特許第5964097号(P5964097)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5964097
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】電動ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04D 13/12 20060101AFI20160721BHJP
   F04D 29/66 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   F04D13/12 Z
   F04D29/66 A
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-67190(P2012-67190)
(22)【出願日】2012年3月23日
(65)【公開番号】特開2013-199844(P2013-199844A)
(43)【公開日】2013年10月3日
【審査請求日】2014年12月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】392008437
【氏名又は名称】株式会社久保田鉄工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】藤田 直丈
【審査官】 佐藤 秀之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−147127(JP,A)
【文献】 特開2009−097485(JP,A)
【文献】 特開2003−343467(JP,A)
【文献】 米国特許第06220832(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 13/12
F04D 29/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウォーターポンプ室、オイルポンプ室及びモータ室が直列に形成されたハウジングと、
該ハウジング内部に回転自在に支持され、上記ウォーターポンプ室、オイルポンプ室及びモータ室を嵌挿するシャフトと、
上記モータ室に収容され、上記シャフトを回転させるモータと、
上記シャフトに回転一体に固定されて上記ウォーターポンプ室に収容され、且つ、複数の羽根が上記シャフト周りに等間隔に設けられ、回転動作により水の吸引・吐出を周期的に行うインペラと、
上記シャフトに回転一体に固定されて上記オイルポンプ室に収容され、且つ、複数の外歯が外周に形成された平歯車状のインナーロータと、
上記オイルポンプ室に収容され、且つ、上記インナーロータと回転軸心がずれた状態で上記各外歯と噛み合う複数の内歯が内周に形成され、上記インナーロータの回転動作に伴う回転動作により上記インナーロータとの間に形成された圧縮室を介してオイルの吸引・吐出を周期的に行うアウターロータとを備え、
上記各羽根及び上記各外歯は、上記インペラ及びインナーロータの1回転当たりの圧力変動の回数が同じとなるように同数に設定され、各々のシャフト周りの位置は、上記各羽根先端が上記ウォーターポンプ室における水の吐出部分を通過した直後の上記ウォーターポンプ室の圧力変動の最大値となるタイミングと、上記オイルポンプ室におけるオイルの吸入及び吐出部分の開口面積が最小となって上記オイルポンプ室の圧力変動の最大値となるタイミングとが互いにずれるように設定されていることを特徴とする電動ポンプ。
【請求項2】
請求項に記載の電動ポンプにおいて、
上記モータは、複数のコイル及び複数の磁極を有する磁石の一方を回転子として上記シャフト周りに固定するとともに、他方を固定子として上記回転子周りに配置して、当該各コイル及び磁石の磁気作用により上記シャフトを回転させるように構成され、
上記コイルの数と上記磁石の磁極の数との最小公倍数が、上記インペラ及びインナーロータの1回転当たりの圧力変動の回数の整数倍であり、
