0030】
(TUNEL染色)
コラーゲンゲルのコラーゲンを消化し、細胞を回収後、1mLのDMEM培地および細胞固定液(Collection Fluid、6768315、Thermo Shandon)を加え、転倒混和した。その細胞浮遊液をCytospin(Thermo scientific)にて分遠心し、スライドガラスに付着させ標本を作製した。作製した標本にin situ Apoptosis Detection Kit(MK500, Takara)にて取扱説明書にしたがってTUNEL染色を施した。検鏡は蛍光顕微鏡(ECLIPSE E600、Nikon)にて100〜400倍の倍率で行い、付着条件下および遊離条件下の陽性細胞出現を観察した。
【0031】
(二次元電気泳動)
付着状態および遊離状態培養のコラーゲンゲルプレートをそれぞれ8〜10枚作製し、培養後1日において前述の手法と同様にコラーゲンを消化した。ただし、コラゲナーゼによる非特異的なタンパク質分解を可能な限り抑制するため、1mMのBenzamidinehydrochrolide Hydrate(B6506、Sigma)および0.1mMのN-α-p-Tosyl-L-Lysine Chloromethylketone Hydrochloride(TLCK、T7254、Sigma)存在下にて実施した。
【0032】
消化後の細胞を遠心分離によりエッペンドルフチューブに回収し、PBSにて2回洗浄した。この間の作業は可能な限り氷冷下で実施した。そのときの細胞湿重量は100〜200mgであった。膜画分の抽出はProteoPrep Membrane Extraction Kit(Sigma)を取扱説明書に従い使用した。なお、細胞を融解する際にはプロテアーゼ(Protease Inhibitor Cocktail、P2714、Sigma)およびフォスファターゼ阻害剤(Phosphatase inhibitor cocktail I&II、P2850&P5726、Sigma)を取扱説明書に従い添加した。抽出したタンパク質はCoomassie Protein Assay Reagent Kit(2320、PIERCE)にて取扱説明書に従ってタンパク質量を測定し、ディープフリーザーにて使用まで保存した。1回の抽出での抽出率(細胞の湿重量から得られた膜タンパク質の量)は約1/300であった。
【0033】
二次元電気泳動はファルマシア社の二次元電気泳動装置を用いて実施した。等電点電気泳動は18 cmのゲル(Immobile Dry Strip、Amersham)を用い、pIレンジ:3〜10NL(non-linear)、5.5〜6.7および6〜9を検討した。タンパク質のアプライ量は100〜300μgとした。等電点電気泳動は、取扱説明書に従いCup loading法にて展開した。電気泳動装置はEttan IPGphor IEF System(Amersham)を用い、展開条件は以下に示す条件とした。
50μA/Strip、20℃
S1:Gradient 500V 1min.
S2:Gradient 4000V 4h
S3:Step-n-hold 8000V 10h
S4:Step-n-hold 6000V 回収まで
【0034】
等電点電気泳動後、Multiphor II electrophoresis unit(18-1018-06、Amersham)およびElectrophoresis Power supply(19-3500-01、Amersham)にてSDS-PAGEを実施した。ゲルはプレキャストゲル(Excel-Gel SDS、80-1255-53、Amersham、245×110mm、0.5mm thin、Gradient 8-18%)を用い、泳動条件をS1:600V、400mA、13W、30min.、S2:600V、400mA、30W、16hとした。展開後のゲルは自動染色装置(Hoefer Processor Plus、Amersham)にてSilver stain MS kit(299-58901、和光純薬)を用いて取扱説明書に従って銀染色を実施し、各ゲルで染色条件が同等となるように染色を実施した。なお、現像時間は6分とした。以上の操作を繰り返し、付着状態および遊離状態、pIレンジあたりそれぞれ5枚ずつのゲルを作製した。MALDI-TOF-MS解析まで、8.7%Glycerol液中に4℃にて保存した。
【0035】
(ディファレンシャル・ディスプレイ解析)
染色が終了したゲルは、スキャナー(ImageScanner III、28-9076-07、Amersham)を用いてコンピューターに取り込んだ。取り込んだ画像は画像解析ソフト(2D Master Elite Ver. 4.01、2D Master Database Ver. 4.00、Amersham)を用いて以下の手順にて解析を実施した。DDにおける全体的な流れは以下に示す。
