(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
下水処理における排出物である下水汚泥は、下水道の普及に伴い年々増加しており、その有効利用が望まれている。下水は、最終処理形態として、例えば脱水汚泥、乾燥汚泥、焼却灰、溶融スラグ等の形態に処理された後、様々な用途に利用されているが、下水汚泥中にリンやカルシウム、鉄等の肥効成分を多く含むことから、肥料としての有効利用が期待されている。例えば、特許文献1には、下水汚泥乾燥物や下水汚泥焼却灰等を利用してリン酸肥料を製造する方法が開示されている。
【0003】
ところで、リン酸質肥料は、リンが植物に長期にわたって有効に作用するように、肥料中にク溶性リン酸(2%クエン酸液に溶解するリン酸)として含有されていることが望ましいとされている。このため、ク溶性リン酸を保証成分として販売されるリン酸質肥料の需要が高く、肥料公定規格(肥料取締法に基づいて定められた肥料の成分や性状などの品質基準)においては、保証成分項目の最小含有量が定められている。そのため、ク溶性リン酸を保証成分とするには、その最小含有量を満たすリン酸質肥料を生産する必要がある。
【0004】
そこで、発明者は、特許文献2において、下水汚泥から生成した溶融スラグを利用したリン酸質肥料の生産方法を提供した。この方法は、ク溶性リン酸含有量毎に複数の貯蔵設備に貯蔵し、生産する肥料のク溶性リン酸含有量に応じて、溶融スラグを取り出す貯蔵設備と、そこから取り出す溶融スラグの量を決定する方法である。この方法によってク溶性リン酸の含有量が、肥料公定規格を満たさない溶融スラグをも有効利用することができるとともに、下水処理施設や下水汚泥の発生時期などによって下水汚泥溶融スラグ中のク溶性リン酸含有量が変動しても、その影響を受けることなく、常に肥料公定規格に定められた品質保証値を上回るリン酸質肥料を生産することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2の方法は、上記したようにク溶性リン酸含有量の多い溶融スラグと、ク溶性リン酸含有量の少ない溶融スラグとを調合する方法であるため、各下水処理施設からク溶性リン酸含有量の少ない溶融スラグばかりが供給されると、この方法が成立しなくなるおそれがある。
そこで、下水からク溶性リン酸含有量の多い溶融スラグを安定して供給する方法を検討するため、複数地域の下水処理施設(サンプルNo.1〜11)において下水から生産される溶融スラグに含まれる肥効成分を分析した。その結果を表1に示す。
【0007】
【表1】
【0008】
表1によると、サンプルNo.2の溶融スラグのク溶性リン酸率(ク溶性リン酸量/リン酸全量×100)が著しく低いことがわかる。そこで、このサンプルNo.2について、各肥効成分の含有量を他のサンプルと比較したところ、Al
2O
3(酸化アルミニウム)の含有量が他のサンプルと比較して非常に多いこと、一方、FeO(酸化鉄)の含有量が他のサンプルと比較して非常に少なく、これらの成分とク溶性リン酸含有量(含有率)に相関関係があること明らかになった。
【0009】
また、ク溶性リン酸率とSiO
2含有量との相関関係を見ると、SiO
2の含有量が少ないサンプルNo.4〜7において、いずれもク溶性リン酸率が93%以上と高く、SiO
2の含有量がク溶性リン酸率の向上に影響を与えていることが明らかになった。
【0010】
なお、下水汚泥溶融スラグは、
図1のフローチャートに一例を示したように、一般に下水道から流入した下水を濾過し、その処理水を微生物処理した後、凝集剤を添加することで濃縮し、乾燥、溶融および水砕することで製造されている。
【0011】
図1の工程によると、凝集剤の成分が、溶融スラグ中のAl
2O
3やFeO等の含有量を増減させる要因となる可能性がある。そこで、この凝集剤の成分を調整することが、溶融スラグ中のク溶性リン酸率(ク溶性リン酸含有量)を向上させることに非常に有効であるという知見を得て、本発明を開発するに到った。
【0012】
