(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5963869
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】量子通信ネットワークのエンタングルメント生成源を同期させる方法及び装置
(51)【国際特許分類】
G02F 3/00 20060101AFI20160721BHJP
G02F 1/39 20060101ALI20160721BHJP
G02F 1/377 20060101ALI20160721BHJP
H04B 10/70 20130101ALI20160721BHJP
H04B 10/85 20130101ALI20160721BHJP
H04L 9/12 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
G02F3/00
G02F1/39
G02F1/377
H04B9/00 370
H04B9/00 385
H04L9/00 631
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-532420(P2014-532420)
(86)(22)【出願日】2012年9月28日
(65)【公表番号】特表2014-534455(P2014-534455A)
(43)【公表日】2014年12月18日
(86)【国際出願番号】EP2012069281
(87)【国際公開番号】WO2013045674
(87)【国際公開日】20130404
【審査請求日】2015年9月14日
(31)【優先権主張番号】1158857
(32)【優先日】2011年9月30日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】502205846
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィク
(73)【特許権者】
【識別番号】510171911
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ドゥ ニース ソフィア アンティポリス
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE NICE SOPHIA ANTIPOLIS
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】タンジリ セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ダウリア ヴァージニア
(72)【発明者】
【氏名】アリバート オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】マルタン アントニー クリストフ ミカエル
(72)【発明者】
【氏名】ラボンテ ローラン
【審査官】
山本 貴一
(56)【参考文献】
【文献】
特表2012−531874(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0148237(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0028340(US,A1)
【文献】
特開2011−013348(JP,A)
【文献】
特開2004−187274(JP,A)
【文献】
OLIVIER LANDRY,TOOLS FOR QUANTUM REPEATERS: QUANTUM TELEPORTATION, INDEPENDENT SOURCES 以下備考,[ONLINE],2010年 1月 1日,OF ENTANGLED PHOTONS AND ENTANGLEMENT PURIFICATION,URL,http://archive-ouverte.unige.ch/vital/access/services/Download/unige:6827/ATTACHMENT01
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/35−1/39,3/00
H04B 10/70,10/85
H04L 9/12
Scitation
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子通信ネットワーク内で、光ポンプを有するエンタングルメント生成源(141,142)を同期させる同期装置(20)であって、
前記エンタングルメント生成源で光クロックが確実に共通になるように、一連のエンタングルメント生成源と平行に分配される通信波長の光パルス(I1,I2)を放出できるパルス光源(21)を含み、
各エンタングルメント生成源を光ポンピングしてエンタングル光子のペアを生成するのに適した波長で光パルスを生成することが可能な、分配された光パルスの周波数変換装置(243,253)を含む、同期装置。
【請求項2】
前記パルス光源(21)は、1550nmでパルスを放出するレーザ装置である、請求項1に記載の同期装置。
【請求項3】
