【実施例1】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る車輪用軸受装置の第1の実施形態を示す縦断面図、
図2は、
図1の側面図、
図3(a)は、
図1の位置決め手段を示す要部拡大図、(b)は、(a)のIII方向から見た矢視図、
図4(a)は、
図3の変形例を示す要部拡大図、(b)は、(a)のIV方向から見た矢視図、
図5(a)は、
図3の他の変形例を示す要部拡大図、(b)は、(a)のV方向から見た矢視図、
図6(a)は、
図3の他の変形例を示す要部拡大図、(b)は、(a)のVI方向から見た矢視図、
図7(a)は、
図3の他の変形例を示す要部拡大図、(b)は、(a)のVII方向から見た矢視図である。なお、以下の説明では、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウター側(
図1の左側)、中央寄り側をインナー側(
図1の右側)という。
【0024】
この車輪用軸受装置は第3世代と呼称される従動輪用であって、固定側部材となる内方部材1と、回転側部材となる外方部材2、および両部材1、2間に転動自在に収容された複列の転動体(ボール)3、3とを備えている。内方部材1は、ハブ輪4と、このハブ輪4に所定のシメシロを介して圧入された内輪5とからなる。
【0025】
ハブ輪4は、外周に一方(インナー側)の内側転走面4aと、この内側転走面4aから段部7aを介して軸方向に延びる小径段部4bが形成されている。内輪5は、外周に他方(アウター側)の内側転走面5aが形成され、ハブ輪4の小径段部4bに圧入されて背面合せタイプの複列アンギュラ玉軸受を構成すると共に、小径段部4bの端部を塑性変形させて形成した加締部8によって内輪5が軸方向に固定されている。なお、内輪5および転動体3はSUJ2等の高炭素クロム鋼で形成され、ズブ焼入れによって芯部まで58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。
【0026】
ハブ輪4はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、内側転走面4aから小径段部4bの外周面に亙って高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。なお、加締部8は鍛造加工後の表面硬さのままとされている。これにより、内輪5の嵌合部となる小径段部4bの耐フレッティング性が向上すると共に、微小なクラック等の発生がなく加締部8の塑性加工をスムーズに行うことができる。
【0027】
外方部材2は、アウター側の端部に車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ6を一体に有し、ハブボルト(図示せず)がねじにより螺合固定されるボルト孔6aが穿設され、このボルト孔6aの周辺は肉厚のリブ6bが形成されている。このリブ6bにより、外方部材2の軽量化と高剛性化を図ることができ、大きな曲げモーメント荷重がこの車輪取付フランジ6に負荷されても充分な強度を確保することができる。
【0028】
また、外方部材2の内周には、内輪5の内側転走面5aに対向するアウター側の外側転走面2aと、この外側転走面2aから段部7bを介してハブ輪4の内側転走面4aに対向するインナー側の外側転走面2bが一体に形成されている。これら両転走面間に複列の転動体3、3が収容され、保持器9、10によって転動自在に保持されている。この外方部材2はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、少なくとも複列の外側転走面2a、2bが高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。
【0029】
外方部材2と内方部材1との間に形成される環状空間のインナー側の開口部には後述するシール11が装着され、軸受内部に封入されたグリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。また、外方部材2のインナー側の端部にパルサーリング12が装着されている。このパルサーリング12は、芯金13と、この芯金13に加硫接着によって一体に接合される磁気エンコーダ14とからなる。
【0030】
