(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5963773
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】流体不透過性断熱ホルダ
(51)【国際特許分類】
B63B 25/16 20060101AFI20160721BHJP
B65D 90/04 20060101ALI20160721BHJP
B63J 2/12 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
B63B25/16 F
B65D90/04 B
B63B25/16 E
B63B25/16 P
B63J2/12 A
【請求項の数】11
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-548376(P2013-548376)
(86)(22)【出願日】2012年1月9日
(65)【公表番号】特表2014-502935(P2014-502935A)
(43)【公表日】2014年2月6日
(86)【国際出願番号】NL2012000004
(87)【国際公開番号】WO2012096569
(87)【国際公開日】20120719
【審査請求日】2014年12月16日
(31)【優先権主張番号】1038506
(32)【優先日】2011年1月10日
(33)【優先権主張国】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】513173671
【氏名又は名称】アクシード ビー.ヴイ.
【氏名又は名称原語表記】ACCEDE B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】イエンクホーン、エリック、ジェローン
【審査官】
中村 泰二郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−208992(JP,A)
【文献】
特開2005−009609(JP,A)
【文献】
特開平05−085463(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0045195(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 25/16, 3/68
B63J 2/14
B65D 90/02−90/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持構造(2)に組込む、流体不透過性断熱ホルダであり、横幅方向に内側から外側を見て、該ホルダの壁(3)が:
前記ホルダに収容する流体(4)に接触する一次流体バリア層(5)と、一次断熱層(6)とを含む、前記ホルダであって、
前記一次流体バリア層(5)の材料を、低温でも軟質なプラスチックとし、該プラスチックを、ポリアミド系とし、
前記一次断熱層(6)を、繊維のウェブ層又は不織布層によって分離した、2層の透過性織物を含む織物3D層とすること
を特徴とするホルダ。
【請求項2】
前記一次断熱層(6)は、2層以上の織物3D層を備える、請求項1に記載のホルダ。
【請求項3】
前記ホルダ壁(3)は、低温で固くならず又は凍結しない材料の二次断熱層(7、8)を備える、請求項1又は2に記載のホルダ。
【請求項4】
前記二次断熱層(7、8)の材料に、パンヤ(kapok)を選択する、請求項3に記載のホルダ。
【請求項5】
二次流体バリア層(6a、6b)を、前記織物3D層の外側に設ける、請求項1乃至4の何れか一項に記載のホルダ。
【請求項6】
2層の二次流体バリア層(6a、6b)を、織物3D層の外側其々に設ける、請求項5に記載のホルダ。
【請求項7】
前記二次流体バリア層(6a、6b)を、前記織物3D層の外側に、前記透過性織物層と、固定して結合−積層−する、請求項5又は6に記載のホルダ。
【請求項8】
前記ホルダ壁(3)の前記繊維3D層(6)の前記不織布層が、冷却剤を輸送する経路又は中空壁部を構成する、請求項6に記載のホルダ。
【請求項9】
前記経路又は前記中空壁部が、前記ホルダの全周に延在する、請求項8に記載のホルダ。
【請求項10】
前記経路又は前記中空壁部は、冷却剤のための供給導管(9)及び放出導管(10)を備える、請求項8又は9に記載のホルダ。
【請求項11】
