特許第5964180号(P5964180)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5964180
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】(メタ)アクリル酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/03 20060101AFI20160721BHJP
   C07C 219/08 20060101ALI20160721BHJP
   C07C 213/06 20060101ALI20160721BHJP
   C07C 213/10 20060101ALI20160721BHJP
   C07C 69/54 20060101ALI20160721BHJP
   C07C 67/54 20060101ALI20160721BHJP
   C07D 307/12 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   C07C67/03
   C07C219/08
   C07C213/06
   C07C213/10
   C07C69/54 Z
   C07C67/54
   C07D307/12
【請求項の数】2
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-186422(P2012-186422)
(22)【出願日】2012年8月27日
(65)【公開番号】特開2014-43414(P2014-43414A)
(43)【公開日】2014年3月13日
【審査請求日】2015年5月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000205638
【氏名又は名称】大阪有機化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141472
【弁理士】
【氏名又は名称】赤松 善弘
(72)【発明者】
【氏名】松本 繁章
(72)【発明者】
【氏名】伊東 啓祐
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 豊幸
(72)【発明者】
【氏名】田中 幸夫
【審査官】 斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−238058(JP,A)
【文献】 特開2000−159726(JP,A)
【文献】 特開2004−189650(JP,A)
【文献】 特開平09−255639(JP,A)
【文献】 特開2007−001915(JP,A)
【文献】 特開昭58−203940(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 67/03
C07C 67/54
C07C 69/54
C07C 213/06
C07C 213/10
C07C 219/00
C07D 307/12
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料として(メタ)アクリル酸メチルを用いてエステル交換法によって(メタ)アクリル酸エステルを製造する方法であって、(メタ)アクリル酸メチルとアルコールとをエステル交換反応させる際に、反応溶媒としてイソヘキサンとシクロヘキサンとを併用することを特徴とする(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項2】
蒸留塔が取り付けられた反応器を用いて(メタ)アクリル酸メチルとアルコールとをエステル交換反応させ、前記蒸留塔の塔頂から排出された蒸気を凝縮させ、得られた凝縮液を2層に分離し、当該分離した2層のうち上層を前記蒸留塔に供給する請求項1に記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリル酸エステルの製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、原料として(メタ)アクリル酸メチルを用いてエステル交換法によって(メタ)アクリル酸エステルを製造する際に、当該(メタ)アクリル酸メチルを効率よく用いることができる(メタ)アクリル酸エステルの製造方法に関する。(メタ)アクリル酸エステルは、その種類にもよるが、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、界面活性剤、接着剤、塗料などの原料として有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
一般に、(メタ)アクリル酸メチルとアルコールとをエステル交換反応させることによって(メタ)アクリル酸エステルを製造する際には、当該(メタ)アクリル酸エステルを効率よく製造するために、副生するメチルアルコールが除去される。(メタ)アクリル酸エステルを製造する際に副生するメチルアルコールを除去する方法は、一般に、以下の2つの方法に大別されている。
【0003】
第1の方法は、(メタ)アクリル酸メチルとアルコールとをエステル交換反応させる際に、蒸留塔が取り付けられた反応器を用い、(メタ)アクリル酸メチルとメチルアルコールとを共沸させ、得られた共沸物を蒸留塔の塔頂から取り出す方法である(例えば、特許文献1の実施例4参照)。この方法で得られた共沸物は、有効利用するために一般に(メタ)アクリル酸メチルを製造する際の原料として利用されている。しかし、前記共沸物を(メタ)アクリル酸エステルを製造する際の原料として使用した場合、(メタ)アクリル酸メチルは原料として有効利用することができるが、副生成物であるメチルアルコールは、(メタ)アクリル酸メチルとアルコールとのエステル交換反応を阻害するという欠点がある。
【0004】
第2の方法は、(メタ)アクリル酸メチルとアルコールとをエステル交換反応させる際に、蒸留塔が取り付けられた反応器を用い、(メタ)アクリル酸メチルの沸点よりも低い沸点でメチルアルコールと共沸する炭化水素化合物を(メタ)アクリル酸メチルとアルコールとの反応系内に添加し、メチルアルコールと当該炭化水素化合物との共沸温度でメチルアルコールと当該炭化水素化合物との共沸物を蒸留塔の塔頂から排出する方法である(例えば、特許文献2の実施例5参照)。この方法では、好ましい反応溶媒として、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、2,3−ジメチルブタン、2,5−ジメチルヘキサン、2,2,4−トリメチルペンタンなどの炭素数が5〜8の脂肪族飽和炭化水素化合物が挙げられている(例えば、特許文献2の段落[0017]−[0018]参照)。しかし、第2の方法によれば、例えば、反応溶媒としてn−ヘキサンを用いた場合、蒸留塔の塔頂から排出される共沸物にn−ヘキサンおよびメチルアルコール以外にも原料の(メタ)アクリル酸メチルが含まれ、当該(メタ)アクリル酸メチルは、n−ヘキサンおよびメチルアルコールと分離することが困難である。したがって、第2の方法では、共沸物に(メタ)アクリル酸エステルの原料として有用な(メタ)アクリル酸メチルが含まれているにもかかわらず、当該共沸物は、廃棄物、燃料などとして処理されている。