前記通信波長の前記パルスの伝搬に適した光ファイバ区画(22,23)を更に含む、請求項1及び2のいずれか一つに記載の同期装置。
【請求項4】
各エンタングルメント生成源のためのクロック再生装置(241,251)を更に含む、請求項1乃至3のいずれか一つに記載の同期装置。
【請求項5】
前記変換装置は周波数倍増装置である、請求項1乃至4のいずれか一つに記載の同期装置。
【請求項6】
前記パルス光源は、ピコ秒パルスを放出するレーザ装置である、請求項1乃至5のいずれか一つに記載の同期装置。
【請求項7】
「放出時間」の量子オブザーバブルを利用して光子を符号化することを土台とする量子通信ネットワークに適合された請求項1乃至6のいずれか一つに記載の同期装置であって、量子オブザーバブルの前処理装置(26)を更に含み、前記前処理装置は、パルスダブレットの分配を実現できるマッハツェンダ干渉計を含む、同期装置。
【請求項8】
少なくとも1人の第1ユーザ(A)と少なくとも1人の第2ユーザ(B)との間の量子通信ネットワークにおいて、ユーザのペア毎に、前記ユーザの間及び2つのエンタングルメント生成源の間に縦列方式で配置された複数のエンタングルメント生成源(141,142)と、リレーステーション(13)とを含む量子通信ネットワークであって、請求項1乃至7のいずれか一つに記載の、一連の前記エンタングルメント生成源の同期装置(20)を更に含む、量子通信ネットワーク。
【請求項9】
前記エンタングルメント生成源は、エンタングル光子のペアを生成する非線形光学部品を含む、請求項8に記載の量子通信ネットワーク。
【請求項10】
前記エンタングルメント生成源によって放出される光子を符号化するための量子オブザーバブルは放出時間である、請求項8及び9のいずれか一つに記載の量子通信ネットワーク。
【請求項11】
量子通信ネットワークにおいて、光ポンプを有するエンタングルメント生成源を同期させる同期方法であって、
通信波長の光パルスを放出し、一連のエンタングルメント生成源と平行に前記光パルスを分配し、各エンタングルメント生成源のレベルにおいてローカルで、前記エンタングルメント生成源を光ポンピングするのに適した波長にクロックパルスの周波数を変換すること、を含む同期方法。
【請求項12】
各エンタングルメント生成源のレベルにおいて、前記クロックパルスを再生することを更に含む、請求項11に記載の同期方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子通信ネットワーク、特に、長距離量子通信ネットワークのエンタングルメント生成源を同期させる方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
量子通信の目的は、量子状態(又は、「量子ビット(quantum bits)」の用語を表す省略形である「キュービット(qubit)」)をある場所から別の場所に送ることである。したがって、
図1Aに示す、第1地点Aと第2地点Bの間の単純な量子通信ネットワーク100では、伝統的に「アリス」と「ボブ」と命名される2人の離れた対話者が、極めて機密性の高い秘密鍵を構築することができる。この例において地点Aに位置するエミッタ10は、単光子生成源101(例えば、二準位若しくは量子ドットを有する原子の生成源、又は非線形光学に基づく先導(heralded)単光子生成源)と、量子状態(キュービット)が無作為に決定される光子によって送信される鍵の各ビットを符号化できるキュービット符号化装置102とを含む。量子状態は、「量子オブザーバブル」と呼ばれる光子の特性に符号化された状態で、この特性は、例えば、偏光、波長、又は放出時間(他に「タイムビン」とも呼ばれる)である。光子は、例えば、光ファイバ15を利用して送信される。地点Bに位置する受信機11は、キュービット分析装置111と、2つの検出器112、例えば、単光子検出器とを含み、2つの測定基準に従って量子状態を分析することができる。キュービットの符号化及び分析のために利用される鍵を配布する各種の既知のプロトコルにより、2人のパートナは、鍵又は鍵の一部がスパイE(伝統的に「イブ」と呼ばれている)によって傍受されたかどうかを確実に知ることができる。
【0003】
長距離に亘る量子通信の枠組みの中で、いわゆる「通信」波長にある光子は、環境との相互作用が極めて小さいこと、及び標準的光ファイバ内での伝搬損失が少ないことから、必然的に量子情報の理想的な支持体として重要な位置を占める。通信波長は、国際電気通信連合(ITU:International Telecommunications Unit)によって、標準周波数帯(例えば、O,E,S,C,L,U)の形式で定義される。ただし、非常に小さいものではあるが、通信損失によって規定される通信限界が存在し、この範囲を超えると、光子の検出レートが信号対雑音比の主限界内にある検出器のノイズレートよりも低くなるため、もはや通信することができない。ただし、非常に多くの研究作業が、これらの安全なリンクを数百キロメートル程度の距離まで押し広げてきたが、これには、使用するハードウェアの最適化に多大な労力を注ぎ込むように強いられると共に、最終的な秘密鍵の構築率が非常に低いという代償が伴う。実際、標準的な通信増幅器(中継器)を利用した光信号の再生は、信号を傍受しようとするスパイと同じ方式で信号を撹乱することになるため、いわゆる「非クローン」定理により量子通信では不可能である。
