特許第5964161号(P5964161)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5964161
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】精密工作機械
(51)【国際特許分類】
   B23Q 1/01 20060101AFI20160721BHJP
   B23Q 11/12 20060101ALI20160721BHJP
   B23Q 11/14 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   B23Q1/01 H
   B23Q11/12 A
   B23Q11/14
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-151554(P2012-151554)
(22)【出願日】2012年7月5日
(65)【公開番号】特開2014-14874(P2014-14874A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2015年5月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003458
【氏名又は名称】東芝機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100107537
【弁理士】
【氏名又は名称】磯貝 克臣
(74)【代理人】
【識別番号】100096895
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 淳平
(74)【代理人】
【識別番号】100106655
【弁理士】
【氏名又は名称】森 秀行
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(72)【発明者】
【氏名】山 西 紀 男
(72)【発明者】
【氏名】内 村 浩
【審査官】 山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−239857(JP,A)
【文献】 特開2011−073108(JP,A)
【文献】 特開平04−315534(JP,A)
【文献】 特開2004−148426(JP,A)
【文献】 特開2003−025185(JP,A)
【文献】 特開2010−203638(JP,A)
【文献】 特開昭57−203544(JP,A)
【文献】 特開2004−136395(JP,A)
【文献】 特開2002−086324(JP,A)
【文献】 特開平10−156661(JP,A)
【文献】 特開昭57−184643(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0166422(US,A1)
【文献】 特開2001−54839(JP,A)
【文献】 米国特許第2279569(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 1/00−1/76,11/12−11/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベッド上に立設されるコラムに上下方向に移動可能な主軸頭が設けられ、前記コラムの内部には、温度管理された冷却水の貯水空間が形成された精密工作機械において、
前記冷却水の貯水空間は、傾斜した隔壁によって複数の冷却水貯水区画に仕切られ、上位にある冷却水貯水区画から下位にある冷却水貯水区画に冷却水を排水する連通穴が前記隔壁に形成され、前記コラム内部から冷却水全量を抜くための第1のドレイン口を有する最下位の冷却水貯水区画に集中的に冷却水を排出する排水経路が形成されていることを特徴とする精密工作機械。
【請求項2】
前記コラムの下部には冷却水が前記貯水空間に導入される取水口を有し、前記コラムの上部には、コラム内部からあふれる冷却水を外部に導出する第2のドレイン口を有することを特徴とする請求項1に記載の精密工作機械。
【請求項3】
前記取水口からオーバーフローした冷却水を回収する冷却水タンクと、
前記冷却水タンクから取り込んだ冷却水の温度を制御し、前記取水口に温度管理された冷却水を送り出す冷却水温調装置と、を有する冷却水循環系統をさらに備え、
前記取水口は、前記第1のドレイン口を兼ねるようにしたことを特徴とする請求項2に記載の精密工作機械。
【請求項4】
前記冷却水貯水区画を仕切る壁面には、錆止め塗装、塗料、樹脂コーティング剤からなる多層保護被膜が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の精密工作機械。
【請求項5】
前記コラムの正面に形成された鋳抜き穴は、シールを有する蓋によって液密に密閉されることを特徴とする請求項1または4に記載の精密工作機械。
【請求項6】
前記冷却水は、工作機械温度制御用の水溶性冷却液を水に添加した冷却水からなることを特徴とする請求項1に記載の精密工作機械。
