特許第5964089号(P5964089)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5964089時計用回転錘および時計用回転錘を備えた時計
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5964089
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】時計用回転錘および時計用回転錘を備えた時計
(51)【国際特許分類】
   G04B 5/16 20060101AFI20160721BHJP
【FI】
   G04B5/16
【請求項の数】13
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-50890(P2012-50890)
(22)【出願日】2012年3月7日
(65)【公開番号】特開2013-185936(P2013-185936A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2015年1月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154863
【弁理士】
【氏名又は名称】久原 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100123685
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 信行
(72)【発明者】
【氏名】荒木 明子
(72)【発明者】
【氏名】村住 拓也
(72)【発明者】
【氏名】新輪 隆
【審査官】 榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−513944(JP,A)
【文献】 米国特許第04910720(US,A)
【文献】 スイス国特許発明第00695394(CH,A5)
【文献】 特開2008−133542(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0243387(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00 − 49/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心として回動する回転重錘と、前記回転重錘より前記回転軸側に形成される回転錘体とを備える時計用回転錘において、
前記回転錘体は、前記回転軸側に形成される中心部と、
前記中心部を囲むように形成される環状の外周部と、
前記中心部と前記外周部とを接続するアーム部と、を有し、
前記アーム部は、前記中心部から前記外周部に延びる仮想線に対して、傾斜する傾斜部を有し、
前記中心部、前記アーム部、または前記外周部は、前記回転軸方向の厚みが異なる部位を有し、
前記アーム部または前記重錘部における回転方向には斜面が設けられる時計用回転錘。
【請求項2】
前記回転錘体の表面に酸化膜が部分的に形成される請求項1に記載の時計用回転錘。
【請求項3】
前記回転錘体の表面に窒化膜が部分的に形成される請求項に記載の時計用回転錘。
【請求項4】
レーザー照射により前記酸化膜が部分的に形成される請求項2に記載の時計用回転錘。
【請求項5】
レーザー照射により前記窒化膜が部分的に形成される請求項に記載の時計用回転錘。
【請求項6】
前記アーム部は突起を有する請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の時計用回転錘。
【請求項7】
前記突起は前記回転錘体の回転円周に沿う方向に突出する請求項に記載の時計用回転錘。
【請求項8】
前記突起が前記中心部よりも前記外周部側に偏って形成される請求項7に記載の時計用回転錘。
【請求項9】
前記外周部が突起を有する請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の時計用回転錘。
【請求項10】
前記アーム部が円環状に形成される請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の時計用回転錘。
【請求項11】
前記中心部、前記アーム部、および前記外周部は一体に成形される請求項1乃至請求項のいずれか一項に記載の時計用回転錘。
【請求項12】
前記回転錘の前記回転錘体をチタン又はチタン合金で作製する請求項1に記載の時計用回転錘。
【請求項13】
請求項1に記載の時計用回転錘と、前記時計用回転錘の回転トルクを伝達する輪列を有する時計
