特許第5963967号(P5963967)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5963967燃焼合成システム、反応生成物、物品、燃焼合成方法、発電システム、プラズマ発生装置および発電装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5963967
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】燃焼合成システム、反応生成物、物品、燃焼合成方法、発電システム、プラズマ発生装置および発電装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/082 20060101AFI20160721BHJP
   H02K 44/08 20060101ALI20160721BHJP
   H05H 1/24 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   C01B21/082 G
   H02K44/08 A
   H05H1/24
【請求項の数】12
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-531817(P2015-531817)
(86)(22)【出願日】2014年8月11日
(86)【国際出願番号】JP2014071238
(87)【国際公開番号】WO2015022947
(87)【国際公開日】20150219
【審査請求日】2016年1月14日
(31)【優先権主張番号】特願2013-169126(P2013-169126)
(32)【優先日】2013年8月16日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513208043
【氏名又は名称】合同会社 新資源研究所ホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】昆野 ▲晴▼暉
(72)【発明者】
【氏名】松下 晶子
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−063894(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/081625(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/123581(WO,A1)
【文献】 特開2003−054919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B15/00−23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Siを含む粒子粉末と、SiOを含む粒子粉末およびNガスを混合させて混合物を生成する供給部と、
耐熱性および耐圧性を有し、前記供給部から供給された前記混合物を原料とする燃焼合成が内部にて進行する反応部と、
前記反応部に供給された前記混合物を着火する着火部と、
前記反応部の内部における燃焼合成反応の反応熱を、前記反応部の外部へと取り出す熱取出部と、
を含むことを特徴とする燃焼合成システム。
【請求項2】
前記供給部は、SiおよびSiOを含む粒子粉末とNガスとを流動床を用いて混合させることを特徴とする請求項1に記載の燃焼合成システム。
【請求項3】
シリコン酸窒化物系セラミックスを含む反応生成物を、前記反応部の外部にて回収する回収部をさらに含むことを特徴とする請求項1または2に記載の燃焼合成システム。
【請求項4】
前記回収部は、その内部を前記反応部の内部よりも低気圧に保ち、前記反応生成物を含む気体を膨張させて冷却することを特徴とする請求項3に記載の燃焼合成システム。
【請求項5】
前記SiOを含む粒子粉末は、砂であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃焼合成システム。
【請求項6】
前記供給部は、Alをさらに混合させて混合物を生成することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃焼合成システム。
【請求項7】
前記熱取出部は、燃焼合成反応の反応熱を、水を熱媒体として熱交換することによって取り出すことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の燃焼合成システム。
【請求項8】
Siを含む粒子粉末、SiOを含む粒子粉末およびNガスを混合させて混合物を生成するステップと、
耐熱性および耐圧性を有し、供給された前記混合物を原料とする燃焼合成が内部にて進行する反応部を用いて反応を行うステップと、
前記反応部に収容された前記混合物を着火するステップと、
前記反応部の内部における燃焼合成反応の反応熱を、前記反応部の外部へと取り出すステップと、を含むことを特徴とする燃焼合成方法。
【請求項9】
シリコン酸窒化物系セラミックスを含む反応生成物を、前記反応部の外部にて回収するステップをさらに含む請求項に記載の燃焼合成方法。
【請求項10】
Siを含む粒子粉末、SiOを含む粒子粉末およびNガスを混合させてなる混合物が供給され、当該混合物を原料とする燃焼合成が内部にて進行する反応部と、
前記反応部への前記Nガスの供給量を調整して反応部内の圧力を0.9Pa以上とし、前記燃焼合成で生成される反応ガスを熱プラズマ化する制御部と、
内部が前記反応部内よりも低圧で、且つ前記反応ガスの昇華温度よりも高い温度である減圧部と、
前記反応部内と前記減圧部内とを連通し、前記熱プラズマ化された反応ガスを前記反応部から前記減圧部へ流通させ、当該流通によりMHD発電を行う発電部と、
内部が前記反応ガスの昇華温度よりも低い温度であり、且つ前記減圧部内と連通され、減圧部内の前記反応ガスが流入して固体状の反応生成物が形成される膨張断熱室と、
を備えることを特徴とする発電システム。
【請求項11】
Siを含む粒子粉末、SiOを含む粒子粉末およびNガスを混合させてなる混合物が供給され、当該混合物を原料とする燃焼合成が内部にて進行する反応部と、
前記反応部への前記Nガスの供給量を調整して反応部内の圧力を0.9Pa以上とし、前記燃焼合成で生成される反応ガスを熱プラズマ化する制御部と、
を備えることを特徴とするプラズマ発生装置。
【請求項12】
請求項11に記載のプラズマ発生装置と、
前記プラズマ発生装置で生成される前記熱プラズマ化した反応ガスの流通によりMHD発電を行う発電部と、
を備えることを特徴とする発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼合成システム、反応生成物、物品および燃焼合成方法、特にSiを含む粒子粉末、SiOを含む粒子粉末およびNガスを用いた燃焼合成システム、反応生成物、物品および燃焼合成方法に関する。また、発電システム、プラズマ発生装置および発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
産業、運輸、消費生活などで使用された全世界の消費電力は、2010年には1.36×1016Whであった。このうち、主要工業用素材の製造が約30%を占める。特に、鉄を主成分とする特殊鋼の製造が約8%を占める。エネルギー源としては、化石燃料が依然として約85%と高い割合を占めている。しかし、化石燃料に対する過度の依存から抜け出す抜本的な解決策は、未だ見出されていない。
【0003】
産業革命以来営々と続く鉄文明は、特定の資源を枯渇させる状況を招くとともに、地球温暖化の原因の1つであるとされている。そこで、鉄に代わる材料として、シリコン(以下、金属シリコン、金属Si、単にSiともいう)が注目されている。Siは、地球の地殻を構成する元素のうち27%を占めるにもかかわらず、殆ど手付かずの状態で残されている。Siを利用する技術はまだ開発され始めたばかりである。