【0004】
図1Bに、通信距離を2倍にできる、AB間の量子通信ネットワークを提示する。これによると、エンタングル光子14を放出する供給源、すなわちエンタングルメント生成源は、光子の量子オブザーバブルの一つにおいて対応付けられた光子ペアを放出する。言い換えると、個別に獲得された各光子の量子状態は定義することが不可能である。このような、エンタングル光子ペアの生成源は、例えば、非線形光学に基づいており、ポンプビームから供給される光子の非線形結晶に、光子ペアへの変換部を含み、この変換は、特定の確率で発生する。各地点A及びBには受信機11が設けられ、その各受信機は、
図1Aの受信機11と同様の要素(図示せず)を含む。生成源14の片側において、それぞれ地点A及び地点Bまで光ファイバ区画151,152を伝搬するエンタングル光子に関して、AB間の通信距離は、同一の技術資源(特に、ファイバ及び検出器)を使用する場合に、
図1Aのネットワークのほぼ2倍になり得ることは理解されよう。ただし、通信損失に関わる同一の制限が各区画に課せられる。また、
図1Aのタイプのネットワーク方式で得られるものの2倍を超えるネットワーク長さを取得することは不可能である。
【0005】
「量子リレー」の概念に基づく量子通信ネットワークにより、より大きい距離を網羅することができる。このようなネットワークにおいて、エンタングル光子のペア、すなわち、光子の量子オブザーバブルの一つによって結合されたペアが短い区画を伝搬し、より長い距離を網羅するように縦列方式(カスケード方式)で結合される(例えば、D・コリンズ(Collins)他による「Quantum relays for long distance quantum relay cryptography(長距離量子リレー暗号のための量子リレー)」、Jour.Mod.Opt.(現代光学の機関紙)52,735(2005年)を参照)。次に、「エンタングルメントテレポーテーション」について説明する。ここで、
図1Cに示すAB間の量子通信ネットワークは、空間的に離れて位置する2つのエンタングル光子生成源141,142、及びこれら2つの生成源の間に設けられたリレーステーション13を備え、このリレーステーション13において、「ベル状態測定(Bell State Measurement)」の用語を表す省略形に従ってBSMと呼ばれる射影測定処理が実行される。エンタングルメント生成源141は、エンタングル光子のペアaとcを放出し、これらの光子は、光ファイバ区画153,154を伝搬して、Aの受信機11
A及びリレーステーション13にそれぞれ到達する。エンタングルメント生成源142は、エンタングル光子のペアbとc’を放出し、これらの光子は、光ファイバ区画155,156を伝搬して、Bの受信機11
B及びリレーステーション13にそれぞれ到達する。受信機は、前述したように、キュービットの分析装置、及び1組の単光子検出器を含む。リレーステーションでは、2つの独立した生成源141及び142からそれぞれ放出された光子c及びc’の、ベル状態と呼ばれる状態の射影測定を行うことができ、この射影測定は、2つのエンタングルメント生成源からそれぞれ到来する光子c及びc’の二光子干渉に基づいたものである。この干渉の測定が、A及びBに設けられた各受信機において信号を起動することで、それぞれキュービットa及びbを測定することができる。ただし、光子c及びc’のコヒーレンス時間よりも短い時間、すなわち、概してピコ秒未満の時間、又は、利用する生成源によっては数十フェムト秒未満の時間で、一連のエンタングル光子生成源を同期させることで、独立した生成源から放出された光子が、確実に、前述のリレーステーション又は他のステーションにおいて時間的に重複するようにしなければならない。したがって、
図1Cのタイプの長距離ネットワークの実験的実現には、主に、遠距離に位置するエンタングルメント生成源を同期させる必要性に由来する技術的制約が課せられる。
【0006】
特に、エンタングルメント生成源の電子式又は光電式同期は、タイミングジッタを上昇させ、この上昇は、光子の分光フィルタを利用してエンタングル光子のコヒーレンス時間を長くすることによってのみ補正され得るが、これにより、キュービット通信周波数が低下する恐れがある。例えば、エンタングルメント生成源の光電式同期では、エンタングルメント生成源を30kmより先に離して配置することができず、エンタングル光子ペアの放出周波数は、この技術の限界である100MHzのまま残ることが知られている(R・カルテンバエク(Kaltenbaek)等による「High−fidelity entanglement swapping with fully independent sources(完全に独立した生成源による高忠実度のエンタングルメントスワッピング」Phys. Rev. A,79,040302(2009年)を参照)。
【0007】