上記各コイル及び各磁極のシャフト周りの位置は、当該各コイル及び上記磁石の磁気作用により上記最小公倍数分だけ周期的に発生するトルクリプルの最大値となるタイミングが、上記ウォーターポンプ室の圧力変動及び上記オイルポンプ室の圧力変動の合成値において周期的に発生する最大値のタイミングと一致するように設定されていることを特徴とする電動ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を供給するウォーターポンプ及びオイルを供給するオイルポンプの両方の構造を備えた車両用電動ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両には、燃料の節約及び排出ガスの削減を目的として、アイドリング時にエンジンを停止させる、所謂アイドリングストップ機能を有するものが増加しつつある。当該車両において、エンジン及びヒータコアに水を供給するウォーターポンプを、従来の如き車両のように、エンジンの駆動に同期して駆動する構造にすると、アイドリングストップ時にエンジンとともに停止してしまい、ヒータコアに水が供給されなくなって車両内部の暖房機能が作動しなくなってしまうので、エンジンが停止しても常にヒータコアに水が供給されるようにエンジンの駆動に同期しない補助用の電動ウォーターポンプを設ける必要がある。また、オートマティックトランスミッションにオイルを供給するオイルポンプにおいても、従来の如き車両のように、エンジンの駆動に同期して駆動する構造にすると、エンジンとともに停止してしまってトランスミッション内部の油圧を所定の値に維持できず、エンジンの再始動時に瞬間的にトランスミッションの制御ができなくなるので、エンジンが停止しても常にトランスミッション内部の油圧を所定の値に維持するために、エンジンの駆動に同期しない補助用の電動オイルポンプを設ける必要がある。
【0003】
例えば、特許文献1の車両用電動ポンプは、オイルポンプ室、ウォーターポンプ室及びモータ室が直列に形成されたハウジングを備え、該ハウジング内部には、上記オイルポンプ室、ウォーターポンプ室及びモータ室を嵌挿するシャフトが回転自在に支持されている。上記シャフトの一端側には、当該シャフトを回転させるモータが取り付けられて上記モータ室に収容されている。また、上記シャフトの中程及び他端側には、第1及び第2インペラが回転一体に固定され、該第1及び第2インペラは、それぞれ上記ウォーターポンプ室及びオイルポンプ室に収容されている。そして、上記シャフトの回転に同期した上記第1及び第2インペラの回転動作により、上記第1インペラの各羽根で上記ウォーターポンプ室の水の吸引・吐出を周期的に行うとともに、上記第2インペラの各羽根で上記オイルポンプ室のオイルの吸引・吐出を周期的に行うようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−147127号公報(段落0010〜0012欄、図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のように、シャフトの回転動作で回転体を回転させることによりポンプ室の流体の吸引・吐出を行う電動ポンプでは、吸引・吐出を繰り返す際のポンプ室の圧力変動により、上記シャフトに周期的な駆動トルクが発生するので、当該駆動トルクの最大値を基に上記シャフトを回転させるモータの所要トルクを設定する必要がある。
【0006】
しかし、特許文献1の電動ポンプでは、1つのシャフトで2つのインペラを回転させることにより水とオイルとをそれぞれ供給する構造なので、各インペラがそれぞれ上記シャフトに周期的な駆動トルクを発生させる。したがって、各インペラによって発生する駆動トルクの最大値が重なってしまうと、その重なり合った駆動トルクの合成値から上記シャフトを回転させるモータの所要トルクを設定しなければならなくなり、モータが大型化して電動ポンプの重量が増すとともに製造コストが嵩むことになる。
【0007】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、1つのシャフトで2つの回転体を回転させて水とオイルとを供給する電動ポンプを、軽量、且つ、低コストな構造で提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、2つの回転体の回転動作によって発生するウォーターポンプ室及びオイルポンプ室の圧力変動のタイミングがずれるようにしたことを特徴とする。
【0009】