【0005】
第2の方法で得られた共沸物を有効利用する方法として、蒸留塔の塔頂から留出した留出物の一部を蒸留塔の塔頂に還流させ、留出物の残部に水を添加することにより、留出物を2層に分離させ、分離した層のうち、主として反応溶媒が含まれている上層を蒸留塔の中段に供給し、主としてメチルアルコールおよび水が含まれている下層を廃棄物として処分することが考えられている(例えば、特許文献2の請求項1参照)。しかし、第2の方法では、(メタ)アクリル酸メチルは、上層のみに抽出することが困難であり、下層にも含まれることから、当該下層に含まれている(メタ)アクリル酸メチルは、結局、廃棄物として廃棄されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−319225号公報
【特許文献2】特開平8−268938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、原料として(メタ)アクリル酸メチルを用いてエステル交換法によって(メタ)アクリル酸エステルを製造する際に、当該(メタ)アクリル酸メチルを効率よく利用することができる(メタ)アクリル酸エステルの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
(1) 原料として(メタ)アクリル酸メチルを用いてエステル交換法によって(メタ)アクリル酸エステルを製造する方法であって、(メタ)アクリル酸メチルとアルコールとをエステル交換反応させる際に、反応溶媒としてイソヘキサンとシクロヘキサンとを併用することを特徴とする(メタ)アクリル酸エステルの製造方法、および
(2) 蒸留塔が取り付けられた反応器を用いて(メタ)アクリル酸メチルとアルコールとをエステル交換反応させ、前記蒸留塔の塔頂から排出された蒸気を凝縮させ、得られた凝縮液を2層に分離し、当該分離した2層のうち上層を前記蒸留塔に供給する前記(1)に記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法
に関する。
【0009】
なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸エステルは、アクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルを意味する。したがって、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルは、それぞれ単独で用いてもよく、併用してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法によれば、原料として(メタ)アクリル酸メチルを用いてエステル交換法によって(メタ)アクリル酸エステルを製造する際に、当該(メタ)アクリル酸メチルを効率よく利用することができるという優れた効果が奏される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法は、前記したように、原料として(メタ)アクリル酸メチルを用いてエステル交換法によって(メタ)アクリル酸エステルを製造する方法であり、(メタ)アクリル酸メチルとアルコールとをエステル交換反応させる際に、反応溶媒としてイソヘキサンとシクロヘキサンとを併用することを特徴とする。
【0012】
本発明では、前記したように(メタ)アクリル酸メチルとアルコールとをエステル交換反応させる際に、反応溶媒としてイソヘキサンとシクロヘキサンとを併用する点に、大きな特徴の1つがある。このように反応溶媒としてイソヘキサンおよびシクロヘキサンを用いた場合には、例えば、蒸留塔が取り付けられた反応器などを用いて(メタ)アクリル酸メチルとアルコールとをエステル交換反応させ、蒸留塔の塔頂から排出された蒸気を凝縮させ、得られた凝縮液を上層と下層の2層に分離する。分離した上層には、主としてイソヘキサンおよび少量のメチルアルコールが含まれ、下層には、主としてメチルアルコールおよびイソヘキサンが含まれる。
【0013】
前記上層には主としてイソヘキサンおよび少量のメチルアルコールが含まれるので、当該上層を分離し、(メタ)アクリル酸メチルとアルコールのエステル交換反応の反応系内に戻すことにより、(メタ)アクリル酸メチルを効率よく再利用することができる。
【0014】
一方、前記下層には、意外なことに、(メタ)アクリル酸メチルがほとんど含まれておらず、しかもシクロヘキサンもほとんど含まれていない。このように下層には(メタ)アクリル酸メチルがほとんど含まれていないことから、当該下層は、(メタ)アクリル酸メチルとアルコールのエステル交換反応の反応系内に戻さずに、回収することができる。さらに、例えば、回収された下層を蒸留することにより、高純度のメチルアルコールを当該下層から取出すことができる。メチルアルコールが除去されたイソヘキサンは、(メタ)アクリル酸メチルとアルコールとをエステル交換反応させる際の反応溶媒として再利用することができる。また、分離したメチルアルコールは、例えば、(メタ)アクリル酸メチルなどの化合物の原料、溶媒、燃料などとして有効に利用することができる。
【0015】
このように、本発明の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法によれば、原料として使用される(メタ)アクリル酸メチルを有効に利用することができるのみならず、反応溶媒として使用されるイソヘキサンを効率よく回収し、反応溶媒として再利用することができる。また、本発明の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法において、副生成物として生成するのは、ほぼメチルアルコールのみであり、当該メチルアルコールは、前記したように、(メタ)アクリル酸メチルなどの化合物の原料、溶媒、燃料などとして有効に利用することができる。
【0016】