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腕の動きや時計の姿勢変化により軸周りに回転する回転錘と、この回転錘の回動を時計の巻き上げに利用する時計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、時計が装着された状態で腕を動かすことに伴う加速度運動により回転錘を回転又は往復運動させ、この回転錘が回転するトルクで香箱車のぜんまいの巻き上げや発電機の回転駆動を行う腕時計が知られている。回転錘の回転駆動力が大きいほどぜんまいが巻き上げられ、時計の運針に必要なエネルギーが蓄積される。このエネルギーにより時計が駆動しているため、回転錘の回転運動が行われている限り時計の連続駆動が可能である。例えば、平面視で略扇型形状であり、全面が金属等で形成される略平板形状の回転錘が知られている(特許文献1、2)。かかる従来の回転錘においては、回転錘の慣性モーメントを大きくするため、回転重錘を回転錘の外周部に配置することで、回転錘の重心位置を回転中心から遠ざけるよう設計されている。また、回転錘体は、時計内部のレイアウトの制限もあり、薄い板状で形成されており、回転錘体は重量部となる回転重錘を支持している。薄板状の回転錘体が回転重錘を支持できるようにするため、全面を金属材料等で隙間無く形成する構造とすることで回転錘体の強度を維持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−065962号公報
【特許文献2】特開2003−130966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、回転錘が時計の外観の一部を構成する場合には、その装飾性を高めるため、回転錘体の内側を大きく削除することで空間を設け、回転錘体の裏側のムーブメントを可視可能にする必要がある。かかる場合には、回転錘体が回転重錘を支持する強度を確保できなくなる恐れが生じる。また、強度低下により、回転錘の回転効率を所望の効率に維持することが困難になる恐れも生じる。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、所望の強度を確保しつつ、回転効率を維持できる時計用回転錘および時計用回転錘を備えた時計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明に係る時計用回転錘は、回転軸を中心として回動する回転重錘と、回転重錘より前記回転軸側に形成される回転錘体とを備える時計用回転錘であって、回転錘体は、回転軸側に形成される中心部と、中心部を囲むように形成される環状の外周部と、中心部と外周部とを接続するアーム部と、を有し、アーム部は、中心部から外周部に延びる仮想線に対して、傾斜する傾斜部を有する形状であることを特徴とする。
【0007】
かかる構成によれば、回転錘の強度を確保しつつ、回転効率を維持することができる。すなわち、環状の外周部に接続されるアーム部により回転錘体が形成されているので、回転重錘は回転軸の周囲全周にわたって設けられるアーム部により支持されることになる。よって、裏側の精巧なムーブメント構造を可視可能にするという装飾性を得つつ、回転錘の強度を確保できるようになる。また、アームは、中心部から外周部に延びる仮想線、即ち、半径となる線分に対して傾斜して構成されている。よって、スペースが制限された回転錘の面内において、アーム部の回転錘体に占める面積を確保できるようになる。また、周囲に空隙を有するアーム部により回転錘体のバネ性が増すことになるので、外部からの衝撃が回転軸に到達する途中で吸収され、回転錘自身や回転錘から回転を伝達される輪列等の破損や劣化を防止することができる。よって、さらに回転錘の強度を確保できるようになる。したがって、傾斜部を有するアーム部が環状の外周部に接続されることにより、回転錘の強度が確保されるとともに、回転効率を損なうことが抑えられる。よって、回転錘の回転効率が維持されるようになる。
【0008】
また、本発明に係る時計用回転錘は、回転の中心部、アーム部、または外周部は、回転軸方向の厚みが異なる部位を有することを特徴とする。また、アーム部または回転重錘における回転方向には斜面が設けられていることを特徴とする。
かかる構成によれば、上述の効果に加え、回転錘の回転方向の空気の流れに垂直に抵抗を受ける面を小さくすることができ、空気抵抗を低減することが可能となる。従って、回転効率、ひいては、ぜんまいの巻上げ効率を更に向上させることができ、駆動エネルギーを容易に蓄積することができる。
【0009】
また、本発明に係る時計用回転錘は、回転錘体の表面に酸化膜が部分的に形成されていることを特徴とする。また、回転錘体の表面に窒化膜が部分的に形成されていることを特徴とする。また、本発明に係る時計用回転錘は、レーザー照射により酸化が部分的に形成されることを特徴とする。また、レーザー照射により窒化膜が部分的に形成されていることを特徴とする。