すなわち、第1の発明では、ウォーターポンプ室、オイルポンプ室及びモータ室が直列に形成されたハウジングと、該ハウジング内部に回転自在に支持され、上記ウォーターポンプ室、オイルポンプ室及びモータ室を嵌挿するシャフトと、上記モータ室に収容され、上記シャフトを回転させるモータと、上記シャフトに回転一体に固定されて上記ウォーターポンプ室に収容され、且つ、複数の羽根が上記シャフト周りに等間隔に設けられ、回転動作により水の吸引・吐出を周期的に行うインペラと、上記シャフトに回転一体に固定されて上記オイルポンプ室に収容され、且つ、複数の外歯が外周に形成された平歯車状のインナーロータと、上記オイルポンプ室に収容され、且つ、上記インナーロータと回転軸心がずれた状態で上記各外歯と噛み合う複数の内歯が内周に形成され、上記インナーロータの回転動作に伴う回転動作により上記インナーロータとの間に形成された圧縮室を介してオイルの吸引・吐出を周期的に行うアウターロータとを備え、上記各羽根及び上記各外歯は、上記インペラ及びインナーロータの1回転当たりの圧力変動の回数が同じとなるように同数に設定され、各々のシャフト周りの位置は、上記各羽根先端が上記ウォーターポンプ室における水の吐出部分を通過した直後の上記ウォーターポンプ室の圧力変動の最大値となるタイミングと、上記オイルポンプ室におけるオイルの吸入及び吐出部分の開口面積が最小となって上記オイルポンプ室の圧力変動の最大値となるタイミングとが互いにずれるように設定されていることを特徴とする。
【0010】
第2の発明では、第1の発明において、上記モータは、複数のコイル及び複数の磁極を有する磁石の一方を回転子として上記シャフト周りに固定するとともに、他方を固定子として上記回転子周りに配置して、当該各コイル及び磁石の磁気作用により上記シャフトを回転させるように構成され、上記コイルの数と上記磁石の磁極の数との最小公倍数が、上記インペラ及びインナーロータの1回転当たりの圧力変動の回数の整数倍であり、上記各コイル及び各磁極のシャフト周りの位置は、当該各コイル及び上記磁石の磁気作用により上記最小公倍数分だけ周期的に発生するトルクリプルの最大値となるタイミングが、上記ウォーターポンプ室の圧力変動及び上記オイルポンプ室の圧力変動の合成値において周期的に発生する最大値のタイミングと一致するように設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明では、電動ポンプの作動時において、ウォーターポンプ室の圧力が最大となる時に、オイルポンプ室の圧力が最大とならず、インペラの回転によってシャフトに発生する駆動トルクの最大となるタイミングと、インナーロータの回転によってシャフトに発生する駆動トルクの最大となるタイミングとがずれる。したがって、上記シャフトを回転させるモータの所要トルクをインペラ及びインナーロータによってシャフトに発生する各駆動トルクが共に最大値で重なった場合に比べて小さくでき、モータを小型化して電動ポンプの軽量化及び低コスト化を実現できる。
【0012】
また、水の吸入・吐出を行う部分が、インペラからなるウォーターポンプで構成されるとともに、オイルの吸入・吐出を行う部分が、インナーロータ及びアウターロータからなる内接式歯車ポンプで構成されるので、構造が比較的簡単で故障し難く、保守が容易な電動ポンプを提供できる。
【0013】
の発明では、電動ポンプの作動時において、磁石及び各コイルの磁気作用により周期的に発生するトルクリプルの最大となるタイミングが、上記インペラ及びインナーロータの回転動作によってシャフトに周期的に発生する各駆動トルクの合成トルクの最大となるタイミングと一致する。したがって、必要最小限の所要トルクで上記シャフトを回転させることができ、モータを小型化して電動ポンプの軽量化及び低コスト化を確実に達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る電動ポンプの断面図である。
図2】(a)は、図1のA−A線における断面図、(b)は、図1のB−B線における断面図、(c)は、図1のC−C線における断面図である。
図3図2の状態から電動ポンプのシャフトが15度回転した断面図であり、ウォーターポンプ室の圧力が最大で、且つ、モータのトルクリプルが最小となった状態を示す。
図4図3の状態から電動ポンプのシャフトが15度回転した断面図である。
図5図4の状態から電動ポンプのシャフトが15度回転した断面図であり、オイルポンプ室の圧力が最大で、且つ、モータのトルクリプルが最大となった状態を示す。
