(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5964085
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】有機過酸化物含有複合微粒子
(51)【国際特許分類】
C08F 2/24 20060101AFI20160721BHJP
C08L 33/04 20060101ALI20160721BHJP
C08K 5/14 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
C08F2/24 Z
C08L33/04
C08K5/14
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-45941(P2012-45941)
(22)【出願日】2012年2月13日
(65)【公開番号】特開2013-163798(P2013-163798A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2014年12月17日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 化学工学会第43回秋季大会研究発表講演要旨集(平成23年8月14日発行)P2D11頁に発表
(73)【特許権者】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(72)【発明者】
【氏名】渕上 清実
(72)【発明者】
【氏名】高橋 啓至
(72)【発明者】
【氏名】藤井 俊秀
(72)【発明者】
【氏名】南部 敏之
(72)【発明者】
【氏名】出口 幹人
【審査官】
松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】
特開平01−266845(JP,A)
【文献】
特開平04−306201(JP,A)
【文献】
特開昭64−065182(JP,A)
【文献】
特開平02−052038(JP,A)
【文献】
特表2002−524634(JP,A)
【文献】
特開平02−080475(JP,A)
【文献】
伊藤 聡,渕上 清実,過酸化ベンゾイルのマイクロカプセル化と歯科材料への応用,第18回ポリマー材料フォーラム予稿集,2009年,p203
【文献】
伊藤聡,渕上清実,過酸化ベンゾイルのマイクロカプセル化に関する研究,高分子討論会予稿集,2009年,第58巻,第2号,p.4701-4702
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00 − 2/60
C08F 20/00 − 20/70
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機過酸化物がアクリル樹脂によって被覆された複合微粒子であり、有機過酸化物の複合微粒子中での存在比率が70質量%以上である複合微粒子。
【請求項2】
有機過酸化物がジアシル型有機過酸化物であることを特徴とする請求項1記載の複合微粒子。
【請求項3】
ジアシル型有機過酸化物が過酸化ベンゾイルであることを特徴とする請求項2記載の複合微粒子。
【請求項4】
アクリル樹脂がポリエチル(メタ)アクリレートまたはポリメチル(メタ)アクリレートまたはポリエチル(メタ)アクリレートとポリメチル(メタ)アクリレートとの共重合体であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の複合微粒子。
【請求項5】
表面改質を施していない状態での安息角が20度以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の複合微粒子。
【請求項6】
有機過酸化物がアクリル樹脂によって被覆された複合微粒子の製造方法であって、
少なくとも有機過酸化物と界面活性剤とを含む(S/W)分散液に、少なくともアクリルモノマーを含む微細な(O/W)エマルジョンを添加する液滴合一法により製造する複合微粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機過酸化物が樹脂成分によって被覆された複合微粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機過酸化物は重合開始剤、硬化剤、架橋剤、漂白剤等の各種用途に供されているが、衝撃に敏感であり、爆発性、燃焼性等の危険性が高く、取扱いが困難であるため、水に分散させる等して湿体品として反応性を抑制して取扱う必要がある。また、特開平1−190666、特開平2−78658、特開2003−300955には、有機過酸化物と水性懸濁液体や粘性液体とを組成物とすることによって、反応性を抑制して取扱う方法が開示されている。また、J.Chem.Eng.Japan,39(9),994−999(2006)には過酸化ベンゾイルを液中乾燥法を用いマイクロカプセル化する方法が研究されている。
【特許文献1】特開平1−190666
【特許文献2】特開平2−78658
【特許文献3】特開2003−300955
