特許第5964112号(P5964112)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5964112
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】防虫合板の保管方法
(51)【国際特許分類】
   B27K 5/00 20060101AFI20160721BHJP
   B27D 1/04 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   B27K5/00 F
   B27D1/04 Z
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-81670(P2012-81670)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-208852(P2013-208852A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000561
【氏名又は名称】株式会社岡村製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100116757
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 英雄
(74)【代理人】
【識別番号】100123216
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 祐一
(74)【代理人】
【識別番号】100163212
【弁理士】
【氏名又は名称】溝渕 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100156535
【弁理士】
【氏名又は名称】堅田 多恵子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 道也
(72)【発明者】
【氏名】林 良典
【審査官】 本村 眞也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−199603(JP,A)
【文献】 特開2002−225003(JP,A)
【文献】 実開昭61−206410(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27K 1/00−9/00
B27D 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも原木加工工程と、接着工程と、保管工程とにより製造される合板の保管方法であって、
前記保管工程において、前記合板の含水率が7%未満の状態となるように少なくとも2週間保管することを特徴とする合板の保管方法。
【請求項2】
前記接着工程と、保管工程との間に、熱圧処理による害虫死滅処理工程を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の合板の保管方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防虫薬剤を極力使わずに虫害を受けない防虫合板及びその保管方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の合板や単板積層材の蟻などによる害虫対策に対し、様々な防虫処理が試みられており、接着剤にはホルムアルデヒドが含まれており、一定の防虫効果を持っていたが、近年シックハウスや揮発性有機化合物の問題から低ホルムアルデヒドの接着剤が用いられるようになったため、積層する単板同士を接着する接着剤層に防虫薬剤を混入する方法が採られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−64287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献1に示されている低ホルムアルデヒドの接着剤を使用する方式にあっては、防虫薬剤を接着剤中に混入して用いるため、単板の中心部まで薬剤が達しにくく、確実な防虫効果が得られ無い問題があるばかりか、合板の成形後において露出した切断面からの害虫の侵入を防ぐことはできず、また低ホルムアルデヒドではあるが、防虫薬剤を使用していることには変わらず、人体への健康被害の低減が達成されたとは言い難いという問題がある。
【0005】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、防虫薬剤を極力使用せずに、充分な防虫処理状態が達成される防虫合板及びその保管方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明の合板の保管方法は、