(1)コンピューターによるスポットの自動検出、目視確認による重複スポットの修正
(2)スポットとして検出されていないゲルのバックグランドおよび染色されたスポット全体の染色強度のゲル間での標準化
(3)ゲル間で移動度から共通に存在すると認識されるスポットのナンバリング(マッチング、ここで検出される番号をMatch No.と呼ぶ)、ならびに同じサンプルの泳動像が真に同等であるかどうかの統計処理(本処理で同等と判断されたゲルをDDに供した)。
(4)t検定によるDD(棄却率10%)
また、同時に目視にてDDを実施し、コンピューター処理にて算出されたスポットが真に染色強度が異なるかどうかの判断、ならびにコンピューター処理では有意とはならなかったが、目視にて強度が異なるスポットの追加を実施した。
【0036】
<1>スポット検出
ImageScanner IIIにて取り込んだ画像をトリミングし、サイズを同等とした。2DMaster Eliteにて自動スポット検出を以下のパラメーターで実施した。
Peak Dilation Parameters:
Min. Peak Area 85
Max. Peak Area 1100
Min. Aspect Ratio 0.4
Max. Aspect Ratio 4.5
Min. Area Ratio 50
【0037】
<2>バックグランド除去およびスポット強度標準化
2D Master Eliteに搭載されているバックグランド除去設定およびスキャンされたゲル染色濃度を標準化する作業を取扱説明書に従い実施した。
Max. Number of Touching Peaks 20
Background Intensity 0
Step Size 1
Smoothing Size 1
Histogram Equalization なし
Tidy Edges あり
その後目視によりスポットを確認し、重複して認識されているスポットの修正を実施した。
【0038】
<3>スポットマッチングおよびゲル同等性判断
スポット像が良好でスポット数の多い遊離状態のゲル像をReference gelに設定し、取扱説明書に従いスポットのマッチングを実施した。また、2D Master Databaseに搭載されているTest Hypothesis機能を用いてReference gelとのDunnett検定を実施し、5枚のゲルのうち、3枚以上同等と認められた群について<4>の作業を実施した。
【0039】
<4>付着状態および遊離状態での培養細胞のDD
2D Master Databaseを用い、マッチングしたスポットについて棄却率10%のt検定を実施し、スポット強度に違いのあるものを抽出した。その後算出されたスポットを目視にて確認し、目視でも違いがあるかを確認した。また同時にスポット全体について目視にて再確認し、コンピューター処理で検出されなかった、付着状態・遊離状態で濃度に違いがあるスポットを追加した。
【0040】
前述の手技にて、発現量に違いがあると認められたスポットに関し、MALDI-TOF-MSによる推定を実施した。解析により同等と判断された3〜4枚のゲルより、発現量が多かった方の群のスポットを切り出した。タンパク量が少ないことが予想されたことから、これらのゲル断片をまとめてひとつのサンプルとして試験に供した。スポットの脱銀およびトリプシン消化は96穴のトリプシン消化装置およびキット(Montage In-GelDigest Kit、ミリポア)を用いて取扱説明書に従い実施した。トリプシン消化を実施したタンパク質をアンカーチップ(74115、ブルカーダルトニクス)にマトリクス(CHCAmatrix;10mg/mL α-CHCA in acetone-Ethanol 1:1v/v)と共に1μLスポットし、乾燥後MALDI-TOF-MS(AutoFlex II、ブルカーダルトニクス)にてPeptide Mass Fingerprinting(PMF)解析を実施した。PMF解析はマトリックスから飛び出すペプチド断片の質量パターンからタンパク質を推定する方法である。タンパク質量が十分存在するスポットに関しては、疑似MS/MS解析であり、アミノ酸配列を解析できるPost Source Decay(PSD)解析を実施し同定を試みた。これらの解析結果をデータベース検索にかけて結果を得たが、そのデータベースは、MASCOT(Ver.1.9、Matrix science)を用い、PMF解析で得た結果はMOWSEアルゴリズムによるスコア分布において確率95%以上であり、MASCOT上で算出されている分子量および等電点が同等のものをそのタンパクとして決定した。PSD解析はそのアミノ酸配列から同データベースを用いて候補を検索し、分子量および等電点が同等のものをそのタンパク質とした。本実験条件においてBSAを用いたPMF解析による検出下限は5fmolであった。