図6】電動ポンプのウォータポンプ部分及びオイルポンプ部分の各々によってシャフトに発生する各駆動トルク、各駆動トルクの合成値及びモータの回転によって発生するトルクリプルの関係を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係る電動ポンプ1を示す。該電動ポンプ1は、車両のヒータコアに水を補助的に供給すると同時にオートマティックトランスミッションにオイルを補助的に供給するものであり、図示しない車両の固定側に取り付けられている。
【0017】
上記電動ポンプ1は、略円筒形状の鉄製ハウジング2と、該ハウジング2内部に回転自在に支持されたシャフト3とを備え、該シャフト3は、上記ハウジング2の中心軸方向に延びている。
【0018】
上記ハウジング2内部には、ウォーターポンプ室2a、モータ室2b及びオイルポンプ室2cが上記ハウジング2の中心軸方向一端側(図1左端側)から他端側(図1右端側)に直列に並んで形成され、上記シャフト3は、上記ウォーターポンプ室2a、モータ室2b及びオイルポンプ室2cを嵌挿している。
【0019】
上記モータ室2bは、上記ウォーターポンプ室2a側に開放する凹状の第1空間20aと、該第1空間20a周りに形成された環状の第2空間20bとで構成されている。
【0020】
上記シャフト3の長手方向中程には、当該シャフト3を挟んで一対の磁極51a、51bを有する略円筒状の磁石(回転子)51が回転一体に固定され、該磁石51は、上記第1空間20aに収容されている。
【0021】
該第1空間20aの内周壁と上記磁石51との間に形成される隙間Sには、上記ウォーターポンプ室2aの水が満たされるようになっていて、上記磁石51は、上記隙間Sの水によって冷却されるようになっている。
【0022】
上記第2空間20bには、図2乃至図5に示すように、固定子50としての3つのコイル52が上記シャフト3周りに等間隔となるように配置されている。
【0023】
そして、上記磁石51と3つのコイル52とでモータ5が構成され、上記磁石51及び各コイル52の磁気作用により上記シャフト3を回転させるようになっている。
【0024】
上記ハウジング2のウォーターポンプ室2aに対応する部分には、径方向外側に膨出する環状膨出部22が形成されている。
【0025】
また、上記ハウジング2の中心軸方向一端中央には、上記ウォーターポンプ室2aに連通する連通孔21aを内部に有する小径の筒状部21が一体に突設され、該筒状部21の先端は開口して図示しない水供給タンクに接続されている。
【0026】
上記環状膨出部22の周壁は、図2乃至図5に示すように、上記シャフト3の中心軸周りの一方側に進むにつれて当該シャフト3の中心軸から次第に離間する形状をなし、その上端部分には、上記シャフト3の中心軸周りの一方側に開口する水吐出口22aが形成されている。
【0027】
上記シャフト3の長手方向一端側(図1左端側)には、ウォーターポンプとして機能するインペラ4が回転一体に固定されて上記ウォーターポンプ室2aに収容され、上記インペラ4には、6数の羽根4aが上記シャフト3周りに等間隔に設けられている。
【0028】
そして、上記シャフト3の回転に伴う上記インペラ4の回転動作により、水が上記筒状部21の開口から上記連通孔21aを通ってウォーターポンプ室2aに吸引されるとともに、図3(a)の矢印X1のように回転移動しながら当該ウォーターポンプ室2aで加圧されて水吐出口22aから吐出されるようになっている。
【0029】
すなわち、上記インペラ4は、回転動作により上記ウォーターポンプ室2aの水の吸引・吐出を周期的に行うようになっていて、上記羽根4aの数だけ上記インペラ4の1回転当たりに上記ウォーターポンプ室2aに圧力変動が生じている。
【0030】
上記オイルポンプ室2cには、オイルポンプとして機能するインナーロータ6及びアウターロータ7が収容されている。
【0031】
上記インナーロータ6は、図2乃至図5に示すように、上記シャフト3の長手方向他端寄り(図1右端寄り)に回転一体に固定された平歯車状をなし、その外周には、上記インペラ4の羽根4aの数と同数である6つの外歯6aが等間隔に形成されている。
【0032】
上記アウターロータ7は、内歯7aが内周面に7つ形成された環状をなし、該各内歯7aと上記インナーロータ6の各外歯6aとの間にオイルの圧縮室Prが形成されるように、上記インナーロータ6と回転軸心がずれた状態で噛み合っている。