混成手法の光電式同期が提案されており、2GHzでの通信が実現する可能性が広がっている(O・ランドリ(Landry)の博士論文「Tools for quantum repeaters: quantum teleportation, independent sources of entangled photons and entanglement purification(量子リピータ用ツール:量子テレポーテーション、エンタングル光子の独立生成源、及びエンタングルメント浄化)」、ジュネーブ大学、2010年、no.Sc.4163、及びO・ランドリ等による「Simple synchronisation of independent picosecond photon sources for quantum communication experiments(量子通信実験用の独立したピコ秒光子生成源の単純同期)」、arXiv:1001,3389(2010年)を参照)。具体的には、O・ランドリの博士論文の第6章に、量子通信ネットワークの独立したエンタングルメント生成源及びその生成源の同期について記載されている。この同期は、マスタレーザ(「モード同期レーザ」)による光パルスの放出に基づいたもので、エンタングルメント生成源の一つをポンピングする一方で、第2のエンタングルメント生成源のポンピングに用いられるスレーブレーザを起動することができる。ただし、繰り返すが、マスタレーザによるスレーブレーザの外部起動は、光−電気及び電気−光変換に関わるタイミングジッタ作用を生じるため、同期の精度が限定され、その結果、エンタングルメント生成源が位置できる最大離隔距離が制限される。
【0008】
米国特許出願第2009/0317089号明細書には、通信距離を延ばすために縦列方式で連結されたリレーステーションを含む量子通信ネットワークアーキテクチャが記載されている。このアーキテクチャは、単一のポンプレーザ源を利用することを土台とするもので、第1ステーション内で第1ペアのエンタングル光子を生成し、その後、所定の間隔をおいて、放出されて第2ステーションに送られたポンプビームの一部を利用して、第2ステーション内で第2ペアのエンタングル光子を生成する。ここで、第2ペアのエンタングル光子の生成は、第1ペアの光子の一方を検出することに条件付けられている。ただし、この連続方式の処理では、各区画において、前のステーションで放出されたポンプビームの一部と、前のステーションで生成されたエンタングル光子のペアのうちの一方のエンタングル光子とを結合することを想定しており、実施構成が技術的に複雑になる。また、エンタングル光子の波長よりも必然的に短い波長のポンプビームが2つのステーション間を移動するため、通信損失により、ステーション間の距離が限定される。また、記載した技術は、エンタングル光子が生成された実際のステーションにおいてエンタングル光子を検出する必要があるため、通信範囲が限定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願第2009/0317089号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】D・コリンズ(Collins)他による「Quantum relays for long distance quantum relay cryptography(長距離量子リレー暗号のための量子リレー)」、Jour.Mod.Opt.52,735(2005年)
【非特許文献2】R・カルテンベック(Kaltenbaek)等による「High−fidelity entanglement swapping with fully independent sources(完全に独立した生成源による高忠実度のエンタングルメントスワッピング」Phys. Rev. A,79,040302(2009年)
【非特許文献3】O・ランドリ(Landry)の博士論文「Tools for quantum repeaters: quantum teleportation, independent sources of entangled photons and entanglement purification(量子リピータ用ツール:量子テレポーテーション、エンタングル光子の独立生成源、及びエンタングルメント浄化)」、ジュネーブ大学、2010年、no.Sc.4163
【非特許文献4】及びO・ランドリ等による「Simple synchronisation of independent picosecond photon sources for quantum communication experiments(量子通信実験用の独立したピコ秒光子生成源の単純同期)」、arXiv:1001,3389(2010年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、エンタングルメント生成源を同期させる完全な光学的方法及び装置を提示して、高ビットレートの量子リレーを土台とするネットワーク上で、極めて長い距離に亘る量子通信を、従来技術に制限されることなく実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の態様によれば、本発明は、量子通信ネットワークにおいて、光ポンプを有するエンタングルメント生成源を同期させる装置に関し、本装置は、エンタングルメント生成源の間で光パルスが確実に共通になるように、一連のエンタングルメント生成源と平行に分配される電気通信波長の光パルスを放出できるパルス光源を含み、更に、各エンタングルメント生成源に、分散された光パルスの周波数変換装置であって、エンタングルメント生成源を光学的にポンピングしてエンタングル光子のペアを生成するのに適した波長で、光パルスを生成できる周波数変換装置を含む。
