特許第5964120号(P5964120)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5964120
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】車輪用軸受の密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20160721BHJP
   F16C 19/38 20060101ALI20160721BHJP
   F16C 41/00 20060101ALI20160721BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20160721BHJP
   B60B 35/18 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   F16C33/78 D
   F16C19/38
   F16C41/00
   F16J15/3232 201
   B60B35/18 B
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-91875(P2012-91875)
(22)【出願日】2012年4月13日
(65)【公開番号】特開2013-221538(P2013-221538A)
(43)【公開日】2013年10月28日
【審査請求日】2015年3月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【弁理士】
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】関 誠
(72)【発明者】
【氏名】馬場 智子
【審査官】 高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−115273(JP,A)
【文献】 実開昭56−119059(JP,U)
【文献】 特開2012−017019(JP,A)
【文献】 特開2006−200616(JP,A)
【文献】 特開2012−047243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 35/18
F16C 19/38
F16C 33/78
F16C 41/00
F16J 15/3232
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、
一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に嵌合された少なくとも一つの内輪または等速自在継手の外側継手部材からなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、
この内方部材と前記外方部材のそれぞれの転走面間に転動自在に収容された複列の転動体とを備えた車輪用軸受に装着され、前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の開口部を密封する車輪用軸受の密封装置であって、
断面が略L字状に形成されて互いに対向配置された環状のシール板とスリンガとからなるパックシールで構成され、前記シール板が、前記外方部材の端部内周に所定のシメシロを介して圧入される円筒状の嵌合部と、この嵌合部の端部から径方向内方に延びる内径部からなり、鋼板から形成された芯金と、この芯金に一体に接合されたシール部材とを備え、前記スリンガが、前記内方部材の外径に圧入される円筒部と、この円筒部から径方向外方に延びる立板部とからなり、前記シール部材が、前記芯金の内周面を覆う基部と、この基部から径方向外方に傾斜して形成され、前記スリンガの立板部に所定の軸方向シメシロを介して摺接するサイドリップと、このサイドリップの内径側に径方向内方に傾斜して形成され、前記スリンガの円筒部に所定の径方向シメシロを介して摺接するラジアルリップを備えた車輪用軸受の密封装置において、
このラジアルリップにガータースプリングが装着されると共に、このガータースプリングの緊迫力が、前記ラジアルリップの全緊迫力の50%以上に設定され、前記ラジアルリップのガータースプリングがない状態での緊迫力が3N以上に設定されていると共に、当該ラジアルリップの常温20℃での緊迫力が12N以上に、かつ、低温−20℃での緊迫力が10N以上に設定されていることを特徴とする車輪用軸受の密封装置。
【請求項2】
前記シール部材のTR10が−35℃以下に設定されている請求項1に記載の車輪用軸受の密封装置。
【請求項3】
前記ガータースプリングがステンレス材から形成されている請求項1に記載の車輪用軸受の密封装置。
【請求項4】
前記芯金の嵌合部の先端部が薄肉に形成され、この先端部を覆うように前記シール部材が回り込んで接合されてハーフメタル構造をなしている請求項1に記載の車輪用軸受の密封装置。
【請求項5】
