(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【技術分野】
【0001】
太陽電池は、概略シリコン系・化合物系・有機系の3つに分類され、最も広く用いられているのがシリコン系であるが、最近、化合物系太陽電池は薄くて経年変化が少なく光電変換効率が高くなると期待され開発が進んでいる。化合物系は、光吸収層の材料として、シリコンの代わりに、銅(以下Cuという)、インジウム(以下Inという)、ガリウム(以下Gaという)、セレン(以下Seという)、イオウ(以下Sという)などから成るカルコパイライト系と呼ばれるI−III−VI
2族化合物を用いる。代表的なものは二セレン化銅インジウムCuInSe
2(以下CISという)、二セレン化銅インジウム・ガリウムCu(In,Ga)Se
2(以下CIGSという)や、二セレン・イオウ化銅インジウム・ガリウムCu(In,Ga)(S,Se)
2(以下CIGSSという)がある(特許文献1等参照)。
【0002】
カルコパイライト型化合物半導体は、p型半導体にもn型半導体にもなる特性を有し、直接遷移半導体であり、光吸収特性に優れ、禁制帯幅はイオウ化アルミニウム銅CuAlS
2の3.5eVから、テルル・インジウム銅CuInTe
2の0.8eVと幅広い波長をカバーしており赤外域から紫外域までの発光、受光素子の製造も可能である。特に多結晶CIGS太陽電池は、優れた光吸収特性を生かして変換効率が20.3%という報告もある(非特許文献1参照)。
【0003】
太陽電池の変換効率をいかに向上させるかについては、さまざまな技術開発が行われているが、カルコパイライト型化合物半導体を用いた太陽電池は、基板材料としてソーダライムガラスを使用したものが最も高い変換効率が得られ、基板効果と呼ばれていた。
【0004】
その後、M.Bodegad等により、基板となるソーダライムガラス中のナトリウム(Na)成分が光吸収層であるCuInSe
2膜中に拡散して成長することが示され、そのNaが拡散したCuInSe
2膜を用いた太陽電池のエネルギー変換効率が高くなることが報告された(非特許文献2参照)。
【0005】
また、B.M. Keyes等によるNaの影響を報告した例もある(非特許文献3参照)。
【0006】
さらに、M.Ruckh等により、Na成分を含んだガラス上に堆積したCIGS膜の抵抗値が小さいこと、基板上にNa
2O
2膜を堆積した後にCIGS膜を形成した太陽電池では、エネルギー変換効率がNa
2O
2膜を堆積していない太陽電池の約2%向上することが示された。また、通常Cu/In比に大きく依存するエネルギー変換効率がCu/In比にかかわらず一定になることが報告されている(非特許文献4参照)。
【0007】
ソーダライムガラスに含まれるNa成分を利用する場合は、エネルギー変換効率が他の基板を使用する場合よりも向上するものの安定に制御することが難しく、特性のバラツキが生じていた。また、Naを含まない基板では、Naを光吸収層に拡散する必要があり、以下に示すさまざまな方法が提案されている。
【0008】
その一つは、基板上に裏面電極を形成し、その裏面電極上にプリカーサ膜を形成して、セレン(Se)またはイオウ(S)雰囲気中で熱処理することによってCIGS系の光吸収層を製造し、その光吸収層上にバッファ層を介して透明電極を形成するようにした薄膜太陽電池の製造方法において、その熱処理時に効率良く効果的に光吸収層にIa族元素(アルカリ金属)を拡散させることができるように、Ia族元素を含む基板(例えばソーダライムガラス基板)を用いて、熱処理時にその基板のIa族元素が光吸収層に拡散するようにしたうえで、裏面電極の膜厚、膜質の適正化を図り、その拡散量を制御するものである(特許文献2参照)。
【0009】
また、太陽電池における裏面電極上にプリカーサ膜を形成して、Se雰囲気中で熱処理することによってCIGS系の光吸収層を製造する方法において、エネルギー変換効率を向上させるために光吸収層にIa族元素のアルカリ成分を拡散させる層を、変質や剥離の問題を生ずることなく、簡単な工程で得ることができるようにするべく、アルカリ金属を含む水溶液に裏面電極を浸漬したのち乾燥させて裏面電極上にアルカリ層を形成する方法もある(特許文献3参照)。
【0010】
他の方法として、カルコパイライト型薄膜太陽電池の製造方法は、基板上に形成された裏面電極層上に、In、Cu及びGa金属元素を含有成分としたプリカーサを形成する第1工程と、このプリカーサに対してモリブデン酸ナトリウム含有水溶液を付着する第2工程と、第1及び第2の両工程を経た基板に対して、H
2Seガス雰囲気中で熱処理を行うセレン化工程と、光を透過する導電性の層を成膜する導電透明電極形成工程とを行う。カルコパイライト化合物(Cu(In+Ga)Se
2)の結晶成長を促進するものとして、モリブデン酸ナトリウム(Na
2MoO
4)含有水溶液を用いるため、モリブデン酸ナトリウム中のモリブデン原子が遷移金属特有の触媒機能により、光吸収層の表面からセレン化反応を促進し、これにより結晶性の向上が得られる。
【0011】
