特許第5963908号(P5963908)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5963908
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】スパークプラグ
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/36 20060101AFI20160721BHJP
   H01T 13/34 20060101ALI20160721BHJP
   H01T 13/20 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   H01T13/36
   H01T13/34
   H01T13/20 B
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-90920(P2015-90920)
(22)【出願日】2015年4月28日
【審査請求日】2016年4月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】特許業務法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 勉
(72)【発明者】
【氏名】尾関 啓治
【審査官】 高橋 学
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−155839(JP,A)
【文献】 特開平4−229979(JP,A)
【文献】 特開2011−222242(JP,A)
【文献】 特開2000−215963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/00−13/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線の方向に延びる軸孔を有する絶縁体と、
前記軸孔の一端側で保持される中心電極と、
前記軸孔の他端側で保持される端子金具と、
前記軸孔内で前記中心電極と前記端子金具とを電気的に接続する電気的接続部と、
外周の少なくとも一部に螺子部を備えるとともに前記絶縁体の外周に配置され、前記絶縁体の少なくとも一部を収容する主体金具と、
を備え、
前記電気的接続部は、抵抗体と、前記抵抗体と前記中心電極との間に配置され前記絶縁体と前記中心電極とを封着固定する導電性のシール層と、を有するスパークプラグであって、
前記軸線の方向において、前記シール層が形成されている範囲のうち、半分以上の範囲が以下の条件を満たすことを特徴とする、スパークプラグ。
M14の場合、a/(a+b)×100≧8.2、a+b≧2.80
M12の場合、a/(a+b)×100≧8.3、a+b≧1.80
M10の場合、a/(a+b)×100≧8.6、a+b≧1.75
(ただし、Mは、前記螺子部の呼び径を示し、aは、前記絶縁体と前記主体金具との間の距離を示し、bは、前記絶縁体の厚みを示す)
【請求項2】
請求項1に記載のスパークプラグであって、
さらに、以下の条件を満たす、スパークプラグ。
M14の場合、a+b≧2.95
M12の場合、a+b≧1.95
M10の場合、a+b≧1.90
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のスパークプラグであって、
前記シール層が形成されている範囲のすべてにおいて、前記条件を満たす、スパークプラグ。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のスパークプラグであって、
前記螺子部の呼び径が、M10またはM12である、スパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車エンジンにおいては、高出力化や燃費向上のため、燃焼時におけるエンジン内の圧力が高くなる傾向にある。この結果として、点火時に、エンジン内に設けられたスパークプラグの要求電圧が高まる傾向にある。点火時におけるスパークプラグの要求電圧が高まるほど、スパークプラグの電極の消耗は加速するため、スパークプラグの電極の消耗を抑制する技術が望まれていた。
【0003】