前記シール部材の基部が前記芯金の嵌合部の先端部に向かって傾斜して形成され、この端部に前記スリンガの立板部の外縁が僅かな径方向すきまを介して対峙してラビリンスシールを構成すると共に、このラビリンスシールの径方向すきまが0.75mm以下に設定されている請求項1に記載の車輪用軸受の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車輪を懸架装置に対して回転自在に支承する車輪用軸受における密封装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から自動車等の車輪を支持する車輪用軸受装置は、車輪を取り付けるためのハブ輪を複列の転がり軸受を介して回転自在に支承するもので、駆動輪用と従動輪用とがある。構造上の理由から、駆動輪用では内輪回転方式が、従動輪用では内輪回転と外輪回転の両方式が一般的に採用されている。また、車輪用軸受装置には、懸架装置を構成するナックルとハブ輪との間に複列アンギュラ玉軸受等からなる車輪用軸受を嵌合させた第1世代と称される構造から、外方部材の外周に直接車体取付フランジまたは車輪取付フランジが形成された第2世代構造、また、ハブ輪の外周に一方の内側転走面が直接形成された第3世代構造、あるいは、ハブ輪と等速自在継手の外側継手部材の外周にそれぞれ内側転走面が直接形成された第4世代構造とに大別されている。
【0003】
こうした車輪用軸受では、軸受内部に封入されたグリースの漏れを防止すると共に、外部から雨水やダスト等の侵入を防止するために密封装置が装着されている。この密封装置の早期破損原因の一つとして、低温環境下で、かつ泥水環境が厳しいことが挙げられる。シール部材は低温特性を改良した材質であったとしても、低温下で弾性が低下することで、緊迫力低下、追従性低下が生じ、早期に軸受内に泥水が浸入する恐れがある。そのため、低温下であっても緊迫力を保持でき、また、追従性が悪化することのないガータースプリングを設けることで、低温環境下での密封性を向上させることができる。
【0004】
このようなガータースプリングを備えた従来の密封装置を図7に示す。この密封装置50は、互いに相対回転し、かつ同心状に配置された内側部材51と外側部材52との間に配設され、内側部材51に固定されるスリンガ53と、外側部材52に固定されると共に、スリンガ53に摺接するシール板54とを備えている。
【0005】
スリンガ53は、内側部材51に圧入される円筒部53aと、この円筒部53aから径方向外方に突出する円環部53bを有している。一方、シール板54は、外側部材52の内周面に嵌合される円筒部55aと、この円筒部55aから径方向内方に延びる円環部55bを有する芯金55と、この芯金55に加硫接着により一体に接合されたシール部材56を備えている。
【0006】
このシール部材56はゴム材からなり、スリンガ53の円筒部53aに摺接するグリースリップ56aとダストリップ56bと、円環部53bに摺接するアキシアルリップ56cとを有している。
【0007】
スリンガ53の円筒部53aと芯金55の円筒部55aとは、径方向に間隔をあけて対向して配置されている。スリンガの円環部53bと、芯金55の円環部55bとは、前者を軸方向外側に配置し、後者を軸方向内側に配置した状態で、軸方向に間隔をあけて対向して配置されている。そして、スリンガ53の円環部53bの径方向外端面57と、芯金の円筒部55aとの間には隙間Sが形成され、ラビリンスシールを構成している。
【0008】
スリンガ53の円環部53bの径方向外端面57は、機械加工により仕上られており、当該円環部53bの外径寸法φa2および芯金55の円筒部55aとの間の隙間Sの寸法e2が高い精度で設定されている。これにより、スリンガ53の加工により生ずるバリ等の余剰材料を含まない面にすることができ、隙間Sを可及的に小さくして密封性を高めることができる(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−190323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この従来の密封装置50では、ダストリップ56bにガータースプリング58が設けられ、緊迫力を保持できると共に、追従性が悪化するのを防止することができる。然しながら、ダストリップ56bの緊迫力だけでなく、ガータースプリング58のダストリップ56b全体に占める緊迫力の割合が解析・管理されていないため、常温における密封性と低温下での密封性にばらつきが生じていた。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、パックシールにおけるラジアルリップの緊迫力を基準とする最適仕様を設定し、低温環境、かつ泥水環境での密封性の向上を図った車輪用軸受の密封装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