【0004】
Siから有用な材料を得るために、いくつかの方法が開発されてきた。たとえば、窒素雰囲気下のチャンバ内で金属Siを反応させてシリコン酸窒化物系セラミックスを得るための手法として、燃焼合成法(以下、単に燃焼合成ともいう)が知られている。燃焼合成時の反応系の内圧と温度を一定値に制御して、安定的にシリコン−酸素−窒素系燃焼合成を実行する制御型燃焼合成装置の実用化が検討されている。ここで、シリコン−酸素−窒素系燃焼合成とは、原料として固体のSi、SiOなどの酸素供給源、および気体のNを用いる燃焼合成をいう。制御型燃焼合成とは、内圧と温度を制御することにより、反応熱をできる限り抑制する燃焼合成をいう。制御型燃焼合成装置で製造された各種のシリコン酸窒化物系セラミックスであるSi6−zAl8−z(以下、サイアロン、Sialon(s)ともいう)やAlを含まないSiON(以下、サイオン、Sion(s)ともいう)は、シリコン合金と呼ばれ、用途開発も検討されている。特に、燃焼合成時の圧力と温度を制御して安定してサイアロン系セラミックスが合成できる装置は、制御型燃焼合成装置として実用化が進んでいる。
【0005】
制御型燃焼合成は、シリコン酸窒化物系セラミックスを、従来技術に比べてほとんどエネルギーコストをかけずに安定的に生産できる点が特徴である。制御型燃焼合成装置を用いて、工業的に有用な特性を有するいくつかのシリコン酸窒化物系セラミックスが生産されている(非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K.H.Jack,Journal Material Science Vol.11(1976) pp1135
【非特許文献2】Yuwanwen Wo 他,Journal of Materials Synthesisand Processing Vol.4,No.3,(1996) pp137
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
燃焼合成は一般に爆発的に進行するため、反応に伴い大量のエネルギーが発生する。窒素環境中でシリコンが燃焼する際に発生するエネルギーは、O’サイアロン合成の場合に実測されている。反応を誘発するための短時間の火花による着火により、以下の式1に示すように、外部からのエネルギーの投入なしで、発熱反応が進行する。
3Si+SiO+2N→2SiO(ΔH=−984.6kJmol−1)・・・(式1)
【0008】
ここに示されるエンタルピーΔHは、反応系または生成系1mol当たりの材料からの総発熱量を示している。この値を反応系または生成系材料の単位重量当たりの電力量に換算すると1.36kWh/kgと換算される。言いかえると、この系の反応系または生成系での発熱反応では、素材材料の窒素燃焼合成により1.36kWhの電力が発生する。
【0009】
同様に、βサイアロン(z=3)の生成に関するエンタルピーΔHは、以下の式2の様に計算される。
3Si+6Al+3SiO+5N→2SiAlNAl(ΔH=−973.6kJmol−1)・・・(式2)
この場合に発生する反応生成物(ここではSiAlNAl)1kgあたり1157Kcalの熱量を電力に換算すると、1.4kWhとなる。
【0010】
式1および式2の反応に使用されるSiOは、地球に無尽蔵に存在する砂漠の砂の主成分である珪石である。Siは、SiOを還元することにより得られる。また、窒素は圧縮空気から無尽蔵に入手できる。つまり、燃焼合成に使用される原料は、地球に豊富に存在する基本資源そのものである。さらに、式1および式2に示されるように、燃焼合成では二酸化炭素COが発生しない点が重要である。
【0011】
燃焼合成では大量の反応熱が発生する。そのため、従来の制御型燃焼合成装置では、爆発的に進行する燃焼合成反応を、1)雰囲気圧力、2)燃焼合成温度、3)反応抑制材等を用いて極力抑制することが検討されてきた。言いかえると、従来の制御型燃焼合成装置は、燃焼合成により発生する反応熱を1)〜3)の抑制力を最大限に発揮させて燃焼合成の反応を極力制御して安定的に行い、工業製品の基礎素材となる反応生成物を工業的に安定的に製造する点に焦点を置いてきた。
【0012】
しかし、バッチ型装置を使用する従来の燃焼合成法では、反応生成物を得ることのみに主眼がおかれていた。そのため、燃焼合成の利用効率には改善の余地があった。
【0013】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、燃焼合成により生じた反応熱を有効に利用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の燃焼合成システムは、Siを含む粒子粉末と、SiOを含む粒子粉末およびNガスを混合させて混合物を生成する供給部と、耐熱性および耐圧性を有し、供給部から供給された混合物を原料とする燃焼合成が内部にて進行する反応部と、反応部に供給された混合物を着火する着火部と、反応部の内部における燃焼合成反応の反応熱を、反応部の外部へと取り出す熱取出部と、を含むことを特徴とする。
【0015】
この態様によると、反応により生じた反応熱を有効に利用することにより、燃焼合成の利用効率を高めることができる。また、供給部を通じて連続的に原料を供給すること、および反応部において連続的に反応を進行させることができる。
【0016】
上記態様の燃焼合成システムにおいて、供給部は、SiおよびSiOを含む粒子粉末とNガスとを流動床を用いて混合させてもよい。この態様によると、原料の混合および燃焼合成を連続的かつ効率的に進行させることができる。
【0017】
上記態様の燃焼合成システムにおいて、熱取出部は、燃焼合成反応の反応熱を、水を熱媒体として熱交換することによって取り出してもよい。この態様によると、生成熱を燃焼合成システムから連続的かつ効率的に取り出すことができる。
【0018】
上記態様の燃焼合成システムにおいて、シリコン酸窒化物系セラミックスを含む反応生成物を、反応部の外部にて回収する回収部をさらに含んでもよい。この態様によると、反応により生じた反応熱を有効に利用できることに加えて、燃焼合成の結果生成される反応生成物を効率的に回収することができる。
【0019】
上記態様の燃焼合成システムにおいて、回収部は、その内部を反応部の内部よりも低気圧に保ち、反応生成物を含む気体を膨張させて冷却してもよい。この態様によると、反応生成物であるシリコン酸窒化物系セラミックスの高純度化や微細化を実現することができる。また、回収部がその内部を反応部よりも低気圧に保ち、反応生成物を含む気体を膨張させて冷却することによって、反応生成物を粒子粉末として回収することができる。これにより、従来必要であった微粉砕化工程を省略することができる。反応部と回収部の内圧差を大きくしてさらに減圧膨張効果を高めることによって、シリコン酸窒化物系セラミックスの粒径を調整でき、超マイクロ粉末の低廉製造が実現されうる。
【0020】
上記態様の燃焼合成システムにおいて、原料となるSiOを含む粒子粉末は、砂漠にほぼ無尽蔵に埋蔵される砂であってもよい。この態様によると、資源の枯渇の心配なく化石資源から安価に代替エネルギーを生成することができる。
【0021】
上記態様の燃焼合成システムにおいて、供給部は、Alをさらに混合させて混合物を生成してもよい。この態様によると、反応生成物としてサイアロンを生成することができる。
【0022】
本発明の他の態様は、反応生成物である。当該反応生成物は、上記態様の燃焼合成システムにより生成されたシリコン酸窒化物系セラミックスを含む。この態様によると、高純度な反応生成物を得ることができる。
【0023】
本発明の他の態様は、物品である。当該物品は、上記態様の反応生成物を用いて形成される。この態様によると、常温から高温下における強度、耐熱衝撃、耐摩耗性に優れた物品を形成することができる。