【0033】
また、上記ハウジング2の中心軸方向他端側(図1右端側)には、上記オイルポンプ室2cに上記シャフト3の中心軸方向から見て略半円状に開口するオイル吐出部8a及びオイル吸入部8bが上下に対称に形成されている。
【0034】
そして、上記シャフト3の回転に伴う上記インナーロータ6の回転動作により、オイルが上記オイル吸入部8bから上記圧縮室Prに吸引されるとともに、図3(c)の矢印X2のように移動しながら当該圧縮室Prで加圧されて上記オイル吐出部8aから吐出されるようになっている。
【0035】
すなわち、上記インナーロータ6及びアウターロータ7は、回転動作により上記圧縮室Prのオイルの吸引・吐出を周期的に行うようになっていて、上記インナーロータ6の外歯6aの数だけ上記インナーロータ6の1回転当たりに上記オイルポンプ室2cに圧力変動が生じている。
【0036】
そして、上記インペラ4の各羽根4a及び上記インナーロータ6の各外歯6aのシャフト3周りの位置は、上記各羽根4a先端が上記ウォーターポンプ室2aにおける水吐出口22aを通過した直後(図3(a)参照)の上記ウォーターポンプ室2aの圧力変動の最大値となるタイミングと、上記オイルポンプ室2cにおけるオイル吐出部8a及びオイル吸入部8bの開口面積が最小となって(図6(c)参照)上記オイルポンプ室2cの圧力変動の最大値となるタイミングとが互いに半周期分ずれるように設定されている。
【0037】
すなわち、上記ウォーターポンプ室2a及びオイルポンプ室2cでは、上記インペラ4及びインナーロータ6の回転動作による水及びオイルの吸引・吐出でそれぞれ発生する周期的な圧力変動の最大値が互いにずれるように設定されている。
【0038】
また、上記モータ5のトルクリプルは、上記磁石51及び各コイル52の磁気作用により、上記シャフト3の1回転当たりに上記磁石51の磁極の数と上記コイル52の数との最小公倍数である6回発生し、上記磁石51及び各コイル52のシャフト3周りの位置は、上記トルクリプルの最大値となるタイミングが、上記ウォーターポンプ室2aの圧力変動及び上記オイルポンプ室2cの圧力変動の合成値において周期的に発生する最大値のタイミングと一致するように設定されている。
【0039】
次に、上記モータ5の1回転当たりにシャフト3に加わる各トルクと上記モータ5の所要トルクとの関係について説明する。
【0040】
図6は、横軸をモータ5の回転角度、縦軸をトルク値としたグラフであり、D1は、ウォーターポンプ室2aの圧力変動によりシャフト3に加わる駆動トルクのデータを示し、D2は、オイルポンプ室2cの圧力変動によりシャフト3に加わる駆動トルクのデータを示し、D3は、上記2つの駆動トルクを合成した合成トルクのデータを示し、D4は、モータ5の回転により発生するトルクリプルのデータを示す。
【0041】
図6に示すように、周期的に発生する各駆動トルクの合成トルクの最大となるタイミングと、トルクリプルの最大値となるタイミングとが一致しているので、必要最小限の所要トルクで上記シャフト3を回転させることができる。
【0042】
次に、上記電動ポンプ1の作動状態を時系列に説明する。
【0043】
図2は、上記電動ポンプ1の作動時において上記ウォーターポンプ室2aの圧力が増加するとともに、上記オイルポンプ室2cの圧力とトルクリプルが減少している状態を示す(図6の矢印Dの位置参照)。
【0044】
この図2に示す状態から、上記シャフト3の回転に同期して上記インペラ4、磁石51及びインナーロータ6が15度回転すると、図3(a)に示すように、上記羽根4aの1つの先端が上記ウォーターポンプ室2aにおける水吐出口22aを通過した直後となって上記ウォーターポンプ室2aの圧力変動が最大値となるとともに、図3(c)に示すように、上記オイルポンプ室2cにおけるオイル吐出部8a及びオイル吸入部8bの開口面積が最大となって上記オイルポンプ室2cの圧力変動が最小値になり、さらに、トルクリプルの値が最小となる(図6の矢印Eの位置参照)。
【0045】
次に、この図3に示す状態から、上記インペラ4、磁石51及びインナーロータ6がさらに15度回転すると、図4(b)に示すように、上記ウォーターポンプ室2aの圧力が減少するとともに、上記オイルポンプ室2cの圧力とトルクリプルが増加する(図6の矢印Fの位置参照)。