芯金13は、強磁性体の鋼板、例えば、フェライト系のステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工にて断面が略L字状に形成され、外方部材2の端部外周に圧入される円筒状の嵌合部13aと、この嵌合部13aから径方向内方に延び、外方部材2のインナー側の端面2cに密着して位置決め精度を高める鍔部13bとを備えている。磁気エンコーダ14は、ゴム等のエラストマにフェライト等の磁性体粉が混入されると共に、周方向に交互に磁極N、Sが着磁され、車輪の回転速度検出用のロータリエンコーダを構成している。なお、ここでは、転動体3にボールを使用した複列アンギュラ玉軸受を例示したが、これに限らず、転動体3に円錐ころを使用した複列円錐ころ軸受であっても良い。
【0031】
シール11は、
図3(a)に拡大して示すように、互いに対向配置されたスリンガ15と環状のシール板16とからなる、所謂パックシールで構成されている。スリンガ15は、防錆能を有する鋼板、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)やフェライト系のステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工にて断面が略L字状に形成され、ハブ輪4の外径に圧入される円筒部15aと、この円筒部15aから径方向外方に延びる立板部15bとからなる。
【0032】
一方、シール板16は、外方部材2のインナー側の端部に内嵌される芯金17と、この芯金17に加硫接着により一体に接合されたシール部材18とからなる。芯金17は、オーステナイト系ステンレス鋼板、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工にて断面が略L字状に形成されている。
【0033】
シール部材18はNBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)等の合成ゴムからなり、径方向外方に傾斜して延び、スリンガ15の立板部15bのアウター側の側面に所定の軸方向シメシロを介して摺接するサイドリップ18aと、この内径側で二股状に傾斜して延び、スリンガ15の円筒部15aに所定の径方向シメシロを介して摺接するダストリップ18bとグリースリップ18cを有している。なお、シール部材18の材質としては、例示したNBR以外にも、例えば、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)等をはじめ、耐熱性、耐薬品性に優れたACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等を例示することができる。
【0034】
本実施形態では、
図1に示すように、アウター側の転動体3のピッチ円直径PCDoがインナー側の転動体3のピッチ円直径PCDiよりも小径に設定されている(PCDo<PCDi)。そして、複列の転動体3、3のサイズは同じであるが、このピッチ円直径PCDo、PCDiの違いにより、インナー側の転動体3の個数がアウター側の転動体3の個数よりも多く設定されている。
【0035】
ハブ輪4の外郭形状は、内側転走面4aの溝底部からカウンタ部19と、このカウンタ部19から傾斜して形成された段部7a、および内輪5が突き合わされる肩部4cを介して小径段部4bに続いている。一方、外方部材2において、ピッチ円直径PCDo、PCDiの違いに伴い、アウター側の外側転走面2aがインナー側の外側転走面2bよりも縮径して形成され、アウター側の外側転走面2aから傾斜した段部7bを介してインナー側の外側転走面2bが形成されている。この段部7bの傾斜角は、ハブ輪4の段部7aの傾斜角と略同一角度になるように設定されている。
【0036】
こうした構成の車輪用軸受装置では、アウター側の転動体3のピッチ円直径PCDoをインナー側の転動体3のピッチ円直径PCDiよりも小径に設定され、その分、転動体3の個数もインナー側の個数がアウター側の個数よりも多く設定されているため、有効に軸受スペースを活用してアウター側に比べインナー側部分の軸受剛性を増大させることができ、軸受の長寿命化を図ることができる。さらに、ハブ輪4の段部7aと外方部材2の段部7bの傾斜が略同一角度に設定されているので、装置の軽量・コンパクト化と高剛性化という相反する課題を解決することができる。
【0037】
ここで、ハブ輪4のインナー側の端部にはすり鉢状の凹所20を有する取付部21が形成されている。この凹所20の深さは肩部4c付近までとされ、ハブ輪4の取付部21が略均一な肉厚となっている。これにより、ハブ輪4の強度を保ちつつ軽量化を図ることができる。本実施形態では、この取付部21にボルト孔22が複数個形成され、これらボルト孔22に締結される固定ボルト(図示せず)によって懸架装置を構成するナックル(図示せず)に取り付けられる。そして、ハブ輪4の取付部21の端部外周にナックルとの位置決め手段23が形成されている。