また、モリブデン酸ナトリウム(Na
2MoO
4)は、従来用いられてきた四ホウ酸ナトリウム水和物に比べて分解率が高く、光吸収層表面に対するナトリウム原子の付着率が高くなり効率が良いという利点がある。したがって、結晶化促進のための光吸収層への付着溶液の濃度を低く抑えることができ、この結果、水溶液の付着ムラに起因する斑状しみの発生を抑制することができる(特許文献4参照)。
【0012】
さらに、基板上に、背面電極、カルコパイライト吸収層及び前面電極を有する太陽電池を製造する方法において、吸収層の製造前又は製造中にNa,カリウム(K)及びリチウム(Li)から選択される元素の化合物をドーピングにより添加し、かつ製造工程中の吸収層内への基板からアルカリ金属イオンの付加的拡散を、拡散遮断層を基板と吸収層の間に配置することにより阻止し、それにより完成した吸収層内における前記元素の所望のかつドーピングにより決まる濃度を調整する方法もある(特許文献5参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、Ia族元素を含む基板を用いて、裏面電極の膜厚、膜質の適正化により熱処理時にその基板のIa族元素が光吸収層に拡散する拡散量を制御する方法は、基板に使用される材料にIa族元素を含まないと使用できない問題がある。
【0016】
また、裏面電極となるMo金属層上に蒸着法またはスパッタリング法によりNa成分層を形成し、さらに、In層及びCu−Ga層などの積層プリカーサを形成する方法は、形成されるNa成分層が吸湿性を備えているため、成膜後の大気曝露時に変質し、層内で剥離が生じることがある。
【0017】
さらに、吸収層の製造前又は製造中にNa,カリウム(K)及びリチウム(Li)から選択される元素の化合物をドーピングにより添加する方法は、製造工程が複雑化する問題がある。
【0018】
本発明は、CIGS太陽電池及びCIGSS太陽電池において、光変換効率を向上させるために、光吸収層であるCIGS膜又はCIGSS膜へのNaの拡散が高精度に制御可能で、製造方法も簡単な光吸収層用合金と、光吸収層用合金によるスパッタリングターゲットの製造方法及びその光吸収層用スパッタリングターゲット用いた太陽電池の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、銅、インジウム、ガリウム、セレンに、Ia族元素を添加した、太陽電池製造の光吸収層材料として用いる光吸収層用合金である。成膜前の光吸収層材料にIa族元素を入れることで、成膜工程でIa族元素が光吸収層に拡散される。
【0020】
本発明による光吸収層用合金は、銅、インジウム、ガリウム、セレン及び、Ia族とVIa族元素とからなる化合物を高温で結晶化させて製造される。Ia族とVIa族元素からなる化合物とするのは、Li、Na、K等のIa族元素のみからなるアルカリ金属は、水分や酸素と激しく反応するからである。
【0021】
また、本発明による光吸収層用合金は、銅、インジウム、ガリウム、セレン、及びIa族元素に、さらにイオウを加えた光吸収層用合金である。この光吸収層用合金は、銅、インジウム、ガリウム、セレン、イオウ及び、Ia族とVIa族元素からなる化合物を高温で結晶化させて製造する。Ia族とVIa族元素からなる化合物とするのは、Li、Na、K等のIa族元素のみからなるアルカリ金属は、水分や酸素と激しく反応するからである。
【0022】
Ia族とVIa族元素とからなる化合物は、セレン化ナトリウムであり、Ia族のNaはCIGS結晶中又はCIGSS結晶中に拡散しNa効果を発現し、VIa族元素としてCIGS4元系合金またはCIGSS5元系合金の成分であるSeとすることで、CIGSまたはCIGSSのSe空孔を埋める効果がある。
【0023】
銅、インジウム、ガリウム、セレン、及びIa族元素に、さらにイオウを加えた光吸収層用合金においては、硫化ナトリウムであってもよい。Ia族のNaはCIGSS結晶中に拡散しNa効果を発現し、VIa族元素としてCIGSS5元系合金の成分であるSとすることで、CIGSSのS空孔を埋める効果がある。
【0024】
銅、インジウム、ガリウム、セレンにIa族元素を添加した光吸収層用合金を製造する方法は、銅、インジウム、ガリウムを含む化合物を高温で結晶化させてCIG3元系合金を製造する第1工程と、CIG3元系合金を粉砕してCIG3元系合金粉末を製造する第2工程と、粉砕されたCIG3元系合金にセレン及び、Ia族とVIa族元素からなる化合物を混合し、高温で結晶化させてCIGS4元系合金を製造する第3工程と備えている。
【0025】
CIG3元系合金を製造する第1工程とCIGS4元系合金を製造する第3工程での温度は、1000〜1100℃であり、CIG3元系合金を製造する第1工程終了後室温に戻し、室温でCIG3元系合金を粉砕してセレン及び、Ia族とVIa族元素からなる化合物を混合する。CIG3元系合金を製造する第1工程及びCIGS4元系合金を製造する第3工程は、いずれも温度を1時間に100℃以下で昇温し、1000〜1100℃の温度を6時間以上維持し、温度を1時間に100℃以上で降温し室温に戻す温度制御を行う。