かかる構成によれば、上述の効果に加え、部分的に硬度を高めることができ、部品の耐久性を高めることができる。また、酸化膜により干渉色を発色させた場合、装飾性を高めることができ、付加価値の高い部品を得ることができる。窒化膜を形成した場合は黄金色となり装飾性が高まり、更により高い硬度を得ることができる。また、レーザーを照射し、酸化膜や窒化膜による発色を得た場合、微細なパターンを得ることができ、より外観性を高めることができる。また、微細な範囲の強度を部分的に高めることができる。
【0010】
また、本発明に係る時計用回転錘のアーム部は突起を有することを特徴とする。
かかる構成によれば、上述の効果に加え、突起の形成により回転錘体の強度を向上させるとともに、重心位置を変更することができるようになる。従って重心位置を変更することにより慣性モーメントを変更させることができ、回転錘の回転効率及びぜんまいの巻き上げ効率を向上させることができる。
【0011】
また、本発明に係る時計用回転錘に形成される突起は、回転錘体の回転円周に沿う方向に突出することを特徴とする。
かかる構成によれば、上述の効果に加え、突起による空気の切り裂き効果が期待できるようになるので、回転時の空気抵抗をより低減することができ、回転錘の回転効率及びぜんまいの巻き上げ効率を向上させることができる。
【0012】
また、本発明に係る時計用回転錘は、突起が中心部よりも外周部側に偏って形成されていることを特徴とする。
かかる構成によれば、上述の効果に加え、重心位置をより外周位置に変更することができるようになる。従って、慣性モーメントを向上させることができ、回転錘の回転効率及びぜんまいの巻き上げ効率を向上させることができる。
【0013】
また、本発明に係る時計用回転錘は、外周部が突起を有することを特徴とする。
かかる構成によれば、上述の効果に加え、外周部の強度をより向上させることができるので、特に回転重錘を伝わってくる衝撃に対して、回転軸から最も遠い位置で緩和・吸収できるようになり、耐衝撃性が向上し、回転錘の強度が向上する。したがって回転錘の回転効率及びぜんまいの巻き上げ効率を向上させることができる。
【0014】
また、本発明に係る時計用回転錘は、アーム部が円環状に形成されていることを特徴とする。
かかる構成によれば、上述の効果に加え、時計の落下等による衝撃が発生した場合のアーム自体による衝撃吸収性が向上し、回転錘やムーブメントの破損を防止することができる。よって、回転錘の強度を更に確保することができる。したがって回転錘の回転効率及びぜんまいの巻き上げ効率を向上させることができる。
【0015】
また、本発明に係る時計用回転錘は、中心部、アーム部、および外周部は一体に成形されていることを特徴とする。かかる構成によれば、上述の効果に加え、回転錘の強度をより向上させることができる。
また、本発明に係る時計用回転錘の回転錘体をチタン又はチタン合金で形成することを特徴とする。
かかる構成によれば、上述の効果に加え、以下の効果を得ることができる。即ち、チタン材及びチタン合金は軽量且つ強度が高い。軽量という特徴により、回転錘の設計を行う際に回転錘における回転錘体の重量の割合が小さくなるため、重心バランスは回転重錘のみで考えればよく、設計が容易になる。また、チタン材やチタン合金は強度が強く、更に他の金属よりも金属疲労が起こり難く、回転や振動など繰り返し力を受ける回転錘体にとっては回転錘体をチタン材で形成することは有効である。従って、回転錘体の強度が向上し、慣性モーメントが確保でき、巻き上げ効率を向上させた回転錘を提供することができる。また、チタン材やチタン合金は陽極酸化により鮮やかな干渉色を発色させることが可能であり、デザイン性を向上させることができ、美観性に優れた回転錘を提供することが可能である。
【0016】
また、本発明に係る時計用回転錘は、上述の時計用回転錘と、時計用回転錘の回転トルクを伝達する輪列を有する腕時計であることを特徴とする。かかる構成によれば、上述の効果を備える時計用回転錘の動作により生じる回転トルクを輪列を介して巻き上げに利用することができる腕時計を提供することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、回転錘の強度を確保しつつ、回転効率及び巻き上げ効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1実施形態における自動巻機構を取り外した状態でムーブメントを表側からみた平面図である。
図2】本発明の第1実施形態における自動巻機構の概略構成図である。
図3】(a)は、本発明の第1実施形態における回転錘の平面図である。(b)は、本発明の第1実施形態における回転錘の斜視図である。(c)は、本発明の第1実施形態における回転錘の(b)とは別の角度からみた斜視図である。
図4】本発明の第1実施形態における回転錘の断面図である。
図5】本発明の第1実施形態における回転錘の変形例を示す平面図である。