【0046】
そして、図4に示す状態から、上記インペラ4、磁石51及びインナーロータ6がさらに15度回転すると、図5(a)に示すように、2つの羽根4aの先端の間に水吐出口22aが位置して上記ウォーターポンプ室2aの圧力変動が最小値となるとともに、図5(c)に示すように、上記オイルポンプ室2cにおけるオイル吐出部8a及びオイル吸入部8bの開口面積が最小となって上記オイルポンプ室2cの圧力変動が最大値になり、さらに、トルクリプルの値が最大となる(図6の矢印Gの位置参照)。
【0047】
このように、上記シャフト3の回転に同期して上記インペラ4、磁石51及びインナーロータ6が回転することにより、ウォーターポンプ室2a及びオイルポンプ室2cの圧力変動と上記モータ5のトルクリプルの変動とが周期的に発生する。
【0048】
以上より、本発明の実施形態によると、電動ポンプ1の作動時において、ウォーターポンプ室2aの圧力が最大となる時に、オイルポンプ室2cの圧力が最大とならず、インペラ4の回転によってシャフト3に発生する駆動トルクの最大となるタイミングと、インナーロータ6の回転によってシャフト3に発生する駆動トルクの最大となるタイミングとがずれる。したがって、上記シャフト3を回転させるモータ5の所要トルクをインペラ4及びインナーロータ6によってシャフト3に発生する各駆動トルクが共に最大値で重なった場合に比べて小さくでき、モータ5を小型化して電動ポンプ1の軽量化及び低コスト化を実現できる。
【0049】
また、水の吸入・吐出を行う部分が、インペラ4からなるウォーターポンプで構成されるとともに、オイルの吸入・吐出を行う部分が、インナーロータ6及びアウターロータ7からなる内接式歯車ポンプで構成されるので、構造が比較的簡単で故障し難く、保守が容易な電動ポンプ1を提供できる。
【0050】
さらに、電動ポンプ1の作動時において、磁石51及び各コイル52の磁気作用により周期的に発生するトルクリプルの最大となるタイミングが、上記インペラ4及びインナーロータ6の回転動作によってシャフト3に周期的に発生する各駆動トルクの合成トルクの最大となるタイミングと一致する。したがって、必要最小限の所要トルクで上記シャフト3を回転させることができ、モータ5を小型化して電動ポンプ1の軽量化及び低コスト化を確実に達成できる。
【0051】
尚、本発明の実施形態では、インペラ4の羽根4aの数を6つとし、インナーロータ6の外歯6aの数を6つとしているが、羽根4a及び外歯6aの数が同数であるならば、他の数であってもよい。
【0052】
また、本発明の実施形態では、モータ5のコイル52の数を3つとし、磁石51の磁極の数を2つとしているが、これに限らず、磁石51の磁極の数とコイル52の数との最小公倍数、すなわち、モータ5の1回転当たりのトルクリプル発生回数が、上記インペラ4及びインナーロータ6の1回転当たりのウォーターポンプ室2a及びオイルポンプ室2cの圧力変動の回数の整数倍であればよい。
【0053】
また、本発明の実施形態では、上記ウォーターポンプ室2aの圧力変動の最大値となるタイミングと上記オイルポンプ室2cの圧力変動の最大値となるタイミングとが互いに半周期分ずれるように設定されているが、これに限らず、上記ウォーターポンプ室2a及びオイルポンプ室2cでそれぞれ発生する周期的な圧力変動の最大値が互いにずれるように設定されていればよい。
【0054】
また、本発明の実施形態では、磁石51を回転子とし、3つのコイル52を固定子としているが、3つのコイル52をシャフト3周りに固定して回転子とし、磁石51を3つのコイル52周りに固定して固定子としてもよい
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、水を供給するウォーターポンプ及びオイルを供給するオイルポンプの両方の構造を備えた車両用電動ポンプに適している。
【符号の説明】
【0056】
1 電動ポンプ
2 ハウジング
2a ウォーターポンプ室
2b モータ室
2c オイルポンプ室
3 シャフト
4 インペ
4a 羽根
5 モータ
6 インナーロー
6a 外歯
7 アウターロータ
50 固定子
51 磁石(回転子)
52 コイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6