(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
回転機械としてのスクロール圧縮機は、渦巻き状の歯型形状を有する2つのスクロール部材を相対的に旋回運動させることにより、冷媒等の気体の圧縮を行う圧縮機である。スクロール圧縮機では、一般に、ネジ締結や溶接等で拘束された固定スクロールに対して、もう一方の可動な旋回スクロールが旋回運動するように構成されている。
【0003】
旋回スクロールには、クランク軸の偏心部と係合して摺動する旋回すべり軸受が設けられている。そして、クランク軸の偏心部と旋回すべり軸受とが潤滑油を介して摺動しながら、クランク軸の偏心部の振れ回り回転運動が旋回スクロールに伝達されて該旋回スクロールが旋回運動させられる。電動機のロータに接続されて回転運動するクランク軸は、スクロール圧縮機内に固定された主軸受および副軸受と呼ばれるジャーナルすべり軸受に対して潤滑油を介して摺動することにより支持される。
【0004】
例えばエアコンに搭載される冷媒圧縮用のスクロール圧縮機においては、一般に、低回転速度かつ低負荷な運転条件における損失低減が、エアコンの年間を通じた消費電力削減に対して特に効果が大きいことが知られている。近年、この低回転速度かつ低負荷な運転条件において、クランク軸とすべり軸受との摺動により生じる軸受損失の低減が課題となっている。
【0005】
軸受損失の低減を図るようにした従来技術としては、特開2003−239876号公報(特許文献1)に記載のものがある。この特許文献1には、「旋回スクロール5の下部に形成されたハブ8の挿入溝8aにフローティングリング部材110が自転と空転自在に保持され、フローティングリング部材110の中心には、回転軸4の偏心部4aに固定されたスライドブッシュ10が挿入されてスクロール圧縮機の摩擦損失低減装置を構成する」と記載されている(要約参照)。
【0006】
一般に、2つの面が潤滑油を介してすべり摺動する軸受等の摺動部においては、すべり速度の増加に伴い、油膜せん断による軸受損失が増加することが知られている。前記特許文献1に記載の技術では、潤滑油で満たされた回転軸の偏心部に固定されたスライドブッシュとハブとの間の空間に、自転可能なフローティングリング部材を配置した構造となっている。これにより、回転軸の偏心部に固定されたスライドブッシュとハブとの間で生ずる摺動を、スライドブッシュ外周とフローティングリング部材内周との間での摺動と、フローティングリング部材外周とハブ内周との間での摺動とに分散させることができる。このため、各摺動部位における相対すべり速度が小さくなり、油膜せん断による軸受損失が低減される。
【0007】
他の従来技術としては、特開2008−101538号公報(特許文献2)に記載のものがある。この特許文献2には、「軸受は、主軸部7aを軸支する主軸受6cと、クランク部7bを軸支するクランク軸受4cとを有する。主軸受6cはクランク側主軸受6c1とこのクランク側主軸受に隣接した電動機側主軸受6c2とで構成される。クランク軸受4c及びクランク側主軸受6c1は黒鉛を含む炭素質基材の気孔に金属を含浸したカーボン軸受で構成される。電動機側主軸受6c2は板材を巻いて形成した巻きブッシュで構成される。」と記載されている(要約参照)。
【0008】
前記特許文献2に記載の技術では、面圧の高い高負荷部となるクランク軸受及びクランク側主軸受をカーボン軸受で構成することにより、境界潤滑状態における耐摩耗性や耐焼付き性などの信頼性を確保している。
【0009】
さらに他の従来技術として、特開平9−250465号公報(特許文献3)に記載のものがある。この特許文献3には、「前記旋回軸受、前記主軸受、前記副軸受のうち少なくとも1つの軸受は、前記クランク軸と摺接する面が含油多孔質体であり、この含油多孔質体の前記クランク軸と摺接する面以外の面が油を浸透しない部材で囲まれていることを特徴とするスクロール圧縮機」と記載されている(請求項1参照)。また、「前記旋回軸受、前記主軸受、前記副軸受のうち少なくとも1つの軸受は前記クランク軸と摺接する面の両端が油を浸透しない弾性体であって、前記両端以外の面が含油多孔質体で構成され、この含油多孔質体の前記クランク軸と摺接する面以外の面が前記弾性体または油を浸透しない部材で囲まれている」と記載されている(請求項6参照)。
【0010】
前記特許文献3に記載の技術によると、軸受の性能向上を図り、油切れ、片当り、冷媒の発泡等の非定常状態時や潤滑性が悪い代替フロン使用時など、潤滑状態が厳しい環境下においも、圧縮性能及び信頼性を確保できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