窒素を、冷却剤として選択する、請求項8乃至10の何れか一項に記載のホルダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持構造体、好適には船殻に組込む流体不透過性断熱ホルダであって、横幅方向に内側から外側に見た該ホルダの壁部が、該ホルダに収容した流体と接触する一次流体バリア層、及び一次断熱層を含む流体不透過性断熱ホルダに関する。
【背景技術】
【0002】
船の構造体に組込むそうしたホルダは、液化ガス、特に、LNG(液化天然ガス)等のメタン含量が多いガス等の低温流体を、製造、貯蔵、充填、海上又は洋上輸送、及び/又は放出するのに適している。極めて低温でLNGを海上輸送するために、LNGが蒸発する割合が高く、航海中、液化ガスを極めて良好に断熱する必要がある。
【0003】
タンクローリーや輸送トラックの輸送可能なタンク内の貨物は、様々な原因、例えば、加速若しくは速度を上げること、又はブレーキをかける若しくは減速すること、カーブで速度が速い;或いは(異常接近)衝突により急ハンドルを切ることによって、不所望な動的挙動を示すことがあり、結果的に車両が横転する場合さえあることが知られている。この作用は、大部分が、貯蔵タンク、トラック又はタンカーに収容する貨物の種類に左右される。例えば、移動自在(低粘性)の液体は、タンカーを急操作すると、運動し易くなる。液体の前後方向の運動又はスロッシングにより、更なる衝撃力が加わり、それによってタンカー又はトラックが加速し、横転する。タンクの軸長手方向又は走行方向に液体がスロッシング又は振動するのを防ぐための法的規制により、バッフルプレートが、一定の限界を超えた容量を有するホルダ内部に取付けられる。こうしたバッフルプレートには、軸方向の液体運動を減衰するだけで、液体の非軸方向の運動、同様な径方向又は接線方向の運動は、減衰しない、或いは僅かに減衰するだけという、短所がある。また、そうしたバッフルプレートには、プレート自体に質量及び体積があり、そのため、ホルダの容量が減少してしまう。その上、そうしたバッフルプレートは、通常ホルダの内側に固定して取付けられ、そのために、人手がかかる内部の取付け、点検、修理、掃除が必要となる。また、ホルダ内側に固定して取付けたプレートは、衝撃力や振動する液体のエネルギの一部をホルダ及びホルダ壁に伝達する。
【0004】
水路輸送用タンカー船及び/又は海上で流体(液体及び気体)を貯蔵するためのタンカー船では、液体の揺動やスロッシングも、水のうねりや水上での船の上下運動によって発生する。一般に、LNGタンカー又は運搬船などのガスタンカーは、大気圧で、約−162°Cの温度で冷却し、凝縮したガスを貯蔵及び/又は輸送する、2つ以上のホルダを含む。ホルダは、通常、球形をした「自立」式とすることができる、又は「メンブレン」式とすることができる。「メンブレン」式ホルダは、船殻によって直接支持され、船の支持構造と一体化される。こうした「メンブレン」ホルダは、船殻によって支持され、スロッシングする液体によって内部にかかる応力に対する抵抗が弱く、海上での使用にそれ程適していない。
【0005】
「メンブレン」式ホルダ内では、輸送するガスは、大気圧で液体状態だけでなく蒸気状態でも存在する。液体は、外部からの熱伝導によって供給されたエネルギ、また液体貨物のスロッシング又はうねりが原因で液体に吸収されたエネルギの結果、「沸騰」する。ガスタンカーのホルダ内での液体の揺動又は揺れは、水のうねりだけでなく、ガスタンカーの貨物重量の程度によっても左右される。貨物重量の程度が増大すると、船は水中により深く沈む、そのため船及びホルダ内の貨物に関する固有周波数や、振動及び揺動周波数が変化する。ガスタンカーにおいても、液体のスロッシング及び揺れが、エネルギ吸収に繋がり、ひいては液体の蒸発に繋がるという作用が発生し、更に冷却する、そうでなければ余分なエネルギを除去する必要が出て来る。以下、用語LNGタンカーは、液化ガスの貯蔵及び/又は輸送用のガスタンカーを意味する。
【0006】
こうした全ての作用により、容器の容量を完全に活用できず、そのため一般的に充填率が、10%〜75%の値にまで減少している。その結果、運航上の制約が、特に現物市場で運航するLNGシャトルタンカーで、出て来、該タンカーが、例えば、圧倒する海上状態のためにブイに係留できないために、商業的に望ましい又は運航上必要な量を、放出又は積載できなくなり、結果的に取引が駄目になってしまう。また、掘削孔付近の浮上貯蔵体としてLNGタンカーを使用して、油田及びガス田を開発する際にも、最大容量を、波や水のうねりでも出来る限り安定的に確保するのが望ましい。LNGタンカーは、雰囲気熱を使用して、低温液体(天然)ガスを蒸発させ、ガスを顧客に送給する、所謂「再ガス化(re−gasification)」にも、使用される。