【0024】
本発明の他の態様は、燃焼合成方法である。当該燃焼合成方法は、Siを含む粒子粉末、SiOを含む粒子粉末(そして時にAl等の粒子粉末)、それにNガスを混合させて混合物を生成するステップと、耐熱性および耐圧性を有し、供給部から供給された混合物を原料とする燃焼合成が内部にて進行する反応部を用いて反応を行うステップと、反応部に収容された混合物を着火するステップと、反応部の内部における燃焼合成反応の反応熱を、反応部の外部へと取り出すステップと、を含む。この態様によると、燃焼合成の反応熱の利用効率を高めることができる。
【0025】
上記態様の燃焼合成方法において、シリコン酸窒化物系セラミックスを含む反応生成物を、反応部の外部にて回収するステップをさらに含んでもよい。この態様によると、反応により生じた反応熱を有効に利用できることに加えて、燃焼合成の結果生成される反応生成物を効率的に回収することができる。
【0026】
本発明の他の態様は、発電システムである。当該発電システムは、Siを含む粒子粉末、SiO2を含む粒子粉末およびN2ガスを混合させてなる混合物が供給され、当該混合物を原料とする燃焼合成が内部にて進行する反応部と、反応部へのN2ガスの供給量を調整して反応部内の圧力を0.9Pa以上とし、燃焼合成で生成される反応ガスを熱プラズマ化する制御部と、内部が反応部内よりも低圧で、且つ反応ガスの昇華温度よりも高い温度である減圧部と、反応部内と減圧部内とを連通し、熱プラズマ化された反応ガスを反応部から減圧部へ流通させ、当該流通によりMHD発電を行う発電部と、内部が反応ガスの昇華温度よりも低い温度であり、且つ減圧部内と連通され、減圧部内の反応ガスが流入して固体状の反応生成物が形成される膨張断熱室と、を備える。
【0027】
本発明の他の態様は、プラズマ発生装置である。当該プラズマ発生装置は、Siを含む粒子粉末、SiO2を含む粒子粉末およびN2ガスを混合させてなる混合物が供給され、当該混合物を原料とする燃焼合成が内部にて進行する反応部と、反応部へのN2ガスの供給量を調整して反応部内の圧力を0.9Pa以上とし、燃焼合成で生成される反応ガスを熱プラズマ化する制御部と、を備える。
【0028】
本発明の他の態様は、発電装置である。当該発電装置は、上記態様のプラズマ発生装置と、プラズマ発生装置で生成される熱プラズマ化した反応ガスの流通によりMHD発電を行う発電部と、を備える。
【発明の効果】
【0029】
燃焼合成により生じた反応熱を有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】実施の形態1に係る開放型の連続燃焼合成システムを表す概略図である。
図2】燃焼合成炎の状態を示す図である。
図3】燃焼合成炎の状態を示す図である。
図4】リアクタ内の燃焼温度と絶対圧力との関係を示す図である。
図5】実施の形態2に係る発電システムを表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0032】
(実施の形態1)
シリコン−酸素−窒素系燃焼合成に関して、従来より以下の可能性が示唆されてきた。
1)反応生成物であるシリコン酸窒化物系セラミックスは、鉄を主成分とする特殊鋼の代替となりうる。
2)燃焼合成反応を制御することにより、シリコン酸窒化物系セラミックスの製造原価をさらに大幅に低減させうる余地がある。
【0033】
本発明者らは、以上の可能性に加えて、さらに以下の可能性を見出した。
3)SiOを主成分とする珪石および金属シリコンを主原料として、シリコン−酸素−窒素系燃焼合成を行う場合に、反応生成物を利用することに加えて、生成エネルギーを新たなエネルギー源として利用しうる。
【0034】
そこで、本発明者らは、制御型燃焼合成装置を用いて実験を種々繰返し検討を加えた結果、開放型連続燃焼合成システムに想到した。本明細書中で「開放型」の燃焼合成とは、従来の制御型燃焼合成とは異なり、上述のように反応熱を抑制することなく、得られた反応熱をできる限り外部で利用することを目的とする燃焼合成をいう。また、「連続燃焼合成」とは、原料を継続的に投入しつつ、連続的に反応を行う燃焼合成をいう。
【0035】
開放型連続燃焼合成システムである本実施の形態の燃焼合成システム100の特徴は、以下の通りである。
1)燃焼合成リアクタ(反応部)とその前後工程を最適化することによって、連続燃焼合成を可能にする。
2)燃焼合成時に発生する反応熱を効率的に外部に取り出して、電気エネルギーとして活用する。
3)必要な場合には、燃焼合成終了後の気体から、反応生成物を微細粉末として直接回収する。この過程で、原料に含まれていた不純物が実質的に含まれない高純度な粒子が生成される。
4)従来の化石燃料によるエネルギー生成の際には、炭素を主体とする有機体を酸素により酸化する際に発生するエネルギーを活用することから、必然的に二酸化炭素や一酸化炭素(気体)が生成されてしまう。しかし、燃焼合成システム100では、エネルギー生成時の生成物は、シリコンと窒素および酸素で構成されているため、二酸化炭素や一酸化炭素(気体)は全く生成されない。
【0036】
図1は、本実施の形態に係る開放型の燃焼合成システム100を表す概略図である。燃焼合成システム100は、供給部1と、反応部2と、着火部7と、熱取出部8と、回収部3とを主な構成として有する。また、これらを用いた連続的な燃焼合成は、制御部20により制御される。以下、これらを順に説明する。
【0037】
供給部1は、原料としてSiを含む粒子粉末、SiOを含む粒子粉末およびNガスを混合させて混合物を生成する。つまり、供給部1は、これらの原料の均一混合化を行うことに加えて、反応部2への原料の供給装置としても機能する。供給部1には、それぞれ制御弁の付いた原料粉体供給口5およびキャリアガス供給口4が設けられている。供給部1には、原料粉体供給口5から粉体(粒子粉末)の原料が、キャリアガス供給口4からキャリアガスである窒素ガス(N)が、それぞれ供給される。制御部20は、原料粉体供給口5からの原料の供給量およびキャリアガス供給口4からの窒素ガス(N)の供給量を制御する。これにより、原料粉体供給口5から供給された原料の粉体が、所望の反応に必要な比率にて混合される。
【0038】
粉体を短時間で均一混合するために、供給部1は、窒素ガスをキャリアガスとして用いる流動床を備えることが好ましい。流動床は、横向きであってもよいし、縦向きであってもよい。以下、原料粉体供給口5、キャリアガス供給口4、噴射ノズル6および図示しない流動床を含めて、供給部1と呼ぶことがあるものとする。
【0039】
従来の流動床発電では、微粉炭と空気とが流動床中で均一混合された後、流動床内で着火される。一方、本実施の形態では、反応生成物の組成を正確に調節することが重要である。そのため、本実施の形態において供給部1が流動床を含む場合には、原料を均一に混合することを目的とする。
【0040】
燃焼合成反応の原料として、金属シリコン(Si)粉体、金属アルミニウム(Al)粉体、酸素供給源としてSiOを主成分とする珪石の粉体を使用することができる。珪石としては、砂漠の砂を好適に使用することができる。SiOに加えて、アルミナ(Al)の粉体を使用することもできる。上述した式1は、SiOを酸素供給源として加え、Alを加えない場合の反応の一例を示す。一方、上述した式2は、SiOを酸素供給源として加え、さらにAlを加えた場合の反応の一例を示す。原料として、必要に応じて合金元素の金属および金属の酸化物をさらに加えることもできる。これらの粉体の組成比は、目的とする反応生成物に応じて、制御部20を用いて原料粉体供給口5およびキャリアガス供給口4の開閉状態を調節させることにより、適宜調節すればよい。
【0041】
窒素ガスを介して均一に混合され気体中に浮遊する固体粉体は、気体供給口16および噴射ノズル6を通して反応部2へと供給される。制御部20は、噴射ノズル6の噴射を制御する。噴射ノズル6は、微粉炭バーナーであることが好ましい。また、噴射ノズル6は、バックファイアー防止機構を有している。