図6】(a)は、本発明の第2実施形態における回転錘の平面図である。(b)は、本発明の第2実施形態における回転錘の断面図である。
図7】本発明の第3実施形態における回転錘の平面図である。
図8】本発明の第4実施形態における回転錘の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
(自動巻腕時計)
本発明の第1実施形態を図1図4に基づいて説明する。本実施形態は、非限定的な例証として各図面において与えられる。図1は、本実施形態の回転錘を搭載した自動巻機構を取り外した状態でムーブメントを表側からみた平面図、図2は、本実施形態の回転錘を搭載した自動巻機構の概略構成図である。
【0020】
図1図2に示すように、本発明に係る部品(例えば、後述の回転錘160)が組み込まれた自動巻腕時計10は、ムーブメント100と、このムーブメント100を収納する不図示のケーシングとにより構成され、ムーブメント100に不図示の文字板が取り付けられている。ムーブメント100は、基板を構成する地板102と、一番受105と、二番受106と、てんぷ受108と、アンクル受109とを備えている。二番受106は、一番受105と地板102との間に配置される。地板102には巻真案内孔103が形成されており、ここに巻真110が回転可能に組み込まれている。ここで、地板102の両側のうち、文字板が配置される側(図1図2における紙面奥側)をムーブメント100の裏側と称し、文字板が配置される側とは反対側(図1図2における紙面手前側)をムーブメント100の表側と称する。ムーブメント100の裏側には、裏輪列と称する輪列や、おしどり140、かんぬき142、およびおしどり押さえ144を含む切換装置が配置されている。この切換装置により、巻真110の軸方向の位置が決定するようになっている。
【0021】
一方、ムーブメント100の表側には、表輪列と称する輪列、表輪列の回転を制御するための脱進・調速装置40、および自動巻機構60等が組み込まれている。
【0022】
表輪列は、香箱車120、二番車124、三番車126、四番車128により構成されている。香箱車120は、一番受105と地板102とにより回転可能に支持されており、不図示のぜんまいを有している。そして、巻真104を回転させると不図示のつづみ車が回転し、さらにきち車、丸穴車(何れも不図示)、および角穴車118を介してぜんまいが巻き上げられる。さらに、角穴車118の歯部には、板状のこはぜ117が噛合されており、これにより、角穴車118の回転が規制されるようになっている。
【0023】
一方、ぜんまいが巻き戻される際の回転力により香箱車120が回転し、さらに二番車124が回転するように構成されている。二番車124は、二番受106と地板102とにより回転可能に支持されている。二番車124が回転すると、三番車126が回転する。
【0024】
三番車126は、一番受105と地板102とにより回転可能に支持されている。三番車126が回転すると、四番車128が回転する。四番車128は、一番受105と二番受106とにより回転可能に支持されている。四番車128が回転することにより脱進・調速装置40が駆動する。
【0025】
(脱進・調速装置)
脱進・調速装置40は、てんぷ136と、がんぎ車134と、アンクル138とを備えている。アンクル138は、アンクル受109と地板102とにより回転可能に支持されている。てんぷ136は、てんぷ受108と地板102とにより回転可能に支持されている。てんぷ136は、てん真136aと、てん輪136bと、ひげぜんまい136cとを有している。
【0026】
このような構成のもと、脱進・調速装置40は、二番車124が1時間に1回転するように制御する。二番車124の回転に基づいて不図示の筒かなが同時に回転するように構成されており、この筒かなに取り付けられた不図示の分針が「分」を表示するようになっている。
【0027】
また、筒かなには、二番車124に対するスリップ機構が設けられている。筒かなの回転に基づいて、日の裏車の回転を介し、筒車(何れも不図示)が12時間に1回転するように構成されている。そして、筒車に取付けられた不図示の時針が「時」を表示するようになっている。
【0028】
さらに、二番車124の回転により、三番車126の回転を介し、四番車128が1分間に1回転するように構成されている。四番車128には、不図示の秒針が取り付けられている。
【0029】
(自動巻機構)
自動巻機構60は、この自動巻機構60を構成する回転錘160をユーザーの腕の動きで動かし、香箱車120の不図示のぜんまいを巻き上げるものである。回転錘160は、
ボールベアリング162と、回転錘体164と、回転重錘166とを有している。ボールベアリング162は、内輪と、外輪と、これら外輪と内輪との間に設けられた複数のボール(何れも不図示)とを有しており、内輪がボールベアリング止めねじ168を介して一番受105に固定されている。