【0026】
CIG3元系合金を製造する第1工程における銅、インジウムとガリウムは、アンプルに真空封入されていること、及び、CIGS4元系合金を製造する第3工程における粉砕されたCIG3元系合金、セレン及び、Ia族とVIa族元素からなる化合物は、アンプルに真空封入されている。
【0027】
次に、銅、インジウム、ガリウム、セレン、イオウ及び、Ia族元素からなる光吸収層用合金を製造する方法は、銅、インジウム、ガリウムを含む化合物を高温で結晶化させてCIG3元系合金を作製する第1工程と、CIG3元系合金を粉砕してCIG3元系合金粉末を作成する第2工程と、粉砕されたCIG3元系合金にセレン、イオウ及び、セレン化ナトリウムを含む化合物を混合し、高温で結晶化させてCIGSS5元系合金を作製する第3工程とを備える。
【0028】
また、銅、インジウム、ガリウム、セレン、イオウ及び、Ia族元素からなる光吸収層用合金を製造する方法は、銅、インジウム、ガリウムを含む化合物を高温で結晶化させてCIG3元系合金を作製する第1工程と、CIG3元系合金を粉砕してCIG3元系合金粉末を作成する第2工程と、粉砕されたCIG3元系合金にセレン、イオウ及び、硫化ナトリウムを含む化合物を混合し、高温で結晶化させてCIGSS5元系合金を作製する第3工程とを備える。
【0029】
銅、インジウム、ガリウム、セレン、イオウ及び、Ia族元素からなる光吸収層用合金を製造する方法であって、温度制御を1プロセスで行なう製造方法としては、銅、インジウム、ガリウム、セレン、イオウ及びセレン化ナトリウムをアンプルに真空封入する第1工程と、アンプルを、まず200℃に上昇させて一定時間維持した後に、1050℃に昇温して一定時間維持し、その後電気炉のヒーターを停止して室温に戻す第2工程とを備える。
【0030】
セレン化ナトリウムまたは硫化ナトリウムを含む化合物を使用して光吸収層用合金を製造する場合に、CIG3元系合金を製造する第1工程及びCIGSS5元系合金を製造する第3工程において、混合された原材料は、アンプルに真空封入されている。
【0031】
光吸収層用合金の製造に使用するアンプルは、カーボンコートされ、石英ガラスを使用することが好ましい。
【0032】
光吸収層用合金の製造方法により製造された光吸収層用合金は、スライスされて光吸収層スパッタリングターゲットが製造される。
【0033】
光吸収層スパッタリングターゲットの他の製造方法は、光吸収層用合金の製造方法により製造された光吸収層用合金を粉砕して粉末化する粉末化工程と、粉末化した光吸収層用合金を加圧加工でバルク化するバルク化工程と、バルク化した光吸収層用合金をスライスするスライス工程とを備える。
【0034】
本発明による、光吸収層用スパッタリングターゲットを用いて、スパッタリング装置により、基板上に積層された裏面電極上に光吸収層をスパッタリングにより成膜する薄膜製造工程を備えた製造方法で太陽電池を製造することができる。
【0035】
また、本発明による、光吸収層用スパッタリングターゲットを用いて、真空蒸着装置により、基板上に積層された裏面電極上に光吸収層として真空蒸着により成膜する薄膜製造工程を備えた製造方法で太陽電池を製造することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、太陽電池の光吸収層を形成するための光吸収層用合金は、CIGS4元系合金またはCIGSS5元系合金にNa等のIa族元素を混入させて結晶化するので、所望の組成比が正確に制御できる。このNaが添加された光吸収層用合金をスパッタリングターゲットとしてスパッタリング装置に使用し、スパッタにより光吸収層を成膜するので、ナトリウム等のIa族元素の均一な拡散が得られる。製造した光吸収層用合金は、真空蒸着装置に使用して、真空蒸着により光吸収層を成膜してもよく、この場合においてもNa等のIa族元素の均一な拡散が得られる。
【0037】
光吸収層用合金であるCIGS4元系合金またはCIGSS5元系合金にNa等のIa族元素を混入させて結晶化させているため、太陽電池の光吸収層としての成膜も特別な工程を必要とせず、低コストで光エネルギーに対するエネルギー変換効率の高い太陽電池の製造が可能である。
【0038】
さらに、光吸収層用合金であるCIGS4元系合金またはCIGSS5元系合金にNa等のIa族元素を混入させて結晶化させているため、基板にNa元素を含まないアルミナ、無アルカリガラス、ステンレスや、ポリイミドフィルム等の高分子フィルムを使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0040】
太陽電池の光吸収層として機能するp型半導体の材料として使用される化合物半導体は、元素周期表においてIV族(Si,Geなど)をはさんでIV族から等間隔にある2種の元素で化合物をつくると、同様の化学結合ができて半導体になる性質を利用しており、アダマンティン系列に属するI−III−VI
2族元素であり、結晶構造はカルコパイライト型構造である。
【0041】