【0042】
反応部2は、耐熱性および耐圧性を有し、供給部1から供給された混合物を原料とする燃焼合成が内部にて進行する。つまり、反応部2は、供給部1から供給された原料を内部にて燃焼合成させる燃焼合成リアクタとして機能する。反応部2には、混合気体着火装置である着火部7が設けられている。着火部7は、反応部2に供給された混合物を着火する。制御部20は、噴射ノズル6の先端において、反応部に収容された混合物の着火部7による着火を、高圧アーク放電により制御する。また、制御部20は、キャリアガス供給口4から反応部2への窒素ガスの供給量を適正化して、反応部2の内部にて燃焼合成火炎が継続的に生成するように条件設定する。
【0043】
温度測定部10は、反応部2内の温度を測定する。内圧測定部11は、反応部2の内圧を測定する。温度と内圧の測定値は、制御部20に送られる。燃焼合成は極めて短時間で進行するため、反応部2内の温度や内圧も短時間で変化する。そのため、温度および内圧の値をモニタして、原料粉体供給口5からの粉体(粒子粉末)の原料の供給量、およびキャリアガス供給口4からのキャリアガスである窒素ガス(N)の供給量を調節することは、燃焼合成を連続的かつ安定的に継続させるために重要である。また、反応部2の内圧が約1.0メガパスカル(MP)を超えた時点で、制御部20は、内圧調節バルブ12を開くように制御する。これにより、反応部2の内圧は、約2.0MP未満に調節されることが好ましく、約1.8MP未満に調節されることがより好ましく、約1.6MP未満に調節されることがさらに好ましい。その結果、反応部2内の温度は約3000℃未満に調節されることが好ましく、約2800℃未満に調節されることがより好ましく、約2600℃未満に調節されることがさらに好ましい。このように低い温度と内圧によって燃焼合成を行うことは、従来の制御型燃焼合成装置では非常に困難であった。温度と内圧は、反応部2内の異なる複数個所にてそれぞれ測定されることが好ましい。
【0044】
気体排出口17は、反応部2と回収部3とを接続する。気体排出口17に設けられた内圧調節バルブ12を開閉することによって、反応部2と回収部3との接続状態が調節される。制御部20は、反応部2の内圧および温度が所定値に達した時点で、内圧調節バルブ12を開状態とする。
【0045】
回収部3は、シリコン酸窒化物系セラミックスを含む燃焼合成反応の反応生成物を、反応部2の外部にて回収する。具体的には、回収部3には、回収部3の内圧を調節する内圧調節バルブ14および内圧を測定する内圧測定部18が設けられている。内圧の測定結果は、制御部20に送られる。制御部20は、反応部2の内圧と回収部3の内圧の測定値に基づいて内圧調節バルブ14を制御することによって、回収部3の内圧を反応部2の内圧未満に調節する。制御部20が内圧調節バルブ12を開状態とした場合に、内圧差によって反応生成物を含む気体が回収部3内に投入される。反応部2内の高圧状態から回収部3内の低圧状態に投入されることによって減圧膨張効果が生じるため、気体の温度は急激に低下する。これに伴い、気体中に含まれる反応生成物が、微細な結晶として晶出する。結晶の大きさは、制御部20が反応部2の内圧(Pr)と回収部3の内圧(Pf)との内圧差(△P)を制御することにより調整できる。△Pは、約0.6MP以上であることが好ましく、約0.8MP以上であることがより好ましく、約1.0MP以上であることがさらに好ましい。△Pをこのような範囲に調節することにより、反応生成物の平均粒径(粒子の直径の算術平均値:JIS Z 8901)を、たとえば約0.3〜約0.5μm程度に調整することができる。
【0046】
反応生成物は、最終的に粉末として、回収部3に接続された取出部15により回収される。取出部15は、粉末を連続的に排出して取り出す粉末連続排出装置である。粉末は、工業製品である各種物品を製造するために使用されてもよい。各種物品は、たとえば各種位置決め部材、鋳造機用部品、ボールベアリングであってもよいが、これらには限られない。
【0047】
反応部2には、熱取出部8が接続されている。熱取出部8は、火力発電用蒸気タービンである発電部9と、熱交換器19とを含む。熱交換器19は、反応部2の内部における燃焼合成反応の反応熱を、反応部2の外部へと取り出す。この場合、熱交換器19は、反応部2内に発生した熱エネルギーを、水を熱媒体として熱交換する。制御部20は、水量調節バルブ13を制御することにより、常に一定温度範囲内の過熱蒸気を、熱交換器19に供給する。熱取出部8は、発電部9において熱交換器19の水から熱を取り出す。発生した熱エネルギーを火力発電用蒸気タービンを介して電力化することに代えて、熱電素子(ペルチェ素子)による電力化やMHD発電を用いて熱エネルギーを取り出してもよい。
【0048】
以上、本実施の形態の燃焼合成システム100によると、反応により生じた反応熱を有効に利用することにより、燃焼合成の反応熱の利用効率を高めることができる。また、供給部1を通じて連続的に原料を供給すること、および反応部2において連続的に反応を進行させることができる。
【0049】
また、生成熱を抑制する必要がなくなるため、反応部2を簡易な構成とすることができる。また、本実施の形態の回収部3を用いることにより、反応生成物であるシリコン酸窒化物系セラミックスの高純度化や微細化を実現することができる。また、回収部3がその内部を反応部2よりも低気圧に保ち、反応生成物を含む気体を膨張させて冷却することによって、反応生成物を粒子粉末として回収することができる。これにより、従来必要であった微粉砕化工程を省略することができる。反応部2と回収部3の内圧差を大きくしてさらに減圧膨張効果を高めることによって、シリコン酸窒化物系セラミックスの粒径を調整でき、超マイクロ粉末の低廉製造が実現されうる。
【0050】
また、燃焼合成の原料として、砂漠に膨大に存在する珪石(SiO)や、珪石から容易に製造可能な金属シリコン(Si)を用いることにより、資源の枯渇の心配なく化石資源から安価に代替エネルギーを生成することができる。
【0051】
また、供給部1が流動床を含むことにより、原料の混合および燃焼合成を効率的に進行させることができる。また、熱取出部によって水を熱媒体として熱交換して反応熱を取り出すことによって、生成熱を燃焼合成システムから効率的に取り出すことができる。また、原料としてAlをさらに混合させることにより、反応生成物としてサイアロンを生成することができる。
【0052】
また、反応生成物が燃焼合成システム100の回収部により回収されたシリコン酸窒化物系セラミックスを含むことにより、高純度な反応生成物を得ることができる。また、燃焼合成反応の反応生成物を用いると、常温、高温下における強度、耐熱衝撃、耐摩耗性に優れた物品を形成することができる。
【0053】
(有用性)
2010年度の統計では、1.36×1016Whの電気エネルギーが世界で消費されている。上述の式2を用いた試算の結果に基づくと、燃焼合成により砂漠の砂の主成分であるSiOと金属シリコン等を新しいエネルギー源として用いた場合、反応生成物1kg当り1.4kWhの発電が可能である。燃焼合成システム100を用いて100億トンの反応生成物を合成した場合に、効率100%であればこの電気エネルギー総量に相当する反応熱が生成できる。
【0054】
この程度の反応生成物を合成するための砂であれば、地球上には枯渇を気にしなくてよい程度十分に存在すると考えられる。また、Siが安価である。そのため、燃焼合成システム100を連続的に稼働させて、反応生成エネルギーおよび反応生成物を回収するシリコン−酸素−窒素系燃焼合成を行なうことにより、資源としての価値がないと考えられてきた砂漠の砂が、工業用の原料およびエネルギー源の両方として活用されることが期待される。砂漠の砂の主成分であるSiOとシリコンとを燃焼合成させることによって、砂漠の砂は化石燃料に代わる新エネルギー源として大いなる可能性を秘めている。