なお、現在、下水処理場で使用される凝集剤は各自治体で異なり、硫酸バンド(硫酸アルミニウム)やPAC(ポリ塩化アルミニウム)、塩化第二鉄、ポリ硫化第二鉄、活性ケイ酸、ポリシリカ鉄、高分子凝集剤等の凝集剤が、1または複数組み合わせて使用されており、その成分等が統一されていないのが実情である。
【0013】
したがって、本発明では、下水処理場から発生した下水を濃縮するために添加される凝集剤を適正に規定し、下水から肥料として有効なク溶性リン酸等の肥効成分を安定して含む肥料用の溶融スラグおよび肥料を製造するための好適な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明は、下水に
非アルミ塩系の凝集剤を添加して
リンを含む汚泥を濃縮した後、
他にリンを含む原料を加えることなく該濃縮された汚泥を溶融
することにより、リン酸質肥料用溶融スラグを製造する方法において、
前記リン酸質肥料用溶融スラグ中のAl2O3含有量を15mass%以下とすることを特徴とする
リン酸質肥料用溶融スラグの製造方法を提案する。
【0015】
また、本発明は、下水に
非ケイ酸塩系の凝集剤を添加して
リンを含む汚泥を濃縮した後、
他にリンを含む原料を加えることなく該濃縮された汚泥を溶融
することにより、リン酸質肥料用溶融スラグを製造する方法において、
前記リン酸質肥料用溶融スラグ中のSiO2含有量を30mass%以下とすることを特徴とする
リン酸質肥料用溶融スラグの製造方法を提案する。
【0016】
さらに、本発明は、下水に凝集剤を添加して
リンを含む汚泥を濃縮した後、
他にリンを含む原料を加えることなく該濃縮された汚泥を溶融
することにより、リン酸質肥料用溶融スラグを製造する方法において、前記凝集剤
として、高分子系凝集剤またはFe塩系凝集剤をそれぞれ単独で、あるいは両者を組み合わせて用いることを特徴とする
リン酸質肥料用溶融スラグの製造方法を提案する。
【0017】
さらに、本発明は、
前記のリン酸質肥料用溶融スラグを用いることを特徴とする肥料の製造方法を提案する。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る肥料用溶融スラグの製造方法によれば、非アルミ塩系の凝集剤を使用することで、下水汚泥中のリン酸の不溶化を抑制し、ク溶性リン酸率の高い溶融スラグを生成することができ、該溶融スラグから肥効効果に優れたリン酸質肥料を生産することができる。
【0019】
また、本発明によれば、非ケイ酸系の凝集剤を用いることで、溶融処理後において、溶融スラグの主要構成要素として残存することになるSiの増加が抑制され、溶融スラグ中のク溶性リン酸含有量が相対的に減少することがない。さらに溶融スラグ中のCaO含有量とSiO
2含有量との比で(CaO/SiO
2)で定義される塩基度が低下することがないため、塩基度低下に起因するク溶性リン酸含有量の減少を抑制することができ、溶融スラグ中のク溶性リン酸率を維持することができる。
【0020】
さらに、本発明によれば、高分子系凝集剤およびFe塩系凝集剤のうちから選ばれる1種以上を用いることで、さらにク溶性リン酸率の高い肥効性に優れた肥料用溶融スラグを製造することができる。
【0021】
とくに、凝集剤がFe塩系凝集剤である場合には、Feが下水汚泥中のリン(P)と結合して溶融処理時にリン(P)が蒸散するのを抑制する効果を発揮し、リン酸のスラグ歩留まりを向上させることができる。また、Fe系凝集剤に含まれるFeは、溶融スラグ中に残存し、ク溶性を示すFeOとなり、効果発現促進剤(肥料に使用することが認められている添加物のうち、肥料の効果を高めて植物の生長を促進させる成分)として有効に利用することができる。
【0022】
また、本発明によれば、凝集剤を調整することで溶融スラグ中のク溶性リン酸含有量およびク溶性リン酸率を向上させることができるため、例えば、溶融スラグ中のク溶性リン酸含有量を均一化するための工程が不要になる等、リン酸質肥料の製造工程の簡素化が期待できる。
【0023】