【0013】
完全に光学的な同期というこの斬新な概念は、ネットワークの各種のエンタングルメント生成源に共通の光クロックを送ることが可能な単一のパルス源を実装するもので、これにより、光電子装置に固有の余分な時間ジッタを回避できることに加え、長距離に亘る高ビットレートの量子通信ネットワークの構築を実現することができる。この斬新な同期形式は、利用されるプロトコルがどのようなものであっても、任意の数のエンタングルメント生成源及びユーザを有する量子通信ネットワークにおいて、ユーザ間の2人1組の通信に適用することができる。
【0014】
変形例によれば、前記パルス光源は、1550nmでパルスを放出するレーザ装置である。この波長は、広く通信に利用されており、低コストの標準的通信部品(部品及び光ファイバ)を活用できる。
【0015】
変形例によれば、同期装置は、各エンタングルメント生成源に、クロック生成装置を更に含む。クロック生成装置は、例えば、パルス源からエンタングルメント生成源へのクロックパルスの伝搬によって生じる分散を補正できる分散補償モジュール、及び平均光パワーを復元する光増幅器の少なくともいずれかを含むことができる。
【0016】
変形例によれば、分散光パルスの周波数変換装置は、周波数倍増モジュール又は周波数加算モジュールである。エンタングルメント生成源を光学的にポンピングするのに適した波長は、概して可視光の範囲であるが、この斬新な同期概念により、可視光への変換は、必要に応じてエンタングルメント生成源のレベルにおいてローカルで実行され、これにより、光ファイバ内でのクロックパルスの伝搬損失が抑制される。
【0017】
有利な構成として、変換装置は、周波数倍増装置、例えば、周期的に偏光されたニオブ酸リチウムから成る市販の導波路である。
【0018】
変形例によれば、前記パルス光源は、ピコ秒パルスを放出するレーザ装置で、このパルスの波形整形は、既に使いこなされている処理である。また、これらの光源は、高い繰り返し率を提供する。
【0019】
放出時間を量子オブザーバブルとして利用して光子を符号化する量子通信ネットワークに適合された変形例によれば、同期装置は、マッハツェンダ干渉計を利用して量子オブザーバブルを前処理する装置を更に含む。マッハツェンダ干渉計により、エンタングルメント生成源でのパルスダブレットの分配が可能になる。これにより、パルスレーザ源のレベルに単一の前処理モジュールを必要とするのみで、各エンタングルメント生成源のレベルでは必要としないため、エンタングルメント生成源のレベルにおけるキュービットの符号化が簡単になる。
【0020】
第2の態様によれば、本発明は、少なくとも一人の第1ユーザと少なくとも一人の第2ユーザとの間の量子通信ネットワークに関し、本ネットワークは、ユーザのペア毎に、ユーザ間に縦列方式で配置された複数のエンタングルメント生成源と、ユーザ間におけるエンタングルメントテレポーテーションを可能にする、2つのエンタングルメント生成源の間のリレーステーションとを含み、更に、第1の態様に係る、一連の前記エンタングルメント生成源を同期させる装置を含む。
【0021】
変形例によれば、エンタングルメント生成源は、エンタングル光子のペアを生成する非線形光学装置を含む。これは、例えば、4波混合、又は自然パラメータ変換を伴ってもよい。前述した例のいずれか一方において、これらの作用を実施する装置には、市販のものを利用できる。
【0022】
変形例によれば、光子の量子オブザーバブルは放出時間である。
【0023】
第3の態様によれば、本発明は、量子通信ネットワークにおいて、光ポンプを有するエンタングルメント生成源を同期させる方法に関し、本方法は、通信波長の光パルスを、一連のエンタングルメント生成源と平行に放出して分配し、各エンタングルメント生成源のレベルにおいてローカルで、前記生成源を光ポンピングするのに適した波長にクロックパルスの周波数を変換することを含む。
【0024】
有利な構成として、第3の態様に係る方法は、各エンタングルメント生成源のレベルにおいてクロックパルスを再生することを更に含む。
【0025】
本発明の他の利点及び特徴は、下記の図面によって示される説明を読むことで明らかになるであろう。図面において、同一の要素は同一の参照番号で識別される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1A】従来技術に係る、2人のユーザ間の量子通信ネットワーク(上記で説明したもの)を示す図である。
【
図1B】従来技術に係る、2人のユーザ間の量子通信ネットワーク(上記で説明したもの)を示す図である。
【
図1C】従来技術に係る、2人のユーザ間の量子通信ネットワーク(上記で説明したもの)を示す図である。