【0041】
合計31のスポットについて決定を試みた。MALDI-TOF-MSで決定したタンパクのリストを表1および2に示す。31個のスポットのうち、決定したタンパクは18個(中性領域8個、塩基性領域10個)であった。そのうち付着状態において発現量が高かったタンパクは8個、遊離状態において発現量が高かったタンパクは9個、スポットシフトと考えられるタンパクが1個であった。また、膜に局在しているタンパクが9、核が2、細胞質局在が3、分泌タンパクが1、不明が3であった。外膜のタンパクは得られなかったが、細胞内の膜タンパクについてはある程度得られ、総タンパクで多く得られるシャペロンは2種であり、画分化は効果があったものと考えられた。付着状態において発現量の高かった8個のタンパクはミトコンドリア膜に局在しているものが3種、核に存在しているものが2種、膜に局在しているものが1種、局在不明が2種であった。また、得られたタンパクの中で創傷治癒および瘢痕形成に関する報告があるものは、Citrate synthaseが創傷形成後10日のうちに発現量が高まるという報告、Galectin-3のノックアウトマウスで角膜創傷における再上皮化の遅延が認められたという報告、ETFBが低出力の赤色光を線維芽細胞に照射した際に発現上昇する報告がある以外は不明であった。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
(siRNAの抑制効果および特異性確認試験)
細胞は前述と同様にCCD-1113sk細胞(ATCC No. CRL2439、ヒト皮膚真皮正常線維芽細胞、黒人39歳女性由来)を用い、前述の手法と同様に維持した。導入試薬としてリポフェクタミン2000(LF2000、11668019、Invitrogen)を取扱説明書に従い用いた。導入の際にはOPTI-MEM(31985062、Invitrogen)を培地として使用した。LF2000は陽イオン性のリポソームであり、陰イオン性のsiRNAとコンプレックスを形成し、エンドソームまたはリソソームを経由して細胞内に取り込まれる。siRNAは表3に記載したものを用い、Galectin-3以外は購入した。Galectin-3はTakaraのHPでのsiRNA Design Support System(http://www.takara-bio.co.jp/rnai/intro.htm)を用いて設計した。使用に際し、単層培養にてトランスフェクション後1日間培養したCCD-1113sk細胞を用いて、QuantiGeneによりmRNAの発現抑制を確認した。また、使用したsiRNAの特異性を確認するために、BLAST(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)によりsiRNAが作用する配列を検索し、その類似配列を持つ遺伝子に対するQuantiGeneプローブを用いて同様のサンプルよりmRNAを測定し、抑制効果が認められかったsiRNAを使用した。また、陰性対照としてSilencer Negative control siRNA #1(4611、Ambion)を用いた。
【0045】
【表3】
【0046】
上述のsiRNAの抑制効果および特異性確認試験では、CCD-1113sk細胞を2.5x10
4個、12穴プレートに前日に培養し、LF2000を用いて取扱説明書に従いsiRNAを導入した。用いたLF2000量は終濃度で4μL/well、siRNAは33nM、培地量は2mLであった。そのまま1日培養し、Lysis Buffer(QG0503、Panomics)を1mL添加しQuantiGeneでの測定試料とし、使用までディープフリーザーで保存した。QuantiGeneは取扱説明書に従い処理を行い、1サンプルあたりn=2で測定を実施した。測定はプレートリーダー(ARVO.SX、Wallac、PerkinElmer)を用い、45℃の条件下で化学発光の測定を実施した。以下の式1にて抑制率を算出し、ターゲット遺伝子の抑制率が20%以下であり、特異性確認遺伝子が抑制されないものを用いた。
【0047】
【数1】
【0048】
コラーゲンゲル内培養では、CCD-1113sk細胞を1.5x10