≪第1実施形態≫
まず、
図1〜
図6を参照しながら本発明の第1実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係るスクロール圧縮機100を示す縦断面図である。すなわち、この第1実施形態では、本発明の回転機械について、冷媒ガスの圧縮を行うスクロール圧縮機100の例を用いて説明する。
【0021】
図1に示すように、スクロール圧縮機100は、エアコンなどの空調装置や冷凍装置などの冷凍空調用に使用される密閉形の圧縮機である。スクロール圧縮機100は、筐体を成す密閉容器102を有しており、密閉容器102内の上部には、固定スクロール103と、この固定スクロール103と噛み合って旋回運動する旋回スクロール104とが設けられている。固定スクロール103および旋回スクロール104は、それぞれ渦巻き状の歯型形状部を有している。
【0022】
また、密閉容器102内には、回転動力源としての電動機105が設けられており、この電動機105のロータにはクランク軸(軸)106が接続されている。電動機105に接続されて回転運動するクランク軸106は、密閉容器102内に固設されたフレーム107に設けられた主軸受(すべり軸受)108、及び下フレーム109に設けられた副軸受110により、回転自在に支持されている。
【0023】
クランク軸106の上部には、クランク軸106の主軸受108および副軸受110により支持される部分の軸心に対して偏心した軸心を有する偏心部106aが設けられている。この偏心部106aは、旋回スクロール104の端板104aの下面(背面)側に設けられた旋回軸受112と係合して摺動し、偏心部106aの振れ回り回転運動(偏心運動)が旋回スクロール104に伝達される。
【0024】
旋回スクロール104は、オルダムリング113により自転が規制されており、固定スクロール103に対して旋回運動をする。オルダムリング113は、旋回スクロール104の端板104aの下面(背面)側に形成された溝とフレーム107に形成された溝とに装着されている。電動機105により回転駆動されるクランク軸106を介して旋回スクロール104が旋回運動すると、吸入口114から低圧の冷媒ガスが吸い込まれて、旋回スクロール104および固定スクロール103により形成される圧縮室に導かれる。ここで冷媒ガスは、スクロール103,104の中心方向に移動するに従い容積を縮小し圧縮された後、吐出口115を介して外部へ吐出される。
【0025】
クランク軸106の内部には、その軸方向に沿って下端から偏心部106aの端面(上端面)側まで貫通する給油孔116が設けられている。密閉容器102の下部に溜められた潤滑油117が、冷媒ガスの吐出圧力を利用した後記する圧力差により、或いはクランク軸106の下端部に別途取り付けられたポンプ(図示せず)により、給油孔116を通じて押し上げられ、各軸受(主軸受108、副軸受110、旋回軸受112)の内周面とクランク軸106外周面との間の隙間に供給されるように構成されている。
【0026】
ここでは、密閉容器102内は吐出圧力となっており、また、旋回スクロール104の端板104aの下面側に形成される中間室(背圧室)118は吐出圧力と吸込圧力との中間の圧力となっている。このため、密閉容器102下部に溜められている潤滑油117は、吐出圧力と前記中間圧力との圧力差により、給油孔116を介して各軸受108,110,112などに供給される。
【0027】
図2は、比較例としてのスクロール圧縮機における主軸受208付近の拡大断面図である。なお、
図2では、クランク軸106の軸心と偏心部106aの軸心とに直交する直線の延長方向から見た断面図であるため、両者の軸心が重なって見えている(他の拡大断面図も同様)。
図2に示すように、比較例に係る主軸受208は、フレーム107の一部に設けられた軸受ハウジング107aの内側に形成された貫通孔107bの内部に、2個の円筒状のすべり軸受ブッシュである上側ブッシュ120および下側ブッシュ122が軸方向に並んで配置された構造となっている。
【0028】
具体的には、偏心部106aに近い側に上側ブッシュ120、偏心部106aから遠い側に下側ブッシュ122が配置されている。クランク軸106の外周面と主軸受208(上側ブッシュ120および下側ブッシュ122)の内周面との間の隙間には、給油孔116と給油口119とを通じて潤滑油が供給され、クランク軸106の外周面と主軸受208の内周面とは油膜を介して摺動する。油膜を形成した潤滑油はその後、軸受ハウジング107aの端部を通じて軸受ハウジング107aの外部へと流出する。