したがって、本発明によれば、原料として使用される(メタ)アクリル酸メチルおよび反応溶媒を有効活用することができるのみならず、原料の(メタ)アクリル酸メチルを反応系外に排出することを防止することができ、さらにメチルアルコール以外の副生成物がほとんど生成しないので、本発明の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法は、地球環境に優しく、産業上の利用価値が高い将来性のある方法である。
【0017】
(メタ)アクリル酸メチルとアルコールとをエステル交換反応させる際に用いるアルコールは、目的とする(メタ)アクリル酸エステルに応じて適宜選択される。より具体的には、アルコールは、目的とする(メタ)アクリル酸エステルが有するエステル基に応じて適宜選択される。
【0018】
アルコールとしては、例えば、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコール、n−ヘキシルアルコール、イソヘキシルアルコール、シクロヘキシルアルコール、3,3,5−トリメチルシクロヘキシルアルコール、4−tert−ブチルシクロヘキシルアルコール、n−へプチルアルコール、n−オクチルアルコール、イソオクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、ラウリルアルコール、ノニルアルコール、イソノニルアルコール、ステアリルアルコールなどの式(I):
【0019】
【化1】
(式中、Rは炭素数2〜30の環構造を有していてもよいアルキル基を示す)
で表わされる脂肪族または脂環式アルコール;フェノール、ベンジルアルコール、1−フェニルエチルアルコール、2−フェニルエチルアルコール、フェノキシエタノールなどの芳香族アルコール;ジメチルアミノエチルアルコール、ジエチルアミノエチルアルコール、ジプロピルアミノエチルアルコール、ジブチルアミノエチルアルコール、ジペンチルアミノエチルアルコール、ジヘキシルアミノエチルアルコール、ジオクチルアミノエチルアルコール、メチルエチルアミノエチルアルコール、メチルプロピルアミノエチルアルコール、メチルブチルアミノエチルアルコール、メチルヘキシルアミノエチルアルコール、エチルプロピルアミノエチルアルコール、エチルブチルアミノエチルアルコール、エチルペンチルアミノエチルアルコール、エチルオクチルアミノエチルアルコール、プロピルブチルアミノエチルアルコール、ジメチルアミノプロピルアルコール、ジエチルアミノプロピルアルコール、ジプロピルアミノプロピルアルコール、ジブチルアミノプロピルアルコール、ブチルペンチルアミノプロピルアルコールなどの式(II):
【0020】
【化2】
【0021】
(式中、R2およびR3は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜8のアルキル基、R4は炭素数1〜4のアルキレン基を示す)
で表わされるアミノアルコール;メトキシエチルアルコール、エトキシエチルアルコール、ブトキシエチルアルコールなどのアルコキシアルコール;アリルアルコール、メタリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコールなどの一価アルコール;エタンジオール、プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、シクロヘキサンジオールなどの二価アルコール;グリセリンなどの水酸基を3個以上有する多価アルコールなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのアルコールは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0022】
アルコールの水酸基1当量あたりの(メタ)アクリル酸メチルの量は、(メタ)アクリル酸メチルとアルコールとのエステル交換反応の反応速度を高める観点から、好ましくは0.3当量以上、より好ましくは0.5当量以上、さらに好ましくは0.8当量以上であり、未反応の(メタ)アクリル酸メチルの量を低減させる観点から、好ましくは5当量以下、より好ましくは4当量以下、さらに好ましくは3当量以下である。
【0023】
(メタ)アクリル酸メチルとアルコールとをエステル交換反応させる際には、エステル交換触媒を用いることができる。エステル交換触媒としては、例えば、ナトリウムアルコキシド、チタンアルコキシドなどの金属アルコキシド;テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタンなどのテトラアルコキシチタン;ジブチルスズオキシド、ジオクチルスズオキシド、ジラウリルスズオキシドなどのアルキル基の炭素数が4〜18のジアルキルスズオキシドなどのジアルキルスズオキシド;チタンアルコラート、アルミニウムアルコラート、マグネシウムアルコラートなどの金属アルコラートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみ限定されるものではない。これらのエステル交換触媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらのエステル交換触媒のなかでは、エステル交換反応を促進させる観点から、テトラアルコキシチタンおよびアルキル基の炭素数が4〜12のジアルキルスズオキシドが好ましく、テトラアルコキシチタンおよびアルキル基の炭素数が4〜8のジアルキルスズオキシドがより好ましく、テトラメトキシチタン、ジブチルスズオキシドおよびジオクチルスズオキシドがさらに好ましい。
【0024】
(メタ)アクリル酸メチル1モルあたりのエステル交換触媒の量は、(メタ)アクリル酸メチルとアルコールとのエステル交換反応を効率よく進行させる観点から、好ましくは0.00001モル以上、より好ましくは0.0001モル以上であり、経済性を向上させる観点から、好ましくは0.10モル以下、より好ましくは0.05モル以下である。
【0025】