J.Chem.Eng.Japan,39(9),994−999(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の水に分散させて有機過酸化物湿体品とする方法では、使用時に水分を除去するという危険を伴う工程が必要であり、そのようにして得られた有機過酸化物は流動性が悪かった。また、特開平1−190666、特開平2−78658、特開2003−300955で開示された方法では、有機過酸化物は水性懸濁液体や粘性液体との組成物であるため、水性懸濁液体や粘性液体を組成物中から除去することは困難であり、現実的でない。さらにJ.Chem.Eng.Japan,39(9),994−999(2006)では過酸化ベンゾイルを液中乾燥法を用いマイクロカプセル化する方法が研究されている。この方法によれば、過酸化ベンゾイルを合成高分子で球状化し保護する事は可能となったものの、その合成方法では過酸化ベンゾイル等の芯物質の含有量が50wt%を超えることは不可能である。何故ならば、過酸化ベンゾイル等の粒子をモノマー液や高分子液に懸濁状に分散させる工程が必須であるためである。すなわち、過酸化ベンゾイルを高濃度にした場合にはもはや液状態を維持することが困難であるために[(S/O)/W]エマルションの調製が出来ず、50wt%を超える含有率は達成できない。そこで、有機過酸化物湿体品から水分を安全に除去して得られる、良好な流動性を有する高含有率有機過酸化物複合微粒子の発明が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明者らの鋭意検討の結果、市販されている湿体過酸化ベンゾイルを界面活性剤を含む連続相に装填した後に、予め調整した微細なモノマーエマルションを添加する事で、渦酸化物表面に液滴合一を意図的に行い重合せしめることで高含有率の有機過酸化物含有複合微粒子が得られることを発見し、本発明を完成した。この様な工程を踏むことで、市販されている含水率25%程度の湿体過酸化ベンゾイルから一工程で脱水および高含有率カプセルを合成出来る。この様にして得られたマイクロカプセルは良好な粉体分散性を有し、外郭の高分子による保護のために酸素による影響が大幅に軽減され、保存安定性が向上した。
【発明の効果】
【0005】
本発明によって提供される有機過酸化物含有複合微粒子は、良好な分散性を有する重合開始剤、硬化剤、架橋剤等の各種用途に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
上記有機過酸化物は、ケトンペルオキシド類、ジアシルペルオキシド類、ヒドロペルオキシド類、ジアルキルペルオキシド類、ペルオキシケタール類、アルキルペルエステル類、ペルカーボネート類から少なくとも1種類以上選択される。
【0007】
複合微粒子の製造方法として、非水溶性有機過酸化物を界面活性剤を含む連続相に装填した後に、予め調整した微細なモノマーエマルションを添加する事で、過酸化物表面に液滴合一を意図的に行い重合せしめることで高含有率の有機過酸化物含有複合微粒子が得られる、いわゆる液滴合一法による。必要により分散安定剤の添加を行っても良い。
【0008】
上記界面活性剤は少なくとも1種類以上の両親媒性の物質であればよく、例えば、アニオン性単量体、カチオン性単量体、ノニオン性単量体、アニオン性重合体、カチオン性重合体、ノニオン性重合体等が挙げられる。具体的には、ベンゼンスルホン酸ナトリウムやドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレン硫酸塩、エチレンー−無水マレイン酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリビニルアルコール、ヘキサエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カイゼン、アラビアゴム、レシチン、ゼラチン、ロート油等が挙げられる。
【0009】
上記分散安定剤は、連続層および重合性単量体に溶解しない物質であればよく、例えば、シリカ、リン酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化第二鉄、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、シュウ酸カルシウム等から少なくとも1種類以上選択される。
【0010】
上記重合性単量体(モノマー)は重合可能な1種類以上の単量体であればよく、例えば、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、クロロスレチン、クロロメチルスチレン、スチレンスルホン酸、t−ブトキシスチレン、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ビニルアセテート、プロピオン酸ビニル、ビニルブチレート、ビニルエーテル、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、アルキル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。
【実施例】
【0011】
本発明による複合微粒子の製造方法について詳しく説明するが、本発明はこれらの説明に何ら限定されるものではない。
【0012】
以下の実施例によって得られた複合微粒子の性能は、次の試験により評価した。
【0013】
(重合開始剤としての評価)