カルコパイライト型結晶構造は、I族のCu,III族のGaやIn,VI族のSやSe各原子が4配位になっており、正方晶系の結晶構造を有している。カルコパイライト型の半導体は、禁制帯幅が0.26から3.5eVと広い範囲に及んでいるが、I−III−VI
2族元素は、イオン性が強い半面、移動度がI−IV−V
2族より弱く、このため、従来使用されている代表的なCISやCIGSは、望ましい禁制帯幅よりも低い値で動作している。
【0042】
カルコパイライト型化合物結晶の禁制帯幅は、CISが1.04eV、CGSが1.68eV、CuInSが1.53eVである。また、光吸収層として機能させるためには、p型半導体としての移動度も高い方が望ましく、それぞれの移動度は、CISが50cm
2/V・s、CGSが40cm
2/V・s、CuInSが15cm
2/V・sである。CuInS
2は、理想的な禁制帯幅となっているが、太陽電池として使用するためには移動度が低い。
【0043】
一方、現在光吸収層として多く使用されているCISやCIGSは、人体に有害なSeを使用しているため、なるべくSeを減らしたいという期待もあり、Seの一部をSで置き換えたCIGSSが提案されている。
【0044】
CIGS太陽電池の光吸収層にIa族元素、例えばNaを拡散することにより光エネルギーに対するエネルギー変換効率が向上することが知られている。従来、Naは、ソーダライムガラスから裏面電極として用いられているモリブデンMoの薄膜を通して、CIGS薄膜に拡散させている。この方法では、Naの拡散が不均一となるために、フッ化ナトリウム(NaF)などのNa化合物を、アルカリバリア層を設けた後に蒸着してNa源としたり、CIGS成膜中に、NaFなどのNa化合物を同時蒸着したりしている。
【0045】
また、CIGS太陽電池の光吸収層におけるCIGSSは、基本的な3つの結晶であるCIS,CGSとCuInS
2を混合して構成される構造である。即ち、禁制帯幅が1.04eVのCISと禁制帯幅が1.68eVのCGSを混合して、禁制帯幅1.2eVのCIGSの多結晶とし、さらに、Seの量を減らすために、禁制帯幅が1.54eVのCuInS
2多結晶を混合した構造である。CuInS
2は移動度が15cm
2/V・sと低いが、最終的なCIGSSの禁制帯幅を1.4eVとできる。
【0046】
このように、CIGSS太陽電池は、禁制帯幅を太陽電池としての望ましい値である1.4〜1.5eVとすることができるが、Gaの増加がエネルギー変換効率を低下させている。このため、CIGSS光吸収層にIa族元素を拡散させて、アルカリ金属効果によりキャリア濃度を増大させ、エネルギー変換効率の向上を図ることができる。
【0047】
しかしながら、Ia族元素をCIGS層やCIGSS層内に所望の量を均一に拡散することは難しく、このため、本発明では、まず、光吸収層用合金として、Ia族元素であるNaを添加したCIGS4元系合金(以下、Na添加CIGS4元系合金という。)及びNaを添加したCIGSS5元系合金(以下、Na添加CIGSS5元系合金という。)を製造した。このNa添加CIGS4元系合金及びNa添加CIGSS5元系合金からスパッタリングターゲットを製造することにより、スパッタリングや真空蒸着で光吸収層を成膜するときに、同時にNaをCIGS膜やCIGSS膜内に拡散させて、均一な拡散を得ることができる。
【0048】
本発明は、Na添加CIGS4元系合金及びNa添加CIGSS5元系合金と、その製造方法、並びに、Na添加CIGS4元系合金及びNa添加CIGSS5元系合金によるスパッタリングターゲットを用いて、1プロセスでNaが均一に拡散された光吸収層を製造するCIGS太陽電池及びCIGSS太陽電池の製造方法である。
【0049】
まず、Na添加CIGS4元系合金の製造方法について実施例を説明する。
【0050】
Na添加CIGS4元系合金は、構成元素をCu,In,Ga,SeとNaとする。この元素構成では、In単体とSe単体は混合すると化学的に反応して発熱し、著しい場合には爆発する。さらに、Naは水や酸素と激しく反応する。このため、InとSeは、単体同士を混合させないように、分離して結晶化させる。また、Naは単体として混合することを避けるために、VI族元素であり、CIGS4元系合金の構成元素の1つであるSeとの化合物であるセレン化ナトリウム(Na
2Se)を使用し、安全な製造方法とすることが必要とされる。NaはCIGS結晶中に拡散しNa効果を発現させると共に、VIa族元素をCIGS4元系合金の成分であるSeとすることで、CIGS結晶のSe空孔を埋める効果を生じさせる。
【0051】
光吸収層用合金として、まず、Na添加CIGS4元系合金の製造方法について説明する。
【0052】
図1は、Na添加CIGS4元系合金の製造方法の概略を示すフローチャート10である。
図1において、ステップS1では、CIGS4元系合金の元素成分からSeを除いたCu,InとGaを混合してCIG3元系合金の多結晶を製造する。次に、ステップS2で、CIG3元系合金を粉砕して、SeとNa