【0055】
また、鉄鋼の原料である鉄鉱石は、資源の枯渇問題が年々深刻になっている。そこで、地球上に鉄の5倍も存在するとされるシリコン(SiOとSi)を燃焼合成した反応生成物であるシリコン酸窒化物系セラミックスが、次世代の基盤となる工業用素材として、現状では最重要な汎用工業用素材である鉄鋼に代わる可能性がある。さらに、シリコン酸窒化物系セラミックスは、鉄と同時に逼迫しているレアメタルに代わる可能性を秘めている点でも非常に将来性がある。特に砂漠を有する国家が国家の事業として、本実施の形態の燃焼合成システムを真剣に実施することが期待される。なお、精製後のAlやSiを原料に用いたとしても、エネルギー収支はプラスとなる。
【0056】
(実施例)
1.原料
本実施例で使用した金属シリコンの組成を表1に示す。本金属シリコンは、中国規格553相当材である。Al、Fe、Zr、CaおよびMgの分析は、ICP法で実施した。酸素の分析は融解法で実施した。Siは残分(計算値)である。表3,4の実施例1〜7では、平均粒径(粒子の直径の算術平均値:JIS Z 8901)として、10μm、100μmおよび200μmをそれぞれ用いた。
【0057】
【表1】

【0058】
次に、SiOとして用いた、アスワン砂漠(エジプト)の3ケ所の地点1〜3から採取した砂漠砂の組成の分析値を表2に示す。SiOは%表示、他はPPMで表示している。各実施例では、地点1〜3のサンプルを等分配合して使用した。表3,4の実施例1〜7では、平均粒径として、10μm、100μmおよび200μmをそれぞれ用いた。
【0059】
【表2】

【0060】
2.試験方法
図1に表示した燃焼合成システム100を用いて試験を実施した。燃焼合成システム100は、流動床方式により窒素ガスをキャリアにして原料を均一化する機能を有すると共に、窒素気体による比重分別機能により固体原料中の不純物除去効果が期待できる。その効果を確認する目的で、固体原料の粒径を変えて供した。
【0061】
3.試験結果
試験結果を表3および表4に示す。表3は、用いた原料の配合比を示す。表4は、燃焼合成システム100の稼働条件を示す。表中の成分値は、供給部1における原料均一混合化時の原料の配合比(質量比)、したがって反応部2に1分間あたりに供給する原料の配合比を示す。なお、表3において、Zの値「3」は燃焼合成の反応生成物としてシリコン酸窒化物系セラミックスSi6−zAl8−zのZ=3を合成するように成分配合した一連の実施例を、「1」は同様にZ=1を合成するように成分配合した一連の実施例を、それぞれ示す。また、1gr(グレーン)=約0.064gである。また、表4において「水蒸気」は、熱取出部8における水蒸気の温度を示す。
【0062】
【表3】

【0063】

【表4】
【0064】
実施例1と2の結果から、固体配合値が決まればそれに対応した窒素量が自ずと決まることが分かった。また、本実施例の場合、窒素112リットル(L)で過不足無く反応は進行した(実施例1)。しかし、200L(過剰量)の窒素ガスを添加しても生成する反応生成物が同一であった(実施例2)。これは、燃焼合成反応における極めて特徴的な性質である。同時に、燃焼合成が非常に扱い易い反応であることが確認された。
【0065】
燃焼合成システム100を用いると、供給部1を用いて原料を均一混合した後、供給部1から反応部2へと原料を供給するのと同時に、反応部2内で着火部7によって着火を行うことは、極めて容易であった。着火すると即座に、燃焼合成反応に伴う火炎は反応部2内に爆発的に広がった。これに伴い、反応部2の内圧は約1.2MPまで急激に上昇した。また、反応部2内の温度は、Z=3の実施例1〜4では約2400℃以上に、Z=1の実施例5〜7では約2000℃以上に、それぞれ急激に上昇した。反応部2は、約3000℃未満および約2.0MPにて安定して稼働できることが確認された。
【0066】
反応部2の内圧が1MPを超えた時点で、内圧調節バルブ12を開いた。回収部3は、内圧調節バルブ14および内圧測定部18を用いて、ほぼ常圧の0.1MPに内圧を調節した。反応部2と回収部3の内圧差(△P)に従い、燃焼合成後の気体が反応部2から気体排出口17を通じて回収部3へと放出された。その結果、取出部15にて反応生成物が回収された。
【0067】
回収された反応生成物の平均粒径は約5μmであった。XRDによる同定の結果、配合値で目標とした組成(Z=3の場合:SiAl、Z=1の場合:SiAl)を有するシリコン酸窒化物系セラミックスが燃焼合成システム100により合成できることが確認された(表4)。また、原料である金属シリコンおよび砂漠の砂に含有される不純物である鉄分は、反応生成物であるシリコン酸窒化物系セラミックス中には実質的に含まれないことが確認された。つまり、鉄分を除去しない金属シリコンや砂を原料として、燃焼合成システム100を用いて燃焼合成を行うことにより、実質的に鉄分を粒子内に含まない反応生成物の粒子を生成することができることが明らかとなった。
【0068】
また、燃焼合成によって生成された反応熱は、火力発電用蒸気タービンを含むリアクタ熱交換装置である熱取出部8によって、反応部2の外部へと容易に取り出すことができることが確認された。
【0069】
(実施の形態2)
本実施の形態は、上述した燃焼合成反応において熱プラズマ状態を作りだし、熱プラズマを利用して発電する技術に関する。以下に詳細を説明する。
【0070】
化石燃料から得られるエネルギーは多大で、且つその残渣からは多種の有機製品が得られる。このため、現代社会は化石燃料一辺倒の時代であるといえる。化石燃料の膨大な消費によって、地球環境に多大な負荷がかかっている。太古の昔、原始生物が数十億年をかけて、固定して地中深くに閉じ込めた二酸化炭素を、現代人類が主として燃料という形で消費し、大気中に戻してしまっている。
【0071】
産業革命以後、人類が築いた鉄文明は、鉄鉱石を炭素で還元して鉄を製造する文明であった。一般に、鉄1トンの生産に当たり、二酸化炭素2トンが放出される。世界の鉄鋼生産量が15億トンの現在、放出している二酸化炭素は年間30億トンにも及ぶ。これは、全世界の二酸化炭素放出量の40%に相当する。
【0072】
本発明者らは、炭素−酸素−鉄のサイクルで構成された現在の循環系から脱皮すべく、シリコン−窒素で構成されるエネルギー生成と素材製造のシステムを構築することを目的に、種々の抜本的検討を進めてきた。なお、シリコンは固体資源として27%の最大埋蔵量を有し、窒素は大気組成比約80%である。そして、本発明者らは、シリコンと窒素を主体とする燃焼合成により、シリコン−窒素系セラミックスの合成に成功すると共に、この際に膨大なエネルギーを発生させられることを見出した。燃焼合成とエネルギー発生の際には、二酸化炭素は全く発生しない。本実施の形態によれば、従来自然発生的に享受してきた炭素−酸素−鉄サイクルとは離別して、シリコン−窒素−セラミックスの新たなサイクルを構築することができる。
【0073】
燃焼合成により発生する膨大なエネルギーの制御方法と、エネルギーの活用方法とについて検討を進め、以下の方向性を見出した。
【0074】
(1)燃焼合成反応の温度は、系における圧力に比例する。リアクタの内容積は一定であるため、リアクタ内の圧力を下げれば燃焼合成温度は低下し、圧力を上げれば燃焼合成温度は高くなる。リアクタ内の圧力は、リアクタ内と連結する連通管を介して、外部から加圧することができる。本実施の形態では、窒素ガスを用いてリアクタ内の圧力を制御した。
【0075】
(2)リアクタ内の圧力を高めると燃焼合成温度は上昇する。リアクタ内圧力が0.9Paで、燃焼合成温度は1900℃以上に達する。この時点で、燃焼合成炎は熱プラズマ化する。
【0076】