【0029】
図3は、本発明の第1実施形態に係るスクロール圧縮機100における主軸受108付近の拡大断面図である。
図3に示すように、第1実施形態に係る主軸受108は、例えば鋳鉄製のフレーム107の一部に設けられた軸受ハウジング(ハウジング部)107aの内側に形成された貫通孔(穴)107bの内部に、3個の円筒状のすべり軸受ブッシュである上側ブッシュ(第1軸受部)120、中間ブッシュ(中間軸受部)121、および下側ブッシュ(第2軸受部)122が上方から順に軸方向に並んで配置された構造となっている。
【0030】
具体的には、上側ブッシュ120は、貫通孔107b内の軸方向における一方(偏心部106a側)の端に最も近く、つまり偏心部106aに最も近い側に、配置されている。また、下側ブッシュ122は、貫通孔107b内の軸方向における他方(偏心部106aと反対側)の端に最も近く、つまり偏心部106aから最も遠い側に配置されている。また、中間ブッシュ121は、上側ブッシュ120と下側ブッシュ122との間に配置されている。
【0031】
上側ブッシュ120と下側ブッシュ122とは、例えば黒鉛を含む炭素質基材に金属を含浸したカーボン軸受材料で構成されている。一方、中間ブッシュ121は、上側ブッシュ120と下側ブッシュ122とを構成するカーボン軸受材料、および軸受ハウジング107aを構成する鋳鉄材料と比較して、より大きい線膨脹係数を示す材料、例えば樹脂を含む材料で構成されている。
【0032】
また、少なくともクランク軸106の回転起動前において、中間ブッシュ121とクランク軸106の外周面との間の隙間は、上側ブッシュ120とクランク軸106の外周面との間の隙間、および下側ブッシュ122とクランク軸106の外周面との間の隙間よりも大きい。すなわち、中間ブッシュ121の内径とクランク軸106の外径との差は、上側ブッシュ120の内径とクランク軸106の外径との差よりも大きく、かつ、下側ブッシュ122の内径とクランク軸106の外径との差よりも大きい。
【0033】
クランク軸106の外周面と主軸受108(上側ブッシュ120、中間ブッシュ121、および下側ブッシュ122)の内周面との間の隙間(以下、「軸受隙間」ともいう)には、給油孔116と給油口119とを通じて潤滑油が供給され、クランク軸106の外周面と主軸受108の内周面とは油膜を介して摺動する。油膜を形成した潤滑油はその後、軸受ハウジング107aの端部を通じて軸受ハウジング107aの外部へと流出する。
【0034】
次に、前記のように構成された第1実施形態の作用について説明する。
油膜を介して摺動する回転軸(例えばクランク軸106)と円筒状の軸受(例えば主軸受108)との界面で生じる油膜せん断力は、一般にペトロフの式と呼称される式(1)の関係を有することが知られている。
F=τA=η(V/h)A ・・・(1)
ここで、Fは油膜せん断力、τは油膜せん断応力、ηは絶対粘度、Vは回転軸の周速、hは半径隙間(油膜厚さ)、Aは油膜せん断に関わる軸受内周の面積である。
【0035】
図3に示した本発明の第1実施形態と
図2に示した比較例とにおいて、全すべり軸受ブッシュの内周面の面積の合計が等しく、かつ、上側ブッシュ120および下側ブッシュ122の内径が等しい場合、本発明の第1実施形態は、中間ブッシュ121の部分において半径隙間hが比較例よりも大きく設定されているため、比較例よりも油膜せん断力、ひいては軸受損失が減少する。
【0036】
仮に
図2に示した比較例の構造において油膜せん断力を小さくするためにクランク軸106と主軸受208との間の隙間を拡大しようとすると、当該隙間を通じた潤滑油の流量が増加し、それに起因したスクロール圧縮機の損失増加が懸念される。しかし、
図3に示した本発明の第1実施形態の構造においては、潤滑油の流出経路である上側ブッシュ120および下側ブッシュ122の部分における隙間が、中間ブッシュ121の部分における隙間よりも小さいため、中間ブッシュ121の部分の隙間を拡大しても、クランク軸106と主軸受108との間の隙間を通じた潤滑油流量の増加は殆ど生じず、それによる損失増加も防止される。
【0037】
また、スクロール圧縮機100の運転条件および運転温度に応じて、すべり軸受ブッシュである上側ブッシュ120、中間ブッシュ121、および下側ブッシュ122と、軸受ハウジング107aとの材料、厚さ、並びに内径を決定することにより、高負荷運転時に主軸受108が支持可能な荷重(負荷容量)を従来と同等に確保し、軸受としての信頼性を維持することが可能である。
【0038】
図4は、