【請求項7】
前記精密工作機械は、前記前記ベッドの左右両側に立設されたコラムにクロスレールが水平に架け渡され、前記クロスレールにサドルが左右方向に移動可能に設けられ、前記サドルには上下方向に移動可能な主軸頭が設けられた門形のコラムを備えた門形精密工作機械であることを特徴とする請求項1に記載の精密工作機械。
【請求項8】
前記門形コラムは、前記コラムと前記クロスレールとが一体構造の鋳造物であることを特徴とする請求項に記載の精密工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密工作機械に係り、特に、レンズなどの光学部品を成形する金型等を超精密加工する精密工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度の加工精度を必要する部品、例えば、光学関連機器の反射鏡やレンズなどを成形する精密金型を高精度に加工する、立形、横形、門形の精密工作機械や、あるいは旋盤などの精密工作機械が開発されるようになっている。
【0003】
例えば、門形工作機械を例にとって説明すると、門形工作機械は、ベッドの両側に立設されたコラムにクロスレールが水平に架け渡された門形のコラムを有する工作機械である。左右のコラムの間にテーブルが設けられ、クロスレールには、主軸頭を保持したサドルが移動可能に設けられている。
【0004】
従来の門形工作機械は、大型、長尺のワークの加工を行う大型工作機械が一般的であったが、近年では、高精度の加工を行える小型の門形精密工作機械が開発されている。この門形精密工作機械によって、精密機械関連の精密部品や光学関連機器の部品製造に使用する精密金型が加工されている。
【0005】
例えば、反射鏡やレンズなどの光学部品の成形に使用する金型の加工では、金型表面を高精度の鏡面に加工するには、サブミクロンあるいはナノメータオーダの超精密レベルの精度が要求される。このような高精度の鏡面をもつ金型を加工する場合には、加工仕上げ時間は必然的に長くなるので、加工開始から加工終了までの間の環境の温度変化が加工精度に影響しないようにする必要がある。同様の必要性は、立形や横形の精密工作機械や旋盤にも生じる。
【0006】
一般的に、工作機械では、モータや案内面の発熱や室温変動により、ベッドやコラムに熱変形が生じるので、熱変形対策として冷却水の流れる配管をコラムやベッドに設けることが行われている。例えば、コラムを冷却する従来技術としては、例えば、特許文献1、2に記載されたコラム冷却構造を挙げることができる。
【0007】
門形精密工作機械や立形精密工作機械の場合、工具の切り込み方向(Z軸)は、コラムと同じく鉛直方向になり、コラムが温度変動の影響を受けて熱変形すると、加工精度はたちまち低下してしまって、鏡面のような超精密加工をすることができなくなる。
【0008】
従来、精密工作機械は、他の加工機と同様に、軸を駆動するモータや案内面等の発熱部に対して冷却水を供給する冷却装置を備えており、冷却水の一部をコラム内で循環させることも行われているが、コラムの一部分しか冷却することができないため、超精密加工の場合にはその効果は薄かった。
【0009】
このような問題を解決するため、本出願人は、コラムそのものを冷却水を貯水するタンクとして構成し、環境温度の変化を最も受け易いコラムを熱的に効果的に安定させることを提案している(特願2012−037304号)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−309536号公報
【特許文献2】特開平6−126564号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
コラムは、本来、タンクとして利用されることを予定していない構造物であり、このコラムの内部を冷却水で満たすと、新たに様々な課題が生じてくる。
例えば、コラムには、第1に高い剛性が要求されるため、その内部はリブなどの補強用の部材が入り組んだ構造になっている。このようなコラムの中に冷却水を単に満たすのは容易である。しかし、機械の移設や修理の際に、コラムに溜まった冷却水を排水するときに、排水に非常な時間がかかる。このことは、とりわけ、門形のコラムにおいては顕著である。
【0012】
本発明は、コラムが冷却水で満たされたタンクを兼ねるという発明に関連してなされたものであって、環境温度変化の変動に関わらずコラムを熱的に安定させて熱変位を効果的に抑制するコラムから冷却水を効率良く排水することのできる精密工作機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の目的を達成するために、本発明は、ベッド上に立設されるコラムに上下方向に移動可能な主軸頭が設けられ、前記コラムの内部には、温度管理された冷却水の貯水空間が形成された精密工作機械において、前記冷却水の貯水空間は、傾斜した隔壁によって複数の冷却水貯水区画に仕切られ、上位にある冷却水貯水区画から下位にある冷却水貯水区画に冷却水を排水する連通穴が前記隔壁に形成され、前記コラム内部から冷却水全量を抜くための第1のドレイン口を有する最下位の冷却水貯水区画に集中的に冷却水を排出する排水経路が形成されていることを特徴とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明が適用される門形精密工作機械を示す斜視図である。