以下の実施例によって得られた複合微粒子と、比較例として複合微粒子化していない過酸化ベンゾイル75%含有湿体品を乾燥処理したものとを、それぞれポリエチル(メタ)アクリレート100重量部に対して1重量部ずつ添加して粉成分を調整した。一方、エチル(メタ)アクリレート100重量部に対してN,N−ジメチル−p−トルイジン2重量部を添加した液成分を調整した。各粉成分2gと液成分1mLとを、室温25℃に調整された室内で充分に混合し、この混合体の内部温度を経時的に測定し、粉成分と液成分とを混合してから最高発熱温度に至るまでの時間を3回測定し、その平均時間によって重合開始剤としての能力を評価した。比較例としての複合微粒子化していない過酸化ベンゾイルを用いた試料の評価結果を、実施例1および2の評価結果と併せて表1に示す。
【0014】
(偏光光学顕微鏡観察による分散性の評価)
以下の実施例によって得られた複合微粒子と、比較例として複合微粒子化していない過酸化ベンゾイル75%含有湿体品を乾燥処理したものとを、それぞれポリエチル(メタ)アクリレート100重量部に対して10重量部ずつ添加して試料を調整し、偏光光学顕微鏡を用いて観察した。比較例としての複合微粒子化していない過酸化ベンゾイルを用いた試料の偏光光学顕微鏡写真を
図1に示す。
【0015】
(安息角測定による分散性の評価)
以下の実施例によって得られた複合微粒子と、比較例として複合微粒子化していない過酸化ベンゾイル75%含有湿体品を乾燥処理したものとを、先端径16mmの粉体用漏斗先端から吐出して形成した粉体層の斜面と水平面とのなす角度(安息角)を、3箇所について測定した。比較例としての複合微粒子化していない過酸化ベンゾイル75%含有湿体品を乾燥処理したものの評価結果を、実施例1および2の評価結果と併せて表2に示す。
【実施例1】
【0016】
界面活性剤として10gのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを含む連続層14Kgを撹拌しながら、過酸化ベンゾイル湿体品(固形分含有量75wt%)2.67Kgを添加・攪拌した。その後、超音波発振器を挿入し分散を促進させ(S/W)分散液を調整した。別に、メチルメタクリレートモノマー0.5Kgをドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1gを含む連続層1.4Kgにホモジナイザー攪拌下にて添加し微細な(O/W)エマルションを調製した。その後、(S/W)分散液に(O/W)エマルションを添加し、さらに分散安定剤としてTCP−10U(燐酸カルシウム)10Kgを添加した。この混合液を70℃に加温し反応を20分行った。反応後、減圧濾過にて分離し、得られた粉末を水、塩酸、ノルマルヘキサンで洗浄し、有機渦酸化物含有複合微粒子を得た。この複合微粒子について、上述の各評価試験を行った結果を表1、表2および
図2に示す。
【実施例2】
【0017】
界面活性剤として10gのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを含む連続層14Kgを撹拌しながら、過酸化ベンゾイル湿体品(固形分含有量75wt%)2.67Kgを添加・攪拌した。その後、超音波発振器を挿入し分散を促進させ(S/W)分散液を調整した。別に、メチルメタクリレートモノマー0.5Kgをドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1gを含む連続層1.4Kgにホモジナイザー攪拌下にて添加し微細な(O/W)エマルションを調製した。その後、(S/W)分散液に(O/W)エマルションを添加し、さらに分散安定剤としてACE−25(炭酸カルシウム)10Kgを添加した。この混合液を70℃に加温し反応を60分行った。反応後、減圧濾過にて分離し、得られた粉末を水、塩酸、ノルマルヘキサンで洗浄し、有機過酸化物含有複合微粒子を得た。この複合微粒子について、上述の各評価試験を行った結果を表1、表2および
図2に示す。
【0018】
【表1】
【0019】
表1より、実施例1および2の複合微粒子は、比較例としての過酸化ベンゾイルと同等の重合開始剤としての能力を有することが分かる。
【0020】
【表2】
【0021】
表2より、実施例1および2の複合微粒子は、比較例としての過酸化ベンゾイル75%含有湿体品を乾燥処理したものよりも安息角が小さいことから、良好な分散性を有することが分かる。
【0022】
図1、2および3より、実施例1および2の複合微粒子は、比較例としての過酸化ベンゾイル75%含有湿体品を乾燥処理したものよりも良好な分散性を有することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明で得られる複合微粒子は、良好な分散性を有する重合開始剤、硬化剤、架橋剤等として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【
図1】複合微粒子化していない、過酸化ベンゾイル75%含有湿体品を乾燥処理したものの分散性を評価するための試料の偏光光学顕微鏡写真である。透明の小さな球体がポリエチル(メタ)アクリレートであり、白い部分が凝集した過酸化ベンゾイルである。
【
図2】実施例1によって得られた複合微粒子の分散性を評価するための試料の偏光光学顕微鏡写真である。透明の小さな球体がポリエチル(メタ)アクリレートであり、白い球体が複合微粒子である。
【
図3】実施例2によって得られた複合微粒子の分散性を評価するための試料の偏光光学顕微鏡写真である。透明の小さな球体がポリエチル(メタ)アクリレートであり、白い球体が複合微粒子である。