図1に示すスクロール圧縮機100が高負荷運転している際の主軸受108付近の拡大断面図である。なお、
図4は、高負荷運転時にクランク軸106が主軸受108に対して少し傾斜した状態を示している(
図9、
図10も同様)。なお、クランク軸106が傾斜する理由については後記する。
【0039】
図4に示すように、クランク軸106の回転速度およびクランク軸106に対して冷媒ガスにより作用するガス荷重123が大きい高負荷運転中には、クランク軸106の周速Vの増加および偏心による部分的な半径隙間hの減少により、油膜せん断力Fが増加する(式(1)参照)。これに伴う油膜せん断発熱の増加、およびスクロール圧縮機100内のガス温度の増加により、主軸受108の温度(以下、「軸受温度」ともいう)が上昇する。この温度上昇に応じてクランク軸106、軸受ハウジング107a、並びにすべり軸受ブッシュである上側ブッシュ120、中間ブッシュ121、および下側ブッシュ122は、それぞれ熱膨張を生じる。
【0040】
本発明の第1実施形態では、中間ブッシュ121の線膨脹係数が特に大きいことにより、中間ブッシュ121とクランク軸106との間の隙間は、高負荷運転時(
図4参照)の方が低負荷運転時(
図3参照)よりも小さくなる。よって、高負荷運転時の状態においては、低負荷運転時の状態よりも、動圧によって高い油膜圧力を保持できる領域が拡大し、これにより、軸受の負荷容量が増加する。
【0041】
図4に示したように、ガス荷重123は、クランク軸106に対して、主軸受108よりも上方の部位にオーバーハング荷重として作用するため、クランク軸106の主軸受108に対する傾斜は、運転負荷の増大に伴って拡大しやすい。このため、
図4にAおよびBで示す軸受端部において、片当り状態でのクランク軸106と主軸受108との直接接触が生じやすい。
図3に示した例においては、上側ブッシュ120と下側ブッシュ122とが硬質で潤滑性を有するカーボン軸受材料で構成されているため、油膜形成が困難でクランク軸106と主軸受108とが直接接触を伴う摺動をする状態となった場合であっても、良好な耐摩耗性を得ることができる。
【0042】
次に、油膜せん断による軸受損失に関する評価について説明する。
図3に示したような3個のすべり軸受ブッシュである上側ブッシュ120、中間ブッシュ121、および下側ブッシュ122を有する主軸受108を軸受ハウジング107aの貫通孔107b内に配置し、この主軸受108に対してクランク軸106が潤滑油を介して摺動した場合の油膜せん断による軸受損失の評価を行った。そして、本発明の第1実施形態に係る軸受構造における中間ブッシュ121とクランク軸106との間の隙間が軸受損失および最小油膜厚さに及ぼす影響を検証した。その検証結果を、
図5および
図6に示す。
【0043】
なお、この検証にあたっては、エアコン用のスクロール圧縮機100において、クランク軸106の直径が14〜18mmのものを想定した。また、上側ブッシュ120、中間ブッシュ121、下側ブッシュ122とも軸方向長さは同一でクランク軸106の直径と等しくした。上側ブッシュ120および下側ブッシュ122とクランク軸106との間の隙間は、等しくクランク軸106の直径の0.15%とした。また、主軸受108に対するクランク軸106の傾斜角度は、作用する荷重方向に0.01゜とした。
【0044】
図5は、中間ブッシュ121とクランク軸106との間の隙間の拡大率を種々に変えて軸受損失の評価を行った結果を示すグラフである。すなわち、
図5は、中間ブッシュとクランク軸との間の隙間の拡大率と、相対軸受損失との関係を示している。
図5において、横軸は、上側ブッシュ120および下側ブッシュ122とクランク軸106との間の隙間を基準(0%)とした場合の、中間ブッシュ121とクランク軸106との間の隙間の拡大率を示す。縦軸は、上側ブッシュ120、中間ブッシュ121、および下側ブッシュ122の各々とクランク軸106との間の隙間が全て等しい場合の軸受損失を100%とした場合の、これに対する相対値を示している。
図5の検証結果に示すように、軸受損失は、中間ブッシュ121とクランク軸106との間の隙間を拡大することにより、減少する傾向を示した。
【0045】
図6は、中間ブッシュ121とクランク軸106との間の隙間の拡大率を種々に変えて最小油膜厚さの評価を行った結果を示すグラフである。すなわち、
図6は、中間ブッシュとクランク軸との間の隙間の拡大率と、相対最小油膜厚さとの関係を示している。