2Seを混合する。Inは、CIG合金として結晶化されているために、Se単体を混合しても化学的に反応することがない。また、NaもNa
2Se化合物として使用しているために、水や酸素と激しく反応することなく混合できる。次に、ステップ3でNa添加CIGS4元系合金の多結晶化を行う。これにより、Na添加CIGS4元系合金が完成する。
【0053】
図2は、Na添加CIGS4元系合金の製造方法を示すフローチャート12である。まず準備としてステップS21では、CIG3元系合金を製造するためのアンプルとCIGS4元系合金を製造するためのアンプルを用意する。アンプルは、例えば石英ガラスのアンプルを使用し、以下石英アンプルとして説明するが、石英ガラスに限定されるものではない。石英アンプルは、王水洗浄とフッ硝酸洗浄を行い、乾燥機で水分を蒸発させておく。さらにアセトンに浸した後、バーナーで熱して煤を取り除く。これにより石英アンプルはカーボンコートされ、石英からの不純物の混入を防止することができる。
【0054】
ステップS22では、Cu,InとGaを、塩酸等を用いて洗浄し、元素原子数比を1:0.8:0.2となるように秤量してカーボンコートした石英アンプルに真空封入する。
【0055】
ステップS23では、原材料が真空封入された石英アンプルを、加熱するための電気炉に入れる。ステップS24では、炉内にあるヒーターに通電して発熱させ、温度を1050℃まで上げる。そして、1050℃の高温状態を一定時間維持し、融液から結晶成長させて原材料を多結晶化させた後、ステップS25で炉内温度を室温まで下げる。これにより、CIG3元系合金が得られる。
【0056】
ステップS26では、室温まで下げられた石英アンプルからCIG3元系合金を取り出し、取り出したCIG3元系合金を粉砕する。この時、メッシュに通して均一な微粉が得られるようにする。この様な結晶粉は、InがCu及びGaと共に結晶化しているため、Seと化学的な反応をすることが無い。
【0057】
ステップS27では、粉砕したCIG3元系合金と、Se単体とNa
2SeのSe成分を加えたSe元素原子数が、元素原子数比1:2の割合となるように秤量する。この時のNa
2Seの量によりNaの添加量を制御する。秤量した材料は、カーボンコートした石英アンプルに真空封入する。そして、ステップS28で電気炉に入れる。次に、ステップ29で炉内温度を1050℃まで上げて、1050℃の温度を一定時間維持し、融液から結晶成長させて多結晶を形成した後、ステップS30で炉内温度を室温まで下げ、石英アンプルからNa添加CIGS4元系合金を取り出す。
【0058】
図3は、
図2で説明したNa添加CIGS4元系合金製造工程おける電気炉による製造状態20を示した図である。電気炉22内には加熱用のヒーター24があり、ヒーター24は、外部からの通電により発熱して炉内温度を上昇させる。電気炉22の内部に、原材料26を真空封入した石英アンプル28を入れている。炉内温度は、外部からの制御装置(図示せず。)によりコントロールされている。
【0059】
図4は、Na添加CIGS4元系合金の製造工程における電気炉内の温度制御状態30を示している。まず室温で、炉内にCu,In,Gaの原材料を真空封入した石英アンプルを入れ、ヒーターに通電して炉内温度を上昇させる。温度上昇は、例えば12時間で1050℃まで上げる。昇温時間は12時間以下でもよく、6時間から12時間であればよい。この状態で、温度を1050℃に保ったまま約24時間一定に維持する。この1000℃から1100℃の高温状態を、12時間から24時間程度維持することで、融液から結晶が成長し、CIG多結晶が生成する。この温度一定に維持する時間は自由度が大きく、厳密な時間管理は要求されない。その後、ヒーターへの通電を停止して自然降温により炉内温度を下げる。時間的には6時間以内である。
【0060】
これにより得られたCIG多結晶は、室温に戻してから粉砕され、さらにSe及びNa
2Seと混合して石英アンプルに真空封入され、再び炉内に入れられる。
【0061】
Na添加CIGS4元系合金の製造工程では、例えば10時間で、温度を室温から1050℃まで上昇させる。この温度1050℃の状態を約24時間維持する。この時間に関しても厳密な制御は要求されず、さらにその後の室温への温度低下も急冷でよい。
【0062】
CIG3元系合金の製造では、Cu,InとGaが、元素原子数比1:2の割合として説明したが、InとGaの比は、1:x:(1−x)として0<x<1の範囲で目的、機能に合わせて調整する。また、CIG3元系合金を1としたSeの割合は、1.7〜2.3の範囲で、これも目的、機能に合わせて調整する。
【0063】
次に、光吸収層用合金として、Na添加CIGSS5元系合金の製造方法について説明する。
【0064】
図5は、Na添加CIGSS5元系合金製造方法の概要を示すフローチャート40である。Na添加CIGSS5元系合金の構成元素は、Cu,In,Ga,Se,SとNaである。この元素構成では、In単体とSe単体は混合すると化学的に反応して発熱し、著しい場合には爆発する。さらに、Naは水や酸素と激しく反応する。このため、InとSeは、単体同士を混合させないように、分離して結晶化させる。