【0030】
(回転錘体、および回転重錘)
次に、回転錘体および回転重錘を有する回転錘について説明する。図3(a)は、本実施形態に係る回転錘の平面図であり、図3(b)は、本実施形態に係る回転錘の表側から見た斜視図、図3(c)は本実施形態に係る回転錘の裏側から見た斜視図、図4は本実施形態に係る回転錘の断面図である。
【0031】
回転錘160は回転中心側に配置された肉薄の回転錘体164とこの回転錘体164の外周側に配置された回転重錘166により構成され、回転錘体164の回転中心には、不図示のボールベアリング162が配置され、ボールベアリング162の外輪と回転錘体164とが固定されている。回転錘体164は0.2mm〜0.5mm程度の薄板例えば真鍮や洋白などの金属板で構成され、回転重錘166はその外周縁部分がムーブメント側に突出して厚肉とされ、回転錘体164の外周縁に回転重錘166がビス61を介して固定されている。この回転重錘166は比較的に大きな比重を有する材料例えば重金属粉末を主成分とするコンパウンド、例えばタングステン(W)やニッケル(Ni)や銅(Cu)を含有させた粉末を成形・焼成することにより形成されたものである。
【0032】
回転重錘166は、回転錘体164の外周縁に対応するように湾曲形成されており、回転錘体164を載置可能な座面63aを有している。座面63aには、ビス61を挿通可能な挿通孔166aが複数(この第1実施形態では3つ)形成されている。一方、回転錘体164の外周部46には、回転重錘166の挿通孔166aに対応する箇所に、ビス61を挿通可能な挿通孔164aが形成されている。なお、回転重錘は回転錘体の外周縁全てに同じ半径の同じ円弧でなくてよい。
【0033】
このような構成のもと、回転重錘166の座面63aに回転錘体164の外周部を載置し、各挿通孔164a,166aにビス61を挿入した後、ビス61の先端を座屈変形させることにより、回転錘体164と回転重錘166とが一体化される。
【0034】
本実施形態では、図3(a)に示すように、回転錘160の回転錘体164は、平面視において環状の外周部164dに、中心部164kから延びる仮想線OAに対して傾斜角θで傾斜する傾斜部170を有するアーム部164cが接続されることで形成される。なお、仮想線OAは、回転錘体164の回転軸中心Oから半径方向に延びる線分である。このように構成することにより、例えば、平面視で略扇型形状であり、全面が金属等で形成される略平板形状で構成されている従来の回転錘と比較して、回転重錘166は回転軸Oの周囲における全周にわたって設けられるアーム部164cにより支持されているので、回転錘の強度を確保しつつ、回転効率を維持することができる。即ち、時計内部の部品というスペースが制限された回転錘160の平面において、アーム部164cの回転錘体164に占める面積を確保することができる。そして、アーム部164cは複数存在し、アーム部164c同士の間に空隙Gが存在するので、アーム部164cにより回転錘体164のバネ性が増すことになる。よって、外部からの衝撃が回転軸に到達する途中で吸収され、回転錘160自身や回転錘160から回転を伝達される輪列等の破損や劣化を防止することができる。したがって、回転錘160の回転トルクの減衰が抑制されるようになり、回転効率が損なわれることが抑制される。つまり、傾斜部170を有するアーム部164cが環状の外周部164dに接続されることにより、回転錘160の強度・耐久性が確保されるとともに、回転効率を損なうことが抑えられ、回転効率が維持されるようになる。
【0035】
なお、アーム部164cは間隙Gにより距離を置いて形成されているので、アーム部164cが外力に対応してそれぞれ撓むことができる。そして、これらアーム部164cが回転軸を中心に全周に亘って形成されている。よって、様々な方向からの衝撃を受けても、対応する位置にあるそれぞれのアーム部164cを主として衝撃を吸収することができる。
【0036】
なお、傾斜部170の傾斜角θの角度を大小設定することにより、回転錘体164におけるアーム部164cの占有面積を調整することができ、回転錘160の耐久性を調節することができる。
【0037】
また、傾斜部170を有するアーム部164cは複数存在し、アーム部164c同士の間には空隙Gが存在するので、アーム部164cの空隙Gから裏側の精巧なムーブメント構造を視認できるとともに、アーム部164cの傾斜部170により回転錘160の耐久性と回転効率を確保することができるようになる。つまり、裏側への視野を確保しつつ、視野窓として形成されたアーム部間の空隙Gによる回転錘体164の強度低下分を、アーム部164cの傾斜部170により強化することで、回転錘160としての耐久性の確保とともに、回転効率の維持確保を達成している。
【0038】