【
図2】本発明の例示的実施形態に係る、エンタングルメント生成源を同期させる装置を備える通信ネットワークを包括的に示す図である。
【
図3】
図2に示した通信ネットワークの具体例を示す図である。
【
図4】本発明に係る量子通信ネットワークの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図2に、地点A及びBに位置する2人のユーザ、アリスとボブの間の本発明に係る量子通信ネットワーク200の例示的実施形態を示す。この量子通信ネットワークは、
図1Cに示したネットワークと同様の量子リレーに基づくネットワークである。本ネットワークは、光ポンピングされる複数のエンタングルメント生成源141,142と、これらの生成源の間に配置されて、ユーザ間のエンタングルメントテレポーテーションを可能にする複数のリレーステーション13とを含む。エンタングルメント生成源におけるエンタングル光子ペアの生成は、例えば、非線形光学部品のポンピング、例えば、非線形ファイバ内の三次非線形作用(χ
(3))による4波混合、又は非線形結晶内の二次非線形作用(χ
(2))による自然パラメトリック変換を利用することによって行われ、この自然パラメトリック変換は、他に「自然パラメトリック下方変換(Spontaneous Parametric Down Conversion)」の用語の省略形に従ってSPDCとも呼ばれる。本例において、2つのみのエンタングルメント生成源が示されているが、本発明は、n(n≧2)個のエンタングルメント生成源と、リレーステーションが2つの生成源間に位置することから予想されるn−1個のリレーステーションとを含む通信ネットワークにも同様に適切に適用される。エンタングルメント生成源とリレーステーションの間である一方の側と、エンタングルメント生成源とユーザの間であるもう一方の側において、光ファイバ区画153,154,155,156は、エンタングル光子の伝搬を実現でき、この伝搬は、可能な限り低い損失で各区画に確実に光子が伝搬するように、通信波長で行われることが好ましい。各ユーザでは、受信機11A,11Bにより、最も近い生成源によって生成されたエンタングル光子ペアのうちの一方の光子の量子状態を分析することができる。既に説明したように、受信機は、例えば、キュービットの分析装置と、2つの測定基準に基づいて光子の量子状態を分析する2つの検出器とを含む。使用する検出器は、例えば、単光子検出用の超電導検出器、又はSSPDである。SSPDは、「超電導単光子検出器(Superconducting Single−Photon Detector)」の用語を表す省略形である。
【0028】
図2の例において、量子通信ネットワークは、エンタングルメント生成源141,142を同期させる同期装置20も含む。同期装置20は、パルス光源21を含み、パルス光源21は、レーザ源、例えば、ピコ秒レーザ源であると有利であり、一連のエンタングルメント生成源に対して、その生成源で確実に光クロックが共通になるように、分散パルスを放出することができる。本願では、以下において、このようなパルスを「クロックパルス」と記載する。生成源の波長、パルスの持続期間、及び繰り返し率は、ネットワークの長さに応じて選択される。伝搬損失を抑制しつつ最大距離を網羅するために、波長は、ITUによって規格化された通信周波数帯(例えば、O,E,S,C,L,Uの周波数帯)において選択できると有利である。次に、「通信」波長について説明する。パルス光源21の放出波長での伝搬に適した光ファイバ区画22,23は、エンタングルメント生成源141,142にそれぞれクロックパルスを伝搬できる。これに代えて、前記パルス光源が、大気の透過周波数帯(可視光スペクトル帯、及び4μm、4.6μm、及び8.5〜10μmを中心とするスペクトル帯)の一つに含まれるスペクトル帯で放出を行う場合は、自由空間におけるクロックパルスの伝搬も可能である。実際に考えられるのは、大気の透過スペクトル帯における単光子の生成源及び検出器の利用可能性を考慮すると、可視光を放出するレーザ源のみである。可視光の自由空間伝搬は、特に、天然障害物及び気象状態との関連で実施に困難が伴い、また、迷光も実施を困難にするため、夜間状態での実施が制限される。自由空間におけるクロックパルスの伝搬は、理論的には、本発明の実施例に利用可能であるが、このような実施方式では、機能が不十分であるため、通信波長において光ファイバによりクロックパルスを伝搬させる方が好ましい。
【0029】