従来、スパークプラグの電極の消耗を抑制する技術として、中心電極および接地電極のそれぞれの対向面に貴金属チップを設ける技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−77838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、スパークプラグの要求電圧によっては、貴金属チップ自体が溶解してしまう場合がある。このため、電極の素材によらずに、電極の消耗を抑制できる技術が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することができる。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、スパークプラグが提供される。スパークプラグは、軸線の方向に延びる軸孔を有する絶縁体と、前記軸孔の一端側で保持される中心電極と、前記軸孔の他端側で保持される端子金具と、前記軸孔内で前記中心電極と前記端子金具とを電気的に接続する電気的接続部と、外周の少なくとも一部に螺子部を備えるとともに前記絶縁体の外周に配置され、前記絶縁体の少なくとも一部を収容する主体金具と、を備え、前記電気的接続部は、抵抗体と、前記抵抗体と前記中心電極との間に配置され前記絶縁体と前記中心電極とを封着固定する導電性のシール層と、を有するスパークプラグであって、前記軸線の方向において、前記シール層が形成されている範囲のうち、半分以上の範囲が以下の条件を満たすことを特徴とする。
M14の場合、a/(a+b)×100≧8.2、a+b≧2.80
M12の場合、a/(a+b)×100≧8.3、a+b≧1.80
M10の場合、a/(a+b)×100≧8.6、a+b≧1.75
(ただし、Mは、前記螺子部の呼び径を示し、aは、前記絶縁体と前記主体金具との間の距離を示し、bは、前記絶縁体の厚みを示す)。
この形態のスパークプラグによれば、範囲Lにおける静電容量を下げることができる。この結果として、中心電極および接地電極の消耗を抑制することができる。
【0008】
(2)上記形態のスパークプラグにおいて、さらに、以下の条件を満たしてもよい。
M14の場合、a+b≧2.95
M12の場合、a+b≧1.95
M10の場合、a+b≧1.90
この形態のスパークプラグによれば、中心電極および接地電極の消耗をより抑制することができる。
【0009】
(3)上記形態のスパークプラグにおいて、前記シール層が形成されている範囲のすべてにおいて、前記条件を満たしてもよい。
この形態のスパークプラグによれば、中心電極および接地電極の消耗をより抑制することができる。
【0010】
(4)上記形態のスパークプラグにおいて、前記螺子部の呼び径が、M10またはM12としてもよい。
この形態のスパークプラグによれば、中心電極および接地電極の消耗をより抑制することができる。
【0011】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、スパークプラグの製造方法等の態様で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】スパークプラグ100を示す部分断面図。
図2】スパークプラグ100の一部を拡大して示す拡大断面図。
図3】aおよびbと低減率との関係を示す図。
図4】空間層割合と低減率(%)との関係を示す図。
図5】範囲Lのうちの範囲L1の割合と低減率(%)との関係を示す図。
図6】aおよびbと低減率(%)との関係を示す図。
図7】スパークプラグ100の等価回路を示す図。
図8】aとbとを調整する他の形態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
A.実施形態:
A−1.スパークプラグの構成:
図1は、スパークプラグ100を示す部分断面図である。図1には、スパークプラグ100の軸心である軸線O−Oを境界として、一方にスパークプラグ100の外観形状を図示し、他方にスパークプラグ100の断面形状を図示する。スパークプラグ100は、軸線O−Oの方向に延びる軸孔28を有する絶縁体20と、軸孔28の一端側で保持される中心電極10と、軸孔28の他端側で保持される端子金具19と、軸孔28内で中心電極10と端子金具19とを電気的に接続する電気的接続部15と、絶縁体20の外周に配置され、絶縁体20の少なくとも一部を収容する主体金具30とを備える。本実施形態では、スパークプラグ100の軸線O−Oは、中心電極10、絶縁体20、主体金具30の各部材の軸心でもある。
【0014】
スパークプラグ100において、中心電極10は、絶縁体20によって電気的に絶縁されている。絶縁体20の外周には、中心電極10から電気的に絶縁された状態で主体金具30が加締めによって固定されている。主体金具30には接地電極40が電気的に接続され、中心電極10と接地電極40との間には、火花を発生させる隙間である火花ギャップが形成されている。スパークプラグ100は、内燃機関(図示しない)のエンジンヘッド200に形成された取付ネジ孔210に主体金具30を螺合させた状態で取り付けられ、2万〜3万ボルトの高電圧が中心電極10に印加されると、中心電極10と接地電極40との間に形成された火花ギャップに火花が発生する。
【0015】
スパークプラグ100の中心電極10は、有底筒状に成形された電極母材12の内部に、電極母材12よりも熱伝導性に優れる芯材14を埋設した棒状の電極である。本実施形態では、中心電極10は、電極母材12の先端が絶縁体20の一端から突出する状態で絶縁体20に固定されると共に、電気的接続部15を介して端子金具19と電気的に接続されている。本実施形態では、中心電極10の電極母材12は、インコネル(登録商標)を始めとするニッケルを主成分とするニッケル合金から形成されており、中心電極10の芯材14は、銅または銅を主成分とする合金から形成されている。