また、(メタ)アクリル酸メチルとアルコールとをエステル交換反応させる際には、重合防止剤を用いることができる。重合防止剤としては、例えば、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−アセトアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルなどのN−オキシラジカル系化合物;パラメトキシフェノール、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−N,N−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、4−tert−ブチルカテコール、4,4’−チオ−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)などのフェノール系化合物;メトキノン、ハイドロキノン、2,5−ジ−tert−ブチルハイドロキノン、2,6−ジ−tert−ブチルハイドロキノン、ベンゾキノンなどのキノン系化合物;塩化第一銅、ジメチルジチオカルバミン酸銅などのジアルキルジチオカルバミン酸銅;フェノチアジン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、フェニル−β−ナフチルアミン、N,N’−ジ−β−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミンなどのアミノ化合物;1,4−ジヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンなどのヒドロキシアミン系化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの重合禁止剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0026】
(メタ)アクリル酸メチル100質量部あたりの重合防止剤の量は、原料の(メタ)アクリル酸メチルおよび生成するアクリル酸アルキルエステルの重合を抑制する観点から、好ましくは0.00001質量部以上、より好ましくは0.00005質量部以上、さらに好ましくは0.0001質量部以上であり、生成する(メタ)アクリル酸エステルの純度を高める観点から、好ましくは0.1質量部以下、より好ましくは0.05質量部以下、さらに好ましくは0.01質量部以下である。
【0027】
本発明においては、反応溶媒として、イソヘキサンおよびシクロヘキサンが用いられる。なお、本発明の目的を阻害しない範囲内であれば、他の溶媒を用いてもよい。他の溶媒としては、例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、2,3−ジメチルブタン、2,5−ジメチルヘキサン、2,2,4−トリメチルペンタンなどのイソヘキサンおよびシクロヘキサン以外の炭素数が5〜8の脂肪族炭化水素化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0028】
本発明では、このように反応溶媒としてイソヘキサンおよびシクロヘキサンが併用されているので、(メタ)アクリル酸メチルとアルコールとのエステル交換法によって(メタ)アクリル酸エステルを製造する際に、当該(メタ)アクリル酸メチルを効率よく利用することができる。
【0029】
イソヘキサンとシクロヘキサンの質量比は、反応器の大きさ、蒸留塔の容積などによって異なるので一概には決定することができない。しかし、(メタ)アクリル酸メチルとアルコールとのエステル交換反応を効率よく進行させる観点から、イソヘキサンとシクロヘキサンの質量比(イソヘキサン/シクロヘキサン)は、好ましくは10/90〜70/30、より好ましくは15/85〜60/40である。
【0030】
反応溶媒の量は、特に限定されず、通常、(メタ)アクリル酸メチルとアルコールの合計量100質量部あたり5〜200質量部程度であればよい。
【0031】
(メタ)アクリル酸メチルとアルコールとをエステル交換反応させる際に、例えば、反応器として蒸留塔を有する反応器を用いた場合には、当該蒸留塔内でイソヘキサンとシクロヘキサンとを分留することができる。
【0032】
前記蒸留塔の塔頂から排出された蒸気を凝縮させ、得られた凝縮液を上層と下層の2層に分離する。分離した上層には、主としてイソヘキサンが含まれ、下層には、主としてメチルアルコールおよびイソヘキサンが含まれるが、シクロヘキサンおよび(メタ)アクリル酸メチルはほとんど含まれない。凝縮液を上層と下層の2層に分離させるには、当該凝縮液を冷却すればよい。凝縮液の冷却温度は、凝縮液を上層と下層の2層に効率よく分離させる観点から、好ましくは0〜30℃、より好ましくは0〜25℃、さらに好ましくは0〜20℃である。
【0033】
2層に分離した凝縮液のうち、上層には主としてイソヘキサンのほか少量のメチルアルコールが含まれる。この上層に含まれるイソヘキサンは本発明で反応溶媒として用いられるものであり、メチルアルコールは副生物であるので、イソヘキサンを有効利用する観点から、前記上層を蒸留塔に還流させることが好ましい。前記上層を蒸留塔に還流させる際には、(メタ)アクリル酸メチルとアルコールとのエステル交換反応を効率よく進行させる観点から、当該上層を蒸留塔の中段部分に還流させることが好ましい。
【0034】
2層に分離した凝縮液のうち、下層には主として副生したメチルアルコールが含まれる。当該下層は、本質的にメチルアルコールを含有し、その他イソヘキサンおよび微量のシクロヘキサンが含まれる。前記下層は、例えば、蒸留精製などを行なうことにより、実質的にメチルアルコールとして有効使用することができる。
【0035】
また、イソヘキサンは、大気圧における沸点が約62℃であるため、反応溶媒として当該イソヘキサンを単独で用いた場合には、反応系内の反応温度が低くなるのに対し、本発明では、反応溶媒として大気圧における沸点が約81℃であるシクロヘキサンが併用されているので、当該反応温度を70℃以上に調整することができることから、(メタ)アクリル酸メチルとアルコールとを効率よくエステル交換反応させることができる。
【0036】
(メタ)アクリル酸メチルとアルコールのエステル交換反応を行なう際の反応温度は、反応速度を高める観点から、好ましくは70℃以上、より好ましくは75℃以上であり、原料の(メタ)アクリル酸メチルおよび生成する(メタ)アクリル酸エステルの重合を防止する観点から、好ましくは140℃以下、より好ましくは130℃以下、さらに好ましくは120℃以下である。
【0037】
(メタ)アクリル酸メチルとアルコールのエステル交換反応を行なう際の雰囲気は、原料の(メタ)アクリル酸メチルおよび生成する(メタ)アクリル酸エステルの重合を防止する観点から、酸素を含有する雰囲気であることが好ましく、安全性を高める観点から、酸素濃度が5体積%〜大気濃度のガスであることがより好ましい。また、その雰囲気の圧力は、通常、大気圧であればよいが、加圧または減圧であってもよい。例えば、その雰囲気の圧力を減圧させた場合には、還流温度を低下させることができるので、副反応を抑制することができるという利点がある。
【0038】
(メタ)アクリル酸メチルとアルコールのエステル交換反応を行なう際の反応時間は、(メタ)アクリル酸メチルとアルコールの量、反応温度などによって異なるので一概には決定することができないことから、通常、目的とする反応率に到達するまでの時間が選択される。(メタ)アクリル酸メチルとアルコールのエステル交換反応の終点は、例えば、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーなどによって確認することができる。