さらに、本発明によれば、下水に凝集剤を添加して濃縮した汚泥を、乾燥や焼成等して生成される乾燥汚泥や焼却灰等から肥料を製造する場合においても、非アルミ塩系の凝集剤を使用することで、下水汚泥中のリン酸の不溶化が抑制され、ク溶性リン酸率の高い、肥効効果に優れた肥料を製造することができる。なお、凝集剤としては、上記の肥料用溶融スラグの製造方法と同様に非ケイ酸塩系の凝集剤や高分子系凝集剤、Fe塩系凝集剤を用いることが好ましく、上記と同様の作用効果を発揮して、ク溶性リン酸率の高い、肥効効果に優れた肥料を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を、下水から肥料用溶融スラグを製造する場合を一例として説明する。
まず、下水から溶融スラグを製造する工程を、先に一例として示した
図1のフローチャートを用いて説明する。
(ステップ1)
下水処理場から流入した下水を、重力沈降させた後濾過し、処理水1と初沈汚泥とに分離する。なお、下水処理場から流入する下水の成分は、下水処理場毎および発生時期などによって大きく変動する。
(ステップ2)
処理水1に対し、微生物処理(活性汚泥法、散水ろ床法、嫌気性消化法等)を行い、処理水1中の有機物を分解して沈降させた後、濾過して処理水2と濃縮汚泥とに分離する。
(ステップ3)
処理水2に対して凝集剤を添加して、該処理水2中の懸濁粒子どうしを接着させてフロックを生成させる。そして、該フロックを重力によって沈降させた後、濾過し、処理水3と濃縮汚泥とに分離する。
(ステップ4)
ステップ1で得た初沈汚泥、ステップ2およびステップ3で得た濃縮汚泥をフィルタープレスやスクリュープレス等で機械濃縮し、処理水4と脱水汚泥とに分離する。
(ステップ5)
ステップ4で得た脱水汚泥を加熱・乾燥させた後、溶融助剤(Ca、Feなど)を添加して1300℃前後で溶融処理し、水砕あるいは徐冷、粉砕して所定の粒度の溶融スラグとする。なお、溶融処理時に発生した排熱は、
図1に示したように脱水汚泥の加熱源として有効利用することが好ましい。
【0026】
上記ステップ3の濃縮工程において使用される凝集剤としては、硫酸バンド(硫酸アルミニウム)やPAC(ポリ塩化アルミニウム)などのアルミ塩系凝集剤や、硫酸第一鉄や塩化第二鉄などのFe塩系凝集剤、水酸化カルシウムなどの石灰系凝集剤など各種の凝集剤がある。しかし、発明者らの分析調査により、凝集剤に含まれる成分、例えばアルミ塩系凝集剤に含まれるAl、Fe塩系凝集剤に含まれるFe等が、下水汚泥中のク溶性リン酸含有量およびク溶性リン酸率に影響を与えていることがわかった。そこで、以下に凝集剤の各成分が下水汚泥中のク溶性リン酸含有量およびク溶性リン酸率に与える影響について調査した結果を示す。
【0027】
まず、Alによるク溶性リン酸含有量およびク溶性リン酸率への影響について、表1の溶融スラグ中のAl
2O
3の含有量とク溶性リン酸含有量およびク溶性リン酸率との関係を
図2(a)および
図2(b)に示す。なお、サンプルNo.3は、溶融スラグ中のSiO
2の含有量が他のサンプルに比べて非常に多く、該SiO
2がク溶性リン酸含有量およびク溶性リン酸率に影響を与えているものと考えられるため、
図2(a)および(b)の作図に際してデータに含めていない。
【0028】
図2(a)および
図2(b)より、Al
2O
3の含有量が多いほどク溶性リン酸含有量およびク溶性リン酸率が低下し、両者が負の相関関係にあることがわかる。なお、これらの図から溶融スラグ中のAl
2O
3の含有量は15mass%以下とすることが好ましく、より好ましくは10mass%以下であり、この範囲とすることで、ク溶性リン酸保証値が15.0%以上の肥料を製造するのに好適なク溶性リン酸レベルを得ることができ、ク溶性リン酸量を均一化するための工程を縮小(溶融スラグの貯蔵設備の縮小)することができる等、製造工程を簡素化することができる。
【0029】
さらに、表1のク溶性リン酸率とSiO
2含有量との相関関係を見ると、SiO
2の含有量が少ないサンプルNo.4〜7において、いずれもク溶性リン酸含有量が24mass%以上、ク溶性リン酸率が93%以上と高くなっている。なお、SiO
2系凝集剤としては、活性ケイ酸(ケイ酸塩高分子コロイド、ケイ酸ナトリウム+硫酸)が広く利用されている。
【0030】
そこで、表1の溶融スラグ中のSiO