【0016】
電気的接続部15は、中心電極10側から順に、第1シール層16と、抵抗体17と、第2シール層18とを備える。第1シール層16は、絶縁体20と中心電極10とを封着固定する部材であり、第2シール層18は、絶縁体20と端子金具19とを封着固定する部材である。本実施形態では、抵抗体17は、「セラミック抵抗」とも呼ばれ、主に導電性材料と、ガラス粒子と、ガラス粒子以外のセラミック粒子により構成されている。第1シール層16および第2シール層18は、Cu、Sn、Fe等の金属成分の1種又は2種以上を主体とする金属粉末を混合したガラスにより構成されている。なお、第1シール層16および第2シール層18には、必要に応じてTiOなどの半導体性の無機化合物粉末を適量配合してもよい。ここで、第1シール層16が本発明における導電性のシール層に該当する。
【0017】
スパークプラグ100の絶縁体20は、アルミナを始めとする絶縁性セラミックス材料を焼成して形成される。絶縁体20は、中心電極10を収容する軸孔28を有する筒状体であり、中心電極10が突出する側から軸線O−Oに沿って順に、脚長部22と、第1碍子胴部24と、碍子鍔部25と、第2碍子胴部26とを備える。絶縁体20の脚長部22は、中心電極10が突出する側に向けて外径が小さくなる筒状の部位である。絶縁体20の第1碍子胴部24は、脚長部22よりも大きな外径を有する筒状の部位である。絶縁体20の碍子鍔部25は、第1碍子胴部24よりも更に大きな外径を有する筒状の部位である。絶縁体20の第2碍子胴部26は、碍子鍔部25よりも小さな外径を有する筒状の部位であり、主体金具30と端子金具19との間に十分な絶縁距離を確保する。
【0018】
スパークプラグ100の主体金具30は、本実施形態では、ニッケルメッキされた低炭素鋼製の部材であるが、他の実施形態において、亜鉛メッキされた低炭素鋼製の部材であっても良く、無メッキのニッケル合金製の部材であっても良い。主体金具30は、中心電極10が突出する側から軸線O−Oに沿って順に、端面31と、螺子部32と、胴部34と、溝部35と、工具係合部36と、カシメ部38とを備える。
【0019】
主体金具30の端面31は、螺子部32の先端に形成された中空円状の面であり、端面31には、接地電極40が接合され、端面31の中央からは、絶縁体20の脚長部22に包まれた中心電極10が突出する。主体金具30の螺子部32は、主体金具30の外周の一部であり、エンジンヘッド200の取付ネジ孔210に螺合する螺子溝が設けられた部位である。主体金具30の胴部34は、溝部35に隣接して設けられ、溝部35よりも外周方向に張り出した鍔状部である。
【0020】
主体金具30の溝部35は、胴部34と工具係合部36との間に形成され、主体金具30を絶縁体20に加締める際に、圧縮加工により外周方向および内周方向に膨出した部位である。主体金具30の工具係合部36は、溝部35に隣接して設けられ、溝部35よりも外周方向に張り出した鍔状部であり、スパークプラグ100をエンジンヘッド200に取り付けるための工具(図示しない)に係合する多角形状に成形されている。本実施形態では、工具係合部36は六角形状であるが、他の実施形態において、四角形や八角形など他の多角形であっても良い。主体金具30のカシメ部38は、工具係合部36に隣接して設けられ、主体金具30を絶縁体20に加締める際に、絶縁体20の第2碍子胴部26に密着するように塑性加工された部位である。主体金具30のカシメ部38と、絶縁体20の碍子鍔部25との間の領域には、粉末のタルク(滑石)を充填した充填部63が形成され、充填部63は、パッキン62,64で封止されている。
【0021】
スパークプラグ100の接地電極40は、溶接によって主体金具30に接合され、中心電極10の軸線O−Oに交差する方向に屈曲して中心電極10の先端に対向する電極である。本実施形態では、接地電極40は、インコネル(登録商標)を始めとするニッケルを主成分とするニッケル合金から形成されている。
【0022】
図2は、スパークプラグ100の一部を拡大して示す拡大断面図である。図2に示す主体金具30の断面は、軸線O−Oを通る断面、すなわち軸線O−Oを含む断面であり、図2は第1シール層16、絶縁体20、主体金具30を拡大して示す。絶縁体20と主体金具30との間には空間が存在する。この空間には、空気が存在し、この空間を空間層80と呼ぶ。図2において、「a」は、絶縁体20と主体金具30との間の空間層80の厚み、すなわち、絶縁体20と主体金具30との間の距離(mm)を示し、「b」は、絶縁体20の厚み(mm)を示す。厚みとは、軸線O−Oに垂直な方向における寸法を言う。範囲Lは、軸線O−Oの方向における第1シール層16が形成されている範囲を示し、範囲L1は、範囲Lのうち、以下の条件(数式(1)から数式(3))を満たす範囲を示す。なお、「M」は、螺子部32の呼び径(「ネジ径」とも呼ぶ)を示す。以下において、「a/(a+b)×100」を「空間層割合」とも呼び、「a+b」を「電極間距離」とも呼ぶ。