【0039】
(メタ)アクリル酸メチルとアルコールのエステル交換反応は、例えば、精留塔、流動床、固定床、反応蒸留塔などの蒸留塔を有する反応器などを用いて行なうことかできるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。また、(メタ)アクリル酸メチルとアルコールのエステル交換反応は、流通式および回分式のいずれの方式によって行なってもよい。
【0040】
本発明において、(メタ)アクリル酸メチルとアルコールのエステル交換反応は、蒸留塔を有する反応器を用いて行なうことが好ましい。蒸留塔を有する反応器としては、例えば、反応釜と呼ばれる反応器の上部に蒸留塔を備えた反応器、蒸留缶を反応器として使用することも可能であるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。蒸留塔の構造および型式には特に限定がないが、蒸留塔は、気液接触効率が高いものであることが好ましい。好適な蒸留塔としては、例えば、充填塔型蒸留塔、トレイ型蒸留塔などが挙げられる。蒸留塔の理論段数は、(メタ)アクリル酸メチルとアルコールのエステル交換反応を効率よく安定して進行させる観点から、好ましくは7段以上、より好ましくは10段以上、さらに好ましくは15段以上であり、経済性を向上させる観点から、好ましくは100段以下、より好ましくは70段以下、さらに好ましくは50段以下である。
【0041】
(メタ)アクリル酸メチルとアルコールのエステル交換反応の進行とともにメチルアルコールが副生する。副生するメチルアルコールは、通常、反応を進行させるために反応系外に除去することが好ましい。副生するメチルアルコールは、前記したように、イソヘキサンとの共沸により、反応系外に除去することができる。メチルアルコールは、例えば、(メタ)アクリル酸メチルなどの化合物の原料、溶媒、燃料などとして有効に利用することができる。
【0042】
(メタ)アクリル酸メチルとアルコールのエステル交換反応は、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、アルコール、イソヘキサン、シクロヘキサン、必要により、エステル交換触媒および重合防止剤を反応器に仕込み、反応器の内容物を加熱し、還流させることによって行なうことができる。
【0043】
反応器として、蒸留塔を有する反応器を用いる場合には、例えば、蒸留塔の塔頂から蒸気を取り出し、当該蒸気の凝縮液をデカンター、分液漏斗などの分離装置を用いて2層に分離させることが好ましい。なお、前記凝縮液の一部は、蒸留塔に還流させてもよい。蒸留塔の塔頂温度は、イソヘキサンとメチルアルコールとが効率よく共沸するようにするために、40〜50℃に調節することが好ましい。
【0044】
2層に分離した凝縮液のうち、上層には本質的にイソヘキサンが含まれているので、当該上層を蒸留塔、例えば、蒸留塔の中段に供給し、下層には本質的にメチルアルコールが含まれているので、蒸留塔に戻さずに回収することが好ましい。
【0045】
(メタ)アクリル酸メチルとアルコールのエステル交換反応を行なった後、生成した反応混合物から、反応に使用した有機溶媒であるイソヘキサンおよびシクロヘキサン、未反応の(メタ)アクリ酸メチルおよびアルコールを留去することにより、目的化合物である(メタ)アクリル酸エステルを回収することができる。反応混合物からの未反応の(メタ)アクリ酸メチルおよびアルコールの除去は、例えば、蒸留、抽出などによって行なうことができる。
【0046】
以上説明したように、本発明の製造方法によれば、(メタ)アクリル酸メチルとアルコールのエステル交換反応を行なう際に、反応溶媒としてイソヘキサンおよびシクロヘキサンが用いられるので、(メタ)アクリル酸メチルを効率よく利用することができる。
【実施例】
【0047】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0048】
なお、以下の実施例において、目的化合物の(メタ)アクリル酸エステルの収率は、アルコールを基準にし、目的とする(メタ)アクリル酸エステルの理論生成量に対する実際の生成量の比から求めた。また、メチルアルコール、シクロヘキサン、イソヘキサンおよび(メタ)アクリル酸メチルの各収量は、ガスクロマトグラフィー(以下、GCという)分析装置(アジレント社製、検出器FID、カラムキャピラリーDB−1:30m)を用い、GCによる面積百分率から求めた。
【0049】
実施例1
2L容のガラス製の4口フラスコにオールダーショウ20段、還流冷却器および空気導入管を取り付け、当該フラスコ内に、アクリル酸メチル694g(8.06モル)、N,N−ジメチルアミノエチルアルコール552g(6.20モル)、重合防止剤としてフェノチアジン1.76g、エステル交換触媒としてジブチルスズオキシド22.1g、反応溶媒としてイソヘキサン20gおよびシクロヘキサン60gを仕込んだ。酸素ガスを8体積%含有する窒素ガスを20mL/minの流量でフラスコ内に吹き込みながらフラスコ内の内容物を83〜94℃に加熱し、大気圧下でエステル交換反応を開始した。
【0050】
蒸留塔の塔頂温度は、副生するメチルアルコールと反応溶媒であるイソヘキサンとの共沸温度である45〜46℃が保たれるように塔頂の還流比を調節した。塔頂から系外に留出した凝縮液を20℃に冷却し、デカンターに導いた。
【0051】
デカンター内で分離した2層のうち、上層のイソヘキサンを主成分とする層を蒸留塔の下から10段目に還流させた。メチルアルコールを主成分とする下層は、デカンターの分離界面が一定となるように連続的に取出した。取出した下層にはメチルアルコール以外にイソヘキサンが含まれていることから、反応系内におけるイソヘキサンの量が減少することを防止するために、取り出した下層に含まれているイソヘキサンと等量のイソヘキサンを反応系内に追加しながら反応温度を83〜94℃に調整した。アクリル酸メチルとN,N−ジメチルアミノエチルアルコールのエステル交換反応は、反応開始から約12時間で終了した。
【0052】
生成したアクリル酸N,N−ジメチルアミノエチルの収量は852gであり(収率:96%)、反応溶液中のマイケル付加物の合計濃度は0.02質量%以下であった。また、反応の際に取出したメチルアルコールを主成分とする下層には、メチルアルコール54.7質量%、シクロヘキサン0.6質量%およびイソヘキサン44.7質量%が含まれていたが、アクリル酸メチルの量は検出限界(検出限界:10ppm)以下であった。
【0053】