少なくとも原木加工工程と、接着工程と、保管工程とにより製造される合板の保管方法であって、
前記保管工程において、前記合板の含水率が7 % 未満の状態となるように少なくとも2週間保管することを特徴としている。
この特徴によれば、害虫(特にヒラタキクイムシ)は、約30%から7%までの含水率において生育可能であるため、出荷前の合板を7%未満の含水率の状態に少なくとも2週間維持することにより、その間の害虫の産卵及び発育ならびに生育を防ぐことができる。そのため保管時において防虫薬剤を極力使用しない充分な防虫処理状態が達成され、出荷時において内部にほぼ害虫の存在しない防虫合板を出荷できることになる。
【0007】
本発明の合板の保管方法は、
前記接着工程と、保管工程との間に、熱圧処理による害虫死滅処理工程を含んでいることを特徴としている。
この特徴によれば、害虫が接着工程後にほぼ死滅してしまうため、出荷前の合板を7%未満の含水率の状態に維持する期間を最小限の時間にできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例における防虫合板の製造工程における接着剤塗布に移る前までを示す概念図である。
図2】防虫合板の製造工程における接着剤塗布から製品仕上げまでを示す概念図である。
図3】防虫合板の製造工程における保管工程及び出荷を示す概念図である。
図4】木材における含水率を示す図である。
図5】100ミリ×100ミリの合板試料を各含水率で約2週間維持した場合の害虫生存数を示す表である。
図6】合板内の含水率を計測する状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る防虫合板及びその保管方法を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例】
【0014】
本発明における防虫合板は、害虫の中でも主にヒラタキクイムシに対する防虫処理を想定しており、ヒラタキクイムシは生育最適気温が26℃、かつ合板の含水率が約30%から7%までの間の環境において、産卵及び発育ならびに生育が可能であり、16%前後が最適とされている。
【0015】
このヒラタキクイムシより虫害を受けない合板の保管方法及び防虫合板について以下に説明する。防虫処理に本発明における防虫合板は、図1から図3に示すように、原木Aの調達(a)ならびに貯木(b)の後、剥皮・玉切(c)、切削・分類(d)、乾燥処理(e)、調板(f)からなる原木加工工程と、接着剤塗布(g)、仮圧着(h)、熱圧着(i)からなる接着工程と、養生・寸法裁断(j)、研磨仕上げ(k)からなる製品仕上げ工程と、保管工程(l)とを経て製造される。
【0016】
はじめに、防虫合板の製造工程を図1から図3を用いて詳しく説明する。まず合板の材料であるヒバ材、スギ材、ヒノキ材、カラマツ材、アカマツ材などの原木Aは間伐もしくは輸入などにより調達(a)され、所定の保管場所にて2〜3ヶ月程度貯木(b)された後に製造工程に移るようになっている。このときの木材の含水率を、杉を例にとり説明すると、伐採直後の木材における辺材が148〜159%、心材で55〜113%程度であるが、原木の運搬中及び前述の貯木工程の際に原木Aが乾燥することにより、原木A中に害虫の生育に適した環境が生じ、ヒラタキクイムシの卵及び幼虫ならびに成虫が寄生するおそれがある。
【0017】
続いて、原木加工工程では、貯木(b)されていた原木Aが皮を剥かれた後に所定の長さにチェーンソー1により玉切り(c)され、さらにロータリーレース2によりかつらむきされて薄い単板状となり、さらにこうして作られた単板は裁断され、表板、中板及び裏板に分類される(d)。なお、この剥皮・玉切(c)、切削・分類(d)の時点ではヒラタキクイムシの駆除はなされていない。
【0018】
続いて、単板は約190℃のドライヤー3により乾燥処理(e)される。なお、ヒラタキクイムシは50〜60℃で卵、幼虫及び成虫が死滅するため、この乾燥処理(e)の段階において、原木Aに寄生していた害虫を死滅させることができるとともに、乾燥処理(e)によって単板の含水率が7%未満まで下げられるため、単板中はヒラタキクイムシの生育に適さない環境にすることができる。そのため、仮に乾燥処理(e)中にヒラタキクイムシが飛来してきたとしても、産卵ならびに生育がなされることがない。
【0019】
さらに、乾燥処理(e)を終えた単板は、コアビルダー4により選別や補修及び接ぎ合わせを経て、再度表板B1、中板B2及び裏板B3に分類され(f)、接着工程に移る。
【0020】
接着工程では、まずグルーミキサー5で接着剤を調合・攪拌された接着剤が、偶数層に積載される中板B2の表裏両面にスプレッダー6により塗布されて積載されていく(g)。このとき塗布される接着剤には、たとえばシフェノトリンなどの防虫薬剤を混入するようにしてもよい。
【0021】