2の含有量とク溶性リン酸含有量およびク溶性リン酸率との関係を
図3(a)および
図3(b)に示す。なお、サンプルNo.2は、上記したようにAl
2O
3含有量が非常に多く、該Al
2O
3がク溶性リン酸含有量およびク溶性リン酸率に大きく影響を与えているものと考えられるため、
図3(a)および(b)の作図に際してデータに含めていない。
【0031】
この結果より、SiO
2含有量が多いほどク溶性リン酸含有量およびク溶性リン酸率が低下し、両者が負の相関関係にあることがわかる。これは、SiO
2が上記ステップ5の溶融処理後において、溶融スラグ中に主要構成要素として残存し、該溶融スラグ中のク溶性リン酸含有量を相対的に減少させる要因となっているためと考えられる。したがって、溶融スラグのク溶性リン酸率を向上させるには溶融スラグ中のSiO
2含有量の増加を抑制するため、凝集剤として非ケイ酸系凝集剤を用いることが好ましい。
【0032】
なお、
図3(a)および(b)より、溶融スラグ中のSiO
2の含有量は30mass%以下とすることが好ましく、より好ましくは25mass%以下とし、この範囲とすることにより、ク溶性リン酸保証値が15.0%以上の肥料を生産するのに必要なク溶性リン酸レベルが得られ、ク溶性リン酸量を均一化するための工程を縮小することができる等、製造工程の簡素化が期待できる。
【0033】
また、溶融スラグ中のSiO
2によるク溶性リン酸への影響については、表1の溶融スラグのCaO含有量とSiO
2含有量との比で表される塩基度(CaO/SiO
2)と、ク溶性リン酸含有量およびク溶性リン酸率との関係(
図4(a)および
図4(b))からも明らかである。なお、サンプルNo.2は、上記したようにAl
2O
3含有量が非常に多く、該Al
2O
3がク溶性リン酸含有量およびク溶性リン酸率に大きく影響を与えているものと考えられるため、
図4(a)および(b)の作図に際してデータに含めていない。
【0034】
図4(a)および(b)より、塩基度が高いほど(CaO含有量がSiO
2含有量に対して多いほど)ク溶性リン酸含有量およびク溶性リン酸率が高くなり、両者には正の相関関係があることがわかる。これは、溶融スラグがSiO
2で形成された架橋の中にCaやMgなどの塩基が点在する構造を有し、クエン酸で処理されると、構造中のCaやMgが溶出するというサイクルを繰り返して溶解が進行するためである。これにより、溶融スラグは、CaO含有率が高い、即ち塩基度が高いとスラグ構造が脆くなりやすく、溶融スラグに含まれるリン酸が溶出しやすくなるのである。したがって、凝集剤としては、石灰系凝集剤:水酸化カルシウムを用いることが好ましく、溶融スラグ中のCaO含有量が高くなり、リン酸の不溶化を効果的に抑制することができる。
【0035】
なお、
図4(a)および(b)より、溶融スラグの塩基度は0.5以上であることが好ましく、より好ましくは0.6以上とし、さらに好ましくは0.8以上とし、この範囲とすることにより、ク溶性リン酸保証値が15.0%以上の肥料を生産するのに必要なク溶性リン酸レベルが得られ、ク溶性リン酸量を均一化するための工程を縮小することができる等、製造工程の簡素化が期待できる。
【0036】
次に、表1の溶融スラグ中のFeO含有量とク溶性リン酸含有量およびク溶性リン酸率との関係を
図5(a)および
図5(b)に示す。
この結果より、FeO含有量が多いほど、ク溶性リン酸含有量およびク溶性リン酸率が高くなり、両者には正の相関関係があることがわかる。これは、汚泥中のFe(鉄)がP(リン)と結合して、上記ステップ5の溶融処理に際して、Pの蒸散を抑制し、溶融スラグ中に留まらせる効果を発揮したためと考えられる。
【0037】
なお、
図5(a)および(b)より、FeO含有量は、17mass%以上とすることが好ましく、より好ましくは20mass%以上とし、この範囲とすることにより、ク溶性リン酸保証値が15.0%以上の肥料を生産するのに必要なク溶性リン酸レベルが得られ、ク溶性リン酸量を均一化するための工程を縮小することができる等、製造工程の簡素化が期待できる。
【0038】