図6において、横軸は、上側ブッシュ120および下側ブッシュ122とクランク軸106との間の隙間を基準(0%)とした場合の、中間ブッシュ121とクランク軸106との間の隙間の拡大率を示す。縦軸は、上側ブッシュ120、中間ブッシュ121、および下側ブッシュ122の各々とクランク軸106との間の隙間が全て等しい場合の最小油膜厚さを100%とした場合の、これに対する相対値を示している。なお、ここでの最小油膜厚さは、同じ荷重を支持する場合における最小油膜厚さである。
図6の検証結果に示すように、最小油膜厚さは、中間ブッシュ121とクランク軸106との間の隙間を縮小することにより、増加する傾向を示した。
【0046】
前記したように、本発明の第1実施形態に係るスクロール圧縮機100は、回転運動するクランク軸106と、クランク軸106が挿入される貫通孔107bを有する軸受ハウジング107aと、軸受ハウジング107aの貫通孔107b内に配置され、クランク軸106の外周面に対して潤滑油を介して摺動する主軸受108と、を備えている。また、主軸受108は、軸受ハウジング107aの貫通孔107b内の軸方向における一方の端に最も近く配置される上側ブッシュ120、他方の端に最も近く配置される下側ブッシュ122、および上側ブッシュ120と下側ブッシュ122との間に配置される中間ブッシュ121を有している。そして、中間ブッシュ121は、線膨脹係数が軸受ハウジング107a、上側ブッシュ120、および下側ブッシュ122よりも大きく、かつ、少なくともクランク軸106の回転起動前においてクランク軸106の外周面との間の隙間が上側ブッシュ120および下側ブッシュ122よりも大きくなっている。
【0047】
すなわち、本発明の第1実施形態では、潤滑油の油膜せん断を生じながらクランク軸106の回転を支持する主軸受108の構成要素のうち、中央部に配置される中間ブッシュ121は、両端部に配置される上側ブッシュ120および下側ブッシュ122よりも線膨脹係数の大きい材料で構成され、かつ、少なくともクランク軸106の回転起動前において上側ブッシュ120および下側ブッシュ122よりもクランク軸106との間の隙間が大きくなっている。この隙間の大小関係は、高負荷運転時(軸受温度が高い)を除き、常温停止中およびクランク軸106の回転速度および作用荷重の小さい低負荷運転時(軸受温度が低い)においても同様に保たれる。そして、温度変化による中間ブッシュ121の内径寸法変化率(縮小率)は、上側ブッシュ120および下側ブッシュ122の内径寸法変化率(縮小率)よりも大きくなる。
【0048】
したがって、クランク軸106の回転速度およびクランク軸106に作用する荷重が小さい低負荷運転時には、中間ブッシュ121の部分においてクランク軸106との隙間が大きいため、摩擦損失が低減されて、軸受損失が減少する。また、潤滑油の流出経路である上側ブッシュ120および下側ブッシュ122の部分における隙間が小さいため、潤滑油流量の増加は殆ど生じず、それによる損失増加も防止される。一方、クランク軸106の回転速度およびクランク軸106に作用する荷重が大きい高負荷運転時には、中間ブッシュ121の部分においてクランク軸106との隙間が温度変化によって縮小し、動圧によるこの部位の油膜圧力が増加するため、最小油膜厚さ、および軸受の負荷容量(荷重支持能力)が増加する。
【0049】
すなわち、本発明の第1実施形態によれば、回転運動するクランク軸106の外周面と主軸受108との間に存在する潤滑油による油膜のせん断抵抗を低減することにより、流体潤滑時の軸受損失を低減することができると共に、高負荷運転時においても軸受としての信頼性を維持することができる。
【0050】
(上側ブッシュおよび下側ブッシュの材質)
上側ブッシュ120および下側ブッシュ122の材質として、中間ブッシュ121の材質よりも線膨脹率が小さいカーボン系、金属系、セラミクス系の材料が使用され得る。
図3に示した例では、片当り時および油膜破断による直接接触摩擦時の耐摩耗性確保を重視し、黒鉛を含む炭素質基材に金属を含浸したカーボン軸受材料が使用されている。但し、上側ブッシュ120および下側ブッシュ122の材質として、適用する回転機械に要求される耐摩耗性や耐環境性等に合わせ、例えば、鋳鉄、炭素鋼、銅合金、黄銅、すず合金、アルミニウム合金、ジルコニア、アルミナ、炭化珪素、窒化珪素等が使用されてもよい。
【0051】
(中間ブッシュの材質)
中間ブッシュ121の材質として、上側ブッシュ120および下側ブッシュ122の材質よりも線膨脹率が大きい樹脂材料が使用され得る。但し、中間ブッシュ121の材質として、適用する回転機械の温度条件や期待する軸受隙間の変化量等に応じて、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ナイロン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン等、およびこれらの樹脂と焼結金属、粒子、繊維材料等による複合材が使用されてもよい。