接着剤が塗布された合板Cはコールドプレス7により常温で仮圧着(h)された後、熱圧着(i)に移る。熱圧着(i)においては、ホットプレス8により合板Cは約110〜135℃の温度をかけて8〜12kgf/cm2の圧力で圧締されることで接着剤が熱硬化し、合板が成形される。特に、この熱圧着(i)において合板Cが高温となるためにヒラタキクイムシをほぼ全て死滅させることが可能となる。
【0022】
成形された合板Cは3〜7日間程度の養生を経てダブルソー9により所定の寸法に裁断・加工され(j)、サンダー10の研磨仕上げ(k)で表面を平滑に研磨された後、保管工程(l)に移る。
【0023】
保管工程(l)において合板Cは、外気と遮断された乾燥室11にて保管されるようになっている。乾燥室10では、ここでは図示しない計測器により合板Cの含水率が計測され、合板Cの含水率が7%未満の状態となるように管理・保管されており、この保管工程(l)は少なくとも2週間程度が望ましく、その後に適宜出荷(m)されるようになっている。
【0024】
次に、前述した含水率7%以下という状態を図4を用いて説明する。含水率とは木材中の細胞レベルの水分状態を示しており、木材中の水分は(a)に示すように、細胞壁20内にある結合水と、細胞内腔21の中にある自由水とに分かれている。
【0025】
(a)は、伐採直後の木材であり、結合水が飽和状態であるとともに、自由水もある程度存在する状態を示しており、含水率は約50%以上である。なお、原木の種類や環境により含水率が大きく異なるため約50%とは限らない。また、この含水率が約50%以上ある環境は、ヒラタキクイムシの生育に適さないため、虫害は起こりづらい。
【0026】
(b)は、乾燥処理(図1(e)参照)前の木材であり、伐採後の乾燥が進んだ状態を表している。木材は自由水から蒸発を始めるため、結合水が飽和状態でありながら自由水が完全に消失した状態となっている。これを繊維飽和点と呼び、含水率が約30%でヒラタキクイムシの生育可能な環境である。
【0027】
(c)は、乾燥処理を行った後の木材であり、乾燥処理では繊維飽和点よりさらに乾燥を進ませるため、含水率を7%未満まで減らした状態となっている。そして前述した保管工程(図3(l)参照)は、この含水率を7%未満まで減らした状態を維持するようになっている。
【0028】
また、含水率の異なる合板をそれぞれ用意して、ヒラタキクイムシの産卵時期である5月下旬から約3ヶ月間にわたり一定期間内の害虫生存数を計測する試験を行った結果、図5に示すように、含水率7%未満の合板において、ヒラタキクイムシの生存率が極めて低いことが確認できた。この試験では、各種含有率を有する略10mm×10mmの試料である合板を用いて、2週間後のヒラタキクイムシの生存率を表した。図5のグラフで明らかなように、16%前後において生存率がピークとなり、含水率7%未満の合板においてはヒラタキクイムシの生存率はほとんど確かめられなかった。
【0029】
このように本発明の合板Cの保管方法は、原木加工工程と、接着工程と、保管工程により製造される防虫合板において、保管工程(図3(l)参照)において、合板Cの含水率が7%未満の状態となるように保管するため、害虫(特にヒラタキクイムシ)は、約30%から7%までの含水率において生育可能であり、合板を7%未満の含水率の状態とすることにより、害虫の産卵及び発育ならびに生育を防ぎ、合板の保管工程における虫害を効果的に防止することができるのである。特に、害虫の卵期は10日から14日であり、その後幼虫は導管の中を食い進み食害するため、合板を7%未満の含水率の状態で少なくとも2週間継続することにより、保管時において防虫処理状態が達成され、出荷時において内部にほぼ害虫の存在しない防虫合板を出荷できることになる。
【0030】
一般に、合板の購入者が合板を使用した造作作業を行う際、害虫(特にヒラタキクイムシ)の確認を行うため、通常2週間以上前に購入した合板を使用することが通例であるが、合板内部の平均含水率が7%未満の状態で出荷されるため、購入から使用までの期間中における虫害を無くすことができる。
【0031】
また、本実施例によれば、出荷時において、前記合板における中心深部の含水率が7%未満の状態に保たれていることを保証して利用者に出荷するようになっている。合板における中心深部の含水率が7%未満の状態とは、合板が長期間含水率7%未満の乾燥状態にあったことの証拠であり、このため、利用者は図6に示すように、合板Cに含水率計測器22の含水率計測用の針23を挿入し、合板における中心深部の平均含水率を計測するのみで安心して合板を使用できることになる。
【符号の説明】
【0032】
1 チェーンソー
2 ロータリーレース
3 ドライヤー
4 コアビルダー
5 グルーミキサー
6 スプレッダー
7 コールドプレス
8 ホットプレス
9 ダブルソー
10 サンダー
11 乾燥室
20 細胞壁
21 細胞内腔
22 含水率計測器
23 含水率計測用の針
A 原木
B1 表板
B2 中板
B3 裏板
C 合板
図1
図2
図3
図4
図5
図6