特許第5964134号(P5964134)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5964134
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】吸気用エンジンバルブ
(51)【国際特許分類】
   F01L 3/20 20060101AFI20160721BHJP
【FI】
   F01L3/20 C
   F01L3/20 B
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-117368(P2012-117368)
(22)【出願日】2012年5月23日
(65)【公開番号】特開2013-245558(P2013-245558A)
(43)【公開日】2013年12月9日
【審査請求日】2014年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000116574
【氏名又は名称】愛三工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阪口 寛
(72)【発明者】
【氏名】谷川 裕紀
【審査官】 山本 健晴
(56)【参考文献】
【文献】 実開平04−071709(JP,U)
【文献】 特開平03−275242(JP,A)
【文献】 特表2002−531761(JP,A)
【文献】 特開平02−229640(JP,A)
【文献】 特表平05−500997(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0266984(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍛造により形成された弁傘部及び弁軸部を有し、エンジンの吸気ポートを開閉する吸気用エンジンバルブであって、
前記弁傘部と前記弁軸部との間に、弁傘部側から弁軸部側に向かって小径化されかつ外周面が軸方向の断面を直線とする所定のテーパ角のテーパ面に形成されたテーパ部を有し、
前記弁軸部において、前記エンジンのバルブガイドにより案内される案内軸部と前記テーパ部側の端軸部との間に、それらの軸部の外径よりも小さい外径の小径軸部を形成し、
前記テーパ部側の端軸部は、一定の外径で軸方向に延びており、
前記弁傘部の傘裏側の外周部には、該弁傘部の外周端から弁裏方向に向かって小径化されかつ軸方向の断面を直線とする所定のテーパ角のテーパ面に形成されたフェース面、及び、該フェース面の小径側の内周端から弁裏方向に向かって小径化されかつ軸方向の断面を直線とする所定のテーパ角のテーパ面に形成された斜面を有し、
前記斜面の傘表面に対するテーパ角は、前記フェース面の傘表面に対するテーパ角よりも小さく、
前記テーパ部と前記斜面との間に、該テーパ部の大径側の外周端と該斜面の小径側の内周端とをなめらかに接続する凹曲面を形成し
前記テーパ部、前記凹曲面及び斜面は鍛造肌を有し、
前記案内軸部と前記テーパ部側の端軸部は同一の外径の機械加工面を有する
ことを特徴とする吸気用エンジンバルブ。
【請求項2】
請求項に記載の吸気用エンジンバルブであって、
前記小径軸部は、前記バルブガイドの吸気ポート側の軸端に対して、開弁時の該小径軸部の案内軸部側の軸端が近接する位置に位置するように形成されていることを特徴とする吸気用エンジンバルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸気用エンジンバルブに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンバルブとしては、例えば特許文献1に記載されたものがある。特許文献1(「従来例という」)では、弁頭(本明細書でいう「弁傘部」に相当する。)径をφDとし、弁頭表面から略φD/2の長さのところの弁棒(同、「弁軸部」)径をφd2としたポペットバルブにおいて、弁頭表面から略φD/2の範囲内の弁棒部分に、φd2より小さい小径部を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平5−36009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来例によると、弁頭表面から略φD/2の範囲内の弁棒部分に小径部を設けるため、小径部の軸長が自ずと制限される。したがって、吸気用とした場合、吸気流量及びタンブル流を増加する効果も小さいという問題があった。なお、単に小径部の軸長を長くするだけでは強度の確保が難しい。