次に、前記下層をオールダーショウ10段の蒸留塔を用いて蒸留を行なった。当該蒸留塔の塔頂から沸点45〜50℃の留分を取出したところ、その留分には、イソヘキサン82重量%、メチルアルコール17.6重量%およびシクロヘキサン0.4質量%が含まれていた。この留分は、反応溶媒として使用することができた。また、前記フラスコ内の残液には、メチルアルコール99.6重量%、イソヘキサン0.3重量%およびシクロヘキサン0.1重量%が含まれていた。
【0054】
実施例2
2L容のガラス製の4口フラスコにオールダーショウ20段、還流冷却器および空気導入管を取り付け、当該フラスコ内に、2−エチルへキシルアルコール781g(6.00モル)、アクリル酸メチル672g(7.80モル)、4−アセトアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル0.55g、エステル交換触媒としてテトラメトキシチタン2.1g、反応溶媒としてイソヘキサン20gおよびシクロヘキサン80gを仕込んだ。酸素ガスを8体積%含有する窒素ガスを20mL/minの流量でフラスコ内に吹き込みながらフラスコ内の内容物を90〜110℃に加熱し、大気圧下でエステル交換反応を開始した。
【0055】
蒸留塔の塔頂温度は、副生するメチルアルコールと反応溶媒であるイソヘキサンとの共沸温度である45〜46℃に保つように塔頂の還流比を調節した。塔頂から系外に留出した凝縮液を20℃に冷却し、デカンターに導いた。
【0056】
デカンター内で分離した2層のうち、上層のイソヘキサンを主成分とする層を蒸留塔の下から10段目に還流させた。メチルアルコールを主成分とする下層は、デカンターの分離界面が一定となるように連続的に取出した。取出した下層にはメチルアルコール以外にイソヘキサンが含まれていることから、反応系内におけるイソヘキサンの量が減少することを防止するために、取り出した下層に含まれているイソヘキサンと等量のイソヘキサンを反応系内に追加しながら反応温度を90〜110℃に調整した。アクリル酸メチルと2−エチルヘキシルアルコールのエステル交換反応は、反応開始から約6時間で終了した。
【0057】
生成したアクリル酸2−エチルへキシルの収量は1078gであり(収率:98%)、反応溶液中のマイケル付加物の合計濃度は0.05質量%以下であった。また、反応の際に取出したメチルアルコールを主成分とする下層には、メチルアルコール54.7質量%、シクロヘキサン0.6質量%およびイソヘキサン44.7質量%が含まれていたが、アクリル酸メチルの量は検出限界(検出限界:10ppm)以下であった。
【0058】
次に、前記下層をオールダーショウ10段の蒸留塔を用いて蒸留を行なった。当該蒸留塔の塔頂から沸点45〜50℃の留分を取出したところ、その留分には、イソヘキサン82重量%、メチルアルコール17.6重量%およびシクロヘキサン0.4質量%が含まれていた。この留分は、反応溶媒として使用することができた。また、前記フラスコ内の残液には、メチルアルコール99.6重量%、イソヘキサン0.3重量%およびシクロヘキサン0.1重量%が含まれていた。
【0059】
実施例3
2L容のガラス製の4口フラスコにオールダーショウ20段、還流冷却器および空気導入管を取り付け、当該フラスコ内に、ベンジルアルコール659g(7.00モル)、アクリル酸メチル783g(9.1モル)、4−アセトアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル0.52g、テトラメトキシチタン1.1g、イソヘキサン20gおよびシクロヘキサン80gを仕込んだ。酸素ガスを8体積%含有する窒素ガスを20mL/minの流量でフラスコ内に吹き込みながらフラスコ内の内容物を85〜100℃に加熱し、大気圧下でエステル交換反応を開始した。
【0060】
蒸留塔の塔頂温度は、反応で副生するメチルアルコールと反応溶媒であるイソヘキサンとの共沸温度である45〜46℃に保つように、塔頂の還流比を調節した。塔頂から系外に留出した凝縮液を20℃に冷却し、デカンターに導いた。
【0061】
デカンター内で分離した2層のうち、上層のイソヘキサンを主成分とする層を蒸留塔の下から10段目に還流させた。メチルアルコールを主成分とする下層は、デカンターの分離界面が一定となるように連続的に取出した。取出した下層にはメチルアルコール以外にイソヘキサンが含まれていることから、反応系内におけるイソヘキサンの量が減少することを防止するために、取り出した下層に含まれているイソヘキサンと等量のイソヘキサンを反応系内に追加しながら反応温度を85〜100℃に調整した。アクリル酸メチルとベンジルアルコールのエステル交換反応は、反応開始から約8時間で終了した。
【0062】
生成したアクリル酸ベンジルの収量は996gであり(収率:96%)、反応溶液中のマイケル付加物の合計濃度は0.1質量%以下であった。また、反応の際に取出したメチルアルコールを主成分とする下層には、メチルアルコール55.0質量%、シクロヘキサン0.6質量%およびイソヘキサン44.4質量%が含まれていたが、アクリル酸メチルの量は検出限界(検出限界:10ppm)以下であった。
【0063】
次に、前記下層をオールダーショウ10段の蒸留塔を用いて蒸留を行なった。当該蒸留塔の塔頂から沸点45〜50℃の留分を取出したところ、その留分には、イソヘキサン82重量%、メチルアルコール17.6重量%およびシクロヘキサン0.4質量%が含まれていた。この留分は、反応溶媒として使用することができた。また、前記フラスコ内の残液には、メチルアルコール99.6重量%、イソヘキサン0.3重量%およびシクロヘキサン0.1重量%が含まれていた。
【0064】
実施例4
2L容のガラス製の4口フラスコにオールダーショウ20段、還流冷却器および空気導入管を取り付け、当該フラスコ内に、2−メトキシエチルアルコール647g(8.50モル)、アクリル酸メチル951g(11.05モル)、4−アセトアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル0.6g、ジブチルスズオキシド6.4g、イソヘキサン20gおよびシクロヘキサン60gを仕込んだ。酸素ガスを8体積%含有する窒素ガスを20mL/minの流量でフラスコ内に吹き込みながらフラスコ内の内容物を85〜100℃に加熱し、大気圧下でエステル交換反応を開始した。
【0065】
蒸留塔の塔頂温度は、反応で副生するメチルアルコールと反応溶媒であるイソヘキサンとの共沸温度である45〜46℃に保つように、塔頂の還流比を調節した。塔頂から系外に留出した凝縮液を20℃に冷却し、デカンターに導いた。
【0066】