有利な構成として、同期装置は、各エンタングルメント生成源のレベルに、エンタングルメント生成源のポンピングに必要な波長の再生及び適合化の少なくともいずれかを行えるクロックパルス整形モジュール24を更に含む。実際、かなりの距離に亘る伝搬の過程で、損失及び色分散は、それぞれ、平均光パワーの低下、及びエンタングルメント生成源の光クロックとして機能するパルスの持続期間の延長とをもたらし得る。下記でより詳細に説明するように、クロックパルス整形モジュール24は、例えば、レーザ源からエンタングルメント生成源へのパルスの伝搬によって生じる色分散の影響を補正できるクロック再生装置を含んでよい。また、クロックパルス整形モジュール24は、適切な平均光パワーを回復できる低雑音高利得増幅器、例えば、エルビウム添加ファイバ増幅器も含むことができ、このタイプの増幅器は、極めて僅かであるか、又は無視できるタイミングジッタを生じるのみである。クロックパルス整形モジュール24は、光クロックパルスの周波数変換装置も含み、この変換装置は、例えば、周波数倍増方式(又は、「第2高調波発生(Second Harmonic Generation)」を表すSHG方式)、又は周波数加算方式(又は、「和周波数発生(Sum Frequency Generation)」を表すSFG方式)で動作する非線形光学部品を利用して、エンタングルメント生成源をポンピングしてエンタングル光子のペアを生成するように適合された適切な波長で光パルスを生成することができる。適切な波長は、例えば、エンタングルメント生成源の非線形光学部品をポンピングして、通信波長でエンタングル光子を生成できる可視光である。これまで説明してきた、クロックパルスを整形する一連のステップは、通信業界で用いられている市販の部品を利用して実行されてよい。特に、周波数変換は、市販されている非線形導波路(NL/W、「非線形導波路(Non Linear Waveguides)」という表現の省略形)を利用して実行することができ、同時に、この非線形導波路は、SDPCタイプの機構に基づいたエンタングルメント生成源と共に用いる目的では、光ファイバの有効性、小型さ、及び利用可能性という点で、周波数倍増に極めてよく適合する。前述したようなクロックパルスの分配、ひいてはローカル整形により、一連のエンタングルメント生成源を自動的に同期させることができる。エンタングル光子ペアの放出時に結果的に生じる時間変動は、光パルス源に固有のタイミングジッタのみに起因するもので、通常は、レーザパルス持続期間のうちの数パーセント程度である。
【0030】
前述したような同期装置は、任意の量子オブザーバブル、具体的には、偏光、周波数、放出時間を用いて光子を符号化する量子通信ネットワークに適用することができる。
【0031】
図3に、より詳細な例示的実施形態に従って、
図2の量子通信ネットワークの構成要素を示す。
【0032】
クロックパルスのパルス光源21は、通信周波数帯、例えば、1550nmにおいて5GHzで動作する、例えば、ピコ秒レーザ装置である。クロックパルス(本例ではI
1,I
2と記述)は、所定の距離の標準光ファイバ(22,23)上でエンタングルメント生成源141,142に向けて両側に割り振られるが、その所定の距離は、数百キロメートル程度であってよく、実際には、該当する構成要素に用いられる技術が余分なタイミングジッタをもたらさなければ、中継器を利用することによって、数百キロメートルより大きくなり得る。光放出源のパラメータは、長距離に亘るファイバ内の伝搬に関して予想され得る作用に応じて選択される。例えば、中心波長は、ファイバ内の損失、本例では、例えば、シリカ内の損失が確実に最小になるように適合される。パルス持続期間(例えば、1ps程度)及び平均光パワー(一般に、0.1mW)の選択は、クロックパルスの伝搬中の非線形作用(例えば、自己位相変調タイプの作用)を避ける一方で、光子ペアに対する単純なスペクトルフィルタリングの処理が可能な程度で十分に短いパルス持続期間を維持するような妥協点に基づいて為され、前述のフィルタリングは、光子(フーリエ限界における光子)のコヒーレンス時間を適合できるようにするものである。また、繰り返し率を可能な限り大きくして、量子通信のビットレートを大幅に上昇させる必要がある。ただし、連続して光子計数器に到達する2つの光子は分離可能でなければならないため、繰り返し率は、光子計数器に用いられる技術によって規定される。一般に、単光子を検出する超電導検出器(SSPD)は、現時点において、通常、40psのタイミングジッタで動作し(例えば、M・ハルダー(Halder)他による「Entangling independent photons by time measurement(時間計測による独立光子のエンタングル)」、Nature Phys.3,692(2007年)を参照)、クロックパルス放出源の繰り返し率を5GHzに制限する。
【0033】
有利な構成として、同期装置は、特に、放出時間(「タイムビン」)による光子の符号化を土台とする量子通信ネットワークに適する量子オブザーバブル前処理モジュール26を含むことができる。放出時間による符号化は、現時点において、光ファイバ内の伝搬中に生じ得るデコヒーレンス効果の限界により、長距離量子通信の最も堅牢なプロトコルの一つとされる(例えば、H・デリードマットン(de Riedmatten)他による「Long−distance entanglement swapping with photons from separated sources(独立生成源からの光子の長距離エンタングルメントスワッピング)」Phys.Rev.A,71,050302(R)(2005年)を参照)。量子オブザーバブル前処理モジュール26は、プロックパルスそのものを事前に符号化することを可能にする。したがって、量子オブザーバブル前処理モジュール26は、直接パルス光源21の出力部に配置されて、コヒーレントパルスのペア、すなわち、パルスペアを構成するパルス同士が一定の位相関係にあるペアを生成できる時間逆多重化装置を含む。時間逆多重化装置は、例えば、入射パルスの2つの時間シフトパルスへの分離を達成するように腕が調整されたマッハツェンダ干渉計である。このように生成されたパルスダブレットは、エンタングルメント生成源に送られ、その生成源においてローカルで周波数変換されて、放出時間によって絡み合わされた光子を生成できる非線形光学部品のポンピングに利用される。