係る目的を達成すべく、本発明のうち請求項1記載の発明は、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に嵌合された少なくとも一つの内輪または等速自在継手の外側継手部材からなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、この内方部材と前記外方部材のそれぞれの転走面間に転動自在に収容された複列の転動体とを備えた車輪用軸受に装着され、前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の開口部を密封する車輪用軸受の密封装置であって、断面が略L字状に形成されて互いに対向配置された環状のシール板とスリンガとからなるパックシールで構成され、前記シール板が、前記外方部材の端部内周に所定のシメシロを介して圧入される円筒状の嵌合部と、この嵌合部の端部から径方向内方に延びる内径部からなり、鋼板から形成された芯金と、この芯金に一体に接合されたシール部材とを備え、前記スリンガが、前記内方部材の外径に圧入される円筒部と、この円筒部から径方向外方に延びる立板部とからなり、前記シール部材が、前記芯金の内周面を覆う基部と、この基部から径方向外方に傾斜して形成され、前記スリンガの立板部に所定の軸方向シメシロを介して摺接するサイドリップと、このサイドリップの内径側に径方向内方に傾斜して形成され、前記スリンガの円筒部に所定の径方向シメシロを介して摺接するラジアルリップを備えた車輪用軸受の密封装置において、このラジアルリップにガータースプリングが装着されると共に、このガータースプリングの緊迫力が、前記ラジアルリップの全緊迫力の50%以上に設定され、前記ラジアルリップのガータースプリングがない状態での緊迫力が3N以上に設定されていると共に、当該ラジアルリップの常温20℃での緊迫力が12N以上に、かつ、低温−20℃での緊迫力が10N以上に設定されている
【0013】
このように、車輪用軸受に装着され、外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の開口部を密封する車輪用軸受の密封装置であって、断面が略L字状に形成されて互いに対向配置された環状のシール板とスリンガとからなるパックシールで構成され、シール板が、外方部材の端部内周に所定のシメシロを介して圧入される円筒状の嵌合部と、この嵌合部の端部から径方向内方に延びる内径部からなり、鋼板から形成された芯金と、この芯金に一体に接合されたシール部材とを備え、スリンガが、内方部材の外径に圧入される円筒部と、この円筒部から径方向外方に延びる立板部とからなり、シール部材が、芯金の内周面を覆う基部と、この基部から径方向外方に傾斜して形成され、スリンガの立板部に所定の軸方向シメシロを介して摺接するサイドリップと、このサイドリップの内径側に径方向内方に傾斜して形成され、スリンガの円筒部に所定の径方向シメシロを介して摺接するラジアルリップを備えた車輪用軸受の密封装置において、このラジアルリップにガータースプリングが装着されると共に、このガータースプリングの緊迫力が、ラジアルリップの全緊迫力の50%以上に設定され、ラジアルリップのガータースプリングがない状態での緊迫力が3N以上に設定されていると共に、当該ラジアルリップの常温20℃での緊迫力が12N以上に、かつ、低温−20℃での緊迫力が10N以上に設定されているので、常温における密封性と低温下での密封性とのばらつきを解消し、低温環境、かつ泥水環境での密封性の向上を図った車輪用軸受の密封装置を提供することができる。また、ラジアルリップに少なくともガータースプリングの剛性を保持するだけの緊迫力を確保することができる。
【0016】
また、請求項に記載の発明のように、前記シール部材のTR10が−35℃以下に設定されていれば、低温雰囲気でもリップ追従性を維持することができ、耐泥水性を発揮することができる。
【0017】
また、請求項に記載の発明のように、前記ガータースプリングがステンレス材から形成されていれば、長期間に亘って高耐食性を確保することができる。
【0018】
また、請求項に記載の発明のように、前記芯金の嵌合部の先端部が薄肉に形成され、この先端部を覆うように前記シール部材が回り込んで接合されてハーフメタル構造をなしていれば、嵌合部の気密性を高めて軸受内部を保護することができる。
【0019】
また、請求項に記載の発明のように、前記シール部材の基部が前記芯金の嵌合部の先端部に向かって傾斜して形成され、この端部に前記スリンガの立板部の外縁が僅かな径方向すきまを介して対峙してラビリンスシールを構成すると共に、このラビリンスシールの径方向すきまが0.75mm以下に設定されていれば、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止すると共に、一旦侵入してきた雨水やダスト等が密封装置内に滞留することなく遠心力によって容易に外部に排出でき、密封性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る車輪用軸受の密封装置は、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に嵌合された少なくとも一つの内輪または等速自在継手の外側継手部材からなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、この内方部材と前記外方部材のそれぞれの転走面間に転動自在に収容された複列の転動体とを備えた車輪用軸受に装着され、前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の開口部を密封する車輪用軸受の密封装置であって、断面が略L字状に形成されて互いに対向配置された環状のシール板とスリンガとからなるパックシールで構成され、前記シール板が、前記外方部材の端部内周に所定のシメシロを介して