デカンター内で分離した2層のうち、上層のイソヘキサンを主成分とする層を蒸留塔の下から10段目に還流させた。メチルアルコールを主成分とする下層は、デカンターの分離界面が一定となるように連続的に取出した。取出した下層にはメチルアルコール以外にイソヘキサンが含まれていることから、反応系内におけるイソヘキサンの量が減少することを防止するために、取り出した下層に含まれているイソヘキサンと等量のイソヘキサンを反応系内に追加しながら反応温度を85〜100℃に調整した。アクリル酸メチルと2−メトキシエチルアルコールのエステル交換反応は、反応開始から約12時間で終了した。
【0067】
生成したアクリル酸2−メトキシエチルの収量は1051gであり(収率:95%)、反応溶液中のマイケル付加物の合計濃度は0.1質量%以下であった。また、反応の際に取出したメチルアルコールを主成分とする下層には、メチルアルコール54.9質量%、シクロヘキサン0.6質量%およびイソヘキサン44.5質量%が含まれていたが、アクリル酸メチルの量は検出限界(検出限界:10ppm)以下であった。
【0068】
次に、前記下層をオールダーショウ10段の蒸留塔を用いて蒸留を行なった。当該蒸留塔の塔頂から沸点45〜50℃の留分を取出したところ、その留分には、イソヘキサン82重量%、メチルアルコール17.6重量%およびシクロヘキサン0.4質量%が含まれていた。この留分は、反応溶媒として使用することができた。また、前記フラスコ内の残液には、メチルアルコール99.6重量%、イソヘキサン0.3重量%およびシクロヘキサン0.1重量%が含まれていた。
【0069】
実施例5
2L容のガラス製の4口フラスコにオールダーショウ20段、還流冷却器および空気導入管を取り付け、当該フラスコ内に、テトラヒドロフルフリルアルコール616g(7.0モル)、メタクリル酸メチル911g(9.1モル)、4−アセトアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル0.6g、ジブチルスズオキシド6.4g、イソヘキサン30gおよびシクロヘキサン70gを仕込んだ。酸素ガスを8体積%含有する窒素ガスを20mL/minの流量でフラスコ内に吹き込みながらフラスコ内の内容物を85〜100℃に加熱し、大気圧下でエステル交換反応を開始した。
【0070】
蒸留塔の塔頂温度は、反応で副生するメチルアルコールと反応溶媒であるイソヘキサンとの共沸温度である45〜46℃に保つように、塔頂の還流比を調節した。塔頂から系外に留出した凝縮液を20℃に冷却し、デカンターに導いた。
【0071】
デカンター内で分離した2層のうち、上層のイソヘキサンを主成分とする層を蒸留塔の下から10段目に還流させた。メチルアルコールを主成分とする下層は、デカンターの分離界面が一定となるように連続的に取出した。取出した下層にはメチルアルコール以外にイソヘキサンが含まれていることから、反応系内におけるイソヘキサンの量が減少することを防止するために、取り出した下層に含まれているイソヘキサンと等量のイソヘキサンを反応系内に追加しながら反応温度を85〜100℃に調整した。アクリル酸メチルとテトタヒドロフルフリルアルコールのエステル交換反応は、反応開始から約12時間で終了した。
【0072】
生成したメタクリル酸テトラヒドロフルフリルの収量は1039gであり(収率:95%)、反応溶液中のマイケル付加物の合計濃度は0.1質量%以下であった。また、反応の際に取出したメチルアルコールを主成分とする下層には、メチルアルコール57.0質量%、シクロヘキサン0.5質量%およびイソヘキサン42.5質量%が含まれていたが、メタクリル酸メチルの量は検出限界(検出限界:10ppm)以下であった。
【0073】
次に、前記下層をオールダーショウ10段の蒸留塔を用いて蒸留を行なった。当該蒸留塔の塔頂から沸点45〜50℃の留分を取出したところ、その留分には、イソヘキサン82重量%、メチルアルコール17.6重量%およびシクロヘキサン0.4質量%が含まれていた。この留分は、反応溶媒として使用することができた。また、前記フラスコ内の残液には、メチルアルコール99.6重量%、イソヘキサン0.3重量%およびシクロヘキサン0.1重量%が含まれていた。
【0074】
実施例6
2L容のガラス製の4口フラスコにオールダーショウ20段、還流冷却器および空気導入管を取り付け、当該フラスコ内に、テトラヒドロフルフリルアルコール616g(7.0モル)、メタクリル酸メチル911g(9.1モル)、4−アセトアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル0.6g、ジブチルスズオキシド6.4g、イソヘキサン40gおよびシクロヘキサン60gを仕込んだ。酸素ガスを8体積%含有する窒素ガスを20mL/minの流量でフラスコ内に吹き込みながらフラスコ内の内容物を80〜97℃に加熱し、大気圧下でエステル交換反応を開始した。
【0075】
蒸留塔の塔頂温度は、反応で副生するメチルアルコールと反応溶媒であるイソヘキサンとの共沸温度である45〜46℃に保つように、塔頂の還流比を調節した。塔頂から系外に留出した凝縮液を20℃に冷却し、デカンターに導いた。
【0076】
デカンター内で分離した2層のうち、上層のイソヘキサンを主成分とする層を蒸留塔の下から10段目に還流させた。メチルアルコールを主成分とする下層は、デカンターの分離界面が一定となるように連続的に取出した。取出した下層にはメチルアルコール以外にイソヘキサンが含まれていることから、反応系内におけるイソヘキサンの量が減少することを防止するために、取り出した下層に含まれているイソヘキサンと等量のイソヘキサンを反応系内に追加しながら反応温度を85〜100℃に調整した。メタクリル酸メチルとテトラヒドロフルフリルアルコールのエステル交換反応は、反応開始から約12時間で終了した。
【0077】
生成したメタクリル酸テトラヒドロフルフリルの収量は1039gであり(収率:95%)、反応溶液中のマイケル付加物の合計濃度は0.1質量%以下であった。また、反応の際に取出したメチルアルコールを主成分とする下層には、メチルアルコール55.2質量%、シクロヘキサン0.3質量%およびイソヘキサン44.5質量%が含まれていたが、アクリル酸メチルの量は検出限界(検出限界:10ppm)以下であった。
【0078】
次に、前記下層をオールダーショウ10段の蒸留塔を用いて蒸留を行なった。当該蒸留塔の塔頂から沸点45〜50℃の留分を取出したところ、その留分には、イソヘキサン82重量%、メチルアルコール17.6重量%およびシクロヘキサン0.4質量%が含まれていた。この留分は、反応溶媒として使用することができた。また、前記フラスコ内の残液には、メチルアルコール99.6重量%、イソヘキサン0.3重量%およびシクロヘキサン0.1重量%が含まれていた。
【0079】
比較例1