また、隣り合うアーム部164cが外周部164dに接続される箇所同士の円弧に沿った距離t2は、外周部164dに接続される位置のアーム部164cの幅t1より大きく形成されている。つまり、アーム部164cの円周に沿った幅は空隙Gの幅より小さく設定されている。これにより、裏側視野の確保をさらに容易にしている。この場合、傾斜部170の傾斜角度θをさらに大きくすることで回転錘体164の強度と回転効率を確保することができる。また、アーム部164cが外周部164dに接続される角度を接続角度αとすると、本実施例では、θとαとを併せるとほぼ直角になるよう構成されている。つまり、アーム部164cはほぼ直線的に形成されている。
【0039】
更に、回転の中心部164k、アーム部164c、または外周部164dは、回転軸方向の厚みが異なる部位である斜面164eを有している。このような構成とすることで、上述の効果に加え、回転錘160の回転方向の空気の流れに垂直に抵抗を受ける面を小さくすることができ、空気抵抗を低減することが可能となる。従って、回転効率、ひいては、ぜんまいの巻上げ効率を更に向上させることができ、駆動エネルギーを容易に蓄積することができる。また、回転重錘166における回転方向に斜面が設けられていてもよい。
【0040】
図2に戻り、ボールベアリング162の外輪には、回転錘かな178が設けられている。この回転錘かな178は、一番伝え車182の一番伝え歯車182aに噛合わされる。一番伝え歯車182aは、一番受105と地板102とにより回転可能に支持されている。さらに、一番伝え車182と一番受105との間には、つめレバー180が組み込まれている。つめレバー180は、一番伝え車182の軸心から偏心した形で取り付けられたものであって、引きつめ180a、および押しつめ180bを有している。これら引きつめ180a、および押しつめ180bは、二番伝え車184の二番伝え歯車184aに噛合わされる。
【0041】
二番伝え車184は、二番伝え歯車184aの他に二番伝えかな184bを有している。二番伝え歯車184aは、回転錘体164と一番受105との間に位置している。一方、二番伝えかな184bは、角穴車118と噛み合うようになっている。
【0042】
そして、二番伝え歯車184aに噛合うつめレバー180の引きつめ180a、および押しつめ180bは、二番伝え歯車184aの中心に向かって弾性力により付勢されている。
【0043】
このような構成のもと、回転錘160が回転すると、回転錘かな178も同時に回転し、回転錘かな178の回転により、一番伝え車182が回転する。この一番伝え車182の軸心から偏心した形で取り付けられているつめレバー180は、一番伝え車182の回転により往復運動を行う。そして、引きつめ180a、および押しつめ180bにより二番伝え車184を一定の方向に回転させる。すると、二番伝え車184の回転により角穴車118が回転し、香箱車120の不図示のぜんまいを巻き上げる。
【0044】
本実施形態においては機械式時計について説明を行ったが、時計は機械式であるのに限定されず、例えばクオーツ式でもよい。また、回転錘は、互いに構成材料の異なる2つの部材で構成されているのに限定されず、例えばこれらの2つの部材を一体で形成してもよい。また、回転錘体は真鍮や洋白で構成されているとしたが、その他の材料例えばチタン材やチタン合金材等で形成されていてもよい。
【0045】
また、時計の好ましい形態としては腕時計であるのに限定されず、例えば懐中時計であってもよい。また、回転錘としては、時計方向および反時計方向のいずれか一方向にのみ回転可能となったもの、および、時計方向および反時計方向の両方向に回転可能となったもののいずれもが採用できる。
【0046】
従って、本実施形態によれば、回転錘160の回転錘体164は、平面視において環状でアーム部164cを有し、アーム部164cは回転錘160の中心から外周側へ延びる仮想線OAに対し傾斜する傾斜部を有したアーム形状で形成されたものであり、尚且つアーム部164cは回転軸方向の厚みが異なる部位である斜面164eを有している。このように構成することにより、回転錘のバネ性が増し、衝撃を受けた際に回転錘自体の破損や、輪列等の他部品への影響を低減することができることにより部品の強度及び耐久性を高めることができる。更に、回転時における空気抵抗を低減することができることにより、回転錘の回転効率を向上させることができる。また、アーム形状や斜面を有する形状によりデザイン性が向上し、装飾性の高い回転錘付時計を提供することができる。
【0047】
次に、本実施形態の変形例を図5に基づいて説明する。図5は、本実施形態に係る回転錘160の平面図である。図5に示すように、本変形例の相違点は、回転錘体164のアーム部164cが外周部に延びる仮想線に対して湾曲して形成されていることである。従って、このような構成とすることにより、回転時の空気抵抗をより低減することができ、回転錘160の回転効率及びぜんまいの巻き上げ効率を向上させることができる。また、このような形状とすることにより回転錘160のデザイン性を向上させることができ、付加価値の高い時計用回転錘及び回転錘を搭載した時計をユーザーに提供することができる。