【0007】
液体ガスは、温度及び圧力に応じて、ホルダ内で液気平衡となる。圧力及び温度は、大気条件下で、ホルダ内のガス生成物が、沸騰した液体として本質的に存在するように、選択する。従って、液体上の自由空間は、液体状態のガス生成物の蒸気又は気体で完全に満たされる。
【0008】
流体不透過性断熱「メンブレン」ホルダの壁は、複数の層から成る。横幅方向に内側から外側を見ると、まず一次流体バリア層が、低温流体と接触した状態で、適用されている。この一次流体バリア層は、厚さ約0.1mmの金属シート及び/又は金属箔及び/又は金属膜から構成される。金属が温度変化と共に伸縮するので、複雑な結合がシート間で必要となり、シートには、ひび割れ又は裂け目を防ぐために、ジグザグ又はコルゲート構造を備えねばならない。このために、そうした一次流体バリア層は、製造及び適用するのが複雑となり、そのため高価になる。また、この「メンブレン」式ホルダの壁は、ホルダ内部でスロッシングした液体から生じた衝撃や他の応力を受容及び吸収する能力が殆ど無い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
よって、本発明の目的は、安価に製造でき、ホルダ内部の液体によって加えられる衝撃や他の応力を受容及び吸収できる、安価な流体不透過性断熱ホルダを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を、流体不透過性断熱ホルダの壁を設けることで、本発明によって達成するが、該ホルダの壁に関して、一次流体バリア層の材料を、低温でも軟質なプラスチックとし、該プラスチックを、ポリアミド系とし、一次断熱層を、繊維のウェブ層又は不織布層によって分離した、2層の透過性織物を含む織物3D層とする。
【0011】
低温の軟質プラスチックを適用することで、一次流体バリア層の伸縮を補償するために、包括的な対策を講じる必要がなくなる。ポリアミド及び芳香族ポリアミド又はアラミド系プラスチックは、この目的に特に適していると思われる。また、これらのアラミドは、Kevlar、Nomex、Twaronの商標名で知られている。織物3D層を使用すると、不織布繊維間の空気の割合が高くなるため、高い断熱性が得られるという利点が、また、不織布繊維によって衝撃吸収効果が向上するという利点がある。この織物3D層は、Muller Textil社の商標名3meshでも知られている。
【0012】
好適実施形態では、一次断熱層は、2層以上の織物3D層を含む。この一次断熱層を、1層の織物3D層から構成すると有利だが、2層以上の織物3D層から断熱層を組立てても有利で、一般的に、コストが低くなる。
【0013】
好適には、ホルダ壁は、低温で固くならない又は凍結しない材料製の二次断熱層を備える。特に、パンヤ(kapok)を、二次断熱層の材料に選択する。低温で凍結しない又は固くならない、パンヤ等の材料を採用した層を適用することで、耐衝撃性が向上したホルダ壁を、得られる。パンヤは、パンヤノキ(学名:Ceiba pentandra)の実で成長する天然の中空繊維である。
【0014】
好適には、二次流体バリア層を、織物3D層の外側に設ける。
【0015】
2層の二次流体バリア層を、織物3D層の外側に其々設ける実施形態が、好ましい。
【0016】
特に、二次流体バリア層を、織物3D層の外側で、透過性織物層と、固定して結合−積層−する。
【0017】
これらの解決方法では、二次流体バリアを、低コストでホルダの壁に容易に設置できる。流体バリア層を、低コストで繊維3D層の繊維層と予め容易に結合できる−これを、積層とも呼ぶ−。
【0018】
ホルダ壁の繊維3D層の不織布層を、冷却剤を輸送する経路又は中空壁部とする実施形態が、有利である。特に、経路又は中空壁部を、ホルダの全周囲に延在させる。更に詳しくは、経路又は中空壁部は、冷却剤のための供給導管及び放出導管を備える。
【0019】