以上の知見をもとに、熱プラズマからのエネルギー変換方法と、熱プラズマから粒径が制御された結晶系粉末を得る方法について種々の検討を行った。その結果、以下の知見を得た。
【0077】
1)燃焼合成の開始後に、燃焼合成反応を自在に制御することが困難である。着火後の燃焼合成反応に何らの制御もされないと、いわゆる「暴走反応」が起こり得る。したがって、何らかの方策を講じて燃焼合成反応を制御することが重要である。あわせて、熱プラズマを用いた発電、例えばMHD(Magneto-Hydro-Dynamics:電磁流体力学)発電等を実施する上で、熱プラズマの状態を連続的に維持することが重要である。
【0078】
2)燃焼合成で生じる過大な反応熱を制御するために、緩和材(dilution、ディル材)を50%以上添加することが一般的である。緩和材としては、燃焼合成反応の生成物であるセラミックスが使われる。このような緩和材を削減することも課題である。また、緩和材の使用は、燃焼合成反応の連続化の阻害要因となっている。このため、燃焼合成反応で発生するエネルギーを利用した発電を連続的に実施する上で、燃焼合成反応の連続操業を実現できることが求められる。
【0079】
3)燃焼合成後は、反応生成物を自然放冷することが通常の方法である。自然放冷した場合は、数十cmレベルの大きなセラミックス塊が得られる。この塊は、水または有機溶剤中で、ビーズミルを用いて数十時間かけて粉砕される。この粉砕に要する費用が、セラミックス微粉末のコストの大部分を占めている。
【0080】
4)プラズマ環境のガス体の冷却を制御してセラミックス固体を晶出合成する際に、セラミックスの結晶構造を所望の構造にするとともに、セラミックス粉末の粒径を所望の大きさにすることが求められる。このため、熱プラズマを用いた発電において、プラズマ気体の冷却を制御する方法とそのシステムの確立が求められる。
【0081】
本発明者らは、以上の知見をもとに、以下のように鋭意研究を重ねた。
【0082】
(燃焼合成における燃焼の制御)
セミ量産レベルの全容積8000リッターのリアクタを用い、以下の通りに種々の燃焼合成条件の試験を繰り返した。その結果、燃焼合成の温度制御と、燃焼合成炎の熱プラズマ炎化とについて、把握することができた。
【0083】
約20μmの金属シリコンを先入れしたリアクタに、気体窒素を導入する。気体窒素の供給源としては、液体窒素を用いることができる。適切な条件下でアークヒータを用いて金属シリコンに着火する。着火とともに、窒素圧力を上昇させる。図2に示すように、初期の燃焼合成炎は穏やかな状態の火炎である。図2に示す状態は、リアクタ内の圧力が0.7Paであり、燃焼合成温度が1700℃の状態である。導入窒素圧力を高めると燃焼温度は上昇し、リアクタ内の圧力が約0.9Pa以上になると、図3に示すように極めて強い熱プラズマ炎が発生する。図3に示す状態は、リアクタ内の圧力が0.9Paであり、燃焼合成温度が1900℃の状態である。
【0084】
リアクタ内の燃焼温度(K)と、導入する窒素ガス圧力(絶対圧力)(MPa)との関係を図4に示す。図4に示すように、温度と圧力は、直線関係を示す。このことから、リアクタ内の圧力を制御することで、リアクタ内の燃焼温度を制御できることが確認された。
【0085】
燃焼合成反応において熱プラズマが発生する現象の全体は、以下の通りに総括することができる。
【0086】
1)シリコン−窒素系の燃焼合成現象の開始は、シリコンと窒素との大きな反応熱(エンタルピー)によるものと考えられる。これは、シリコン単体のフリーエネルギー+窒素単体のフリーエネルギー≫シリコン・窒素化合物のフリーエネルギー、という関係のもとに発現すると理解される。類似の系で、984.6KJ/molの反応熱が確認されている。
【0087】
2)燃焼合成開始の発熱反応に誘起されて起こるその後の反応は、窒素圧力に極めて正比例的に制御される。これは、体積一定(リアクタ体積)のもとでのボイル・シャルルの法則:P・V=nRT(P=圧力、V=リアクタ体積(一定)、T=温度)に則ったものと考察される。すなわち、窒素圧力(P)→大、燃焼合成温度(T)→高温となり、同様に窒素圧力(P)→小、燃焼合成温度(T)→低温となるのである。したがって、燃焼合成温度は、導入する窒素の圧力により任意に制御できることが理解される。
【0088】
3)燃焼合成温度が上昇すると、シリコンと窒素の気体はプラズマ状態となることが確認された。高温域での熱プラズマ炎の発生が確認されたことは、画期的なことである。これまで、種々の電磁気的エネルギーを気体に付与するとプラズマ炎が発生することは報告されている。また、その際に得られるプラズマ炎の工学的価値についても報告されている。これに対し、本実施の形態では、外部からの電磁気エネルギー付加を伴わずに、窒素の圧力をおおよそ0.9Pa以上とすることにより、熱プラズマを発現させている。
【0089】
本実施の形態は、燃焼合成における燃焼合成エントロピーとその後の窒素圧力によって生成される熱プラズマ炎を用いることを特徴とする。すなわち、燃焼合成アシスト型のプラズマ発生技術である。これは、従来の電気・磁場エネルギーアシスト型に対比して、極めてプラズマ発生コストが低廉である。
【0090】
ここで、シリコン−窒素系の燃焼合成反応で発生する熱エネルギーは、新素材の合成に視点を置けば利用価値が乏しいといえる。したがって、従前はこの反応熱を如何に防ぐかが検討されていた。これに対し、本実施の形態では、燃焼合成に用いられる窒素の圧力のみを利用して高発熱量を得て、その結果としてプラズマ状態を得ることを達成した。これにより、プラズマ化のための別個の装置と追加のエネルギー付与を省略することができるため、低コストでプラズマ状態を獲得することができる。
【0091】
また、初期の燃焼合成技術においては、上述のように過剰の熱量を如何に制御するかに焦点が置かれ、上述したディル材の添加により反応熱が制御されていた。これに対し、本実施の形態では、ディル材を用いずに、原料が有する発熱能力を限界まで発揮させ、窒素圧力の制御によって燃焼合成反応を制御している。これにより、爆発反応といわれる燃焼合成反応をより簡単に制御できるようになった。そして、これにより以下に説明する各種の装置や制御が可能となった。
【0092】
本実施の形態によれば、熱プラズマ状態で得られるラジカルや遊離電子の活用方法として、プラズマ発電を行うことができる。また、燃焼合成反応の反応生成物であるセラミックスの結晶制御と粒径制御とが可能である。
【0093】
以下に、熱プラズマ状態からの昇華反応による結晶の晶出と、粒径制御された固体粉末セラミックスの生成方法と、その途中過程における発電とについて説明する。
【0094】
(熱プラズマからの発電とセラミックスの合成(固体の生成制御))
従来、2000〜3000℃の温度と導電性を有する作動流体(プラズマ)を、外部から磁界が印加された発電機の流路内に流し、ファラディの電磁誘導の法則に基づいて発電するMHD発電が知られている。MHD発電は、発電機の流路内に可動部分が不要なことから、次世代の高効率発電として期待されている。従来のMHD発電で用いられる作動流体は、石炭や天然ガスに空気または酸素を付加して得られる燃焼ガスをベースに形成されていた。
【0095】
本実施の形態によれば、燃焼合成プラズマとの組合せにより、MHD発電を容易に実行できる。本実施の形態に係る発電システムについて、以下に説明する。
【0096】
本実施の形態の発電システムは、燃焼合成と窒素加圧とで得られた熱プラズマを活用してMHD発電を行うシステムである。本実施の形態の発電システムの概略構成を図5に示す。図5では、原料の挿入、着火、および反応生成物の回収に関連する構成は、実施の形態1と概ね同様であるため、図示を省略している。
【0097】