【0048】
換言すると、本変形例におけるアーム部164cが外周部164dに接続される接続角度α2が、前述の接続角度αより小さく設定されている。かかる構成により、回転錘160の裏側視野の確保をさらに容易にすることができる。この場合、傾斜部の傾斜角度θ2をさらに大きくすることで回転錘体の164の強度と回転効率を確保することができる。また、傾斜角度θ2を大きくするとともに、接続角度α2を小さくすることで、さらにアーム部464cの回転錘体164における占有面積を確保することができるようになり、前述の視野窓をより確保するとともに、回転錘160の強度や耐久性を維持することができるようになり、外乱となる衝撃により回転効率が低下することが抑制されるようになる。
【0049】
(第2実施形態)
次に、この発明の第2実施形態を図1図2を援用し、図6(a)および(b)に基づいて説明する。図6(a)は、本実施形態に係る回転錘160の平面図である。図6(b)は、本実施形態に係る回転錘160の断面図である。
【0050】
なお、第1実施形態と同一態様には、同一符号を付して説明する。以降の実施形態についても同様である。なお、図1から図5で説明した第1実施形態の構成を図6で説明する本実施形態の構成に組み合わせることができる。説明を簡潔にするという説明の便宜上、以下においては、本実施形態を第1実施形態と別の実施例として説明し、第1実施形態と重複する箇所の説明を省略する。
【0051】
この第2実施形態において、自動巻腕時計10は、ムーブメント100を有し、ムーブメント100の表側に、表輪列と称する輪列、表輪列の回転を制御するための脱進・調速装置40、および自動巻機構60等が組み込まれている点、自動巻機構60の回転錘160は、ボールベアリング162と、回転錘体264と、回転重錘266とを有し、これら回転錘体264、および回転重錘266がビス61を介して固定されている点、回転錘体264が平面視において環状でアーム部264cを有し、アーム部264cは回転錘160の中心から外周側へ延びる仮想線OAに対し傾斜する傾斜部を有した形状で形成されたものであり、尚且つアーム部は回転軸方向の厚みが異なる部位である斜面264eを有している構成であるなどの基本的構成は、前述した第1実施形態と同様である(脱進・調速装置以下の実施形態についても同様)。
【0052】
ここで、図6(a)、図6(b)に示すように、第2実施形態と前述の第1実施形態との相違点は、回転錘体264に酸化膜265が形成されている点である。この酸化膜265は、図6(a)及び図6(b)では中心側に形成されているが、これに限ったことではなく、外周側及びアーム部264cに形成されていてもよい。また、膜の種類は酸化膜だけでなく、窒化膜であってもよい。
【0053】
従って、上述の第2実施形態によれば、前述の第1実施形態と同様の効果に加え、酸化膜265が形成されている場合、回転錘体264を部分的に硬度を高めることができ、部品の耐久性を高めることができる。また、酸化膜265により干渉色を発色させた場合、装飾性を高めることができ、付加価値の高い部品を得ることができる。また、窒化膜を形成した場合は黄金色となり装飾性が高まり、更により高い硬度を得ることができる。また、レーザーを照射し、酸化膜265や窒化膜による発色を得た場合、微細なパターンを得ることができ、より外観性を高めることができ、また、微細な範囲の強度を部分的に高めることができる。
【0054】
酸化膜265は厚みの異なる部位としても利用され、酸化膜265を回転錘160の回転方向の空気の流れを整流させるように形成することで、空気抵抗を低減することが可能となる。従って、回転効率、ひいては、ぜんまいの巻上げ効率を更に向上させることができ、駆動エネルギーを容易に蓄積することができる。
【0055】
なお、酸化膜265の形成位置は、中心部264k、アーム部264c、外周部264dのそれぞれのみに形成してもよく、それらのさらに一部に形成してもよい。
【0056】
(第3実施形態)
次に、この発明の第3実施形態を図7に基づいて説明する。図7は、本実施形態に係る回転錘160の平面図である。なお、図1から図6で説明した第1および第2実施形態の構成を図7で説明する本実施形態の構成に組み合わせることができる。説明を簡潔にするという説明の便宜上、以下においては、本実施形態を第1および第2実施形態と別の実施例として説明し、第1および第2実施形態と重複する箇所の説明を省略する。
【0057】
図7に示すように、第1実施形態と前述の第2実施形態との相違点は、回転錘体364のアーム部364cの突起364f及び外周部364dに突起364gが形成されていることである。
【0058】