【0052】
(第1変形例)
図7は、第1実施形態の第1変形例に係る主軸受108a付近の拡大断面図である。
図1〜
図6に示した第1実施形態と同様の構成及び作用は、この第1変形例に取り込まれるものとして詳細な説明を省略し、相違する点について説明する(以降に説明するさらに別の変形例でも同様)。
【0053】
図7に示すように、第1実施形態の第1変形例は、主軸受108aの下側ブッシュ122aが軸受ハウジング107aと一体に形成されている点で、第1実施形態と相違している。なお、下側ブッシュ122aではなく上側ブッシュが軸受ハウジング107aと一体に形成されてもよい。すなわち、第1実施形態のように上側ブッシュ120および下側ブッシュ122を別部材として軸受ハウジング107aに設置する代わりに、下側ブッシュ122a(あるいは上側ブッシュ)が軸受ハウジング107aと一体化されている。このような第1実施形態の第1変形例によれば、前記した第1実施形態と同様の作用効果を奏することができることに加えて、部品点数の減少により組立コストを低減することが可能となる。
【0054】
(第2変形例)
図8は、第1実施形態の第2変形例に係る主軸受108b付近の拡大断面図である。
図8に示すように、第1実施形態の第2変形例では、クランク軸106の外径は、主軸受108bの中間ブッシュ121aに対向する部分において他の部分よりも小さくなっている。すなわち、主軸受108bの中央部における軸受隙間を拡大する方法は、第1実施形態のように中間ブッシュ121の内径を拡大する代わりに、中間ブッシュ121aに対向する部分のクランク軸106の外径を小さくすることによっても可能である。
【0055】
図3に示す第1実施形態に係る構造において、3個のすべり軸受ブッシュである上側ブッシュ120、中間ブッシュ121、および下側ブッシュ122の各内周面の同軸度を高い精度で得ると共に、一回の軸方向送りで効率良く内径加工するためには、軸受ハウジング107aに3個のすべり軸受ブッシュを挿入した状態でスクロール圧縮機100の高負荷運転時における温度に加温し、その状態で3個のすべり軸受ブッシュの内径を同一径に加工する等の加工プロセスの工夫が必要となる。これに対し、
図8に示す第1実施形態の第2変形例に係る構造では、室温において、3個のすべり軸受ブッシュである上側ブッシュ120、中間ブッシュ121a、および下側ブッシュ122の内径を一回の軸方向送りで同一径に加工することができる。このような第1実施形態の第2変形例によれば、前記した第1実施形態と同様の作用効果を奏することができることに加えて、製造コストを低減することが可能となる。
【0056】
(第3変形例)
図9は、第1実施形態の第3変形例に係る主軸受108c付近の拡大断面図である。
図9に示すように、第1実施形態の第3変形例では、中間ブッシュ121bの内周面に、当該内周面を周方向に分割する溝124が少なくとも一箇所形成されている。このような第1実施形態の第3変形例によれば、前記した第1実施形態と同様の作用効果を奏することができることに加えて、溝124を設けることにより、熱膨張時に中間ブッシュ121bにおける周方向の内部応力を緩和し、温度上昇に対する内径変化のばらつきを低減できるほか、溝124を設けた分だけ摺動面積が小さくなるので、軸受損失の更なる低減が可能となる。
【0057】
(第4変形例)
図10は、第1実施形態の第4変形例に係る主軸受108d付近の拡大断面図である。
図10に示すように、第1実施形態の第4変形例では、中間ブッシュ121cの内周面には、当該内周面を周方向に分割する溝124aが形成されており、溝124aは、中間ブッシュ121cの軸方向における両端部から中央部に向けてクランク軸106の回転方向に傾斜して延びるV字状を呈している。このような第1実施形態の第4変形例によれば、前記した第1実施形態の第3変形例と同様の作用効果を奏することができることに加えて、更に次のような作用効果を奏する。すなわち、潤滑油が溝124aを通って中間ブッシュ121cの軸方向における両端部から中央部に寄せられて中央部付近の圧力が高まる。このため、特に高負荷時において動圧を向上させて、最小油膜厚さを増加させることが可能となる。
【0058】
≪第2実施形態≫
次に、
図11を参照しながら本発明の第2実施形態について説明する。