本実施の形態に係る発電システム200は、リアクタ201(反応部)と、MHD発電装置202(発電部)と、電磁バルブ203と、減圧容器204(減圧部)と、逆止バルブ205と、圧力計206と、温度計207と、圧力計208と、温度計209と、制御部210と、バルブ開度制御部211と、断熱膨張室212と、微細化用ノズル213と、電磁バルブ214と、温度計215と、真空度測定装置216と、バルブ開度制御部217と、真空装置218と、真空装置219と、電磁誘導磁石220と、インバータ221と、直流出力222とを備える。
【0098】
リアクタ201に、Siを含む粒子粉末、SiO2を含む粒子粉末およびN2ガスを混合させてなる混合物が供給され、リアクタ201内で混合物を原料とする燃焼合成反応が実施される。混合物には、Al等の粒子粉末が混合されてもよい。この燃焼合成反応は、実施の形態1で説明した通りである。また、制御部210は、キャリアガス供給口4からのN2ガスの供給量を調整し、燃焼合成反応中にリアクタ201内の窒素圧力を上昇させる。制御部210は、リアクタ201に設けられた圧力計206の計測結果に基づいて、キャリアガス供給口4からのN2ガスの供給量を制御する。これにより、リアクタ内の圧力が0.9Pa以上に昇圧される。その結果、リアクタ内に熱プラズマが発生する。すなわち、燃焼合成反応の反応生成物である反応ガスが熱プラズマ化される。
【0099】
そして、リアクタ201内で発生した熱プラズマ、すなわち熱プラズマ化した反応ガスに高速の流速が与えられ、熱プラズマがMHD発電装置202内を通過する。MHD発電装置202は、円錐型の構造を有し、熱プラズマが導入される側の開放端、すなわち導入開放端がリアクタ201の内部に接続される。導入開放端には、電磁バルブ203が設けられる。電磁バルブ203の開度を調節することで、MHD発電装置202への熱プラズマの導入とその停止を制御することができる。MHD発電装置202の他方の開放端、すなわち放出開放端は、リアクタ201に隣接して設置された減圧容器204の内部に接続される。したがって、MHD発電装置202によりリアクタ201の内部と減圧容器204の内部が連通される。放出開放端には、逆止バルブ205が設けられる。逆止バルブ205により、減圧容器204からリアクタ201への反応ガスの逆流が抑制される。
【0100】
MHD発電装置202に導入される熱プラズマの流速は、リアクタ201と減圧容器204の内部圧力、および電磁バルブ203の開度の調整によって制御される。圧力計206および温度計207は、リアクタ201内の圧力および温度を計測し、圧力計208および温度計209は、減圧容器204内の圧力および温度を計測する。これらの計測結果は、制御部210に出力される。また、減圧容器204には、真空装置218が設けられる。制御部210は、得られた圧力の情報に基づいて真空装置218を制御し、減圧容器204内の圧力をリアクタ201内の圧力よりも低い状態に保つ。また、制御部210は、圧力と温度の情報を用いた演算結果に基づいて、バルブ開度制御部211に制御信号を出力する。バルブ開度制御部211は、この制御信号に基づいて電磁バルブ203の開度を制御する。これにより、リアクタ201内に発生する熱プラズマに流速を与え、MHD発電装置202に導入することができる。
【0101】
MHD発電装置202は、導入された熱プラズマを用いて発電する。MHD発電装置202には、電磁誘導磁石220により磁界が印加される。発電によって得られる交流電流は、インバータ221を介して直流出力222として取り出される。すなわち、発電システム200では、開閉自在な電磁バルブ203を介してリアクタ201と連通された減圧容器204の圧力を制御することで、任意の流速の熱プラズマ流を発生させ、これをリアクタ201と減圧容器204との間に設けたMHD発電装置202に流通させることで、MHD発電が行われる。MHD発電装置202を通過した熱プラズマは、減圧容器204内に流入する。
【0102】
発電システム200において、MHD発電以降に実施されるセラミックス結晶の生成と、生成物の粒径制御とに関する構成は、次の通りである。
【0103】
制御部210は、得られた圧力および温度の情報に基づいて、減圧容器204内で反応ガスが昇華固化しないよう、減圧容器204内を、減圧容器204内の圧力下における反応ガスの昇華温度よりも高い温度に保持する。例えば、減圧容器204内は1400℃以上の温度に保持される。これにより、減圧容器204内で反応生成物が常に気体状態に保たれる。減圧容器204の温度は、リアクタ201で発生した熱を用いて調整することができる。減圧容器204に導入される気体の温度調整、すなわち減圧容器204内の温度調整は、主にプラズマにより行うことができる。なお、反応ガスの温度が高温になると、プラズマの発生量が増加する。
【0104】
減圧容器204に隣接して、断熱膨張室212が設けられる。減圧容器204の内部と断熱膨張室212の内部とは、微細化用ノズル213を介して連通される。微細化用ノズル213の減圧容器204側の開放端には、電磁バルブ214が設けられる。断熱膨張室212内の温度および真空度は、温度計215および真空度測定装置216により計測される。計測結果は、制御部210に出力される。断熱膨張室212には真空装置219が設けられる。真空装置219は、制御部210からの制御信号に基づいて制御される。断熱膨張室212内の圧力および真空度は、真空装置219によって調整することができる。断熱膨張室212内の温度は、断熱膨張室212内の圧力下における反応ガスの昇華温度よりも低い温度とされる。制御部210は、真空装置219を用いて断熱膨張室212内の圧力および/または温度を調整し、これにより断熱膨張室212内の温度を昇華温度よりも低い状態に保つことができる。断熱膨張室212内の温度調整は、断熱膨張室212内の真空度を調整し、これにより外部から断熱膨張室212内への熱伝導率を調整することで、実施することができる。
【0105】
制御部210は、得られた温度および真空度の情報を用いた演算の結果に基づいて、バルブ開度制御部217に制御信号を出力する。バルブ開度制御部217は、この制御信号に基づいて電磁バルブ214の開度を制御する。電磁バルブ214が開放されると、減圧容器204内の反応ガスが断熱膨張室212に導入される。これにより、減圧容器204から断熱膨張室212に導入される反応ガスは、昇華現象により固体粒子状のセラミックスとなる。発電システム200では、自然放冷により結晶が生成される。なお、得られるセラミックスの昇華温度は特定できるため、目的の結晶構造が得られる晶出温度となるように、断熱膨張室212内の圧力を調整することで、所望の結晶構造を得ることができる。
【0106】
また、微細化用ノズル213を介した減圧容器204から断熱膨張室212への気体の噴霧条件、特に噴霧速度を任意に調整することができるため、所望の粒径を得ることができ、例えば1ミクロン以下のセラミックス微粒子を得ることもできる。噴霧条件は、例えば減圧容器204および断熱膨張室212の内部圧力差を調整することで、任意に調整することができる。また、プラズマ発電の後に、プラズマ構成要素は全てセラミックス微粉末として回収することができる。本実施の形態によれば、MHD発電システムの簡略化が可能であり、また、燃焼合成の際に、様々なシード物質を容易に添加できるという利点もある。
【0107】
以上説明したように、本実施の形態の発電システム200によれば、MHD発電を実施すると同時に、シリコン−窒素系セラミックスの結晶状態を所望の状態とした上で、微細な粉末状のセラミックスを得ることができる。これにより得られるセラミックスの低価格・高品質化、とその効果について以下に説明する。
【0108】
1)本実施の形態によれば、結晶系を調整した微粉末シリコン−窒素セラミックスを、直接合成により安価に製造することができる。かつて、サンシャイン計画やムーンライト計画で、自動車を始めとするあらゆる産業用構造用用途にシリコン系セラミックスを展開する国家プロジェクトが、長期に渡り推進された。これをきっかけに、自動車業界を中心にセラミックスブーム(シリコンブーム)が湧き上がった。我が国のセラミックス研究開発の発展のきっかけがここにあった。また、金属資源の乏しい我が国でシリコンブームが湧き上がるのは当然であった。