図2】門形精密工作機械の門形コラムの正面図である。
図3図2に示した門形コラムの縦断面図である。
図4】門形精密工作機械の冷却水系統の系統図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明による精密工作機械の実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
第1実施形態
図1は、本発明が適用される門形精密工作機械を示す。図1において、参照番号10は、ベッドを示す。このベッド10の上には、案内面11にそって前後方向に移動可能にテーブル12が設置されている。参照番号14は、門形コラムの全体を示している。この門形コラム14は、テーブル12の左右に配置され鉛直に立ち上がっているコラム15と、このコラム15、15間に水平に架け渡されたクロスレール16とから構成されている。この実施形態では、門形コラム14は、コラム15、15とクロスレール16とが一体構造の鋳造物である。この門形コラム14の詳細な構造については後述する。
【0016】
クロスレール16の上面には、サドル17が案内面18に沿って左右方向に移動可能に設置されている。このサドル17には主軸頭20が保持されており、この主軸頭20には上下方向に移動する主軸22が設けられている。この門形精密工作機械は、ワークにサブミクロンあるいはナノメータオーダの超精密加工を行う機械である。主軸22は、高速空気軸受で支持されており、最大で120000/分もの超高速回転が可能になっている。
【0017】
このような門形精密工作機械では、X軸はテーブル12の移動を制御する軸で、Y軸はサドル17の移動を制御する軸であり、X軸とY軸とで工具の水平面上での位置決めを行う。Z軸は、主軸22の上下方向の位置決めを行う軸で、主に工具の切り込み量を制御する。
【0018】
門形精密工作機械の場合、クロスレール16の案内面18を移動するサドル17上で主軸22の上下方向の位置決めが行われ、この案内面18は位置決めのいわば基準面になる。他方、門形コラム14では、案内面18とテーブル12上のワークとの間の高低差が大きいので、門形コラム14を構成しているコラム15やクロスレール16に熱変形が生じると、工具の上下方向の位置決め精度に大きな影響が及ぼされる。サブミクロン単位やナノメートル単位での超精密加工の場合には、鏡面加工等の仕上げ加工が終わるまでには長時間がかかる。その間、工作機械の各部からは熱が発生し続け、温度環境は変化していくので、温度変動による門形コラム14のごく微小な変形でさえも、位置決め精度には大きく影響する。
【0019】
本実施形態では、門形コラム14を安定した熱的状態に保つために、門形コラム14の本体が温度管理された冷却水を貯水する冷却水貯水槽を兼ねるように、門形コラム14の内部には以下のような冷却水貯水空間が形成されている。
【0020】
ここで、図2は、門形コラム14の正面を示す図で、図3は、門形コラム14の断面を示す図である。
この実施形態による門形コラム14は、コラム15、15とクロスレール16とが一体構造となっている鋳造物である。門形コラム14の内部は、中空になっているとともに、複数の区画に分かれてそこに冷却水貯水空間が形成されている。この実施形態の場合、門形コラム14の内部は、剛性を確保するための傾斜隔壁30、31、32、33を利用して左右対称に7つの第1乃至第7冷却水貯水区画36a乃至36gに区画されている。
【0021】
左右のコラム15の下部には、第1冷却水貯水区画36a、第7冷却水貯水区画36gのそれぞれに開口する取水口38a、38bが形成されている。この取水口38a、38bは、後述するように、コラム15内から冷却水を抜くドレイン口も兼ねるので、コラム15のできるだけ下の位置に設けることが好ましい。
【0022】
これに対して、クロスレール16の中央部の高い位置には第4冷却水貯水区画36dに開口するドレイン穴40が形成されている。このドレイン穴40の位置は、取水口38a、38bに対して相対的にできるだけ高い位置にして、クロスレール16の上面に近い位置に設けることが好ましい。
【0023】
第1冷却水貯水区画36aと第2冷却水貯水区画36bは、傾斜隔壁30に形成されている連通穴41を介して連通している。この連通穴41は、第2冷却水貯水区画36bにおける最下部の位置で第2冷却水貯水区画36bに開口していることが好ましい。第2冷却水貯水区画36bと第3冷却水貯水区画36cは傾斜隔壁31の連通穴42を介して連通している。この連通穴41も、第3冷却水貯水区画36cにおける最下部の位置で第3冷却水貯水区画36cに開口している。第3冷却水貯水区画36cと第4冷却水貯水区画36dは傾斜隔壁30に貫通している連通穴43を介して連通するようになっている。この連通穴43も、第4冷却水貯水区画36dにおける最下部の位置で第4冷却水貯水区画36dに開口するようになっている。これらの連通穴41、42、43は、門形コラム14内の各冷却水貯水区画36a乃至36dに冷却水をいれるとき、また、冷却水を抜くときの注水・排水経路を構成している。