【0023】
M=14mmの場合、a/(a+b)×100≧8.2、a+b≧2.80 (1)
M=12mmの場合、a/(a+b)×100≧8.3、a+b≧1.80 (2)
M=10mmの場合、a/(a+b)×100≧8.6、a+b≧1.75 (3)
【0024】
本実施形態において、範囲Lのうち、範囲L1が半分以上を占める。このようにすることにより、詳細な推定メカニズムは後述するが、範囲Lにおける静電容量を下げることができる。この結果、スパークプラグ100の容量エネルギーを低減することができるため、中心電極10および接地電極40の素材によらずに、中心電極10および接地電極40の消耗を抑制することができる。以下に、この効果を証明する実験結果を示す。
【0025】
A−2.実験結果:
図3は、aおよびbと低減率との関係を示す図である。まず、ネジ径が異なる主体金具を複数用意した後、絶縁体20の外周を削ることにより、aとbとを異ならせたスパークプラグを作成し、以下の条件において実験を行った。範囲L1は、範囲Lの半分を占める構成とし、図2のようにaとbとは、それぞれ一定の値となるように作成した。測定条件としては、大気雰囲気下で圧力を2.6Mpaとし、1秒間に100回(100Hz)の点火を5時間行った。スパークプラグを軸線O−Oに沿って切断した後、aとbの値を、軸線O−O中心の左右それぞれについて計測し、その平均値をそれぞれ図3に示した。「低減率(%)」は、従来品に対する電極の消耗の低減率を示し、以下の数式(4)により算出される。
【0026】
{1−(試作品の電極間のギャップ増加量/従来品の電極間のギャップ増加量)}×100 (4)
【0027】
実験後の電極間のギャップ増加量が小さいほど、電極の消耗が抑制されていると言え、低減率(%)が大きいほど、従来品に対して電極の消耗が少ないと言える。また、「判定」の欄は、以下の基準により、「◎○△」を付した。なお、「判定」の欄が「‐」のスパークプラグは、従来品であり、比較対象であることを示す。
【0028】
低減率が5%未満の場合 :△
低減率が5%以上10%未満の場合 :○
低減率が10%以上の場合 :◎
【0029】
図3の結果から、上記数式(1)から(3)を満たすことにより、低減率が増加しており、電極の消耗が抑制されていることがわかる。具体的には、図3の結果から、上記数式(1)から(3)を満たすスパークプラグであるサンプル4〜9、12〜17、20〜24は、低減率が5%以上であったことが分かる。
【0030】
図4は、空間層割合(a/(a+b)×100)と低減率(%)との関係を示す図である。図4において、空間層割合(a/(a+b)×100)を横軸とし、低減率(%)を縦軸とする。図4において、ネジ径Mが10mmのデータを「▲」で示し、ネジ径Mが12mmのデータを「■」で示し、ネジ径Mが14mmのデータを「◆」で示す。
【0031】
図4の結果から、ネジ径により多少の差は有るが、電極間距離(a+b)に対して空間層の厚みaの割合が増加するほど、低減率が増加しており、電極の消耗が抑制されていることが分かる。特に、ネジ径が小さいほど、空間層の厚みaの割合が低減率に寄与することが分かる。つまり、Mが10mmまたは12mmである場合に、低減率がより向上することが分かる。なお、スパークプラグの強度を確保する観点から、a/(a+b)は0.5未満が好ましい。
【0032】
図5は、範囲Lのうちの範囲L1の割合(L1/L)と低減率(%)との関係を示す図である。aとbとの値は、図3のサンプルs(サンプル4))と同じとした。その上で、サンプルの範囲Lのうちの範囲L1の割合(L1/L)を調整した。図5(A)は、さらに、判定項目を設け、範囲Lのうちの範囲L1の割合(L1/L)と低減率(%)との関係を示す。図5(B)は、横軸を範囲Lのうちの範囲L1の割合(L1/L)とし、縦軸を低減率(%)として示す。
【0033】
図5の結果から、L1/Lが0.5以上、つまり、範囲Lのうち範囲L1が半分以上を占める場合(サンプル33〜36)に、低減率が5%以上となることが分かる。また、図5(B)から分かるように、L1/Lが0.4から0.6において、低減率が急激に変化することが分かる。低減率を向上させる観点から、L1/Lは、0.5以上であり、0.6以上が好ましく、1(L=L1)が最も好ましい。
【0034】
図6は、空間層割合(a/(a+b)×100)を変化させずに、aとbとを変化させた場合における、aおよびbと低減率(%)との関係を示す図である。空間層割合(a/(a+b)×100)の値は、M=14mmの場合は図3のサンプルs(サンプル4))と同じとし、M=12mmの場合は図3のサンプルt(サンプル12))と同じとし、M=10mmの場合は図3のサンプルu(サンプル20))と同じとした。その上で、サンプルのaとbとを調整した。
【0035】