織物の3D層の織物層に流体バリア層を適用することによって、経路又は空洞又は中空空間を、ホルダの壁に配設し、それにより、環境から漏出する熱を除去して、ホルダ内の液体の蒸発を軽減するために、窒素等の冷却剤を、供給導管から放出導管まで輸送できるようにする。従って、冷却剤によって、経路又は空洞を加圧することもでき、それにより織物の3D層が、より高い剛性や機械的強度を得られるようになる。
【0020】
本発明について、ホルダの壁に関する図面及び幾つかの実施形態を用いて、更に説明するが、その説明により、特徴や他の利点も明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明による不透過性断熱ホルダを備える船殻を有するLNGタンカーについて、断面で示している。
【
図2】
図1のホルダの壁に関して詳細を示している。
【
図3】冷却剤用経路を備える
図1のホルダの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、液化ガス4を貯蔵するホルダを備えた船を示している。この実施例では、図示した船は、特に、LNG(液化天然ガス)等の液化ガスを収容するのに適したように設計されている。液化ガスを輸送するのに適したガスタンカーを、これ以降、LNGタンカーで示す。LNGタンカーは、ホルダ内を適切な温度及び圧力に維持することによって、ガスを液化状態に保つための、手段及び施設を備えている。流体不透過性断熱ホルダを、船の二重壁船殻2に取付け、組込む。船は、海1等の水に浮かぶ。ホルダの壁3を、横幅方向から見て、多数の層で構成する。ホルダの壁3を、船殻2の側壁及び下側壁で支持する。
【0023】
図2では、ホルダ壁3と船壁2を、厚さ横幅方向に左から右に見て、更に詳細に示している:液化ガス4及び該液化ガス4と接触する一次流体バリア層5。好適には、流体バリア層5を、大気中のLNG温度である−170°C等の低温でも軟質を維持するプラスチック材料から製造する。流体バリア層5を、ナイロンとして知られる材料等の、完全に又は主にポリアミドから構成する。流体バリア層5を、どちらか一方の均一層(織布及び/又は不織布)とできる、或いは片面又は両面に不透過層を有する織布キャリアから構成できる。
【0024】
また、流体バリア層5を、芳香族ポリアミドプラスチック系材料を含有して製造することもできる。また、このプラスチックは、芳香族ポリアミド又はアラミドとも呼ばれ、商標名Kevlar、Nomex、及びTwaronとしても知られている。
【0025】
図2の厚さ方向(横幅方向)に見ると、一次流体バリア層5の右に、一次断熱層6を、好適には、Muller Textil社の商標名「3mesh」としても知られる、3D層の織物を基にして設ける。この織物3D層は、解織物又は透過性(織布)織物の2層間に、コアウェブ層又はコア不織繊維糸を含む。一次断熱層6を、単一の織物3D層から構成してもよい、又は2層以上の3D層の織物から構成することもできる。一次流体バリア層5と一次断熱層6との間に、好適には、不凍性材の二次断熱層7を設け、それにより二次断熱層7が、低運転温度でも固くならずに、弾性を保つようにして、流体によって該層にかかる衝撃や他の応力を、適切に受容し吸収するようにできる。好適には、この材料として、−170°Cの温度でも凍らず、固くならない天然の中空繊維であるパンヤ(kapok)を選択する。ホルダ壁3は、一次断熱層6と(二重)船壁2との間に配置する第2の二次断熱層8を備えてもよい。この断熱層8は、船壁2−通常、鉄鋼等の金属製−の内側を、当該金属が許容可能な最低値より低い温度に対して保護する。また、織物3D層は、透過性織物の外側に設ける二次流体バリア層6a、6bを備えてもよい。この二次流体バリア層6a、6bを、織物3D層6の透過性織物層に、接合、接着又は積層することによって、取着できる。また、二次流体バリア層6a、6bを、織物3D層6の両外側にも設けられる、又は積層できる。
【0026】
図3は、冷却剤を輸送するための経路、中空空間又は空洞を備えた、流体不透過性断熱ホルダのホルダ壁3の別の実施形態を示している。好適には、窒素を、冷却剤として選択する。流体バリア層6a、6bを、織物3D層の透過性織物層に取着する場合に、不織布層を、窒素等の冷却剤用流路として使用できる。
【0027】
冷却剤を、供給導管9から放出導管10に流入可能にすることによって、環境から漏入する熱を除去でき、それにより容器4中の液体の蒸発を軽減するようにできる。また、冷却剤によって、経路又は空洞における過剰な圧力を提供可能となり、それにより織物3D層が、より高い剛性や機械的強度を得られるようになる。