5個/10cmディッシュ(353003、FALCON)に播種し、一晩培養後、LF2000を取扱説明書に従って使用し、siRNAをトランスフェクトした。1日後、これらの細胞を用い、上述と同様の方法で1時点遺伝子あたりn=2としコラーゲンゲル内培養を実施した。コラーゲンゲル内培養開始日より培養後4日まで1日ごとにゲル内の細胞数を計測した。細胞数の計測は上述の方法で実施した。培養開始日および培養後3〜4日の計測に用いた細胞は各群の細胞を集め、Lysis Bufferを100μL添加し、QuantiGeneによりmRNAの測定を実施した。なお、QuantiGeneは以下の表4に示すプローブを購入し使用した。
【0049】
【表4】
【0050】
上記の結果を基に、siRNAのトランスフェクションによる、線維芽細胞異常増殖抑制蛋白質の同定を行った。即ち、それぞれの蛋白質のsiRNAを購入し、10cm
2シャーレにて24時間培養後にsiRNAトランスフェクション処理を実施し、その24時間後にコラーゲンゲル内培養を実施した。その結果は
図1に示す。黒の棒グラフは付着状態の結果、白の棒グラフは遊離状態の結果を示す。付着状態において細胞増殖の抑制を示した因子は、GAL3、EHD1およびETFBであった。また、DnaJB5は細胞数の増殖亢進を認めた。一方、遊離条件下においてGAL3ならびにDnaJB5は細胞数の減少を認め、細胞毒性が示唆された。MO25およびCSは細胞増殖の亢進が認められた。GAL3は付着状態にて細胞増殖抑制が認められたが、遊離状態下において細胞数減少を認めたことから、この細胞増殖抑制は細胞毒性による可能性が否定できなかったことから候補から除外した。一方、EHD1およびETFBは遊離状態においても細胞数の顕著な低下を認めず、かつ、付着状態において細胞増殖抑制を示した。そこで、2因子について再現性を確認すべく、より詳細に試験を実施した。その結果、EHD1は再現性が得られなかった。一方、ETFBは付着状態においてNegative controlよりも細胞増殖の抑制が認められ、付着状態では細胞数は顕著に低下せず(
図2を参照)同様の傾向が認められ、再現性が得られた。
【0051】
(siRNAによるノックダウン実験)
前述のETFBの機能を調べるために、siRNAによるノックダウン実験を行った。即ち、CCD-1113sk細胞(ATCC No. CRL2439、ヒト皮膚真皮正常線維芽細胞、黒人39歳女性由来)を用い、上述と同様に維持した。siRNAおよび導入試薬は上述と同様のものを用いた。また、陰性対照としてSilencer Negative control siRNA #1(4611、Ambion)、またはAllStars Negative Control siRNA(Cat. No. 1027281, QIAGEN)を用いた。導入方法は前述の方法と同様に実施した。
TGF-βを添加する場合は、コラーゲン溶液作製時にHuman rTGF-β1(100-B-010、R&D Systems)を添加し混合後、同様に播種した。
mRNAの測定はqRT-PCRを実施した。すなわち、各実験にて回収した細胞よりRNeasy mini kit(74104、QIAGEN)を取扱説明書にしたがってtotal RNAを精製した。RNA0.1μgよりQuantiTect Reverse Transcription Kit(205311、QIAGEN)を用いて取扱説明書に従いcDNAを調製した。cDNA5μLに対しQuantiTect SYBR GreenPCR Kit(204145、QIAGEN)を用いて、real-time PCR machine(ABI PRISM 6700、Applied Biosystem Inc.)によりmRNA発現量を測定した。なお、測定はtriplicateとし、同時にGAPDの発現量測定を実施した。プライマーは表5に記載の以下のものを使用した。また、コラーゲンゲル培養を実施し、培養0日からスキャナー(Multiscanner III、アマシャム)を用いて24穴プレートを撮影した。撮影後、NIH Imageを用いてwell内のゲルの面積を測定した。Wellの底面積を100%とし、測定した面積のパーセントを算出した。
【0052】
【表5】
【0053】
CCD-1113sk細胞にsiRNAをトランスフェクトし1日培養後、5x10
4個の細胞を、カバーグラスを沈めた6穴プレートに播種した。その際、Human rTGF-β1(100-B-010、R&D Systems)を最終濃度で0または11ng/mL添加し、3日間培養した。培養後PBSにて2回洗浄し、10%中性緩衝ホルマリンを加え20分室温にて固定した。PBSにて2回洗浄後に0.2%Triton-X100を含むPBSにて15分処理し、TBSにて3回洗浄した。その後Phalloidin Alexa 488(A-12379、Invitrogen)を5
unit/well添加し、20分間室温処理した。TBSにて3回洗浄後にスライドグラスを取り出し、Fluoromount(K024, Diagnostics BioSystems(コスモバイオ))にて封入し、蛍光顕微鏡(ECLIPSE E600、Nikon)にて観察した。結果を