【0024】
同様に、第4冷却水貯水区画36dと第5冷却水貯水区画36eは、連通穴43と同様に傾斜隔壁32に形成された連通穴44を介して連通している。第5冷却水貯水区画36eと第6冷却水貯水区画36fは、連通穴42と同様に傾斜隔壁33に形成された連通穴45を介して連通し、第6冷却水貯水区画36fと第7冷却水貯水区画36gは傾斜隔壁32の連通穴46を介して連通するようになっている。これらの連通穴44、45、46は、門形コラム14内の各冷却水貯水区画36d乃至36gに冷却水をいれるとき、また、冷却水を抜くときの注水・排水経路を構成している。
【0025】
本実施形態では、クロスレール16の内部に区画されている第3乃至第5冷却水貯水区画36c、36d、36eにそれぞれ開口するように、エア抜き穴49が設けられている。このエア抜き穴49は、ドレイン穴40よりも高い位置にある。
【0026】
なお、図2に示すように、門形コラム14の正面には、鋳造上の必要から鋳抜き穴47、48が形成されているが、これらの鋳抜き穴47、48はカバーによって閉塞される。
【0027】
この実施形態では、鋳抜き穴47、48を利用して、エアスプレイガンを用いて門形コラム14内部の隔壁や側壁の表面には錆止め塗料が塗布される。この場合、錆止め塗装の上に重ねて塗料を塗装し、さらに、樹脂のコーティング剤を塗布することが好ましい。
【0028】
このようにして、門形コラム14の内部に区画されている第1乃至第7冷却水貯水区画36a乃至36gの各区画を仕切っている壁面は、錆び止め層、塗料層、樹脂コーティング層の多層保護被膜によって保護されることになるので、耐食性を高めることができる。しかも、塗布を実施するにあたっては、鋳抜き穴47、48を利用して、ここからエアスプレイガンを入れて塗布することができる。このため、門形コラム14に、塗布用の穴をあける必要はないので、門形コラム14の強度を損ねることなく、塗装が可能になり耐食性を高めることができる。塗装が終わったら、鋳抜き穴47、48は、シール部材を介装した蓋を用いて密閉される。
【0029】
次に、図4は、門形精密工作機械における冷却水系統を示す図である。図4において、参照番号50は、冷却水の温度を所望の一定温度に制御する冷却水温調装置である。この冷却水温調装置50と、門形コラム14の取水口38a、38bとは配管51によって接続されている。この配管51には、門形コラム14から冷却水温調装置50への冷却水の逆流を防止する逆流防止弁52が設けられている。この実施形態では、取水口38a、38bは、門形コラム14の内部から冷却水を抜くためのドレイン口を兼ねており、配管50からは、ドレイン配管53が分岐している。このドレイン配管53には、ドレイン弁58が設けられている。冷却水を冷却水温調装置50から門形コラム14に供給するときには、逆流防止弁52が開、ドレイン弁58は閉とされている。門形コラム14から冷却水を抜くときは、逆流防止弁52が閉、ドレイン弁58は閉とされており、これらの弁によって管路を切り換える手段を構成している。
【0030】
他方、門形コラム14の上部に設けられているドレイン穴40から延びる冷却水回収用配管54は、冷却水タンク55まで延びるようになっている。この冷却水タンク55は、門形コラム14からオーバーフローした冷却水を溜めておくタンクである。この実施形態では、冷却水タンク55には、冷却水の水量を監視するためにレベルセンサ56a、56bが設けられている。レベルセンサ56aは水面レベルの下限を検知し、レベルセンサ56bは水面レベルの上限を検知する。冷却水タンク55と冷却水温調装置50とは戻り配管57によって接続されており、冷却水タンク55に溜まっている冷却水は、所定の流量で冷却水温調装置50に戻されるようになっている。
【0031】
なお、冷却水については、水でもよいが、好ましくは、例えば、プリサイスフルード2001(商品名)、JX日鉱日石エネルギー株式会社製のような工作機械温度制御用の水溶性冷却液を水に溶したものを冷却水として用いると好適である。このような冷却液を用いることで冷却水の熱交換性能が高まり、また、防食効果も高まる。
【0032】
本実施形態による精密工作機械は、以上のように構成されるものであり、次に、その作用並びに効果について説明する。
図4において、冷却水温調装置50から配管51を通して送られてくる冷却水は、門形コラム14の下部にある取水口38a、38bから門形コラム14内部に導かれ、第1乃至第7冷却水貯蔵区画36a乃至36gのそれぞれの区画が冷却水で満たされる。そして、最上位の第4冷却水貯蔵区画36dからドレイン穴40を通して溢れ出した冷却水は、冷却水回収用配管54を通って冷却水タンク55に回収される。この冷却水タンク55に溜まっている冷却水は、冷却水温調装置50で一定温度に冷却されてから、再び門形コラム14に送られることになる。