【0038】
この位置決め手段23は、
図2および
図3に示すように、ハブ輪4の取付部21の端部外周を一部カットして形成された平面部で構成されている。そして、相手側のナックルの内周にも少なくとも一つの平面部が形成され、これら平面部同士を嵌合させることにより、ハブ輪4とナックルとの周方向の位置決めを容易に行うことができ、車両への組立工数の削減を図った車輪用軸受装置を提供することができる。
【0039】
図4に前述した位置決め手段23の変形例を示す。ハブ輪4の取付部21の端部外周に環状溝25が形成されると共に、位置決め手段24は、この環状溝25の底部に突出して形成された凸部で構成されている。そして、相手側のナックルの内周にも少なくとも一つの凹部が形成され、これら凹凸を嵌合させることにより、ハブ輪4とナックルとの周方向の位置決めを容易に行うことができ、車両への組立工数の削減を図ることができる。
【0040】
図5に前述した位置決め手段23の他の変形例を示す。ハブ輪4の取付部21の端部外周に穿孔26が形成されると共に、位置決め手段27は、この穿孔26に頭部が突出するように圧入されたピンで構成されている。そして、相手側のナックルの内周にも少なくとも一つの凹部が形成され、この凹部にピンを係合させることにより、ハブ輪4とナックルとの周方向の位置決めを容易に行うことができる。
【0041】
図6に前述した位置決め手段23の他の変形例を示す。位置決め手段28は、ハブ輪4の取付部21の端部外周に形成された凹部で構成されている。そして、相手側のナックルの内周にも少なくとも一つの凸部が形成され、この凹凸を嵌合させることにより、ハブ輪4とナックルとの周方向の位置決めを容易に行うことができる。
【0042】
図7に前述した位置決め手段23の他の変形例を示す。ハブ輪4の取付部21の端部外周に凹部29が形成されると共に、位置決め手段30は、この凹部29に嵌着されたキー部材で構成されている。そして、相手側のナックルの内周にも少なくとも一つのキー溝が形成され、このキー溝にキー部材を係合させることにより、ハブ輪4とナックルとの周方向の位置決めを容易に行うことができる。
【実施例2】
【0043】
図8は、本発明に係る車輪用軸受装置の第2の実施形態を示す縦断面図、
図9は、
図8の側面図、
図10(a)は、
図8の位置決め手段を示す要部拡大図、(b)は、(a)のX方向から見た矢視図、
図11(a)は、
図10の変形例を示す要部拡大図、(b)は、(a)のXI方向から見た矢視図、
図12(a)は、
図10の他の変形例を示す要部拡大図、(b)は、(a)のXII方向から見た矢視図、
図13(a)は、
図10の他の変形例を示す要部拡大図、(b)は、(a)のXIII方向から見た矢視図、
図14(a)は、
図10の他の変形例を示す要部拡大図、(b)は、(a)のXIV方向から見た矢視図である。なお、この第2の実施形態は、前述した第1の実施形態(
図1)と基本的には位置決め手段が異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0044】
この車輪用軸受装置は、内方部材31と外方部材2、および両部材31、2間に転動自在に収容された複列の転動体3、3とを備えている。内方部材31は、ハブ輪32と、このハブ輪32に所定のシメシロを介して圧入された内輪5とからなる。
【0045】
ハブ輪32は、外周に一方(インナー側)の内側転走面4aと、この内側転走面4aから段部7aを介して軸方向に延びる小径段部4bが形成されている。このハブ輪32はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、内側転走面4aから小径段部4bの外周面に亙って高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。
【0046】
ここで、ハブ輪32のインナー側の端部にはすり鉢状の凹所20を有する取付部33が形成されている。この凹所20の深さは肩部4c付近までとされ、ハブ輪32の取付部33が略均一な肉厚となっている。本実施形態では、ハブ輪32の取付部33のインナー側の端面にナックルとの位置決め手段34が形成されている。
【0047】
この位置決め手段34は、
図9および