圧入される円筒状の嵌合部と、この嵌合部の端部から径方向内方に延びる内径部からなり、鋼板から形成された芯金と、この芯金に一体に接合されたシール部材とを備え、前記スリンガが、前記内方部材の外径に圧入される円筒部と、この円筒部から径方向外方に延びる立板部とからなり、前記シール部材が、前記芯金の内周面を覆う基部と、この基部から径方向外方に傾斜して形成され、前記スリンガの立板部に所定の軸方向シメシロを介して摺接するサイドリップと、このサイドリップの内径側に径方向内方に傾斜して形成され、前記スリンガの円筒部に所定の径方向シメシロを介して摺接するラジアルリップを備えた車輪用軸受の密封装置において、このラジアルリップにガータースプリングが装着されると共に、このガータースプリングの緊迫力が、前記ラジアルリップの全緊迫力の50%以上に設定され、前記ラジアルリップのガータースプリングがない状態での緊迫力が3N以上に設定されていると共に、当該ラジアルリップの常温20℃での緊迫力が12N以上に、かつ、低温−20℃での緊迫力が10N以上に設定されているので、常温における密封性と低温下での密封性とのばらつきを解消し、低温環境、かつ泥水環境での密封性の向上を図った車輪用軸受の密封装置を提供することができる。また、ラジアルリップに少なくともガータースプリングの剛性を保持するだけの緊迫力を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係る密封装置を備えた車輪用軸受の一実施形態を示す縦断面図である。
図2図1の一方の密封装置を示す要部拡大図である。
図3図2の密封装置の全緊迫力を示す説明図である。
図4図2の密封装置のガータースプリングがない状態の緊迫力を示す説明図である。
図5】常温時の過酷環境下での密封装置の緊迫力の測定結果を示すグラフである。
図6】低温時の過酷環境下での密封装置の緊迫力の測定結果を示すグラフである。
図7】従来の密封装置を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された一対の内輪からなる内方部材と、この内方部材と前記外方部材のそれぞれの転走面間に転動自在に収容された複列の転動体とを備えた車輪用軸受に装着され、前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の開口部を密封する車輪用軸受の密封装置において、断面が略L字状に形成されて互いに対向配置された環状のシール板とスリンガとからなるパックシールで構成され、前記シール板が、前記外方部材の端部内周に所定のシメシロを介して圧入される円筒状の嵌合部と、この嵌合部の端部から径方向内方に延びる内径部からなり、鋼板からプレス加工によって形成された芯金と、この芯金に加硫接着により一体に接合されたシール部材とを備え、前記スリンガが、前記内方部材の外径に圧入される円筒部と、この円筒部から径方向外方に延びる立板部とからなり、前記シール部材が、前記芯金の内周面を覆う基部と、この基部から径方向外方に傾斜して形成され、前記スリンガの立板部に所定の軸方向シメシロを介して摺接するサイドリップと、このサイドリップの内径側に二股状に形成され、前記スリンガの円筒部に所定の径方向シメシロを介して摺接するグリースリップとダストリップとからなるラジアルリップを備え、前記ダストリップにガータースプリングが装着され、このガータースプリングの緊迫力が、前記ラジアルリップの全緊迫力の50%以上に設定されると共に、前記ダストリップのガータースプリングがない状態での前記ラジアルリップの緊迫力が3N以上に設定されている。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る密封装置を備えた車輪用軸受の一実施形態を示す縦断面図、図2は、図1の一方の密封装置を示す要部拡大図、図3は、図2の密封装置の全緊迫力を示す説明図、図4は、図2の密封装置のガータースプリングがない状態の緊迫力を示す説明図、図5は、常温時の過酷環境下での密封装置の緊迫力の測定結果を示すグラフ、図6は、低温時の過酷環境下での密封装置の緊迫力の測定結果を示すグラフである。なお、以下の説明では、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウター側(図1の左側)、中央寄り側をインナー側(図1の右側)という。
【0024】
図1に示す車輪用軸受1は第1世代と呼称され、内周にそれぞれ外向きに開いたテーパ状の複列の外側転走面2a、2aが一体に形成された外輪(外方部材)2と、外周にこれら複列の外側転走面2a、2aに対向するテーパ状の内側転走面3aが形成された一対の内輪3、3と、両転走面間に保持器4を介して転動自在に収容された複列の転動体(円錐ころ)5、5とを備えている。
【0025】
内輪3の内側転走面3aの大径側には転動体5を案内するための大鍔部3bが形成されると共に、小径側には転動体5の脱落を防止するための小鍔部3cが形成されている。そして、一対の内輪3、3の小径側端面が突き合された状態でセットされ、背面合せタイプの車輪用軸受1を構成している。
【0026】