【0033】
本実施形態では、門形コラム14の内部を一定温度に管理された冷却水で満たすにあたって、門形コラム14の上部にドレイン穴40とは別に、エア抜き穴49を設けている。これにより、コラム内部で冷却水の水面が上がっていくにしたがって、エア抜き穴49からはエアが排出されていくので、空気圧力を受けることなく、ドレイン穴40のある高さまで門形コラム14の内部を冷却水で満たすことができる。しかも、ドレイン穴40を門形コラムの上部に配置しているので、門形コラム14の内部全体に冷却水を貯水することができる。
【0034】
このようにして、本実施形態によれば、門形コラム14の内部全体に区画されている第1冷却水貯水区画36a乃至第7冷却水貯水区画36gには所定の温度に保たれた冷却水が常に貯水された状態になっており、いわば、門形コラム14そのもの全体を温調された冷却水のタンクとすることができる。
【0035】
しかも、門形コラム14の内部では、冷却水に対流が生じ、温まった冷却水は、上昇していき、ドレイン穴40から冷却タンク55に排出される。この間も、冷却水温調装置50からは冷却水が門形コラム14の内部に供給され続けている。このようにして、コラム上部にドレイン穴40を設けることにより、門形コラム14内部の冷却水の温度上昇を抑えて冷却効果を高め、冷却水の温度を環境温度の変化によらず一定に管理することが可能になる。
【0036】
さらに、本実施形態では、門形コラム14の内部に常に一定量の冷却水が貯水されるように、ドレイン穴40からオーバーフローした冷却水を冷却水タンク55に一旦回収しておき、この冷却水タンク55から冷却水温調装置50に送るように循環系が構成されている。オーバーフローした冷却水を冷却水タンク55に溜めておけば、常に、一定量の冷却水を門形コラム14の内部に貯水することができる。そして、冷却水タンク55では冷却水のレベルを検知するレベルセンサ56a、56bにより、冷却水のレベルを監視している。冷却水のレベルが下限よりも低下した場合にはレベルセンサ56bによって検知され、逆に、冷却水のレベルが上限を超えた場合には、レベルセンサ56aにより検知されるので、冷却水不足や冷却水があふれてしまうのを未然に防止することができる。
【0037】
以上のように、本実施形態によれば、工具の切り込み方向(Z軸)が鉛直方向にあって、ワークとクロスレール16の案内面18との距離が大きく、温度変動の影響を受けやすい門形コラム14をもつ門形精密工作機械であっても、門形コラム14の内部を常時温調された冷却水で満たし、コラム下部の取水口から導入した冷却水をコラム上部に設けたドレイン穴からオーバーフローさせることで冷却効果を高めているので、部分的ではなく門形コラム14の全体の熱的状態を長時間にわたって一定に保つことが可能になり、ワークに対する高精度な鏡面の加工のような時間のかかるナノメータオーダの超精密加工の実現に寄与する。
【0038】
ところで、工作機械を移設したり、あるいは、修理を行う場合には、門形コラム14の内部に溜めてある冷却水を抜く必要がある。その場合には、次のようにして冷却水を門形コラム14から抜くことができる。
【0039】
図4において、逆流防止弁52が閉じて、冷却水温調装置50に冷却が逆流しないようにしておいてから、ドレイン弁57を開くと、門形コラム10の内部に溜まっていた冷却水は、ドレイン配管53を通して排出される。
【0040】
このとき排水される冷却水は、図4において、矢印で示されるように流れる。上位に位置している冷却水貯水区画36c、36d、36eに溜まっている冷却水は、連通穴42、43、44、45 を介して下位にある冷却水貯水区画36b、36fに流れ、さらに、連通穴41、46を通って最下位のドレイン口のある冷却水貯水区画36a、36gに流れる。
【0041】
このように門形コラム14の内部には、最下位の冷却水貯水区画36a、36gに集中するように排水経路が形成されているので、冷却水を滞留させることなく、各冷却水貯水区画36a乃至36gに溜まっている冷却水を効率良く排水することができる。
【0042】
さらに、本実施形態によれば、取水口38をドレイン口にして、冷却水を排出させることができるので、取水口38がドレイン口を兼用することが可能になる。このため、門形コラム14には、冷却水を抜くためのドレイン口を設けるために穴をあける必要がなくなり、門形コラム14に冷却水を貯水できるようにする構造が簡素化し、コラム改造のための工数を削減することができる。
【符号の説明】
【0043】
10…ベッド、11…案内面、12…テーブル、14…門形コラム、15…コラム、16…クロスレール、17…サドル、18…案内面、20…主軸頭、22…主軸、30、31、32、33…傾斜隔壁、36a〜36g…冷却水貯蔵区画、38a、38b…取水口、40…ドレイン口、50…冷却水温調装置
図1
図2
図3
図4