図11は、本発明の第2実施形態に係るロータリ圧縮機130を示す縦断面図である。すなわち、この第2実施形態では、本発明の回転機械について、冷媒ガスの圧縮を行うロータリ圧縮機130の例を用いて説明する。
【0059】
図11に示すように、ロータリ圧縮機130は、機能的には、縦型円筒状の密閉容器138と、密閉容器138内で冷媒ガスを圧縮する圧縮機構139と、圧縮機構139を駆動する電動機131と、圧縮機構139を構成する部品や部材の摺動面に供給する潤滑油を蓄える油溜め144とを備えている。密閉容器138内では、上から順に電動機131、圧縮機構139、油溜め144が配置されている。
【0060】
電動機131のロータには、下方に延びる回転シャフト(軸)132が接続されている。圧縮機構139は、回転シャフト132の下方先端部近くに形成された偏心軸部132aと、偏心軸部132aが内側に係合されて偏心軸部132aにより偏心回転が与えられる円筒形状のローラ133と、偏心軸部132a及びローラ133を収納するシリンダ134と、シリンダ134の上蓋となると共に回転シャフト132を支持する上軸受部材135と、シリンダ134の下蓋となると共に回転シャフト132の下端部を支持する下軸受部材136と、ローラ133の外周面と摺動して圧縮室137の低圧側と高圧側とを隔てるベーン(図示せず)と、を有している。
【0061】
上軸受部材135は、上軸受部材135の一部に設けられた軸受ハウジング(ハウジング部)135aを有している。軸受ハウジング135aには、回転シャフト132が挿入される貫通孔(穴)135bが形成されており、この貫通孔135b内に上軸受(すべり軸受)143が配置されている。上軸受143は、軸受ハウジング135aの内側に形成された貫通孔135bの内部に、3個の円筒状のすべり軸受ブッシュである上側ブッシュ(第1軸受部)140、中間ブッシュ(中間軸受部)141、および下側ブッシュ(第2軸受部)142が上方から順に軸方向に並んで配置された構造となっている。
【0062】
具体的には、上側ブッシュ140は、貫通孔135b内の軸方向における一方(偏心軸部132aと反対側)の端に最も近く、つまり偏心軸部132aから最も遠い側に、配置されている。また、下側ブッシュ142は、貫通孔135b内の軸方向における他方(偏心軸部132a側)の端に最も近く、つまり偏心軸部132aに最も近い側に配置されている。また、中間ブッシュ141は、上側ブッシュ140と下側ブッシュ142との間に配置されている。
【0063】
上側ブッシュ140と下側ブッシュ142の材質は、例えば鋳鉄である。下側ブッシュ142(その内周面である摺動面を含む)は、上軸受部材135の軸受ハウジング135aと一体に形成されている。一方、中間ブッシュ141は、その線膨脹係数が、上側ブッシュ140と下側ブッシュ142の線膨脹係数よりも大きく、かつ、軸受ハウジング135aの線膨脹係数よりも大きい材料、例えば樹脂を含む材料で構成されている。
【0064】
また、少なくとも回転シャフト132の回転起動前において、中間ブッシュ141と回転シャフト132の外周面との間の隙間は、上側ブッシュ140と回転シャフト132の外周面との間の隙間、および下側ブッシュ142と回転シャフト132の外周面との間の隙間よりも大きい。ここでは、回転シャフト132の外径は、上軸受143の中間ブッシュ141に対向する部分において他の部分よりも小さくなっている。すなわち、中間ブッシュ141の内径と中間ブッシュ141に対向する部分における回転シャフト132の外径との差は、上側ブッシュ140の内径と回転シャフト132の外径との差よりも大きく、かつ、下側ブッシュ142の内径と回転シャフト132の外径との差よりも大きい。
【0065】
回転シャフト132の下端部を支持するすべり軸受である下軸受145(その内周面である摺動面を含む)は、鋳鉄製の下軸受部材136と一体に形成されている。ロータリ圧縮機130の下部に設けられた油溜め144内の潤滑油117は、回転シャフト132の軸心に沿って形成された給油孔146から径方向に分岐する分岐孔を通じて上軸受143、下軸受145に供給され、各軸受143,145の摺動部は、潤滑油によって油膜が作られ、円滑な潤滑が確保される。
【0066】
前記した本発明の第2実施形態では、回転シャフト132の回転速度および回転シャフト132に作用する荷重が小さい低負荷運転時には、中間ブッシュ141の部分において回転シャフト132との隙間が大きいため、摩擦損失が低減されて、軸受損失が減少する。また、潤滑油の流出経路である上側ブッシュ140および下側ブッシュ142の部分における隙間が小さいため、潤滑油流量の増加は殆ど生じず、それによる損失増加も防止される。一方、回転シャフト132の回転速度および回転シャフト132に作用する荷重が大きい高負荷運転時には、中間ブッシュ141の部分において回転シャフト132との隙間が温度変化によって縮小し、動圧によるこの部位の油膜圧力が増加するため、最小油膜厚さ、および軸受の負荷容量(荷重支持能力)が増加する。