図10に示すように、ハブ輪32の取付部33の端面に突出して形成された凸部で構成されている。そして、相手側のナックルの端面には少なくとも一つの凹部が形成され、これら凹凸を嵌合させることにより、ハブ輪32とナックルとの周方向の位置決めを容易に行うことができ、車両への組立工数の削減を図ることができる。
【0048】
図11に前述した位置決め手段34の変形例を示す。この位置決め手段35は、ハブ輪32の取付部33の端面に形成された穿孔で構成されている。そして、相手側のナックルの内周にも少なくとも一つの凸部が形成され、これら凹凸を嵌合させることにより、ハブ輪32とナックルとの周方向の位置決めを容易に行うことができ、車両への組立工数の削減を図ることができる。
【0049】
図12に前述した位置決め手段34の他の変形例を示す。ハブ輪32の取付部33の端面に穿孔36が形成されると共に、位置決め手段37は、穿孔36に圧入されたピンで構成されている。そして、相手側のナックルの内周にも少なくとも一つの凹部が形成され、これら凹凸を嵌合させることにより、ハブ輪32とナックルとの周方向の位置決めを容易に行うことができ、車両への組立工数の削減を図ることができる。
【0050】
図13に前述した位置決め手段34の他の変形例を示す。位置決め手段38は、ハブ輪32の取付部33の端面に形成された放射溝で構成されている。そして、相手側のナックルの内周にも少なくとも一つの凸部が形成され、この放射溝からなる位置決め手段38に係合させることにより、ハブ輪32とナックルとの周方向の位置決めを容易に行うことができ、車両への組立工数の削減を図ることができる。
【0051】
図14に前述した位置決め手段34の他の変形例を示す。ハブ輪32の取付部33の端面に放射溝39が形成されると共に、位置決め手段40は、この放射溝39に固定されたキー部材で構成されている。そして、相手側のナックルの内周にも少なくとも一つのキー溝が形成され、これら凹凸を嵌合させることにより、ハブ輪32とナックルとの周方向の位置決めを容易に行うことができ、車両への組立工数の削減を図ることができる。
【実施例3】
【0052】
図15は、本発明に係る車輪用軸受装置の第3の実施形態を示す縦断面図、
図16は、
図15の側面図、
図17(a)は、
図15の位置決め手段を示す要部拡大図、(b)は、(a)のXVII方向から見た矢視図、
図18(a)は、
図17の変形例を示す要部拡大図、(b)は、(a)のXVIII方向から見た矢視図である。なお、この第3の実施形態は、前述した第1の実施形態(
図1)と基本的には位置決め手段が異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0053】
この車輪用軸受装置は、内方部材41と外方部材2、および両部材41、2間に転動自在に収容された複列の転動体3、3とを備えている。内方部材41は、ハブ輪42と、このハブ輪42に所定のシメシロを介して圧入された内輪5とからなる。
【0054】
ハブ輪42は、外周に一方(インナー側)の内側転走面4aと、この内側転走面4aから段部7aを介して軸方向に延びる小径段部4bが形成されている。このハブ輪42はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、内側転走面4aから小径段部4bの外周面に亙って高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。
【0055】
ここで、ハブ輪42のインナー側の端部にはすり鉢状の凹所20を有する取付部43が形成されている。この凹所20の深さは肩部4c付近までとされ、ハブ輪42の取付部43が略均一な肉厚となっている。本実施形態では、ハブ輪42の取付部43の内径面にナックルとの位置決め手段44が形成されている。
【0056】
この位置決め手段44は、
図16および
図17に示すように、ハブ輪42の取付部43の内径面に突出して形成された凸部で構成されている。そして、相手側のナックルには少なくとも一つの凹部が形成され、これら凹凸を嵌合させることにより、ハブ輪42とナックルとの周方向の位置決めを容易に行うことができ、車両への組立工数の削減を図ることができる。
【0057】
図18に前述した位置決め手段44の変形例を示す。この位置決め手段45は、ハブ輪42の取付部43の内径面に形成された凹部で構成されている。そして、相手側のナックルに少なくとも一つの凸部が形成され、これら凹凸を嵌合させることにより、ハブ輪42とナックルとの周方向の位置決めを容易に行うことができ、車両への組立工数の削減を図ることができる。
【0058】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。