【0034】
図3に示すように、ファイバ区画22,23の色分散は、それぞれ分散補償モジュール241,251(例えば、適切な長さの分散シフトファイバ、すなわち「分散シフトファイバ(Dispersion−Shifted Fiber)」の用語の省略形で表されるDSF)で補正することができる。分散補償モジュール241,251はそれぞれ、
図2に記載したクロックパルス整形モジュール24,25の一部を構成する。本例において、クロックパルス整形モジュール24,25は、更に、光増幅器(242,252)及び周波数倍増装置(243,253)をそれぞれ含む。周波数倍増装置の前段にポーラライザ(
図3には記載せず)を配置して、対象の偏光軸を維持すると有利である。このポーラライザは、クロックパルスの偏光を解消して、ファイバ内の伝搬中に複屈折の時間変動によって新たに生じる偏光回転作用を事前に防ぐ場合に、構想することができる。一般的な事項として、本出願人らは、約100kmの伝搬後におけるクロックパルスの平均光パワーの損失は−30dBm程度であることを示した。クロックパルスは、一般に60dBの利得を有する、市販のエルビウム添加ファイバ増幅器タイプの光増幅器(242,252)を利用して再生することができる。周波数倍増装置243,253は、例えば、効果的であると認められている、周期的に偏光されたニオブ酸リチウムの導波路(すなわち、これは「周期的に偏光されたニオブ酸リチウム導波路(Periodically Poled Lithium Niobate Waveguid)」を表すPPLN/W)である。
【0035】
エンタングルメント生成源141,142は、例えば、それぞれ1549nm及び1551nmの信号光子と補完(「アイドル」)光子の非縮退ペアにポンプパルス(775nmでの2倍クロックパルス)を変換できる非線形光学部品を含む。このように取得したエンタングル光子の2つのペアのうちの2つの内部光子(c及びc’)は、ベル状態を分析するリレーステーション13(すなわち、BSM)に送られ、そこで、2光子干渉装置135を利用して光子の干渉状態の測定が実行される(例えば、P・アボソウアン(Aboussouan)他による「High−visibility two−photon interference at a telecom wavelength using picosecond−regime separeted sources(ピコ秒型独立生成源を用いる通信波長における高視認性2光子干渉)」Physical Review A81,021801(R)(2010年)を参照)。有利な構成として、BSMの入力部に、分散補償モジュール134,135を構想することができる。エンタングル光子のペアのうちの外部光子(a及びb)は、ユーザであるアリス及びボブの受信機A及びBにそれぞれ送達される。既に説明したように、各受信機は、例えば、キュービット分析装置111と、コンピュータ113に連結された2つの受信機112を含む。
【0036】
本出願人らは、前述したように、エンタングルメント生成源を同期させる独自の方法及び装置により、エンタングル光子の独立した生成源とユーザとの間でのリレー処理に基づいた長距離量子通信ネットワークを実現できることを提示した。このように開示した同期方法の完全な光学的手法により、遠方のエンタングルメント生成源の同期を、追加のタイミングジッタを生じることなく高速で実現することができる。本出願人らは、市販されている通信部品及び非線形光学部品を用いて、400kmよりも遠くに離れた2人のユーザ間の量子通信を実現できることを示した。この概念は、ペア間の通信において、無制限の数のエンタングルメント生成源及びユーザに拡張することができる。したがって、
図4に、一方においてはAとBの間であり、他方においてはA’とB’の間である例示的量子通信ネットワークを示す。AB間及びA’B’間に、BSMタイプのリレーステーション(431〜433及び434〜436)によって中継された十分なエンタングルメント生成源(441〜444及び445〜448)をそれぞれ配置することで、求められる距離に亘るペア間の量子通信が確実に行われる。前述したような同期装置20により、一連のエンタングルメント生成源441〜448の同期を、追加のタイミングジッタをもたらすことなく、確実に行うことができ、ひいては、高ビットレートでの通信を実現できる。
【0037】
いくつかの詳細な例示的実施形態を用いて説明してきたが、本発明に係る同期手順及び装置は、当業者にとって明らかな各種の変形物、変更物、及び拡張物を含み、これらの各種の変形物、変更物、拡張物は、下記の請求項によって定義される本発明の範囲の一部を構成することは理解されよう。