図3に示す。上段左図はTGF-β 11ng/mL存在下、Negative control siRNA添加系の結果、上段右図はTGF-β
11ng/mL存在下、ETFB siRNA添加系の結果である。下段は、それぞれ上段の図の拡大図である。これより、siRNA添加系ではTGF−β存在下でもアクチンフィラメントの形成が見られないことが判る。
【0054】
ETFBに対するsiRNAをトランスフェクトした細胞に対してゲル収縮の遅延が起こらないかどうかを確認した。その結果、ETFBに対するsiRNAをトランスフェクトした細胞では、Negative control siRNAを処理した線維芽細胞と同様に培養1日でほぼ20%に収縮し、その後もほぼNegative controlと差異のない収縮率であった(
図4を参照)。以上よりin vitroの本モデルにおいてはETFBの機能欠損は傷口を塞ぐ作用に対して悪影響を与えないことが示唆された。また、この実験結果は、肥厚性瘢痕を含むケロイド性の線維芽細胞でも、通常の線維芽細胞と同様の挙動を示すことを示唆した。これはケロイドなどの線維芽細胞の増殖に対しても本願発明の方法が適用できることを意味する。
【0055】
過剰なコラーゲン発現は、線維芽細胞がマイオファイブロブラストに分化することによって引き起こされ、線維芽細胞におけるマイオファイブロブラスト分化マーカーとしてSMA(α-smooth muscle actin)の発現上昇が報告されている。また、SMA発現上昇はTGF-βの刺激により引き起こされる。もしETFB機能抑制がコラーゲン、SMA発現を抑制するのであれば本因子は線維芽細胞の過剰な細胞数増殖を抑制することによって肥厚を抑制する可能性に加え肥厚性瘢痕治療薬としての期待が高まる。そこでこれらの因子の挙動を確認した。
【0056】
まずコラーゲンゲル内培養の付着状態におけるETFB、COL1A1、SMA mRNAの挙動をNegative controlおよびETFBのsiRNAをトランスフェクトした状態で調査した(
図5)。Negative controlでは、ETFBは培養3日後までは発現量が増加した。COL1A1はばらつきはあるものの培養3日後まで発現量は増加した。SMAは培養1日が最大値となり、その後低下した。一方、ETFB siRNAを処理した群は、ETFBは培養4日後までその発現はほとんど認められず、siRNAの効果が持続していた。
【0057】
TGF-β存在下におけるコラーゲンゲル内培養でETFB機能欠損がコラーゲン、SMA発現に与える影響を確認した。Negative controlまたはETFBのsiRNAをCCD-1113sk細胞にトランスフェクトし、コラーゲンゲル内培養を開始する際に調製するコラーゲンゲル溶液にrTGF-βを最終濃度で300ng/mLになるように添加し、培養1日後にコラゲナーゼを用いて細胞を回収し、ETFB, COL1A1ならびにSMAのmRNAの発現量を測定した(
図6)。その結果、ETFB発現量はTGF-β添加により約1.5倍上昇した。COL1A1はTGF-β添加によりNegative control、ETFB siRNAいずれの処理においても2〜2.5倍発現量が上昇した。一方SMAはNegative controlはTGF-β添加により発現量が1.7倍増加したのに対し、ETFB siRNA処理群は増加を認めなかった。以上の結果より、ETFBの機能欠損は張力によって引き起こされる線維芽細胞増殖を抑制することに加え、コラーゲンの発現には影響がなく、SMA発現上昇、すなわちマイオファイブロブラスト分化を抑制することが判る。
【0058】
これらの結果より、ETFBは線維芽細胞異常増殖の因子であることが証明された。この動向をモニターすることにより、瘢痕などの線維芽細胞の異常増殖の起こる蓋然性を判別することが出来ることも判る。また、コラーゲンゲル中での線維芽細胞の培養において、張力存在下及び非存在下でのETFBの動向が被検物質によりどの様に変化するかを判別することにより、線維芽細胞異常増殖を抑制する成分をスクリーニングすることも出来る。また、このような条件でスクリーニングされた線維芽細胞異常増殖を抑制する成分は、線維芽細胞増殖を抑制することに加え、SMA発現上昇、すなわちマイオファイブロブラスト分化を抑制することが出来る。したがって、同成分は、線維芽細胞増殖を抑制し、さらに線維芽細胞がマイオファイブロブラストに分化することによって引き起こされる過剰なコラーゲン発現を抑制することにより、このような現象が関与する疾患、すなわち、線維化並びに肥厚性瘢痕等の治療及び予防薬として用いることが出来ることが判る。