【0065】
また、Naは単体として混合することを避けるために、VI族元素であり、CIGSS5元系合金の構成元素の1つであるSeとの化合物であるセレン化ナトリウム(Na
2Se)を使用し、安全な製造方法とすることが必要とされる。CIGSS5元系合金の構成元素の1つであるSもVI族元素であり、ナトリウム化合物として、硫化ナトリウム(Na
2S)を使用してもよい。
【0066】
NaはCIGSS結晶中に拡散しNa効果を発現させると共に、VIa族元素としてCIGSS5元系合金の成分であるSeあるいはSとすることで、CIGSS結晶のSe空孔やS空孔を埋める効果を生じさせる。以下、Na
2Seを使用した場合について説明する。
【0067】
ステップS41では、CIGSS5元系合金の元素成分からSeとSを除いたCu,InとGaを混合してCIG3元系合金の多結晶を製造する。次に、ステップS42で、CIG3元系合金を粉砕して、Se,SとNa
2Seと混合する。Inは、CIG合金として結晶化されているために、Se単体を混合しても化学的に反応することがない。また、NaもNa
2Se化合物として使用しているために、水や酸素と激しく反応することなく混合できる。
【0068】
次にステップ43で、Na添加CIGSS5元系合金の多結晶化を行う。これにより、Na添加CIGS4元系合金が完成する。
【0069】
図6は、詳細なNa添加CIGSS5元系合金製造方法フローチャート42である。まず準備としてステップS51では、CIG3元系合金を製造するためのアンプルと、CIGSS5元系合金を製造するためのアンプルを用意する。アンプルは、例えば石英ガラスのアンプルを使用し、以下石英アンプルとして説明するが、石英ガラスに限定されるものではない。石英アンプルは、王水洗浄とフッ硝酸洗浄を行い、乾燥機で水分を蒸発させておく。さらにアセトンに浸した後、バーナーで熱して煤を取り除く。これにより石英アンプルはカーボンコートされ、石英からの不純物の混入を防止することができる。
【0070】
ステップS52では、Cu,InとGaを、塩酸等を用いて洗浄し、CuとInとGaの元素原子数比を1:0.8:0.2となるように秤量して、その後カーボンコートした石英アンプルに真空封入する。
【0071】
CIG3元系合金の製造では、InとGaの比は、1:x:(1−x)として0<x<1の範囲で目的、機能に合わせて調整する。また、CIG3元系合金を1としたSeの割合は、1.7〜2.3の範囲で、これも目的、機能に合わせて調整することができる。
【0072】
ステップS53では、原材料が真空封入された石英アンプルを、加熱するための電気炉に入れる。ステップS54では、炉内にあるヒーターに通電して発熱させ、温度を1050℃まで上げ、高温状態を一定時間維持し、融液から結晶を成長させて原材料の多結晶を形成した後、ステップS55で炉内温度を6時間以内に急冷させる。高品質なCIG結晶を得るためである。
【0073】
ステップS56では、得られたCIG結晶をS及びSeと十分に混合させるため、このCIG結晶を粉砕し粉末化する。粉末化したCIG結晶と、SとSeの元素原子数比を0.2:0.8となるように秤量する。このとき、Seの量は、Na
2SeのSe成分を加えたSeの元素原子数とする。Naの添加量は、Na
2Seの量によりを制御する。Na
2Sを使用する場合、Sの量は、Na
2SのS成分を加えたSの元素原子数とする。
【0074】
ステップS57では、秤量した材料、即ち、CIG多結晶の粉末,Se,SとNa
2SeのSeは、カーボンコートした石英アンプルに真空封入する。そして、ステップS58で電気炉に入れる。次に、ステップS59で炉内温度を200℃まで上げて一定時間維持した後、ステップS60で1050℃まで上げる。温度1050℃を一定時間維持し、融液から結晶を成長させて多結晶を形成した後、ステップS61で炉内温度を室温まで下げ、石英アンプルからNa添加CIGSS5元系合金を取り出す。
【0075】
図7は、SIGSS5元系合金の製造プロセスにおける電気炉内の温度制御状態44を示している。まず室温で、炉内にCu,In,Gaの原材料を真空封入した石英アンプルを入れ、ヒーターに通電して炉内温度を1050℃まで上昇させる。温度上昇は、例えば12時間で1050℃まで上げる。昇温時間は12時間以下でもよく、6時間から12時間であればよい。この状態で、温度1050℃に保ったまま約24時間一定に維持する。
【0076】
この高温状態での温度は、1000℃から1100℃で、12時間から24時間程度で融液から結晶が成長して多結晶が形成される。温度を一定に維持する時間は自由度が大きく、厳密な時間管理は要求されない。次に、ヒーターへの通電を停止して自然降温により炉内温度を下げる。時間的には6時間以内で下げる。
【0077】
これにより得られたCIG多結晶は、室温に戻してから粉砕され、さらにSe,S及びNa
2Seと混合して石英アンプルに真空封入され、再び炉内に入れられる。
【0078】