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、強度を確保するとともに吸気流量及びタンブル流を増加することのできる吸気用エンジンバルブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、鍛造により形成された弁傘部及び弁軸部を有し、エンジンの吸気ポートを開閉する吸気用エンジンバルブであって、弁傘部と弁軸部との間に、弁傘部側から弁軸部側に向かって小径化されかつ外周面が断面を直線とする所定のテーパ角のテーパ面に形成されたテーパ部を有し、弁軸部において、エンジンのバルブガイドにより案内される案内軸部とテーパ部側の端軸部との間に、それらの軸部の外径よりも小さい外径の小径軸部を形成したものである。この構成によると、鍛造により形成される弁傘部と弁軸部との間に、弁傘部側から弁軸部側に向かって小径化されかつ外周面が断面を直線とする所定のテーパ角のテーパ面に形成されたテーパ部を有することによって、強度を向上することができる。これにより、弁軸部において、エンジンのバルブガイドにより案内される案内軸部とテーパ部側の端軸部との間に形成される小径軸部の軸長を長くし、吸気流量及びタンブル流を増加することができる。したがって、強度を確保するとともに吸気流量及びタンブル流を増加することができる。
【0007】
第2の発明は、第1の発明において、テーパ部及び傘裏部が鍛造肌である。したがって、研磨等の機械加工により総加工する場合と比べて、加工工数を削減し、コストを低減することができる。
【0008】
第3の発明は、第1又は2の発明において、小径軸部は、バルブガイドの吸気ポート側の軸端に対して、開弁時の小径軸部の案内軸部側の軸端が近接する位置に位置するように形成されている。したがって、吸気流量及びタンブル流を最大又は最大に近くまで増加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態にかかる吸気用エンジンバルブを一部破断して示す正面図である。
図2】吸気用エンジンバルブの弁傘部の周辺部を示す正面図である。
図3】エンジンの吸気用エンジンバルブの周辺部を開弁状態で示す断面図である。
図4】エンジンの吸気用エンジンバルブの周辺部を閉弁状態で示す断面図である。
図5】比較例の吸気用エンジンバルブの弁傘部の周辺部を示す正面図である。
図6】吸気用エンジンバルブの弁傘部の周辺部を比較例と比較して示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための実施形態について図面を用いて説明する。説明の都合上、エンジンの吸気用エンジンバルブの周辺部の構成について説明した後、吸気用エンジンバルブについて説明する。図3はエンジンの吸気用エンジンバルブの周辺部を開弁状態で示す断面図、図4は同じく閉弁状態で示す断面図である。なお、図3及び図4における上下を基準として吸気用エンジンバルブの説明を行う。
図3に示すように、エンジン(内燃機関)のシリンダヘッド10には、燃焼室11に連通する吸気ポート12が形成されている。吸気ポート12の下流端には、バルブシート13が配置されている。また、シリンダヘッド10には、バルブシート13と同心状をなす金属製のバルブガイド14が配置されている。バルブガイド14には、吸気ポート12(詳しくはバルブシート13)を開閉する弁傘部22を有する吸気用エンジンバルブ20(詳しくは弁軸部24)が軸方向(図3において上下方向)に摺動可能に支持されている。また、吸気用エンジンバルブ20の開弁時には、弁傘部22がバルブシート13から離座することにより、空気が吸気ポート12を通じて燃焼室11に流入する。また、吸気用エンジンバルブ20の閉弁時(図4参照)には、弁傘部22がバルブシート13に着座することにより、吸気ポート12から燃焼室11への空気の流入が阻止される。
【0011】
続いて、前記吸気用エンジンバルブ20について説明する。図1は吸気用エンジンバルブを一部破断して示す正面図、図2は同じく弁傘部の周辺部を示す正面図である。
図1に示すように、吸気用エンジンバルブ(以下、「エンジンバルブという」)20は、鍛造により形成された弁傘部22及び弁軸部24を有するポペットバルブからなる。弁傘部22と弁軸部24とは同心状に形成されている。弁軸部24の先端部(上端部)の外周面には、周方向に連続する環状溝25が形成されている。環状溝25は、図示しないが、動弁機構におけるバルブスプリングのリテーナ用の取付溝である。また、弁傘部22の大径側端面(下端面)は、エンジンの燃焼室11(図3参照)に面する弁表面22aとなっている。弁表面22aの中央部には浅い凹部23が形成されている。また、エンジンバルブ20は、例えば、耐熱鋼製、チタン合金製等の素材を鍛造することにより形成された後、所定部位(後述する)に対して機械加工(例えば研磨)が施されている。