2L容のガラス製の4口フラスコにオールダーショウ30段、還流冷却器および空気導入管を取り付け、当該フラスコ内に、2−メトキシエチルアルコール647g(8.50モル)、アクリル酸メチル951g(11.05モル)、4−アセトアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル0.6g、ジブチルスズオキシド6.4gおよびシクロヘキサン200gを仕込んだ。酸素ガスを8体積%含有する窒素ガスを20mL/minの流量でフラスコ内に吹き込みながらフラスコ内の内容物を87〜94℃に加熱し、大気圧下でエステル交換反応を開始した。
【0080】
蒸留塔の塔頂温度は、反応で副生するメチルアルコールと反応溶媒であるシクロヘキサンとの共沸温度である54〜56℃に保つように、塔頂の還流比を調節した。塔頂から系外に留出した凝縮液を20℃に冷却し、デカンターに導いた。
【0081】
デカンター内で分離した2層のうち、上層のシクロヘキサンを主成分とする層を蒸留塔の下から10段目に還流させた。メチルアルコールを主成分とする下層は、デカンターの分離界面が一定となるように連続的に取出した。取出した下層にはメチルアルコール以外にシクロヘキサンが含まれていることから、反応系内におけるシクロヘキサンの量が減少することを防止するために、取り出した下層に含まれているシクロヘキサンと等量のシクロヘキサンを反応系内に追加しながら反応温度を87〜94℃に調整した。アクリル酸メチルと2−メトキシエチルアルコールのエステル交換反応は、反応開始から約10時間で終了した。
【0082】
生成したアクリル酸2−メトキシエチルの収量は1029gであり(収率:93%)、反応溶液中のマイケル付加物の合計濃度は0.2質量%以下であった。また、反応の際に取出したメチルアルコールを主成分とする下層には、メチルアルコール61質量%、シクロヘキサン30質量%およびアクリル酸メチル9質量%が含まれていた。
【0083】
比較例2
2L容のガラス製の4口フラスコにオールダーショウ30段、還流冷却器および空気導入管を取り付け、当該フラスコ内に、2−メトキシエチルアルコール647g(8.50モル)、アクリル酸メチル951g(11.05モル)、4−アセトアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル0.6g、ジブチルスズオキシド6.4gおよびノルマルヘキサン150gを仕込んだ。酸素ガスを8体積%含有する窒素ガスを20mL/minの流量でフラスコ内に吹き込みながらフラスコ内の内容物を82〜91℃に加熱し、大気圧下でエステル交換反応を開始した。
【0084】
蒸留塔の塔頂温度は、反応で副生するメチルアルコールと反応溶媒であるノルマルヘキサンとの共沸温度である49〜51℃に保つように塔頂の還流比を調節した。塔頂から系外に留出した凝縮液を20℃に冷却し、デカンターに導いた。
【0085】
デカンター内で分離した2層のうち、上層のノルマルヘキサンを主成分とする層を蒸留塔の下から10段目に還流させた。メチルアルコールを主成分とする下層は、デカンターの分離界面が一定となるように連続的に取出した。取出した下層にはメチルアルコール以外にノルマルヘキサンが含まれていることから、反応系内におけるノルマルヘキサンの量が減少することを防止するために、取り出した下層に含まれているノルマルヘキサンと等量のノルマルヘキサンを反応系内に追加しながら反応温度を82〜91℃に調整した。アクリル酸メチルと2−メトキシエチルアルコールのエステル交換反応は、反応開始から約11時間で終了した。
【0086】
生成したアクリル酸2−メトキシエチルの収量は1040gであり(収率:94%)、反応溶液中のマイケル付加物の合計濃度は0.2質量%以下であった。また、反応の際に取出したメチルアルコールを主成分とする下層には、メチルアルコール60質量%、ノルマルヘキサン35質量%およびアクリル酸メチル5質量%が含まれていた。
【0087】
比較例3
2L容のガラス製の4口フラスコにオールダーショウ20段、還流冷却器および空気導入管を取り付け、当該フラスコ内に、2−メトキシエチルアルコール647g(8.50モル)、アクリル酸メチル951g(11.05モル)、4−アセトアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル0.6g、ジブチルスズオキシド6.4gおよびイソヘキサン80gを仕込んだ。酸素ガスを8体積%含有する窒素ガスを20mL/minの流量でフラスコ内に吹き込みながらフラスコ内の内容物を72〜82℃に加熱し、大気圧下でエステル交換反応を開始した。
【0088】
蒸留塔の塔頂温度は、反応で副生するメチルアルコールと反応溶媒であるイソヘキサンとの共沸温度である45〜46℃に保つように、塔頂の還流比を調節した。塔頂から系外に留出した凝縮液を20℃に冷却し、デカンターに導いた。
【0089】
デカンター内で分離した2層のうち、上層のイソヘキサンを主成分とする層を蒸留塔の下から10段目に還流させた。メチルアルコールを主成分とする下層は、デカンターの分離界面が一定となるように連続的に取出した。取出した下層にはメチルアルコール以外にイソヘキサンが含まれていることから、反応系内におけるイソヘキサンの量が減少することを防止するために、取り出した下層に含まれているイソヘキサンと等量のイソヘキサンを反応系内に追加しながら反応温度を72〜82℃に調整した。アクリル酸メチルと2−メトキシエチルアルコールのエステル交換反応は、反応開始から約17時間で終了した。
【0090】
生成したアクリル酸2−メトキシエチルの収量は1040gであり(収率:94%)、反応溶液中のマイケル付加物の合計濃度は0.2質量%以下であった。また、反応の際に取出したメチルアルコールを主成分とする下層には、メチルアルコール55質量%およびイソヘキサン45質量%が含まれていたが、アクリル酸メチルは含まれていなかった。
【0091】
したがって、比較例3の方法は、アクリル酸メチルと2−メトキシエチルアルコールのエステル交換反応を行なうのに長時間を要することから、工業的生産性に劣ることがわかる。
【0092】
以上の結果より、各実施例によれば、原料として(メタ)アクリル酸メチルを用いてエステル交換法によって(メタ)アクリル酸エステルを製造する際に、イソヘキサンとシクロヘキサンとが併用されていることから、反応温度を高めることができるので、反応時間を短縮させることができることがわかる。さらに、各実施例によれば、反応系外に取り出されたメチルアルコールには、原料の(メタ)アクリル酸メチルがほとんど混入しないことから、当該メチルアルコールは、例えば、(メタ)アクリル酸メチルなどの化合物の原料、溶媒、燃料などとして効率よく利用することができることがわかる。