Na添加CIGSS5元系合金の製造工程では、第1ステップとして約200℃に上昇させる。SeとSは融点が低く、200℃で十分に溶融してから他の元素との混合物の他結晶を融液から結晶成長させるためである。これにより、高品質の多結晶を得ることができる。200℃までの昇温は、2時間で200℃まで上げるものとする。この状態で、約12時間保ち、次に1050℃まで6時間で上昇させる。さらに、この高温状態を約24時間一定に維持する。なお、この維持する時間は自由度が大きく、厳密な時間管理は要求されない。その後電気炉のヒーターを停止して室温に戻す。この場合、ヒーターへの通電を停止した後、室温近くになるまで放置しておいてもよい。
【0079】
なお、Na添加CIGSS5元系合金の製造方法として、In単体とSe単体は混合すると化学的に反応して発熱し、著しい場合には爆発するために、それぞれを分離して2段階で製造する方法を説明したが、勿論、発熱や爆発に十分に注意しながら、1プロセスでの製造も可能である。
【0080】
この場合は、Cu,In,Ga,Se,SとNa
2Seを秤量して同時に石英アンプルに真空封入する。
【0081】
図8は、1プロセスで製造するNa添加CIGSS5元系合金の製造方法における温度制御状態46を示している。Cu,In,Ga,Se,SとNa
2Seが真空封入されたアンプルは、SeとSの融点が低いことを考慮して、まず200℃に上昇させてSeとSを十分に融液化して、一定時間維持した後に、1050℃に昇温する。高温を維持する時間は自由度が大きく、厳密な時間管理は要求されない。その後電気炉のヒーターを停止して室温に戻す。ヒーターへの通電を停止した後、室温近くになるまで放置しておいてもよい。
【0082】
得られたNa添加CIGSS5元系合金はCIGSSの多結晶であり、スパッタ装置による太陽電池の光吸収層成膜用の材料として使用し、人体に有害な硫化ガスやセレンガスを使用しない安全な太陽電池の製造が可能となる。このNa添加CIGSS5元系合金を太陽電池の光吸収層成膜用のスパッタリング装置に設置するためには、スパタリングターゲットに成形して使用する。
【0083】
このNa添加CIGS4元系合金及びNa添加CIGSS5元系合金は、太陽電池の光吸収層成膜の材料として使用されるが、そのためスパッタリング装置に合わせた形状とするために、スパッタリングターゲットを製造する。スパッタリングターゲットの製造方法については、Na添加CIGS4元系合金及びNa添加CIGSS5元系合金とも同じであり、以下Na添加CIGS4元系合金について説明する。
【0084】
図9は、スパッタリングターゲットの製造方法のフローチャート48である。Na添加CIGS4元系合金からスパッタリングターゲットを製造する方法は、まずステップS71で、Na添加CIGS4元系合金の多結晶を粉砕して粉末化し、次いでステップS72でこの粉末を所望の形状に構成された鋳型に充填して加圧加工によりバルク化し、さらにステップS73で、バルク化したCIGS4元系合金をスライスしてスパッタリングターゲットとする。
【0085】
次に、CIGS膜中にNaを拡散させたCIGS太陽電池の構造及び、本発明によるSIGS4元系合金スパッタリングターゲットを使用した太陽電池の製造方法について説明する。
【0086】
図10は、CIGS膜中にNaを拡散させたCIGS太陽電池の構造50を示した図である。基板52上に裏面電極54として、Mo(モリブデン)層が積層されている。光吸収層56は、Naが拡散したCIGS薄膜で構成されている。光吸収層56であるp型のCIGS薄膜に対して、n型のバッファ層58を形成して太陽電池として機能させる。バッファ層58には例えばCdS(硫化カドミウム)が使用されている。さらにZnO(酸化亜鉛)等により高抵抗バッファ層60が積層され、最上部にはITO等による透明電極62が形成されている。
【0087】
基板材料には、Na成分を含まないポリイミドフィルム、チタン箔やステンレス等が使用可能である。バッファ層58は、n型の亜鉛化合物やインジウム化合物等も使用される。高抵抗バッファ層60は、光吸収層56の不均一性の影響を補償するために設けられており、ZnOの他、ZnMgO(酸化マグネシウム亜鉛)が使用されている。
【0088】
図11は、CIGSS膜中にNaを拡散させたCIGSS太陽電池の構造64を示した図である。
図11に示したCIGSS太陽電池も
図10に示したCIGSS太陽電池の構造50と同様であり、CIGSS太陽電池では光吸収層52にSが加えられていることが異なるだけである。このため、Na添加CIGS4元系合金のスパッタリングターゲットを使用した太陽電池について説明する。
【0089】
図12は、本発明により製造されたNa添加CIGS4元系合金のスパッタリングターゲットを用いた、スパッタリングによる光吸収層の1プロセス形成66の概念図を示している。裏面電極54上に、Na添加CIGSのスパッタ原子を飛ばして付着させて、光吸収層56となるCIGS薄膜を成膜する。これにより、Naが均一に拡散したCIGS層が得られる。この様に、本発明によるスパッタリングターゲットを使用すれば、Naが均一に拡散している光吸収層56を1プロセスで成膜できることに特徴を有している。