【0109】
開発主体となった材料は、シンプルな構造の窒化ケイ素であった。しかしながら、材料価格は10円/gであり、自動車業の目指す価格である1円/gに対応できなかった。また、材料の信頼性がやや不十分であった。この結果、機能性セラミックスへと力点が移り、数々の機能性(電磁)セラミックスが開発された。一方で構造用セラミックスについては、その後、種々の合成方法が開発されたが、価格1円/gには及んでいない。
【0110】
本発明者らは試行錯誤の末、セラミックスの高価格の原因がセラミックスの合成後に行われる粉砕微細化工程にあることを見出した。ビッカース硬さ(HV)が1500であり、数10cmの大きさを有する超高硬度のセラミックスを、粉砕してミクロンレベル(例えば1ミクロン以下)の微粉末とするためには長時間を要する。このような工程を経て製造される材料は、工業用汎用材料とは言い難い。このため、セラミックスが合成された時点で、ミクロンレベルの微粉末であることが望ましい。また、セラミックスの結晶構造を任意に調整できることも望ましい。これに対し、本実施の形態の発電システム200によれば、上述したように1ミクロン以下のセラミックス微粉末を得ることができる。また、結晶構造を任意に調整することもできる。
【0111】
すなわち、発電システム200によれば、任意の温度で固体を晶出するとともに、1ミクロン以下の粒径のセラミックスを直接製造することができる。これにより、1円/g以下のコストでセラミックスを製造することができる。原料費+設備償却+人件費(=自動化でほぼ0)で、上記コストは簡単に達成することができる。
【0112】
発電システム200の効果として、以下のものが考えられる。
【0113】
(効果1)
価格的に1円/gの、シリコンと窒素を主体とする本セラミックスは、新しい汎用素材となり得、かつてのサンシャイン、ムーンライト計画を具体化することができる。これにより、自動車の軽量化や、無水冷耐熱エンジン等を実現することができる。
【0114】
(効果2)
シリコンと窒素を用いて発電することができる。従来想像もされなかった新エネルギーの製造が可能となる。これは、酸素および炭素を用いないエネルギーであり、二酸化炭素の発生を抑制することができる。また、シリコンは金属として地球資源含有量27%であり、また我が国にも大量に存在する地下資源である。また、窒素は、空気の80%を占める。よって、原料の調達が容易である。
【0115】
(効果3)
本セラミックスの生産規模を増大していくことにより鉄鋼の生産を低減することができ、これにより二酸化炭素の低減を図ることができる。
【0116】
シリコン−窒素系のセラミックスの年間の世界生産量は、400〜500万トンである。地球資源として大量に存在するシリコンと窒素を原料として使用しているにもかかわらず、その生産量は微々たるものである。鉄鋼の世界生産量が15億トンであることからも、生産量が少ないことが分かる。
【0117】
その理由は、上述したように製造コストにあると考える。シリコン−窒素系セラミックスの品質評価は、サンシャイン計画およびムーンライト計画で国家的な認証が得られているが、最近でも価格が6円/gと高価であり、汎用素材として認められていない現状がある。自動車業界で使用されている素材は量的には大半が鉄であり、その価格は0.1円/gである。1台当たりの鉄の使用量はおおよそ1トンである。樹脂、ガラス、銅、アルミ等の使用量は、1台当たり100kg程度であり、価格は1円/g未満である。「汎用素材=自動車に使用される素材=価格1円/g程度」の図式が厳然と存在する。このため、シリコン−窒素セラミックスを汎用素材として拡販するためには、価格は1円/gであることが望ましい。
【0118】
上述したようにシリコン−窒素セラミックスが高価である理由は、微細粉末への粉砕コストがかかるためである。したがって、微粉末状態のセラミックスを製造できればセラミックスの低コスト化が可能であり、本実施の形態によればこれを実現することができる。以下、実施例により具体的に説明する。
【0119】
(実施例)
「セラミックスの価格を下げる=粉砕を実施しない=微細粉末を直接合成する」という基本路線に沿いながら、各種の試験を生産レベルで実施した。また、反応ガスの熱プラズマ化を実施する本実施の形態の製造方法でのセラミックスの量産と、反応ガスの熱プラズマ化を伴わない燃焼合成でのセラミックスの量産と、従来の固相合成法によるセラミックスの量産とについてシミュレーションを行って量産時の想定価格を算出した。結果を表5に示す。
【0120】
【表5】
【0121】
表5において、「発電・合成法」は、反応ガスの熱プラズマ化を実施する本実施の形態の製造方法を示す。「燃焼合成法1」および「燃焼合成法2」は、反応ガスの熱プラズマ化を伴わない燃焼合成を示す。「燃焼合成法1」では、セラミックスの合成後に粉砕処理を施さなかったが、「燃焼合成法2」では、セラミックスの合成後に粉砕処理を施した。
【0122】
本実施の形態では、燃焼合成反応を制御する方式として、窒素ゲージ圧力をコントロ−ルしてリアクタ圧力を制御する方法を用いている。これにより、セミラックスの粉砕を省略でき、また緩和材の添加も省略できるため、セラミックスの製造コストを1円/g以下に低減させることができる。
【0123】
2010年度の統計では、1.36×1016Whの電気エネルギーが世界で消費されている。上述したように、燃焼合成により砂漠の砂の主成分であるSiOと金属シリコン等を新しいエネルギー源として用いた場合、反応生成物1kg当り1.4kWhの発電が可能である。実施の形態1の燃焼合成システム100を用いて100億トンの反応生成物を合成した場合に、効率100%であればこの電気エネルギー総量に相当する反応熱を生成することができる。
【0124】
しかしながら、エネルギー生成だけでなく、合成した構造用セラミックスを産業用汎用素材として活用できることが望ましい。このためには、セラミックスの価格が受け入れられる必要がある。なお、微粉末の構造用セラミックスは、産業用途、特に自動車用用途に汎用素材として大量使用される十分な背景があるとムーンライト計画、サンシャイン計画で報告されている。また、シリコン−窒素系構造用セラミックスの試作データは自動車業界で採取されている。例えば、エンジン、足回り、パワートレイン部品等で、寿命強度の設計評価が存在する。しかしながら、セラミックスの価格が高価なため、採用が見送られてきた。これに対し、本実施の形態によれば、構造用セラミックスの粉末を1円/gのコストで生産することができる。
【0125】
なお、上述したリアクタ201と、リアクタ201へのN2ガスの供給量を調整してリアクタ201内の圧力を0.9Pa以上とし、反応ガスを熱プラズマ化する制御部210とを備えるプラズマ発生装置も、本実施の形態に含まれる。また、このプラズマ発生装置と、MHD発電装置202とを備える発電装置も、本実施の形態に含まれる。
【符号の説明】
【0126】
1 供給部、2 反応部、3 回収部、4 キャリアガス供給口、5 原料粉体供給口、6 噴射ノズル、7 着火部、8 熱取出部、9 発電部、10 温度測定部、11,18 内圧測定部、12,14 内圧調節バルブ、13 水量調節バルブ、15 取出部、16 気体排出口、17 気体排出口、19 熱交換器、20 制御部、100 燃焼合成システム、201 リアクタ、202 MHD発電装置、204 減圧容器、210 制御部、212 断熱膨張室、213 微細化用ノズル。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明は、燃焼合成システム、反応生成物、物品、燃焼合成方法、発電システム、プラズマ発生装置および発電装置に利用することができる。
図1
図5
図2
図3
図4