外輪2と内輪3および転動体5はSUJ2等の高炭素クロム鋼で形成され、ズブ焼入れによって芯部まで58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。また、外輪2と一対の内輪3、3との間に形成される環状空間の開口部には密封装置6、7が装着され、軸受内部に封入された潤滑グリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。
【0027】
一対の内輪3、3の小径側の端部内周には環状溝8、8が形成され、この環状溝8、8に連結環9が装着されている。この連結環9は、工具鋼やばね鋼等の鋼板をプレス加工により断面略コの字状に、全体として有端のリング状に形成され、表面に調質あるいは焼入れにより40〜55HRCの範囲に硬化処理が施されている。
【0028】
この連結環9を弾性変形させて環状溝8、8に装着することにより、一対の内輪3、3はガタなく強固に一体化され、分解・組立の作業性を簡便化することができる。また、補修時等、車軸に圧入固定された一対の内輪3、3を一体的に抜くことができるため、インナー側の内輪3のみが車軸に残るような不具合が発生することはない。
【0029】
なお、ここでは、車輪用軸受1として転動体5に円錐ころを使用した複列円錐ころ軸受で構成されたものを例示したが、これに限らず転動体5にボールを使用した複列アンギュラ玉軸受で構成されていても良い。また、軸受構造は例示した第1世代に限らず、例えば、外輪にフランジを有する第2世代構造でも良いし、ハブ輪の外周に直接内側転走面が形成された第3世代構造、あるいは等速自在継手の外側継手部材の外周に直接内側転走面が形成された第4世代構造であっても良い。
【0030】
アウター側の密封装置6は、外輪2の端部内周に圧入された芯金10と、この芯金10に加硫接着によって一体に接合されたシール部材11とからなる一体型シールで構成されている。芯金10は、オーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系等)からプレス加工にて断面が略L字状に形成されている。一方、シール部材11はNBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)等の合成ゴムからなり、内輪3の外径に摺接する二股状のラジアルリップ11a、11bを有している。そして、芯金10の外表面を覆うように、シール部材11が回り込んで接合され、所謂ハーフメタル構造をなしている。これにより、気密性を高めて軸受内部を保護することができる。
【0031】
なお、シール部材11の材質としては、例示したNBR以外にも、例えば、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)等をはじめ、耐熱性、耐薬品性に優れたACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等を例示することができる。
【0032】
インナー側の密封装置7は、図2に拡大して示すように、断面が略L字状に形成されて互いに対向配置された環状のシール板12とスリンガ13とからなる、所謂パックシールを構成している。シール板12は、外輪2に圧入される芯金14と、この芯金14に一体に加硫接着されたシール部材15とからなる。
【0033】
芯金14は、オーステナイト系ステンレス鋼板または冷間圧延鋼板からプレス加工にて断面が略L字状に形成され、外輪2の端部内周に圧入される円筒状の嵌合部14aと、この嵌合部14aの一端部から径方向内方に延びる内径部14bを備えている。そして、芯金14の嵌合部14aの先端部が薄肉に形成されると共に、この先端部を覆うようにシール部材15が回り込んで接合され、所謂ハーフメタル構造をなしている。
【0034】
シール部材15はNBR等の合成ゴムからなり、芯金14の嵌合部14aの内周面を覆う基部15aと、この基部15aから径方向外方に傾斜して形成されたサイドリップ15bと、このサイドリップ15bの内径側に二股状に形成されグリースリップ15cとダストリップ15dを備えている。そして、ダストリップ15cにオーステナイト系等のステンレス材からなるガータースプリング17が装着されている。これにより、長期間に亘って高耐食性を確保することができる。なお、シール部材15の材質としては、例示したNBR以外にも、例えば、耐熱性に優れたHNBR、EPDM、ACM、FKM、あるいはシリコンゴム等を例示することができる。
【0035】
また、シール部材15の基部15aが芯金14の嵌合部14aの先端部に向かって傾斜して形成されると共に、シール部材15の開口端部とスリンガ13の立板部13bの外縁が僅かな径方向すきまを介して対峙し、ラビリンスシール16を構成している。これにより、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止すると共に、一旦侵入してきた雨水やダスト等が密封装置内に滞留することなく遠心力によって容易に外部に排出でき、密封性を向上させることができる。
【0036】
本実施形態では、シール部材15の低温弾性回復率10%を示す温度TR10(ゴムの弾性を表わす指標)が−35℃以下に設定されている。これにより、低温雰囲気でもリップ追従性を維持することができ、耐泥水性を発揮することができる。
【0037】