【0090】
図13は、スパッタリング装置による光吸収層の製造状態70を説明するための図である。スパッタリング装置72には、真空吸引74を行う開口部と、Ar(アルゴン)ガス76を導入する開口部と、冷却水82を注入する開口部とが設けられている。試料台84には、ガラス基板にMoの裏面電極が形成されたMo基板86を載せる。スパッタリング装置72の上部には、電極78に取り付けたスパッタリングターゲット80が設置されている。電極78と試料台84には、試料台84を陽極として直流電源92が接続されている。
【0091】
直流電源92により高電圧を印加してArガス76をイオン化し、Na添加CIGS4元系合金によるスパッタリングターゲット80に、イオン化されたAr元素88を衝突させると、Na添加CIGS4元系合金によるスパッタリングターゲット80の表面のスパッタ原子90が弾き飛ばされ、このスパッタ原子90がMo基板86に到達・堆積して成膜し、Naが均一に拡散したCIGS薄膜が1プロセスで形成される。
【0092】
図14は、この1プロセスでのCIGS成膜方法により、Na添加CIGS4元系合金のスパッタリングターゲットを使用した太陽電池の製造方法96の一例を示すフローチャートである。
【0093】
ステップS81では、基板にMoをスパッタ法により成膜する。続くステップS82では、各セルの直列接続のため裏面電極を削ってパターンニングする。そして、ステップS83で、上記に説明した様に、Naが拡散したCIGS光吸収層をスパッタリン装置により1プロセスで形成する。
【0094】
さらにステップS84で、形成されたCIGS光吸収層を強アルカリ性水溶液に浸して、溶液成長法によりバッファ層を成膜する。続いてステップS85で、CIGS光吸収層及びバッファ層を削ってパターンを形成する。ステップS86では、バッファ層の上に、例えばMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)装置により、ZnO等を材料として透明な導電膜層を成膜する。ステップS87では、再び導電膜層を削ってパターンニングし、ステップS88で、アルミニウム等によるバスター電極を裏面電極に半田付けし、基板上に積層されている層を、カバーガラスを封止材で封止して太陽電池が完成する。
【0095】
以上、本発明によるNa添加CIGS4元系合金によるスパッタリングターゲットを使用した太陽電池の製造方法を説明したが、本発明によるNa添加CIGS4元系合金は、真空蒸着法による光吸収層の成膜にも使用できる。
【0096】
図15は、真空蒸着装置100の平面図であり、真空チャンバー102、拡散ポンプ104、メカニカルブースターポンプ106と油回転ポンプ108で構成されている。
【0097】
真空チャンバー102において、本発明によるCIGS4元系合金118による光吸収層の成膜が行われる。真空チャンバー102内を真空にするために、拡散ポンプ104と油回転ポンプ108により、真空チャンバー102の内部の空気を排気する。メカニカルブースターポンプ106は、ケーシング内にある2個のマユ型ロータが、その軸端の駆動ギアに入り互いに反対方向に同期回転するようになっている。吸気口から入った気体はケーシングとロータ間の空間に閉じ込められ、ロータの回転で排気口側から大気中に放出される。このため、メカニカルブースターポンプ106を、拡散ポンプ104と油回転ポンプ108と組み合わせることにより、排気速度を大幅にアップさせることができる。
【0098】
図16は、真空蒸着装置100の真空チャンバー102において、Na添加CIGS4元系合金118からの蒸着によりMo基板86上に光吸収層を成膜している状態を示している。真空チャンバー102には、Mo基板86とスパッタリングターゲット80が搭載されたタングステンボード110、ヒーター112が配置されている。さらに光吸収層の膜厚が所定の厚さになった時に成膜を停止するためのシャッター116が備えられている。
【0099】
まず蒸着試料としてのNa添加CIGS4元系合金118をタングステンボート110に入れ、その後、拡散ポンプ104、油回転ポンプ108とメカニカルブースターポンプ106を回転させて真空排気を行う。真空排気により高真空状態となったら、ヒーター電源114を入れて、ヒーター112に電流を流して加熱する。CIGS4元系合金118の温度が蒸発温度に達したらシャッター116を開ける。これにより、CIGS4元系合金118からの蒸着材料がMo基板86上に堆積し、成膜される。膜厚が所定の値となったらシャッター116を閉め、蒸着を終了する。
【0100】
この様に、本発明によるNa添加CIGS4元系合金は、真空蒸着装置を使用した真空蒸着法によっても光吸収層成膜の材料として使用できる。
【0101】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はその目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に、上記の実施形態による限定は受けない。