従って、このような構成とすることにより、前述の第1実施形態〜第2実施形態と同様の効果に加え、これらの外周部364dの突起364g及びアーム部364cの突起364fが形成されることにより、回転錘体364の強度を確保することができ、また突起364fや、突起364gが中心部164kより外周側に形成されることにより、回転錘160の重心位置を変更することができる。従って、慣性モーメントを変更可能となることから、ぜんまいの巻上げ効率を向上させることができる。また、突起364fや突起364gを形成することにより、空気の切り裂き効果が期待でき、回転時の空気抵抗をより低減することができるため回転錘160の回転効率及びぜんまいの巻き上げ効率向上に寄与することができる。また、外周部の突起364gの形成により、外周部の強度をより向上させることができるので、特に回転重錘366を伝わってくる衝撃に対して、回転軸Oから最も遠い位置で緩和・吸収できるようになり、耐衝撃性が向上し、回転錘160の強度が向上する。また、突起364fや突起364gを形成した構成とすることで、デザイン性を向上させることができ、形状バリエーションが多い回転錘160を提供することができる。従って、より一層ユーザーの要望に応じた商品を提供することが可能になる。なお、図7ではアーム部の突起364fが中心部364kと外周部364dの中央付近に形成されているが、外周側に形成することもできる。その場合、重心位置をより外周位置に変更することができるようになる。従って、慣性モーメントを向上させることができ、ぜんまいの巻き上げ効率を向上させることができる。
【0059】
(第4実施形態)
次に、この発明の第4実施形態を図8に基づいて説明する。図8は、本実施形態に係る回転錘160の平面図である。なお、図1から図7で説明した第1から第3実施形態の構成を図8で説明する本実施形態の構成に組み合わせることができる。説明を簡潔にするという説明の便宜上、以下においては、本実施形態を第1から第4実施形態と別の実施例として説明し、第1から第4実施形態と重複する箇所の説明を省略する。
【0060】
図8に示すように、第1実施形態〜第3実施形態との相違点は、回転錘体564のアーム部564cが環状に湾曲して形成されていることである。つまり、半径となる仮想線OAに対するアーム部564cの傾斜角度が、円周位置によって正と負の両方の値を有するように構成されている。たとえば、図8の傾斜角度θ3と傾斜角度θ4とは逆方向の角度を有している。かかる構成は、前述の実施形態と異なり、傾斜部570の向きが、一方向に揃っている構成ではない。よって、外部からの様々な方向からの衝撃に対して、より柔軟に、耐久性を確保することができるようになる。従って、第1実施形態〜第4実施形態と同様の効果に加え、強度を保ちつつ回転錘にバネ性を与え、落下等の衝撃に対して回転錘体564が振動を吸収し、回転錘564自体の破損や、回転錘160の下側に配置される輪列等への衝撃を和らげ、破損や時計の精度への影響を防止することができる。
【0061】
なお、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述の実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
【0062】
例えば、図1から図6で説明した第1および第2実施形態の構成と図7で説明した第3実施形態の構成とを組み合わせる形態を提供することができる。つまり、傾斜164e、264eが形成されたアーム部に突起364fを形成する、または、傾斜164e、264eが形成された外周部に突起364gを形成することができる。そして、これらアーム部や外周部に、部分的に酸化膜や窒化膜を形成することができる。かかる構成により、上述のような強度確保や回転効率確保を達成することができる。
【0063】
例えば、図1から図7で説明した第1から第3実施形態の構成と図8で説明した第4実施形態の構成とを組み合わせる形態を提供することができる。つまり、傾斜164e、264eが形成されたアーム部を環状に形成することができる。そして、これらアーム部や外周部に、部分的に酸化膜や窒化膜を形成することができる。加えて、環状のアーム部564cに突起364fを形成することができる。外周部564dに突起364gを形成することができる。かかる構成により、上述のような強度確保や回転効率確保を達成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、時計の回転錘および回転錘を備えた時計に関するものである。
【符号の説明】
【0065】
10 自動巻時計(時計)
61 ピン(固定部材)
160 回転錘(部品)
164 回転錘体
164c アーム部
164d 外周部
164k 中心部
170 傾斜部
166 回転重錘
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8