【0067】
すなわち、本発明の第2実施形態によれば、回転運動する回転シャフト132の外周面と上軸受143との間に存在する潤滑油による油膜のせん断抵抗を低減することにより、流体潤滑時の軸受損失を低減することができると共に、高負荷運転時においても軸受としての信頼性を維持することができる。
【0068】
また、本発明の第2実施形態に係るロータリ圧縮機130では、各軸受143,145が圧縮室137に近い位置に設けられている。しかも、上軸受部材135におけるローラ133側の端部に位置する下側ブッシュ142と下軸受145とは、すべり軸受ブッシュとして機能すると共に、その内周面である摺動面が軸受部材135,136とそれぞれ一体に形成されている。これにより、すべり軸受ブッシュを軸受部材135,136とは別体に構成した場合のようなすべり軸受ブッシュの材料内部等の軸受隙間以外の部分における流体の移動が無くなる。したがって、各軸受143,145と圧縮室137との間でのガスや潤滑油の流入流出関係をコントロールしやすく、設計が容易となる。
【0069】
以上、本発明について実施形態に基づいて説明したが、本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0070】
例えば、前記実施形態では、軸受ハウジングの内側に形成された貫通孔の内部に、3個のすべり軸受ブッシュである上側ブッシュ、中間ブッシュ、および下側ブッシュが上方から順に軸方向に並んで配置された構造となっている。但し、本発明はこれに限定されるものではなく、4個以上のすべり軸受ブッシュが軸方向に並んで配置された構造にも適用され得る。この場合、軸方向両端部のすべり軸受ブッシュが、前記実施形態における上側ブッシュおよび下側ブッシュに相当し、軸方向両端部のすべり軸受ブッシュの間に配置される複数のすべり軸受ブッシュのうちの少なくとも一つが前記実施形態における中間ブッシュに相当することになる。
【0071】
また、例えば第1実施形態の第2変形例では、主軸受108bの中央部における軸受隙間を拡大する方法として、中間ブッシュ121aに対向する部分のクランク軸106の外径を小さくする方法を採用したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、中間ブッシュ121の内径を拡大し、かつ、中間ブッシュ121aに対向する部分のクランク軸106の外径を小さくしてもよい。
【0072】
また、例えば第1実施形態の第3変形例では、中間ブッシュ121bの内周面に、当該内周面を周方向に分割する溝124が形成される例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、例えば、溝124の深さが中間ブッシュ121bの外周面にまで達する場合にも適用可能である。つまり、中間ブッシュ121bは、軸方向に沿った分割面によって周方向において複数に分割され、円筒形状の一部を成す複数の部分を備えるように構成されてもよい。
【0073】
また、前記実施形態では、本発明がスクロール圧縮機、ロータリ圧縮機に適用される場合について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、他の形式の圧縮機にも適用可能である。また、前記実施形態では、回転運動する軸が鉛直方向に沿って配置される縦型の圧縮機について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、回転運動する軸が水平方向に沿って配置される横型の圧縮機にも適用可能である。更に、本発明は、回転運動する軸の外周面に対して潤滑油を介して摺動するすべり軸受部を備える各種の回転機械にも適用可能である。
【0074】
また、本発明は、本発明に係る回転機械を冷凍または空調用の冷媒圧縮機として備える冷凍サイクル機器として構成され得る。この冷凍サイクル機器は、本発明に係る回転機械としての冷媒圧縮機と、冷媒圧縮機で圧縮されて高温高圧になった冷媒ガスから熱を放熱する凝縮器と、凝縮器からの高圧冷媒を減圧する減圧装置と、減圧装置からの液冷媒を蒸発させる蒸発器とを備えている。このような冷凍サイクル機器は、冷凍装置、空調装置、ヒートポンプ式給湯機などに使用され得る。