したがって、上記ステップ3において添加される凝集剤としては、Fe塩系凝集剤を用いることが好ましく、例えば、水酸化第一鉄(Fe(OH)
2)、硫酸第一鉄(FeSO
4・7H
2O)、硫酸第二鉄(Fe
2(SO
4)
3)、塩化第二鉄(FeCl
3・6H
2O)、ポリ硫酸第二鉄([Fe(OH)
n(SO
4)
3−n/2]
m)、鉄−シリカ無機高分子などが好適である。
【0039】
ところで、Fe塩系凝集剤中のFeは、上記ステップ5の溶融処理において、溶融炉の操業温度が1300℃前後であるため燃焼消失することがなく、溶融スラグ中に残存することになる。
そこで、Fe塩系凝集剤を用いて製造した溶融スラグを、ク溶性リン酸の分析手順(肥料分析法)に準じて2%クエン酸溶液に抽出し、抽出液中のFeO含有量およびク溶性FeO含有量を測定した。また、水田用肥料の効果発現促進材として一般的に利用されている鉄鉱石粉(A、B)についても同様に2%クエン酸溶液への抽出を実施し、FeO含有量およびク溶性FeO含有量を測定した。その結果を表2に示す。
【0041】
表2より、Fe塩系凝集剤を用いて下水汚泥より溶融スラグAおよびBを製造した場合、該溶融スラグA、B中に含まれるFeOのク溶率が非常に高くなることがわかった。したがって、Fe塩系凝集剤を使用した場合には、上記したように溶融スラグのク溶性リン酸率を向上させることができるだけでなく、ク溶性のFeOとして効果発現促進材に有効に利用することができ、肥効性に非常に優れ、肥料的価値を高めることができる。
なお、溶融スラグ中に含まれるFeがク溶性を示す理由は明らかではないが、溶融処理によってFeがスラグ組成の一部として構成することになり、クエン酸で抽出されるその他のCaやMg等と同じく、溶融スラグ中において塩基として存在し可溶化したものと考えられる。
【0042】
また、凝集剤としては、Fe塩系凝集剤の他、高分子系凝集剤を使用することが好ましい。高分子系凝集剤は、主に炭素、水素および酸素からなり、上記ステップ5の溶融処理によって燃焼消失し、溶融スラグ中に残存しないため、溶融スラグ中のク溶性リン酸含有量を相対的に減少させることがないからである。
高分子系凝集剤は、アルギン酸ソーダ、キチン、キトサン、バイオ凝集剤(細菌株群:TKF04株)などの天然有機高分子系凝集剤や、表面電界の種類によって、カチオン(陽イオン)性高分子凝集剤(ポリアクリル酸ジメチルアミノエチル等)、アニオン(陰イオン)性高分子凝集剤(ポリアクリルアミドの部分加水分解物等)およびノニオン(非イオン)性高分子凝集剤(ポリアクリルアミド等)に分類される合成有機高分子系凝集剤からなり、いずれも懸濁粒子に対して、少量の添加で凝集効果を発揮し、大きなフロックを形成することができるという特長を有しているが、下水の発生時期や、凝集させる懸濁液のpHや濃度、粒子の大きさ等によって選択することが好ましい。
【0043】
なお、凝集剤としては、Fe塩系凝集剤および高分子系凝集剤をそれぞれ単独で使用する他、それらを組み合わせて用いてもよく、この場合にも同様の作用効果が期待できる。
【0044】
以上、下水から肥料用溶融スラグを製造する方法を一例として、本発明の実施形態を説明したが、これに限定されるものではなく、下水に凝集剤を添加して濃縮した後、該濃縮した汚泥を乾燥や焼成等して生成される乾燥汚泥や焼却灰等から肥料を製造する場合においても、凝集剤に含まれる成分が、汚泥中のリン酸含有量およびリン酸含有率に大きく影響すると考えられる。そのため、上記したように凝集剤を適正に選定することが、下水からク溶性リン酸等の肥効成分を安定して含む肥料を製造するのに非常に有効となる。
【課題】下水処理場から発生した下水を濃縮するために添加される凝集剤を適正に規定し、下水から肥料として有効なク溶性リン酸等の肥効成分を安定して含む肥料用の溶融スラグおよび肥料を製造するための好適な方法の提供。
【解決手段】下水に凝集剤を添加して汚泥を濃縮した後、濃縮された汚泥を溶融して肥料用溶融スラグを製造する方法において、凝集剤として、非アルミ塩系の凝集剤、非ケイ酸塩系の凝集剤並びに、高分子系凝集剤及びFe塩系凝集剤のうちから選ぶ1以上からなる肥料用溶融スラグの製造方法。