スリンガ13は、強磁性体の鋼板、例えば、フェライト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)や防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工にて断面が略L字状に形成され、内輪3の外径に圧入される円筒部13aと、この円筒部13aから径方向外方に延びる立板部13bとからなる。そして、シール部材15のサイドリップ15bが立板部13bに所定の軸方向シメシロを介して摺接されると共に、グリースリップ15cとダストリップ15dが円筒部13aに所定の径方向シメシロを介して摺接されている。
【0038】
スリンガ13の立板部13bのインナー側の側面には磁気エンコーダ18が加硫接着によって一体に接合されている。この磁気エンコーダ18は、合成ゴムにフェライト等の磁性体粉が混入され、周方向に交互に等ピッチで磁極N、Sが着磁されている。本実施形態では、スリンガ13の材質に強磁性体の鋼板を採用したので、スリンガ13が発錆するのを長期間に亘って防止すると共に、磁気エンコーダ18の磁気出力が強くなり安定した検出精度を確保することができる。
【0039】
ここで、本出願人は、過酷環境下を想定した密封性の試験を実施した。この試験は、ラジアルリップ(ここでは、グリースリップ15cとダストリップ15dをいう)の全緊迫力Paのうち、ガータースプリング17の緊迫力Pgが占める割合と密封性との関係を検証した。すなわち、ラジアルリップの全緊迫力Pa(図3参照)に対して、全緊迫力Paからガータースプリング17がない状態、(ここでは、ダストリップ15dの緊迫力が支配的である。)緊迫力Pb(図4参照)を減じた緊迫力Pgとの各比率(Pg=(Pa−Pb)/Pa)における密封性の良否判定を行った。その試験結果を表1に示す。なお、本試験に用いた密封装置は、図2に示す断面高さHが7.0mm、幅Wが5.0mm、ラビリンスシール16の径方向すきまCが0.75mmのものとした。
【0040】
【表1】
【0041】
低温環境下では、合成ゴムに比べガータースプリング17の方が温度影響を受け難いため、特に、低温下においては、ガータースプリング17の緊迫力の割合が高いほど密封性が確保できることが考えられるが、この試験結果から判るように、密封性を確保するためには、ラジアルリップの全緊迫力Paのうち、ガータースプリング17の緊迫力Pgが占める割合が少なくとも50%必要であることが判った。
【0042】
また、本出願人は、常温時と低温時でのラジアルリップの緊迫力Paと耐久性との確認試験を実施した。その結果を、図5図6に示す。これらの試験結果から判るように、常温時(20℃)では、図5に示すように、良否判定の基準となるスペック値Tをクリアするには、ラジアルリップの緊迫力Paが12N以上(Pa≧12N)必要である。一方、低温時(−20℃)では、図6に示すように、ラジアルリップの緊迫力Paが10N以上(Pa≧10N)必要であることが判った。なお、少なくともダストリップ15dにはガータースプリング17の剛性を保持するだけの緊迫力が必要であるため、ガータースプリング17がない状態でのラジアルリップの緊迫力Pbは3N以上に設定されている(Pb≧3N)。
【0043】
このように、本発明では、過酷環境下で使用されるパックシールからなる密封装置において、ガータースプリング17のラジアルリップ全体に占める緊迫力の割合を解析すると共に、その最適仕様を設定することにより、常温における密封性と低温下での密封性とのばらつきを解消し、低温環境、かつ泥水環境での密封性の向上を図った車輪用軸受の密封装置を提供することができる。
【0044】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係る車輪用軸受の密封装置は、内輪回転タイプの第1乃至第4世代構造の車輪用軸受に装着される密封装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 車輪用軸受
2 外輪
2a 外側転走面
3 内輪
3a 内側転走面
3b 大鍔部
3c 小鍔部
4 保持器
5 転動体
6 アウター側の密封装置
7 インナー側の密封装置
8 環状溝
9 連結環
10、14 芯金
11、15 シール部材
11a、11b ラジアルリップ
12 シール板
13 スリンガ
13a 円筒部
13b 立板部
14a 嵌合部
14b 内径部
15a シール部材の基部
15b サイドリップ
15c グリースリップ
15d ダストリップ
16 ラビリンスシール
17 ガータースプリング
18 磁気エンコーダ
50 密封装置
51 内側部材
52 外側部材
53 スリンガ
53a、55a 円筒部
53b、55b 円環部
54 シール板
55 芯金
56 シール部材
56a グリースリップ
56b ダストリップ
56c アキシアルリップ
57 径方向外端面
58 ガータースプリング
a2 円環部の外径寸法
e2 隙間の寸法
C ラビリンスシールの径方向すきま
H 密封装置の断面高さ
Pa ラジアルリップの全緊迫力
pb ガータースプリングがない状態の緊迫力
Pg ガータースプリングの緊迫力
S 隙間
T 良否判定の基準となるスペック値
W 密封装置の幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7