【0012】
図2に示すように、前記弁傘部22と前記弁軸部24との間すなわち接続部には、鍛造抜きにより形成されたテーパ部26が形成されている。テーパ部26は、弁傘部22側(下側)から弁軸部24側(上側)に向かって小径化されている。テーパ部26の外周面は、断面を直線とする所定のテーパ角θ1のテーパ面に形成されている。テーパ角θ1は、例えば20°に設定されている。なお、テーパ角θ1は20°に限定されない。また、テーパ部26の最小径26dは、鍛造前の素材の外径である。また、弁表面22aからテーパ部26の小径側の軸端までの高さH1は、例えば10mmである。なお、高さH1は10mmに限定されない。
【0013】
前記弁軸部24において、前記バルブガイド14(図3参照)により案内される部分を案内軸部28といい、テーパ部26側の端部分(下端部)を端軸部29という。案内軸部28と端軸部29との間には、両軸部28,29の外径よりも小さい外径30dの小径軸部30が形成されている。小径軸部30の外径30dは、例えばφ4.5mmである。なお、外径30dはφ4.5mmに限定されない。また、弁軸部24の環状溝25及び小径軸部30を除いた残りの部分で、案内軸部28及び端軸部29を含む部分は、外径24dで形成されている。また、前記弁表面22aから小径軸部30の案内軸部28側の軸端30aまでの高さH2は、例えば37mmである。なお、高さH2は37mmに限定されない。
【0014】
図3に示すように、前記小径軸部30は、前記バルブガイド14の吸気ポート12側(下側)の軸端14aに対して、開弁時の小径軸部30の案内軸部28側の軸端30aが近接する位置に位置するように形成されている。また、図2に示すように、小径軸部30の案内軸部28側の端部(上端部)は上側の接続部31aとされ、また、小径軸部30の端軸部29側の端部(下端部)は下側の接続部31bとされている。両接続部31a,31bの外周面は、両軸部28,29にそれぞれ滑らかにつながる曲面に形成されている。
【0015】
前記弁傘部22において、傘裏側(弁表面22aとは反対側)の外周部には、円環状のフェース面32が形成されている。フェース面32は、弁傘部22の外周端から弁裏方向(図2において上方)に向かって小径化された断面を直線とする所定のテーパ角θ2のテーパ面に形成されている。なお、テーパ角θ2は、例えば45°である。なお、テーパ角θ2は45°に限定されない。
【0016】
前記弁傘部22の外周端には、フェース面32の大径側の外径と同一の外径を有する円筒状で軸長の短い周端面34が形成されている。また、弁傘部22の傘裏側の外周部には、円環状の斜面36が形成されている。斜面36は、フェース面32の小径側の内周端から弁裏方向(図2において上方)に向かって小径化された断面を直線とする所定のテーパ角(斜面角ともいう)θ3のテーパ面に形成されている。なお、斜面角θ3は、例えば12.5°である。なお、斜面角θ3は12.5°に限定されない。

【0017】
前記弁傘部22の傘裏側には、前記テーパ部26の大径側の外周端と前記斜面36の小径側の内周端とをつなぐ凹曲面38が形成されている。凹曲面38は、断面を曲率半径Rの曲線で形成されている。曲率半径Rは、例えば7mmである。なお、曲率半径Rは7mmに限定されない。また、斜面36と凹曲面38とは本明細書でいう「傘裏部」を構成している。なお、図1及び図2中の符号、Lはエンジンバルブ20の軸線を示す。
【0018】
前記エンジンバルブ20の鍛造後、前記弁傘部22のフェース面32及び周端面34、弁軸部24(詳しくは、案内軸部28、端軸部29、小径軸部30、環状溝25を含む)の外周面に対して、機械加工(例えば研磨)が施されている。また、弁傘部22のテーパ部26及び傘裏部(斜面36及び凹曲面38)は、研磨することなく、鍛造肌のままとされている。また、弁表面22aからテーパ部26の小径側の軸端までの高さH1は、弁軸部24に対する研磨の弁傘部22側(下側)の研磨端の高さH1に相当する。なお、弁傘部22の周端面34は研磨しない場合もある。また、弁軸部24の軸端面(上端面)24a(図1参照)は、研磨してもよいし、研磨しなくてもよい。
【0019】
前記した吸気用エンジンバルブ20によると、鍛造により形成される弁傘部22と弁軸部24との間に、弁傘部22側から弁軸部24側に向かって小径化されかつ外周面が断面を直線とする所定のテーパ角θ1のテーパ面に形成されたテーパ部26を有することによって、強度を向上することができる。これにより、弁軸部24の小径軸部30の軸長を長くし、吸気流量及びタンブル流を増加することができる。したがって、強度を確保するとともに吸気流量及びタンブル流を増加することができる。