図6の結果から、以下の条件(数式(5)から数式(7))を満たすときに、低減率(%)がさらに向上することが分かった。
【0036】
M=14mmの場合、a+b≧2.95 (5)
M=12mmの場合、a+b≧1.95 (6)
M=10mmの場合、a+b≧1.90 (7)
【0037】
具体的には、図6の結果から、上記数式(5)から(7)を満たすスパークプラグであるサンプル43〜44、48〜49、53〜54は、低減率が10%以上であったことが分かる。
【0038】
A−3.推定メカニズム:
L1/L、a、b、Mを特定の範囲とすることにより、低減率(%)が向上する推定メカニズムを、以下に説明する。
【0039】
図7は、スパークプラグ100の等価回路を示す図である。スパークプラグ100は、コンデンサーとみなすことができ、スパークプラグ100に溜められた電荷は、放電時にギャップ間を流れる。このため、スパークプラグ100の静電容量を抑えることにより、放電発生時のエネルギー(容量電流)が下がる。この結果として、中心電極10および接地電極40の消耗を抑制することができると考えられる。図7において、抵抗体17と第1シール層16との境界よりも中心電極10側(図1参照)をコンデンサーC1で示し、抵抗体17と第1シール層16との境界よりも端子金具19側をコンデンサーC2で示す。また、図7において、抵抗体17の内部抵抗を抵抗Rと示し、中心電極10と接地電極40とのギャップをギャップGと示す。
【0040】
コンデンサーC2から流れる電流は、抵抗Rを流れることにより、電流値が大きく下げられる。一方、コンデンサーC1から流れる電流は、抵抗Rを経由せず電流がギャップG間に流れる。このため、ギャップG間での放電発生時の容量電流に対しては、コンデンサーC1から流れる電流の寄与が大きいと考えられる。従って、コンデンサーC1の静電容量を抑えることにより、中心電極10および接地電極40の消耗を抑制することができる。特に、第1シール層16と主体金具30との距離は短く、通常、第1シール層16と主体金具30との間は、絶縁体20が占めている。このため、本実施形態では、絶縁体20よりも誘電率が小さい空気層を設けることにより、コンデンサーC1の静電容量を小さくすることができ、この結果として電極の消耗を抑制できると考えられる。なお、第1シール層16と主体金具30との間に存在する絶縁体20の厚みを変更しても、スパークプラグ100の他の性能(例えば、耐熱性、耐汚損性、耐リーク性)に影響を与える割合が小さいにもかかわらず、電極の消耗を抑制できる。
【0041】
B.変形例:
上記実施形態において、絶縁体20の外周を削ることにより、aとbとを調整しているが、これに限られず、例えば、以下の態様としてもよい。
【0042】
図8は、aとbとを調整する他の形態を示す図である。図8(A)は、第1シール層16と抵抗体17との境界側の絶縁体20の外周を削らず、絶縁体20の外周の一部を削る形態を示す。図8(B)は、主体金具30の内周の削る形態を示す。図8(C)は、第1シール層16と抵抗体17との境界側の主体金具30の内周を削らず、主体金具30の内周の一部を削る形態を示す。図8(D)は、主体金具30の内周をテーパ状に削る形態を示す。なお、絶縁体20の外周をテーパ状に削る形態としてもよい。
【0043】
本発明は、上述の実施形態や変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0044】
10…中心電極
12…電極母材
14…芯材
15…電気的接続部
16…第1シール層
17…抵抗体
18…第2シール層
19…端子金具
20…絶縁体
22…脚長部
24…第1碍子胴部
25…碍子鍔部
26…第2碍子胴部
28…軸孔
30…主体金具
31…端面
32…螺子部
34…胴部
35…溝部
36…工具係合部
38…カシメ部
40…接地電極
50…ガスケット
62…パッキン
63…充填部
80…空間層
100…スパークプラグ
200…エンジンヘッド
210…取付ネジ孔
C1…コンデンサー
C2…コンデンサー
G…ギャップ
L…範囲
L1…範囲
O−O…軸線
R…抵抗
【要約】
【課題】電極の消耗を抑制する技術を提供する。
【解決手段】スパークプラグは、軸線の方向に延びる軸孔を有する絶縁体と、前記軸孔の一端側で保持される中心電極と、前記軸孔の他端側で保持される端子金具と、前記軸孔内で前記中心電極と前記端子金具とを電気的に接続する電気的接続部と、外周の少なくとも一部に螺子部を備えるとともに前記絶縁体の外周に配置され、前記絶縁体の少なくとも一部を収容する主体金具と、を備え、前記電気的接続部は、抵抗体と、前記抵抗体と前記中心電極との間に配置され前記絶縁体と前記中心電極とを封着固定する導電性のシール層と、を有するスパークプラグであって、前記軸線の方向において、前記シール層が形成されている範囲のうち、半分以上の範囲が所定の条件を満たすことを特徴とする。
【選択図】図2
図1
図2
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図7
図8