【0020】
また、テーパ部26及び傘裏部(斜面36及び凹曲面38)が鍛造肌である。したがって、研磨等の機械加工により総加工する場合と比べて、加工工数を削減し、コストを低減することができる。
【0021】
また、小径軸部30は、バルブガイド14の吸気ポート12側の軸端14aに対して、開弁時の小径軸部30の案内軸部28側の軸端30aが近接する位置に位置するように形成されている。したがって、吸気流量及びタンブル流を最大又は最大に近くまで増加することができる。また、開弁時の小径軸部30の案内軸部28側の軸端30aがバルブガイド14内に入り込む位置に位置するように小径軸部30を形成する場合と異なり、開弁時におけるバルブガイド14に対する案内軸部28の支持にかかる軸長の減少を防止することができる。
【0022】
次に、前記エンジンバルブ20を比較例のものと比較して説明する。図5は比較例の吸気用エンジンバルブの弁傘部の周辺部を示す正面図、図6が吸気用エンジンバルブの弁傘部の周辺部を比較例と比較して示す正面図である。図6において、実線は前記実施形態のエンジンバルブ(「実施例のエンジンバルブ」という)20を示し、点線は比較例のエンジンバルブ(符号、120を付す)を示す。なお、比較例のエンジンバルブ120については、実施例のエンジンバルブ20と同一部位には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0023】
図5に示すように、比較例のエンジンバルブ120は、弁傘部122及び弁軸部124を有するものの、実施例のエンジンバルブ20におけるテーパ部26(図2参照)を有していない。また、エンジンバルブ120の弁軸部124は、実施例のエンジンバルブ20における小径軸部30(図2参照)が形成されていない。弁軸部124の外径124dは、実施例のエンジンバルブ20における外径24dと同一である。また、弁軸部124に対する研磨の弁傘部122側(下側)の研磨端の高さh1は、例えば14mmである。したがって、比較例の研磨端の高さh1の14mmに比べ、実施例の研磨端の高さH1(図2参照)が10mmに減少されている。
【0024】
前記弁傘部122において、傘裏側の外周部には、実施例と同様、フェース面32及び周端面34が形成されている。また、弁傘部22の傘裏側には、円環状の面取り斜面137が形成されている。面取り斜面137の面取り角θ4は、例えば30°である。弁傘部22の傘裏側には、前記弁軸部24の弁傘部22側(下側)の軸端の外周端と前記面取り斜面137の小径側の内周端とをつなぐ凹曲面138が形成されている。凹曲面138は、断面を曲率半径rとする曲線で形成されている。すなわち、比較例の面取り斜面137が実施例のエンジンバルブ20では廃止されているとともに、比較例の凹曲面138の曲率半径rに比べ、実施例の凹曲面38の曲率半径R(図2参照)が小径化されている。したがって、比較例の弁傘部122に比べ、実施例の弁傘部22が薄肉化されている(図6参照)。また、比較例のエンジンバルブ120では、研磨等の機械加工により総加工されている。すなわち、エンジンバルブ120の総ての外周面に研磨等の機械加工が施されている。
【0025】
実施例のエンジンバルブ20によると、比較例のエンジンバルブ120と異なり、弁軸部24にテーパ部26を有することにより、強度を向上することができる。これにより、弁軸部24の小径軸部30の軸長を長くし、吸気流量及びタンブル流を増加することができる。また、エンジンバルブ20によると、テーパ部26及び傘裏部(斜面36及び凹曲面38)が鍛造肌である。したがって、研磨等の機械加工により総加工する比較例のエンジンバルブ120と比べて、加工工数を削減し、コストを低減することができる。また、エンジンバルブ20によると、比較例のエンジンバルブ120に比べ、弁傘部22が薄肉化されているとともに、研磨端の高さH1が減少されている。これにより、弁軸部24の小径軸部30の軸長を長くし、吸気流量及びタンブル流を増加することができる。これとともに、エンジンバルブ20を軽量化することができる。
【0026】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更が可能である。
【符号の説明】
【0027】
10…シリンダヘッド
12…吸気ポート
13…バルブシート
14…バルブガイド
14a…軸端
20…吸気用エンジンバルブ
22…弁傘部
24…弁軸部
26…テーパ部
28…案内軸部
30…小径軸部
30a…軸端
36…斜面(傘裏部の一部)
38…凹曲面(傘裏部の一部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6